漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

特殊化した部首 「辶しんにょう」

2018年05月29日 | 特殊化した部首
        「辶・辶 しんにょう」の成立

の字にみる「辶・辶しんにょう」の成立過程
 イ・ちがう・ちがえる  辶部
意味 (1)ちがう(違う)。異なる。「違和感イワカン」「相違ソウイ」 (2)たがう。そむく。「違反イハン」「違約イヤク

    上段が辶・辶しんにょう、下段が違イ
 違の金文は、「彳(ゆく)+止(あし)+韋(まわりをめぐる)」の会意形声。韋は城壁の周りを巡って守備する形であるが、この字では巡回する兵士が行ったり来たりすること。「彳(ゆく)+止(あし)」は足で行く意で進行を表す。この字の意味は、行ったり来たりする兵士が行き違いになること。転じて、ちがう・ことなる意となる。
 篆文で「彳(ゆく)+止(あし)」は「辵チャク」に変化し、隷書(漢代の役人が主に用いた字体)で辵チャク⇒「+之の下部」になり、楷書で「辶 二点しんにょう」 と 「辶 一点しんにょう」になり混在した。旧字は康煕コウキ字典(清代に成立した権威ある字書)に準じて「辶 二点しんにょう」に統一されたが、日本では第二次大戦後成立した新字体に限って「辶 一点しんにょう」が用いられるようになった。現代でも旧字は「辶 二点しんにょう」が用いられている。
参考  音符「韋イ」へ

部首「辶・辶しんにょう 
 部首「辶しんにょう」は漢字の左辺から下部の位置に付いて、行く・移動する意味を表す。常用漢字で51字(第8位)、約14,500字を収録する[新漢語林]は、203字を収録している。主な常用漢字は以下のとおり。辶は旧字で使われる。
「辶+音符」となるもの
 ジン・はやい(辶+音符「卂シン」)
 ゴウ・むかえる(辶+音符「卬コウ」)
 キン・ちかい(辶+音符「斤キン」)
 ヘン・かえす(辶+音符「反ハン」)
 ハク・せまる(辶+音符「白ハク」)
 テツ・かわる(辶+音符「失シツ」)
 ジュツ・のべる(辶+音符「朮ジュツ」)
 メイ・まよう(辶+音符「米ベイ」)
 トウ・にげる(辶+音符「兆チョウ」)
 ギャク・さからう(辶+音符「屰ギャク」)
 ツウ・とおる(辶+音符「甬ヨウ」)
 ソク・はやい(辶+音符「束ソク」)
 シュウ・まわり(辶+音符「周シュウ」)
 カ・すぎる(辶+音符「咼カ」)など
辶を含む会意となるもの
 ヘン・あたり(辶+刀)
 こむ(辶+入)
 ツイ・おう(辶+𠂤タイ
 退タイ・しりぞく(辶+艮)
 トウ・すける(辶+秀)など


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紛らわしい漢字 「萩はぎ」 と 「荻おぎ」

2018年05月26日 | 紛らわしい漢字 
 「萩はぎ」と「荻おぎ」を間違う人は多い。しかし、草冠の下をよく見ていただきたい。萩の下は秋(あき)、荻の下は狄テキなのである。秋は季節の秋だからすぐわかるが、狄テキとはどんな字だろうか。この字は中国北方の異民族の呼称であるが、私は「犭(犬)+火」に着目して独自の解釈をしてみた。漢字を覚えるための工夫であるので、こじつけ的な解字であるが、ご了解いただきたい。

        シュウ <稲に虫がつく>
[穐・龝] シュウ・あき  禾部

解字 篆文第一字は、禾(いね)の下に亀のような虫を描いており、稔った稲にズイムシが付いた形。第二字は、禾(いね)の下に火が付き、稲の虫を火で焼く形。第三字はそこから虫を取った「火+禾」となった字で、現代字・秋の元になった。もともと秋は、稔りかけた穀物につく虫を焼く形から穀物が熟す意。のち、穀物が実る季節を意味するあき(秋)となった。篆文にあらわれた亀のようなズイムシを表す字が使われる穐・龝は異体字としてあり、歌舞伎などの千秋楽(最終日)に千穐楽として使われることがある。
 日本でも稲の害虫を駆除しその秋の豊作を祈願するため、初秋に松明を持ってあぜ道を歩いて虫を追い払う「虫送り」の行事がある。
意味 (1)あき(秋)。稲に実が入って稔るとき。「秋天シュウテン」「秋分シュウブン」(昼と夜の長さが同じになる日。毎年9月23日ごろ)「秋風あきかぜ」「初秋ショシュウ」 (2)一年。とき。「千秋センシュウ」(千年。長い年月)「千秋楽センシュウラク」(芝居や相撲などの最終日)

