漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

音符 「展テン」 <のべひろげる> と 「碾テン」「輾テン」

2022年04月29日 | 漢字の音符
 展の解字を改めました。
 テン・のべる・ひろげる  尸部   

下は篆文の模式図

解字 篆文はテンで「尸(人のからだ)+𧝑テンの略体」。 𧝑テンは「衣(ころも。上下に分かれる)+テン(工具四つで、極めて巧み)」で、極めて巧みに織った絹の衣の意、王后(きさき)の礼服の一つを表す。それに尸(人のからだ)を付けたテンは、人のからだに𧝑テン(王后の礼服)を、①ひろげてのばし、視ること。貴婦人の着付けのさまと思われる。②ひろげのばす意から転じて、ならべる意ともなる。また、許慎は[説文解字]で「展はテン(ころがる)也」としており、③ころがる意がある。字体は隷書レイショ(漢代)でテン に変化し、現代字で衣あしのノがとれた展になった。
意味 (1)のべる(展べる)。のびる(展びる)。のばす(展ばす)。ひろげる。ひらく。「展開テンカイ」(くりひろげる。ひろがる)「進展シンテン」(すすみひろがる)「発展ハッテン」(はじまりひろがる) (2)ならべる。つらねる。「展観テンカン」(ならべて多くの人に見せる)「展示テンジ」(ならべ示す。作品をならべて見せる)  (3)みる。「展望テンボウ」(ながめ見渡す) (4)ころがる。「展転テンテン」(ころがる)

イメージ  
 「ひろげてのばす」(展)
 意味(4)の「ころがる」(碾・輾)
音の変化  テン:展・碾・輾

ころがる
 テン・うす・ひく  石部
石碾
https://www.xuehua.us/a/5ec2dcab46be1ccd5a2d8254
解字 「石(いし)+展(ころがる)」 の会意形声。平らな円い石の上を、円筒形の石をころがし回転させるひきうす。
意味 (1)うす(碾)。ひきうす。穀物を挽き砕いて粉にする道具。(2)ひく(碾く)。「碾臼ひきうす」「碾き割り」(碾でひいて粗く割りくだく)(3)「碾茶テンチャ」とは、日本で茶葉を摘むまで少なくとも20日以上藁や専用の黒いシートを被せて日光を遮り、その生葉を蒸して揉まずに乾燥させたものをいう。抹茶とはこの碾茶を石臼で挽いて粉末状にしたもの。
 テン  車部
解字 「車(回転する)+展(=碾。ひく)」の会意形声。碾テンと同じ意味を表す。また、めぐる・まわる意味に用いる。
意味 (1)ひく(輾く)。 (2)(回転して押しつぶす)ひきうす。(=碾)。「石輾セキテン」(石のひきうす) (3)めぐる。まわる。「輾転テンテン」(①寝返りをうつ。②くるくる変わり一定しないさま)「輾転反側テンテンハンソク」(何度も寝返りを打つこと。反側も寝返りをうつ意)
<紫色は常用漢字>

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音符「三・彡サン」<みっつ、たくさん>と「杉サン」「須シュ」「尨ボウ」

2022年04月26日 | 漢字の音符
 部首「彡さんづくり」の常用漢字等を追加しました。
 サン・み・みつ・みっつ   一部

解字 三本の横線で数字の三を表した指示文字。
意味 (1)みっつ(三つ)。数の名。「三権サンケン」「三彩サンサイ」(三種の色釉薬をかけた陶器) (2)みたび。三回。「三顧サンコ」(三たび礼をつくして頼む) (3)たびたび。何度も。「再三再四サイサンサイシ
サン・セン
解字 飾りや模様をあらわす記号。三の字の変形したもの。細かいものがたくさん並んでいるさま。杉サン・衫サンの音符「彡サン」の原形で、いくつも並んで模様をなす意を含む。
参考 「彡サン」は部首「彡さんづくり」になる。漢字の右辺について、模様や形、色合いを表す。主な字は以下のとおり。
常用漢字  5字
 エイ・かげ(彡+音符「景ケイ」)
 ケイ・かたち(彡+音符「开ケイ」)   
 サイ・いろどる(彡+音符「采サイ」)
 ショウ・あきらか(彡+音符「章ショウ」)
 チョウ・ほる(彡+音符「周シュウ」)
常用漢字以外
 ゲン・ひこ(彡を含む会意)
 ヒョウ・あや(彡+虎コの会意)
 ヒン・あきら(彡+林リンの会意)
 ※彦は音符になる。 

イメージ 
  「みっつ」
 (三)
  三の字の変形した彡は「たくさん」(杉・衫・須・鬚・尨・厖)
音の変化  サン:三・杉・衫  シュ:須・鬚  ボウ:尨・厖

たくさん(彡) 
 サン・すぎ   木部
解字 「木(き)+彡(たくさん)」の会意形声。細かい針葉がたくさん付いている樹木。
意味 すぎ(杉)。すぎ科の常緑高木。「糸杉いとすぎ」「杉風サンプウ」(杉の木に吹く風)
 サン  衤部
解字 「衤(ころも)+彡(たくさん)」の会意形声。たたんでたくさん収納できる薄物やひとえの衣服。
意味 (1)うすもの。ひとえの短い衣。「衫子サンシ」(女性のすその短い服。半衣) (2)はだぎ。そでなしの下着。「汗衫カンサン」(汗取りのひとえの短衣。肌着)
 シュ・ス  頁部  
解字 「彡(たくさん)+頁(かお)」の会意。顔のあごからたくさん垂れるひげ。また、需ジュ・ス(もとめる)に通じ、まちもとめる意も表す。
意味 (1)ひげ。あごひげ。「須眉シュビ」(あごひげとまゆげ」 (2)まつ(須つ)。しばらく。「須臾シュユ」(少しのあいだ) (3)もとめる。必要とする。「必須ヒッス」「須要シュヨウ」(不可欠なこと) (4)梵語の音訳語。スの音。「須弥山シュミセン」(海中にあるといわれる大山)「須恵器スエキ」(高温で焼いた古代の素焼きの土器。陶器すえキの書き換え字) (5)すべからく(須く)~すべし。再読文字。なすべきこととして。当然。必要の意。
 シュ・ス・ひげ  髟部
解字 「髟(かみ)+須(ひげ)」の会意形声。髪のように長いひげの意で、あごのひげ。
意味 (1)ひげ(鬚)。あごひげ。「鬚面シュメン」(ひげづら) (2)動物のくちひげ。「虎鬚コシュ」(虎のひげ)
 ボウ・むくいぬ  尢部おうにょう
解字 「犬(いぬ)+彡(たくさん)」の会意。毛の多い犬。また、ふさふさしていることから転じて、おおきい意ともなる。
意味 (1)むく。むくいぬ(尨犬)。長い毛がふさふさと生えている犬。「尨毛むくげ」 (2)おおきい(=厖)。「尨大ボウダイ」(非常に大きい=厖大) (3)まじる。黒と白の毛が入りまじる。「尨眉ボウビ」(白毛がまじったまゆ)
 ボウ  厂部
解字 「厂(石の略体)+尨(おおきい)」の会意形声。大きな石の意で、おおきい・厚い意味を表す。
意味 おおきい。あつい(厚い)。おおい。「厖大ボウダイ」(=尨大)「厖然ボウゼン」(豊かで大きい)
<紫色は常用漢字>

