漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

紛らわしい漢字 「緑リョク」 と 「縁エン」

2023年01月30日 | 紛らわしい漢字 
  「緑リョク」と「縁エン」は良く似ている。違いは緑の右下が「水」に似た形、縁の右下は、「豕シ(ぶた)」(上の字と一が重複する)である。ところが、糸へんを取り去ると、「彔ロク」と「彖タン」という異なる字になってしまう。これは、常用漢字になると上部が彑(けいがしら)からヨの下部が出た形に変化するためである。「彑」が見慣れないので、ヨに似た形のほうが覚えやすいと思って変えたのだろう。
 そこで、彑(けいがしら)がつく「彔ロク」と「彖タン」の違いを見てみよう。


     ロク <キリで木を刻み、木くずが飛び散る>
 ロク  彑部けいがしら

解字 錐キリ状の道具で木を刻み、木屑が飛び散る形の象形。甲骨文・金文の形は、まさにその道具が使われているさまを示している[字統]。篆文は他の字と混同して形が変わり、現代字は「彑(けいがしら)+水の変形」に変化した。彔を音符に含む字は、「きざむ・けずる」、けずったものが「こぼれおちる」イメージを持つ。新字体では、上の彑⇒ヨの下部が出た形に変化する。
意味 きざむ。木をきざむ。きり。

イメージ 
 「きざむ・けずる」
(菉・緑・録・剥)
音の変化  ロク:録  リョク:菉・緑  ハク:剥

きざむ・けずる
 リョク・ロク  艸部
① 
①きざんだ染料材料のかりやす(刈安)正美屋HPより
カリヤスの葉と茎(三河の植物観察)
解字 「艸(草)+彔(きざむ)」の会意形声。葉や茎をきざんで煮出し、染料とするカリヤスのこと。
意味 (1)草の名。かりやす。こぶなぐさ。イネ科の一年草。葉は竹の葉に似た緑色。茎・葉を萌黄色の染料とする。(2)かりやすの草の色。緑色。「菉竹猗猗ロクチクイイ」(かりやすと竹のみどり色が美しく盛んなさま)
 リョク・ロク・みどり  糸部
解字 旧字は綠で、「糸(いと)+彔(=菉リョク(カリヤス)の略体)」の会意形声。菉リョクは葉や茎をきざんで煮出し、染料とするカリヤスのこと。カリヤスの葉はみどり色なので、みどりの糸で緑色の意。なおカリヤスで染めた糸は萌黄色なので、染めて緑色にするには藍アイで藍色に染めてからカリヤスで染めて緑色にする。新字体は緑に変化。
意味 みどり(緑)。みどり色。青と黄の間色。草木の新芽や若葉。草木。「緑化リョクカ」「緑地リョクチ」「緑茶リョクチャ」「緑青ロクショウ」(銅の表面に生ずるさび)
 ロク・しるす  金部
解字 旧字は錄で、「金(金属)+彔(きざむ)」の会意形声。青銅などの金属の表面に文字などを刻みつけることを録という。記録技術の発達により録音・録画など音や画を記録するのにも用いる。新字体は録に変化。
意味 (1)しるす(録す)。文字を刻みつける。写し取る。おさめておく。「記録キロク」「録音ロクオン」「録画ロクガ」 (2)書きしるしたもの。「目録モクロク」「図録ズロク」「実録ジツロク
 ハク・はぐ・はがす・はがれる・はげる  刂部
解字 旧字は剝で、「刂(刀)+彔(けずる)」の会意形声。刀でけずって表面をはがすこと。新字体は剥に変化。
意味 (1)はぐ(剥ぐ)。はがす(剥がす)。はぎとる。むく。「剥奪ハクダツ」「剥製ハクセイ」(動物の皮を剥いで中に詰め物をして製作する外見がそっくりな物) (2)はがれる(剥がれる)。はげる(剥げる)。はなれる。はげおちる。「剥落ハクラク」「剥離ハクリ

     タン <へり・ふち>
 タン  彑部けいがしら           

解字 篆文は、豕(ぶた)の上に横向きのあしを付けた象形。豚が前方でなく横に走る形で、放し飼いされている豚が、囲いの柵にそって走りまわる意から、囲いの内側の周辺を意味する。
現代字は、「彑(けいがしら)+豕(上部は重複する)」に変化した。音符となって「へり・ふち」「わくにおさまる」のイメージがある。新字体では、上部の彑がヨの下が出た形の⇒縁の右辺に変化する。
意味 はしる。めぐる。

イメージ 
 「へり・ふち」
(縁)
 「わくにおさまる」(篆)
音の変化  エン:縁  テン:篆

へり・ふち
 エン・ふち・へり  糸部
解字 旧字は「糸(ぬの)+彖(へり)」の会意形声。布のへり・はしの意。転じて、物のへり・ふちの意となる。現代字は右辺が変化した縁。日本では座敷の「えんがわ」の意となる。なお、意味の(3)~(5)は仏教用語のため本来の意味から変化している。 
意味 (1)ふち(縁)。へり(縁)。「崖っ縁がけっぷち」「額縁ガクぶち」 (2)[国]座敷の外側の板敷。えん(縁)。「縁側エンガワ」 (3)よる(縁る)。ちなむ。 (4)えにし(縁)。ゆかり(縁)。かかわりあい。「所縁ショエン・ゆかり」)。「縁故エンコ」(①血縁・姻戚。②故(ゆえ)ある縁。つて)「由縁ユエン」(事の由来。ゆかり) (5)めぐりあわせ。「因縁インネン」 

わくにおさまる
 テン  竹部
解字 「竹(竹簡)+彖(わくにおさまる)」の会意形声。竹簡に書かれる文字で、枠に収まるように書かれた文字の種類。
意味 (1)古代漢字の書体の名。長方形の枠におさまるよう書かれた書体。印章に多く使われる。「篆書テンショ」(漢字の書体の一つ、周代の大篆と秦代の小篆がある)「篆刻テンコク」(石や木などに文字を刻むこと。多く篆書体を使ったことから)「篆文テンブン」(篆書体の文字)
<紫色は常用漢字>

お知らせ
本ブログ掲載の漢字を選りすぐった「音符順 精選漢字学習字典」販売中!



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

音符「享(𦎫)ジュン」と「惇ジュン」「淳ジュン」「醇ジュン」と「敦トン」

2023年01月27日 | 漢字の音符
  補充改訂しました。
享[𦎫] ジュン・トン  亠部  

解字 この字は単独では𦎫ジュン「亯(先祖を祀る建物)+羊」であり楷書で享の形になるが、享には享キョウという字があるため単独での使用はない。上の古文字変遷図は淳ジュンの字から氵を省いて作成した。金文・篆文は「亯(先祖を祀る建物)+羊(ひつじ)」で、先祖を祀る建物に羊をそなえて、祖先神をもてなす意を表わす。隷書(漢代)から亯の下部と羊が合わさってのような形になり、現代字で子に変化した享ジュンになった。意味は、祖先を祀る建物に供物の羊を供えるかたちから、「あつい心がある」意だが、単独では用いられず、音符イメージとなる。
意味 あつい心がある。

イメージ
 「あつい心がある」(惇・淳・醇・諄)
 「その他」(鶉)
音の変化  ジュン:惇・淳・醇・諄・鶉

あつい心がある
 ジュン・トン・あつい  忄部

解字 篆文は「忄(こころ)+[亯(先祖を祀る建物)+羊]」の会意形声。𦎫(亯+羊)は、祖先を祀る建物に羊を供える形からあつい心がある意で、これに忄(こころ)をつけた惇は、まごころの意を確認した字で、てあつい心の意。
意味 あつい(惇い)。まこと。まごころ。(=淳)。「惇朴ジュンボク」(あつくいつわりがない)「惇厚トンコウ」(惇も厚も、あつい意)
 ジュン・あつい  氵部
解字 「氵(みず)+享(あつい心がある)」の会意形声。氵(みず)は、況キョウ(ありさま・ようす)の意で、淳は心があついありさまをいう。
意味 (1)あつい(淳い)。まごころがある。(=惇)「淳厚ジュンコウ」(まごころがあり手厚い)「淳風ジュンプウ」(人情のあつい風俗) (2)すなお。飾り気がない。「淳朴ジュンボク
 ジュン  酉部
解字 「酉(さけ)+享(あつい心がある)」の会意形声。醇は、あつい心を込めて供える酒の意。一般に濃厚な酒の意で用いる。また、惇ジュン(あつい)の意味のほか、純ジュンに通じて、混じりけのないさまに用いる。
意味 (1)味の濃い酒。まじりのない酒。「醇酒ジュンシュ」(濃厚な酒。まぜもののない酒)「醇酒かたざけ」(濃いどぶろく)「芳醇ホウジュン」(酒の香りが高く味がよいこと)(2)あつい。てあつい。「醇朴ジュンボク」「醇風ジュンプウ」(人情があつい風俗)(3)まじりけがない。もっぱら。「醇正ジュンセイ」(まじりけのない本物=純正)
 ジュン  言部
解字 「言(ことば)+享(あつい心がある)」の会意形声。諄ジュンは、言葉で、てあつくもてなすこと。惇・淳・醇と、ほぼ同じ意味だが、日本では適切な和訓ではないが一部の字典で「くどい」意味がつけられている。
意味 (1)あつい。ねんごろ。ていねい。「諄諄ジュンジュン」(何度も丁寧に説明する)(2)くどい(諄い)。「諄諄くどくど」(しつこく言う)

その他
 ジュン・うずら  鳥部
解字 「鳥(とり)+享(ジュン)」の形声。ジュンという名の鳥。享ジュンのイメージは不明。鳥のうずらをいう。和名は、「うずくまる」ように丸みをおびた鳥から来ている。
(ウィキペディアより)
意味 うずら(鶉)。キジ科の鳥。体は丸みをおび、羽は茶褐色でまだら模様がある。肉・卵を食用とする。「鶉斑うずらふ」(鶉の羽にあるまだら模様。また、それに似た模様のある陶器)「鶉豆うずらまめ」(鶉の羽に似たまだら模様がある豆。インゲン豆の一種)「鶉居ジュンキョ」(定まった巣をもたない鶉のように転々として住居がさだまらない)「鶉衣ジュンイ」(みすぼらしい着物。鶉の羽にまだら模様があり、尾が短く切れていることから)

   トン・タイ・あつい
 トン・タイ・ツイ・あつい  攵部

解字 甲骨文は「先祖を祀る建物+羊(ひつじ)」で、先祖を祀る建物に羊をそなえて、祖先神をもてなす意を表わす。しかし、仮借カシャ(当て字)されて、軍事攻撃の意に用いられている[甲骨文字辞典]。おそらく同音の屯トン(軍隊が駐屯する)に影響された意味であろう。金文第1字は甲骨文字と同じで、意味は軍事的な「敦守トンシュ」(狭い谷の関を守る武将)という語がある。金文第2字に手に棒などをもつ攴ボクが付いたのは、こうした軍事的意味を表すためと思われる。また、金文の特徴は、この字が黍きびや稲などを入れる青銅食器の意で用いられることである。この意味は春秋戦国期に盛行した。
 篆文は、先祖を祀る建物⇒亯になり「亯キョウ+羊+攴」の字形となった。現代字は、篆文の𦎫(亯+羊)⇒享に、攴⇒攵に変化した敦トンとなった。意味は甲骨から金文の字形の「先祖を祀る建物+羊(ひつじ)」が表す「あつい心」が現代まで続いている。一方、金文から加わった攴ボク(うつ)は、この字に多くの意味を加えた。漢和辞典をみると、「あつい・ねんごろ」以外に、①うつ(伐つ)。②せめる(責める)。③大きい。さかん。④たむろする。⑤せまる(迫る)などの意味が列挙されている。しかし、幸いなことに敦トンの熟語は、ほとんどが「あつい・ねんごろ」の意味と地名でありわかりやすい。これ以外の意味は、敦トンの音符字で表されているようである。
意味 (1)あつい(敦い)。てあつい。人情があつい。「敦厚トンコウ」(誠実で人情にあつい)「敦朴トンボク」(人情があつく素朴である)(2)祭祀のときに黍などの穀物を盛る器。(3)地名。「敦煌トンコウ」(中国・甘粛省の市。=燉煌。現地の言葉(トンコウ)の音訳とされる。)「敦賀つるが」(福井県南部の敦賀湾に面する港湾都市) 

イメージ
 「あつい・ねんごろ」(敦)
 「形声字」(暾・燉・墩)
音の分布  トン:敦・暾・燉・墩

形声字
 トン  日部
解字 「日(ひ)+敦(トン)」の形声。宋代の「廣韻コウイン」「集韻シュウイン」は「日の出始め」とする。発音は敦(トン)。
意味 (1)日の出。朝日。「紅暾コウトン」「朝暾チョウトン」 (2)あきらか。「暾暾トントン」(日があきらかで盛んなさま) 
 トン  火部
解字 「火(ひ)+敦(トン)」の形声。火が盛んに燃えるさまをいい、発音は敦(トン)。
意味 (1)火が盛んにもえるさま。火の色。 (2)あぶる・ふかす・むす・料理法。「燉菜トンサイ」(シチュー) (3)あたたかい。「温燉オントン」「燉酒トンシュ」(燗酒かんざけ)「燉茶トンチャ」(茶を入れる) (4)地名「燉煌トンコウ」(中国・甘粛省の市。=敦煌) 
 トン  土部
解字 「土(つち)+敦(トン)」の形声。土がつみあがったさまをいい、発音は敦(トン)。
意味 (1)積みあがった土。土盛り。「墩台トンダイ」(烽火台)「墩堡トンボ」(とりで)「墩墩トントン」(墩は「土盛り」で、墩墩は健康・頑丈・篤実・活発を意味し、また子どもを象徴する表現)

関連音符 音符「享キョウ と 郭カク」

お知らせ
 主要な漢字をすべて音符順にならべた、『音符順 精選漢字学習字典 ネット連動版』石沢書店(2020年)発売中です。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

音符 「敝ヘイ」 <打ってだめにする> と 「弊ヘイ」 「蔽ヘイ」 「幣ヘイ」

2023年01月24日 | 漢字の音符
  改訂しました。
 ヘイ・やぶれる  攵部         

解字 甲骨文第1字は、布の象形である巾と道具を手に持った手の形である攴ボクに従い、布を打ってぼろぼろにして破るさま。第2字は布の破片を表す小点を加えた形[甲骨文字辞典]。しかし、意味は地名になっている。篆文は布の破片がハに変わり、巾の上下にハを配し横に攴を付けた。現代字は攴⇒攵に変化した敝になった。意味は、やぶれる意のほか、つかれる・自分への謙称となる。
意味 (1)やぶれる(敝れる)。やぶる。こわれる。ぼろぼろになる。「敝衣ヘイイ」(やぶれた着物)「敝履ヘイリ」(やぶれた履き物)「敝屋ヘイオク」 (2)つかれる。よわる。おとろえる。 (3)自分のことにつける謙称。「敝国ヘイコク」(自分の国の謙称)

イメージ 
 「打ってだめにする」
(敝・弊・斃・蔽・瞥・鼈) 
 「形声字」(幣)
音の変化  ヘイ:敝・弊・斃・蔽・幣  ベツ:瞥・鼈

打ってだめにする
 ヘイ・やぶれる・ついえる  廾部
解字 旧字は「廾+敝(打ってだめにする)」の会意形声。この字は古くは敝ヘイの下に「犬」や犬の点がとれた「大」を付けており、意味は犬が打たれてだめになる意だが、敝とほとんど同じである。楷書から犬や大の代わりに廾が付いた弊があらわれ、この字が一般的になった。常用漢字になっているため敝の代わりにほとんど弊が使われる。廾には「両手の略体」の意味があり、攴(攵)ボク・うつの意味を両手で強めたものと考えたい。この字は新字体で左上部がハ⇒ソに変化する。
意味 (1)やぶる。やぶれる(弊れる)。「弊衣ヘイイ」(=敝衣。やぶれた衣)「弊履ヘイリ」(はき古した履物) (2)つかれる。「疲弊ヒヘイ」 (3)わるい。よくない。「弊害ヘイガイ」「語弊ゴヘイ」(誤解をまねきやすい言い方) (4)ついえる(弊える)。負けてくずれる。たおれる。 (5)自分を謙遜する語。「弊居ヘイキョ」(粗末な住宅。拙宅)「弊店ヘイテン」「弊社ヘイシャ
 ヘイ・おおう・おおい  艸部  
解字 「艸(くさ)+敝(=弊。やぶれる)」の形声。やぶれたところが草でおおわれること。おおう・おおいかくす意になる。
意味 (1)おおう(蔽う)。おおいかくす。「隠蔽インペイ」「遮蔽シャヘイ」「蔽蒙ヘイモウ」(おおわれてくらい)(2)おおい(蔽い)。おおうもの。
 ヘイ・たおれる  攵部
解字 「死(しぬ)+敝(打ってだめにする)」の会意形声。打たれて倒れ死ぬこと。
意味 たおれる(斃れる)。たおれて死ぬ。「斃死ヘイシ
 ベツ  目部
解字 「目(め)+敝(打ってだめにする)」の形声。打たれて負傷した目。開けていられず見るときだけ、まぶたを開けてチラッと見ること。
意味 みる。ちらっとみる。「一瞥イチベツ」「瞥見ベッケン」(ちらりと見ること) 
 ベツ・すっぽん  黽部おおがえる

スッポン(市場漁業図鑑)  

タイマイ(ヤフー!きっず)
https://kids.yahoo.co.jp/zukan/animal/kind/reptiles/0013.html
解字 「黽(かめ)+敝(打ってだめにする)」の形声。黽モウ・ベンは、カエルやカメをあらわす象形でここではカメの意。鼈ベツは、亀の甲羅を打ってだめにし、甲羅がやわらかくなった亀。甲羅が普通の亀と違って軟らかいスッポンをいう。なお「鼈甲」はタイマイの背甲をいう。
意味 (1)すっぽん(鼈)。スッポン科の亀の総称。他の亀と異なり、甲羅表面は角質化していないので軟らかい。英語でSoft-shelled turtle(柔らかい甲羅を持つカメ)という。首が長くよく物をかむ。肉は美味。「鼈裙ベックン」(すっぽんの甲羅のまわりの肉。美味。その形が裙(もすそ)に似るから)(2)タイマイ(玳瑁)の背甲。甲羅は黄色と黒の斑紋が屋根瓦のように重なり美しい。各種装飾品の材料となる。江戸時代に玳瑁の使用がぜいたく品として禁止され、それをスッポンの甲羅と言い逃れたことから[漢字源]。「鼈甲ベッコウ」(①タイマイの背甲。くし・かんざし・眼鏡のふちなどに使用した。現在は輸入禁止となっている。②スッポンの背甲。薬用とした)

形声字
 ヘイ・ぬさ・みてぐら  巾部
解字 「巾(ぬの)+敝(ヘイ)」の形声。[説文解字]は「帛ハク(絹の布)也(なり)。巾に从(したが)い敝ヘイの聲」とする。この敝ヘイは発音だけ表し「打ってだめにする」イメージはない。意味は帛ハク、すなわち幣帛ヘイハクで「絹布など神に奉献する物の総称」という意味である。
 敝に巾をつけただけで何故「神に奉献する物」の意味になるのか?
 それはヘイという発音にあると考える。私が思いついたのは陛ヘイ(きざはし・天子の宮殿の階段)である。幣と陛は日本語でヘイで同音。中国語でもbì で同音。上古音と中古音は両字で少しことなるが語頭音は並biで表されており、ほぼ同じ発音といえる。
 当時の中国人が幣ヘイの発音を聞いたとき思い浮かべる字の陛ヘイ(きざはし)は、天子の宮殿の階段である。そこに巾(ぬの)があれば天子の宮殿(すなわち神殿)に巾(ぬの)を供える意となる。神に供える絹布が原義で、転じて、貢ぎ物・財貨の意味になったと考えたい。
意味 (1)みてぐら(幣)。神に供える絹。「幣帛ヘイハク」(神にささげる白絹)「幣使ヘイシ(幣帛を奉じる使い)(2)みつぎもの。進物。天子にたてまつる礼物。「幣物ヘイブツ」「幣貢ヘイコウ」(みつぎもの)(3)財貨の意から、おかね。ぜに。「貨幣カヘイ」「幣制ヘイセイ」(貨幣に関する制度)「紙幣シヘイ」「造幣局ソウヘイキョク」(4)[国]ぬさ(幣)。ごへい(御幣)。神を祭る用具のひとつで串に白い紙を切ってはさんだもの。「幣束ヘイソク
<紫色は常用漢字>

    バックナンバーの検索方法
※一般の検索サイト(グーグル・ヤフーなど)で、「漢字の音符」と入れてから、調べたい漢字1字を入力して検索すると、その漢字の音符ページが上位で表示されます。



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

音符「辛シン」 <刃物> と 「宰サイ」「滓サイ」「梓シ」

2023年01月22日 | 漢字の音符
 シン・からい  辛部

解字 甲骨・金文とも、先のするどい刃物の象形で下が刃先。上が∇形と、その上に短い一が付く形があったが、篆文で短い一形になり、さらに下部にも一がついた。現代字は「立+十」の辛になった。意味は甲骨文字から十干の8番目の「かのと」となる。さらに先のするどいことから転じて、からい・つらい意となる。
意味 (1)からい(辛い)。「辛党からとう」 (2)つらい。苦しい。「辛酸シンサン」「辛抱シンボウ」 (3)かのと(辛)。十干ジッカン(甲コウ・乙オツ・丙ヘイ・丁テイ・戊・己・庚コウ・辛シン・壬ジン・癸)の8番目。「辛亥革命シンガイカクメイ」(辛亥の年の1911年、中国で起こった革命) (4)かろうじて。「辛勝シンショウ
覚え方 たつ()とお()からし()=唐辛子

十干の読み方(オンライン無料塾「ターンナップ」より)

参考 辛シンは部首「辛シン」になる。偏(左辺)や旁(右辺)に付き、刃物やからい意を表す。常用漢字で 部首も含めて3字、[新漢語林]で18字ある。常用漢字は以下のとおり。
シン(部首)
 辞ジ・ことば(辛+舌の会意)
 辣ラツ・からい(辛+束の会意)

イメージ 
 「刃物」
(辛・梓・宰・滓)
音の変化  シン:辛  シ:梓・滓  サイ:宰

刃物
 シ・あずさ  木部
解字 「木+辛(刃物)」の会意形声。刃物で木を彫ったり、細工すること、またその木。また木工・大工の意ともなる。日本で「梓=あずさ」と呼ばれる木は、ノウゼンカズラ科のキササゲ(学名:Catalpa ovata)と、カバノキ科のミズメ(学名:Betula grossa)の二種類がある。
意味 (1)あずさ(梓)。ノウセンカズラ科の落葉高木であるキササゲ(楸)の別称。材は良質で印刷用の版木や器具制作に用いられる。「梓里シリ」(ふるさと。父母が子孫のために植えておいた梓があるところ)「桑梓ソウシ」(桑と梓があるふるさと。故郷)「梓宮シキュウ」(天子のひつぎ。梓の木で造る) (2)版木。また、彫った版木で印刷すること。「上梓ジョウシ」(図書を版木にきざむ。また、出版すること) (2)木工の職人。大工。「梓人シジン」(大工の棟梁や工匠)「梓匠シショウ」(大工)
(3)[国]あずさ(梓)。カバノキ科の落葉高木のミズメ(ヨグソミネバリ)。サリチル酸メチルを多く含み、枝を折ると独特のにおいがする。この臭いが和名(夜糞峰榛よぐそみねばり)の一部となっているそうである(ウィキペディア)。臭いが魔除けとなるためか、古くはこの木で梓弓を作った。「梓弓あずさゆみ」(①梓の丸木弓。巫女が霊を招くために使った道具の一つ。②古代の弓の材料。『延喜式(3巻:68条)』に「信濃國。梓弓百張」とあり梓で作った弓を献上していた) 「梓巫女あずさみこ」(東北地方等に分布する巫女) (4)地名。「梓川あずさがわ」(槍ヶ岳に源をもち長野県上高地の谷を経て松本盆地で奈良井川と合流し犀川となる)

梓弓(「みんぱくのオタカラ」より)
主に津軽地方のイタコが使用していた。
 サイ・つかさどる  宀部
解字 「宀(廟のたてもの)+辛(刃物)」の会意。祖先を祭る廟ビョウで刃物を用いて肉を切り、神にささげて祭事を取り仕切ること[字統]。
意味 (1)仕事をとりしきる。つかさどる(宰る)。「主宰シュサイ」「宰領サイリョウ」(管理監督する) (2)つかさ。取り仕切る人。「宰相サイショウ
 シ・サイ・おり・かす  氵部
解字 「氵(水)+宰(肉を切る祭事)」の会意形声。宰は肉を切って神にささげる祭事で、滓は、その折に洗い流した水に沈んでいるかすをいう[字統]。
意味 おり(滓)。かす(滓)。水中の沈殿物。のこりかす。「沈滓チンシ」(沈殿したおり)「残滓ザンシ」(のこりかす)「垢滓コウシ」(垢あかと、かす)
<紫色は常用漢字>

    バックナンバーの検索方法
※一般の検索サイト(グーグル・ヤフーなど)で、「漢字の音符」と入れてから、調べたい漢字1字を入力して検索すると、その漢字の音符ページが上位で表示されます。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

音符 「連レン」<つらなる> と 「蓮レン」「漣レン」「縺レン」「鏈レン」

2023年01月19日 | 漢字の音符
 レン・つらなる・つらねる・つれる  辶部

解字 篆文は 「辵チャク+車(くるま)」 の会意。辵は「彳(行く)+止(足)」 で、足で行く意。二つを合わせて「車が行く」形。車はもと戦車を象ったかたちであり、車が行くとは戦車がつながってゆく意で、つらなる意味になる。辵チャクは旧字で、二点しんにょうに、新字体で、一点しんにょうに変化した。
意味 (1)つらなる(連なる)。つらねる(連ねる)。つながり。「連続レンゾク」「連記レンキ」「連合レンゴウ」「関連カンレン」 (2)つれる(連れる)。ひきつれる。「連行レンコウ

イメージ 
 「つらなる」
(連・蓮・漣・縺・鏈)
音の変化  レン:連・蓮・漣・縺・鏈

つらなる
 レン・はす・はちす  艸部

はすの葉と花(左上)と蓮(はちす)「青山花茂BLOG」より
解字 「艸(草)+連(つらなる)」の会意形声。地下茎がつらなって蓮根となってのびるハス。
意味 はす(蓮)。「蓮華レンゲ」(はすの花)「蓮華座レンゲザ」(ハスの花の形につくった仏像の台座=蓮台レンダイ」「蓮根レンコン」「蓮華草レンゲソウ」(マメ科の二年草。春に紅紫色の花が咲く。レンゲ。ゲンゲ)(2)はちす(蓮)。ハスの実。花托の形が蜂の巣に似ていることから。「蓮子レンシ」(ハスの実)
 レン・さざなみ  氵部
解字 「氵(水)+連の旧字(つらなる)」の会意形声。水が連続してつらなる形。水の表面は平らでなく微風によってさざ波が起きる。
意味 (1)さざなみ(漣)。微風のため起こる小波。「漣漪レンイ」(さざなみ。漣も漪も、さざなみの意) (2)涙のながれるさま。「漣落レンラク」「漣然レンゼン
 レン・もつれる  糸部
解字 「糸(いと)+連の旧字(つらなる)」 の会意形声。糸が長く連なった状態は、からみあってもつれることが多い。
意味 (1)もつれる(縺れる)。糸がからみあう。もつれ。「縺縷レンル」(もつれた糸) (2)動作が正常さを失って自由にならない。「足が縺れる」
 レン・くさり  金部
解字 「金(きんぞく)+連の旧字(つらなる)」 の会意形声。金輪がつらなるくさり。日本では主に「鎖」を用いる。
意味 (1)くさり(鏈)。「鎖鏈サレン」(くさり。鎖も鏈も、くさりの意)「鉄鏈テツレン」(鉄のくさり)「価値鏈カチレン」(バリューチェーン。=価値連鎖)「供給鏈キョウキュウレン」(サプライチェーン。=供給網) (2)鉛(なまり)のあらがね。精錬していない鉛。また、錫(すず)のあらがね。
<紫色は常用漢字>





コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

音符「支 シ」<枝わかれする>「肢シ」「岐ギ」「技ギ」「伎ギ」

2023年01月16日 | 漢字の音符
  改訂しました。
 シ・ささえる  支部

下図は竹の古文字変遷

解字 篆文第一字は[説文解字注]が取り上げた古い字形で「上下に分かれた竹の半分を持つ形」とし、第二字は[説文解字]が「手に半竹をもつ。竹の枝なり」とする。半竹とは何か?それは竹の変遷図を見るとわかる。甲骨文字は竹の枝が節から二つに分かれて垂れている形であるが、金文以降、枝が分離してしまった。そこで[説文解字]は竹が2本生えている形と解釈しているのである。したがって篆文の字形はどちらとも枝の生えている竹を手でもつかたちで、竹を手で支持(ささえもつ)意をあらわす。また、持った竹に枝があることから、えだ・わかれたもの・わかつ意となる。字形は篆文第2字の竹が隷書(漢代)で十に変化し、現代字は支となった。
意味 (1)ささえる(支える)。「支柱シチュウ」「支持シジ」 (2)わかれ。えだ。「支部シブ」「支隊シタイ」 (3)わかつ。分けて出す。「支払い」「支出シシュツ」 (4)「支度シタク」とは、用意する・準備すること。

イメージ 
 「手に竹をもつ」
(支)
  持った竹の枝は「枝分れ・分かれる」(枝・肢・岐・跂・翅)
 「手に持った竹」(技・伎・妓)
音の変化  シ:支・枝・肢・翅  キ・ギ:岐・技・伎・妓・跂

枝分れ・分かれる
 シ・えだ  木部
解字 「木(き)+支(えだわかれ)」の会意形声。えだわかれたした木、つまり木の枝の意。
意味 えだ(枝)。「枝葉末節シヨウマッセツ」「枝道えだみち
 シ  月部にく
解字 「月(からだ)+支(わかれる)」の会意形声。胴体から枝わかれした手と足。
意味 (1)手と足。てあし。「肢体シタイ」(手足)「四肢シシ」(両手と両足。動物の4本の足)「義肢ギシ」(四肢の失われた部分を復元した人工の手や足) (2)本体から分かれた部分「選択肢センタクシ
 キ・ギ・わかれる  山部  
解字 「山(やま)+支(わかれる)」の会意形声。山の枝道。
意味 (1)えだみち。「岐路キロ」(わかれみち) (2)わかれる。枝状にわかれる。「分岐点ブンキテン」「多岐タキ」 (3)地名。「岐阜ギフ」(①中部地方の県。②岐阜県南部の県庁所在市、長良川に臨む商業・交通の要地)
 キ・ギ・はう・つまだてる
解字 「足(あし)+支(わかれる)」の会意形声。足がたくさん分かれ出ている虫が、くねりながら行くこと。はう・はってすすむ意。また、同音の企キ(つま先立つ)に通じ、つまだてる・まちのぞむ意となる。
意味 (1)はう(跂う)。はってすすむ。「跂跂キキ」(はう虫のゆくさま)「跂行キコウ」(はうように進む)「跂行喙息キコウカイソク」(跂行は虫がはう、喙息は鳥が喙(くちばし)で息をする。動物一般・いきものをいう) (2)つまだつ(跂つ)。つまだてる(跂てる)。かかとをあげて遠くを見る。「跂足キソク」(待ち望んでつま先で立ち上がる。=跂踵キショウ。踵は、かかと)「跂望キボウ」(つま先立ちして望む。まちこがれる。=希望)
 シ・つばさ・はね  羽部
解字 「羽(はね)+支(わかれる)」の会意形声。体からわかれ出る羽。鳥や虫のはねをいう。
意味 (1)つばさ(翅)。はね(翅)。鳥や虫のはね。「翅翼シヨク」(つばさ)「鱗翅類リンシルイ」(チョウやガなど翅と体が鱗粉リンプンで被われている昆虫の種類) (2)魚のひれ。「魚翅ギョシ

手に持った竹
 ギ・わざ  扌部
解字 「扌(て)+支(手に持った竹)」の会意形声。手に持った竹を、さらに手で加工してカゴなどの製品をつくること。人間の手のわざをいう。
意味  わざ(技)。てなみ。うでまえ。たくみ。「技芸ギゲイ」「技巧ギコウ」「技術ギジュツ
 ギ・キ・わざ  イ部
解字 「イ(人)+支(=技。わざ)」の会意形声。人間の体の動きで表現するわざをいう。
意味 (1)わざ(伎)。わざおぎ。「伎楽ギガク」(古代の舞楽)「歌舞伎カブキ」「伎芸ギゲイ」(歌舞や音曲などのわざ) (2)わざを心得た人。 ※伎は主に芸能の技に使う。
 ギ  女部
解字 「女+支(=伎。芸能のわざ)」の会意形声。伎芸ギゲイを用いてもてなす女性。
意味 芸者。わざおぎ。うたいめ。「妓女ギジョ」「芸妓ゲイギ」「娼妓ショウギ
※京都では未成年の舞子を「舞妓まいこ」といい、数年の修行を終えると「芸妓ゲイこ」となる。
<紫色は常用漢字>

    バックナンバーの検索方法
※一般の検索サイト(グーグル・ヤフーなど)で、「漢字の音符」と入れてから、調べたい漢字1字を入力して検索すると、その漢字の音符ページが上位で表示されます。



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

音符「殹エイ」<打ちはらう> と 「医イ」「翳エイ」

2023年01月14日 | 漢字の音符
  改訂しました。
 エイ  殳部      

解字 「匚(はこ)+矢(や)+殳(打つ)」の会意。矢を入れた箱を打つまじないを表す。矢は知・智の字においては、矢を供えて神に祈るかたち。族においては旗のもとに矢をおいて誓うかたちで、矢は武器だけでなく願い事の手段としても用いられた。殹エイは、願いをかけた矢を箱に入れ、巫女(みこ)が打って、邪霊のもたらした結果である病をはらう意。しかし、本来の意でなく、打ち祓うときの音や声の意となる。
意味 音がひびく。ああ。音調を整える助字。

イメージ 
 矢を打って病を「はらう」(殹・医・毉・翳) 
音の変化  エイ:殹・翳  イ:医・毉

はらう
[醫] イ・いやす  匚部はこがまえ              
     
解字 篆文および旧字はで「酉(さけ)+殹(はらう)」の会意。酉は、薬草をいれた薬酒。は、薬酒を飲ませて病をはらうこと。病気をなおす、なおす人を表わす。新字体の医は、旧字の上部左にある「医(矢をいれた箱)」の字を取り出して「」に代えたもの。
意味 (1)いやす(医す)。病気をなおす。「医方イホウ」「医療イリョウ」「医薬イヤク」「医院イイン」 (2)くすし(医)。いしゃ。「医者イシャ」「名医メイイ
 イ  殳部
解字 「巫(みこ)+殹(はらう)」の会意。巫は神がかりして神意をつたえる巫女(みこ)。毉は、巫女が神がかりして病をはらうこと。この字から古代の医療は巫女あるいは巫祝フシュクによる呪的行為だったことが分かる。
意味 の元の字で、(医)と同字。
 エイ・かざす・かげ・かげる・かすむ  羽部
解字 「羽(はね)+殹エイ(はらう)」の会意形声。エイという発音の羽に関するものの意。[説文解字]は「華蓋カガイ(天子の車につけたきぬがさ。はながさ)也」とする。北宋の発音辞典である[廣韻コウイン]は「羽葆ウホウ(はねかざり)也」とする。[字統]は、華蓋などの天子の車の羽がさは、天子に災いが及ばないようにはらう意味があるとする。羽がさの意から、かざす・おおう意となり、さらにかげる・かげの意味となる。また、目の網膜がかげる意から「目がかすむ」意味になる。
意味 (1)きぬがさ。鳥の羽で飾った絹のおおい。車上の羽で飾った衣がさ。「幢翳ドウエイ」(旗ほこと車上の衣がさ) (2)かざす(翳す)。おおう。上にさしかける。「蔽翳ヘイエイ」(おおいかざす)「掩翳エンエイ」(おおいかざす) (3)かげる(翳る)。かげ(翳)。陰になる。「翳翳エイエイ」(かげってくらい)「陰翳インエイ」(うすぐらいかげ=陰影)「暗翳アンエイ」(暗いかげ=暗影) (4)かすむ(翳む)。「眼翳ガンエイ」(翳かすみ
<紫色は常用漢字>


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

音符「秋シュウ」<稲に虫がつく>と「愁シュウ」「萩はぎ」「鍬くわ」

2023年01月11日 | 漢字の音符
  増補改訂しました。
[穐・龝] シュウ・あき  禾部

解字 甲骨文第一字は、穀物につく害虫の象形でありイナゴのような害虫であろう。羽を表現した字形もある。意味は、①害虫。②あき。殷代は季節区分が春と秋だけで(秋は)夏至から冬至と推定される[甲骨文字字典]。つまり、イナゴのような害虫でみのりの秋を表していた。ほとんどが害虫の図形だが、まれに第二字のように下に火がついた字形がある。これは害虫を火で焼く意。穀物の穂に付いた害虫を手で駆除し、それを火で焼くかたちである。イナゴはあぶって食べるとおいしい。焼いて食べたのであろうか。そうではなく火で害虫を追い払う意であろう。
 春秋戦国時代の第一字は説文解字の籀チュウ文。害虫が亀のような形になり、そこに禾(穀物)と火がつき、穀物に付く害虫の意味をはっきりさせた。第二字は「日+火(火の、人⇒大になっている古い形)+禾」で、日には周代に季節を表す意符の用法があり[漢字字形史字典]、秋の意味。篆文に至り「火+禾」になった。字形は隷書(漢代)で「禾+火」となり現代に続いている。なお篆文にあらわれた亀のような虫を表す字が使われる穐・龝は異体字としてあり、歌舞伎などの千秋楽(最終日)に「千穐楽」として使われることがある。
 
小豆島の虫送り
(小豆島日記vol.113から)
 日本では稲の害虫を駆除しその秋の豊作を祈願するため、初秋に松明を持ってあぜ道を歩いて虫を追い払う「虫送り」の行事がある。
意味 (1)あき(秋)。稲に実が入って稔るとき。「秋天シュウテン」「秋分シュウブン」(昼と夜の長さが同じになる日。毎年9月23日ごろ)「秋風あきかぜ」「初秋ショシュウ」 (2)一年。とき。「千秋センシュウ」(千年。長い年月)「千秋楽センシュウラク」(芝居や相撲などの最終日)

イメージ 
 「あき」
(秋・萩)
 「稔った穀物に虫がつく」(愁・愀)
 「形声字」(鍬・鰍・楸・啾・鞦)
音の変化  シュウ:秋・愁・楸・鰍・啾・鞦 ショウ:愀・鍬  はぎ:萩

あき
 シュウ・はぎ  艸部
解字 「艸(くさ)+秋(あき)」の会意形声。秋に花が咲く草木。
意味 (1)[国]はぎ(萩)。初秋に花をつける落葉低木。「御萩おはぎ」(「はぎのもち」の別称。萩の花が咲くころの餅からとされる) (2)草の名。かわらよもぎ。ヨモギの一種。 (3)地名。「萩市はぎシ」(山口県北部の日本海側の市)

稔った穀物に虫がつく
 シュウ・うれい・うれえる  心部
解字 「心(こころ)+秋(稔った穀物に虫がつく)」の会意形声。稔った穀物に虫がついて収穫が減るのを心配すること。
意味 うれえる(愁える)。うれい(愁い)。心細くなる。「愁色シュウショク」(うれいを含んだ顔色)「愁心シュウシン」「愁眉シュウビ」(心配そうな表情)

 ショウ・シュウ  忄部
解字 「忄(こころ)+秋(稔った穀物に虫がつく)」の会意形声。稔った穀物に虫がついて収穫が減るのを心配して顔色をかえること。愁シュウと成り立ちが同じだが、発音はショウが優先する。
意味 (1)顔色を変える。うれえるさま。「愀然ショウゼン」(①態度や顔色をかえる。②うれえるさま) (2)つつしむさま。「愀如ショウジョ」(つつしむ)


形声字 
 ショウ・くわ  金部
解字 「金(金属)+秋(ショウ)」の形声。中国では「田器なり」としスキをいう。土を掘り起こすスキの意。中国ではスコップのように土に刺して掘り起こす農具だが、日本では手前にひいて掘り起こす「くわ」の意で用いる。
① 
日本の鍬(金物店のHPから) ②中国の鍬・スコップ(検索サイトから)
意味 (1)[国]くわ(鍬)。土を掘り起こす農具。「鍬入(くわい)れ」(工事や植樹で鍬を入れる儀式)。「鍬形くわがた」(かぶとの前立物、鍬を2本さかさに立てた形)「馬鍬まぐわ」(馬や牛にひかせるスキ。土を砕いたり均したりする。まんが。) (2)[中国]スキ。シャベル。スコップ。「鍬子ショウジ」(スキ)
 シュウ・かじか  魚部
解字 「魚(さかな)+秋(シュウ)」の形声。シュウという名の魚。中国でドジョウをいい、日本ではドジョウに似たカジカをいう。なお、同じシュウの発音をもつ鰌シュウも中国・日本でドジョウの意であり、シュウという音にドジョウの特徴を表すイメージが含まれていると思われる。
 かじか(ブログ「丹沢の空と渓」より)
意味 (1)[国]かじか(鰍)。きれいな渓流にすむカジカ科の魚。ゴリともいう。ハゼに似て細長い。(2)[中国]どじょう(鰍)。鰌・泥鰌とも書く。淡水の泥のなかにすむ魚。
 シュウ・ひさぎ  木部
解字 「木(き)+秋(シュウ)」の形声。シュウという名の木。[説文解字]に「梓なり」とあり、日本では「梓(あずさ)」と読まれるが、本来は「きささげ」をいう。
意味 (1)ひさぎ(楸)。きささげ。ノウセンカズラ科キササゲ属の落葉高木。材はかたく碁盤などをつくるのに適する。(2)ごばん。棋局。「楸局シュウキョク」(ひさぎの碁盤)「楸枰シュウヘイ」(ひさぎの碁盤) (3)[日本]アカメガシワ。
 シュウ・なく  口部
解字 「口(くち)+秋(シュウ)」の形声。[説文解字]は子供の声とするが、多くの声のいりまじるさまにも用いる。
意味 (1)多くの入り混じる声。「啾啾シュウシュウ」(①鳥や虫、猿などがか細い声でなくさま。②すすり泣く声) (2)こどもの声。「啾喧シュウケン」(子供の声が騒がしいさま) (3)くちずさむ。「啾発シュウハツ
 シュウ  革部
解字 「革(なめし皮)+秋(シュウ)」の形声。シュウという名の馬の尻にかける革ひもをいう。
意味 「鞦韆シュウセン」(ぶらんこ)に用いられる字。鞦シュウは「しりがい」で馬の尻(尾の下)にかける革ひも。韆センは「むながい」で馬の胸(くびの下)にかける革ひも。この二つの革ひもで馬の鞍が前後に動かないように固定する。「鞦韆シュウセン」は、鞍のような腰掛ける座席を左右から革ひもで結んで吊り下げた遊具。この座席に乗って揺らして遊ぶ。最初は馬を使う北方遊牧民の遊びだったが、中国宮廷の女官の遊びになり、のち一般にひろがった。「鞦韆院落シュウセンインラク」(ぶらんこが設置されている貴族の大きな中庭のこと。院落は中庭)
「二美人遊戯鞦韆図」(「文化遺産オンライン」より)
<紫色は常用漢字>

   バックナンバーの検索方法
※一般の検索サイト(グーグル・ヤフーなど)で、「漢字の音符」と入れてから、調べたい漢字1字を入力して検索すると、その漢字の音符ページが上位で表示されます。



 
コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

音符「色ショク」<性交するさま> と「絶ゼツ」

2023年01月06日 | 漢字の音符
 ショク・シキ・いろ  色部          

解字 篆文は「上にのる人+卩セツ(かがんだ人)」の会意。かがんだ女性の上に男性が乗る形で、性交するさまを示す。現代字は、卩⇒ 巴に変化した色になった。セックスには容色が関係するところから、顔かたちや姿・いろどりの意味を表わす。
意味 (1)いろ(色)。いろどり。「色彩シキサイ」「彩色サイシキ」 (2)表情。顔かたち。「顔色ガンショク・かおいろ」 (3)おもむき。ようす。「景色ケシキ」「特色トクショク」 (4)男女の感情。「色情シキジョウ」「好色コウショク

イメージ 
 「性交するさま」
(色)
 「同体異字」(絶)
音の変化  ショク・シキ:色  ゼツ:絶

同体異字
[絕] セツ・ゼツ・たえる・たやす・たつ  糸部

解字 金文は𢇍ゼツで「上下の幺幺(糸束二つ)+刀(かたな)」の会意。上下の幺幺(糸束二つ)を刀で切る形で糸束を切断すること。絶の古字。篆文は𢇍ゼツが「糸+刀」に変化し、発音を表す卩セツ(ゼツ)を付けた。旧字は卩⇒ 巴に変化した絕ゼツになった。ところが新字体は右辺⇒色に変化させた絶になった。したがって、絶の右辺の「色」は色彩の「色」とは関係ない。絶は糸束を刀で切る意であり、(断)の字と構造が同じで、絶と断はほぼ同じ意味となる。同じ意味同士の漢字を合わせた言葉に「断絶ダンゼツ」がある。
意味 (1)たつ(絶つ)。うちきる。やめる。「絶交ゼッコウ」「断絶ダンゼツ」 (2)たえる(絶える)。たやす(絶やす)。とぎれる。「根絶コンゼツ」「廃絶ハイゼツ」 (3)遠く離れる。「隔絶カクゼツ」 (4)ことわる。「拒絶キョゼツ」 (5)すぐれる。はなはだ。「絶景ゼッケイ」「絶妙ゼツミョウ
<紫色は常用漢字>


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

音符「隶タイ」 <手をのばして捕まえる>と「逮タイ」「靆タイ」「隷レイ」

2023年01月04日 | 漢字の音符
 増補改訂しました。
 タイ  隶部たい


 上が隶、下が尾
解字 金文・篆文は、「右手+獣の尾」の会意。手で動物の尾をつかまえる形。手をのばして捕まえること。現代字は、下部が水に似た形の隶になった。
 因みに尾の古代文字は、甲骨文字から篆文まで、隶の金文と一致する。尾の甲骨文は、かがんだ人の尻から生えている毛を描き、尻から生えている毛を表す。人に尻尾はないので、比喩的表現で動物の尻尾を表している。戦国以降、かがんだ人⇒人が腰かけた形になり、楷書は「尸+毛」の尾となった。意味は動物の尾を表す。
意味 およぶ。

イメージ 
 「手をのばして捕まえる」
(逮・隷)
 「およぶ・とどく」(靆・棣)
音の変化  タイ:逮・靆  テイ:棣  レイ:隷

手をのばして捕まえる
 タイ・およぶ  辶部
解字 「辶(ゆく)+隶(手をのばして捕まえる)」の会意形声。後ろからおいついて手をのばして捕まえる意。手をのばすので、とどく意、つかまえるので、とらえる意となる。
意味 (1)およぶ(逮ぶ)。そこまでとどく。「逮夜タイヤ」(夜におよぶ。葬儀などの前夜)「逮及タイキュウ」(およぶ。逮も及も、およぶ意) (2)とらえる。「逮捕タイホ」(逮も捕も、つかまえる意)
 レイ・したがう  隶部たい  

解字 篆文は「祟スイ(たたり)+隶(手をのばして捕まえる)」の会意。神のたたりを受けた動物(異民族)を、手をのばして捕まえ、従わせる意。現代字は、出⇒士に変化した隷になった。
意味 (1)したがう(隷う)。つきしたがう。「隷属レイゾク」「隷従レイジュウ」(つきしたがう) (2)しもべ(隷)。召使い。「奴隷ドレイ」 (3)漢字の書体の一つ。篆書を簡略にしたもの。「隷書レイショ」(漢代に使われた)

およぶ・とどく
 タイ  雨部
解字 「雲(くも)+逮タイの旧字(およぶ・とどく)」の会意形声。雲が次から次へとどいて連なること。
意味 「靉靆アイタイ」(雲のたなびくさま。雲の多く盛んなさま)に用いられる。
 テイ・タイ  木部
解字 「木(き)+隶(およぶ・とどく)」の会意形声。花が次の花におよぶように並んで咲く木。『詩経・小雅』は「常棣ジョウテイは棣テイ也」とする。
常棣(二ワウメ)
https://www.douban.com/note/766770359/?_i=2751197JfJORu0
意味 (1)バラ科の低木。「常棣ジョウテイ」とは、二ワウメの一種。淡紅色の連続した花をひらく。「棣棣テイテイ」(礼儀正しく雅やか。花の様態を人に例えた) (2)棣の花が隣り合って咲くことから兄弟。「棣鄂テイガク」(①二ワウメの花。②兄弟のたとえ)「棣鄂の情」( 兄弟の情愛)(3)「棣棠テイトウ」(やまぶき。棣棠花)

<参考>
 コウ・やすい  广部まだれ
广まだれの中が隶であり、隶タイと同形だが、成り立ちがまったく違う字。康コウの中の隶は、両手で午(杵)を持って穀物を搗き、精白する形である。 音符「康コウ」を参照。

    バックナンバーの検索方法
※一般の検索サイト(グーグル・ヤフーなど)で、「漢字の音符」と入れてから、調べたい漢字1字を入力して検索すると、その漢字の音符ページが上位で表示されます。



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする