水上陽平流の表現でいろいろな事を書いています。本館は http://iiki.desu.jp/ 「氣の空間」
カルテ番号 み・5（50）
何かのイラストで見た。
大きな樹の枝に、多種多様な生物がいる。
微生物、菌類、植物、小動物、虫、海洋生物、脊椎動物が一つの樹。
人間は微生物が死滅するだけでも、生存できない。
もちろん、植物からの酸素で息をしている。
他の生物が生きているから、人間も他の生物も生きている。
単純な、そして複雑な事実。
見えない生命と見える生命。
共に繋がっている。
頭で、理屈で、理論で考えなくても、繋がっている。
そんな土台を、人間は忘れてしまう。
毎日の暮らしで、忘れてしまう。
そして、暮らしに追われ、自分を労わる余裕がない。
「先生、私は一人で子供を育てました。
生活するのに、どうしても身体に無理をさせました。
それはわかっています。
それでも、無理をさせないと生活できないのです。
身体を大切にする、というのは解ります。
でも、現実には、それが出来ない人が沢山いるのです」
（登場する人物・組織・その他はフィックションです）
（過去のプログは本館 「氣の空間・氣功療法院」です。
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１８年間封印していた本物の「氣入れパワーストーン」を販売開始 「笑顔の雑貨屋Ｙａｋｋｏｏ」)
カルテ番号 み・5（49）
裕子は納得していた。
その上で、また訊ねた。
「他の人の役に立つ事が、生きている意味だともいいますが・・・」
院長は頷いてから話し出した。
「他の人ではなく、他ですね。
人間だけに貢献しても、人間以外の生命は困ることが多いです。
でも、生きている、というだけで、他の役に立っているのです。
人間だけでなく、あらゆる生物、非生物は、他の役に立っています。
存在するだけで、役に立っている。
生命を大切にするだけで、役に立っている。
むしろ、それ以外の行為は迷惑になることが多いようです。
役に立とうとすると、どこかで迷惑しているのです。
人間界だけでも、そうでしょう。
自分の国の為に役立とう、とすると、他の国の人は迷惑します。
経済や戦争や競争は全てそうですね。
他の不幸、苦しみの上に繁栄や名誉や称賛があるようです。
そんなことは、何もしなくていいから、自分の身体を大切にする。
すると、結果的には、他の応援になるようですよ。
何故か？答えは簡単です。
生命は繋がっているからです。
生命は大切に扱われると、根っこを通じて、他の生命も喜ぶ仕組みです。
他といいましたが、生命においては、自他は同じ根の大きな樹ですから」
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カルテ番号 み・5（48）
一息ついた院長が言った。
「つまり・・・この世に生まれている、生きている、という事が希少です。
生きている、という事が、とても貴重です。
ラッキーです。
有限の肉体です。
有限の人生です。
苦しい事、辛い事、悲しい事もあります。
それでも、生きているのは幸運です。
もう一度いいますね。
僅か１００年程度の人生です。
心や魂を磨いているヒマはないのです。
立派に生きるなんて、欲張りは無くていいのです。
ただ一つ、生き延びて下さい。
それが、この世に生まれた役目です」
解りやすい。
霧が晴れたように解りやすい、と裕子は思った。
「生命が尽きるまで、生き延びる。
ならば、する事も決まっています。
この肉体を大切にする。
労わる。
可愛がる。
他にはないでしょう。
余裕があれば、他の人に優しくすれば充分です。
家族、身内に尽くすのは、最低限すれば合格でしょう。
それ以上は、趣味の世界です。
好きなようにすればいい」
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カルテ番号 み・5（47）
院長は解りやすく説明してくれているのだろう。
それでも裕子には集中して聞いていないと難しい。
「どうして無限の世界が本物とか真実とかなるのでしょうかねぇ？
それ以前に、人間が真実を判断できるとは思えません。
現実の今の社会では、勝手に主張する真実だらけです。
真実を売り物にしている宗教組織は幾つもあります。
そして、我こそが唯一だ、と主張し、ケンカします。
真実は、全てを含む、としたら一つだし、ケンカもなくなります。
