漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

紛らわしい漢字 「宁チョ」 と 「它タ」

2019年05月29日 | 紛らわしい漢字 
 「宁チョ」と「它タ」、あまり見かけない漢字だが、ここに貝と虫がつくと、たちまちよく知っている「貯チョ」「蛇ジャ・ダ・タ」に変身する。すなわち、「宁チョ」は大事なもの(貝)をいれておく保管箱を表し貯の原字、「它タ」はコブラなど頭のおおきいヘビをかたどった字で蛇の原字なのだ。

    チョ <保管箱>
 チョ  宀部

解字 物を貯蔵する箱の象形。金文の一字には貝を加えたものがあり、貯の原字。現代字は上が宀、下が丁に分離した宁になった。宁は古代文字のおもかげをほとんど残していない形になってしまった。
意味 (1)たくわえる(=貯)。 (2)たたずむ(=佇)。

イメージ  大切なものを保管する箱の意から「保管箱」(貯・佇)
保管箱
 チョ・たくわえる  貝部
解字 「貝(財貨)+宁(保管箱)」 の会意形声。財貨を保管箱にいれてたくわえること。
意味 たくわえる(貯える)。ためる。「貯金チョキン」「貯蓄チョチク」「貯水チョスイ
 チョ・たたずむ  イ部
解字 「イ(ひと)+宁(保管箱)」 の会意形声。大事なものが入っている保管箱のそばに人が立って番をしているかたち。
意味 たたずむ(佇む)。たちどまる。たたずまい(佇まい)。まつ。「佇立チョリツ」(その場にたたずむこと)


   タ <頭の大きいへび>
 タ   宀部

解字 甲骨文第一字は蛇をリアルに描いた象形、第二字は単純化されており、この字形が後代に引き継がれている。金文・篆文は、この系統の字形だが頭が大きく描かれており、コブラなど頭の大きな蛇の象形。現代字は上が宀、下がヒに分離した它になった。
 古くは、ヘビの多い地域で安否を尋ねるとき「它無きか」(ヘビの害はないか)と聞いた。転じて「別条ないか」の意となり、そこから它は「別のこと・ほかの」などの意となった。
意味 (1)へび(它)。まむし。「竜它リュウダ」(竜とへび) (2)ほか。よそ。別の。「它人タニン」(=他人) 

イメージ 「頭の大きいへび」(蛇・舵・鉈) 
へび
 ジャ・ダ・タ・へび  虫部
解字 「虫(動物)+它(へび)」 の会意形声。它はへびの意味があり、虫を加えてその意味を明確にした。
意味 (1)へび(蛇)。くちなわ。「大蛇ダイジャ」「蛇足ダソク」 (2)形がへびに似ているもの。「蛇腹ジャばら」「蛇口ジャぐち
 ダ・タ・かじ  舟部
解字 「舟(ふね)+它(頭の大きなへび)」 の会意形声。船尾にあって船の進む方向を変える(頭の大きなヘビのように)先が幅広くなっている板。なお、「柁ダ(木+它)」も同じ趣旨の字で、「かじ」を表す。
意味 かじ(舵)。船のかじ。「操舵ソウダ」(舵を操る)「舵手ダシュ」「舵取(かじと)り」
 シャ・タ・なた  金部
 鉈
解字 「金(金属)+它(頭の大きなへび)」 の会意形声。短く幅のひろい刃がついた刃物。刃の部分が蛇の頭に、柄が蛇の胴にみえる。
意味 (1)なた(鉈)。薪(まき)などを割るのに使う短くて幅のひろい刃物。「鉈彫なたぼり」(鉈で彫ったような荒々しい力強さが特徴の仏像彫刻)「鉈豆なたまめ」(さやが鉈ほどの大きさになる豆) (2)ほこ。短いほこ。
<紫色は常用漢字>

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音符「刀トウ」<かたな>と「初ショ」「辺ヘン」「到トウ」「倒トウ」

2019年05月27日 | 漢字の音符
  叨トウ・屶なた、を追加しました。
 トウ・かたな  刀部             

解字 刃のそった片刃のかたなを描いた象形。古代文字の上部がそった刀身で、下部の二股になったところが柄を表わす。刀は部首となり、右辺に置かれるとき多く「刂」の形となり「りっとう」という。「かたな」の意味で音符ともなる。
意味 (1)かたな(刀)。刃が曲線をなしてそった刀やナイフの総称。両刃でまっすぐな刀を剣という。「刀剣トウケン」「刀工トウコウ」「太刀たち」 (2)刀の形をした中国古代の貨幣「刀銭トウセン
参考 刀は部首「刀かたな」になる。漢字の右辺(旁つくり)や下部について刃物や、刃物を使う意を表す。常用漢字で6字、漢字の中字典で27字程がある。部首「刂りっとう」は、刀が右辺(旁つくり)に置かれたとき変化した形。常用漢字では26字、約14,600字を収録する『新漢語林』では94字が収録されている。
 詳しくは、特殊化した部首「刀かたな」と「刂りっとう」をご覧ください。

イメージ  
 「かたな」
(刀・初・辺・屶)
 「同音代替」(叨)
音の変化  トウ:刀・叨  ショ:初  ヘン:辺  なた:屶

かたな
 ショ・はじめ・はじめて・はつ・うい・そめる  刀部
解字 「衤(ころも)+刀(かたな)」の会意。布に刀(かたな=ハサミ)をいれて衣を作る意で、衣を作るとき最初に行なう行動なので、「はじめ、はじめて」の意となる。
意味 (1)はじめ(初め)。「最初サイショ」「初歩ショホ」「当初トウショ」 (2)はじめて(初めて)。「初陣ういじん」「初雪はつゆき」「初演ショエン」「初代ショダイ
[邊] ヘン・あたり・べ  辶部
解字 「辶(ゆく)+刀(かたな)」の会意。刀すなわち武力を持った軍隊の勢力が及ぶ(ゆく)所の意。国ざかい・辺境の意味であるが、「あたり」の意味も生じた。(旧字体の邊ヘンは、字形の構造が不明瞭であり新字体で解字した)
意味 (1)国境・かぎり。はて。「辺境ヘンキョウ」「辺地ヘンチ」「辺鄙ヘンピ」 (2)ふち。へり。「辺幅ヘンブク」(布地のへり) (3)あたり(辺り)。ほとり。べ(辺)。「海辺うみべ」「周辺シュウヘン
<国字> なた  山部
解字 「山+刀」 の会意。山で使う刀の意で鉈(なた)を表す。山刀(なた)を一つにあわせた国字。
意味 なた(屶)。幅が広く厚い刃物に柄をつけたもの。

同音代替
 トウ・むさぼる・みだりに  口部
解字 「口(くち)+刀(トウ)」 の形声。トウはトウ・むさぼる」に通じ、口でむさぼり食べること。叨トウトウの俗字であるが、また「みだりに」という意味でも使う。
意味 (1)むさぼる(叨る)。「叨貪トウタン・トウドン」(叨と貪とも、むさぼる意。私利をむさぼり、賄賂をほしがる)「叨禄トウロク」(禄ロク〈扶持〉をむさぼる) (2)みだりに(叨りに)。うける。かたじけなくも。おかげをこうむる。「叨恩トウオン」(みだりに恩をうける。恩恵を受けることを謙遜していうことば)「叨情トウジョウ」(情けをうける)


    トウ <いたる>
 トウ・いたる  刂部           

解字 金文は「至(いたる)+人(ひと)」 の会意。至は「下向きの矢+―印」 の会意で、-印に矢がいたる意。それに人がついた「至+人」は人が目的地に至る意。篆文から「人」が「刂(刀)」に変わった。刂(刀)は発音トウを表わしているだけで意味はない。従って、現代字の解字は、「至(いたる)+刂(トウ)」 の形声である。
意味 (1)いたる(到る)。目的の場所につく。「到達トウタツ」「到来トウライ」 (2)いきつく。はてまでゆく。「到底トウテイ」(底までいたる。つまるところ)「到頭トウトウ」(頭にいたる。ついに) (3)ゆきとどく。ぬかりがない。「周到シュウトウ

イメージ 
 「いたる」
(到・倒)
音の変化  トウ:到・倒

いたる
 トウ・たおれる・たおす  イ部
解字 「イ(ひと)+到(いたる)」の会意形声。人が終点まで行きついて、そこから戻ること。方向が逆になることから、「さかさま」の意となり、また、転じて「たおれる・たおす」意ともなる。
意味 (1)さかさま。「倒置トウチ」(さかさまに置く)「倒錯トウサク」(さかさまになる。正常とは反対の行動) (2)たおれる(倒れる)。たおす(倒す)「倒産トウサン」「転倒テントウ」「倒幕トウバク
<紫色は常用漢字>
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「けん責決議」の「けん」はどんな字?

2019年05月24日 | 漢字の音符
 北方領土の「ビザなし交流」の日本側訪問団に同行した某国会議員が、国後島で酒に酔った状態で暴言を吐いた問題で、自民党と公明党が「けん責決議案」を提出しました。常用漢字でないため新聞などで「けん責」と書かれる「けん」とはどんな字なのでしょうか。音符「遣ケン」から説明します。

    ケン <軍隊をつかわす>
 ケン・つかわす・つかう・やる  之部       
解字  甲骨文は祭肉(𠂤タイ)を両手で持つかたちで祭祀名として用いられている[甲骨文字辞典]。金文は、さらに彳(ゆく)と止(あし)が加わり、祭肉を持って行くかたち。この祭肉は軍を意味することが多く、金文で軍を派遣する意で使われる。字体は篆文をへて現代字は、辶(ゆく)に「中+一」(両手で持つの変化形)+㠯(祭肉)」がついた遣となった。意味は軍の派遣のほか、つかわす・さしむける意となる。祭肉は本来、𠂤タイで表される(例:追)が、遣の字では略体の㠯になっている。(この略体も官などで使われている)
意味 (1)つかわす(遣わす)。やる(遣る)。さしむける。「派遣ハケン」「遣唐使ケントウシ」 (2)[国]つかう(遣う)。使用する。「金遣(かねづか)い」「仮名遣(かなづか)い」(3)~しむ。せしむ。使役の助字。

イメージ
 「軍隊をつかわす」(遣・譴)
 「その他」(鑓)
音の変化  ケン:遣・譴  やり:鑓

軍隊をつかわす
 ケン・せめる  言部
解字 「言(ことば)+遣の旧字(軍隊をつかわす)」 の会意形声。軍隊をつかわし武力を背景にして話すこと。威圧的に相手をせめる・とがめる意となる。
意味 (1)せめる(譴める)。とがめる。とがめ。「譴責ケンセキ」(①あやまちや不正をきびしくとがめ、責めること。②公務員などの過失にたいする懲戒処分のひとつ)「呵譴カケン」(しかりせめる=呵責)(2)とがめ。つみ。「天譴テンケン」(天のとがめ。天罰)

その他
 <国字> やり  金部
解字 「金(金属)+遣の旧字(やり=やるの連用形)」 の会意。遣ケンは日本語で「やる(遣る)」の訓があり、その連用形「やり(遣り)」を鎗(やり)に掛けた国字。
意味 やり(鑓)。やり(槍)。やり(鎗)。武器の一種。長い柄の先に先を尖らせた刃をつけた武器。
<紫色は常用漢字>


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