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音符「禾カ」<イネ科の穀物>「科カ」「和ワ」 と「年ネン」 「穆ボク」

2022年04月23日 | 漢字の音符
  禾カが部首になる常用漢字23字を追加しました。
 カ・ワ・いね・のぎ  禾部         

解字 甲骨と金文は穀物が実った形で、穂が垂れている状態を表している。篆文以降は実の表現が消え現代字の禾の形になった。イネ科(イネ・ムギ・アワなど主要な穀物の意を表す。
意味 (1)穀物の総称。穀物。「禾穀カコク」(穀物の総称。また、イネ)「禾稼カカ」(穀物) (2)穀物の名。漢代以前は粟(あわ)を言い、のち稲(いね)をさす。「禾穎カエイ」(イネの穂)「禾菽カシュク」(稲とまめ)「禾黍カショ」(稲ときび)「禾苗カビョウ」(①稲の苗、②穀物の苗) 「禾本科カホンカ」(イネ科の旧称イネ・ムギ・アワなど主要な穀物を含む) (3)わら。穀類の茎。「禾稈カカン」(わら) (4)[国]のぎ(禾)。のげ。穀物の穂の先にある毛。
参考 禾は部首「禾のぎ・のぎへん」になる。主に漢字の左辺(偏)に付いて、穀物に関する意味を表す。常用漢字は23字、約14,300字を収録する『新漢語林』には、150字が収録されている。
部首「禾のぎ・のぎへん」の常用漢字 23字  
 イ・うつる(禾+多の会意)
 穏[穩]オン・おだやか(禾+音符「㥯オン」)
 (斗+音符「禾カ」)
 カ・かせぐ(禾+音符「家カ」)
 カク・とりいれる(禾+音符「蒦カク」)
 ケイ・かんがえる(禾+「尤+旨」の会意)
 稿コウ(禾+音符「高コウ」)
 コク(禾+音符「㱿カク」)
 シ・わたし(禾+ムの会意)
 シュウ・ひいでる(禾+乃の会意)
 シュウ・あき(禾+火の会意)
 シュ・たね(禾+音符「重ジュウ」) 
 称[稱]ショウ・となえる(禾+音符「爯ショウ(尓)」) 
 穂[穗]スイ・ほ(禾+音符「惠ケイ」)
 ゼイ(禾+音符「兌エツ」)
 セキ・つむ(禾+音符「責セキ」)
 ソ・みつぎ(禾+音符「且ソ」)
 チ・いとけない(禾+隹の会意)
 チツ(禾+音符「失シツ」)
 テイ・ほど(禾+音符「呈テイ」) 
 トウ・いね(禾+音符「舀ヨウ」)
 ヒ・ひめる(禾+音符「必ヒツ」) 
 ビョウ(禾+音符「少ショウ」) 

イメージ
 「イネ科の穀物」
(禾・科・蝌・龢)
 「同音代替(カ)」(和)
音の変化  カ:禾・科・蝌   ワ:和・龢

イネ科の穀物
 カ・しな  斗部
解字 「斗(ます)+禾(イネ科の穀物)」の会意形声。収穫した穀物を枡ではかること。はかって収納する際に仕分ける意。転じて等級をつける意となる。禾が発音を表すので音符、したがって部首は斗だが、多くの辞典は部首を禾にしている。(この場合、禾は音符で、かつ部首となる)
意味 (1)はかる(量る)。(2)しな(科)。等級。区分。分類や部門。「文科ブンカ」「理科リカ」 (3)官吏登用試験の科目。「科挙カキョ」(4)法律の条文。転じて、のり、おきて。「罪科ザイカ」「金科玉条キンカギョクヨウ」(科条(法律の条文)を金や玉のように大切にすること。この上なく大切にして従うきまり)「科料カリヨウ」(罪の代金)(5)[国]とが(科)。あやまち。欠点。
 カ  虫部 
解字 「虫(むし。両生類)+科(斗ではかる)」の会意形声。科は斗(ます・ひしゃく)で禾(穀物)をはかる意だが、ここでは斗(ひしゃく)の意か。ひしゃくのように頭が大きく尾が細長いオタマジャクシをいう。
意味 「蝌蚪カト」(蝌も蚪も、おたまじゃくしの意)に使われる字。蛙の幼生。「蝌蚪文字カトモジ」(中国古代の篆文以前の竹簡文字の一種。先が太く尻が細い、おたまじゃくしのような字形から)
 カ・ワ・ととのう  龠部
解字 「龠ヤク(ふえ)+禾(稔った穀物)」の会意形声。龠ヤクは吹き口が三つ並んだ縦笛。稔った穀物の収穫に際し、ふえを中心とする楽器を演奏して神に感謝すること。農耕儀礼にともなう演奏を示す字と考えられるが、①楽器の音がととのう・調和する、②音楽を聞いて心がやわらぐ意となる。和の古字とされ、現在、ととのう・なごむ意は和の字を使う。
意味 (1)(ととの)う。楽音がととのう。(2)やわらぐ。なごむ。
 ワ・オ・カ・やわらぐ・やわらげる・なごむ ・なごやか   口部
解字 篆文は咊で「口(口にいれる。たべる)+禾(こくもつ・食料)」の会意形声。穀物(主食)をたべること。穀物が十分にあり食べてお腹がみたされると、人々は穏やかで争いがない意。隷書から口と禾が入れ替わった和になった。また、龢ワ・カ(楽音がととのう)に通じ、ととのう・調和する意となる。発音は呉音がワ、漢音がカ、唐音がオ。日本ではほとんどワの発音になっている。
意味 (1)やわらぐ(和らぐ)。おだやか。なごむ(和む)。なごやか(和やか)「和気ワキ」「温和オンワ」 (2)争いを治める。「和解ワカイ」「和平ワヘイ」 (3)ととのう。「和音ワオン」「調和チョウワ」 (4)あわさる。たす。「総和ソウワ」「混和コンワ」 (5)日本。日本の意味で使われていた倭を同音の和に変えた。「和文ワブン」「大和やまと」(日本および今の奈良県を表す旧国名) (6)「和尚ワジョウ・カショウ・オショウ」とは、修行を積んで一人前として認められた僧侶の意。奈良時代以前に創建の法隆寺や東大寺では呉音で「ワジョウ」と言う(鑑真和上ガンジンワジョウ)。平安時代以降の真言宗・天台宗の寺院では漢音で「カショウ」と言い、中国の北宋(日本の鎌倉時代初期)から伝来した禅宗寺院では唐音で「オショウ」と言う。

