語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【詩歌】リルケ「タナグラ人形」

2015年12月05日 | 詩歌
 偉大な太陽に焼かれでもしたような
 ささやかな素焼きの土人形
 それはまるで ひとりの
 少女(おとめ)の手のしぐさが
 ふいに永遠のものになったかのようだ
 何をつかもうとするのでもなく
 彼女の感情のなかからぬけだして
 何かに向かってさしのべられているのでもない
 下顎に触れようとする手のように
 それはただ自分自身にふれているばかり

 私たちは人形の一つひとつ
 取り上げては 廻してみる
 私たちはほとんど理解することができるのだ
 なぜこれらの人形が消え失せていかないかを--
 けれども私たちはただ
 一層深く 一層すばらしく
 「消え去ったもの」に愛着をもち
 そして微笑しなければならない たぶん
 去年より少しばかり明るい微笑を


 Tanagra

 Ein wenig gebrannter Erde,
 die von großer Sonne gebrannt.
 Als wäre die Gebärde
 einer Mädchenhand
 auf einmal nicht mehr vergangen;
 ohne nach etwas zu langen
 zu keinem Dinge hin,
 aus ihrem Gefühle führend,
 nur an sich selber rührend
 wie eine Hand ans Kinn.

 Wir heben und wir drehen
 eine und eine Figur;
 wir können fast verstehen
 weshalb sie nicht vergehen, -
 tiefer und wunderbarer
 hängen an dem was war
 und lächeln: ein wenig klarer
 vielleicht als vor einem Jahr.

□ライナー・マリア・リルケ(富士川英郎・訳)「タナグラ人形」(『リルケ詩集』(新潮文庫、1963))
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン

 【参考】
【詩歌】リルケ「豹」
【詩歌】リルケ「秋の日」
【詩歌】リルケ「秋」



コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 【心理】目撃者の証言は常に... | トップ | 【野球】カープのマエケン、... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

詩歌」カテゴリの最新記事