博多駅前陥没事故からもうすぐ5ヶ月になる。埋め戻しの早さが注目され一躍時の人になった高島市長だが、パフォ―マンス以外には興味がないのか、損害を受けた市民や事業者への賠償は遅々として進んでいない。福岡市によると、3月30日までに協議に着手したケースは449件で、このうち合意したのは154件と全体の3割にとどまっている。賠償には、領収書や帳簿など損害額が確認できる書類が必要で、それらの提出が困難なケースも少なくないからだ。そんな中、事故原因を究明するために設置された国の第三者委員会(検討委員会)の最終報告会が、先月30日、東京都内で開かれた。
公表された報告書をみると、まず、崩落したトンネル現場に立入ることができないことや委員会設置から短期間でとりまとめたことから、可能性の高い事故原因を推定したと前置きしている。その上で、トンネル上部には地下水を含む砂れき層があり、その下の風化した岩盤層(風化頁岩)には複数の亀裂があった。そこを掘削したため、水圧が作用して亀裂や緩みが発生し、徐々に破壊し始め「水みち」が形成され、連続的な剥落と漏水が起きて大規模な陥没につながったと、事故のメカニズムを推定している。(下図1参照)
事故原因については、10の要因をあげて、それらが複合的に作用し陥没に至ったとしている。中でも可能性が高い要因として2つ。1つは、風化した岩盤層の強度にバラツキがあり、局所的に弱い部分が存在するなど不規則で複雑な地質構造だったこと。もう1つは、地下水位が地表から2.5mの位置にあり、砂れき層と風化頁岩の境界部に高い水圧が作用したこと。これらに対する安全対策が不十分だったため、陥没に至った可能性が高いと結論づけた。副次的な要因として、トンネルの天井を約1m下げたことで扁平な断面となり、天井強度が低下したこと。落盤対策として鋼管から薬剤を注入する工法(注入式長尺鋼管先受工法)を採用したが、岩盤層を突き抜けないよう挿入角度を小さくするため鋼管を切断、その結果上下重なる部分が短くなり、地山改良効果が十分発揮されなかったことをあげている。(下図2参照)
とここまでは予想された内容だが、問題は掘削工法についての委員会の見解だ。陥没事故の核心部分ともいえる「NATM工法」の選定に誤りはなかったのかという点だが、委員会は、厳しい条件下における設計変更が結果的にトンネル構造の安定性を低下させることになったとして、NATM工法の選定は誤ったものではなかったとしている。しかし、工事再開の留意事項では、シールド工法など他工法の活用も視野に入れ、安全面を重視する必要性があるとも言っている。さて、これはどのように解釈すればよいのか。限りなくクロに近いシロなのか。(※NATM工法:New Austrian Tunneling Methodの略。もともと山岳部など硬い岩盤質の地盤にトンネルを掘る工法として開発された)
報告を受け、福岡市交通局は会見で「委員会から工法の選定そのものが誤りではないという判断を頂いた。交通局が担当した設計と監督では、損害賠償を負うような過失はなかった」と言い切り、損害賠償は大成建設JVが負担すべきと断言した。嫌な予感は的中した。結局、国の第三者委員会へ丸投げした結果、責任の所在は明確にされないばかりか、市にお墨付きを与えることとなった。NATM工法に関しては、市が設置した専門家委員会の委員からも脆い岩盤でのNATM工法を疑問視する声が上がっていた。にもかかわらず、市は聞く耳を持たず建設会社に有無を言わさなかった。検討委員会は厳しい条件のもとで設計変更をしたことが原因で、工法の選定に誤りはなかったといっているが、それ以上の説明はない。土木専門誌には設計に過信があったとの指摘もある。果たして過失はなかったと言えるのだろうか。
福岡市は早期の工事再開をめざしているが、検討委員会は再度、地質や地下水の状況を把握する必要があるとしている。さらに、トンネル坑内に流れ込んだ水を抜くとバランスが崩れ、周辺地盤の崩壊に至る恐れがあると指摘している。工事はかなり困難が予想されるようで、不安はさらに膨らむ。ちなみに、この報告を受けての高島市長の会見(コメント)は一切ない。
( 図1:検証委員会資料「事故発生要因とメカニズム」より)
(図2:日経コンストラクション「博多陥没、専門委が10想定要因を提示」より)
地下鉄七隈線延伸部の地質縦断図
岩かぶりは西側の掘進方向(上の図の左方向)に向かって小さくなっている。現在の地盤は、長い年月をかけて隆起や沈降を繰り返してできている。周辺の岩盤層は、かつて丘陵となって地上に現れていたとみられる。(日経コンストラクション「3次元で見えた”へり”、博多陥没現場の危うい地盤」より)
《関連記事》
・弱い岩盤対策不十分 博多駅前陥没第三者委 最終報告案、責任所在示さず(西日本新聞 2017.3.30)
・博多陥没、施工企業に賠償責任 福岡市が見解公表(西日本新聞 2017.3.31)
《関連資料》
・土木研究所HP。福岡市地下鉄七隈線延伸工事現場における道路陥没に関する検討委員会(2017.4.4更新)