    ネン <穀物のみのり>
 ネン・とし  干部

解字 「禾(穂が実ってたれたイネ等)+人」の会意。人が実った穀物を頭上にのせている形(あるいは肩にかつぐ形)で、穀物を収穫して運んでいるさま。穀物がみのる意を表わす。また、穀物の収穫は甲骨文字の使用された殷では年に一度であるので一年の意となる。篆文で人の下部に一(一度の意か)をつけた形から現在の字が出来あがった。
意味 (1)みのる。穀物のみのり。「祈年祭キネンサイ」(五穀豊穣などを祈る祭り) (2)とし(年)。一年。「年俸ネンポウ」「新年シンネン」 (3)よわい。年齢。「老年ロウネン」「少年ショウネン

    ボク <穀物の穂が実ってふくらんだ形>
 ボク・モク  禾部     

解字 甲骨文は穀物を表す禾の穂が実ってたれているさまの象形。金文で穂が実ってふくらんださまを強調するため彡が付いた。篆文で禾が分離し、ふくらんだ実のかたちが「白+小+彡」に変化した穆となった。内に実り外にその様子が表れるかたちで、内に充実したもののある美しさをいう。
意味 (1)まこと。てあつい。つつしむ。うやうやしい。うるわしい。「穆穆ボクボク」(うるわしく立派なさま)「穆然ボクゼン」(つつしんで深く思うさま) (2)やわらぐ。おだやか。「穆如清風」(やわら(穆)ぎて清風の如し。清風のようにおだやかだ)」 (3)人名。「穆王ボクオウ」(西周第5代の王)「穆天子伝ボクテンシデン」(穆王の旅の物語) (4)音訳字。「珠穆朗瑪峰チョモランマホウ」(エベレスト山。チョモランマはチベット語の音訳)
<紫色は常用漢字>            

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音符「止シ」<足うらのかたち・あしの動作>と「祉シ」「企キ」「渋ジュウ」 

2022年04月20日 | 漢字の音符
 シ・とまる・とめる  止部
 
足裏をかたどると甲骨文字の止になる(ネットから・現在なし)。

解字 足うらの形の象形。甲骨文字第1字は足の指を三本に簡略化し、親指をまげて延長し足裏を区切る線とした形。甲骨文第2字は親指の線が途中でとまった。この形が金文にひきつがれ、さらに足うらを区切る左の曲線がみじかくなり右方向へ延長された。篆文まで同じ形がつづき、楷書は下の線が独立して伸びた止になった。なお、上の写真右図の親指が左に出た「あし」は歩(あしが交互に出る)などで使われる。
 意味は、あし・あしあとの意。また、あしあとが残ることから、とどまる、さらに転じて、とまる意を表わす。止は部首の止部となるが、音符としても用いられる。止は単独では、「とまる」意に用いられるが、足の形であるため音符では、歩く・走るなど「足の動作」を表わす意味でも用いられる。
意味 (1)あし。あしあと。(2)とまる(止まる)。とどまる(止まる)。「静止セイシ」「停止テイシ」(3)とめる(止める)。とどめる(止める)。「制止セイシ」「抑止ヨクシ」(4)やめる(止める)。やむ(止む)。禁ずる。「中止チュウシ」「禁止キンシ」(5)さす(止す)。途中でやめる。「読み止しの本」
参考 止は部首「止とまる」となる。止は足あとの形であり部首になるとき、ほとんどが足で移動する・すすむ意味を持つ。常用漢字で6字、約14,600字を収録する『新漢語林』では21字が止部に収録されている。止部の主な字は以下のとおり。
常用漢字  6字
 シ・とまる(部首)
 サイ・とし(止を含む会意)
 セイ・ただしい(一+止の会意)
 (止+戈の会意)
 ホ・あるく(止+止の会意)
 レキ・へる(止+音符「厤レキ」)
常用漢字以外の主な字
 シ・これ(止+ヒの会意)
 ワイ・ゆがむ(正+不の会意)がある。
以上の字は、歪以外のすべてが音符となる。

イメージ  
 「あし・あしあと」
(止・址・趾)
 「とまる・とめる」(祉・肯・凪・渋)
 「あしの動き」(奔・徙)
 「つま先立ちする」(企)
音の変化  シ:止・址・趾・祉・徙  ジュウ:渋  ホン:奔  キ:企  コウ:肯  なぎ:凪

あし・あしあと
 シ・あと  土部
解字 「土(つち)+止(あしあと)」の会意形声。土の上に残るあしあと。転じて、地上にのこる建物のあとなどをいう。
解字 あと(址)。残っているあと。「城址ジョウシ」(城あと=城跡ジョウセキ)「基址キシ」(基礎のあと。土台)
 シ・あし・あと  足部
解字 「足(あし)+止(あし)」の会意形声。止(あし)の意味を、さらに足をつけて表した字。また、あしあとの意ともなる。
意味 (1)あし(趾)。「趾踵シショウ」(足のかかと)「拇趾ボシ」(足のおやゆび=母趾)「外反母趾ガイハンボシ」(足のおやゆびの先が人差しゆび(第2趾)のほうに「くの字」に曲がり(外反)、つけ根の関節が痛む症状)「玉趾ギョクシ」(他人の足の尊敬語。おみあし) (2)あと(趾)。「遺趾イシ」(昔の建物などのあと) (3)地名。「交趾コウシ・コーチ」(ベトナム北部のトンキン・ハノイ地方の古名)

