語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【原発】不良債権処理と原発事故処理の類似点

2012年07月07日 | 震災・原発事故
 15年ほど前に起きた(A)不良債権処理の問題と、今回の(B)原発事故処理の問題と、たくさんの類似点がある。

(1)(A)と(B)のいずれも、規制当局が国民の信頼を完全に喪失した。
 (A)では、1997年11月、「失われた10年」の真っ只中、北海道柘植銀行、山一證券など大手金融機関が破綻し、日本の金融機関は麻痺し、崩壊寸前の状態まで追い込まれていた。バブル崩壊に直面した日本経済は、金融システムのみならず格差や貧困が急速に拡大していった。ずるずると不良債権処理を続ける中、財政赤字が急激に膨張し、それとともに年金、医療、介護、雇用制度など社会的セイフティネットが次々と機能不全に陥った。
 (B)では、原子力安全・保安院も原子力安全委員会もメルトダウンやSPEEDIのデータを隠したこと、原子力の安全神話を作るため「やらせ」説明会を繰り返してきたことが暴露された。
 (B)では、また、電力会社と監督官庁・安全規制機関が「仲間うち」=原子力ムラで、誰一人責任をとらず、自分たちに都合のよいようにコロコロと安全基準を変えている。
 <例1>原発事故が発生したとたん、学校の校庭の被曝許容基準を事故前の年間1mSvから急に20mSvに緩めた。
 <例2>放射能の汚染された焼却灰や下水汚泥の埋め立て処理基準を100Bq/kgから8,000Bq/kgに緩和し、現在も除染の対象となる放射線量の基準をコロコロ変えている。

(2)(A)と(B)のいずれの状況も、非常によく似ている。
 (A)では、経営者と監督官庁が「仲間うち」でかばい合って誰も責任をとらず、不良債権の債権査定をごまかし続けていた。ために、皆疑心暗鬼に陥った。それが金融危機を一層深刻にした。
 (B)では、原発が不良債権そのものと化した【注】。
   ①使用済み核燃料の最終処分の先が決まらず、危険な放射性廃棄物を出し続けている。
   ②安全性が担保できず、危険で動かせない原発は、収益を生まない。その一方、多額の借入金返済と維持管理費用だけが襲ってくる。<典型例>マークⅠ型の格納容器を持つ原発、活断層の上にある原発、三連動地震の恐れのある浜岡原発、老朽原発など。
   ③危ない原発は「損切り」しなければならないが、そうすると、不良債権原発に依存する電力会社の経営は、たちまち行き詰まる。
   ④ゆえに、電力会社はツケを先送りにし、利益優先・安全無視で原発再稼働を急ぐ。
   ⑤当然ながら、これがまた、人々の不安を増幅させる。

(3)東京電力に対する公的資金注入は、何時か来た道、かつての不良債権処理の失敗例そのものだ。
   ①東電は、事実上債務超過に陥っている。原子力損害賠償支援機構から2兆5,000億円(事実上の「公的資金」)、「総合特別事業計画」に盛り込まれた公的資金が1兆円、計3兆5,000億円。
   ②今後、巨額の支払いが待ち受ける。賠償費用の残り2.5兆円(2012年5月現在)+α、事故処理費用1兆2,000億円+α。
   ③②には除染費用が加わるが、いまだに東電は一切数字を出していない。
   ④「総合特別事業計画」は、電気料金値上げと柏崎刈羽原発再稼働で賄おうとしているが、国民の反発は必至だ。そもそも、それで今後増加していく事故処理費用や賠償費用を賄えない。
   ⑤銀行は、当面の貸し手責任を問われるのを恐れ、追い貸しを続けている。このまま追い貸しを続けると、引き返せなくなる可能性がある。かつての不良債権処理と同じ構図だ。
   ⑥かつての不良債権処理と異なる点は、賠償費用や除染費用の支払いがままならないので、福島県民ら原発事故被災者が犠牲になっていくしかない、という現実だ。      
   ⑦不良債権処理の失敗を踏まえれば、発電会社と送・配電会社の分離、解体・売却が不可避だ。
   ⑧⑦の売却でも不足する資金は、原子力予算をバッサリ削って組み替え、捻出する以外、解決の道はない。
   ⑨しかし、政官財界が腐っているため、本格的な不良債権処理策をとれない。15年前と同じように。そして腐敗は、学界、メディアにも及んでいる。

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