(1)5月27日、福島県庁に隣接する福島県自治会館に、国際原子力機関(IAEA)の「緊急時対応能力研修センター」が開所した。
同センターは、外交特権を持ち、入り口のドアは極めて頑丈なものに替えられた。IAEAの日本人職員1人が常駐しているらしいが、詳細不明。3年後には、県中央部の三春町に新築される県環境創造センター(モニタリングや除染の研修を行う)の大施設に移る。しかし、さしあたり、福島県へのIAEA進出の一面にすぎない。
IAEAは、チェルノブイリ原発事故の被曝影響をほとんど無視する【注】。
奇怪なことに、原発推進のIAEAと脱原発が県是の福島県が昨年から急接近し始め、県内各方面から不審の声が募っている。
(2)IAEAは、第二次世界大戦が終わった12年後(1957年)に米国主導で設立され、現在159ヵ国が加盟している。最高執行機関(理事会)は、日本を含む35ヵ国で構成される(天野之弥・事務局長/元外務省職員)。
2012年12月15~17日(民主党政権下)、福島県郡山市で、日本政府・IAEA共催の「原子力安全に関する福島閣僚会議」が開催された(125ヵ国・機関が参加)。原子力の安全利用の再強化をうたう共同議長声明が発表された。実は、この国際会議の初日に、同会議とは別に、福島原発事故の「深刻な結果を軽減するために」協力活動を行う、という覚書をIAEAと福島県がとり交わした。さらに、それを具体化した実施取り決めを、IAEA、県、福島県立医科大学、日本外務省が個別に締結した。
(1)のIAEAセンターは、これら取り決めのうちの福島県、外務省との、その実行拠点だ。
(3)現時点で見逃せないのは、IAEAと福島県立医大との関係だ。
福島県は、人体への被曝影響を把握するため、「県民健康管理調査」を2011年から実施している。200万人超の全県民個々の被曝線量を推定したり、事故当時18歳以下の36万人の甲状腺発癌の有無を超音波検査で確かめたり、避難区域などの住民20万人の健康診断を実施したり。
いま、この中でとりわけ注目すべきは、年少者の甲状腺癌発生率、そしてその被曝との因果関係だ。事故当時福島県内にいた18歳以下のうち、甲状腺癌か、その疑いがあると診断された過去2カ年弱の累積数が、8月20日に県立医大側から発表された。それまでに検査され、結果が出た193,000人中、計43人と、罹患率が異常に高いことがわかった。
県立医大は、公表の4回目、以前と同じく被曝との関係を否定する。
だが、果たして然るか。
(4)「県民健康管理調査」に、IAEAが全面的に関与する体制が作られた(前例がない)。
若年の甲状腺癌罹患数の上昇などをめぐって、IAEA側と県立医大側がどういう関わり方をしているのか、何の情報開示もない。
こで見落とせないのは、IAEAが県立医大などとの取り決めにおいて、「両当事者は、他方の当事者によって秘密として指定された情報の秘密性を確保する」との文言を織り込んだ点だ。IAEAがその文言を入れさせた。
非公開の対象は、実質、無制限だ。甲状腺癌関係の何であろうと、IAEAは秘密化の要求ができ、日本側はそれを拒否できない。
(5)もともと被曝影響に係るIAEAの立場は、殊にチェルノブイリ原発事故で明確になっている。長い間IAEAは、被曝による甲状腺癌の発生すら否定し、他の罹患は今なお無視し続けてきた。その一方で、放射線に対する人々の心理的ストレスを重視したりする。
1991年、IAEAの国際諮問委員会が、チェルノブイリ被曝による疾患(子どもの甲状腺癌発症など)の発生を否認する失態を犯した。その時の委員長は日本人疫学者だった。
(6)2012年5月23日、世界保健機関(WHO)は、福島県民(一部地域を除く)の1年間の被曝線量を「1~10mSv」と推計するなど、事故の影響を軽くとらえる報告書を発表した。
これを分析したアレックス・ローゼン・独ディッセルドルフ大学附属病院小児科医師/「核戦争防止国際医師会議(IPPNW)会員は、同年秋、かかる「大雑把な平均的推計値」がいかに無意味か、WHO報告書の欠陥を詳細に剔抉した論文を発表した。その中で、このWHO報告書の執筆チームにIAEA職員が少なからず含まれていることを実名をあげて暴露した。
【注】「【原発】今なお続く犠牲 女性・子どもへの影響 ~チェルノブイリからの警告(2)~」
□長谷川煕(ライター)「IAEAの福島進出で高まる 被曝影響「「秘密化」の恐れ」(「AERA」2013年9月9日号)
【参考】原発関連記事