嘘も幻も詐欺も戯言も真実の一面だとすれば、真実を主張する意味もなくなります。
まぁ、そうすると見えない世界を解説する人達の仕事も無くなるわけですが・・・」
この院長は、結構皮肉屋なのかもしれない、と裕子は思った。
「まぁ、ともかく見えない世界の方に価値がある、と思われがちです。
心と身体なら、心の方に価値がある。
魂の方に価値がある、と。
どちらに価値があるかどうかは、わかりません。
そもそも、価値の多寡を決めていい対象なのか疑問です。
そして、ここが重要ですが、この世の舞台は肉体界なのです。
ならば、価値はともかく、優先順位はあるわけです。
そう、身体、が優先なのは、当たり前ですね。
そして、肉体は有限です。
僅か１００年程度の時間です。
希少価値、という概念なら、あきらかに身体が希少なのですねぇ。
そして、この肉体で生命を維持している世界も希少というわけです」
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カルテ番号 み・5（46）
院長はやわらかくなった裕子の顔を見て言った。
「死後の世界があるとしましょう。
あるいは宗教のいう魂の世界があるとしましょう。
そこは肉体が無いから、時は永遠、あるいは無限としているようです。
有限の人間が無限や永遠を語るのは、無理があると思いますが・・・
まぁ、寿命がある人間よりも遥かに長い時を過ごせる世界だとします。
そんな世界は無い、というのは簡単ですが、それだと話が出来ません。
証明できないから、無い、というのも無茶な話ですからねぇ。
現時点の人間の証明など、とても未熟な段階ですから。
そういう世界が有る、として話をしていきますね。
無限、永遠、あるいは長い時があるから、そちらが本物だ、といいます。
これも無理な決めつけだと思います。
精神世界スキスキ人間も自分の都合のいいように物事を決めつけます。
そういう世界が好きな人は、自分が少し偉くなっていると、こっそり自負しています。
精神世界は、落とし穴に落ちやすい道なのです。
人間が本物や真実の世界を決めるのは、かなり傲慢だと思っています。
まぁ、仮定として、肉体が無い世界は、この世よりも時が長い、としておきますね」
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カルテ番号 み・5（45）
裕子は特に精神世界に詳しいわけではない。
一人で子供を育ててきたのだ。
現実と毎日向き合っていると、宗教などはヒマな人がするものだと思っていた。
それでも、何となく、心や魂や精神というのは深い世界だと思っていた。
目に見えるモノなど、見えない世界に比べれば小さいのだと思っていた。
それが、院長の話では全く逆だという。
肉体は、見えない世界より、遥かに大きいのだという。
少しカルチャーショックがある。
混乱がある。
だが、院長の話は直観で頷ける。
院長の話の方が、未来が明るい。
見えない世界を研究している人が幸せには見えない。
宗教の信者は、信者同士ならいいのだろうが、傍からみると変だ。
そして、それほど幸せそうでもない。
何よりも無理が見える。
見える世界としっかり関わる。
健康にしても、肉体をしっかり愛する。
自分の将来は、肉体を自愛することで開ける。
納得できるのだ。
そして、そうすると心も安定すると、信じられる。
言葉だけの世界は、うさん臭い。
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カルテ番号 み・5（44）
院長はしみじみ言った。
「この仕事は生命と向き合うことです。
深い病の人達ですから、向き合わざるをえません。
すると、いろいろな事を教えてくれます。
私が勉強したのではありません。
勝手に教えてくれるのです。
特に、肉体は計り知れない深さ、高さ、広さ、大きさを持っている事。
そんな、とてつもない肉体を我々は持っている。
心だってとても深く広い、と思っていました。
魂とか精神とか、人の見えないモノは深いものだと思っていました。
事実、深く、広く、そして、高いのでしょう。
そのほとんどを使うことまで出来ない段階なのでしょうが・・・
でも、肉体は、その更に上を行く、と知りました。
見えない世界を内蔵しているのです。
物質、肉体は、その中に宇宙を内蔵しているのです。
