漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

紛らわしい漢字 「巨キョ」 と 「臣シン」

2017年12月29日 | 紛らわしい漢字 
 「巨キョ」と「臣シン」は、よく似ている。巨にタテ線二つを加えると臣になる。しかし、両字の成り立ちは全く別で、無関係である。巨は工字型の定規を描いた象形であり、臣は下を向いた目のかたちである。両字の成り立ちと、この字を音符とする主な字を紹介します。

    キョ <大きな定規>
 キョ・おおきい  工部         

解字 金文第一字は、工型の定規に手で持つ取っ手のついた形の象形。矩の原字。金文第二字は、この定規を持つ人を表す。大の字形の人と比較するとかなり大きいことがわかる。通常の定規より大きいので、おおきい意を表わす。篆文は工に取っ手の形。現代字は匚に取っ手に変化。部首はもと工型なので工。
意味 (1)おおきい。「巨人キョジン」「巨大キョダイ」 (2)多い。はなはだ多い。「巨額キョガク」「巨万キョマン」 (3)すぐれた。「巨匠キョショウ」「巨星キョセイ

イメージ 
 巨は定規のかたちなので「定規」(巨・矩)
 定規は工型で両端のあいだが離れているから「へだてる」(拒・距・炬)
音の変化  キョ:巨・拒・距・炬  ク:矩

定規
 ク・さしがね・のり  矢部
解字 「矢(や)+巨(定規)」の会意形声。矢と同じほどの長さの定規。巨の金文第二字は、定規を持った人の形で、その大きさが分かる。巨は工形の定規だが、現在はL形の曲尺を言う。
意味 (1)さしがね(矩)。L字形の定規。曲尺。かねじゃく。「矩尺かねジャク」(①直角に曲がったものさし。②長さの単位で1尺は約30.3cm) (2)直角。「矩形クケイ・さしがた」(四隅が直角の方形。長方形) (3)のり(矩)。おきて。きまり。「規矩キク」(規はコンパス、矩はものさし。人の行為の基準)「矩(のり)を踰(こ)えず[論語]」(人の行為の基準をはずれない)

へだてる
 キョ・こばむ  扌部
解字 「扌(手)+巨(へだてる)」の会意形声。手を前にだして相手との距離をつくる。
意味 こばむ(拒む)。ことわる。「拒絶キョゼツ」「拒否キョヒ
 キョ・へだてる  足部
 鶏距
解字 「足(あし)+巨(へだてる)」の会意形声。鶏などの脚の少し上にある蹴爪(けづめ)のこと。他の爪より離れていることから、へだてる意となる。
意味 (1)けづめ(距)。「鶏距ケイキョ」 (2)へだてる(距てる)。へだたり。「距離キョリ
 キョ・コ・たいまつ  火部
解字 「火(ひ)+巨(へだてる)」の会意形声。まわりからへだてて管理された火。
意味 かがり。かがり火。たいまつ。「炬火キョカ」(①たいまつ。②かがり火)「松炬ショウキョ」(たいまつ)「炬燵コタツ」(炭火を入れた炉の上にやぐらをおき、ふとんで覆った暖房具)


     シン <下をむく目>
シン・ジン・おみ 臣部

下を向いた目が臣  
解字 目を90度回転させて描いた象形。下にうつむいた目を意味し、君主の前で下をむいてかしこまる家来の意。また、捕獲したうつむく奴隷をいう。
意味 (1)けらい。君主に仕える人。「臣下シンカ」「家臣カシン」「大臣ダイジン」(政を司る高官)「臣民シンミン」(臣と民。旧憲法において天皇と皇族を除いた国民) (2)しもべ。どれい。めしつかい。「臣虜シンリョ」(どれいや捕虜)「臣僕シンボク」(しもべ) (3)[国]おみ(臣)。古代豪族が世襲した地位を示す称号のひとつ。