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同センターは、外交特権を持ち、入り口のドアは極めて頑丈なものに替えられた。IAEAの日本人職員1人が常駐しているらしいが、詳細不明。3年後には、県中央部の三春町に新築される県環境創造センター(モニタリングや除染の研修を行う)の大施設に移る。しかし、さしあたり、福島県へのIAEA進出の一面にすぎない。
IAEAは、チェルノブイリ原発事故の被曝影響をほとんど無視する【注】。
奇怪なことに、原発推進のIAEAと脱原発が県是の福島県が昨年から急接近し始め、県内各方面から不審の声が募っている。
(2)IAEAは、第二次世界大戦が終わった12年後(1957年)に米国主導で設立され、現在159ヵ国が加盟している。最高執行機関(理事会)は、日本を含む35ヵ国で構成される(天野之弥・事務局長/元外務省職員)。
2012年12月15~17日(民主党政権下)、福島県郡山市で、日本政府・IAEA共催の「原子力安全に関する福島閣僚会議」が開催された(125ヵ国・機関が参加)。原子力の安全利用の再強化をうたう共同議長声明が発表された。実は、この国際会議の初日に、同会議とは別に、福島原発事故の「深刻な結果を軽減するために」協力活動を行う、という覚書をIAEAと福島県がとり交わした。さらに、それを具体化した実施取り決めを、IAEA、県、福島県立医科大学、日本外務省が個別に締結した。
(1)のIAEAセンターは、これら取り決めのうちの福島県、外務省との、その実行拠点だ。
(3)現時点で見逃せないのは、IAEAと福島県立医大との関係だ。
福島県は、人体への被曝影響を把握するため、「県民健康管理調査」を2011年から実施している。200万人超の全県民個々の被曝線量を推定したり、事故当時18歳以下の36万人の甲状腺発癌の有無を超音波検査で確かめたり、避難区域などの住民20万人の健康診断を実施したり。
いま、この中でとりわけ注目すべきは、年少者の甲状腺癌発生率、そしてその被曝との因果関係だ。事故当時福島県内にいた18歳以下のうち、甲状腺癌か、その疑いがあると診断された過去2カ年弱の累積数が、8月20日に県立医大側から発表された。それまでに検査され、結果が出た193,000人中、計43人と、罹患率が異常に高いことがわかった。
県立医大は、公表の4回目、以前と同じく被曝との関係を否定する。
だが、果たして然るか。
(4)「県民健康管理調査」に、IAEAが全面的に関与する体制が作られた(前例がない)。
若年の甲状腺癌罹患数の上昇などをめぐって、IAEA側と県立医大側がどういう関わり方をしているのか、何の情報開示もない。
こで見落とせないのは、IAEAが県立医大などとの取り決めにおいて、「両当事者は、他方の当事者によって秘密として指定された情報の秘密性を確保する」との文言を織り込んだ点だ。IAEAがその文言を入れさせた。
非公開の対象は、実質、無制限だ。甲状腺癌関係の何であろうと、IAEAは秘密化の要求ができ、日本側はそれを拒否できない。
(5)もともと被曝影響に係るIAEAの立場は、殊にチェルノブイリ原発事故で明確になっている。長い間IAEAは、被曝による甲状腺癌の発生すら否定し、他の罹患は今なお無視し続けてきた。その一方で、放射線に対する人々の心理的ストレスを重視したりする。
1991年、IAEAの国際諮問委員会が、チェルノブイリ被曝による疾患(子どもの甲状腺癌発症など)の発生を否認する失態を犯した。その時の委員長は日本人疫学者だった。
(6)2012年5月23日、世界保健機関(WHO)は、福島県民(一部地域を除く)の1年間の被曝線量を「1~10mSv」と推計するなど、事故の影響を軽くとらえる報告書を発表した。
これを分析したアレックス・ローゼン・独ディッセルドルフ大学附属病院小児科医師/「核戦争防止国際医師会議(IPPNW)会員は、同年秋、かかる「大雑把な平均的推計値」がいかに無意味か、WHO報告書の欠陥を詳細に剔抉した論文を発表した。その中で、このWHO報告書の執筆チームにIAEA職員が少なからず含まれていることを実名をあげて暴露した。
【注】「【原発】今なお続く犠牲 女性・子どもへの影響 ~チェルノブイリからの警告(2)~」
□長谷川煕(ライター)「IAEAの福島進出で高まる 被曝影響「「秘密化」の恐れ」(「AERA」2013年9月9日号)
【参考】原発関連記事
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