(1)マルハニチロの子会社が製造した冷凍食品への「農薬混入事件」の余波は、食品業界にとどまることなく、日本中の企業を緊張させている。
同子会社の、逮捕された契約写真の犯行動機が、給与への不満にあった、と報じられているからだ。
正規社員と非正規社員の待遇格差が、この種の事件の背景にあったとすれば、同種の事件がまた、何時、どこで起こってもおかしくはない。
まっとうな組織なら、とうてい安閑としてはいられない。
(2)唯一、危機意識に乏しいのが、あの日本年金機構だ。
同一労働、同一賃金をタテマエにしながら、日本年金機構の待遇格差は並みの民間以上にひどい。
正規職員は安定した身分に安住し、面倒かつ困難な仕事は、立場の弱い非正規職員に押し付ける傾向が強いからだ。
しかも、日本年金機構の経営陣は、そんな職場実体の是正に努めるどころか、その格差がもたらしかねないリスクに気づいてもいない。
(3)昨年11月末、上部機関(厚生労働省年金局)が公表した日本年金機構の「次期中期目標の骨子(案)」には、「全国異動を基本」としてきた正規職員のキャリアパターンを、「本人の適性や生活環境等を踏まえた」制度に改める旨、書かれている。何気ない一文だが、この意味するところは大きい。
今を遡ること4年前、旧・社会保険庁が潰された。
新たに日本年金機構を立ち上げるに際し、職員の幹部登用に当たっては、さまざまな仕事を経験させ、視野を広げさせる「全国異動を基本」とした。
前記改正は、その方針の事実上の撤回に当たる。
(4)「全国異動」が義務づけられていなかった旧・社会保険庁時代には、採用された事務所等でのんびり過ごしながら、組合幹部となった職員の中から事務所長や事務局長の多くが登用されてきた。ために、「組合エゴ」が横行し、地域によっては組合幹部の意向の前に、社会保険庁長官の指示・命令が跳ね返される、というヘンな事態も散見された。
挙げ句の果ては、年金記録の正確な管理に支障をきたし、持ち主不明の5,000万件もの記録が発生し、放置される仕儀となった。
「全国異動」は、この種の弊害を取り除き、組織の風通しをよくしようと定められたキャリア・パターンだった。
(5)むろん、異動に当たっては「本人の適性や生活環境等を踏まえる」のは、人事部門としては必要な措置だろう。
しかし、そのような内部手続きを、わざわざ厚労大臣名で公表する中期目標に記載する必要はない。
書くとすれば、正規職員が抱える介護や子育てといった「生活環境」への配慮ではなく、格差是正であり、監査機能の刷新による「不満リスク」の排除であるはずだ。
(6)日本年金機構は、年金加入者や受給者の膨大な個人情報を管理している組織だ。
仮に、それら年金記録の一部が不正に持ち出されたからどうなるか。プライバシーの侵害どころか、最悪、犯罪に利用されかねない。
事実、日本年金機構のホームページには、「不審な電話や訪問にご注意ください」と銘打ったコーナーがある。そこには年金事務所職員を名乗り、「滞納している国民年金保険料を支払わないと差し押さえする」と脅し、加入者から保険料を詐取した実例が示されている。
これは、すでに未納記録の情報が流出していた可能性を示唆する。ピンポイントで未納者の自宅を訪ね、その未納額を把握していた、ということからすれば。
(7)(6)のような事態が懸念されるにも拘わらず、日本年金機構の対応は極めて鈍い。
必要な調査を行うことなく、暢気に他人事を決め込んでいる。
これで、果たして大丈夫なのか。
国民の安心のためにも、情報漏洩の有無を早急に調査し、その結果を包み隠さずに公表すべきだ。
□岩瀬達哉「是正するどころか拡大 日本年金機構の職員格差がもたらす重大リスク ~ジャーナリストの目 第194回~」(「週刊現代」2014年2月22日号)
↓クリック、プリーズ。↓
【参考】
「【食】半致死量と摂取許容量 ~違いを知らないマルハニチロ~」
「【食】マルハニチロ農薬事件の背景 ~厳しい労働環境~」
