漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。
精選漢字4340字の音符は部首とどのように結びついているか
私が編集した『音符順 精選漢字学習字典』を使用されている松繁弘之先生から昨年(2020年)10月に以下のような偏旁冠脚の一覧表をメールでいただいた。メールの前書きには「『音符順 精選漢字学習字典』に沿って偏旁冠脚の一覧表を作成いたしました。字典の教材化の一端として、このようなものがあれば便利ではないかと考えたからです。ご参考まで。」と書かれていました。以下がその表の最初の数行です。
この表は上部に、偏(へん)旁(つくり)冠(かんむり)脚(あし)を一区切りとし、さらにその横に、構(かまえ)垂(たれ)繞(にょう)を一区切りとした部首の一覧が配置され、区切りはタテ線が下方に伸びて部首の領域を表している。
一方、左側の欄は、音符が発音の五十音順に配列され『音符順 精選漢字学習字典』に掲載されているすべての音符が掲載されていました。音符の横の欄と、部首のタテの欄が交わるところに記入されているのが、具体的な部首にあたる字で、例えば最初の亜は、偏の欄に口、脚の欄に心があるので、〇がついている音符字の亜アのほか、唖ア・悪アクが音符の家族字であることを示している。
これを見た私は「音符と部首の関係をこのような表であらわす方法があるのか」と感心した。そして、この表のさらに右側に音符と部首によって結びついた字を配列したら、音符と部首の関係が分かる一覧表ができる、と思い至った。そこで松繁先生にこの考えを伝えたところ、「その表は(私・石沢に)お任せします」という返事をいただいた。そこで昨年11月から一覧表の作成にとりかかり、このほど完成した。以下は最初のページの一部です。
この表は音符家族の欄を設けたため、部首の欄は縮小し該当する部首だけを偏旁冠脚の順に記入し、各部首の区切りの間に「/」を入れて区切りがあることを明確にした。こうして出来上がった一覧表は精選漢字の一字一字の構造を明らかにしたものといえる。
『音符順 精選漢字学習字典』には2136字の常用漢字をはじめ、漢検準1級に配当されるすべての字(843字)、さらに漢検1級字の中から重要と思われる1361字を含む、4340字が収録されている。いわば現在の日本で最もよく用いられる重要漢字の集まりである。これらの重要漢字が、その音符と部首がどのように結びついて成立しているかを明らかにしたものです。
以下に公開させていただきます。
最初だけ見たい方
精選漢字の音符と部首の対応関係一覧表(最初から3頁まで)
全てを見たい方
精選漢字の音符と部首の対応関係一覧表(全頁。36頁)
『音符順 精選漢字学習字典』については以下をごらんください。
『音符順 精選漢字学習字典 ネット連動版』 - 漢字の音符 (goo.ne.jp)
7月28日(土)午後、神戸市長田区の神戸定住外国人支援センターで開催された研修会で「音符を活用した漢字の学習方法」というテーマで話をさせていただきました。
集まったのは神戸に住む外国人に日本語学習を支援しているボランティアの方々13名。最初に私が強調したのは、漢字は絵文字から始まっているので基本漢字は絵文字から説明すると分かりやすい、ということです。私は常日頃から外国人に漢字を教えるのは絵文字から教えるのが一番効果があると思っていました。ですから、今回ボランティアの方々にもこの点を強調させていただいた次第です。木および木から派生した未、末、また水・川・女・母、それから又(もと右手の意)などについて絵文字から漢字への変遷をお話しました。
神戸定住外国人支援センターで
漢字音符とは何か
続いて漢字音符の説明です。漢字音符は「部首+音符」の形で現れるのが普通です。そこで、一つの例として橋キョウの字の音符である喬キョウを取り上げました。この字の成り立ちから、①たかい。②たかく曲がる。③まがる、という音符イメージ(メッセージ)があることを説明し、①のイメージでは、喬キョウ・驕キョウ、②では、橋キョウ・僑キョウ・嬌キョウ・蕎キョウ、③では矯キョウ、などの字が導かれることを説明しました。
このうち常用漢字は橋だけですが、音符イメージと部首を組み合わせると、合計7つの漢字が芋づる式に覚えられ、しかもこの音符の場合、発音がすべてキョウです。こんなおいしい覚え方は他にありません。最初、すこし固い表情だった参加者のみなさんも徐々になごんできました。
このあと、同じ音符でも発音が全くことなった字となる会意という結合方法は、音符としての役割を果たさないが、音符の意味が継続されるので準音符として扱うことを説明しました。(例:音符牙ガの芽ガ:雅ガは形声文字、一方、邪ジャ・穿センは会意文字)
テキスト「人の姿の音符1」を使って
ここまでが前半の1時間。後半は私が作成した資料「人の姿の音符1」をテキストとして進めさせていただきました。このテキストは人の立った姿や坐った姿だけを集めた音符ですが、例えば人のなかには、前後に並んだ从ジュウ(從の原字)、右向きに並んだ比ヒ、二人が背をむけた北ホク、立った人と逆さになった人が組み合わさった化カなどがあり、坐った人の姿には卩セツ、欠ケン(口をあけた形)、旡キ(後ろをむいて口をあけた形で既キの原字)など、合計35の音符を収録してあります。
