漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

音符「尃フ」<耕作地で苗や苗木をそだてる>と「博ハク」

2017年08月29日 | 漢字の音符
 フ  寸部

解字 金文の上部は、「屮テツ(草木の芽生え)+田(耕作地)」で、耕作地に苗や苗木が植えられている形(甫ホを参照)。それに又(て)がつき、苗や苗木が育つ耕作地で手をうごかして作業をしている形。篆文から「甫+寸」の尃になった。新字体で使われるとき、甫の下部の用⇒田に変化する。イメージは「苗や苗木を育てる」「(苗や苗木を育てる地が)ひろい」となる。なお、単独での使用は布(布をしきのばす)に通じ、しく(敷く)意。
意味 しく(敷く)。

イメージ
 「苗や苗木を育てる」
(傅・縛)
  苗や苗木を育てる地が「ひろい」(博・溥・薄・簿)
 「同音代替」(敷・榑・搏)
音の変化  フ:溥・傅・敷・榑  ハク:博・薄・搏  バク:縛  ボ:簿 

苗や苗木を育てる
 フ・かしづく・もり  イ部  
解字 「イ(ひと)+尃(苗や苗木を手で育てる)」の会意形声。苗や苗木を手でそだてる人。転じて、苗木を育てるように貴族の幼い子の成長をたすける人。
意味 (1)かしずく(傅く)。つく。つきそう。たすける。「傅育フイク」(守り育てる) (2)もり(傅)。もりやく。「太傅タイフ」(幼い天子を助け国政に参与する職)「師傅シフ」(貴人の子を養育する役目の人)
 バク・しばる  糸部
解字 旧字は 「糸(ひも)+尃(苗や苗木を手で育てる)」 の会意形声。育てている苗や苗木を他へ移植するため、まとめてひもでくくること。しばる意となる。新字体は縛に変化。
意味 しばる(縛る)。自由を奪う。「束縛ソクバク」「捕縛ホバク」(捕まえて縛る)「金縛(かなしば)り」(金属の鎖で縛る。身動きできないように縛る)

ひろい
 ハク・バク・ひろい  十部   
解字 旧字は「十(四方に)+尃(ひろい)」の会意形声。四方にひろいこと。転じて、広く通じる意となる。また、古代に博弈ハクエキというサイコロを使うゲーム版があり、これで賭けごとをしたことから、ばくちの意がある。新字体は、博に変化。
意味 (1)ひろい(博い)。広く通じている。「博学ハクガク」「博愛ハクアイ」「博士ハクシ」「博物館ハクブツカン」 (2)大きい。「博大ハクダイ」 (3)かけごと。ばくち。「賭博トバク
 フ・あまねし  氵部
解字 「氵(水)+尃(ひろい)」の会意形声。水がひろくおおうこと。
意味 (1)あまねし(溥し)。広く行きわたる。 (2)ひろい。おおきい。「溥天フテン」(天があまねく地上をおおうところ。天下。=普天)
 ハク・うすい・うすめる・うすまる・うすらぐ・うすれる  艸部
解字 旧字は「艸(くさ)+溥(水がひろがる)」の会意形声。ひろがった水面を浮草が広く覆う意で、平らでうすい意味を表す。新字体は、薄に変化。
意味 (1)うすい(薄い)。厚みがすくない。「薄氷ハクヒョウ」 (2)内容が少ない。「薄給ハッキュウ」 (3)味がうすい。「薄味うすあじ」 (4)人情がうすい。「薄情ハクジョウ」 (5)せまる。ちかづく。「肉薄ニクハク」「薄暮ハクボ」(薄明かりの残る夕暮れ) (6)[国]すすき(薄)。おばな。芒ボウとも書く。
簿 ボ  竹部    
解字 旧字は「竹(たけ)+溥(=薄。うすい)」の会意形声。竹の薄い札をいう。のち、紙が普及すると紙を綴じたものの意となった。新字体は簿に変化。
意味 (1)文字を書くための薄い竹の札。 (2)文字を書くため、紙を綴じたもの。帳面。「帳簿チョウボ」「簿記ボキ」(金の出し入れを帳簿に書いて整理する方法)「名簿メイボ

同音代替
 フ・しく  攵部

解字 篆文は、「攴(=攵。手の動作)+尃(フ)」の形声。フは布(布をしきのばす)に通じる。そこに攵(手の動作)をつけて、しきのばす意を強調した。楷書から寸⇒方(四方に)に変化した。新字体は敷となった。
意味 (1)ひろげてゆきわたらせる。のべる。のばす。「敷衍フエン」(のべひろげる。展開) (2)しく(敷く)。設置する。「敷設フセツ」 「座敷ざしき」(本来は板の間に敷いた円座。のち畳を敷いた客間などをいう)「屋敷やしき」(家屋の敷地。また、家屋と敷地)「敷物しきもの」「敷金しきキン」(保証金)
 フ・くれ  木部
解字 「木(き)+尃(=敷。しく)」の形声。日本では敷(しく・しきのべる)に通じ、板状にして床(ゆか)や屋根などに敷き詰める木の板材や、桶の胴部の材をいう。中国では榑桑フソウ(東方のはての巨木)の意味で用いる。
意味 (1)[国]くれ(榑)。くれき(榑木)。山出しの板材。平安時代の規格では、長さ12尺、幅6寸、厚さ4寸[広辞苑]。「榑縁くれえん」(細長い板を張った縁側)(2)[国]くれ(榑)。薄板。へぎいた。板屋根などを葺くもの。「榑葺(くれぶ)き」(薄い榑板で葺いた屋根)(3)[国]くれ(榑)。桶や樽の胴板に用いられる材。「桶の榑くれ」(4)「榑桑フソウ(=扶桑)」とは、中国の伝説で東方のはてにある巨木をいう。またその巨木の生えている土地を扶桑(榑桑)国という。後世、中国における日本の異称となった。
 ハク・うつ  扌部
解字 「扌(て)+尃(ハク)」の形声。ハクは拍ハク(うつ)に通じる。拍の白ハクは物をたたくとき出る音の擬声語。搏は手であらあらしくうつこと。
意味 (1)うつ(搏つ)。たたく。なぐる。「搏撃ハクゲキ」(うちたたく)「搏闘ハクトウ」(なぐりあって闘う) (2)うごく。動悸をうつ。「脈搏ミャクハク」(動脈の流れが定期的に血管を搏つこと)
<紫色は常用漢字>

   バックナンバーの検索方法
※一般の検索サイト(グーグル・ヤフーなど)で、「漢字の音符」と入れてから、調べたい漢字1字を入力して検索すると、その漢字の音符ページが上位で表示されます。


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第5回漢字音符研究会のお知らせ

2017年08月28日 | 漢字音符研究会
               第5回漢字音符研究会のお知らせ

日 時 2017年9月9日(土) 10時30分~12時
会 場  喫茶ほっとはあと 京都市中京区西大路御池北西角  地下鉄東西線「西大路御池」下車すぐ
    http://www.kyoto-hotheart.jp/cafe/shops/oike/

講 師  山本康喬氏  『漢字音符字典』著者・漢字教育士
テーマ  音符はどのように作られるのか。いつ生まれるのか。
1、 音符の始まりは
 音符の定義は「形声文字において音を表す文字要素(部分)である」これが唯一の音符の定義です。従って形声文字のあるところに音符あり、です。意符と音符を組み合わせて形声文字が生まれるとき、その字の音を表す部分はその前に音符になっていた音符か、今回新たに音符となる文字要素のどちらかです。このようにして、時代が進むにつれ漢字が増加し、形声文字が増加します。
2、 音符家族の中に、更に子音符が存在している。
 基本字の上に意符が付加されて形声文字が作られますが、これを音符家族といいます。更にその形声文字が音符となり、第三世代の形声文字が生まれることも、しばしば発生します。基本字が親音符になり、続いて子音符、更に孫音符と、成長する軌跡が字形の上に残されます。この子音符の存在を、私の漢字音符字典の中にある音符家族で二三例を挙げてみます。
参加費  300円(資料代を含む) ※飲み物は各自、別途注文してください。
参加申込  コピー資料作成の都合がありますので、事前に下記へお申し込みください。
          電話 072-627-0271(石沢誠司)
          メール seijiishizawa@yahoo.co.jp


第6回漢字音符研究会の予定
2017年11月11日(土) 10時30分~12時
会 場 喫茶ほっとはあと 京都市中京区西大路御池北西角  地下鉄東西線「西大路御池」下車すぐ
講 師  石沢誠司氏  ブログ「漢字の音符」編集者
テーマ  人の姿の音符 その2
 私は、ブログ「漢字の音符」に書いた音符の中から人の姿をあらわした音符を中心にまとめた「人の姿の音符 Ⅰ」として冊子にまとめ公開しました。
http://blog.goo.ne.jp/ishiseiji/e/37c3743f834c111a2dcd85ab1fb8e9a0 
 引き続きその続編となる「「人の姿の音符 Ⅱ」をまとめましたので、発表させていただきます。内容は人の姿の変形である、女・母・子などの基本的な字と、これらと結びついて音符となっている字、および老・長・亡などの音符を中心にまとめました。
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2000字で紹介する「七夕」

2017年08月18日 | 七夕
                2000字で紹介する「七夕」

 新暦の七夕は7月7日で、もうひと月以上前に過ぎてしまったが、旧暦(陰暦)の七夕は今年は8月28日。旧暦というのは月の満ち欠けを基本とするので、7日は、三日月のように細い月から4日後の「七日月(半月に近い)」の日をいう。この旧暦の七夕を伝統的七夕と呼んで星や宇宙に思いを馳せる日としている天文施設も多い。月遅れの8月7日に行われる七夕に加え、今年は月末まで七夕の話題が続く。

 スペイン語で日本を紹介する字典をネットで公開している友人から頼まれて「七夕」の項目を引き受けた。「2000字で外国人に分かるように」という注文である。短く分かりやすく書くのは一番難しい。うまく書けたか自信がないが、七夕に興味のある方はお読みください。
 最初はスペイン語、次に私の日本語、最後にポルトガル語の抄訳です。
     以下をクリックしてください。
http://www.introducir-a-la-vida-japonesa.info/cuadragesimooctavo-numero.html





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音符「幵ケン」<たいら・高さをそろえる> と 「研ケン」

2017年08月13日 | 漢字の音符
 ケン・ケイ  干部

解字 干字の形を二つならべて、高さの同じものを二つならべた形を表し、たいらの意。新字体に含まれるとき、幵 ⇒ 开に変化する。
意味 たいらか。たかさがそろう。

イメージ  「たいら・高さをそろえる」 (研・姸・栞・笄) 
音の変化  ケイ:笄  ケン:研・妍  カン:栞

たいら・高さをそろえる
 ケン・とぐ・みがく  石部
解字 旧字は、「石(いし)+幵(たいら)」の会意形声。石や玉をみがいて平らにすること。とぐ・みがく意となる。転じて、自分をみがく・きわめる意となる。現代字は、研となる。
意味 (1)とぐ(研ぐ)。みがく(研く)。「研磨ケンマ」(研も磨も、みがく意)「研(と)ぎ出し」(みがいて光沢や模様を出すこと) (2)[国]刃物をとぐ。「研師とぎし」(刃物をとぐ人) (3)自分をみがく。「研修ケンシュウ」 (4)物事の道理をきわめる。「研究ケンキュウ」「研鑽ケンサン」(着実に研究する)(5)こする。すりつぶす。「薬研ヤゲン」(漢方薬を粉にすりつぶす道具)
姸[妍] ケン   女部
解字 「女(おんな)+幵(=研。みがく)」 の会意形声。化粧や教養をつけ、みがかれた女。新字体に準じた妍も使われる。
意味 うつくしい(姸しい)。なまめかしい。「姸麗ケンレイ」(うつくしくあでやか)「姸好ケンコウ」(器量がよい)
 カン・しおり  木部
解字 「木(き)+幵(高さがそろう)」の会意形声。山林などを歩く時、木の枝を折って(枝折る)道しるべとする意につかう。折った枝の高さが人の手のあたりで揃うから。
意味 しおり(栞)。①枝折(しお)り。山を歩くとき木の枝を折っておき道しるべとすること。②案内書。手引き。「旅の栞しおり」③[国]本の読みかけの所に挟んで、しるしとする紙片や紐。
 ケイ・こうがい  竹部
 商代の骨製笄
解字 「竹(たけ)+幵(高さがそろう)」 の会意形声。高さのそろった竹製の髪に挿す用具。たばねた髪をとめたり、冠を固定するため男女とも用いた。竹は材料の象徴で、実際は骨製が多く玉製もある。本来は実用的な道具であったが、のち、髪飾りとなった。
意味 こうがい(笄)。(1)男女ともに髪をまとめ整える為の道具。形状は細長い一本の棒で、一方の端が細く反対側の端は太くなるか飾りを彫り込んである。冠をとめるため長さの同じ複数のものを使用した。「玉笄ギョクケイ」(玉製のこうがい)「笄年ケイネン」(笄をさす年齢。中国では女子が15歳になると髪を結い、笄をさす儀礼があった) (2)[国]日本髪を整える道具。挿す飾り。髪をまとめる道具だったものが、江戸時代中期頃から次第に髪に挿して飾るようになった。「笄髷こうがいわげ」(笄の周囲に髪の毛を巻きつけた結い方)
<紫色は常用漢字>

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