同子会社の、逮捕された契約写真の犯行動機が、給与への不満にあった、と報じられているからだ。
正規社員と非正規社員の待遇格差が、この種の事件の背景にあったとすれば、同種の事件がまた、何時、どこで起こってもおかしくはない。
まっとうな組織なら、とうてい安閑としてはいられない。
(2)唯一、危機意識に乏しいのが、あの日本年金機構だ。
同一労働、同一賃金をタテマエにしながら、日本年金機構の待遇格差は並みの民間以上にひどい。
正規職員は安定した身分に安住し、面倒かつ困難な仕事は、立場の弱い非正規職員に押し付ける傾向が強いからだ。
しかも、日本年金機構の経営陣は、そんな職場実体の是正に努めるどころか、その格差がもたらしかねないリスクに気づいてもいない。
(3)昨年11月末、上部機関(厚生労働省年金局)が公表した日本年金機構の「次期中期目標の骨子(案)」には、「全国異動を基本」としてきた正規職員のキャリアパターンを、「本人の適性や生活環境等を踏まえた」制度に改める旨、書かれている。何気ない一文だが、この意味するところは大きい。
今を遡ること4年前、旧・社会保険庁が潰された。
新たに日本年金機構を立ち上げるに際し、職員の幹部登用に当たっては、さまざまな仕事を経験させ、視野を広げさせる「全国異動を基本」とした。
前記改正は、その方針の事実上の撤回に当たる。
(4)「全国異動」が義務づけられていなかった旧・社会保険庁時代には、採用された事務所等でのんびり過ごしながら、組合幹部となった職員の中から事務所長や事務局長の多くが登用されてきた。ために、「組合エゴ」が横行し、地域によっては組合幹部の意向の前に、社会保険庁長官の指示・命令が跳ね返される、というヘンな事態も散見された。
挙げ句の果ては、年金記録の正確な管理に支障をきたし、持ち主不明の5,000万件もの記録が発生し、放置される仕儀となった。
「全国異動」は、この種の弊害を取り除き、組織の風通しをよくしようと定められたキャリア・パターンだった。
(5)むろん、異動に当たっては「本人の適性や生活環境等を踏まえる」のは、人事部門としては必要な措置だろう。
しかし、そのような内部手続きを、わざわざ厚労大臣名で公表する中期目標に記載する必要はない。
書くとすれば、正規職員が抱える介護や子育てといった「生活環境」への配慮ではなく、格差是正であり、監査機能の刷新による「不満リスク」の排除であるはずだ。
(6)日本年金機構は、年金加入者や受給者の膨大な個人情報を管理している組織だ。
仮に、それら年金記録の一部が不正に持ち出されたからどうなるか。プライバシーの侵害どころか、最悪、犯罪に利用されかねない。
事実、日本年金機構のホームページには、「不審な電話や訪問にご注意ください」と銘打ったコーナーがある。そこには年金事務所職員を名乗り、「滞納している国民年金保険料を支払わないと差し押さえする」と脅し、加入者から保険料を詐取した実例が示されている。
これは、すでに未納記録の情報が流出していた可能性を示唆する。ピンポイントで未納者の自宅を訪ね、その未納額を把握していた、ということからすれば。
(7)(6)のような事態が懸念されるにも拘わらず、日本年金機構の対応は極めて鈍い。
必要な調査を行うことなく、暢気に他人事を決め込んでいる。
これで、果たして大丈夫なのか。
国民の安心のためにも、情報漏洩の有無を早急に調査し、その結果を包み隠さずに公表すべきだ。
□岩瀬達哉「是正するどころか拡大 日本年金機構の職員格差がもたらす重大リスク ~ジャーナリストの目 第194回~」(「週刊現代」2014年2月22日号)
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【参考】
「【食】半致死量と摂取許容量 ~違いを知らないマルハニチロ~」
「【食】マルハニチロ農薬事件の背景 ~厳しい労働環境~」