漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

石沢誠司 「人体の音符 1 手と足」

2018年02月19日 | 漢字音符研究会
第7回  漢字音符研究会
日 時  2018年2月17日(土)
講 師  石沢誠司氏  ブログ「漢字の音符」編集者
テーマ  人体の音符 その1 手と足

              「人体の音符 手と足」 の概要
 手と足で基本となる字は、ユウ・手シュ・寸スン・止・夂・舛セン・之・足ソクである。

手(又・手・寸)を元にした音符
 右手は甲骨文字で指が3本に略されたユウで表される。しかし、この字は「また」の意に仮借カシャ(当て字)され、みぎの意は口を加えたユウで表される。右手に肉[月]をもつ形がユウで、肉が手に「ある」意。一方、左手の甲骨文字はだが、この字は現在使われず、工コウ(ノミ)を持ったが、ひだりの意を表している。右手を長くのばして手の先が奥にとどいて曲がった形がキュウで、数字の九の意だが、「行きどまる」「まがる」イメージで音符となる。
 両手は現代字でキョウの形となり部首として両手の意味で使われる。両手に物をもち相手にささげる形がキョウで、単独では「ともに」の意だが、音符では両手で「ささげる」イメージがある。五本指の「て」はシュで表されるが、この字が出現したのは金文からである。手から骨べら(乙)がすべり落ちた形がシツである。
 スン は甲骨文字で三本指で表した手の下方の湾曲する部分に短い曲線をつけ「ひじ」を表わした字だが、後に長さの単位として使われる。また、又(て)と同じ意味で用いられることもある多用途的な字である。

 足(止・夂・舛・之・足)を元にした音符
 足の指を3本に簡略化した形の甲骨文字が現代字ではになっている。意味は「とまる」だが、音符では「足の動作」に関する意味でも使われる。左右の止(あし)を上下に配した形がで、あるく意。城壁(□)へ向って止(あし)を配したのがセイで、城壁に囲まれた都邑に向かって進撃する意、その都邑を征服することを言った。
 足が下向きに描かれたのがで、上から降下する意。夂が口に下りた形がカクである。口は神への願いである祝詞を納める器を表わす[字統]。各は、祝詞をあげて神に祈り、それに応えて神霊が降り来ること、すなわち「いたる」が字の原義。のち、仮借カシャ(当て字)して、おのおの(各々)の意となった。各を音符に含む字は「神がいたる」「(神と)つながる」イメージがある。
 夂を二つかさねたのがコウで、降コウ(おりる)の原字。一方、左右の足が外側に開いた形がセンで、そむく形だが日本では「ます」と読み、桝ますの原字。この舛センの下に木をつけたケツは、人が木の上で両方の脚を外に開いた形。人が描かれていないが、罪人を木にしばってかかげ、はりつけにする意。金文のリンは、大の字の人が両足をひろげた形(舛)に小点4つを配したかたち。倒れた屍(しかばね)から、鬼火(闇夜に死体の骨から発する光り)が立ちのぼるさまでリンの原字。四角い城壁の上下に逆向きの止(あし)を配したかたちがで、城壁を守備のため巡回する形を表わし、エイ(まもる)の原字。

 止(あし)が、一(線)から出るかたちがで、足が前へすすむ意だが、本来の意味でなく指示・強める意の「これ・この」などに当て字される。之に否定を表すノ印をつけたのがボウで、前に進めず身動きできなくて「とぼしい・まずしい」意になる。
 上に之、下に心をつけたは、心がある方向へむかって出ること。こころざす意となる。現代字は、金文・篆文の之⇒士に変化した志になった。この字は、止(とまる・とどまる)に通じ、心にとどめる・しるす意味もある。
 上に之、下に寸をつけたは、手に文書をもち足で前にすすむ使いを表し、宮中などで働く事務系の下級役人の意。この字は之⇒土に変化した寺になった。寺てらの意は、仏教伝来以降、渡来した僧侶を外国使節の応接・対応を司る役所(鴻臚寺コウロジ)にしばらく住まわせたことから出た。人の上に之(前へすすむ)をつけたのがセンで、先にゆく人を表す。

 止(あし)のかかとの部分に曲線を加えたシュツは、足を強くふみ出して踏み跡をのこして出る意。クツの金文は、「尾+出」の形で、うずくまった獣の尾が地上に出ている形から、うずくまる意。
 最後にソクは、口(ひざ頭)に止(あし)を加えた形で、ひざから足先までの意が原義だが、かかとを含む足先の意味でよく使われる。ソ・ショは、篆文まで足と同じ形だが、現代字は疋に変化した。中国で匹(ひき)の俗字として用いられたため、匹(数える語)の意味で使われるが、音符では「あし・あるく」イメージがある。 


 本文はここをクリックしてください。









コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

音符 「舟シュウ」 <ふね> と 「受ジュ」

2018年02月13日 | 漢字の音符
 シュウ・ふね・ふな  舟部 zhōu
 山東省発掘の丸木舟(『甲骨文字小字典』より)

解字 くり舟の形の象形。甲骨文は舳先(へさき)のない箱型の舟をタテに表している。『甲骨文字小字典』には、山東省で発掘された紀元前二千年紀の丸木舟の写真が掲載されているが、甲骨文字と同じ形をしている。舟は部首となり、舟の意をしめす字をつくる。
 舟は、くり舟であることから、木をくりぬいた鉢・たらい・大皿・おけ等のうつわを示す形として会意文字の中で使われることがある。
意味 (1)ふね(舟)。小さなふね。「舟運シュウウン」「漁舟ギョシュウ」「舟歌ふなうた」 (2)[国]水・湯・酒などを入れる桶。「湯舟ゆぶね」(浴槽)
」 
参考 舟は部首「舟ふね」になる。漢字の左辺について船や船の状態を表す。常用漢字で8字、約14600字を収録する[新漢語林]では51字が収録されている。主な字は以下のとおり。
 舟(部首)
 航コウ(舟+音符「亢コウ」)
 舶ハク(舟+音符「白ハク」)
 船セン(舟+音符「㕣エン」)
 舷ゲン(舟+音符「玄ゲン」)
 艇テイ(舟+音符「廷テイ」)
 艦カン(舟+音符「監カン」)
 般ハン(「舟+殳」の会意)、など。なお、般はさらに音符となる。
舟 航 般 舷 船 舶 艇 艦

 また、舟はかたちを月にかえて部首「月ふなづき」になる。主な字に、
 服フク(月+音符「𠬝フク」)、
 朕チン(「月+关ソウ」の会意)、など。
月 つき・つきへん 月 有 服 朕 朗 望 期 朝
  しかし、現在「月ふなづき」は、部首「月つき・にくづき」に包含され埋もれてしまっている。



 ジュ <うける・うけとる>
 ジュ・シュウ・ズ・うける・うかる  又部 shòu


 上は受、下は舟
解字 甲骨文は「上からの手+舟シュウ(ふね)+下の手」のかたち。[甲骨文字辞典]は「舟の上下に手の形を加えており、水上で舟を受け渡すことを表している。舟は発音も表す亦声エキセイ(意味と発音を兼ねる)の部分とし、意味は、①うける。うけとる。②さずける。授与する。③祭祀の名。④地名」とする。金文も同じ形であり、意味も、①受ける。②さずける、の意味がある。篆文にいたり、上の手が水平に、舟⇒冂、下の手⇒又」になり、現代字は、さらに変化した受になった。発音は、舟シュウから転音した、シュウ(漢音)・ジュ・ズ(呉音)の3音がある。
意味 (1)うける(受ける)。うけとる。もらう。「受賞ジュショウ」「受験ジュケン」「受付うけつけ」(2)うけいれる。「受諾ジュダク」「受容ジュヨウ」(3)こうむる。「受難ジュナン

イメージ  
 「うける・わたす」(受・授・綬)
音の変化  ジュ:受・授・綬

うける・わたす
 ジュ・さずける・さずかる  扌部 shòu
意味 「扌(手)+受(うける・わたす)」の会意形声。手でわたす意では、さずけるになり、手でうける意では、さずかるとなる。
意味 (1)さずける(授ける)「授業ジュギョウ」「授乳ジュニュウ」「授賞式ジュショウシキ」(賞をさずける式)「教授キョウジュ」(2)さずかる(授かる)。「神授シンジュ」(神からさずかる)「天授テンジュ」(天からさずかる。生まれつき備えているもの。また、その才能)
 ジュ  糸部 shòu
解字 「糸(いと⇒織物)+受(うける)」の会意形声。印章や勲章・褒賞をさずかる時に付属している絹織物の小幅帯(テープ)を言う。印章や勲章・褒賞の種類によって小幅帯の色が異なる。現在の勲章の綬は縁取りの線が入っているものが多いので、褒賞ホウショウの綬と、印章インショウの綬について説明する。
意味 (1)褒賞の綬。特定の社会的分野における、事蹟や徳行のすぐれた方に与えられる賞。種類は紅綬、緑綬、黄綬、紫綬、藍綬とあって、綬色によって名称づけられている。金色のメダルを嵌めこんだ具の上に短い綬が付いており、受賞者は綬を衣服に止めて飾る。

  褒章一覧(「叙勲コム」より)下の丸印は略綬(円形の綬で胸に着用できる)
(2)印章の綬
 古代中国で、官職を表す印章を身につけるのに用いた絹織物の幅のある薄帯を綬ジュと言った。印章をもつ官職は書類を見て承認すると押印して、次の官職に回してゆく。現在の押印は朱肉に色を付けてから紙に押すが、古代の書類は竹簡だったから直接の押印はできない。したがって読み終わると竹簡を紐でしっかりと括って、他の人に読まれないような工夫をした。
 それは括った紐の両端を木の枠に通して泥をかぶせ(封泥)、その上から印章を押すことだった。泥が乾くと印章の跡が残るので誰の印章か判る。もし、紐を切って竹簡の一部を差し替えても、封泥を壊さないと紐を換えることができない。そのため印章は現在の印鑑の文字面が凸版になっているのに対し、凹版になっていた。これだと封泥の文字は浮き上がって見える。以下の「中国古代の封泥」(東京国立博物館オンライン講演会)を見ると古代の印章の役割がよく分かる。

 印章は封泥をして次の官に回すため、多くの官職がそれぞれの印章を持ち常に身に帯びていた。印章と衣服を結びつけていたのが綬である。古代の綬がどんな形だったかはっきりしないが、阿部幸信著「印綬が創った天下秩序」(山川出版社)によると「公印だけでなく綬も官給品であり、文献の伝える製法によると綬は細長い絹の織物だった。それぞれの綬には基調となる色が定められており、色の色調が官職の上下によって異なっていた。綬の幅は1尺6寸(38.4㎝)と一定であった。綬の長さは、上位の綬ほど長く、皇帝の綬は2丈9尺(7メートル弱)にも及び、下級官吏の綬でも1丈5尺(約3.6メートル)あったという(「続漢書」)。」
 上記の記述を図版にして展示しているのが、福岡市博物館の「印と綬の説明パネル」である。(https://4travel.jp/travelogue/11727193

パネルの右は、印の材質と綬の色の関係を示しており、最上位の印材である玉璽ジの綬色は赤であり、次の金印は緑と紫の綬、銀印は青綬、銅印は黒綬および黄綬となっている。
 綬がどんな形であったかを図示したのが左図であり、「綬は長く巾広い絹綬で、帯から垂らして端を印章につなぎ懐に入れていた。綬は位によって色が異なり、外見でその人の身分を知ることができる。
 以上、綬について説明させていただいた。東京国立博物館と福岡市博物館のオンライン上の資料を利用させていただき、御礼を申し上げます。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

音符「生セイ 」<地上にはえた若い芽>「姓セイ」「性セイ」「牲セイ」

2018年02月03日 | 漢字の音符
 セイ・ショウ・いきる・いかす・いける・うまれる・うむ・はえる・き・なま  生部  

解字 甲骨文字は草の象形である屮テツが一印の地面から生える形、転じて、「うまれる」意に用いられている[甲骨文字辞典]。金文は草の茎にあたる部分に丸印、篆文は一がつき、結局「屮(草の芽生え)+土」の会意となった。漢代の役人などが使用した隷書では草の形が角ばった形になり、その一方が残り、ノに変形したのが現代字の生となった。はえる・うまれる意となる。
意味  (1)はえる(生える)。はやす(生やす)。草木が芽をだす。「野生ヤセイ」 (2)うむ(生む)。うまれる(生まれる)。「出生シュッセイ」「生産セイサン」 (3)いきる(生きる)。いかす(生かす)。「生活セイカツ」「生存セイゾン」 (4)いのち。「生命セイメイ」 (5)まじり気のない。き。なま。「生一本キイッポン
参考 生は、部首「生いきる」になる。漢字の左辺・右辺・下部について、生む・生まれる意を表す。しかし、この部は非常に少なく、常用漢字では生のほか産サン「彦の略体(額に入れ墨をする)+生(うまれる)の会意」のみ。その他の主な字には、甥セイ(男+音符「生セイ」)、甦「更(かわる)+生(うまれる)の会意」、の2字がある。

イメージ
 「うまれる」
(生・姓・甥)
 「うまれつき」(性)
 「いきている」(牲)
 「はえる」(笙・旌)
音の変化  セイ:生・姓・甥・性・牲・旌  ショウ:笙

うまれる
 セイ・ショウ・かばね  女部
解字 「女+生(うまれる)」の会意形声。女から生まれる子へとつながる血筋。古代の母系制の名残を残す字。
意味 (1)みょうじ。うじ。氏族や家の固有の名。血縁集団の名称。「姓名セイメイ」(名字と名前)「百姓ヒャクショウ」(百の家系。一般の人民。農民) (2)かばね(姓)。古代豪族が地位を示すため世襲した称号。臣・連など。「姓氏セイシ」(かばねとうじ)
 セイ・ショウ・おい  男部
解字 「男+生(うまれる)」の会意形声。姉妹の男子として生まれた子。女系の同族者をいう語のひとつ。
意味 (1)おい(甥)。姉または妹の息子。日本では兄弟姉妹の男の子をいう。「甥舅セイキュウ」(おいとおじ) (2)むこ。娘の夫。

うまれつき
 セイ・ショウ・さが・たち  忄部
解字 「忄(心)+生(うまれつき)」の会意形声。生まれつきもっている心。
意味 (1)生まれつき。さが(性)。たち(性)。「性格セイカク」「性分ショウブン」 (2)物事の本質。「性能セイノウ」 (3)男女の区別。「性別セイベツ」「性交セイコウ

はえる
 ショウ  竹部
 
解字 「竹+生(はえる)」の会意形声。竹が生えそろった形の楽器。
意味 しょう(笙)。しょうのふえ。長さの異なる竹の管を環状に立てた楽器。「笙歌ショウカ」(笙と歌)「笙鼓ショウコ」(笙とつづみ)
 セイ・はた  方部
解字 「方𠂉(旗の略体)+生(はえる)」の会意形声。旗ざおの先に鳥の羽が生えているように付けた旗。旗の総称として用いられる他、表彰する・ほめる意ともなる。
意味 (1)はた(旌)。旗の総称。「旌旗セイキ」(はた。旗の総称)「旌旗セイキ空を蔽(おお)う」(軍勢のさかんなさま)「旌節セイセツ」(節度使[使者]が持つ旗) (2)あらわす。ほめる。表彰する。「旌表セイヒョウ」(ほめて表す)

いきている
 セイ・いけにえ  牛部
解字 「牛(うし)+生(いきたままの)」の会意形声。生きたまま神にそなえる牛。
意味 (1)いけにえ(牲)。祭礼のとき神に供える家畜。「牲殺セイサツ」(いけにえ。いけにえは殺して用いるのでいう)「牲牢セイロウ」(いけにえ) (2)ある目的のために生命や名利を捨てる人。「犠牲ギセイ
<紫色は常用漢字>


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

第7回漢字音符研究会のお知らせ

2018年02月01日 | 漢字音符研究会
            第7回漢字音符研究会のお知らせ

日 時  2018年2月17日(土) 10時30分~12時
会 場  喫茶ほっとはあと  京都市中京区西大路御池北西角  
          地下鉄東西線「西大路御池」下車すぐ 下記をクリックしてください。
         http://www.kyoto-hotheart.jp/cafe/shops/oike/
講 師  石沢誠司氏  ブログ「漢字の音符」編集者
テーマ  人体の音符 その1 手と足
 漢字は絵文字(象形文字)に由来するものが多くある。なかでも人の姿やその部分が特に多くあります。これは日常生活にあって常に目に触れている人のさまざまな形態を絵文字にしたもので、漢字の原点ともいえます。
 今回は、「人体の音符 1 手と足」です。手と足で基本となる字は、又ユウ(右手)・手シュ(5本指の手)・止(足裏のかたち)・夂(下向きの足)・舛セン(左右の足が開いた形)・之(足が線から前にすすむ)・足ソク(あし)・疋(あし)です。これらの基本字が組み合わさって、さまざまな手足をもとにした音符が35字程作られ、さらにこれらの音符から約180字の漢字が生まれています。こうした基本漢字と音符を理解しておくと、効率的に多くの漢字を憶えられます。
参加費  300円(資料代を含む) ※飲み物は各自、別途注文してください。
参加申込  コピー資料作成の都合がありますので、事前に下記へお申し込みください。
          漢字音符研究会連絡先


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする