漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

部首と音符の関係 石沢 誠司

2017年07月09日 | 漢字音符研究会
第4回漢字音符研究会(2017年7月8日)

テーマ 部首と音符の関係
発表者 石沢誠司  ブログ「漢字の音符」編集者

 音符を簡単に説明する方法として「部首(偏など)を除いた残りの部分(旁つくりなど)が音符であることが多い」という言い方をします。この説明はほぼ正解です。ほとんどの音符は部首と組み合わさって形声文字(または会意文字)を作っているからです。しかし、「ほぼ正解」ということは、「例外もある」ということです。本稿はこの例外を列挙して考察することによって、部首と音符の関係を解き明かしたいと思います。

(1)部首と何か  
 まず、部首とは何かについて説明します。現在の漢字辞典は収録している漢字を配列する方法として、ほとんどが部首による配列を採用しています。これは漢字が二つの要素から出来ている字が非常に多いことから考えだされた方法です。こうした組合せ漢字は主に意味を表す文字と、発音を表す文字が結びついている形声文字が多いのですが、このうち意味を表す文字を抜き出して部首とし、同じ部首をもつ漢字を集めて配列する方法が部首配列です。組合せ漢字でも意味や発音が変わってしまう会意文字でも、同じ部首があれば、ここに含めます。同じ部首のなかの字は、画数によって順序をつけて配列すれば、膨大な数となる漢字の配列も可能となります。
 こうした部首による配列を初めて創り出し、自分の辞書で用いたのは、後漢の許慎(きょしん)です。彼は西暦100年に作った辞書『説文解字(せつもんかいじ)』に収録した9353字を部首により配列しました。彼は部首が意味を表す文字であることをかなり忠実に実行したため、『説文解字』の部首は540にもなってしまいました。この辞書では、男・半・冊・句・習・京もが部首になっています。
 こうした多数の部首は検索に不便だったので、後の辞書から部首の数は減ってゆき、現在は清の時代に作られた『康煕字典(こうきじてん)』(1716年刊)に準拠にした220字前後の部首が使われています。この部首の減少はまた一面、部首は意味を表すという原則と対立する矛盾を大きくしました。

常用漢字では、どんな部首がよく使われているか
 現在、多くの漢字字典で採用されている部首は約220ありますが、各部首に属する漢字数は大きな差があります。分かりやすくするため常用漢字2136字に限ってみると、上位60位で全体の75%を超えています。つまり、特定の数十の部首に多くの漢字が集中し、残りの部首には少ない漢字が分布するアンバランスなかたちになっているのです。
ではどんな部首がポピュラーなのでしょうか。ここで常用漢字の上位25を以下に紹介します。
1位 氵(さんずい)  111字
2位 イ(にんべん)   88字
3位 扌(てへん)    85字
4位 木(きへん)    85字
5位 口(くち)      70字
6位 言(ごんべん)   68字
7位 糸(いとへん)   63字
8位 辶(しんにゅう)   51字
9位 土(つち)       50字
9位 月(つき・にく)    50字
11位 艹(くさかんむり) 46字
12位 日(にち・ひ)    45字
13位 心(こころ)      43字
14位 宀(うかんむり)   36字
14位 女(おんな)     36字
16位 貝(かい)      35字
17位 忄(りっしんべん) 31字
18位 金(かね)      31字
19位 阝(こざとへん)  30字
20位 刂(りっとう)    26字
21位 竹(たけ)      25字
22位 力(ちから)     23字
22位 禾(のぎへん)   23字
24位 頁(おおがい)   22字
25位 目(め)       20字 
 上位25位の部首に含まれる字数は、1195字であり常用漢字(2136字)の56%を占めています。

さんずい(氵)の相方を分析してみる
 では、ここで部首のトップを占める、さんずい(氵)についてその相方はどんな漢字で構成されているか分析してみましょう。以下が、さんずい(氵)部に属する字の一覧です。
氵部 111字
氾・汁・汎・汗・汚・江・池・沙・決・汽・沃・沈・沖・汰・没・沢・河・沸・
油・治・沼・沿・況・泊・泌・法・泡・泣・泥・注・泳・洋・洗・洞・津・洪・
活・派・流・浄・浅・浜・浦・浪・浮・浴・海・浸・消・涙・涯・液・涼・淑・
淡・淫・深・混・添・清・渇・済・渉・渋・渓・減・渡・渦・温・測・港・湖・
湧・湯・湾・湿・満・源・準・溝・溶・溺・滅・滋・滑・滝・滞・滴・漁・漂・
漆・漏・演・漠・漢・漫・漬・漸・潔・潜・潟・潤・潮・潰・澄・激・濁・濃・
濫・濯・瀬


 以上の文字を氵とそれ以外の字とに分けてみます。( )の中は、氵を省いた字です。なお、簡略化された字である新字体は旧字に戻してから分離しています。
氾(㔾)・汁(十)・汎(凡)・汗(干)・汚(于の変形)・江(工)・池(也)・汰(太)・
決(夬)・汽(气)・沃(夭)・沈(冘)・沖(中)・沙(少)・没(殳)・沢[澤](睪)・
河(可)・沸(弗)・油(由)・治(台)・沼(召)・沿(㕣)・況(兄)・泊(白)・泌(必)・
法(去)・泡(包)・泣(立)・泥(尼)・注(主)・泳(永)・洋(羊)・洗(先)・洞(同)・
津(聿)・洪(共)・活(舌)・派(𠂢)・流(㐬)・浄(争)・浅[淺](戔)・浜[濱](賓)・
浦(甫)・浪(良)・浮(孚)・浴(谷)・海(毎)・浸(侵の右辺)・消(肖)・涙(戻)・
涯(厓)・液(夜)・涼(京)・淑(叔)・淡(炎)・淫(㸒)・深(罙)・混(昆)・添(忝)・
清(青)・渇[渴](曷)・済(斉)・渉(歩)・渋[澁](歮)・渓[溪](奚)・減(咸)・
渡(度)・渦(咼)・温[溫](𥁕)・測(則)・港(巷)・湖(胡)・湧(勇)・湯(昜)・
湾[灣](彎)・湿[濕](㬎)・満[滿](㒼)・源(原)・準(隼)・溝(冓)・溶(容)・
溺(弱)・滅(烕)・滋(茲)・滑(骨)・滝(竜)・滞(帯)・滴(啇)・漁(魚)・漂(票)・
漆(桼)・漏(屚)・演(寅)・漠(莫)・漢(漢の旁)・漫(曼)・漬(責)・漸(斬)・
潔(絜)・潜[潛](朁)・潟(舄)・潤(閏)・潮(朝)・潰(貴)・澄(登)・激(敫)・
濁(蜀)・濃(農)・濫(監)・濯(翟)・瀬(頼)
 
 新字体の中には旧字に戻してから音符を確定しなければならない字もありますが、( )内はすべて音符になっています。部首「氵さんずい」の常用漢字に関しては、「部首を除いた残りの部分がすべて音符」であるといえます。しかし、これは珍しいことです。なぜ氵(さんずい)の相方文字はすべて音符なのか? その理由は氵(さんずい)が水の変形した部首専用字であるため、相方の字が限定されることも理由のひとつと思われます。

木(きへん)85字の相方分析
 では次に部首専用字として変形していない第4位の木へんについて見ましょう。この部に属する常用漢字は以下の85字です。[ ]内は旧字。画数順。
木:未・末・本・札・朱・朴・机・朽・杉・材・村・束・条[條]・来・杯・東・
松・坂・析・枕・林・枚・果・枝・枠・枢・枯・架・柄・某・染・柔・柱・柳・柵・
査・柿・栃・栄[榮]・栓・校・株・核・根・格・栽・桁・桃・案・桑・桜[櫻]・
桟[棧]・梅・梗・梨・械・棄・棋・棒・棚・棟・森・棺・椅・植・椎・検[檢]・
業・極・楷・楼[樓]・楽・概・構・様[樣]・槽・標・模・横・権[權]・樹・
橋・機・欄
 