とまる・とめる
 シ・さいわい  ネ部
解字 「ネ(=示。神の祭壇)+止(足をとめる)」 の会意形声。神が足を止めて福を与えること。
意味 さいわい(祉)。神より受ける幸せ。「祉福シフク」(神から受けた幸せ)「福祉フクシ」(幸福:公共サービスによる生活の安定)
 コウ・うなずく   月部にく
解字 「止(とまる)+月(きんにく)」 の会意。筋肉が骨について止まっているところ。この肉は腱肉ケンニクで、肯とは骨と腱肉とがつながっている部分をいう。物事の急所・要点の意。また、刃物でここを切ると簡単に肉を切り離せることから、うまくいく・よしの意となる。

「アミノ酸スポーツ栄養科学ラボ」 より
意味 (1)骨に筋肉がついているところ(=肯綮)。物事の急所・要点。「肯綮コウケイ」(物事の急所・要所)(2)よしとする。うなずく(肯く)。うべなう(肯う)。がえんじる(肯じる)。がえんずる(肯ずる)。「肯定コウテイ」(3)あえて。すすんで~する。
<国字> なぎ  几部
解字 「几(風の略体)+止(とまる)」 の会意。風が止まること。
意味 なぎ(凪)。なぐ(凪ぐ)。風がやんで波がおだやかになること。「夕凪ゆうなぎ」「朝凪あさなぎ
[澁] ジュウ・しぶ・しぶい・しぶる  氵部
解字 旧字は、「氵(みず)+歮(とまる足三つ)」の会意。止まる意の足三つをおき、水がうまく流れずとどまる意。新字体は、旧字の澁⇒渋に変化した。
意味 (1)しぶる(渋る)。とどこおる。「渋滞ジュウタイ」(2)しぶい(渋い)。かきしぶ。「渋味しぶみ」「渋柿しぶがき」(3)苦々しいさま。「渋面ジュウメン

あしの動き
 ホン・はしる   大部          

解字 金文は、「大(走るひと)+止三つ(足の動作)」の会意。足早に走る意。止三つは篆文で屮が三つ、旧字で十が三つになり、新字体で卉に変化した奔になった。
意味 (1)はしる(奔る)。勢いよく駆ける。「奔走ホンソウ」「狂奔キョウホン」(2)勢いがよい。「奔流ホンリュウ」(3)思うままにする。「奔放ホンポウ
 シ・うつる   彳部
解字 「彳(ゆく)+止(足の動作)+龰(=止。あしの動作)」の会意形声。止(足の動作)を二つ重ね、あるく意、それに彳(ゆく)をつけ、あるいてゆくこと。うつる意となる。 
意味 (1)うつる(徙る)。すぎる。「徙移シイ」(うつる)「徙居シキョ」(居をうつす) (2)さまよう。「徙椅シイ」(さまよう)「徙靡シビ」(なびきゆれる)
参考 「竹+徙」の簁は、竹でできた網目を通過させて、網目より小さいものをえり分ける道具で、篩(ふるい)と通用する。

つま先立する
 キ・くわだてる  人部

解字 「人(ひと)+止(つま先立する)」の会意。甲骨文・金文は「横に向けたあし+人」の形。踵(かかと)をあげて立つ人を表しており、つま先立ちして遠くを望む形。そこから先を見る意となり企てる意となる。
意味 (1)くわだてる(企てる)。事をはじめる。「企画キカク」「企図キト」(2)たくらむ(企む)。悪事をくわだてる。「謀反ムホンを企(たくら)む」(3)あこがれる。待ち望む。「企及キキュウ」(あこがれて追いつく)
<紫色は常用漢字>

参考 歯シも止の音符字です。音符「歯シ」へ
歯[齒] シ・は    歯部            

解字 甲骨文は口のなかに生えている前歯の象形。篆文以降に発音を表す「止シ」がついた形。新字体は、旧字の齒⇒歯に変化 した。
意味 (1)は(歯)。「門歯モンシ」(前歯)「歯牙シガ」(歯と牙きば)「歯牙にもかけない」(問題にしない。相手にしない)(2)年齢。よわい(歯)。とし。「年歯ネンシ」(よわい)

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落合淳思 著 『漢字字形史字典【教育漢字対応版】』

2022年04月17日 | 書評

 甲骨文字の研究者として名高い落合淳思氏が、このたび東方書店から『漢字字形史字典【教育漢字対応版】』を出版した。この本は2019年に発行された『漢字字形史小字典』の増補版ともいうべき本で、『小字典』が小学校1~3年生で学習する漢字を対象としているのに対し、今回の本は小学校6年生までに学ぶ教育漢字1026字を対象とし、その同源字を併せ1271字を収録している。

 この本の中心となっているのは字形変遷図である。以下に筆の原字である聿イツの変遷図を引用させていただく。

 筆を手に持った形で、筆の原字である上図の聿イツでは、甲骨文字が5種挙げられ、そのうちの2種が西周へ受け継がれ、東周へは右端の字体が受け継がれたのち、さらに変化して今日の聿イツと筆ヒツになっていることが図示されている。この変遷図を見ると甲骨文字から楷書まで聿イツがどのような変化をしながら現在に伝わり、秦の時代に竹冠のついた筆の原型が誕生していることがわかる。

変遷図の時代区分について
 なお、この変遷図では時代区分が上から、殷、西周、東周、秦、隷書、楷書となっている。普通、古代文字の区分をする場合、甲骨文字⇒金文⇒篆文⇒隷書⇒楷書という言い方をする。この本の最初の概論を読むと、本書の時代区分は、それぞれ重なる部分があるものの、殷(殷王朝BC16~11世紀)、西周(周王朝前期BC11~8世紀)、東周(周王朝後期:春秋戦国時代BC8~3世紀)、秦(戦国後期の秦以降‐前漢、篆書など・BC3~2世紀)、隷書(前漢・後漢BC2~AD3世紀)、楷書(東晋AD4世紀~)となるようである。