イメージ  
 君主の前の「けらい」(臣)
 「下をむく」(臥・臨)
 「同体異字」(姫)
音の変化  シン:臣  ガ:臥  キ:姫  リン:臨

下をむく
 ガ・ふす  臣部
解字 「人(ひと)+臣(下をむく)」の会意。人が下をむいてふせること。
意味 ふす(臥す)。うつぶせになる。横たわる。「臥竜ガリュウ」(まだ天に昇らず臥せている竜。民間にひそむ英雄)「臥床ガショウ」(①ねどこ。②病気で寝込む)「臥薪嘗胆ガシンショウタン」(薪の上に横たわり、にがい胆(きも)を嘗(な)める。目的達成のため苦心・苦労を重ねる)
 リン・のぞむ  臣部
解字 「臣(下をむく)+𠂉(ひと。人が上にきたときの変化形)+品(いろいろな品物)」 の会意。人が高いところから下の品々を見下ろすこと。
意味 (1)見下ろす。上に立つ。「君臨クンリン」(①君主として上に立つ。②絶対的権勢をふるう) (2)身分の高い者がその場に出向く。「来臨ライリン」「臨席リンセキ」 (4)のぞむ(臨む)。目の前で向き合う。その場に居合わせる。「臨海リンカイ」(海に面した)「臨戦リンセン」「臨時リンジ」(その場限りの)

同体異字
キ・ひめ  女部

解字 金文は「女(おんな)+ふたつの乳房」 で、乳房の成熟した女を表す。篆文・旧字は乳房が一つになった「女+𦣝」の形。成人の女の意から転じて君主の側妾や貴婦人の意。新字体は乳房が𦣝⇒臣に変化した姫になった。 
覚え方 「女+臣(下をむく)」で、君主のそばで下をむいて仕える女。
意味 (1)貴人のそばに仕える女性。高貴な女性。「寵姫チョウキ」(お気に入りの侍女)「姫妾キショウ」(姫も妾も、貴人のそばに仕える女性の意) (2)[国]ひめ(姫)。女性の美称。「歌姫うたひめ」「舞姫まいひめ
<紫色は常用漢字>

参考 
  音符「巨キョ」へ
  音符「臣シン」へ

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音符「凹オウ」<くぼむ>「兕ジ」「凸トツ」と「曲キョク」<まがる>

2017年12月24日 | 漢字の音符
 オウ・くぼむ  凵部
解字 中央がくぼんだ姿を描いた象形。対語は凸。
意味 くぼむ(凹む)。へこんでいるさま。「凹凸オウトツ」「凹版オウハン」(印刷の版面の凹んだ部分にインクを満たして印刷する方式)「凹面鏡オウメンキョウ

イメージ 
 「くぼむ」
(凹)  
 「同体異字」
 「凹の対語」(凸)
発音の変化 オウ:凹  ジ:  トツ:凸

同体異字
 ジ  儿部
    
解字 甲骨文字はツノが牛の角と同様の表現をした字形で、水牛と考えられる。狩猟の対象とされた。なお、犀サイか水牛か不明の別の系統の字形もある[甲骨文字辞典]。篆文は「凹(つの)+豕(いのしし)の変形」となり、現代字は豕⇒儿に変化した兕となった。後代には、水牛の意味が忘れられ、野牛に似た一角の獣とされた。
意味 (1)水牛。「水スイジ」(牛に似た水の獣。水牛) (2)野牛に似た一角の獣。皮は堅厚でよろいを作り、角はさかずきを作る。「ジコウ」(兕の皮製よろい)「ジコウ」(兕の角のさかずき))「ジコ」(と虎。猛獣)「丹坊ジダンボウ」(日本のアニメ「死神」の登場人物) (3)犀のオス。

凹の対語
 トツ・でこ  凵部 
解字 中央が突き出た姿を描いた象形。対語は凹。
意味 でこ(凸)。中央が突き出ているさま。「凸版トッパン」(印刷版面の凸起した部分にインクをつけて印刷する方式)「凸凹でこぼこ


     キョク <まげる>
 キョク・まがる・まげる  日部

解字 まがったものを描いた象形。金文は角になったところがある曲尺など、篆文は竹などをまげて編んだ籠類の象形。いずれもまがった所があるので、まがる意となる。現代字は曲の形になり、字形の上でまがった表現の部分はなくなった。
意味 (1)まがる(曲がる)。まげる(曲げる)。折れまがる。「曲折キョクセツ」「曲線キョクセン」「湾曲ワンキョク」 (2)よこしま。正しくない。「曲学キョクガク」(学問の真理をまげる)「歪曲ワイキョク」(ゆがめ曲げる) (3)音楽のふし。また、作品。「作曲サッキョク」「曲目キョクモク