肉体から教えてくれる事は、とても大きく多すぎて、その初期だけです。
ほんの入り口だけです。
小学校一年生の部分だけです。
それでも、一生かけても、私では学ぶことはできません。
それらから比べれば、なんと精神世界の狭く浅いことか・・・
心の問題など、肉体からなら、簡単に解決してしまうのですよ」
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カルテ番号 み・5（43）
裕子は健康を浅く考えていた。
身体を鍛える。
あるいは、身体を伸ばす。
柔らかくする。
食を考えて摂る。
それらは、間違いではないが、浅い健康だった。
あの女性の太極拳を見て、もう一つ深い方法があると思った。
氣という概念だ。
生命の健康には欠かせない概念だと思った。
だが、それさえも、まだまだ浅いと気づいた。
この院長は私の幼稚さ、浅い考えに付き合ってくれたのだろう。
きっと、わかりやすく話してくれたのだろう。
自分を愛する。
その言葉は、いろいろなところで聞く。
でも、響かなかった。
今は解る。
何故、今まで響かなかったのかも解る。
言っている人、書いてある言葉が浅かったからだ。
同じ言葉でも、違うのだ。
深さが違う。
安っぽい宗教言葉や、精神世界の言葉との違い。
観念の世界での言葉は、浅い。
現実の肉体を軸にした言葉なら、深い。
この世では、生命は肉体側にある。
あの世の事など、確かめられない。
だから、宗教や哲学や思想や精神世界は浅かったのだ。
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カルテ番号 み・5（42）
院長は裕子の顔を見て、言った。
「そして、ここが肝心なところです。
身体を労り、自愛すると、心の悩みは薄くなります。
心を心で解決しようとすると、とても難しい。
時には更に悩みを深めてしまいます。
ところが、身体を優しく扱い、自愛すると、心は自然に楽になるのです。
この世が物質界、肉体界の意味はここにあると思います。
精神の修行の場とかいうのは、ヒマ人のたわごとです。
美味しさを味わう、気持ち良さを味わう、生きていることを味わう。
すると、自動的に精神は楽になる。
その事さえ、自動的に知ってしまう。
結果的に、知ってしまうのですねぇ。
通常、人の寿命は１００年くらいです。
本当はもっと長いでしょうが、使い方が乱暴だからです。
僅かな時間です。
命短し、恋せよ。
その恋の相手は、自分の人生でしょう。
苦しい事、辛いこと、悲しい事は勝手に降りかかります。
受態ですが、楽しい事、嬉しい事、気持ちいい事は能動です。
動物は動いて生きています。
悩みや、悲しみや苦しみは、能動ではないのです。
勝手にやってくるものです。
人生を生きるのは能動です。
いかに、自分から嬉しい事、楽しい事、気持ちいい事をしていくか。
それが、人生です。
その過程で、自動的に受けた苦しみが薄まるわけです。
悩みがあろうが、なかろうが、する事は同じです。
苦しみがあっても、なくても、する事は同じです。
いかに、自分を愛し、自分の人生を楽しむか、それだけでしょう」
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カルテ番号 み・5（41）
ここで院長は表情を柔らかくした。
「少し言い過ぎました。
どうも私は精神世界を主軸に語る人を、からかってしまう癖があります。
未来を明るく生きたい、という話でしたね。
とにかく、御自分の身体を御自愛下さい。
実は、それだけなのです」
「心の悩みは、どうすればいいですか？」
裕子は答えを確かめるように、訊いた。
もう、答えは出ているのだが・・・
「心の悩みに向き合うと、心は更に悩む仕組みのようですよ。
だから、悩みは尽きない。
プラス思考、ポジティブな思いをすればいい、というのは理屈です。
悩んでいる人にプラス思考をしろ、とは無茶ですね。
ですが、悩みはそのままでも、身体は動かせます。
悩んでいても、必ず食事はするし、トイレにも行きます。
眠れない、といっても、必ず眠っている。
本人が満足する眠りではありませんが・・・
心は悩むと同じままですが、身体は時と共に変化しているのです
身体にアプローチは出来るし、調子良くすることは充分可能です」
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