 引き続いて字体の解説を行っているが、以下の文献の解釈を交えながら進めている。
①許慎『説文解字』、②加藤常賢『漢字の起原』、③藤堂明保『学研漢和大字典』、④白川静『字統』、⑤赤塚忠ほか『角川新字源』、⑥鎌田正ほか『新漢語林』、⑦阿辻哲次ほか『新字源』、⑧谷衍奎『漢字源流字典』、⑨李学勤編『字源』、⓾李旭昇『説文新証』の10冊(⑧~⓾は中国の出版物)である。
 そして対象とした字に、これらの文献がどんな解釈をしているかを列挙しつつ、落合氏が自説を展開している。

 落合氏の解説は、専門とする甲骨文字の基本的意味を説明してから入るので説得力がある。そして上記10冊の解釈と異なるものが非常に多い。落合氏は、これまでの代表的な漢字字典が古い字形に基づいていなかったり、存在が確認されていない呪術儀礼をもとにした解釈したり、漢字の上古音の厳密な適用に欠けていたりする事例を指摘している。また、漢字の本家である中国の字典についても、総合的な字源字典が刊行されたのは21世紀に入ってからであり、その多くが古代漢字の知識が少ない状態で分析したりしているとし、現在のところ⑨李学勤編『字源』が最も優秀であるとしている。
 私の個人的な感想であるが、日本の漢字字典は親字の意味と用例・熟語などはしっかりしているが、解字については信頼できるものが少ないと感じる。

音符と音符家族字が一緒になった変遷図があった
 これらの変遷図のなかで、いくつか「我が意を得たり」と思うものがあった。それは例えば下図の「申」の図である。

 この図では、基本となる音符「申シン」と派生字の「神シン」それに「電デン」が、たまたま教育漢字であり、この3つが同じ図のなかに配列されているのである。この図をみると、イナズマの形である甲骨文字の申が時代を経てゆく過程で、ネ(示)偏がついた神シンができ、また雨の中のイナズマがすでに甲骨文字にあり、これが電デンになってゆく過程もよくわかる。わたしがブログ「漢字の音符」で思い描いているのは、一つの音符を中心とした、このような関連図的な記述である。

 落合氏は、こうした漢字変遷図をすでに2019年に『漢字の字形 甲骨文字から篆書、楷書へ』(中公新書)、さらに翌年刊行の『漢字の構造 古代中国の社会と文化』(中公選書)のなかで使用しているから、これらの本を読んだ方にとって、教育漢字がすべて収録されている『漢字字形史字典』は魅力的な一冊であろう。

 しかし、この本の定価は、10,780円(9,800円+税)と高額だ。1000ページを超える本だからやむを得ない面もあるが、漢字に興味のあるというだけの方にとっては手がでにくい。
 小学校の先生も読みたい方は多いと思われるが、一万円を払って買う先生は少ないだろう。ここは学校図書館か公共図書館で揃えていただくのがベストではないだろうか。それだけの値打ちのある本である。

(落合淳思著『漢字字形史字典【教育漢字対応版】』東方書店 1099+49頁 2022年3月刊 9800円+税)
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音符「兆チョウ」<亀甲のヒビ割れ>と「眺チョウ」「挑チョウ」「跳チョウ」「桃トウ」「逃トウ」

2022年04月14日 | 漢字の音符
  チョウの解字を改めました。
 チョウ(テウ)・きざす・きざし  儿部

解字 占いで亀の腹の甲らや獣骨を焼いた時、パンと割れてできたヒビ割れを表す字。古代中国では占いで亀甲などを焼き、そのヒビ割れで吉凶を占った。篆文第一字(上)は[説文解字]に収録の古い字体(古文)で、字の中にh形の卜ボク(亀甲のひび割れの形)が入っている。篆文第二字(下)は、古い字形にさらに卜ボクを付け加え、うらないであることを念押した形の字。隷書レイショ(漢代)は北のような字形の中に「し」が入った形になり、楷書で兆になった。うらない、及び、うらないで出るきざしの意。また、数字の兆に当てられる。
意味 (1)うらない。「ト兆ボクチョウ」(トも兆も、うらなう意。また、うらないで出たきざし)(2)きざす(兆す)。きざし(兆し)。「兆候チョウコウ」「予兆ヨチョウ」(3)数の単位。「兆チョウ」(一億の一万倍)「一兆円」

イメージ 
 「ヒビ割れ」
(兆・眺・挑・誂) 
 「きざし」(晁・窕) 
 「左右に割れる」(桃)
 ヒビ割れが急に出ることから「ぱっと離れる」(跳・逃・佻)
 「形声字」(銚)
音の変化  チョウ:兆・眺・挑・誂・晁・窕・跳・佻・銚  トウ:桃・逃
変化パターン 兆は漢音でチョウ(テウ※歴史的仮名遣い)であり、トウの発音はテウ⇒トウのタ行変化。

ヒビ割れ
 チョウ・ながめる  目部
解字 「目(め)+兆(ヒビ割れ)」の会意形声。ひび割れやそれが示す兆候を目で見つめるのが原義。のち、頂チョウ(いただき)に通じ、いただきから遠くを見つめる意につかわれるようになった。
意味 (1)ながめる(眺める)。見つめる。 (2)遠くを見渡す。「眺望チョウボウ」「臨眺リンチョウ」(高い所から見渡す)
 チョウ・いどむ  扌部
解字 「扌(手)+兆(ヒビ割れ)」の会意形声。手で強く力を加えてたわめ、ひび割れをつけること。腕力を自慢し相手をけしかけること。転じて、いどむ意となった。
意味 (1)たわめる。 (2)いどむ(挑む)。しかける。けしかける。「挑戦チョウセン」「挑発チョウハツ」(けしかける)
 チョウ・あつらえる  言部
解字 「言(ことば)+兆(=挑。いどむ)」の会意形声。言葉でいどむこと。日本では、あつらえる意で使う。
意味 (1)いどむ。(2)からかう。(3)[国]あつらえる(誂える)。注文して作らせる。「洋服を誂える」