イメージ  「まがる」(曲・髷)
音の変化  キョク:曲・髷 

まがる
 キョク・まげ  髟部
解字 「髟(かみのけ)+曲(まがる)」の会意形声。髪の毛を束ね、曲げて結うこと。
意味 まげ(髷)。わげ。髪をまげて束ねること。「髷物まげもの」(時代劇・時代物)「丁髷ちょんまげ」(江戸時代の男の髪の結い方のひとつ)
<紫色は常用漢字>
           
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紛らわしい漢字 「貧ヒン」 と 「貪ドン」

2017年12月21日 | 紛らわしい漢字 
  「貧ヒン」と「貪ドン」の違いは、貝の上が「分ブン」と「今コン」の違いです。まず、分ブンと今コンの意味を説明してから、貧ヒンと貪ドンを解字します。

             ブン <わける>  
 ブン・フン・ブ・わける・わかれる・わかる・わかつ  刀部

解字 「八(左右にわかれる)+刀(かたな)」 の会意。八は左右にわかれる形。これに刀を加え、二つに切り分けることを示し、分ける意味になります。
意味 (1)わける(分ける)。いくつかにわける。「分類ブンルイ」「分解ブンカイ」 (2)くばる。「分配ブンパイ」 (3)わかれる(分かれる)。ばらばらになる。「分散ブンサン」「分裂ブンレツ」 (4)物質の要素。「分子ブンシ」「成分セイブン」 (5)状態。程度。「気分キブン

分のイメージは「わける」 
 ヒン・ビン・まずしい  貝部
解字 「貝(財貨)+分(わける)」 の会意形声。財貨を分けてしまい、手元の財貨が少なくなるので、まずしい意味になります。
意味 (1)まずしい(貧しい)。みすぼらしい。「貧困ヒンコン」(貧しく生活が困難)「貧民ヒンミン」(貧しい民)「貧相ヒンソウ」(貧乏な顔つき。みすぼらしい様子) (2)たりない。劣る。「貧血ヒンケツ」「貧弱ヒンジャク」(①貧しく弱い。②十分でなく足りない)


               コン <ふたをかぶせる>
 コン・キン・いま  人部

解字 甲骨文は 「印(ふた)+-印(もの)」 の会意で、ふたをかぶせて、あるものを取り押さえた形。金文以下は、取り押さえたものの形が変化し、現代字では印の上下が分離し、下部は「フ」に変化した「今」になった。いずれも、ふたをかぶせて押さえた瞬間、すなわち「いま(今)」の意[学研漢和]。なお、「いま」の意は仮借カシャ(当て字)との説もあるが、「今かぶせた」のほうが覚えやすい。今が音符で用いられるとき、かぶせて「ふさぐ」イメージがある。
意味 (1)いま。この時。現在。「今日コンニチ」「今朝けさ」「今晩コンバン」 (2)このたび。「今回コンカイ
イメージ  「いま」 (今)  ふたをかぶせて物を「ふさぐ」 (貪)

蓋をかぶせて「ふさぐ」 
 ドン・タン・むさぼる  貝部
解字 「貝(財貨)+今(ふさぐ)」 の会意形声。財貨を自分のふところに入れてふさぐこと。財貨をためこむこと。
意味 むさぼる(貪る)。よくばり。「貪欲ドンヨク」(非常に欲深い)「貪婪ドンラン」(欲のたいそう深いこと。貪も婪も、欲深い意)「貪色タンショク」(女色をむさぼる)「貪淫タンイン」(度をすぎて色を好む)
<紫色は常用漢字>

両字を書く時に気をつけること
 分は「八+刀」なので、分の上は隙間がある。一方、今はもとが「印+-」なので、今の上はふさがっている。


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紛らわしい漢字 「良リョウ」 と 「艮コン」

2017年12月16日 | 紛らわしい漢字 
 良リョウと艮コンはよく似た漢字だ。艮コンの上に を付けたら良リョウになる。しかし、この二つの字は成り立ちがまったく異なる。現在の字は、たまたま似てしまっただけである。両字の成り立ちと、この字が音符となる常用漢字を紹介します。

    リョウ <よい穀物を選りわける器具>
 リョウ・よい  艮部こん

解字 良の解釈については諸説があり定まっていない。甲骨文字は上と下に袋の入口状のものが描かれていることから、上の入り口から穀物をいれ、よいものを選り分ける器具との説がある。私はとりあえずこの説で解字してみたい。いれた穀物が途中の箱に入ると揺り動かし、箱下に張った網からクズが落ち、残ったよいものを逆さにして上の口から取り出す器具と考えると、よいものを選りわける器具であるから、「よい」意となる。また、よいものを選り分けるために「ゆらす」というイメージができる。現在の字は古代文字の原型をまったくとどめていない。よく似ている艮と一緒に、「上に点のあるのが良リョウ、無いのが艮コン」と覚えるといいだろう。そして漢字検索のための部首としては「艮」になっているのも両字が似ているということ。新字体の左辺になるとき、良⇒郎の左辺に簡略化される。
意味 よい(良い)。すぐれている。好ましい。「良心リョウシン」「良否リョウヒ」「良薬リョウヤク」「良好リョウコウ

イメージ  
 穀物を入れて良い物を選別する器具から「よい」(良・郎・朗・娘)
 選別の際に器具をゆするので「ゆする・ゆれる」(浪)
 「同音代替」(廊)
音の変化  リョウ:良  ロウ:郎・朗・浪・狼・廊  ジョウ:娘

よ い
 ロウ  阝部  
解字 「阝(邑:まち)+良の略体(よい)」の会意形声。まちに住む教育や地位のある人(良士)が原義。転じて、若い男の意を中心に使われる。
意味 (1)おとこ。若い男。「新郎シンロウ」「野郎ヤロウ」(田舎者。若い男) (2)けらい。主人に仕えるもの。「郎党ロウトウ」(従者)「下郎ゲロウ」(使われている身分の卑しい男) (3)男子の名前に用いる。「太郎」「次郎」
 ロウ・ほがらか  月部
解字 「月(つき)+良の略体(よい )」の会意形声。よい月、すなわち明るい月の意。きよらかで曇りがないことを性格に転じて、ほがらかの意を持つ。
意味 (1)あかるい。よい。「清朗セイロウ」「朗報ロウホウ」 (2)ほがらか(朗らか)。「明朗メイロウ」 (3)たからか。声たかく。「朗読ロウドク」「朗詠ロウエイ」(声高くうたうこと)
 ジョウ・むすめ  女部
解字 「女(おんな)+良(よい)」の会意形声。よい女の意。若い女のほか、母親の意もある。
意味 (1)むすめ(娘)。おとめ。未婚の女性。「娘盛(むすめざか)り」「娘婿むすめむこ」「看板娘かんばんむすめ」 (2)はは(母)「娘娘ニャンニャン」(もと母。中国の民間信仰の女性神)

ゆらす。ゆれる
 ロウ・ラン・なみ  氵部
解字 「氵(水)+良(ゆれる)」の会意形声。水がゆれるように動く大きな波。
意味 (1)なみ(浪)。おおなみ。「波浪ハロウ」 (2)さすらう。さまよう。「放浪ホウロウ」「浪人ロウニン」 (3)みだりに。ほしいままに。「浪費ロウヒ

同音代替
 ロウ  广部
解字 「广(やね)+郎(ロウ)」の形声。ロウは梁ロウ・リョウ(両岸をわたす)に通じ、建物の両側を渡す屋根のある通路の意。
意味 (1)わたどの。「回廊カイロウ」 (2)建物の中に作られた通路。「廊下ロウカ


     コン <後ろをむいて睨みつける>
 コン・ゴン・うしとら  艮部        

解字 甲骨文は目を大きく描いた人の形で、見ケンと向きが反対の字。見ケンが前を向いて見るのに対し、艮コンは後ろを向いて見る形で、悪意を持って相手を睨みつける意となる。対象者に呪いを掛ける魔術で、呪いを掛けられた方は、その場で動けなくなるとされる。篆文は目の下に右向きの人をつける。現代字は形が大きく変化した「艮」になった。
 悪意を持って相手を睨みつけるのは、邪眼ジャガン・邪視ジャシ・魔眼マガンなどと呼ばれ、世界に広範囲に分布する民間伝承の一つ。魔女とされる女性が持つ特徴とされ、邪眼にあうと病気になって衰弱し、ついには死に至ることさえあるといわれる。艮の意味は、邪眼にあって進めず「とまる・とどまる」意だが、仮借カシャ(当て字)され、「易の八卦のひとつ」および「うしとら(方角)」の意味で使われる。
意味 (1)とまる。とどまる。 (2)易の八卦の一つ。 (3)うしとら(艮)。北東の方角。鬼門。 (4)もとる。さからう。(=很)