このテキストを最初から最後まで説明すると、通常の授業の4~5回分となりますので、この日は最初の目次に出ている基本音符の横に古代文字を書き込んでいただきながら、簡単に成り立ちを説明するかたちにしました。一通り説明して残りの時間で、音符の中から化カ(かわる・かえる)と夾キョウ(はさむ・はさまれる)を選んで本文の説明をしました。このころになるとみなさん説明にひとつづつ頷いてくれる方が多く、漢字音符をご理解いただいたんだなと嬉しくなりました。研修終了後、ボランティアの方々から、「今まで部首を中心に漢字を教えていたが、音符の役割がよく分り大変参考になりました」という感想をいただきました。
本研修では、当支援センターの日本語コーディネーター・奥優伽子さんにお世話になりました。御礼を申し上げます。
第8回漢字音符研究会 2018年5月12日(土)
テーマ 漢字を学ぶ順序はこれで良いのか
~小学校の学年別配当漢字の逆順現象を考える~
『漢字音符字典』著者・漢字教育士 山本康喬
小学校の学年別配当漢字は、文部科学省が告示する学習指導要領の付録「学年別漢字配当表」によって定められおり、学年別の文字数と文字そのものが決められている。例えば小学1年では以下の80字が配当されている。
一 右 雨 円 王 音 下 火 花 貝 学 気 九 休 玉 金 空 月 犬 見 五 口 校 左 三 山 子 四 糸 字 耳 七 車 手 十 出 女 小 上 森 人 水 正 生 青 夕 石 赤 千 川 先 早 草 足 村 大 男 竹 中 虫 町 天 田 土 二 日 入 年 白 八 百 文 木 本 名 目 立 力 林 六
いずれも基本的な漢字ばかりだが気になるのは、赤色にした花カ・校コウ・村ソン・町チョウの4字である。これらの漢字の音符は、化カ・交コウ・寸スン・丁チョウで、これらも基本漢字だが、化は3年、交は2年、寸は6年、丁は3年に配当されている。特に花カ・校コウ・町チョウの発音は化カ・交コウ・丁チョウの発音そのものであり、これらの漢字はもっと早く教えたほうが、花・校・町の発音を覚えるのに役立つのではないか。
こうした漢字は学年別の「逆順配当」と呼ばれているが、さらに小学2年では、例えば線センは小学2年で学ぶのに、泉センは6年で学ぶ。明らかに不自然で、漢字の字形の成長を無視した学習の順序になっている。更に、議ギを4年で学ぶのに、義ギは5年で、そして義(羊+我)を構成する基本漢字の我ガは6年にされている。子供たちは階段を一歩一歩上がるように習得しているのに、二~三段を飛ばせるようにして複雑な字から与え、後で階段を降りさせている。
漢字には、生まれてから部品が付加されて育ってゆく順序がある。この順序に逆らったものが今の配当漢字にある。この逆順配当は部分的には多くの指導者が気付き、その問題であることを指摘していたが、初めてまとめて論じられたのは平成27年4月に発行された、明治書院刊の「日本語学」誌の臨時増刊号「漢字の指導法」においてであった。ただ、その存在の全貌を体系的に指摘したのは、平成28年8月に立命館大学主催の漢字教育士研修会において漢字教育士の山本康喬が音符による漢字分類の方法に基づきリストアップしたのが最初であり、80字もの逆順があることが明確になった。以下にその詳細を紹介します。
小学校の逆順配当の漢字
以下は学年ごとの逆順配当漢字である。まず各学年とその逆順配当漢字数およびその漢字を列挙し、その下に基本字(音符)ごとに、逆順漢字、その他の学習漢字、の順に配列した。
青字は基本字(音符)。赤字は各学年の逆順配当漢字。黒字は小学校配当漢字(教育漢字)である。
各漢字の最初に付した①~⑥は小学校の各学年、⑦~⑨は中学校の各学年、⑩は高校の配当漢字。
※中学校・高校の学年配当の公式規定はない。教科書会社・日本漢字検定協会が適宜定めている。
小学1年(4字) 花・校・村・町
基本字③化カ・ケ・ばける ①花はな・カ ④貨カ
基本字②交コウ・まじわる ①校コウ ⑤効コウ
基本字⑥寸スン ①村ソン・むら ⑥討トウ・うつ
基本字③丁チョウ・テイ ①町チョウ・まち ③打ダ・うつ ⑥頂チョウ・いただく
小学2年(16字) 何・歌・記・近・紙・室・週・電・店・点・線・組・頭・妹・友・野
基本字⑤可カ・べし ②何カ・なに ②歌カ・うた ③荷カ・になう ⑤河カ・かわ
基本字⑥己キ・おのれ ②記キ・しるす ③起キ・おきる ③配ハイ・くばる ④紀キ・のり ④改カイ・あらためる
基本字⑧斤キン・おの ②近キン・ちかい
基本字④氏シ・うじ ②紙シ・かみ
基本字⑥至シ・いたる ②室シツ・へや
基本字④周シュウ・まわり ②週シュウ・めぐる
基本字③申シン・もうす ②電デン・いなずま ③神シン・かみ ※電の下部は申の変形
基本字⑦占セン・うらなう ②店テン・みせ ②点テン
基本字⑥泉セン・いずみ ②線セン・すじ
基本字⑨且ショ・かつ ②組ソ・くみ ③助ジョ・たすける ⑤祖ソ
基本字③豆トウ・まめ ②頭トウ・あたま ③短タン・みじかい
基本字④未ミ・ビ・いまだ ②妹マイ・いもうと ③味ミ・ビ・あじ
基本字⑧又ユウ・また ②友ユウ・とも
基本字③予ヨ・われ・あらかじめ ③野ヤ・の ⑤預ヨ・あずける ⑤序ジョ・はじまり
小学3年(27字) 泳・談・界・階・客・落・路・院・館・級・球・港・運・係・仕・使・事・指・鉄・昭・消・速・庭・悲・病・勉・命
基本字⑤永エイ・ながい ③泳エイ・およぐ
基本字⑧炎エン・ほのお ③談ダン・かたる
基本字⑦介カイ・たすける ③界カイ・さかい
基本字⑦皆カイ・みな ③階カイ・きざはし
