語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【佐藤優】2050年までに終末が来ると信じる国民がトランプを生んだ

2017年08月19日 | ●佐藤優
 (1)米国を考える際に注意しなければならないのは、2050年だ。あと33年。2050年までに地球が滅びる、と考えている米国人は、なんと4割もいる。
 これについては2016年に神学者の木谷佳楠(きたにかなん)がキリスト新聞社から出した『アメリカ映画とキリスト教 120年の関係史』という本を読んでみると面白い。
 それによると、最近の統計では、米国人の5人に2人は2050年末までにアルマゲドンが来ると信じている。で、木谷氏は、米国映画を見るには、原材料表示と同じで、どういう宗教、思想から生まれてきたのか、もう少し注意すべきだ、という。
 トランプ大統領は、そういう母胎の国から出てきている。2050年までに地球がなくなる、と信じている人が、トランプを支持している。トランプ自身がどういう考えを持っているかは分からないが、それと非常に近い考えじゃないか。

 (2)2050年までに地球が滅ぶと信じている人たちは、当然、同じ頃にラティーノが増えて、白人が米国でマイノリティになる、などということは心配していないだろう。あるいは、ちょっと別の言い方をすると、AIが人間の知的能力を超えるのが2045年頃とか、50年とかいわれている。トランプがどこまで考えているか分からないが、そういう大転換点がいずれ来るっていうことは頭にあるかもしれない。
 だから、ラティーノとか黒人とか、そんなことは考えていないのかもしれない。彼の基本にあるのは、米国人、とくに白人は、神様に選ばれた存在だ、ということだ。だからトランプの頭のなかにある思想の一つは、白人至上主義。これは表にこそ出てこないけれども、米国の底流にいつもある思想だ。それからもうひとつは、アンチ・フェニズム。この二つがある。

 (3)白人至上主義とアンチ・フェニズム。この二つの思想は、米国では右翼ではなくセンターなのだ。だからトランプは右翼じゃない。クリスチャン・シオニズムにWASP、白人、アングロサクソン、プロテスタントという米国の伝統的なものが彼のなかには流れている。
 それは今までは抑えつけられてきた、米国のダークサイドだ。米国の公の世界では、そういうことをいったらよくない、というもの。そういう米国の思想を押さえないと、あの国のことはわからない。特殊な国なのだ、米国は。
 多くの日本人は、あの国が特別な国であることをわかっていない。どういう成り立ちの国かを、理解していない。いわゆる米国ウォッチャーの話を聞いてもダメだ。ほとんどがトランプの当選を当てられなかった。全滅だった。これで将来のことを正確に予測できるか。
 根っこの部分で全滅で、しかも反省しているわけでもない。しかも最近は、トランプはじつはいいヤツだなんていう話まで流れてきた。3ヵ月で、悪いヤツがいいヤツに変わるのか。
 イギリスの国民投票の結果をはずした人たちもそうだが、自分の頭で考えない。2017年はドイツの連邦議会選挙もあるが、どうなるか。
 でも、イギリスにしてもドイツにしても、ヨーロッパで起きていることと、米国で起きていることではインパクトのケタが違う。米国で起きていることは、ものすごく深刻だ。ヨーロッパについての予測は、はずしてもいい。日本や、中国についてもはずしてもいい。でも、米国をはずしてはいけない。

□佐藤優・監修『地政学から読み解く米中露の戦略』の「第1章 地政学から読み解く米国の戦略」の「5人に2人が2050年までに終末が来る、と思っている国がトランプを生んだ ~「地球がなくなる」と信じている人が支持している~」
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン

 【参考】
【佐藤優】トランプ政権では少数派が多数派になっても発言権が増えない ~そのカラクリ~
【佐藤優】トランプの政策はじつは中道 ~大統領に当選した理由~
【佐藤優】商売人トランプは儲かる戦争をする ~軍事費1割増は経済政策~
【佐藤優】大使館が引っ越すと第三次世界大戦の引き金になる ~地獄の釜の蓋が開く~
【佐藤優】トランプを理解する二つ目のカギ ~「イスラエル中心主義」~
【佐藤優】トランプを理解するカギ ~彼の信仰、カルヴァン派~
【佐藤優】×宮家邦彦/北朝鮮の核問題、ICBM問題にどう向き合うか

【佐藤優】トランプ政権では少数派が多数派になっても発言権が増えない ~そのカラクリ~

2017年08月19日 | ●佐藤優
 (1)トランプ政権下での米国のマイノリティは、厳しいだろう。マイノリティに力を持たせない、というのが基本。移民を減らす、というのもマイノリティを減らすことにつながるわけだが、ポイントはマイノリティの数が増えても、白人の発言権を維持するのが、トランプ大統領の政策になっていくだろう。
 具体的にいうと、今後出てくるのは、ひとつは諮問会議方式だ。選挙で選ばれた議員による議会の決定を得る。あるいは、試験制度によって採用された官僚によって決められる、というのではなく、トランプ家の諮問会議みたいなのが出てきて、いろいろ決めていくようになるのではないか。
 〈例〉トランプの娘のイヴァンカ、その婿のジャレッド・クシュナー。そういう人たちによる私的なアドバイザー・グループ。そういう人たちに諮問して、そのグループが政策を決めていき、WASPの利益を守る。
 こうやって民主主義的な手続きを得ることなく、政策が決められていく。そういうふうになっていくんじゃないか。

 (2)もうひとつ、教育におけるアファーマティブ・アクションをやめてしまうことだ。マイノリティへの枠、授業料の減免措置、それらをやめてしまうのだ。
 今は黒人とかラティーノには、手厚い奨学金が出ている。それらを全部なくしてフラットにしてしまう。するとどうなるか? 大学に入ってくるのは、ほとんど白人になるわけだ。当然、卒業するのもほとんど白人。そのうえで、エリートの採用試験は、大卒以上を受験資格にしてしまう。その結果、米国のエリートはみな、白人になる。差別ではないが、結果としてそうなる。
 経済的な理由でエリートになれない層を引き上げる、というのがアファーマティブ・アクションなのだが、これをやめて、エリートのなかに白人以外を入れないようにする。
 選挙はもちろん、民主的に行われる。でも、意思決定は諮問機関や、エリート官僚がやって、そのなかにマイノリティは入れない。こういった形にすれば、マイノリティの数が増えて、白人がマイノリティになっても、発言権を維持していけるわけだ。
 それから、今度の大統領選挙では、得票を分析する必要があるのだけれども、じつはラティーノもトランプを支持していた。なぜかというと、トランプが当選すれば、新規に移民が入ってこなくなるから、そうすることによって自分たちの職場が守られる。トランプはそうやって支持を広げていった。やり方がすごくうまかった。

□佐藤優・監修『地政学から読み解く米中露の戦略』の「第1章 地政学から読み解く米国の戦略」の「アメリカのマイノリティが多数派になっても発言権が増えないカラクリ ~民主主義的な手続きを経ることなく、政策が決められていく可能性~」
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン

 【参考】
【佐藤優】トランプの政策はじつは中道 ~大統領に当選した理由~
【佐藤優】保護主義は今や世界のトレンド ~グローバリズム→国家機能強化~
【佐藤優】商売人トランプは儲かる戦争をする ~軍事費1割増は経済政策~
【佐藤優】大使館が引っ越すと第三次世界大戦の引き金になる ~地獄の釜の蓋が開く~
【佐藤優】トランプを理解する二つ目のカギ ~「イスラエル中心主義」~
【佐藤優】トランプを理解するカギ ~彼の信仰、カルヴァン派~
【佐藤優】×宮家邦彦/北朝鮮の核問題、ICBM問題にどう向き合うか