語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【トランプ】「隠れトランプ票」読めぬメディアの限界 ~表面化しない本音~

2016年11月23日 | 社会
 (1)ネットでは前々回(2008年)の大統領選で1州を除いてすべて勝者を的中させ、前回(2012年)の大統領選で全選挙区の勝者を的中させたことで話題を集めた統計学者のネイト・シルバー氏が、今回は予想を大外ししたことに注目が集まった。
 シルバー氏が運営する選挙予測サイト「ファイブ・サーティ・エイト」で開票前最後に公開した勝率予測では、
   クリントン候補 71.4%
   トランプ候補  28.6%
だった。トランプ候補にも一定の可能性を示す数字だったが、なぜ天才統計学者は最終的な勝者を的確に予測できなかったのか。
 そこには、世論調査では浮き上がってこない「隠れトランプ票」の存在がある。

 (2)トランプ候補は、デマも厭わず、敵を設定して攻撃し、人種や宗教に対する差別発言を繰り返すことで支持を伸ばしてきた。ほぼすべての米国メディアがトランプ候補を批判し、クリントン候補を支持してきたのは、そうしたトランプ候補の暴言を問題視したからだった。
 しかし、「トランプ憎し」という極端なメディアのスタンスは、世論調査の数字を狂わせた可能性がある。

 (3)選挙で用いられる世論調査には、大まかに分けて
   ①電話を使った伝統的な調査
   ②ネットを使った調査
の2種類がある。①は、名前や年齢、職業などを調査会社に明かした上で回答する必要がある。だが、②には匿名で回答できるものがあり、そうした調査では電話調査よりも高めにトランプ候補を支持する数字が出ていたのだ。
 つまり、実際にはトランプ候補を支持していても、それを公言するとメディアが作る空気によって良識派や仲間内からたたかれる。トランプ候補を支持する有権者はそれを恐れ、表面的にはクリントン候補支持と回答することで「隠れトランプ票」が生まれ、選挙予測を狂わせたのだ。
 今回の選挙では、事前の世論調査だけでなく、当日投票の出口調査でも同じ傾向が見られている。
 こうした隠れトランプ票が結果に影響をもたらした可能性は非常に高い。

 (4)実はシルバー氏は、2016年6月に行われた英国のEU離脱を巡る国民投票でも「残留派が勝つ」と予想していた。
 このことが示すのは、世の中で良くないこととされること、いわゆる「ポリティカル・コレクトネス」に反した排外主義や人種差別が選挙や国民投票の争点となったとき、一定の人びとは正直に社会調査に回答しないということだ。

 (5)今回の大統領選から見えてきたのは、
  ・米国社会でポリティカル・コレクトネスが白人層の不満の対象となっていること。
  ・トランプ候補を支持する層が抱えている不満をすくい上げ、分析できなかった米国のジャーナリズムや世論調査の限界。
 世界中が移民排斥に向かう中、もはや「良識」を説くだけではこの問題に太刀打ちできない。
 メディアは大きな課題を突きつけられている。 

□津田大介(ジャーナリスト/メディア・アクティビスト/「ポリタス」編集長)「「隠れトランプ票」読めぬメディアの限界 ~ウェブの見方 紙の味方 29~」(週刊朝日 2016年11月25日号)
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