イメージ 
 「あき」
(秋・萩)
 「稔った穀物に虫がつく」(愁)
音の変化  シュウ:秋・萩・愁

あき
 シュウ・はぎ  艸部
解字 「艸(くさ)+秋(あき)」の会意形声。秋に花が咲く草木。日本でハギの意味で使われる。
 萩の花(ウィキペディアより)
意味 (1)[国]はぎ(萩)。初秋に花をつける落葉低木。秋の七草のひとつで、花期は7月から10月。 「萩市はぎし」(山口県の日本海側にある市)「萩城はぎじょう」(山口県萩市にあった日本の城)「萩野はぎの」(姓)「萩原はぎはら」(姓) (2)[中国古書]かわらよもぎ。ヨモギの一種。
稔った穀物に虫がつく
 シュウ・うれい・うれえる  心部
解字 「心(こころ)+秋(稔った穀物に虫がつく)」の会意形声。稔った穀物に虫がついて収穫が減るのを心配すること。
意味 うれえる(愁える)。うれい(愁い)。心細くなる。「愁色シュウショク」(うれいを含んだ顔色)「愁心シュウシン」「愁眉シュウビ」(心配そうな表情。眉は、まゆげ)


       テキ <野焼きして狩りをする>
 テキ・えびす  犭部  

解字 「犭(いぬ)+火(ひ)」の会意。草原に火を放ち、野焼きをして獣を追い出し、犬を伴にして狩りをすること。野焼きは牛馬の牧草地の維持にも必要であった。草原地帯に居住している異民族をさす。(この解字は私見です)
意味 えびす(狄)。北方の異民族。「北狄ホクテキ」(北方の異民族)「夷狄イテキ」(野蛮な異民族。夷は東方の異民族)

イメージ 「野焼きする」 (狄・荻)
音の変化  テキ:狄・荻
野焼きする
 テキ・おぎ  艸部
 荻の穂(ウィキペディアより)
 屋根材料の荻の刈り取り(岐阜県大垣市) 
解字 「艸(くさ)+狄(野焼きする)」の会意形声。野焼きして管理する草。野焼きは屋根材料の確保などのため河原の草むらでも行なわれる。ススキに似た多年草のおぎ(荻)をいう。
 荻は中国では、黒竜江、吉林、遼寧、河北、山西、河南、山東、甘及び陕西など北方の各省に分布し、山地や草地・平原・丘陵、また河岸の湿地に生育する。
意味 (1)おぎ(荻)。イネ科ススキ属のススキに似た多年草。水辺などに自生し群落をつくる。かつては、茅葺屋根の材料として用いられた。日本では現在もススキやアシ原の野焼きが行われるが、荻も地名や姓に荻原・荻野が多いことから、かつては野焼きが行われたと思われる。(2)地名。姓。「荻原おぎはら」「荻野おぎの」「荻生おぎう
<紫色は常用漢字>

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特殊化した部首 「忄りっしんべん」 と 「㣺 したごころ」

2018年05月17日 | 特殊化した部首
 忄りっしんべん(立心偏)」と「㣺 したごころ(下心)」は、心が偏ヘン(左辺)にきた形と、下についた形が変形した部首である。「りっしんべん」という名前は、「立心偏」と書くと分かるように心が立ち上がって偏に来た形であり、「したごころ」は「下心」であり、心が下に付いて特殊化した形である。

   心の字の変遷
 シン・こころ  心部

解字 甲骨文字は心臓のかたちの象形で、左右の心房(血液をためるところ)と心室(心房の下部にあり血液を送り出すところ)が分れた状態を表現している。金文から心室がひとつになり、篆文で心室から血管のようなものがついた形になった。隷書(漢代の役人などが主に使用した書体)から、篆文の各部分が分離した形の「心」になり、これが現代字に続いている。意味は心臓であるが、のちに「こころ」の意が加わった。
意味 (1)しんぞう。「心臓シンゾウ」。「心筋シンキン」「心房シンボウ」 (2)こころ(心)。「心理シンリ」「心眼シンガン」 (3)物事の中心。「核心カクシン

   りっしんべん(立心偏)」の成立
「性」の字にみる立心偏の変化

 下段は性の変遷過程、上段は立心偏を抜き出したもの
 立心偏は、いつ、どのように成立したのだろうか。ここに成立の過程をしめす字がある。「性セイ」は篆文から出現する字だが、その変遷を示したのが上図の下段である。上段には立心偏のみを抜き出して表示した。これを見ると、篆文においては心の篆文がそのまま偏に付いているが、次の隷書になると変化が表れる。隷書第1字は、篆文のおもかげを残し左右の心房と中央の心室が描かれている。ところが第2字は右の心房が略され、さらに第3字に至ると左右の曲線が短い直線に変化した。これが現代字に続く立心偏の成立となった。つまり、隷書体の時期に立心偏が成立したことが分かる。立心偏の主な字は以下のとおり。
  忙ボウ(忄+音符「亡ボウ」)・怖(忄+音符「布フ」)・性セイ(忄+音符「生セイ」)・
  愉(忄+音符「兪ユ」)・慣カン(忄+音符「貫カン」)・憬ケイ(忄+音符「景ケイ」)など。

    したごころ(下心)」の成立
「恭キョウ」の字にみる「したごころ(下心)」の変化

 下段は恭の変遷過程、上段は「したごころ」を抜き出したもの
 「したごころ」は、いつ、どのように成立したのだろうか。上図の下段は「恭キョウ」の変遷を示したものだが、篆文の恭で下部についているのは心の篆文である。次の隷書にいたると、隷書第一字では下に隷書の心が付き、第2字で心が変化した㣺になっている。つまり、「したごころ」は、隷書から大きく変化した心の字の第一画はそのままで、第2画がタテ線になり、3画と4画をそのままの形で下におろしたのである。
「したごころ」はどんな字に付くか?
 心がそのままの形で下部につく字は、忘ボウ・悲ヒなど数多い。では「したごころ」はどんな字につくのだろうか。これがつく漢字を調べると、下部が大や夭・共など、すなわち八のように末広がりになった漢字の下に入るとき変形してることが分かる。
 主な字には、慕(㣺+音符「莫ボ」)・忝テン(㣺+音符「天テン」)・恭キョウ(㣺+音符「共キョウ」)などがある。

 以上で分かるように、(立心偏)は篆文の心からの変化であり、(したごころ)は隷書で成立した心の字の変化であることがわかる。
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音符 「月ゲツ」 と 「夕セキ」 <三日月をかたどる> 「汐セキ」「夙シュク」

2018年05月15日 | 漢字の音符
「月ゲツ」と「夕セキ」は、ともに三日月をかたどった字である。古代文字は両者とも同じ形をしている。篆文から形がかわり意味も分かれた。
 夕方の三日月

    ゲツ <つき>
 ゲツ・ガツ・つき  月部

解字 三日月を描いた象形。中の点は日と同じく実体のあることを示したもの。三日月だけでなく、すべての月齢の「つき」を表す。月は部首となるだけで音符にならない。
意味 (1)つき(月)。「満月マンゲツ」「月光ゲッコウ」 (2)としつき。一年を十二分した期間。「年月ネンゲツ」「月給ゲッキュウ」 (3)七曜の一つ。「月曜日ゲツヨウビ
参考 月は部首「月つき」になり月の意味を表すが、金文第2字が肉の字と同形のため部首「月にくづき」になり、肉や肉体の一部分などを表す。また舟の形を月にかえた部首「月ふなづき」となり、舟やうつわの意味を表す。常用漢字は月の3種類の部首を合わせて50字ある(第9位)。約14,600字を収録する『新漢語林』では273字が収録されている。常用漢字50字は以下の通りであるが、本来の月でなく、圧倒的に「にく月」が多い。
つき (5字)
 ゲツ・つき(部首)
 ロウ・ほがらか(月+音符「良リョウ」)
 ボウ・のぞむ(月+王+音符「亡ボウ」)
 チョウ・あさ(月+艸(上下に分離)+日の会意)
 (月+音符「其キ」)
  このうち、朝は音符になる。
にく月 (43字)肉や肉体の一部分などを表す。
 ユウ・ある(月+音符「又ユウ」)
 キ・はだ(月+音符「几キ」)
 ショウ・にる(月+音符「小ショウ」)
 チュウ・ひじ(月+音符「寸スン」)
 カン・きも(月+音符「干カン」)
 コ・また(月+音符「殳シュ」)
 (月+音符「支シ」)
 ケン・かた(月+戸コの会意)
 ホウ・あぶら(月+音符「方ホウ」)
 ハイ(月+音符「市ハイ」)
 タン(月+音符「旦タン」)
 ハイ・せ(月+音符「北ホク」)
 タイ・はらむ(月+音符「台タイ」)
 ホウ・えな(月+音符「包ホウ」)
 ドウ(月+音符「同ドウ」)
 キョウ・むね(月+音符「匈キョウ」)
 シ・あぶら(月+音符「旨シ」)
 キョウ・おびやかす(月+音符「劦キョウ」)
 キョウ・わき(月+音符「劦キョウ」)
 キャク・あし(月+音符「却キャク」)
 ダツ・ぬぐ(月+音符「兌エツ」)
 ノウ(月+音符「𡿺ノウ」)
 ジン(月+音符「臤ケン」)
 ワン・うで(月+音符「宛エン」)
 シュ・はれる(月+音符「重ジュウ」)
 チョウ・はらわた(月+音符「昜ヨウ」)
 フク・はら(月+音符「复フク」)
 セン・すじ(月+音符「泉セン」)
 マク(月+音符「莫ボ」)
 シツ・ひざ(月+音符「桼シツ」)
 ボウ・ふくらむ(月+音符「彭ホウ」)
 ゼン(月+音符「善ゼン」)
 オク(月+音符「意イ」)
 ゾウ(月+音符「蔵ゾウ」)
 ヨウ・こし(月+音符「要ヨウ」)
 ヒ・こえる(月+巴の会意)
 コウ・うなずく(月+止の会意)
 イク・そだつ(月+𠫓(生まれ出た子)の会意)
 (月+田の会意)
 ミャク(月+𠂢ハイの会意)
 セキ・せ(月を含む会意)
 フ・はだ(月+盧の略体)
 ノウ・よく(月を含む象形)
  このうち会意の胃・脊セキ・能ノウは音符となる。
ふな月 (2字)舟やうつわの意味を表す。
 服フク・したがう(月(うつわ)+音符「𠬝フク」)
 朕チン・われ(月(うつわ)+音符「关ソウ」)

     セキ <ゆうがた>
 セキ・ゆうべ  夕部              


  上は夕、下は月
解字 三日月を描いた象形。甲骨文・金文とも月と同じ形であるが、篆文から月と夕の区別をするようになった。意味は、三日月の見える夕がたを示す。三日月は新月から三日目の月の意味で、日の入り後の西の空で見やすくなるため、夕方の意味になった。夕は部首となるが、音符ともなる。
意味 ゆうべ。ゆうがた。ひぐれ。「夕闇ゆうやみ」「夕日ゆうひ」「夕立ゆうだち」「旦夕タンセキ」(あさゆう。旦は朝の意)「七夕たなばた」(七月七日の夕に行われる星祭り)
参考 夕は部首「夕ゆう・ゆうべ」になり、夕方や夜の意味を表す。なお、金文第一字の形は肉と同じなので、肉の意味を表す場合もある。夕部は常用漢字で5字ある。主な字は以下のとおり。
夕方や夜の意味
 セキ・ゆう(部首)
 ヤ・よる(夕+亦エキの略体の会意)
 ム・ゆめ(夕を含む会意)
肉の意味
 ガイ・そと(夕+卜ボクの会意)
 タ・おおい(夕+夕の会意)
 カ・おびただしい(多+音符「果カ」)
  このうち、夜・夢・多は音符となる。

イメージ 
 「ゆうがた」
(夕・汐)
 「つき」(夙)
音の変化  セキ:夕・汐   シュク:夙

ゆうがた
 セキ・しお  氵部
解字 「 氵(海水)+夕(ゆうがた)」の会意形声。夕方におこる海水の満ち引き。
意味 しお(汐)。ゆうしお。ひきしお。「潮汐チョウセキ」(朝潮と夕汐。潮の干満)
※「潮」は朝のしおをいう。

つ き
 シュク・つとに  凡部

解字 甲骨文字は月に両手をのばして座る人の形(会意)。月に祈る形を表している。金文は「月+両手を出す人」、篆文は「夕+両手を出す人」の形。篆文の夕は夕方でなく月の意。夜のまだ明けやらぬうちから月を拝するさまで、早朝から(早くから)・早朝の意味を示す。現代字は「両手を出す人」の部分が「凡」に変化した「凡+夕」になった。
意味 (1)つとに(夙に)。はやく。(A)朝早く。「夙起シュクキ」(朝早く起きる)(B)むかしから。「夙志シュクシ」(早くから抱いていたこころざし)。(2)あさ。早朝。「夙夜シュクヤ」(朝早くから夜おそくまで。また、早朝) (3)地名。「夙川シュクガワ」(六甲山地から兵庫県西宮市南西部を南流し大阪湾に注ぐ川)
<紫色は常用漢字>

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紛らわしい漢字 「哀アイ」 「衰スイ」 「衷チュウ」

2018年05月10日 | 紛らわしい漢字 
 「哀アイ」「衰スイ」「衷チュウ」は、よく見ると衣の中に文字が入っている。哀アイの中は「口」、衰スイの中は「日の中央の両側が突きでた形」、衷チュウのなかは「中」である。この違いが分かれば、三つの字は簡単に理解できる。

    アイ <あわれ・あわれむ>
 アイ・あわれ・あわれむ  口部

解字 「口(声をだす)+衣(ころも)」の会意。死者の衣の襟もとで、大きな声を出して悲しむこと。口は衣の中に入っている。
意味 (1)かなしい。かなしむ。うれい。「哀悼アイトウ」(人の死を悲しみいたむこと)「悲哀ヒアイ」 (2)あわれ(哀れ)。あわれむ(哀れむ)。いつくしむ。「哀感アイカン」「哀調アイチョウ」 (3)も(喪)。亡くなった人を追悼する礼。


    スイ <みのに似た粗末な喪服>
 スイ・サイ・おとろえる  衣部

解字 篆文は「衣(ころも)+冄ゼン(毛状のものが垂れる形)」の会意。冄ゼンは、毛のようなものが垂れる形で、ここではシュロなどの毛状の繊維をさし、これに衣のついた「衣+冄ゼン」(冄ゼンは衣の中に入っている)は、シュロなどで出来た雨具のミノをいう。蓑(みの)の原字。現代字は、冄ゼン⇒日の中央両側が突き出た形に変化した「衰」になった。中国では葬式のとき親族は粗末な麻布を用いて、縁(へり)を縫わない喪服を作って着た。これが、へりがふさふさしているミノに似ていることから、衰サイと呼ばれ喪服の意味となった。のち、簡略化され白装束の胸の前に麻布を着けるだけのことが多い。葬礼や服喪の間すべて平生の礼を控えるので、へらす・衰える意となる。
意味 (1)おとろえる(衰える)。「衰退スイタイ」「衰弱スイジャク」「衰微スイビ」 (2)葬衣。喪服。「衰絰サイテツ」(衰は胸の前に着け、絰は首と腰につける麻。中国で喪中に着る衣服)

イメージ 「みの・喪服」(衰・蓑)
音の変化  スイ:衰  サ:蓑
みの・喪服
 サ・サイ・みの  艸部
 シュロの蓑(みの)をつけた中国の農夫(検索サイトの写真から・原サイト不明)
解字 「艸(草)+衰(みの)」の会意形声。衰はもともとミノの意だが、喪服やおとろえる意となったので、艸(草)をつけて元の意味を表した。
意味 みの(蓑)。かや・すげ・わら等で編んだ雨や雪を防ぐ外衣。中国ではシュロ製が多い。「蓑衣サイ」(みの)「蓑笠サリュウ・みのかさ」「蓑虫みのむし」(蓑を着たような虫。ミノガ科の蛾の幼虫)


    チュウ <真ん中・内側>
 チュウ・ジュウ・なか   l部

解字 甲骨文字・金文は、布陣した軍の陣地(四角や楕円形)の中央に旗を立てた形を表す。旗を表すため陣地を上下につらぬいて吹き流しを描いている。金文第二字から吹き流しがとれた形が表れ、現在に続いている。陣地の「真ん中」「うち」「なか」の意を表す。のちに、「かたよらない」、的(まと)の中に入ることから「あたる」意味も加わった。
意味 (1)なか(中)。まんなか。中心。「中央チュウオウ」 (2)あいだ。「中間チュウカン」 (3)うち。なか。「夜中ヨナカ」「懐中カイチュウ」 (4)かたよらない。「中正チュウセイ」 (5)あたる。あてる。「的中テキチュウ」「命中メイチュウ」「中毒チュウドク」(毒にあたる)「中傷チュウショウ」(傷にあたる=傷つけられる)