イメージ  
 「後ろを向いてにらむ」
(艮・限)
 「後ろを向く」(跟・銀)
 にらまれて動けず、その場に「とどまる」(根・恨・痕)
 「同音代替」(眼)
音の変化  コン:艮・跟・根・恨・痕  ゲン:限  ガン:眼  ギン:銀

後ろを向いてにらむ 
 ゲン・かぎる  阝部

解字 「阝(かいだん・はしご)+艮(後ろを向いてにらむ・邪眼)」の会意形声。聖所へ上がる階段の下に、邪眼を配置してにらみをきかせ、邪悪が入りこまないようにすること。金文は目が離れて見張っている。階段の下で、くぎる・かぎる意となる。
意味 (1)かぎる(限る)。くぎる。「限定ゲンテイ」「制限セイゲン」 (2)さかいめ。はて。「限界ゲンカイ」「限度ゲンド

後ろをむく
 コン・かかと  足部
解字 「足(あし)+艮(後ろをむく)」の会意形声。人が後ろを向いたとき、足の後ろは、かかとになる。また、かかとに付いて行く意となる。
意味 (1)かかと(跟)。くびす。きびす。 (2)したがう。人のあとについていく。「跟随コンズイ」(人の後について行く。=跟従。)
 ギン・しろがね 金部
解字 「金(きん)+艮(=跟。あとにつく)」の会意形声。金のあとに従う銀。金の次に位置する銀の意。
意味 (1)ぎん(銀)。しろがね(銀)。「銀箔ギンパク」 (2)銀に似た色。「銀河ギンガ」(天の川)「銀幕ギンマク」(映画のスクリーン) (3)お金。「銀貨ギンカ

とどまる
 コン・ね  木部
解字 「木(き)+艮(とどまる)」の会意形声。土の中にいつまでもとどまる木の根。
意味 (1)ね(根)。草木の根。「球根キュウコン」 (2)物のねもと。おおもと。「根源コンゲン」「根本コンポン」 (3)がんばり。気分。「根気コンキ」「精根セイコン
 コン・うらむ・うらめしい  忄部
解字 「忄(心)+艮(=根。ね)」の会意形声。いつまでも心に根をもつこと。
意味 うらむ(恨む)。うらめしい(恨めしい)。「遺恨イコン」(恨みを残す)「痛恨ツウコン
 コン・あと  疒部
解字 「疒(やまい)+艮(とどまる)」の会意形声。身体にいつまでも残る傷の跡。
意味 (1)あと(痕)。きずあと。「刀痕トウコン」「傷痕ショウコン」 (2)あと(痕)。あとかた。「痕跡コンセキ」「墨痕ボッコン」(すみのあと。筆のあと)

同音代替
 ガン・ゲン・め・まなこ  目部
解字 「目(め)+艮(ガン)」の形声。ガンは丸ガン(まるい)に通じ、まるい目、すなわち目玉・眼球をいう。
意味 (1)め(眼)。まなこ(眼)。めだま。まなざし。「眼光ガンコウ」「眼下ガンカ」「開眼カイゲン」(新たにできた仏像や人形に目を描きいれ魂を迎えいれること) (2)目のようにまるい。「銃眼ジュウガン」(城壁などに開けた射撃用の穴)「方眼紙ホウガンシ
<紫色は常用漢字>

参考
 音符「良リョウ」
 音符「艮コン」

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音符「封ホウ・フウ」<ほうずる・ふうじる>「邦ホウ」「幫ホウ」

2017年12月13日 | 漢字の音符
 ホウ・フウ・ほうじる・ふうじる  寸部 fēng

解字 甲骨文第一字は、土盛りに植物を植えた形。第二字は土盛りが略体になった形。当時は境界に植物を植えたため領域の意味となり、領域・くに(地方勢力)などの意で使われた[甲骨文字辞典]。金文から「植物(若木)+土(つち)+又(て)」 となり、若木の苗を、盛った土に手で植える形。領土を象徴する土盛りの上に苗木を植えて、領土を諸侯に与える儀式を行うこと。領土が定まると、境界を厳重に管理するので、封じる・とじる意となる。篆文は、又⇒寸に変わり、現代字は、「土+土+寸」の形に変化した。
 なお、封の中の「圭」は、玉圭ギョクケイ(古代中国で帝王が諸侯に与える先端の尖った玉の板)の圭ケイと同じ形だが、成り立ちが異なる字である。
意味 Ⅰ:ホウの発音。①ほうずる(封ずる)。諸侯に領地を与えてその支配者にすること。「封建ホウケン」(君主が土を分け、諸侯をてて領地を治めさせること)「封建制度ホウケンセイド」(天子の下に諸侯が封土を領有し、諸侯が全権をもつ国家制度。⇔郡県制度(全国に郡県を置き、中央政府が地方官を派遣して治める中央集権的な国家制度)
「冊封サクホウ」(冊書[皇帝の文書]により近隣諸国の土地を皇帝が封じた形にする名目的な君臣関係)「封域ホウイキ」(領地の境。また、領地)「封君ホウクン」(諸侯)
Ⅱ:フウの音。②ふうじる(封じる)。とじる。とじこめる。「封鎖フウサ」「封書フウショ」「封印フウイン

イメージ 
 「ほうずる」
(封・邦)
 「形声字」(幫)
音の変化  ホウ・フウ:封  ホウ:邦・幫(幇)

ほうずる
 ホウ・くに  阝部おおざと bāng     

解字 金文は、封の左辺と同じ「若木+土」に、邑(諸侯の領地)がついた形。領土を象徴する土盛りの上の苗木は領土を諸侯に与える儀式を表す。すなわち、封と同じ構造の字で、それに邑(諸侯の領地)がついた邦は、天子が諸侯にあたえた領土を表す。篆文は左辺が丰ホウに変化し、現代字で右辺が阝に変化した邦になった。意味は、当初の「諸侯の領土」から、のちに、より大きな領土をもつ「くに」の意味になった。
 現在字形からの解字は、「丰ホウ+阝(諸侯の領地)」の形声。丰ホウは封ホウ(封ずる。領土を与える)に通じ、封じられた領土の意となる。音符は丰ホウだが、金文の字形との関係で、ここに収録した。
意味 くに(邦)。(=国)。諸侯の領地。みやこ。「邦人ホウジン」(①その国の人。②日本人)「異邦イホウ」(異国)「邦土ホウド」(国土。領土)

形声字
幫[幇] ホウ・たすける  巾部 bāng  
解字 「帛(しろぎぬ)+封(ホウ)」の形声。宋代の韻書[集韻]は「履(はきもの)の邊(辺)を治す也(なり)」とし、履物の縁をなおす帛(しろぎぬ)でなおす意とする。履は写真で分かるように浅い靴のような履物で周囲を布で覆って装飾してある。この履物の周囲を帛(絹)で補修する意。転じて、たすける意となり、さらに朋ホウ(とも)に通じ、なかま・なかまをたすける意となった。帛⇒巾になった新字体の幇も通用する。

宋代の履(中国ネット「履・古代」から)
意味 (1)履(くつ)の側面をつくろう布。また、つくろう。(2)たすける(幇ける)。力をそえる。「幇助ホウジョ」(①力を加えてたすける。②[国](他人の犯罪行為をたすける)(3)なかま。くみ。「幇党ホウトウ」(なかま)(4)間をとりもつ。「幫間ホウカン」(①双方の間をとりもつ者。②酒席の取り持ちを専業とする者、たいこもち)
<紫色は常用漢字>

参考音符 
音符「圭ケイ」

                バックナンバーの検索方法
※一般の検索サイト(グーグル・ヤフーなど)で、「漢字の音符」と入れてから、調べたい漢字1字を入力して検索すると、その漢字の音符ページが上位で表示されます。
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紛らわしい漢字 「微ビ」 と 「徴チョウ」

2017年12月07日 | 紛らわしい漢字 
  「微」と「徴チョウ」は、よく似ている。違いは両字の中央下の字が、兀か王の違いだけ。しかし、両字をさかのぼると成り立ちが全くちがう。微の甲骨文は長髪の老人が後ろから手で支えられ、ゆっくり歩くので、わずか・かすか等の意。後に手が攴ボク(攵)に変化するなどして字形が変わった。一方、徴チョウは篆文からある字で、この字の攴ボク(攵)は文字通り打ちすえる意、打ちすえて取り立てる・求める意となる。

      ビ <長髪の老人が支えられてゆっくり歩く>
 ビ・ミ・かすか  彳部

解字 甲骨文は、長髪の老人に後ろから手を添えており、老人が支えられながらゆっくり歩む形[甲骨文字小字典]。金文から手の形(又)が攴ボク(手に棒を持つ形)に変化した。攴ボクは手に棒をもって打つ意であり、この変化は金文の筆者が字を形よくしようとして間違いをおかした。さらに篆文から行く意である彳が加わったが、意味は甲骨文が示す「老人が支えられながらゆっくり歩く形」から転じて、わずか・かすか・細かい・よわい・おとろえる等となる。現代字は、攴⇒攵に変化した微となったが、これを字形にそって解字すると、「彳(ゆく)+山(老人の長髪)+兀(老人の体)+攵ボク(支える手の動作)」となる。
意味 (1)かすか(微か)。わずか。ほのか。「微笑ビショウ」「微風ビフウ」 (2)小さい。細かい。弱い。「微細ビサイ」「微小ビショウ」「微塵ミジン」(①こまかいチリ。②ごくわずか)「微塵ミジンもない」 (3)ひそか。ひそかに。 (4)おとろえる。なくなる。「衰微スイビ」 (5)自分のことをへりくだる。「微力ビリョク

      チョウ <出かけて長髪の領主を打つ>
 チョウ  彳部

解字 篆文は、「彳(出かける)+頭部の長髪(斜めの山+一)+壬テイ(土盛りに立つ人)+攴(うつ)」の会意。壬テイは土盛りに立つ人の形で地域の領主と思われる。意味は、出かけて長髪の領主を打ちすえて税金や兵を出すよう強要すること。旧字はで、頭部の長髪が(山+一)に、壬テイ⇒王になった。新字体は長髪の一が略された徴。これを字形に沿って解字すると、「彳(出かける)+山(長髪)+王(領主)+攵(うつ)」となる。意味は、強制的に動員したり、財貨をとりたてること。また、兆チョウ(きざし)に通じ、きざす意もある。
意味 (1)官の用で呼び出す。めす。「徴兵チョウヘイ」「徴用チョウヨウ」 (2)取り立てる。もとめる。「徴収チョウシュウ」「徴税チョウゼイ」「追徴ツイチョウ」 (3)きざし。「徴候チョウコウ」 (4)(きざしが現れた)しるし。めじるし。「特徴トクチョウ」「象徴ショウチョウ」(シンボル)

イメージ 
 「出かけて人を打つ」
(徴・懲)
音の変化  チョウ:徴・懲

出かけて人を打つ
 チョウ・こりる・こらす・こらしめる  心部
解字 「心(こころ)+徴(出かけて打ちすえる)」 の会意形声。出かけて打ちすえて、心に思いしらせること。打つ方は、こらしめる意となり、打たれる方は、こりる意となる。
意味 (1)こらす(懲らす)。こらしめる(懲らしめる)。「懲役チョウエキ」(こらしめる強制労働。労役に服させる刑)「懲罰チョウバツ」(こらしめるための罰。不正な行為に対し制裁を加える)「勧善懲悪カンゼンチョウアク」(善い事を勧め、悪事をこらしめる) (2)こりる(懲りる)。こりごりする。「羹あつものに懲りて膾なますを吹く」(熱い汁物を食べたら懲りたので、冷たい膾なます(生肉の刺身)を食べる時も吹いて冷まそうとする。必要以上に用心深くなること)
<紫色は常用漢字>

参考 音符「微ビ」
    音符「徴チョウ」へ

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