語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【統計】でウソをつく法 ~政府版~

2016年08月16日 | 批評・思想
 (1)同盟通信(時事通信と共同通信の前身)が戦前戦中に発行していた「同盟世界週報」1945年3月3日号にこんな記述があった。
 「国家資金計画以外の(中略)諸計画の内容は、計数はもちろん一切がまったく公表を中止せらるるに至った」
 「戦争完勝」を目標として国と民間の資金配分を決めたのが国家資金計画。完全な統制経済なのだが、同盟のこの記事は、この前提となる経済状況を示す数字が一切発表されなくなった事実を嘆いていたのだ。
 「公表を中止せらるる」とは一体どういうことか。
 日中戦争開始や国家総動員法公布などいくつかの重要な出来事を追うように、統計は段階的に消えていった。鉄道貨物輸送トン数、貿易指数、金銀輸出入月報などの数字が発表されず、さまざまの生産指数は1940年9月以降一切更新されなかった。 

 (2)経済データはその時々の国力を示す。日本がどの程度戦争を継続できるのかは統計から読み解くことができた。
 「日独伊三国同盟を締結するなど戦争の本格化を意識したとき、戦力を想像させる情報を秘匿する必要がでてきたのだろう」【荒川憲一・元防衛大学教授】

 (3)統計の隠蔽作戦から80年近くの歳月が流れた。現在は国内総生産(GDP)、失業率、経常収支、全国企業短期経済観測調査(短観)など、経済統計は毎日のように各官庁や日本銀行から発表される。
 しかし、最近は特定の数字を恣意的に強調する「統計のつまみ食い作戦」が進行する。
 〈例〉「有効求人倍率は全国の都道府県で1を超えた」と安倍晋三・首相が自らの成果と強調する言説。
 ならば、なぜ28兆円という巨額な経済対策を打ち出す必要があるのか?
 伝統的な経済の常識では説明がつかない。為政者が自分の都合のよい数字だけを強調すると、経済現場の状況とはかけ離れた姿となり、矛盾が生じてくる。
 いま政権に必要なのは、雇用がよいのに、個人消費が伸びないのはなぜか、を説明することだ。

 (4)統計はもともと人口や経済力の正確な把握を主たる目的として発達してきた。国民の意識や生活の変化により統計調査の協力が得られにくくなっている最近、海外では税関係など行政が保有する情報を積極的に活用することで懸命に統計精度の向上を図っている。【森博美・法政大学日本統計研究所教授】
 日本でも政治は個々の数字をうんぬんする前に、統計データの質を高めるため国際的動向を踏まえてどのような仕組みが可能なのかを真剣に考えてほしい。【森教授】

 (5)戦時中の日本政府は、経済統計を国民の目から隠した。
 21世紀の今日、経済統計はきちんと発表されているが、為政者は自分に都合のいい数字だけを切り貼りして政治的に使っている。
 隠すの言語同断だが、自分の国の状況を正確に知らせていない、という意味では、つまみ食いもたちが悪い。

□軽部謙介(時事通信解説委員)「戦時と平時の経済統計 ~炉辺解説~」(「日本海新聞」2016年8月15日号)
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 【参考】
【統計】でウソをつく法


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