イメージ  「なか・あいだ」(中・衷・仲)
音の変化  チュウ:中・衷・仲
なか・あいだ
 チュウ・うち  衣部
解字 「衣(ころも)+中(なか・内側)」の会意形声。衣で包まれた内側の意。現代字は、中の下部が突き出ない。
意味 (1)うち(衷)。なか。心のうち「衷心チュウシン」(まごころ)「苦衷クチュウ」(苦しい心のなか) (2)うちにする。中に着る。肌着。「衷甲チュウコウ」(衣服の下によろいを着る) (3)なかほど。かたよらない。「折衷セッチュウ」(取捨して適当なところをとる)
 チュウ・なか  人部
解字 「イ(ひと)+中(あいだ)」の会意形声。人と人とのあいだにいる意。
意味 (1)兄弟の序列で、あいだにあたる人。上から、伯ハク・仲チュウ・叔シュク・季、また、孟モウ・仲チュウ・季という。 (2)春夏秋冬のそれぞれの期間を三分したとき、孟・仲・季という。「仲春チュウシュン」(春の真ん中の月で、陰暦2月のこと) (3)なかだち。「仲人チュウニン・なこうど」 (4)[国]なか(仲)。なかまどうしの間がら。「仲間なかま
<紫色は常用漢字>

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紛らわしい漢字 「拾う」 と 「捨てる」

2018年05月06日 | 紛らわしい漢字 
 「拾う」と「捨てる」は似ている。違いは扌(てへん)を除いた「合ゴウ」と「舎シャ」だ。この違いが分かれば、「拾う」と「捨てる」は簡単に区別できる。

              ゴウ <ふたと器の口があう>
 ゴウ・ガツ・カツ・あう・あわす・あわせる 口部

解字 甲骨・金文は、「A(ふたの象形)+口(器のくち)」の会意。うつわの口にフタをかぶせ、ぴたりと合わせる形。あう。あわせる意を表わす。篆文以降、Aは𠆢 と一に分かれ、「合」になった。
意味 (1)あう(合う)。あわす(合す)。あわせる(合わせる)。ぴったりあう。「投合トウゴウ」(二つのものがぴったりと合うこと)「合作ガッサク」 (2)あてはまる。「合致ガッチ」「適合テキゴウ」 (3)あつまる。あつめる。「集合シュウゴウ

イメージ  「あわせる」 (合・給・拾)
       ふたと器の口が「あう・一致する」 (答)
音の変化  ゴウ:合  キュウ:給  シュウ:拾  トウ:答
あわせる
 シュウ・ジュウ・ひろう  扌部
解字 「扌(手)+合(あわせる)」 の会意形声。落ちているものを手とあわせること。ひろう・ひろいあつめる意となる。また、発音が同じ十ジュウの大字(代りの字)となる。
意味 (1)ひろう(拾う)。あつめる。「拾得シュウトク」(拾って自分のものにする) 「拾遺シュウイ」(もれ落ちたものを拾う) (2)数字の十のこと。「拾円ジュウエン
 キュウ・たまう・たまわる  糸部
解字 「糸(いと)+合(あわせる)」の会意形声。機織りに使う織り糸の残りが少なくなると、新しい糸をあわせる(追加する)こと。足りないところをたす意になる。
意味 (1)たす。足りないものをたす。「給油キュウユ」「補給ホキュウ」 (2)たまう(給う)。たまわる(給わる)。「支給シキュウ」「給付キュウフ」「給食キュウショク」 (3)あてがい。てあて。「給料キュウリョウ」「俸給ホウキュウ
あう・一致する
 トウ・こたえる・こたえ  竹部
解字 「竹(たけ)+合(一致する)」 の会意。合は一致する意があり、相手から質問されたとき「トウ」(合っている)と返事したことから、答える意味があった。それに竹や艸(くさ)をつけた答・荅も「こたえる」意味をもつが、答が主に使われる。
意味 こたえる(答える)。こたえ(答)。応ずる。報いる。「回答カイトウ」「答弁トウベン


                シャ <簡易な宿舎>
[舍] シャ・やど・やどる  人部

解字 金文は、「口(かこい)+余の古い形(簡易な宿舎)」 の会意。余は一本柱の上に屋根をもち、斜めの梁で支えた簡易な小屋で宿泊や休憩に使う。音符「余ヨ」 を参照。これに場所を表す口(かこい)がついた舎は、簡易な宿舎、やどの意、転じて、すまい・たてものの意となった。また、軍隊が一夜の宿とした軍の宿舎の意にも使われた。軍隊が一夜で宿をすてる(出発する・はなれる)ことから、すてる(はなれる)意がある。新字体は、舍⇒舎に変化 した。
意味 (1)やどる(舎る)。身をよせる。やど。「宿舎シュクシャ」 (2)すまい。いえ。たてもの。「校舎コウシャ」「田舎いなか」(田園の家が原義。郷里) (3)身内の者の謙称。「舎弟シャテイ」(自分の弟をいう語。他人の弟にもいう)「舎兄シャケイ」(実の兄) (4)軍隊の一夜の宿営所。軍隊の一日の行程。「舎次シャジ」(軍隊が宿る)「三舎サンシャ」(軍隊の三日の行程) (5)梵語の音訳。「舎利シャリ」(釈迦の遺骨) (5)おく(舎く)。すえおく。 (7)宿をすてる。すてる。はなれる。(=捨)

イメージ  「簡易な宿舎」 (舎・捨)
音の変化   シャ:舎・捨
簡易な宿舎
シャ・すてる  扌部 
解字 「扌(て)+舍(簡易な宿舎)」 の会意形声。舎は簡易な宿舎で、軍隊が一夜の宿をおいてのち、その宿をすてる(はなれる)意にも使われ、その意味を強調するため、扌(手)をつけた捨ができた。
意味 (1)すてる(捨てる)。手ばなす。「捨石すていし」「取捨選択シュシャセンタク」 (2)[仏]金品を寺や僧に寄付する。ほどこす。「喜捨キシャ」(進んで寺社などに寄付すること)
<紫色は常用漢字>

参考 
音符「合ゴウ」
音符「舎シャ」 へ

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音符 「歯シ」 <は>  と 「噛ゴウ」

2018年05月05日 | 漢字の音符
[齒] シ・は    歯部            

解字 甲骨文は口のなかに生えている前歯の象形。篆文以降に発音を表す「止シ」がついた形。新字体は、旧字の齒⇒歯に変化 した。
意味 (1)は(歯)。「門歯モンシ」(前歯)「歯牙シガ」(歯と牙きば)「歯牙にもかけない」(問題にしない。相手にしない)(2)年齢。よわい(歯)。とし。「年歯ネンシ」(よわい)
参考 歯は部首「歯は」になる。漢字の左辺および下部に付いて歯の意味をあらわす。歯部は常用漢字で2字(歯・齢)、約14,600字を収録する『新漢語林』では38字が収録されている。歯部の主な字は以下のとおり。
常用漢字 2字
 シ・は(部首)
 レイ・よわい(歯+音符「令レイ」)
常用漢字以外
 アク(歯+音符「屋オク」)
 ウ・むしば(歯+音符「禹ウ」)
 ギン・はぐき(歯+音符「艮コン」)
 ゲツ・かじる(歯+音符「㓞ケイ」)
 ゴ・くいちがう(歯+音符「吾ゴ」)
 セク(歯+音符「足ソク」)
 ソ・かむ(歯+音符「且ソ」)など。

イメージ  「は」(歯・嚙)
音の変化  シ:歯  ゴウ:嚙

嚙[噛] ゴウ・ゲツ・かむ・かじる  口部
解字 「口(くち)+齒(は)」の会意。口をうごかし歯でかむこと。ゲツ(かむ)と通用し、ゲツの発音でも用いる。
意味 かむ(嚙む)。かじる(嚙る)。歯でかむこと。「嚙指ゴウシ」(指をかむ。はげしい悲しみのときの所作)「嚙咬ゲッコウ」(はげしくかむ)「嚙嚼ゲッシャク」(かむ。嚙も嚼も、かむ意)
<紫色は常用漢字>


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