きざし
 チョウ・あさ  日部
解字 「日(太陽)+兆(きざす)」の会意形声。朝早く太陽の光が東の空にきざすこと。
意味 (1)あさ(晁)。よあけ。朝。 (2)人名。①阿部仲麻呂の中国名。「晁衡チョウコウ」また、官位をつけた「晁卿チョウケイ」とも。②江戸後期の画家。「谷文晁たにブンチョウ
 チョウ  穴部
解字 「穴(よこあな)+兆(きざす)」の会意形声。穴の中に光のきざしが入り、薄暗く奥深いこと。
意味 「窈窕ヨウチョウ」に使われる字。「窈窕ヨウチョウ」とは、①奥深く静かなさま。②奥ゆかしくうつくしいさま。「窈窕たる淑女」

左右に割れる
 トウ・もも  木部
解字 「木(き)+兆(左右に割れる)」の会意形声。実が左右に割れたような筋が走る桃。
意味 もも(桃)。大型のおいしい実をつける果樹。また、その果実。「桃源郷トウゲンキョウ」(桃の花が咲く別天地)「桃花節トウカセツ」(3月3日の桃の節句)「桃割(ももわ)れ」(髪を左右に分け輪にしてまとめた結い方)

ぱっと離れる
 チョウ・はねる・とぶ  足部
解字 「足(あし)+兆(ぱっと離れる)」の会意形声。地面から足を使って飛びあがること。
意味 (1)はねる(跳ねる)。とぶ(跳ぶ)。「跳躍チョウヤク」「跳馬チョウバ」 (2)おどる。おどりあがる。「跳舞チョウブ」「跳梁チョウリョウ」(跳ねまわる)
 トウ・にげる・にがす・のがす・のがれる  之部
解字 「辶(ゆく)+兆(ぱっと離れる)」の会意形声。ぱっと離れて行くこと。
意味 にげる(逃げる)。のがれる(逃れる)。「逃走トウソウ」「逃亡トウボウ」「逃避トウヒ
 チョウ・かるい  イ部
解字 「イ(人)+兆(ぱっと離れる)」の会意形声。すぐにぱっと離れ去る人。
意味 かるい。かるがるしい。「軽佻浮薄ケイチョウフハク」(軽はずみで落ち着きのない)

形声字
 チョウ  金部
解字 「金(金属)+兆(チョウ)」の形声。[説文解字]に「温器なり」とあり、チョウという名のものを温める鍋の類をいう。また、「一に曰く田器なり」とあり、スキ(鋤)の意。なお、酒器を銚子という。
意味 (1)なべ。柄と口のあるなべ。「銚子さしなべ」(つり手と注ぎ口がついたなべ) (2)酒を注ぐ容器。「銚子チョウシ」(酒を盃に注ぎ入れる容器) (3)すき。農具の一種。 (4)地名。「銚子市チョウシシ」(千葉県北東部の利根川河口に位置するする市)
<漢字音符>

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音符「戻 レイ」<犬がそむく>と「捩レイ」「綟レイ」「唳レイ」「涙ルイ」

2022年04月11日 | 漢字の音符
 戻の解字を改めました。
[戾] レイ・もどす・もどる  戸部

解字 篆文は「戸(家の出入り口)+犬(いぬ)」の会意。犬が戸の前に来ること。犬は漢字では人に例えて、ずるい・わるい意味で使われることが多い。戾は犬が戸の主人に対して逆(さか)らう・そむく意味になる。また、[詩·大雅]「鳶とび飛び天に戾(いた)る」としており、いたる意がある。日本では犬が戻(もど)ってくる意味に用いる。新字体では犬の点がない戻になる。
意味 (1)もとる(戻る)。理にさからう。そむく。「背戻ハイレイ」(背き、もとること)「暴戻ボウレイ」(荒々しく道理にもとること)「狼戻ロウレイ」(狼のように道理にそむく)「乖戻カイレイ」(さからいもとる)(2)いたる。「戻止レイシ」(いたりとまる)「鳶(とび)飛び天に戾(いた)る」(3)つみ。とが。「罪戻ザイレイ」(つみととが)(4)[国]もどす(戻す)。もどる(戻る)。かえす。「返戻金ヘンレイキン」(返し戻すお金)「後戻(あともど)り」 
 
イメージ 
 「さからう・そむく」
(戻)
 「形声字」(涙・捩・綟・唳)
音の変化  レイ:戻・捩・綟・唳  ルイ:涙

形声字
 ルイ・なみだ  氵部
解字 旧字はで「氵(水)+戾(ルイ)」の形声。ルイは泪ルイ(なみだ)に通じ、なみだの意。泪ルイは「氵(水)+目(め)」で、目から水が流れる形で「なみだ」をいう(涙の異体字、現代中国ではこの字を使う)。新字体は犬⇒大に変化した涙になる。
意味 なみだ(涙)。なみだする。「感涙カンルイ」「悲涙ヒルイ」「涙線ルイセン」「催涙サイルイガス」(涙が出るよう刺激するガス)
 レイ・レツ・ねじる・よじる・もじる・ねじ  扌部
解字 「扌(手)+戾(レイ)」の形声。手でねじることを捩レイという。新字体に準じて、戸の中の、犬⇒大になる。  
意味 (1)ねじる(捩じる)。よじる(捩る)。ひねる。「転捩点テンレイテン」(ねじれてまわった時点=転換点)「捩手レイシュ」(手をねじる)「捩(ねじ)り鉢巻」(2)ねじ(捩・捩子)。物をしめつけるらせん状の溝のあるネジ。(3)もじる(捩る)。ひねる。有名な詩句などを言いかえる。(4)むきをかえる。「捩眼レイガン」(横目で見る)「捩舵レイダ」(船の舵をきる)
 レイ・ライ・もじ  糸部
解字 「糸(いと)+戾(レイ(=捩・ねじる)」の形声。糸をねじって(もじって)織った布を綟レイという。新字体に準じて、戸の中の、犬⇒大になる。なお、苅安に似たレイという草で染めた糸の意で、もえぎ色の意味がある。
意味 (1)[国]もじ(綟)。もじ(綟子)。もじり。麻糸をよじって目を粗く織った布、緯(よこ)糸に対して経(たて)糸をねじって絡ませながら織って行くので隙間ができる。通気性が高いため夏の衣服や蚊帳などに用いる。「綟子織もじおり」「綟網もじあみ」(綟織りの細かい漁網。小魚をとるのに用いる)(2)もえぎ色。「綟綬レイジュ」(勲章などをさげるもえぎ色のひも)
 レイ・ライ  口部
解字 「口(くち)+戾(レイ)」の形声。レイという音。口からレイという声をだして鳴く鶴や雁の声を唳レイという。新字体に準じて、犬⇒大になる。
意味 鶴や雁の鳴く声。「鶴唳カクレイ」(鶴の鳴き声)「風声鶴唳フウセイカクレイ」(風の音や鶴の鳴き声に驚く。ささいな音に怖気づいてしまうこと)「嘹唳リョウレイ」(雁や蝉などが鳴く音の形容)
<紫色は常用漢字>