 まず氵部とおなじように、木とそれ以外の字に分けてみます。
「木+音符」のタイプに分けることのできるものが71字あります。( )内は音符。
札(乚)・朴(卜)・机(几)・朽(丂)・杉(彡)・材(才)・村(寸)・条[條](攸)・
杯(不)・枠(卆)・松(公)・坂(反)・析(斤)・枕(冘)・林(木)・枚(攵)・枝(支)・
枢(区)・枯(古)・栃[杤](万)・架(加)・柄(丙)・柔(矛)・柱(主)・柳(留の省)・
柵(冊)・査(且)・柿(市)・栄[榮](熒ケイの省)・栓(全)・校(交)・株(朱)・
核(亥)・根(艮)・格(各)・栽(𢦏)・桁(行)・桃(兆)・案(安)・桜[櫻](嬰)・
桟[棧](戔)・梅(毎)・梗(更)・梨(利)・械(戒)・棋(基)・棒(奉)・棚(朋)・
棟(東)・森(林)・棺(官)・椅(奇)・植(直)・椎(隹)・検[檢](僉)・業(丵)・
極(亟)・楷(皆)・楼[樓](婁)・概(既)・構(冓)・槽(曹)・標(票)・模(莫)・
権[權](雚)・横(黄)・橋(喬)・機(幾)・欄(闌)・樹(壴ジュ+寸)・様[樣](羊+永)

 新字体の中には旧字に戻してから音符を確定しなければならない字もありますが、この69字は「木+音符」のかたちになっています。なお、最後の2字(樹・様)は、音符にさらに1字が加わった形です。

木部に木を分離できない字がある
 木へんは氵部と異なった様相をみせます。氵部の漢字はすべて「氵+音符」だったのに対し、木へんには木を分離できない字、および無理に分離するとその本質が失われてしまう字があるのです。それが以下の13字です。
未・末・本・朱・束・来・東・果・桑・楽・某・棄・染
 このうち、未・末・本・朱は指示文字、束・来・東・果・桑・楽は象形文字、某・棄・染は分解すると一体性を失う会意文字です。これらは「木+音符」にはできません。しかし、この中の字で、未・末・本・朱・束・来・東・果・楽・某は、それ自身が音符になります。つまり、もともと音符である字が、字体に木が含まれているため木へんに分類されているのです。
 以上の分析から、木へんには木と一体になり分解不可能な(あるいは分解するのがむずかしい)文字がかなり含まれていることが分かります。

日部(にち・ひへん)44字の相方分析結果
 次に日部(にち・ひへん)を分析してみましょう。日部は部首の第11位をしめます。この部に属する常用漢字は以下の44字(日を除く)です。[ ]内は旧字。画数順。
日:旦・旧・旨・早・旬・旺・昆・昇・明・易・昔・星・映・春・味・昨・昭・
是・昼・時・晩・普・景・晴・晶・暁[曉]・暇・暑・暖・暗・暦・暫・暮・
暴・曇・曖・曜・曲・更・書・曹・曽・替・最

(1)このうち、「日+音符」となるのは以下の24字です。( )内は音符。
旺(王)・昇(升)・星(生)・映(央)・昧(未)・昨(乍)・昭(召)・時(寺)・
晩(免)・景(京)・晴(青)・暁[曉](堯)・暇(叚)・暑(者)・暖(爰)・
暗(音)・暫(斬)・暮(莫)・曇(雲)・曖(愛)・曜(翟)・書(聿)・最(取)
 
旧字に戻してから音符とする字があるものの、これらの字は音符が分離できます。なお、星はさらに音符になります。
(2)まとまりがあって切り離せない字は以下の19字です。
旦・旧・旨・早・旬・昆・易・昔・春・是・昼・普・明・晶・暦・暴・曹・曽・替
 これらの字はほとんどが会意文字であり、このうち、旦・旨・早・旬・昆・易・昔・春・是・普・明・暦・暴・曹・曽の15字は音符となります。
(3)この他、便宜的に日部に含めている字に以下の2字があります。
 曲・更 なお、この2字も音符となります。

 以上、部首「日にち・ひへん」には、「日+音符」の形になるものが半数近い24字あるものの、字体に日を含むため、自身が音符となる15字が含まれています。さらに新たな特徴として、日とはまったく関連のない字体である、曲・更が含まれていることが分かります。これは他に適当な部首がないため、やむを得ず日部に含めているのです。こうした現象は画数の少ない部首になると、さらに頻繁に出現します。現在の部首は約220しかないため、ここに入らない字は無理にどこかへ当てはめなければならないのです。以下にさらに画数のすくない部首を点検してみます。

矛盾をかかえこんだ画数の小さい部首
 以下に画数の少ない部首に属する文字を分析してみます。ここでは常用漢字以外の文字も含めて考察します。
部首「一いち」の主な漢字
一:丁・七・三・上・下・丈・万・不・与・丙・世・且・丘・丞・両・並
 意味を表すのは一だけで、その他の字は中に一を含むため便宜的に入っています。また、これらの字は同時に音符になります。ところで最後の並はなぜ一部なのか、よくわかりません。
部首「二に」の主な漢字
二:互・五・亘・亜・井・云・些・于
 意味を表すのは二と些(二+音符「此」)だけで、残りは字体のなかに二が含まれているため便宜的に入っています。このうち、五・亘・亜・井・云・于は、音符になります。
部首「八はち」の主な漢字
八:共・兵・具・典・其・六・兼・公
 意味を表すのは八だけで、残りは字体のなかに八が含まれているため便宜的に入っています。このすべてが音符になります。
部首「十じゅう」の主な漢字
十:廿・協・博・午・卒・卓・升・千・半・卑・南
 十は数字の10の意味を表すのは廿(十がふたつ)、また、多い意で協・博があります。残りの午・卒・卓・升・千・半・卑・南は、字体のなかに十が含まれているため便宜的に入っています。これらの字は音符ともなります。
部首「亠なべぶた」の主な漢字
亠:亡・亢・亦・亥・交・京・享・亭・商・率
 亠(なべぶた)は、屋根を表すかたちが変化したもので、京・享・亭は建物を表しています(このうち、京・享は音符になります)。残りは字体のなかに亠が含まれているため便宜的に入っています。このうち亡・亢・亦・亥・交・率は、音符になります。
部首「儿ひとあし」の主な漢字
ジン:允イン・元・兄・光・充・先・兆・克・児・兎・禿・免・党
 儿は人の下部を表すことが多いので「ひとあし」と呼ばれます。この意味を持つのは、允・元・兄・光・充・先・克・児・禿・免・党で、二画の部首としては珍しく意味をあらわしています。残りの兆・兎は、字体に儿が含まれているため便宜的に入っています。また、儿部のすべての字が音符になります、。

 以上、1~2画の主な部首を見てきましたが、これらの部首は意味を表す意符として使われることは儿(ひとあし)を除いて非常にまれであることが分かります。実際は、どこにも行き場所のない漢字を無理にあてはめる、仮置き場として使われています。ところが、こうした仮置き場には音符として重要な役割を果たしている文字がたくさんあります。つまり音符のたまり場になっているのです。
 したがって部首は、(1)意味をあらわす意符としての役割に加え、(2)とくに画数のすくない部首は、分類しにくい音符のたまり場になっている、という二つの側面があることがわかります。

(2)音符とは何か
 漢字音符とは漢字を構成する要素のうち、発音を司っている部分をいいます。例えば、橋キョウという字を構成する喬キョウは橋の発音(声)を司っているので音符(声符)といい、音符(声符)を含む字を形声文字(声符によって形づくられる文字)といいます。
 私たちは音符というと、上記の喬キョウや、滴の啇テキ、昨の乍サクなど、特別な字を思い浮かべることが多いですが、漢字はすべて発音がありますので、どんな字も音符となる可能性があります。例えば、ある文字に、氵(水)をつければ、その文字の発音が名前となる川になります。こう考えると音符は特殊な字でなく、ごく普通の字でも手軽に音符として用いられる可能性があるのです。

部首が音符になる
 こう考えると部首になっている文字が音符として使われることがあるという現象もお分かりいただけると思います。約6400字を収録する山本康喬編著『漢字音符字典』(東京堂出版)には、952の音符が建てられていますが、そのうち、部首を兼ねている音符は160字あります。