基本字④各カク・おのおの ③客キャク ③落ラク・おちる ③路ロ・みち ⑤格カク ⑤額ガク・ひたい ⑤略リャク・ほぼ
基本字④完カン ③院イン
基本字④官カン・おおやけ ③館カン・やかた ④管カン・くだ
基本字⑦及キュウ・およぼす ③級キュウ・くらい ③急キュウ・いそぐ ⑥吸キュウ・すう
基本字④求キュウ・もとめる ③球キュウ・たま ④救キュウ・すくう
基本字④共キョウ・ともに ③港コウ・みなと ⑥供キョウ・ク・そなえる
基本字④軍グン ③運ウン・はこぶ ⑥揮キ・ふるう
基本字⑥系ケイ・つなぐ ③係ケイ・かかり ④孫ソン・まご
基本字④士シ・さむらい ③仕シ・つかえる
基本字④史シ・ふみ ③使シ・つかい ③事シ・こと
基本字⑦旨シ・むね ③指シ・ゆび
基本字④失シツ・うしなう ③鉄テツ・てつ
基本字⑦召ショウ・めす ③昭ショウ・あきらか ④照ショウ・てらす ⑤招ショウ・まねく
基本字⑨肖ショウ・にる ③消ショウ・けす
基本字④束ソク・たば ③速ソク・はやい
基本字⑨廷テイ ③庭テイ・にわ
基本字⑤非ヒ・わるい ③悲ヒ・かなしい ⑤罪ザイ・つみ ⑥俳ハイ
基本字⑨丙ヘイ・ひのえ ③病ビョウ・やまい
基本字⑧免メン・ゆるす ③勉ベン・つとめる ⑥晩バン・おそい
基本字④令レイ ③命メイ・いのち ④冷レイ・つめたい ⑤領リョウ・えりくび
小学4年(15字) 芽・議・械・機・結・便・候・菜・賞・堂・積・節・側・努・望
基本字⑩牙ガ・きば ④芽ガ・め
基本字⑥義ギ・よい ④議ギ・はかる
基本字⑦戒カイ・いましめる ④械カイ・からくり
基本字⑦幾キ・いくつ ④機キ・はた
基本字⑧吉キチ・キツ・よい ④結ケツ・むすぶ
基本字⑦更コウ・さらに ④便ベン・たより
基本字⑨侯コウ ④候コウ・うかがう
基本字⑩采サイ・つみとる ④菜サイ・やさい ⑤採サイ・とる
基本字⑨尚ショウ・なお ②当[當]トウ・あたる ④賞ショウ・ほうび ④堂ドウ ⑤常ジョウ・つね ⑥党トウ・なかま
基本字⑤責セキ・せめる ④積セキ・つむ ⑤績セキ・つむぐ
基本字⑦即ソク・すなわち ④節セツ・ふし
基本字⑤則ソク・のり ④側ソク・がわ ⑤測ソク・はかる
基本字⑦奴ド・やっこ ④努ド・つとめる
基本字⑥亡ボウ・ない ④望ボウ・のぞむ ⑥忘ボウ・わすれる
小学5年(9) 刊・慣・寄・混・謝・銃・増・程・務
基本字⑥干カン・ほす ⑤刊カン
基本字⑧貫カン・つらぬく ③実[實]ジツ・みのる ⑤慣カン・なれる
基本字⑦奇キ・めずらしい ⑤寄キ・よる
基本字⑨昆コン・むし ⑤混コン・まぜる
基本字⑥射シャ・いる ⑤謝シャ・あやまる
基本字⑨充ジュウ・みちる ⑤統トウ・すべる
基本字⑩曽ソ・かつて ⑤増ゾウ・ます ⑥層ソウ・かさなる
基本字⑨呈テイ・しめす ⑤程テイ・ほど ⑥聖セイ・ショウ・ひじり
基本字⑦矛ム・ほこ ⑤務ム・つとめる
小学6年(9字) 鋼・株・認・済・装・糖・純・棒・優
基本字⑩岡コウ・おか ⑥鋼コウ・はがね
基本字⑦朱シュ・あか ⑥株シュ・かぶ
基本字⑨刃ジン・ニン・は ⑥認ニン・みとめる
基本字⑨斉セイ・サイ ⑥済サイ・すむ
基本字⑨壮ソウ・さかん ⑥装ソウ・よそおう
基本字⑦唐トウ・から ⑥糖トウ・あめ
基本字⑨屯トン・たむろ ⑥純ジュン・まじりけがない
基本字⑧奉ホウ・たてまつる ⑥棒ボウ
基本字⑧憂ユウ・うれえる ⑥優ユウ・すぐれる
逆順配当漢字をどう考えるか
漢字には、生まれてから部品が付加されて育ってゆく順序がある。この順序に逆らったものが今の学年別配当漢字にある。子供たちは階段を一歩一歩上がるように習得しているのに、二~三段を飛ばせるようにして複雑な字から与え、後で階段を降りさせている。こうした逆順漢字が80字あるのは、教える先生もやりにくいのではないだろうか。
しかし一方で、各学年配当の漢字は基本漢字を中心にするものの、1年生で「学校」や「町村」などの身近でよく使われる漢字を含めているのはやむを得ないことであろう。また、逆順配当を訂正するのが妥当と判断される漢字がある場合でも、文部科学省の学習指導要領で決まっている事柄であり、訂正には手続きと多くの時間を必要とする。こうした事情を考えると、まず逆順漢字をどう教えるかの問題が検討されなければならない。
逆順漢字をどう教えるか
逆順漢字をどう教えるか。それは「最も基本となる字は最初に教えればよい」この原則を最小限の形で守ればよいのではないだろうか。例えば、「校」を教えるときに、「校は木と交が合わさってできた漢字で、交はコウと発音するので、校の発音はコウです」と、分解した漢字の一方が発音を表すことを教えればよいと思う。また「町」は「町は田と丁が合わさった漢字で、まち・チョウと読みますが、チョウの発音は丁がチョウと発音するからです」と教えればよいと思う。
同じように、「花は、艹(草かんむり)と化カが合わさった字で、はな・カと読みますが、カの発音は化がカと発音するからです。「村は木と寸が合わさった字で、むら・ソンと読みますが、ソンの発音は寸がソンと発音するからです。しかし寸はスンという発音もあります」と教えればよいのではないか。
逆順の基本漢字はどう教えるか