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音符 「微ビ」 <かすか> と 「黴バイ」 「徽キ」

2022年04月08日 | 漢字の音符
 薇ビと徽キの画像を追加しました。
 ビ・ミ・かすか  彳部

解字 甲骨文は、長髪の老人に後ろから手を添えており、老人が支えられながらゆっくり歩む形[甲骨文小字典]。金文から手の形(又)が攴ボク(手に棒を持つ形)に変化した。攴ボクは手に棒をもって打つ意であり、この変化は金文の筆者が字を形よくしようとして間違いをおかした。さらに篆文から行く意である彳が加わったが、意味は、甲骨文が示す「老人が支えられながらゆっくり歩く形」から転じて、わずか・かすか・細かい・よわい・おとろえる等となる。現代字は、攴⇒攵に変化した微となったが、これを字形にそって解字すると、「彳(ゆく)+山(老人の長髪)+兀(老人の体)+攵(支える手の動作)」となる。
意味 (1)かすか(微か)。わずか。ほのか。「微笑ビショウ」「微風ビフウ」 (2)小さい。細かい。弱い。「微細ビサイ」「微小ビショウ」「微塵ミジン」(①こまかいチリ。②ごくわずか)「微塵ミジンもない」 (3)ひそか。ひそかに。 (4)おとろえる。なくなる。「衰微スイビ」 (5)自分のことをへりくだる。「微力ビリョク

イメージ 
 「かすか・ちいさい」
 (微・黴・徽・薇)
音の変化   ビ:微・薇  バイ:黴  キ:徽
 
かすか・ちいさい
 バイ・ビ・かび・かびる  黒部
解字 「黒の旧字(くろ)+微の旧字の略体(ちいさい)」の会意形声。ちいさい黒い点の意で、これがたくさんできること。カビが生えたさまを表す。    
意味 (1)かび(黴)。かびる(黴る)。「黴菌バイキン」「黴雨バイウ・つゆ」(黴が生える雨。=梅雨) (2)性病の一種。「黴毒バイドク」(=梅毒)
 キ・よい・しるし  糸部

コスモスをモチーフにした行政書士の徽章
解字 「糸(ひも)+微の旧字の略体(ちいさい)」の会意。紐を小さく結んで全体を表すしるしとしたもの。のち、紐にかかわらず全体を代表する小さなしるしをいう。
意味 (1)しるし(徽)。全体を代表する小さいしるし。はたじるし。「徽章キショウ」(衣服・帽子・提灯などにつける小さなしるし) (2)よい(徽い)。うつくしい。「徽音キイン」(美しい音楽)「徽言キゲン」(ためになるよい言葉)
 ビ・ぜんまい  艸部

ぜんまい(苗木の通販サイトから)
解字 「艸(草)+微の旧字(かすか)」の会意形声。うずまき状の新芽が地表から、かすかに盛り上がるゼンマイ。食用にする新芽に注目した字。
意味 (1)ぜんまい(薇)。山地に自生するゼンマイ科のシダ。若芽はうずまき状で食用とする。日本では山菜の代表格としてワラビと並び称される。「薇蕨ビケツ」(ゼンマイとワラビ。中国では若芽を食べる草の意で、貧しい人の常食) (2)カラスノエンドウ。若芽は食用となる。(3)「薔薇ばら・ショウビ・ソウビ」とは、「いばら」の転訛した語。バラ科の落葉低木。多くがつる性でトゲがある。夏に開花し、花は香りが高く、紅・白・黄色など多彩。多くの園芸品種が発達した。薔ショウは、かきねを這い上がるつる性の草の意。薇は、古書でカラスノエンドウのこと。茎に巻きひげがあり春になると高さ60 - 150cmに達する二年草。エンドウに似た小型の紅紫色の花を付ける。この二字をあわせた薔薇がバラの意で使われる。
<紫色は常用漢字>

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音符 「互ゴ」<たがいに> と 「彙イ」 と 「携ケイ」 

2022年04月05日 | 漢字の音符
 短い記述の3音符を集めました。相互の関連はありません。
 ゴ・コ・たがいに 二部

解字  [説文解字]は、竹冠の下に互をつけた形()を本字とし、互は「或る体」として次に載せている。竹冠のついた互は「縄を収(おさむ)る也(なり)」とし、おおくの字典は「縄を巻きとる道具の形」「繩巻き器」としている。
縄巻きの道具とは何か? 

縄ない機 - 田舎の一軒家/こだわり農家 (muragon.com)
 縄巻きの道具とは、長い縄を運搬したり販売するため、縄を巻きとって円筒状にする道具のようである。 ネットで「縄巻き機」で検索すると、木製の縄巻きが見つかった。これは縄ない機から出てきた縄を巻きとる部分で、縄を均等に巻くため「縄巻き」をはめた外枠が回転し、出てきた縄が左右に少しずつ移動し、順序よく均等に巻き取るように工夫されている。 おそらく、もっと古い時代には、機械でなく手で編んだ縄を巻きとるため、一人が縄巻き器を回し、もう一人は縄を持ちながら左右に動かし縄を巻く位置を調整していたに違いない(両手を使い一人での動作も可能)。
 ところで、この巻き取り道具は木製である。説文解字は竹製と書いてある。竹を使う理由の一つは巻き取る軸に円い竹を必要とするからであろう。おそらく古代の巻き取り器は板に穴をあけて竹の軸の左右の節まではめ込み、竹軸の空洞に棒を差し込んで両脇の支柱に固定したものと思われる。こうすると巻き取り器を回転させることができる。
 ここで古い字形をみると、竹の下の互は上下二線(側板)の間に互いに入り組んだ形が描かれている。著者の許慎は「人が手を握った形」とするが手には見えない。おそらく巻き取っている縄のより目を表現しているのであろう(以上の解字は私見です)。
なぜ「互いに」の意味になるのか
 では、こうした縄巻き器を使うと何故「互いに」「かわるがわる」「双方」などの意味がでてくるのか。それは、縄を巻くとき、縄が片方の側板に行き着くと反転して向かいの側板にむかって進み、そこに行き着くとまた反転する動作を繰り返すからである。のちに字形は竹がとれて互だけとなった。
意味 (1)たがい(互い)。たがいに(互いに)。「互選ゴセン」「互角ゴカク」「互換ゴカン」 (2)かわるがわる。「交互コウゴ」 

イメージ 「たがいに・双方」(互・冱)
音の変化  ゴ:互・冱
たがいに・双方
 ゴ  冫部
解字 「冫(こおり)+互(双方)」の会意形声。こちらもあちらも寒さのため凍り付くこと。
意味 (1)こおる(冱る)。凍結する。「冱寒ゴカン」(いてつく寒さ)「凝冱ギョウゴ」(凍結する)

           
    イ <はりねずみ>
 イ・あつめる  彑部けいがしら・いのこがしら

解字 篆文は、はりねずみが身をまるめている姿の象形とされるが、字形の解釈はむずかしい。はりねずみは、かたい毛が密集しているので、あつまる・あつめる意に用いる。楷書はとなった。強いて楷書で解字すると、「彑(いのこがしら。とげのような毛のあるヤマアラシ)+冖(とげが表面をおおう)+果(果物のように丸い)」で、はりねずみが丸くなった形か。語呂合わせで覚えると便利。
意味 (1)はりねずみ(彙)。 (2)あつめる(彙める)。あつまる。あつまり。「彙報イホウ」(あつめて分類し編集した報告) (3)(毛が密集するさまから)ひと所にあつまる同類のなかま。たぐい。「語彙ゴイ」(ある範囲の中の単語の総体)「彙類イルイ」(同種のもの)
覚え方  くにわか(ク二ワ(冖)カ(果))で、 
※ただし、上部の正式な筆順は、「L+フ+一」と書くので、ク二ワ果と書くより一画少ない。


    ケイ <たずさえる>
[攜] ケイ・たずさえる・たずさわる  扌部
解字 旧字はケイで、「扌(手)+(ケイ)」の形声。ケイは鳥の名とされ、扌(手)をつけたケイは鳥を入れたカゴを手にたずさえる形。複雑な漢字なので早くから俗字「携」ができて、これが使われている。携は、本字の崔⇒隹、冏⇒乃に変化した字。この字も語呂合わせで覚えるしかない。
覚え方 て()に、とり()の()カゴを(たずさ)える。
意味 (1)たずさえる(携える)。身につける。手にさげて持つ。「携帯ケイタイ」「必携ヒッケイ」(2)たずさわる(携わる)。手をつなぐ。「提携テイケイ」(手をつないで互いに助ける)「連携レンケイ」(連絡をとり手をつないで協力する)
<紫色は常用漢字>
           
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音符「遷セン」<うつる> と「僊セン」「韆セン」

2022年04月02日 | 漢字の音符
 センを追加しました。
 セン・うつる  辶部

解字 篆文は、「辵チャク(=辶。ゆく)+上からの両手と左右の手で頭骨(囟)を持ち上げる+ひざまずく人(卩セツの下が曲がった形)」の会意。「ひざまずく人が見送るなかで、多くの手で頭骨(囟)に代表される遺骨を運ぶ形」であり、遷センは、もがり(仮安置)で白骨化した遺骨を墓地へうつす(遷す)こと([字統]を参考にした)。現代字は、辵⇒辶、上からの両手と囟⇒覀、左右の両手⇒大、卩のまがった形⇒己に変化した遷になった、この世からあの世へうつる。さらに場所・地位がうつる等の意に使われる。
意味 (1)うつる(遷る)。場所・地位がうつる。うつす。「遷宮セングウ」(神社のご神体を遷すこと)「遷都セント」(都をうつす)「左遷サセン」(高い官職から低い官職におろすこと)「遷化センゲ」(この世からあの世へうつる。高僧などが死ぬこと) (2)うつりかわる。「変遷ヘンセン」「遷移センイ」(うつりかわる)
覚え方  「にし( )へ、おおきく()おのれ()しんにゅう()したら左」[漢字川柳を参考]

イメージ 
 「うつる」
(遷・僊)
 「形声字」
音の変化  セン:遷・僊・

うつる
 セン  イ部
解字 「イ(ひと)+遷の略体(うつる)」の会意形声。人があの世にうつること。字は下部が巳に変化した異体字になる(卩のまがった形の正字はパソコンで出ない)。センと同字として使われる。
意味 魂が肉体を抜け出て飛べるようになった人。仙人。「神僊シンセン」(神通力を得た仙人=神仙)「上僊ジョウセン」(天にのぼって仙人になること=上仙)

形声字
 セン  革部
解字 「革(なめしがわ)+遷の旧字(セン)」の形声。この字は、ほとんどの字典が解字をせずに、鞦韆シュウセンに用いる字としている。その中で鎌倉時代に菅原為長によって編纂された字書である[字鏡集]だけが「ムナカイ」と訓をつけている。これをもとに解字すると、センという名の革ひもで、馬の首下(胸)から鞍(くら)にかけわたし、鞍を固定する革ひもをいう。
子ども用ブランコ
意味 (1)むながい。現在は「胸懸むながい」の字が用いられている。 (2)「鞦韆シュウセン」(ぶらんこ)に用いられる字。シュウは「しりがい」で馬の尻(尾の下)にかける革ひも。センは「むながい」で馬の胸(くびの下)にかける革ひも。この二つの革ひもで馬の鞍が前後に動かないようにする(このほかに鞍を固定する腹帯を付ける)。「鞦韆シュウセン」は、鞍のような腰掛ける座席を左右から革ひもで結んで吊り下げた遊具。この座席に乗って揺らして遊ぶ。最初は馬を使う北方遊牧民の遊びだったが、中国宮廷の女官の遊びになり、のち一般にひろがった。
<紫色は常用漢字>

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