     「漢字音符字典」の部首と音符を兼ねる字一覧 156字
 以下に画数順に紹介します。( )内は音符家族(その音符が含まれている漢字の数。会意を含む)です。
1画  乙(2)
2画  二(6)・人(5)・儿(2)・入(10)・八(2)・冫(3)・几(6)・刀(6)・力(6)・ヒ(3)・十(11)・卜(6)・厂(2)・ム(4)・又(3)
3画  口(5)・土(8)・士(2)・夕(3)・大(3)・女(7)・子(6)・寸(9)・小(2)・尸(2)・山(5)・川(7)・工(18)・己(9)・巾(3)・干(20)・幺(8)・彡(6)・弋(3)
4画  心(4)・戈(2)・戸(8)・手(2)・支(9)・攵(3)・文(8)・斗(3)・斤(14)・方(17)・日(3)・木(10)・欠(9)・止(10)・殳(7)・比(15)・毛(8)・氏(5)・气(4)・水(2)・火(7)・爪(4)・父(3)・爻(5)・爿(5)・牙(18)・牛(5)・犬(7)
5画  玄(10)・玉(2)・瓜(8)・甘(12)・生(7)・田(9)・疋(13)・白(18)・皮(16)・目(3)・矛(7)・矢(5)・石(11)・示(3)・禾(8)・穴(2)・立(2)・母(5)
6画  竹(5)・米(5)・糸(4)・羊(18)・羽(3)・老(2)・而(4)・耳(6)・聿(8)・肉(3)・自(3)・至(16)・臼(4)・舌(6)・舛(7)・艮(14)・色(2)・艸(5)・虫(5)・血(4)・行(4)・衣(3)
7画  臣(2)・見(9)・角(5)・言(6)・谷(9)・豆(8)・豕(4)・貝(11)・赤(5)・足(4)・車(5)・辛(5)・辰(10)・邑(2)・酉(2)・里(14)
8画  金(5)・長(8)・門(6)・阜(2)・隶(3)・隹(20)・雨(2)・青(29)・非(21)・斉(17) 
9画  面(5)・革(5)・韋(12)・韭(3)・音(6)・頁(2)・風(5)・食(5)・首(3)
10画  馬(6)・骨(6)・高(17)・鬯(2)・鬲(3)・鬼(12)
11画  魚(2)・鳥(7)・鹵(2)・鹿(7)・麻(12)・黄(5)・黒(6)・亀(2)
12画  歯(2)
13画  黽(7)・鼠(2)
16画  龍[竜](15)
17画  龠(3)
 この表を一覧すると、こんな文字まで部首だったのか、と驚くことと思います。私たちがよく使っている部首は50~60字ですから、違和感を覚えるのも無理はありません。
( )内は音符家族の字数です。以上の結果を、部首字の音符家族数のベスト25をつくり、先に作成した常用漢字の部首ベスト25と並べたのが以下の表です。しかし、この表は部首が常用漢字数であって、音符は約6400字を収録する「漢字音符字典」の音符であるので、もとになる漢字数が異なることをご了承ください。

部首別所属漢字数のベスト25と、部首字別音符家族数のベスト25
※部首の順位は常用漢字数による。音符での順位は「漢字音符字典」(約6400字)による。
    部首での順位               音符での順位
1位 氵(さんずい)  111字      1位 青セイ   29字
2位 イ(にんべん)   88字      2位 非ヒ    21字
3位 扌(てへん)    85字      3位 干カン   20字
4位 木(きへん)    85字      3位 隹スイ   20字
5位 口(くち)      70字      5位 牙ガ    18字
6位 言(ごんべん)   68字      5位 工コウ   18字
7位 糸(いとへん)   63字      5位 白ハク   18字
8位 辶(しんにゅう)   51字      5位 羊ヨウ   18字
9位 土(つち)       50字      9位 高コウ  17字
9位 月(つき・にく)    50字      9位 斉サイ  17字
11位 艹(くさかんむり) 46字      9位 方ホウ  17字
12位 日(にち・ひ)    45字       12位 至シ   16字
13位 心(こころ)     43字       12位 皮ヒ   16字
14位 宀(うかんむり)  36字      14位 比ヒ   15字
14位 女(おんな)    36字      14位 龍[竜]リュウ 15字
16位 貝(かい)      35字      16位 斤キン  14字
17位 忄(りっしんべん) 31字      16位 艮コン  14字
18位 金(かね)      31字      16位 里リ   14字
19位 阝(こざとへん)  30字      19位 疋ヒツ  13字
20位 刂(りっとう)    26字      19位 韋イ    12字
21位 竹(たけ)      25字      19位 鬼キ    12字
22位 力(ちから)     23字      19位 麻マ    12字
22位 禾(のぎへん)   23字      23位 十ジュウ  11字
24位 頁(おおがい)   22字      23位 石セキ   11字
25位 目(め)       20字      23位 貝バイ   11字 

 以上の結果から、部首の所属別漢字数の上位と部首字別の音符家族数の上位は、ほとんど重ならないことが分かります。部首の上位に属する字は、ほとんど部首専用に近いかたちで使われているのに対し、部首字で音符となる字は、ほとんど音符専用字として使われるからです。

 では、上位ベスト25で唯一重なっている貝の字について、その部首に属する字と、音符になる字を並べてその違いを見ましょう。
部首「貝かい」に属する常用漢字 36字  ( )内は音符。それ以外は一体的な字。
貝:貞・負・財(才)・貢(工)・貧(分)・貨(化)・販(反)・貪(今)・貫・責・
貯(宁)・貴・買・貸(代)・費(弗)・貼(占)・貿(卯)・賀(加)・賂(各)・
賃(任)・賄(有)・資(次)・賊(戎)・賓・賛[贊](兟シン)・賜(易)・賞(尚)・
賠(咅)・賢(臤)・賦(武)・質・賭(者)・購(冓)・贈(曽)

 部首「貝かい」には、「貝+音符」に属する字が26字あります。( )内はその音符です。
その他の8字(貞・負・貫・責・貴・買・質・賓)は、一体的な字(象形や会意)です。いずれの字も貝が財貨の意で含まれていますが、貞テイに含まれる貝は鼎(かなえ)の変形字であり例外です。なお、一体的な字の8字は音符にもなります。

「漢字音符字典」の音符「貝バイ」に属する字 11字
バイの音:貝バイ・買バイ・売[賣]バイ・唄バイ・狽バイ  ハイの音:敗ハイ
ヒ・ヒイの音(会意):贔ヒ・ヒイ  フの音(会意):負フ  キの音(会意):屓キ・屭キ
 貝はバイ・ハイの音で形声文字5字を作っています。また、会意文字となり、ヒ・ヒイ・フ・キの発音で会意文字4字を作ります。なお、買と負の2字が部首字と音符字の両方に出てきます。両字は一体化しており分離がむずかしいので貝部に入るとともに、買は発音がバイ(貝)であるため音符「貝」に属し、負は貝を含む会意文字として属しています。

まとめ
 部首は漢字のなかの意符(意味を表す符号)として抽出され、これが多くの漢字字典の配列の基準として使われた。しかし、すべての漢字を部首で仕分けしたため、画数のすくない部首には意符と無関係の文字がたくさん詰め込まれるという矛盾をかかえている。これら部首と無関係な文字の多くは音符である。
 一方、音符は漢字のなかの発音を表す符号として抽出された文字要素である。多くは部首と結びついて組合せ字となり、その文字の発音を表すが、時代の変化によって発音も変わるため、音符の発音変化も大きい。また、組み合わせによって異なった発音と意味に変化した会意文字は、厳密な意味で音符とは言えない。しかし、音符の多くが意符である部首にもなるように、これらは意味を持つ根源的な字であり、会意文字と形声文字を切り離して処理すべきではない。
 部首になる字と音符になる字は、漢字の根幹をなす根本的な字(字根)であり、これらの字根が、あるときは意味を受け持ち、あるときは発音を受け持って、きわめて柔軟に対応することにより多くの漢字が出来上がっているのではないだろうか。



 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

第4回漢字音符研究会のお知らせ

2017年06月30日 | 漢字音符研究会
            第4回漢字音符研究会のお知らせ

日 時 2017年7月8日(土) 10時30分~12時
会 場 喫茶ほっとはあと 京都市中京区西大路御池北西角  地下鉄東西線「西大路御池」下車すぐ
    http://www.kyoto-hotheart.jp/cafe/shops/oike/

講 師  石沢誠司氏  ブログ「漢字の音符」編集者
テーマ  部首と音符の関係について
 音符を簡単に説明する方法として「部首(偏など)を除いた残りの部分(旁つくりなど)が音符であることが多い」という言い方をします。この説明は多くの音符に当てはまります。ほとんどの音符が部首と組み合わさって形声文字、また会意文字を作るのが代表的な形です。
 しかし、音符と部首の関係を見てゆくと、(1)部首となる漢字も音符になったり、(2)音符にも必ず部首があるという関係があることが分かります。たとえば、部首となる山サン・センには、仙セン、疝セン・サンなど山が音符となる字があります。山本康喬編著『漢字音符字典』には、部首となる音符は横に印がついていますが、それを数えると166字になります。部首は約220ありますので、部首の75%が音符にもなっているわけです。
 また、音符にはかならず部首があります。これは、すべての漢字をいずれかの部首に組み込んでいるからです。このため多くの音符が、部首=意符とは無縁の肩身の狭い部首に押し込まれていますが、この点についても触れたいと思います。

参加費  300円(資料代を含む) ※飲み物は各自、別途注文してください。
参加申込  コピー資料作成の都合がありますので、事前に下記へお申し込みください。
          電話 072-627-0271(石沢誠司)
          メール seijiishizawa@yahoo.co.jp
  
 
        第5回予定
日 時 2017年9月9日(土) 10時30分~12時
会 場  喫茶ほっとはあと 京都市中京区西大路御池北西角  地下鉄東西線「西大路御池」下車すぐ
講 師  山本康喬氏  『漢字音符字典』著者・漢字教育士
テーマ  音符はどのように作られるのか。いつ生まれるのか。(仮題)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

漢字の分類(象形、指事、会意、形声、仮借)と音符  山本康喬

2017年05月19日 | 漢字音符研究会
第3回音符研究会 2017年5月13日    

テーマ  漢字の分類(象形、指事、会意、形声、仮借)と音符 
              ~音符は六書のどこから来ているのか~
講 師   山本康喬  『漢字音符字典』著者・漢字教育士

 私は漢字を音符で分類して、漢字の持つ問題点 すなわちその習得が大変困難である事を 解決する方法を開発したいと考えて活動しています。まず、漢字そのものを分類するものとして六書があります。その六書について実態を解明します。

1、六書とは
 紀元100年に許慎が「説文解字」を著し、そのなかで漢字が作られた方法を説き、六書を初めて紹介しました。
それは 象形 指事 会意 形声 転注 仮借です。それぞれの定義は後でのべますが、まず常用漢字(2136字)を六書で分類してみます。

   常用漢字(2136字)の六書別一覧
 六 書    字数    比率      備    考
 象 形   265字  12・4%  日 月 山 川 田 木 鳥 魚 九 など
 指 事    10字   0・5%  一 二 三 八 十 百 上 下 本 末 など
 会 意   530字  24・6%  解 安 定 家 官 など
 形 声  1312字  61・4%  江 河 など (字数がアップすると比率アップ)
 仮 借    13字   0・6%  四 五 六 七 我 今 昔 東 西 不 無 など 
 転 注 ?  なし          定義がハッキリせず不明
 国 字     6字   0・3%  込 峠 栃 匂 畑 枠
 合 計  2136字   100%

 最初に作られた漢字が象形文字です。目に見えるものの形をヒントに作られました。また、指事文字も少し遅れてですが同時に作られました。抽象的な概念を表す工夫をしました。次に作られたのが、二つ以上の字を組み合わせて作られた会意と形声字です。
 会意文字は二つ以上の字形を組み合わせ、その意味のまとまりから新たな意味を表した字です。牛と角に刀で解く、解剖するという意味を表します。この方法により多くの意味を表す字が工夫されました。会意文字は特に制約や規則は有りません。自由に組み合わせたらよいのです。その字の音も任意に決められました。音を決める方法や根拠は全く不明なので、音を推測する手がかりすらなく、学習する上で最も厄介です。解は会意文字の代表です。カイという音は牛、角、刀のどの音とも異なるので、兎に角憶えるのみです。

 形声文字は字形と音を表す音符と、字の意味の範疇を表す意符(部首)とを組み合わせて作られました。字が作られるはるか以前から身の回りのものは、呼び名がありました。この呼び名を表す音を持つ音符と部首を組み合わせると、誰にもわかりやすく、しかも呼び名をそのまま発音とする文字が出来ました。合理的な方法で作られたので、以後の漢字の主流となりました。
 形声文字は音符の音を用います。また字形も音符の字形が遺伝子のごとく引き継がれます。一つの音符から生まれた形声文字は、学習し記憶するのに便利であり、脳内に漢字を記憶し保持しておくのに基本の体系をなすので、多数の漢字を整理して記憶する手段として有用です。 常用漢字では形声文字が全体の61%、会意文字が26%を占めています。

 次に字を作る方法の一つに仮借があります。目に見えない抽象的な概念を表す方法として、既にある文字を借り、字形と音は同じですが、意味は抽象的な概念を表す字としました。形と音を他の字から借用するので仮借と名付けています。どういう字が仮借なのか、備考欄の字を憶えて下さい。
 その他に、わが国で作られた国字があります。訓のみで音はありません。これも数少ないので憶えてください。音は無いので音符で分類する方法では枠外の字です。転注は未だ何を表すのか不明の方法です。
 
2、音符と意符
 六書とは別に、漢字の働きを表す言葉に音符と意符(部首)というのがあります。皆さんは漢字を憶える際に部首を学びますので、大抵の漢字の部首は知っていますね。しかし、漢字の世界では意符という言葉がより正確に表現できるので用いられますが、大部分は部首と同じと思って下さい。

 音符という言葉は最近、私の「漢字音符字典」で用いましたので、少しは知られるようになりました。少し昔は音記号や声符とか、「声は」などと呼ばれ、学者先生により呼び方が違うことがありました。最近では大部分の先生が音符と呼んでいます。また数年前ぐらいから中学の国語教科書で音符の説明が載っています。しかし、ほとんどの大人は音符について学んでいません。馴染みがない言葉ですが、漢字を学ぶには今後非常に有用になるので要注意です。
 ここで1級対象漢字6445字(JIS第1、第2水準)の六書分類を見てみましょう。字数の( )内は常用漢字です。

    1級対象漢字6445字の六書別一覧
  六 書    字 数          比率  
  象 形   463字( 265字)  7・2%
  指 事    11字(  10字)  0・2%
  会 意   866字( 530字) 13・4%
  形 声  4934字(1312字) 76・5%
  仮 借    15字(  13字)  0・2%
  国 字   156字(   6字)  2・4%
  合 計  6445字(2136字)  100%

 字数を約3倍まで広げて六書別の字数を見てみると、象形文字は1・75倍で字数はあまり増加していません。象形文字はあまり作られておらず、その増加には限界があります。また、会意文字も1・6倍であり、象形文字と同じようにあまり増加していません。指事文字・仮借に至っては1~2字の増加にとどまり、ほとんど変わりません。
 一方形声文字は3・8倍となり、文字数の増加の割合(3倍)より更に多くなり、比率も76%を超えました。1万字以上の辞書で見てみると、形声字が80%を超えています。形声文字は意符と音符の組み合わせで作られるので、形声文字が3・8倍にもなったということは、音符の数が急増していることにほかなりません。
 なお、ここで注目すべきは国字の増加で26倍です。国字は日本で作られた字ですので音を持ちませから六書の範囲外になっていますが、ほとんどは会意の原理で作られていますので、国訓をもつ会意文字といえます。

3、音符とは何か、どこから来たか
 そこで、形声文字の増加を支えている音符とは何なのか、どこから来るのか考えてみましょう。 
 私の「漢字音符字典」で会意文字の見本といわれる 解 の字を引いてみましょう。