では、のちに逆順の基本漢字が出てきたとき、どう教えたらいいのだろうか。例えば、1年の逆順漢字の基本字は、2年で交コウ、3年で化カ、丁チョウ、6年で寸スンが出てくる。2年で交コウを学んだのち、復習として「1年で覚えた校コウは、木と交コウからできているから発音は校コウだったね」と確認すればよいと思う。同じように3年では化カを学んだのち「1年で覚えた花(はな)は艹(草かんむり)と化カからできているから発音は花カだったね」、丁チョウを学んだのち「1年で覚えた町(まち)は田と丁チョウからできているから発音は町チョウだったね」と確認すればよいだろう。6年では寸を学んだのち、「1年で覚えた村(むら)は木と寸スンからできているけれど、発音は村ソンとなっているね。これは寸にはスンのほかにソンという読み方もあるからだよ」と教えればよいと思う。
こうした教え方をすることにより、子供たちの頭のなかに「漢字とは分解できるものがある」という発想を植え付けることができ、字形構造の体系を教える良い機会となる。また、例えば小学6年生では、1年~6年までの逆順配当の体系を取り上げて、正しい順序とつながりを説明したらどうだろうか。字形構造の体系(つながり)を教える良い機会となるだろう。
「漢字音符字典」の活用
上図は私が編集した『漢字音符字典』(東京堂出版:2012年)の中から、小学1年の逆順配当になっている漢字の音符(基本字)をまとめて編集した表である。上段は音符(基本字)、下段は音符を含む漢字(音符家族)を配列している。常用漢字は赤字になっており、赤字の右上の小さな数字は、本稿で示した①~⑩と同じく、小学校・中学校・高校の学年漢字を指している。この表には1年の字を黄色い〇で囲っている。したがって、この表を見ると、基本字は何年生で学ぶのか、そのほかに小学校で学ぶ漢字はどんなものがあり、その漢字は何年生で学ぶか、が一目で分かるようになっている。小学校さらに中学校の先生方に活用していただければ幸いである。
第8回漢字音符研究会のお知らせ
日 時 2018年5月12日(土)10時30分~12時
会 場 喫茶ほっとはあと 京都市中京区西大路御池北西角
地下鉄東西線「西大路御池」下車すぐ http://www.kyoto-hotheart.jp/cafe/shops/oike/
講 師 山本康喬氏 『漢字音符字典』著者・漢字教育士
テーマ 漢字を学ぶ順序はこれで良いのか
~小学校の学年別配当漢字の逆順現象を考える~
小学校の学年別配当漢字は、学習指導要領の付録「学年別漢字配当表」によって定められている。例えば小学1年では以下の80字が配当されている。
一 右 雨 円 王 音 下 火 花 貝 学 気 九 休 玉 金 空 月 犬 見 五 口 校 左 三 山 子 四 糸 字 耳 七 車 手 十 出 女 小 上 森 人 水 正 生 青 夕 石 赤 千 川 先 早 草 足 村 大 男 竹 中 虫 町 天 田 土 二 日 入 年 白 八 百 文 木 本 名 目 立 力 林 六
いずれも基本的な漢字ばかりだが気になるのは、赤色にした花カ・校コウ・村ソン・町チョウの4字である。これらの漢字の音符は、化カ・交コウ・寸スン・丁チョウで、これらも基本漢字だが、化は3年、交は2年、寸は6年、丁は3年に配当されている。特に花カ・校コウ・町チョウの発音は化カ・交コウ・丁チョウの発音そのものであり、これらの漢字はもっと早く教えたほうが、花・校・町の発音を覚えるのに役立つのではないか。
こうした漢字は学年別の「逆順配当」と呼ばれているが、さらに小学2年では、何カ(可カ:5年)・記キ(己キ:6年)・近キン(斤キン:中学)・紙シ(氏シ:4年)・室シツ(至シ:6年)・週シュウ(周シュウ:4年)・電デン(申シン:3年)・活カツ(舌カツ・ゼツ:2年[ゼツ])・点テン(占セン:中学)・線セン(泉セン:6年)・組ソ(且ソ:中学)・頭トウ(豆トウ:3年)・妹マイ(未ミ:4年)・友ユウ(又ユウ:中学)・野ヤ(予ヨ:3年)の15字ある(カッコ内は音符)。そして小学校6年間の逆順配当字の合計は実に79字になる。
逆順配当は部分的には多くの指導者が気付き、その問題であることを指摘していたが、初めてまとめて論じられたのは平成27年4月に発行された、明治書院刊の「日本語学」誌の臨時増刊号「漢字の指導法」においてであった。ただ、その存在の全貌を体系的に指摘したのは、平成28年8月に立命館大学主催の漢字教育士研修会において漢字教育士の山本康喬が音符による漢字分類の方法に基づきリストアップしたのが最初であり、79字もの逆順があることが明確になったのです。
今回の研究会では、小学校の逆順配当字の一覧を紹介したうえで、こうした現象をどう考えたら良いのか。字形の基本字は真っ先に教えるべきか。それとも良く使われる基本字を配当漢字にすべきか。また逆順配当になった漢字をどう教えたらよいか。これらについて考えます。小学校の先生方の参加を期待します。
参 加 費 300円(資料代を含む) ※飲み物は各自、別途注文してください。
参加申込 コピー資料作成の都合がありますので、事前に下記へお申し込みください。
メールでお申込の方
電話でのお申込みも可能です。 Tel. 072-627-0271(石沢)
第7回 漢字音符研究会
日 時 2018年2月17日(土)
講 師 石沢誠司氏 ブログ「漢字の音符」編集者
テーマ 人体の音符 その1 手と足
「人体の音符 手と足」 の概要
手と足で基本となる字は、又ユウ・手シュ・寸スン・止シ・夂チ・舛セン・之シ・足ソクである。
手(又・手・寸)を元にした音符
右手は甲骨文字で指が3本に略された又ユウで表される。しかし、この字は「また」の意に仮借カシャ(当て字)され、みぎの意は口を加えた右ユウで表される。右手に肉[月]をもつ形が有ユウで、肉が手に「ある」意。一方、左手の甲骨文字はナサだが、この字は現在使われず、工コウ(ノミ)を持った左サが、ひだりの意を表している。右手を長くのばして手の先が奥にとどいて曲がった形が九キュウで、数字の九の意だが、「行きどまる」「まがる」イメージで音符となる。
両手は現代字で廾キョウの形となり部首として両手の意味で使われる。両手に物をもち相手にささげる形が共キョウで、単独では「ともに」の意だが、音符では両手で「ささげる」イメージがある。五本指の「て」は手シュで表されるが、この字が出現したのは金文からである。手から骨べら(乙)がすべり落ちた形が失シツである。
寸スン は甲骨文字で三本指で表した手の下方の湾曲する部分に短い曲線をつけ「ひじ」を表わした字だが、後に長さの単位として使われる。また、又(て)と同じ意味で用いられることもある多用途的な字である。
足(止・夂・舛・之・足)を元にした音符
足の指を3本に簡略化した形の甲骨文字が現代字では止シになっている。意味は「とまる」だが、音符では「足の動作」に関する意味でも使われる。左右の止(あし)を上下に配した形が歩ホで、あるく意。城壁(□)へ向って止シ(あし)を配したのが正セイで、城壁に囲まれた都邑に向かって進撃する意、その都邑を征服することを言った。
足が下向きに描かれたのが夂チで、上から降下する意。夂チが口に下りた形が各カクである。口は神への願いである祝詞を納める器を表わす[字統]。各は、祝詞をあげて神に祈り、それに応えて神霊が降り来ること、すなわち「いたる」が字の原義。のち、仮借カシャ(当て字)して、おのおの(各々)の意となった。各を音符に含む字は「神がいたる」「(神と)つながる」イメージがある。
夂チを二つかさねたのが夅コウで、降コウ(おりる)の原字。一方、左右の足が外側に開いた形が舛センで、そむく形だが日本では「ます」と読み、桝ますの原字。この舛センの下に木をつけた桀ケツは、人が木の上で両方の脚を外に開いた形。人が描かれていないが、罪人を木にしばってかかげ、はりつけにする意。金文の粦リンは、大の字の人が両足をひろげた形(舛)に小点4つを配したかたち。倒れた屍(しかばね)から、鬼火(闇夜に死体の骨から発する光り)が立ちのぼるさまで燐リンの原字。四角い城壁の上下に逆向きの止(あし)を配したかたちが韋イで、城壁を守備のため巡回する形を表わし、衛エイ(まもる)の原字。
止(あし)が、一(線)から出るかたちが之シで、足が前へすすむ意だが、本来の意味でなく指示・強める意の「これ・この」などに当て字される。之に否定を表すノ印をつけたのが乏ボウで、前に進めず身動きできなくて「とぼしい・まずしい」意になる。
上に之、下に心をつけた志シは、心がある方向へむかって出ること。こころざす意となる。現代字は、金文・篆文の之⇒士に変化した志になった。この字は、止シ(とまる・とどまる)に通じ、心にとどめる・しるす意味もある。
上に之、下に寸をつけた寺ジは、手に文書をもち足で前にすすむ使いを表し、宮中などで働く事務系の下級役人の意。この字は之⇒土に変化した寺になった。寺てらの意は、仏教伝来以降、渡来した僧侶を外国使節の応接・対応を司る役所(鴻臚寺コウロジ)にしばらく住まわせたことから出た。人の上に之(前へすすむ)をつけたのが先センで、先にゆく人を表す。
止(あし)のかかとの部分に曲線を加えた出シュツは、足を強くふみ出して踏み跡をのこして出る意。屈クツの金文は、「尾+出」の形で、うずくまった獣の尾が地上に出ている形から、うずくまる意。
最後に足ソクは、口(ひざ頭)に止(あし)を加えた形で、ひざから足先までの意が原義だが、かかとを含む足先の意味でよく使われる。疋ソ・ショは、篆文まで足と同じ形だが、現代字は疋に変化した。中国で匹(ひき)の俗字として用いられたため、匹(数える語)の意味で使われるが、音符では「あし・あるく」イメージがある。
本文はここをクリックしてください。
第7回漢字音符研究会のお知らせ
日 時 2018年2月17日(土) 10時30分~12時
会 場 喫茶ほっとはあと 京都市中京区西大路御池北西角
地下鉄東西線「西大路御池」下車すぐ 下記をクリックしてください。
http://www.kyoto-hotheart.jp/cafe/shops/oike/
講 師 石沢誠司氏 ブログ「漢字の音符」編集者
テーマ 人体の音符 その1 手と足
漢字は絵文字(象形文字)に由来するものが多くある。なかでも人の姿やその部分が特に多くあります。これは日常生活にあって常に目に触れている人のさまざまな形態を絵文字にしたもので、漢字の原点ともいえます。
今回は、「人体の音符 1 手と足」です。手と足で基本となる字は、又ユウ(右手)・手シュ(5本指の手)・止シ(足裏のかたち)・夂チ(下向きの足)・舛セン(左右の足が開いた形)・之シ(足が線から前にすすむ)・足ソク(あし)・疋ソ(あし)です。これらの基本字が組み合わさって、さまざまな手足をもとにした音符が35字程作られ、さらにこれらの音符から約180字の漢字が生まれています。こうした基本漢字と音符を理解しておくと、効率的に多くの漢字を憶えられます。
参加費 300円(資料代を含む) ※飲み物は各自、別途注文してください。
参加申込 コピー資料作成の都合がありますので、事前に下記へお申し込みください。
漢字音符研究会連絡先
第6回漢字音符研究会 2017年11月11日(土)
テーマ 人の姿の音符 そのⅡ
講 師 石沢誠司氏 ブログ「漢字の音符」編集者
人の姿の音符Ⅱの概要
人の姿の音符Ⅰで取り上げた以外の主な字は、大きく分けると「女ジョ」「母ボ」「子シ」「老ロウ」がある。
女ジョは、人がひざまずいて手を前に交えている形で女性を表す。その横に口を置いた如ジョは、「いかが」「ごとし」の意味になるが、本来は神に祈って神意に「したがう」意。女に又(右手の意)がついた奴ドは、女を手で捕らえ自由をなくし奴隷とする意。女だけでなく男女の奴隷に用いる。
女が建物の中にいる形が安アンで、静かで落ち着いた安らかなさまの意。「日+女」の妟エンは、日が穴のあいた玉であると考えられ、玉を頭部につけ陽の力をえて生き生きとする女を表す。宴エンの原字。一方、妟エンを匸(はこ形のかこい)に入れた匽エンは、女が陽気を失くして伏せる意。
手にカンザシを持ち頭髪にさすかたちが妻サイで、婚儀のときの髪形であり結婚した女性を示す。女のうえに辛シン(入れ墨をする針)をつけた妾ショウは、針で女の額に入れ墨をするかたち。入れ墨で識別された女奴隷をいう。後に、貴人につかえる女性、正妻以外の夫人の意となった。
女に両方の乳房を点で加えた形が母ボで、子を生み育てる母の意。母の字は、また、否定・打消しに仮借カシャ(当て字)して用いられたが、のち両方の乳房を直線化したのが毋ブで、禁止・否定を表す助字となる。母(=女性)の頭髪にカンザシをさして髪をととのえたかたちが毎マイで、朝起きるたびに髪をととのえなおすので、ごと(毎)の意味になる。
若い巫女(みこ)が右に頭をかたむけた形が夭ヨウで、身をくねらせる形。夭とは逆に左に頭をかたむけた形が夨ショクで、同じく身をくねらせる形。これに口をつけた呉ゴは、身をくねらせて笑うのが原義で娯ゴの原字。また、若ジャクの甲骨文は巫女が髪を振り乱して手を上げ、神意をききとる形。若い意のほか、ごとし(若し)などの意味になる。
小さな子供をかたどったのが子シで、円で頭を交差する十字で両手と胴を表わす。孚フは、子に上からの手をつけた形で子供を手でかかえあげるさま。皿(たらい)の上に子があるのが孟モウで、生まれた子に産湯をつかわせる形。生まれて最初の儀礼であるから始めの意味を表す。兄弟やその他の序列にも及ぼして用いる。呆ホウは、子をおむつや産衣で包んだ形。生まれた子は何も分からないため、転じて、おろかの意となった。子が下向きになったのが𠫓トツで、赤子が頭を下にした正常な姿で生まれるさま。これに出産の羊水を加えたかたちの㐬リュウは、ながれでる意で流の原字。
長髪の人が杖をついている形が老ロウで、老人を表す。孝コウは、老の略体に子をつけた形で、子が老人を大切にすること。また、老の略体に丂コウ(まがる意)をつけた考コウは、腰のまがった老人の意だが、同音の校コウに通じ、かんがえる(校比=考え比べる)、くらべて調べる(校書・校訂)意味でつかわれる。老人の長髪を象ったのが長チョウで長い意。人がかくれる姿が亡ボウで、かくれる・なくなる意となる。
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第6回漢字音符研究会のお知らせ
日 時 2017年11月11日(土) 10時30分~12時
会 場 喫茶ほっとはあと 京都市中京区西大路御池北西角 地下鉄東西線「西大路御池」下車すぐ
http://www.kyoto-hotheart.jp/cafe/shops/oike/
講 師 石沢誠司氏 ブログ「漢字の音符」編集者
テーマ 人の姿の音符 その2
漢字は絵文字(象形文字)に由来するものが非常に多い。なかでも人の姿やその部分が特に多い。これは日常生活にあって常に目に触れている人のさまざまな形態を絵文字にしたもので漢字の原点ともいえる。私は、ブログ「漢字の音符」で紹介した音符の中から人の姿をかたどった音符を中心にまとめた冊子「人の姿の音符 Ⅰ」を本グログで2017年3月8日に公開しました。
http://blog.goo.ne.jp/ishiseiji/e/37c3743f834c111a2dcd85ab1fb8e9a0
今回は、引き続きその続編となる「「人の姿の音符 Ⅱ」をまとめましたので、発表させていただきます。内容は人の姿の変形である、女・母・子などの基本的な字と、これらと結びついて音符となっている字、および老・長・亡などの音符を中心にまとめました。
参加費 300円(資料代を含む) ※飲み物は各自、別途注文してください。
参加申込 コピー資料作成の都合がありますので、事前に下記へお申し込みください。
電話 072-627-0271(石沢誠司)
メール seijiishizawa@yahoo.co.jp
<予告> 第7回漢字音符研究会の予定
以下の予告は継続して準備する必要があるため取り止めになりました。ご了承ください。
日 時 2018年1月13日(土) 10時30分~12時
会 場 喫茶ほっとはあと 京都市中京区西大路御池北西角 地下鉄東西線「西大路御池」下車すぐ
講 師 山本康喬氏 『漢字音符字典』著者・漢字教育士
テーマ 漢字の基本形 300字
主 旨 (狙い 目的)
小中学校での漢字教育では、一つ一つの漢字を個別に憶えることが、一般的である。もし文字の数が少なく、百字や二百字ほどであれば個別に憶えた方が効率が良い。しかし、漢字は中学卒業までに、国語の時間に習う常用漢字だけでおよそ二千字あり、それ以外にも人名・地名によく用いられる漢字や、理科や歴史の用語に使われるものなどがあるので、少なくとも三千字程度は知っておく必要がある。文系の高等教育まで考慮すれば、四千字~五千字程度の知識は必要であろう。
三千字あるいはそれ以上を、個別に憶えるのは大変である。しかし、会意文字や形声文字は、複数の字形を組み合わせて作られているので、漢字を分解すると、意味のある形としては三百ほどにまとめられる。(方法によって数値は上下する)。それで三千字を個別に憶えるよりも三百程の基本形を憶え、その組み合わせとして三千種類の漢字を理解した方が、効率が良くまた強く印象に残ることになる。学校教育において、現在の字形が何を構成要素としているのかを知っておいた方が、効率的に多くの漢字を憶えられるのである。(以上は、落合淳思著『漢字の成り立ち』の「結び」の部分を抜粋させていただきました。)
私も落合淳思先生の文章に触発され、学校での効率的な漢字教育を目的として三百程の漢字の基本形(構成要素)をまとめることにしたい。
第5回漢字音符研究会 2017年9月9日(土)
テーマ 親音符から子音符・孫文字への成長
~音符家族の成長過程を見る~
講 師 山本康喬 『漢字音符字典』著者・漢字教育士
1.1 親音符から子音符・孫音符へ
上の図版は私の『漢字音符字典』の音符「工コウ」のページです。工の字形で「コウ」の発音をもつ文字が18字集まっています。音符である工を除く17字は、音符「工」を親音符とすると、親から生まれた形声文字で子どもに当たる世代の字です。ただし、槓コウ・熕コウ・鴻コウは、孫にあたる世代の字で、子供にあたる世代の字の貢コウ・江コウから生まれています。貢コウ、江コウは音符だからです。繰り返しになりますが、その中でも江コウと貢コウは、更に音符となり、形声文字を作っています。
貢コウ・ク・みつぐ ⇒ 槓コウ・てこ[木+貢] ・ 熕コウ・大砲[火+貢]
江コウ・え ⇒ 鴻コウ・おおとり[鳥+江]
この例から分かるように、一つの基本的な音符は、親から子・孫へと広がって次々と漢字を増やしてゆく様子が見てとれます。
同じような例は多く見ることができます。以下に、いくつか挙げてみます。ここでは該当する音符のみを紹介します。
左から、親音符 ⇒ 子音符 ⇒ 孫の字の順です。子音符・孫の形声文字の分解は「部首+音符」の順です。
「寺ジ・てら」 ⇒ 時ジ・とき[日+寺] ⇒ 蒔シ・ジ・まく[艹+時] ・ 塒シ・ジ・ねぐら[土+時]
親音符「寺ジ」は形声文字の子音符「時ジ」となり、さらに形声孫文字・蒔シ・ジ、塒シ・ジをつくる。
「召ショウ・めす」 ⇒ 昭ショウ・あきらか[日+召] ⇒ 照ショウ・てる[灬+昭]
「尚ショウ・たっとぶ」 ⇒ 賞ショウ[貝+尚] ⇒ 償ショウ・つぐなう[イ+賞]
「亲シン」 ⇒ 新シン・あたらしい[斤+亲] ⇒ 薪シン・たきぎ[艹+新] ・ 噺はなし[口+新]<国字>
親音符「亲シン」は形声文字の子音符「新シン」となり、さらに形声孫文字・薪シン、および国字の噺はなし、をつくる。
⇘ 親シン・したしい[見+亲] ⇒ 襯シン・はだぎ[衣+親]
親音符「亲シン」は形声文字の子音符「親シン」となり、さらに形声孫文字・襯シン、をつくる。
「疋ソ・ショ」 ⇒ 楚ソ[林+疋] ⇒ 礎ソ・いしずえ[石+楚]
「長チョウ・ながい」 ⇒ 張チョウ・はる[弓+長] ⇒ 漲チョウ・みなぎる[氵+張]
「屯トン」 ⇒ 頓トン・ぬかずく[頁+屯] ⇒ 噸トン[口+頓]<国字>
「白ハク・しろ」 ⇒ 泊ハク・とまる[氵+白] ⇒ 箔ハク・はく[竹+泊]
「米ベイ・マイ・こめ」 ⇒ 迷メイ・ベイ・まよう[辶+米] ⇒ 謎メイ・ベイ・なぞ[言+迷]
「方ホウ・かた」 ⇒ 放ホウ・はなつ[攵+方] ⇒ 倣ホウ・ならう[イ+放]
「矛ム・ほこ」 ⇒ 務ム・つとめる[攵+力+矛] ⇒ 霧ム・きり[雨+務]
以上は、親音符から孫の形声字まで、同じ発音を継承している例ですが、次に発音が変化している例を挙げます。これらは発音が変化しているのではなく、親音符から生まれた会意文字が、或は親字から生まれた会意文字が、別の音の音符に転換し、その音符が新たな形声文字を作り出したのです。
1.2 子音符の発音が変化している例
上の図は、『漢字音符字典』の音符「至シ」を含むページです。親音符「至シ」は合計15の子音符を持っています。しかし、この音符の発音は変化が大きく、シのほかにシツ・チ・チツ・テツ・トウの発音があります。この表を詳細に見ると、以下の三つの子音符に対し、それぞれの孫文字が見られます。
「至シ・いたる」 ⇒ 致チ・いたす[攵+至] ⇒ 緻チ・こまかい[糸+致]
親音符「至シ」は、形声文字の子音符「致チ」をつくり(チ音の子音符)、さらにチ音の形声孫文字「緻チ」をつくる。
⇘ 窒チツ・ふさぐ[穴+至] ⇒ 膣チツ・女性器官[月+窒]
親音符「至シ」は、形声文字の子音符「窒チツ」をつくり(チツ音の子音符)、さらにチツ音の形声孫文字「膣チツ」をつくる。
⇘ 到トウ・いたる[刂+至] ⇒ 倒トウ・たおれる[イ+到]
親音符「至シ」は、会意文字の子音符「到トウ」をつくり(トウ音の子音符)、さらにトウ音の形声孫文字「倒トウ」をつくる。
これらの子音符は、それぞれ親音符の発音から変化しています。しかし、孫の文字は子音符の発音を受け継いでいますので、孫文字にとって親音符の発音と異なる子音符の発音が音符になっています。
同じような例を以下に、いくつか挙げてみます。ここでは該当する音符のみを紹介します。子音符・孫文字の分解は「部首+音符」の順です。
「乍サ・ながら」 ⇒ 窄サク・せまい[穴+乍] ⇒ 搾サク・しぼる[扌+窄]
親音符「乍サ」は、形声文字の子音符「窄サク」をつくり(サク音の子音符)、さらにサク音の形声孫文字「搾サク」をつくる。
「祭サイ・まつり」 ⇒ 察サツ・みる[宀+祭] ⇒ 擦サツ・こする[扌+察]
親音符「祭サイ」は、会意文字の子音符「察サツ」をつくり(サツ音の子音符)、さらにサツ音の形声孫文字「擦サツ」をつくる。
「鳥チョウ・とり」 ⇒ 島[嶋]トウ・しま[山+鳥] ⇒ 搗トウ・つく[扌+島]
親音符「鳥チョウ」は、会意文字の子音符「島トウ」をつくり(トウ音の子音符)、さらにトウ音の形声孫文字「搗トウ」をつくる。
「取シュ・とる」 ⇒ 最サイ・もっとも[日+取] ⇒ 撮サツ・とる[扌+最]
親音符「取シュ」は、会意文字の子音符「最サイ」をつくり(サイ音の子音符)、さらにサツ音の形声孫文字「撮サツ」をつくる。
「皮ヒ・かわ」 ⇒ 波ハ・なみ[氵+皮] ⇒ 婆バ・ばば[女+波]・菠バ・ホウ[艹+波]
親音符「皮ヒ」は、形声文字の子音符「波ハ」をつくり(ハ音の子音符)、さらにバ音の形声孫文字「婆バ・菠バ・ホウ」をつくる。
「令レイ」 ⇒ 領リョウ・えり[頁+令] ⇒ 嶺レイ・リョウ・みね[山+領]
親音符「令レイ」は、形声文字の子音符「領リョウ」をつくり(リョウ音の子音符)、さらにレイ・リョウ音の形声孫文字「嶺レイ・リョウ」をつくる。
以上の1.1と、1.2の例から、基本字となる音符字に意符(部首)が付加されて形声文字(或いは会意文字)が作られますが、更にその形声文字(或いは会意文字)が音符となり、第三世代の形声文字が生まれることがあり、しかも、この現象はしばしば発生することが分かります。こうした音符群の集合を音符家族といいます。すなわち、基本字が親音符になり、続いて子音符、さらに孫の字へと、成長する軌跡が字形の上に残されます。
2.音符の始まりは
音符の定義は、「形声文字において音を表す文字要素(部分)である」 これが唯一の音符の定義です。従って形声文字のあるところに音符あり、です。意符と音符を組み合わせて形声文字が生まれるとき、その字の音を表す部分はその前に音符になっていた音符か、今回新たに音符となる文字要素のどちらかです。
今回新たに音符となる文字要素とは、今使われている漢字のどれか(象形・指事・会意・形声・仮借)です。同じ音の字なら既存の音符でも良いのですが、新たな音を表すには象形、会意文字を新たに音符として用いるかです。このようにして、時代が進むにつれ漢字が増加し、形声文字が増加する。これまで象形文字や会意文字であった字が音符に変身するのです。
第5回漢字音符研究会のお知らせ
日 時 2017年9月9日(土) 10時30分~12時
会 場 喫茶ほっとはあと 京都市中京区西大路御池北西角 地下鉄東西線「西大路御池」下車すぐ
http://www.kyoto-hotheart.jp/cafe/shops/oike/
講 師 山本康喬氏 『漢字音符字典』著者・漢字教育士
テーマ 音符はどのように作られるのか。いつ生まれるのか。
1、 音符の始まりは
音符の定義は「形声文字において音を表す文字要素(部分)である」これが唯一の音符の定義です。従って形声文字のあるところに音符あり、です。意符と音符を組み合わせて形声文字が生まれるとき、その字の音を表す部分はその前に音符になっていた音符か、今回新たに音符となる文字要素のどちらかです。このようにして、時代が進むにつれ漢字が増加し、形声文字が増加します。
2、 音符家族の中に、更に子音符が存在している。
基本字の上に意符が付加されて形声文字が作られますが、これを音符家族といいます。更にその形声文字が音符となり、第三世代の形声文字が生まれることも、しばしば発生します。基本字が親音符になり、続いて子音符、更に孫音符と、成長する軌跡が字形の上に残されます。この子音符の存在を、私の漢字音符字典の中にある音符家族で二三例を挙げてみます。
参加費 300円(資料代を含む) ※飲み物は各自、別途注文してください。
参加申込 コピー資料作成の都合がありますので、事前に下記へお申し込みください。
電話 072-627-0271(石沢誠司)
メール seijiishizawa@yahoo.co.jp
第6回漢字音符研究会の予定
2017年11月11日(土) 10時30分~12時
会 場 喫茶ほっとはあと 京都市中京区西大路御池北西角 地下鉄東西線「西大路御池」下車すぐ
講 師 石沢誠司氏 ブログ「漢字の音符」編集者
テーマ 人の姿の音符 その2
私は、ブログ「漢字の音符」に書いた音符の中から人の姿をあらわした音符を中心にまとめた「人の姿の音符 Ⅰ」として冊子にまとめ公開しました。
http://blog.goo.ne.jp/ishiseiji/e/37c3743f834c111a2dcd85ab1fb8e9a0
引き続きその続編となる「「人の姿の音符 Ⅱ」をまとめましたので、発表させていただきます。内容は人の姿の変形である、女・母・子などの基本的な字と、これらと結びついて音符となっている字、および老・長・亡などの音符を中心にまとめました。