<音符> 解カイ・とく
 <形声文字> 廨カイ・役所  懈カイ・ケ・怠る  邂カイ・あう  蟹カイ・かに

 会意文字である解は、4個の形声文字において立派に音符として機能しています。会意文字が音符になったのです。
 また 連 の字も会意文字ですが、
<音符> 連レン・つらなる
 <形声文字> 蓮レン・はす  漣レン・さざなみ  縺レン・もつれ  鏈レン・くさり

 同様に会意文字の連は、4個の形声文字において音符の役割を果しています。

 このようにどんな字も、また文字要素であっても別の形声文字で音符としての働きをしている限り、音符になり得るのです。音符を持たない字から音符そのものに変身したのです。会意字として生まれた字が、音符という新たな機能を担った字に転換したのです。非表音字が表音文字に転化したともいえます。
 ここで1級対象漢字6445字を収録している「漢字音符字典」において音符となっている字の六書を調べました。

    漢字音符字典(6445字)の六書別音符数
  六 書    字数     比率   音符数 
  象 形   463字   7・2%   437字   
  指 事    11字   0・2%     7字 
  会 意   866字  13・4%   516字   
  形 声  4934字  76・5%   207字  
  仮 借    15字   0・2%    10字  
  国 字   156字   2・4%     0   
  合 計  6445字   100%  1177字  

 調べてみますと象形文字の内437字、会意文字の内516字が、見事に音符に変身しているのです。一つの音符を持たない字が音符そのものに変身して、新たな形声文字の誕生に貢献しているのです。漢字音符字典の1177字ほどの音符の内953字程は象形と会意字でした。象形文字は大部分が音符に転換しています。会意文字は60%ほどが音符に転換しています。音符を含んでいる形声文字も、さらにその一部が音符に転換しています。

 解や連は会意文字であると同時に音符なのです。音符かどうかを確かめるには、他の同じ音の漢字において音符の役割を果たしているかどうかです。一つでも形声文字があれば音符です。一般に一つの音符はせいぜい10数個程度の形声文字を作ります。同じ音の字はそう沢山は存在できないのです。

4、音符にならない字の扱い
 以上の分析により、六書分類された字のうち多くが音符となっていることが明らかになりました。では、音符と無関係な字とは、どんな字なのでしょうか?以下は「漢字音符字典」(1級対象漢字6445字)の音符以外の字を六書別に表にしたものです。

   漢字音符字典(1級対象漢字6445字)の音符以外の字(六書別)
  六 書    字数    比率    音符字   音符以外の字 
  象 形   463字   7・2%   437字     26字
  指 事    11字   0・2%     7字      4字
  会 意   866字  13・4%   516字    350字
  形 声  4934字  76・5%   207字   4727字
  仮 借    15字   0・2%    10字      5字
  国 字   156字   2・4%     0      156字
  合 計  6445字   100%  1177字   5268字(541)

 音符以外の字は、象形文字で26字、指事文字4字、会意文字350字、仮借文字5字、国字156字の合計541字あります。音符以外の字とは、音符と結びつきのない言わば孤独な字です。これらの541字は全体の8.3%になります。(なお、音符以外の字のうち形声文字は4727字ありますが、この字にはすでに音符が含まれていますので省きます。)
 私の「漢字音符字典」では、このうち会意文字については音符と字形が同じものは、便宜的にその音符に含めています。例えば、災サイは「巛(川)+火」の会意字ですが、音符「川セン」に含めています。これにより音符「川セン」には異質の発音であるサイが含まれています。
 同じように会意文字の原理からなる国字は、参考のためその字形を含む音符に含めています。例えば、音符「入ニュウ」には、込こ(む)・叺かます・魞えり・鳰にお、などです。あくまでも参考ですから色の薄いグレーの字にしています。(ただし、常用漢字は赤、準1級字は黒です)

 こうした処理により、音符と無関係の字は37字となり巻末に1級対象漢字として50音別に排列しています。また、国字は各音符にグレーの文字(ただし、常用漢字は赤、準1級字は黒)で挿入していますが、巻末に1級対象国字として107字を訓読みの50音順に排列しています。
 これらの方法は純粋な音符の視点から外れますが、音符と結びつきのない字を、できるだけ音符と関連づけることにより漢字の習得を容易にしたいと思うからです。将来的に、こうした字については音符グループのなかで、六書の所属を個別に明示したいと考えています。

5、終わりに~会意字と形声字の見分けについて
 本文の中で常用漢字および1級対象漢字(JIS第1、第2水準)の六書ごとの一覧表を掲載しました。この表を作成するにあたり最も厄介だったのは会意字と形声字の区分です。未だに、一部の字でその明確な区別がつきません。辞書別に相違がありどちらが真実なのかの判定がつかないからです。判断がつきにくい字については各辞書を参考にしたうえで独自に決めさせていただきました。極端に言えば学者先生の数だけ相違があり、いちいち対応しきれないと感じたからです。したがって一覧表の六書ごとの数字は必ずしも確定されたものでなく、今後、変動する可能性があることをお断りしておきます。
 これからも少しでも両者の正確な区別に努めますが、漢字を勉強する多くの方々にとって、ほんの一部の会意と形声の区別がそれほど重要だとは思いません。それより、漢字の習得が困難であるという問題を音符による学習で克服できる可能性を大事にしてゆきたいのです。   



コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

第3回漢字音符研究会のお知らせ

2017年05月01日 | 漢字音符研究会
            第3回漢字音符研究会のお知らせ

日 時 2017年5月13日(土) 10時30分~12時
会 場 喫茶ほっとはあと 京都市中京区西大路御池北西角  地下鉄東西線「西大路御池」下車すぐ
    http://www.kyoto-hotheart.jp/cafe/shops/oike/

講 師  山本康喬氏  『漢字音符字典』著者・漢字教育士
テーマ  六書(象形・指示・会意・形声・仮借・転注)と音符の関係

 私は漢字を音符で分類して、漢字の持つ問題点(すなわちその習得が大変困難である事)を解決する方法を開発したいと考えて活動しています。
 漢字そのものを分類するものとして六書があります。六書とは、象形・指示・会意・形声・仮借・転注で、漢字の成り立ちの原理です。一方、私が漢字習得に役立つものとして提唱する音符は、六書とは別の系列の原理です。
 音符とは何なのか、どこからきたのか、どのくらいの数の音符があるのか。などを六書とのかかわりの中で説明してその本質に迫りたいと思います。ただし音符についての資料文献が少ないので十分な調査ができるかどうか、がんばります。

参加費  300円(資料代を含む) ※飲み物は各自、別途注文してください。
参加申込  コピー資料作成の都合がありますので、事前に下記へお申し込みください。
          電話 072-627-0271(石沢誠司)
          メール seijiishizawa@yahoo.co.jp
  
 

   第4回予定
日 時 2017年7月8日(土) 10時30分~12時
会 場 喫茶ほっとはあと 京都市中京区西大路御池北西角  地下鉄東西線「西大路御池」下車すぐ
講 師  石沢誠司氏  ブログ「漢字の音符」編集者
テーマ  部首と音符の関係について
 音符を簡単に説明する方法として「部首(偏など)を除いた残りの部分(旁つくりなど)が音符であることが多い」という言い方をします。この説明は多くの音符に当てはまります。ほとんどの音符が部首と組み合わさって形声文字、また会意文字を作るのが代表的な形です。
 しかし、音符と部首の関係を見てゆくと、(1)部首となる漢字も音符になったり、(2)音符にも必ず部首があるという関係があることが分かります。たとえば、部首となる山サン・センには、仙セン、疝セン・サンなど山が音符となる字があります。山本康喬編著『漢字音符字典』には、部首となる音符は横に印がついていますが、それを数えると166字になります。部首は約220ありますので、部首の75%が音符にもなっているわけです。
 また、音符にはかならず部首があります。これは、すべての漢字をいずれかの部首に組み込んでいるからです。このため多くの音符が、部首=意符とは無縁の肩身の狭い部首に押し込まれていますが、この点についても触れたいと思います。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

中国の漢字音符辞典『学生識字快車』について

2017年03月16日 | 漢字音符研究会
第2回漢字音符研究会(2017年3月11日)

テーマ 中国の漢字音符辞典『学生識字快車』について
発表者 石沢誠司  ブログ「漢字の音符」編集者

はじめに
 私は2013年に『日中対照 早わかり簡体字字典』を出版した。この本を『中国語を歩く  辞書と街角の考現学』の著者・荒川清秀先生に贈呈したところ、先生からお礼の手紙をいただき、その中に「中国にも同じような本があります」との情報をいただいた。その本が『学生识字快车(学生識字快車)』2003年刊である。
 『学生识字快车(学生識字快車)』
 さっそく中国語の本を専門に取り扱う書店を通じてこの本を入手することができた。本の題名「学生識字快車」を訳すと「学生が文字を識る急行列車」だから、いわば「学生版早わかり簡体字字典」ということになる。この本は日本で音符または声符とよばれる字を「字根」と名付け、この字体を含む字を集め、字族として一覧表にしている。これは山本康喬氏が2007年に出版した『漢字音符字典』と字の排列および内容が非常によく似た本である。どちらも音符(=字根)を基準に文字を排列しているからである。

一冊の画期的な字典の存在が『学生識字快車』を誕生させた
 さて、この書の紹介にあたり、事前に紹介しておくべき1冊の本『倒序現代漢語字典』がある。この本は『学生識字快車』の序文によると、同書刊行の1年前に発行され、この画期的な字典の誕生が生み出したの成果のうえに『学生識字快車』が出来上がったという。そこで、まず『倒序現代漢語字典』を先に紹介し、続いて『学生識字快車』について論ずることにしたい。
 これらの二書とも中国漢字の発音をアルファベットで表記するピンインという表記方法を用いているので、まず、中国語の音節構造とピンインについて簡単に紹介したい。

Ⅰ中国語の音節構造
 中国語はすべて漢字で表されるので、一つの漢字は一つのまとまりを持った発音となっている。したがってその発音は、口から出るときの最小単位であって、これを音節という。
 中国語は一音節からなる語(1音節1漢字)が続く言語で、音節の数は約400、これに4つある声調(高低アクセント)の4を掛けると1600だが、すべてに4つの声調がないものもあり、約1200の音節となる。[※日本語は基本的音節が約100]

音節の実際の例
  山    本     康    乔[喬]   漢字表記 4文字
  shān    běn    kāng   qiáo     中国語ピンイン表記 4音節
 や・ま   も・と  や・す  た・か    日本語かな表記 8音節 
 ya-ma   mo-to  ya-su   ta-ka    日本語アルファベット表記 8音節
※中国語は4つの漢字であり4音節となる。日本語のかな表記およびアルファベット表記は8音節となる。

上記4文字の中国語音節(音韻)は短い横線(-)で区切った二つの部分に分けることができる。
 sh-ān(山)  b-ěn(本)  k-āng(康)  q -iáo(喬)
(1) 最初の sh  b  k  q を、頭子音という(中国では声母という)。
(2) 頭子音につづく ān  ěn  āng  iáo を韻母という。
(3) 韻母はすべて揃った形を「M+V+E / T」で表す。
  Mは介音カイオン(中間母音Medial )で、ここでは喬(乔)の i をいう。
  Vは主母音(Vowel)で、4字の ā ě ā á をいう。
  Eは尾音(Ending)で、康の ng 、喬(乔)の o をいう。
  Tは声調(Tone)で、主母音Vの上につく記号。(āは第1声、áは第2声、ǎは第3声、àは第4声)
 ※以上の音素のうち、主母音(V)は必ずあるが、他の音素はない場合がある。
  ピンインで表した場合、最小の音節は1字(例:餓è)、最大の音節文字数は6字(例:床chuáng)となる。

Ⅱ 『倒序現代漢語字典』(逆引き現代漢語字典)について
 以上の中国語音節構造をふまえ、『倒序現代漢語字典』の説明をしてゆきたい。
 『倒序現代漢語字典』
 中国では1956年に「漢字簡化法案」が公布され漢字の簡略化が順次実施された。そして1964年に発行された簡体字使用の基準「略字総表」に基いて簡体字がすっかり定着している。
 一方、漢字の発音をアルファベットで表記する「漢字ピンイン方案」が1958年に制定された。当初は初めて中国語を学ぶ小学生や外国人向けに使われていたが、情報技術の進歩により、アルファベット処理したデータが自由に加工や組み合わせができるようになった。文章の入力・加工・保存をパソコンで行うようになり、漢語の字典もコンピュータで編集されるようになると、新しい検索方法が考えだされた。
 長い間漢字情報技術の研究と実践に従事してきた著名な語言編纂学者である梁興哲氏は、ピンインを逆向きに編集した字典を作れば、全く新しい漢字検索方法になるのでは、と思いついて漢字逆引き字典である「倒序現代漢語字典」を2002年に出版した。興哲編創、商務印書館国際有限公司発行。680ページ。48.00元。

その方式は
(1) 韻母の最後のアルファベット表記が、 a e g i m n o r u の9文字しかないことを見つけ、この順番で音節を排列する。a の次は ba da fa cha sha zha …のように音節をピンインの逆向き順に漢字を排列した。
 これにより、例えば an の場合、続いて ban can dan fan gan han …のように排列されるので、語尾音が同じものが連続して並ぶ特徴がある。以下が索引の第1ページである。韻母が白抜き文字で表されている。

(2) 本文ページの左右外側に現在、9文字のどの文字を検索しているか分かるように該当する文字を白抜きにした。
(3) 逆向き音節のピンインを6つのタテ線区画に右詰めで表示し、該当の韻母を白抜きにした。
(4) 音節が変わる区切りに、その音節の漢字一覧表をつけて、わかりやすくした。
(5) さらに、同じ音節一覧表の中から同形の音符(字根と表現)を選び、他の発音の字も加えた「識字快車(早わかり識字)」を作成・配置した。(これが後の「学生識字快車」に発展する)
 以下は、中(zhong)の左ページと、右ページである。zhongの先頭に、この韻母に属する文字を声調別に一覧表にし、さらにこの中から、中と重を選んで、同形で発音の違う字を集め「識字快車」の欄を設けている。
中(zhong)の左ページ
中(zhong)の右ページ
その効果と限界
(1) 引き方が慣れれば、通常の辞書より速く引ける。また、「識字快車」により発音の異なる同形文字もすばやく引ける。
(2) 発売してまもなく電子辞書が急速に普及し、1字の検索だけでなく2字連続の音節も簡単に(むしろ1字より速く)検索できるようになったので、利点が薄れた。
(3) 逆向き配列は韻母の同じ字が前後にそろうということを人々に気付かせた。

Ⅲ『学生識字快車(学生早わかり字典)』の出版
 2002年に出版された『倒序現代漢語字典』のなかの「識字快車」の表を拡充した字典『学生識字快車』が、翌年の2003年に出版された。梁興哲編創、商務印書館国際有限公司発行。39.80元。本文766ページ、索引他147ページ、全体で913ページ。900ページを超えるこの字典は、中国人および世界中の中国語学習者が素早くまた効率的に漢字を学ぶための書として刊行された。
 900ページを超える『学生識字快車』
「学生識字快車」の内容
・音符を字根と名付け、974字の字根を選びその字族ごとに表にしている。収録した漢字数は約7000字である。
・字根の排列は、字根のピンイン順とし、字根表の中の漢字排列は、「倒序現代漢語字典」で採用したピンインの逆向き配列にしている。
・字族表の表外に、収録した漢字ごとに、ピンイン、部首、画数と筆画順をつけ、漢字の簡単な説明をして学習者の便宜をはかっている。
・索引として、収録した全漢字のピンイン索引、部首索引がつく。
以下は、字根「宗」とその字族のページである。

「学生識字快車」の評価
良い点
(1) 字根として同形の音符をまとめてあるため、この本をみると同形の音符がついた字とその発音がすぐに分かり便利である。
(2) 表外の漢字説明で、その漢字の概要が分かる。
欠点
(1) すべて簡体字の字体で統一しており、繁体字との繋がりが分からない。簡体字は当て字が多いため、字相互の関連が薄いものが多くある。例えば、字根「又ヨウ」は、本来なら音符「又ヨウ」に属する友ユウ・馭ギョ、を含むだけのはずある。ところが、簡体字では漢⇒汉、戯⇒戏、鶏⇒鸡、歓⇒欢など偏や旁が又に変わる略字が多く、これらも含まれるので又字族は非常に多くなる。
(2) そのため、発音の変化も多様な字根が多いので、覚えにくい。
以下は、「学生識字快車」の又族のページと、「早わかり簡体字字典」の音符「又ユウ」のページ。快車の又族のページは、当て字の文字を含むので15文字の発音がすべてバラバラになっている。それに対し「早わかり簡体字字典」の音符「又ユウ」は3文字のみだが、表の下に又を略字に使用した文字を注記し、そのページを案内している。
「学生識字快車」の又族のページ
「早わかり簡体字字典」の「又ユウ」のページ

音符(声符)を字根と表現したことについて
 音符を字根と表現したことについては、意義のあることだと思われる。
(1) 音符と表現すると、厳密には形声文字だけを音符家族に含めることになり、同じ音符を含む会意文字は含まない。しかし、字根とすることで、形声・会意文字の両方を含むことができる。
(2) 音符は音に関係するだけでなく、意味にも関係するので、音符を含む会意文字を形声文字と一体的にまとめることは、漢字学習に必要なことである。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

石沢誠司 「人の姿の音符 Ⅰ」

2017年03月08日 | 漢字音符研究会
 このブログに掲載した音符から、「人の姿の音符1」として冊子にまとめてみました。ご覧いただき感想やご意見などを「コメント」に御寄せいただければと思います。以下は目次です。



本文はここをクリックしてください。











コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

第2回漢字音符研究会のお知らせ

2017年02月25日 | 漢字音符研究会
           第2回漢字音符研究会のお知らせ

日 時 2017年3月11日(土) 10時30分~12時
会 場 喫茶ほっとはあと 京都市中京区西大路御池北西角  地下鉄東西線「西大路御池」下車すぐ
    http://www.kyoto-hotheart.jp/cafe/shops/oike/

講 師  石沢誠司氏  ブログ「漢字の音符」編集者
テーマ  「中国の漢字音符辞典『学生識字快車』について」
 「学生识字快车(学生識字快車)」
 中国では2004年に漢字音符字典である『学生识字快车(学生識字快車)』が刊行されています。題名を訳すと「学生が文字を識る急行列車」ですから、いわば「学生版早わかり簡体字字典」といえましょう。ページをめくると、同じ文字要素を一つに集めて、その要素を字根と名付け一覧表にし、表の下に簡単に各文字の説明をしています。字根は日本では音符または声符とよばれるものと一緒ですが、現代中国の簡体字は、文字に大胆な省略や改変をしていますので、文字要素を抜き出すと音符だけがそろうことになりません。
 例えば簡体字では、漢⇒汉 権⇒权 鶏⇒鸡 戯⇒戏 のように異なる音符を又に置き換えた文字が多いので、字根「又you・ユウ」の部には、本来の友you・ユウのほかに、汉han・权quan・鸡ji・戏xiなどが含まれるため、発音がそろわないことが多いのです。このため、音符や声符という代わりに字根という言葉を用いているのではないかと思われます。
 しかし、「字根」という言葉は、さらに考察すると音符や声符を越えた、もっと深い意味を表す単語として興味深いものです。今回は、中国の『学生識字快車』を紹介するとともに、字根と名付けられた文字の本質を探ります。
参加費  300円(資料代を含む) ※飲み物は各自、別途注文してください。
参加申込  資料作成の都合がありますので、事前に下記へお申し込みください。
          電話 072-627-0271(石沢誠司)  
         

     第3回予定
日 時 2017年5月13日(土) 10時30分~12時
会 場 喫茶ほっとはあと 京都市中京区西大路御池北西角  地下鉄東西線「西大路御池」下車すぐ
講 師  山本康喬氏  『漢字音符字典』著者・漢字教育士
テーマ  六書(象形・指示・会意・形声・仮借・転注)と音符の関係

 私は漢字を音符で分類して、漢字の持つ問題点(すなわちその習得が大変困難である事)を解決する方法を開発したいと考えて活動しています。
 漢字そのものを分類するものとして六書があります。六書とは、象形・指示・会意・形声・仮借・転注で、漢字の成り立ちの原理です。一方、私が漢字習得に役立つものとして提唱する音符は、六書とは別の系列の原理です。
音符とは何なのか、どこからきたのか、どのくらいの数の音符があるのか。などを説明してその本質に迫りたいと思います。ただし音符についての資料文献が少ないので十分な調査ができるかどうか、がんばります。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

形声文字と音符 山本康喬

2017年01月30日 | 漢字音符研究会
    形声文字と音符
                       山本康喬  『漢字音符字典』著者・漢字教育士
 
 私は漢検1級の対象字である約6500字を音符別に分類した『漢字音符字典』を2007年に刊行しました。おかげさまで、この本は漢検受験者から好評をもって迎えられ、2012年には東京堂出版から改訂増補版を出しています。


(1)音符は形声文字か
 この本が皆様に受け入れられるにつれ、私は音符について多くの質問を受けるようになりました。ひとつは「形声文字と音符の関係」についてです。形声文字とは「意味を表す意符と、発音を表す音符(声符)を組み合わせて、新しくできた文字」をいいます。質問のひとつは「音符は形声文字か?」というものです。まず、それについてお答いたします。

 形声文字と音符の関係は、式に表すと「形声文字=意符(多くは部首)+音符」という関係式になります。例えば、音符「采サイ」を含む形声字は以下のようになります。
<音符> 采サイ・つみとる・いろどり
<形声文字>
 サイ:彩サイ・いろどる 採サイ・とる 菜サイ・やさい 綵サイ・あやぎぬ

 ここで音符「采サイ」は、自身の発音と意味をもっていますが、さらに意符(部首)と結合して形声文字:彩サイ・採サイ・菜サイ・綵サイ、を作り、そのなかで発音を表す音符となっており、発音は全部「サイ」です。では、采サイは形声文字なのでしょうか。上の式によれば、采サイは意符がゼロの状態です。形声文字とは意符を含んだ状態をいう文字ですから、意符がない文字は形声文字ではありません。ですから采サイは形声文字ではありません。しかし音符は形声文字の核心をなす文字であり、同じ音符を含む形声字(彩サイ・採サイ・菜サイ・綵サイ)は、その音符家族になります。

 もうひとつ例をあげます。音符「兆チョウ」です。
<音符> 兆チョウ・きざす・数の単位
<形声文字>
 チョウ:挑チョウ・いどむ 眺チョウ・ながめ 跳チョウ・はねる 佻チョウ・かるがるしい 晁チョウ・あさ・夜明け 窕チョウ・おくぶかい 誂チョウ・あつらえる 銚チョウ・鋤・釣り手のついた鍋
 トウ:逃トウ・にげる 桃トウ・もも
 ヨウ:姚ヨウ・美しい
 音符「兆チョウ」は自身の発音「チョウ」と意味「きざす・数の単位」をもっていますが、意符(部首)と組み合わさって形声文字を作っています。その発音は、チョウ・トウ・ヨウの3種類に分かれています。この発音分化は、トウはタ行の音韻変化から、ヨウはチョウ(tyou)からtが欠落してヨウ(you)になったと考えられます。音符「兆チョウ」は、3種類の発音をもつ11の形声文字からなる音符家族を形成しています。

形声文字が音符になる場合
 ここまで「音符は形声文字ではない」と言ってきました。そのとおりですが、実は形声文字自体が音符になることがあります。私の『漢字音符字典』から、その例を一つあげますと、音符「至シ」がそれです。

<音符> 至シ・いたる
<形声文字>
 シ・シツ:鵄シ・とび 室シツ・へや 桎シツ・足かせ 蛭シツ・テツ・ひる
  :チ・いたす 緻チ・こまかい 輊チ・車の前が重く下がっている
 チツチツ・ふさぐ 膣チツ・女性器官
 テツ:姪テツ・めい 咥テツ・キ・くわえる 垤テツ・ありづか 耋テツ・老人・八十歳
 トウトウ・いたる 倒トウ・たおれる

 ここで、音符「至シ」は、シ・シツ・チ・チツ・テツ・トウの6つの発音に分かれて16字を形成しています。このうち、シツ・チ・チツ・テツ・トウは辞典によって①会意説と②形声説がありますが、②の説が多いので形声文字と見なします。(ただし、到トウは刂(刀トウ)の形声文字とする説が有力)
 このうち、致チと窒チツは至シの形声文字ですが、さらに形声文字の緻チ・膣チツの音符になっています。また、到トウは、さらに形声文字・倒トウの音符になっています。
 ですから、致チ・窒チツ・到トウは、音符自身が形声文字であり、かつ新たな形声文字を作っているわけです。しかし、この場合でも致チ・窒チツ・到トウは、緻チ・膣チツ・倒トウに対しては音符であって、これらの文字と同格の形声文字ではありません。私は、こうした例を致チ・窒チツは至シが親音符に対して子音符と呼んでいます。本来なら、致チ・窒チツ・到トウは独立させて別の音符とするべきですが、音符「至」との関係がわかるように便宜的に一緒に配列しています。

(2)音符にならない字とは
 では逆に音符にならない字について考えてみましょう。『漢字音符字典』から、「車シャ」をとりあげてみます。

<音符> 車シャ・くるま
<形声文字> なし
<会意文字1> 陣ジン・チン・戦の備え 庫コ・ク・くら 轟ゴウ・とどろく 輦レン・こし・てぐるま 
<会意文字2(音符となる)> 軍グン・いくさ・兵士の集団 斬ザン・刃物で切る 連レン・つらなる

 車シャは、くるまを描いた象形文字です。部首「車くるま・くるまへん」になり、軋アツ・軌・軒ケン・転テン・軟ナン・軸ジク・軽ケイ・較カク・轄カツ・載サイ・輝・輟テツ・輩ハイ・輓バン・輔・輛リョウ・輪リン・轢レキ・轆ロク・輸・輿(以上が形声文字)、軍グン・轟ゴウ・輦レン・轡(以上が会意文字)などの形声文字や会意文字をつくります。
 しかし、発音の「シャ」を継承する形声文字を作りません。したがって車は音符になりません。一方、部首に属する字から分かるように、車は他の文字とむすびついて会意文字を作ります。これらの会意文字などから音符が誕生していますので便宜的に音符「車シャ」を建てています。
 音符「車シャ」の<会意文字2> 軍グン 斬ザン 連レンは、音符となって多くの形声文字をつくります。以下に紹介します。

<音符> 軍グン・いくさ・兵士の集団
<形声文字>
 グン・クン:葷クン・においの強い野菜 皹クン・ひび・あかぎれ 
 ウン:運ウン・はこぶ 暈ウン・かさ・めまい 
 コン:渾コン・すべて・にごる 褌コン・ふんどし 諢コン・たわむれる 鶤コン・しゃも
  :揮キ・ふるう 暉キ・ひかり・かがやく
 音符「軍グン」の音韻変化は、①濁音グン⇒清音クンへの変化。②グンが属するカ行音(コン・キ)への変化。③グン(gun)のgが欠落しウン(un)となる変化、によると考えられます。

<音符> 斬ザン・刃物で切る
<形声文字>
 ザン:暫ザン・しばらく 塹ザン・ほり 嶄ザン・サン・山が高くけわしい 慙ザン・はじる 槧ザン・ふだ・版木 鏨ザン・サン・たがね・彫る 漸ゼン・ザン・ようやく・進む
 音符「斬ザン」は、すべての発音がザンで揃っています。

<音符> 連レン・つらなる
<形成文字> 蓮レン・はす 漣レン・さざなみ 縺レン・もつれる 鏈レン・くさり
 音符「連レン」は、すべての発音がレンで揃っています。

 以上、車シャは象形文字であり主に部首に用いられ、会意文字は作りますが、単独では音符にならず、形声文字はありません。これと似た字には、月ゲツ・つき 火カ・ひ 牛ギュウ・ゴ・うし 言ゲン・ゴン・いう・ことば 糸[絲]シ・いと 欠ケン・あくび 、などがあります。これらの字は、ほとんど主要な象形文字であり、意味をあらわすのが中心で部首にはなるが、音符になりにくいのが特徴です。

終わりに
 形声文字と音符との関係について説明し、さらに音符にならない字として車を例にあげ、車は音符にならないが、車の会意字が音符となることを説明しました。音符とは、結合を繰り返して増えてゆく漢字の中にあって、発音を表す部分であるのみでなく、結合の結果できた文字もまた音符になるという変幻自在の存在でもあるのです。

コメント (6)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

漢字音符研究会 第1回例会のお知らせ

2017年01月01日 | 漢字音符研究会
          漢字音符研究会 第1回例会のお知らせ

漢字音符をテーマにワイワイがやがや意見を出し合う研究会を立ち上げました。興味のある方は、お気軽にご出席ください。

日 時  2017年1月14日(土)10時30分~12時
会 場  喫茶ほっとはあと 京都市中京区西大路御池北西角  地下鉄東西線「西大路御池」下車すぐ
           http://www.kyoto-hotheart.jp/cafe/shops/oike/

講 師   山本康喬氏  『漢字音符字典』著者・漢字教育士
テーマ  「漢字音符字典の947音符と形声文字について」
 「漢字音符字典」
 私は漢検1級の対象字である約6500字を音符別に分類した『漢字音符字典』を2007年に刊行しました。おかげさまで、この本は漢検受験者から好評をもって迎えられ、2012年には改訂増補版を出しています。
 この本が皆様に受け入れられるにつれ、私は音符について多くの質問を受けるようになりました。ひとつは「形声文字と音符の関係」についてです。形声文字とは「意味を表す意符と発音を表す音符を組み合わせて、新しくできた漢字」をいいます。では、形声文字を構成している音符自身は形声文字なのでしょうか。音符と形声文字の関係は、部首と、その部首に属する字の関係に似ています。音符の成り立ち(象形・会意)と、形声文字との関係を説明させていただきます。
 二つ目は、「音符を持たない漢字はあるのか」という質問です。上の定義でいうと形声文字以外は音符をもちません。では、形声以外の文字は音符をもっていないのでしょうか。それらの文字は、いずれも発音をもちます。では、その発音を表しているのは何なのでしょうか。これらの文字と音符との関係はどうなっているのでしょうか。こういった事柄についてお話させていただきます。

参加費  300円(資料代を含む) ※飲み物は各自、別途注文してください。
参加申込  資料作成の都合がありますので、事前に下記へお申し込みください。
          電話 072-627-0271(石沢誠司)
         



          第2回例会予定
日 時 2017年3月11日(土) 10時30分~12時
会 場 喫茶ほっとはあと 京都市中京区西大路御池北西角  地下鉄東西線「西大路御池」下車すぐ
                  http://www.kyoto-hotheart.jp/cafe/shops/oike/

講 師  石沢誠司氏  ブログ「漢字の音符」管理人
テーマ  「中国の漢字音符辞典『学生識字快車』について」
 「学生识字快车(学生識字快車)」
 中国では2004年に漢字音符字典である『学生识字快车(学生識字快車)』が刊行されています。題名を訳すと「学生が文字を識る急行列車」ですから、いわば「学生版早わかり簡体字字典」といえましょう。ページをめくると、同じ文字要素を一つに集めて、その要素を字根と名付け一覧表にし、表の下に簡単に各文字の説明をしています。字根は日本では音符または声符とよばれるものと一緒ですが、現代中国の簡体字は、文字に大胆な省略や改変をしていますので、文字要素を抜き出すと音符だけがそろうことになりません。
 例えば簡体字では、漢⇒汉 権⇒权 鶏⇒鸡 戯⇒戏 のように異なる音符を又に置き換えた文字が多いので、字根「又you・ユウ」の部には、本来の友you・ユウのほかに、汉han・权quan・鸡ji・戏xiなどが含まれるため、発音がそろわないことが多いのです。このため、音符や声符という代わりに字根という言葉を用いているのではないかと思われます。
 しかし、「字根」という言葉は、さらに考察すると音符や声符を越えた、もっと深い意味を表す単語として興味深いものです。今回は、中国の『学生識字快車』を紹介するとともに、字根と名付けられた文字の本質を探ります。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする