漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

音符「吉キチ」<よい>と「詰キツ」「拮キツ」「桔キツ」「髻ケイ」「結ケツ」「纈ケツ」「頡ケツ」「黠カツ」

2024年10月31日 | 漢字の音符
 増訂しました。
 キチ・キツ・よい  口部  jí

解字 甲骨文は「建物のような形+口サイ(祭祀儀礼の器うつわ)」であるが成り立ちは不明。この文字の意味は甲骨文字を刻んだ骨を焼いて占うとき、文字の部分にタテに裂けたひび割れが出現すると吉キチとされ、幸運の意味となる[甲骨文字辞典]。金文は上部が士の形になり意味は、①善・美しい、②月の最初の日、などに用いられた[簡明金文詞典]。篆文以後は吉の形になり、よい・めでたい意味となった。
意味 (1)占いのよいしるし。「吉兆キッチョウ」(よいきざし)「吉凶キッキョウ」(良い事と悪い事)(2)よい(吉い)。めでたい。さいわい。「吉事キチジ」「吉報キッポウ」「不吉フキツ」(3)「吉月キツゲツ」(月の最初の日)

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 「よい・めでたい」
(吉)
 「形声字」(結・髻・纈・詰・拮・桔・頡・黠)
音の変化  キチ:吉  キツ:詰・拮・桔  ケイ:髻  ケツ:結・纈・頡  カツ:黠

形声字
 ケツ・むすぶ・ゆう・ゆわえる  糸部 jié・jiē
解字 「糸(ひも)+吉(ケツ)」の形声。紐でむすぶことを結ケツという。[説文解字]は「締(しめ)る也(なり)。糸に従い吉ケツの聲(声)」とする。結ぶ意のほか、しめくくる・まとまる・こりかたまる意に用いる。
意味 (1)むすぶ(結ぶ)。ゆわえる(結わえる)。ゆう(結う)。「結合ケツゴウ」「結束ケッソク」(2)しめくくる。実をむすぶ。「結実ケツジツ」「結果ケッカ」「結願ケチガン」([仏]願かけの日数が満ちること)(3)まとめる。まとまる。「結集ケッシュウ」「結成ケッセイ」(4)こりかたまる。「結晶ケッショウ」「結氷ケッヒョウ
 ケイ・もとどり  髟部 jì
解字 「髟(かみのけ)+吉(=結。むすぶ)」の会意形声。髪の毛をまとめ上げて結ぶことを髻ケイという。

①男性の髻もとどり、②女性の頭上一髻ケイと二髻ケイ(「髪型の歴史・奈良時代」より)
『貞丈雑記』より髻の図①(「日本中世庶民の世界」より)
意味 もとどり(髻)。たぶさ(髻)。髪を頂きに集め束ねること。また、その髪型。ふつうは、その上から冠をつけた。「髻もとどりを切る」(出家する)「髻華うず」(古代、草木の枝葉や華を冠やもとどり(髻)に挿して飾りとしたもの。かざし)
 ケチ・ケツ・ゆはた  糸部 xiè
解字 「頁(=頭。あたま)+結(むすぶ)」の会意形声。布や薄い革の表面を、小さな頭を出すように糸で結んで染め、模様を出す方法。
意味 ゆはた(纈)。くくり染め。しぼり染め。「纈革ゆはたがわ」(くくり染めした革)「纐纈コウケツ・コウケチ」(奈良時代に行なわれた絞り染めの名。纐も纈も、しぼり染めの意)「夾纈キョウケチ」(文様を彫った2枚の板の間に布を挟んで多色に染め上げる技法。板の裏側にそれぞれの模様に対応する箇所に小さな穴をあけ、そこから染料を流し込む。奈良時代に流行した)

夾纈の技法(読売新聞「2024.10.29夕刊」より)
 キツ・なじる・つめる・つまる・つむ  言部 jié  
解字 「言(いう)+吉(キチ⇒キツ)」 の形声。相手を言葉で問いつめることを詰キツという。なじる・せめる意となる。日本では、物をつめこむ、つまる(ふさがる)、つむ(おわる)意でも用いる。
意味 (1)なじる(詰る)。せめる。問い詰める。「詰問キツモン」「詰責キッセキ」(とがめて責める)(2)[国]つめる(詰める)。つまる(詰まる)。つむ(詰む)。「缶詰かんづめ」「詰腹つめばら」(腹をつめる。切腹する)「詰襟つめえり」(えりがつまる。学生服などえりが立つものをいう)「王手を打たれて詰む」(負ける)
 キツ   扌部 jié・jiá
解字 「扌(手)+吉(キツ)」の形声。手で物をつめこむことを拮キツという。つめこむ・おしこむ意となる。おしこむ力に対抗する「抗コウ」とともに用いられる。
意味 つめこむ。おしこむ。「拮抗キッコウ」(勢力がほぼ等しく相対抗して互いに屈しないこと。拮は押しこむ意、抗は押し返す意。)「拮抗筋キッコウキン」(一方が収縮するとき他方が伸びる一対の筋肉)
 キツ  木部 jú・jié
はねつるべ「和泉名所図会」
解字 「木(き)+吉(=拮)」の形声。拮抗キッコウ(勢力がほぼ等しい)に木へんをつけ、拮抗する木の意で、はねつるべの桔槹キッコウに当てた字。はねつるべは、支点と重りで力を拮抗させており、小さな力で水を汲み上げることができる。また、秋の七草の「桔梗キキョウ」に当てる。
意味 (1)はねつるべ。「桔槹キッコウ・ケッコウ」(はねつるべ)。(2)秋の七草の「ききょう」に使われる字。「桔梗キキョウ」(多年生の草本植物。夏秋のころ青紫または白色の美しい花を開く。根は桔梗根といい生薬となり鎮咳・去痰などの効用がある)
桔梗(「暦生活・桔梗」より)
 ケツ・キツ  頁部 jié
解字 「頁(あたま)+吉(=拮)」の形声。拮抗キッコウ(勢力がほぼ等しい)に頁をつけ、「頡頏ケッコウ」という語に用いる。
意味 (1)「頡頏ケッコウ」とは、①勢力に優劣がなく互いにはりあうこと。=拮抗。②鳥が飛びあがり、また舞い降りること。「燕燕エンエン(ここ)に飛び、之を頡ケツし之を頏コウす」(詩経・燕燕)(2)「頡滑ケッコツ・ケツカツ」(入り乱れるさま)(3)人名。「倉頡ソウケツ」(鳥の足跡を見て文字を発明したという伝説上の人物)
 カツ・わるがしこい  黒部 xiá
解字 「黑(くろ⇒悪い)+吉(キチ⇒カツ)」の形声。黒に悪のイメージがあることから、わるがしこいことを黠カツという。また、我が子の聡明なることを逆説的にわるがしこいということがある。
意味 (1)わるがしこい(黠い)「黠獪カツカイ」(悪がしこい)「カツチ」(悪智恵)「カツド」(悪がしこい奴)(2)「カツジ」(賢い子供)
<紫色は常用漢字>
 
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音符「免メン」と「娩ベン」「勉ベン」「冕ベン」「鮸ベン」「挽バン」「輓バン」「晩バン」

2024年10月29日 | 漢字の音符
  改訂しました。
 メン・ベン・まぬかれる  儿部 miǎn            


 上が免メン、下が娩ベン
解字 上の免メン・ベンの金文は、第一字が冑かぶとをかぶった人の正面形、第二字が側面形。金文は免氏の器に刻されており姓を表している。[字統]は「免冑メンチュウ(冑をぬぐ)」の意味があるとし、「左右、冑を免(ぬ)ぎて下る」(国語・周語中)「冑を免(ぬ)ぐこと毋(なか)れ」(礼記・曲礼上)の例文を挙げている。篆文になると同音の免メン・ベンに置き換えられた。免は女性が股間をひらいて出産する形だが、ここでは発音だけ表す形声字で免(ぬ)ぐ意となり、さらに意味が転じて、のがれる・まぬがれる・ゆるす意が加わった。旧字は上に刀がついた形になり、現在はクがついた免になっている。
意味 (1)ぬぐ(免ぐ)。「免冠メンカン」(冠をぬぐ。退官する)(2)まぬかれる(免れる)。のがれる。「免責メンセキ」(責任をのがれる)「免疫メンエキ」(疫病をまぬがれる。体内に病原菌が入っても発病しないだけの抵抗力をもっている)(3)ゆるす。「免(メン)じる」「免罪メンザイ」(罪を免ずる)「免許メンキョ」(免も許も、ゆるす意。特定の事をすることを許す)(4)やめさせる。「免職メンショク」「罷免ヒメン

イメージ 
 「形声字」(免・娩・挽・輓・晩・勉・冕・鮸) 
音の変化  メン:免  ベン:娩・勉・冕・鮸  バン:挽・輓・晩  

形声字
 ベン・うむ  女部 miǎn

解字 甲骨文は女性の胎内から形の胎児を両手で取り出すさま。出産の意味を表す。金文は体内と子供だけが描かれている。篆文は「子+免(ベン)」の形声で子供が生まれる意。現代字は「女+免(ベン)」で女性が出産する形となった。
意味 うむ(娩む)。出産する。「分娩ブンベン」「娩痛ベンツウ」(出産時の痛み)
 ベン・つとめる・しいる  力部 miǎn
解字 「力(ちから)+免(ベン)」 の形声。力をこめて、つとめることを勉ベンという。[説文解字]は「强(しいる)也(なり)。力に従い免ベン聲(声)」とする。
意味 (1)つとめる(勉める)。はげむ。「勉学ベンガク」「勉励ベンレイ」(つとめはげむ)「勤勉キンベン」(熱心にはげむ) (2)しいる(強いる)。「勉強ベンキョウ」(日本語では強くはげむ意。現代中国語では「無理強いする」意)
 バン・ひく  扌部 wǎn
解字 「扌(手)+免(ベン⇒バン)」の形声。手でものを引くことを挽バンという。宋代の発音字典[集韻]は「引く也。音は晚バン」とする。
意味 (1)ひく(挽く)。ひっぱる。「挽回バンカイ」(ひきもどす。取り戻す) (2)人の死を悼む。「挽歌バンカ」(柩を乗せた車を挽くときうたう歌。死者を悲しみ悼む詩歌)(3)[国]ひく(挽く)。カンナやノコギリで削ったり切る。すりつぶす。「挽物ひきもの」(轆轤ロクロで挽いて作った器具)「挽肉ひきにく
 バン・ひく  車部 wǎn
解字 「車(くるま)+免(バン=挽)」の形声。車を挽くことを輓バンという。
意味 (1)ひく(輓く)。車や舟をひく。「輓馬バンバ」(ソリや車をひかせる馬)「推輓スイバン」(車を後ろから推したり前から引くこと。転じて、人を推挙する)(2)人の死を悼む。「輓歌バンカ」(=挽歌)
 バン・おそい  日部 wǎn 
解字 「日(ひ)+免(バン=挽)」の会意形声。太陽(日)を引っぱりおろすと日が暮れる意。
意味 (1)くれ。日暮れ。夕方。よる。「今晩コンバン」「晩鐘バンショウ」(くれに鳴る鐘)「晩照バンショウ」(夕日の影。夕日)(2)おそい(晩い)。あと。「晩学バンガク」「晩婚バンコン」「晩生おくて」(おそく成長・成熟する)「晩稲おくて」(稲がおそく成長・成熟する)
 ベン・かんむり  冂部けい miǎn 

蜀の劉備の冕冠ベンカン(ウィキペデアより)

解字 金文は大の字の人が被り物をかぶっている形で、この発音をベンと言った。篆文で、「冃ボウ(かぶりもの)+免(ベン)」の形声となり、ベンというかぶりものを表す。現代字は篆文を受け継いだ冕となった。
意味 かんむり(冕)。天子から大夫まで礼式に用いる冠。「冕冠ベンカン」(皇帝や天皇・国王が着用した冠)「冕服ベンプク」(貴人がつけている冠と衣服)「軒冕ケンベン」(①大夫 (たいふ)以上の人の乗る車と、かぶる冠。②高位高官。また、その人)
 ベン・にべ  魚部 miǎn
解字 「魚(さかな)+免(ベン)」の形声。ベンという名の魚で「にべ」をいう。

にべ(イシモチ)(「沼津港の季節の魚図鑑 」より)
意味 にべ(鮸)。スズキ目ニベ科の海水魚。「イシモチ」や「グチ」とも呼ばれる。「鮸膠にべにかわ」(ニベ科の魚の鰾(うきぶくろ)を原料とする膠(にかわ)。粘着力が強い)「鮸膠(にべ)もしゃしゃりもない」(粘り気もなければ、しやりしゃりしたところもない。味もそっけもない)「鮸膠(にべ)も無い」(愛想がない・とりつきようがない)
<紫色は常用漢字>

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音符「農ノウ」<石製の農具でたがやす> と「儂ノウ」「濃ノウ」「膿ノウ」

2024年10月27日 | 漢字の音符
 ノウ  辰部 nóng

 
  上は農、下は辰シン
解字 甲骨文第一字は「草が2本生える形+辰シン(石製の農具)」で、草を石製農具で刈るかたち。第二字は「林+辰(石製の農具)」で、木々を石製農具で刈るかたち。辰の甲骨文の三角形が石の部分[甲骨文字辞典]。意味は地名や祭祀名であり、このかたちは農業の前段階となる開墾のさまと思われる。金文から「田(耕作地)+草二つ+辰(石製の農具)」で、耕作地の草を石製農具で刈りつつ、たがやす形となった。(草(屮屮)の代わりに「木木」の形もある)。[簡明金文詞典]は農を、①農耕、②厚い・勤勉、の意味で用い、さらに「農穡ノウショク」という語で播種・収穫・農事という意味で用いている。篆文で上部が、「草または木二つ⇒上からの両手、田⇒囟」に誤った形になり、現代字では上部⇒曲に変化した農になった。意味は農具で耕作地をたがやすこと。現代字は上が曲に変化したが、下は甲骨から続く石製農具の辰が残った「曲+辰」になっている。
参考音符「辰シン」へ
意味 (1)たがやす。作物を作る。「農業ノウギョウ」「農耕ノウコウ」「農稼ノウカ」(耕して作物を植える)(2)たがやす人。「農民ノウミン」「農家ノウカ」「農奴ノウド」(3)勤勉なさま。つとめる。「力農リョクノウ」(農(つと)め耕す。力は耜スキの意)「農(つと)めて嘉穀カコク(よい穀物)を植える」「耕者は農農に用力」(耕す者は農農ノウノウ(勤勉)に力(すき)を用いる。《管子·大匡》戦国・漢代の書)

イメージ  
 「たがやす」
(農・儂)
 「形声字」(濃・膿)
音の変化  ノウ:儂・農・濃・膿

たがやす
 ノウ・ドウ・わし  イ部 nóng
解字 「イ(人)+農(たがやす)」の会意形声。たがやす人で農民の意だが、中国・中世の俗語で自分を指す言葉として使われた。また、相手をよぶ意でも使われた。
意味 (1)われ。あなた。 (2)[国]わし(儂)。おれ。自称のことば。年配の男性が使う。

形声字
 ノウ・こい  氵部 nóng
解字 「 氵(水)+農(ノウ)」の形声。後漢の[説文解字]は「露(つゆ)多き也(なり)。水に従い農ノウの聲(声)」とし、「詩経」曰(いわ)くとして「蓼蕭リョウショウ」(小雅)の「蓼リョウ(長く大きな)彼の蕭ショウ(よもぎ)零露レイロ(落ちる露)は濃濃ノウノウ(しっとり)たり」を挙げていることから、当初は地面がしっとり濡れる意味であった。のちに転じて、色や味が濃い意味となった。
意味 (1)こい(濃い)。色や味が濃い。「濃紺ノウコン」(濃い紺色。ダークブルー)「濃淡ノウタン」(色彩や味の濃いうすい)(2)液体の濃度が高い。ねっとりとする。「濃厚ノウコウ」(こってりしている)「濃縮ノウシュク」(煮詰める等して濃度をたかめる)「濃茶こいちゃ」(とろっとした濃厚で芳醇な味わいのお茶)(3)こまやか。「濃密ノウミツ」(濃くてこまやか)(4)[国]だむ(濃む)。だみ(濃み)。金銀泥や岩絵の具などの極彩色を用いて絵を描くこと。「濃絵だみえ」(5)地名。「美濃みの」(①旧国名。岐阜県南部。②美濃市。岐阜県南部の市)。
 ノウ・うみ・うむ  月部にく nóng
解字 「月(からだ)+農(=濃。ねっとりした)」の会意形声。はれものや傷などにより、皮膚にできるねっとりしたうみ(膿)。
意味 うみ(膿)。うむ(膿む)。炎症を起こした部位で生じる不透明な粘液。ただれる。「化膿カノウ」「膿瘍ノウヨウ」(膿がたまる病気)「膿汁ノウジュウ」(化膿した傷口などから出る液)「歯槽膿漏シソウノウロウ」(歯周病が最も進行した状態で、歯槽骨(歯茎の骨)から膿が漏れる症状」
<紫色は常用漢字>

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音符「束ソク」 <たばねる> と 「速ソク」「漱ソウ」「嗽ソウ」「竦ショウ「悚ショウ」「勅チョク」「嫩ドン」 

2024年10月25日 | 漢字の音符
 改訂しました。
 ソク・たば  木部

解字 甲骨文第一字(上)は糸をひも状に束ねた形。第二字(下)は、木を縄でくくった形で、糸束と木の束の二種がある。金文の第一字(上)は糸束ととれる字。第二字は木の回りを縄でくくった形で、木を束ねた形。金文は[簡明金文詞典]に、①「束矢ソクシ一百矢と為す」とあり、たばねる矢の単位数となり、②「束帛ソクハク五匹と為す」とあり、帛(絹布)の単位数となっている。③「糸束」の記述もあり、糸の束の意となっている。篆文にいたり、これまであった糸束と木の束の二種の系統が一つに統一された束の字になり、この形が現在にまで続いている。
意味 (1)たばねる(束ねる)。たば(束)。つかねる。ひとまとめに括ったもの。「糸束いとたば」「束髪ソクハツ」(髪を束ねてむすぶ)「束矢ソクシ」(矢たば)「束子たわし」(シュロの毛などを束ねたもの。こすり洗うのに用いる)「束脩ソクシュウ」(進物に用いた干(ほ)し肉の束)(2)動きがとれないようにする。つなぎとめる。「束縛ソクバク」「拘束コウソク」(自由に行動させない)(3)[国]つか(束)。①指4本を握った幅。②短い時間。「束の間」③短い木材。「束柱つかばしら」(床の下などに立てる短い柱)

イメージ 
 「たばねる」(束)
 「形声字」(速)
 木を束ねるとき縄で「引き締める」(勅・竦・悚・漱・嗽)
 「その他」(嫩)
音の変化  ソク:束・速  ソウ:漱・嗽  ショウ:竦・悚  チョク:勅  ドン:嫩   

形声字
 ソク・はやい・すみやか  辶部
解字 「辶(ゆく)+束(ソク)」の形声。後漢の[説文解字]は「疾シツ(はやい)也(なり)。辵チャク(=辶)に従い束ソクの聲(声)」とし、はやく進むことを速ソクという。
意味 (1)はやい(速い)。すみやか(速やか)。「速記ソッキ」「速達ソクタツ」「速断ソクダン」「速成ソクセイ」(すみやかになしとげる)(2)はやさ「速度ソクド」「速力ソクリョク」「高速コウソク

引き締める
[敕] チョク・みことのり  力部
解字 旧字は「攵ボク・うつ(=攴)+束(ひきしめる)」の会意形声。打って引き締めること、転じて、いましめる意となる。また、天子の仰せの意味で用いる。新字体は攵を力に変えた勅になった。「勅チョク」は、もと「敕」の俗字として用いられていた。
意味 (1)いましめる。「勅戒チョッカイ」(いましめ)「勅励チョクレイ」(いましめてはげます)(2)みことのり(勅)。天皇のおおせ。「勅命チョクメイ」「勅語チョクゴ」(3)天皇に関係する物事に添える語。「勅撰チョクセン」(①天子自らが詩歌などを撰ぶこと。②勅命で詩歌などを撰ぶこと)「勅使チョクシ
 ショウ・すくむ  立部
解字 「立(たつ)+束(ひきしめる)」の会意形声。身を引き締めて立つこと。
意味 (1)かしこまる。つつしむ。「竦動ショウドウ」(つつしみかしこまる)(2)すくむ(竦む)。おそれる。恐ろしさや緊張で体が動かなくなる。「身が竦む」「竦然ショウゼン」(おそれてこわがるさま)
 ショウ・おそれる  忄部
解字 「忄(こころ)+束(=竦の略体。すくむ)」の会意形声。身をすくめたときの心でおそれる意。
意味 おそれる(悚れる)。「悚然ショウゼン」(おそれてぞっとするさま)「悚慄ショウリツ」(ぞっとして震え上がる)
 ソウ・すすぐ・うがい  氵部
解字 「氵(水)+束(ひきしめる)+欠(口をあける)」の会意形声。口をあけて(欠)、 氵(水)を含み、口を引き締めて(束)、うがいをすること。
意味 (1)すすぐ(漱ぐ)。くちすすぐ(漱ぐ)。「含漱ガンソウ」(うがい。口をすすぐ)「枕石漱流チンセキソウリュウ」(石を枕にして流れに口を漱ぐ。自然の中で生きる)「漱石枕流ソウセキチンリュウ」(枕石漱流と言うべきところを漱石枕流と言い誤り、「石に漱ぐ」とは歯を磨くこと、「流れに枕す」とは、「耳を洗うこと」と強弁した故事から、負け惜しみの強い意)(2)すすぎ洗う。(3)(嗽ソウに通じて)せき。せきをする。(4)人名。「漱石ソウセキ」(夏目漱石。漱石枕流の故事から名付けた)
 ソウ・ソク・すすぐ・うがい・せき  口部
解字 「口(くち)+欶ソウ(=漱)」の会意形声。欶ソウは漱ソウに通じ漱(すす)ぐ意。この意を口をつけて表した。また、せきこむ意にも用いる。
意味 (1)すすぐ(嗽ぐ)。うがい(嗽い)。うがいをする。「含嗽ガンソウ」(うがい)「嗽薬ソウヤク」(うがい薬)(2)せき(嗽)。せきをすること。「咳嗽ガイソウ」(せきをする。しわぶき) 

その他
 ドン・ノン・わかい・やわらかい  女部 nèn

解字 篆文は「女(おんな)+耎ゼン⇒ドン・ノン(やわらかい)」のドン・ノン。耎ゼンは「大(ひと)+而(やわらかい)」の会意。やわらかい意に人をつけた形で、人に限らず、やわらかい、よわい意となる。そこに女がついたドン・ノンは、女性が若くしなやかの意となる。現代字は、篆文の媆の耎⇒敕に変化した嫩ドンとなった変則的な字。北宋時代の文学者・徐鉉ジョゲンは、この字を「今、俗に嫩ドンに作るのは是(正しい)に非(あら)ず」と評している(「字通」による)。こうした変則的な字は漢検試験問題の絶好の候補、と考えると覚える気になる。
意味 (1)わかい(嫩い)。やわらかい。若くしなやか。「嫩芽ドンガ」(草や木のわかい芽)「嫩色ドンショク」(浅く淡い色)「嫩緑ドンリョク」(わか葉の緑)「嫩碧ドンペキ」(わかばの緑)(2)なまめかしい。みめよい。「嬌嫩キョウドン」(嬌も嫩も、なまめかしい意)「嫩語ドンゴ」(なまめかしい声)(3)かすかに。わずかに。「嫩寒ドンカン」(うすら寒い)「嫩涼ドンリョウ」(すこし涼しい)
<紫色は常用漢字>

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音符「中チュウ」<真ん中・内側>と「仲チュウ」「忠チュウ」「衷チュウ」「沖おき」「狆チン」「迚とても」

2024年10月23日 | 漢字の音符
 チュウ・なか  l部たてぼう zhōng・zhòng

解字 甲骨文字第1字は、吹き流しのつく旗を四角な土地の真ん中に挿して立てた形。挿したことを示すため旗棹の下先が四角を貫いている。第2字は突き出た先にも旗の吹き流しを描いた形。金文は甲骨第2字を引きつぐが土地が楕円形になった形をへて、吹き流しがない第2字の形になった。篆文および現代字はこの形を継承して出来ている。意味は、土地の「真ん中」「うち」「なか」の意を表す。そのほか、真ん中で「かたよらない」、的の中に入ることから「あたる」意味も加わった。部首はl部(たてぼう)。
意味 (1)なか(中)。まんなか。中心。「中央チュウオウ」(2)あいだ。物と物との真ん中にある。「中間チュウカン」(3)うち。なか。「夜中ヨナカ」「懐中カイチュウ」(4)かたよらない。「中正チュウセイ」「中立チュウリツ」(5)あたる。あてる。「的中テキチュウ」「命中メイチュウ」「中毒チュウドク」(毒にあたる)「中傷チュウショウ」(傷にあたる=傷つけられる)

イメージ  
 「なか・あいだ」
(中・仲・衷・忠・狆)
 「まんなか」(沖・迚)
音の変化  チュウ:中・仲・衷・忠・狆・沖  とても:迚

なか・あいだ
 チュウ・なか  人部 zhòng
解字 「イ(ひと)+中(あいだ)」の会意形声。人と人とのあいだにいること。
意味 (1)兄弟の序列で、あいだにあたる人。上から、伯ハク・仲チュウ・叔シュク・季、また、孟モウ・仲チュウ・季という。(2)春夏秋冬のそれぞれの期間を三分したとき、孟・仲・季という。「仲春チュウシュン」(春の真ん中の月で、陰暦2月のこと)(3)なかだち。「仲人なこうど」(4)[国]なか(仲)。なかまどうしの間がら。「仲間なかま
 チュウ・うち  衣部 zhōng

解字 「衣(ころも)+中(なか・内側)」の会意形声。衣で包まれた内側の意で、①衣の内側に着る肌着などの意。②衣の内側から人の心のうちをいう。字形は隷書まで衣+中になっていたが、現代字は、中の下部が突き出ない。
意味 (1)うちにする。中に着る。肌着。「衷甲チュウコウ」(衣服の下によろいを着る) (2)うち(衷)。なか。心のうち「衷心チュウシン」(まごころ)「苦衷クチュウ」(苦しい心のなか)(3)なかほど。かたよらない。「折衷セッチュウ」(取捨して適当なところをとる)
 チュウ   心部 zhōng
解字 「心(こころ)+中(なか・うちがわ)」の会意形声。うわべでなく、こころの内から相手にむきあうこと。相手に尽くす意で、まごころ・まことをいう。のち、主君のためにつくす意味もできた。
意味 (1)まこと。まごころ。まじめ。「忠心チュウシン」(まごころ)「忠誠チュウセイ」「忠実チュウジツ」(2)君主に対して誠実なこと。「忠臣チュウシン」「忠義チュウギ」「忠犬チュウケン
 チュウ・ちん  犭部 zhòng
解字 「犭(いぬ)+中(なか・内側)」の会意形声。日本では室内で飼う犬の意。なお、中国では少数民族の名に用いていた。

狆(チン)(「みんなの犬図鑑・狆」より)
意味 (1)[国]ちん(狆)。日本で改良された愛玩用の小型犬。日本名のちんは珍チン(めずらしい・だいじな)から来たのではないかと思われる。(2)中国、貴州省南部などに住むプイ(布依)族の旧称。

まんなか
 チュウ・おき  氵部 chōng
解字 「氵(海・湖)+中(まんなか)」の会意形声。日本では海や湖のまん中の意から、岸から遠く離れた所の意で使う。中国では、意味が多様で「しずか・おだやか」「むなしい」意で使う。また、チュウ(注)に通じ、水がそそぐ意ともなる。
意味 (1)[国]おき(沖)。岸から遠くはなれた所。「沖釣り」(2)しずか・おだやか。「沖和チュウワ」(おだやか。やわらぐ)(3)むなしい。「沖虚チュウキョ」(むなしい。何もない)(3)流れがそそぐ。「沖積チュウセキ」(流水のために土砂が積み重なる)(4)「沖天チュウテン」とは、空高くのぼること。
[国字] とても  辶部
解字 「辶(ゆく)+中(なかほど)」の会意。なかほどまで行った状態をいい、①到着できないことから、否定の語をともない、「とても~ない」となる。②否定をともなわず、とても・すこぶる・非常に、の意味となる。
意味 (1)「迚(とて)も出来ない」「迚(とて)もじゃないが無理だよ」(2)「迚(とて)も楽しい」
<紫色は常用漢字>  

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音符「滕トウ」< 上にあがる > と「藤トウ」「騰トウ」「謄トウ」「謄トウ」「鰧トウ」「縢トウ」「勝ショウ」「媵ヨウ」

2024年10月21日 | 漢字の音符
 増訂しました。
 トウ・わく・あがる  水部 téng      


上段が滕トウ、下段が朕チン
解字 朕チンの甲骨文は「舟形(いれもの)+両手で棒状のものを捧(ささ)げるかたち)」である。意味は仮借カシャ(当て字)で一人称(われ)であるが、本来の意味は貴重なものを舟(容器)にいれて両手でさしあげる形である。金文で棒の中ほどに肥点がはいり上にハがついた形になり、これが篆文で火に変化した。この形は滕の篆文の水を除いた部分と同じ形である。したがって滕は「水+朕チンの篆文(両手でさしあげる)」の形で、水があがる意味となる。朕は後に天子の自称の意となったが、本来は容器に入れた貴重な物をささげる形なので、上にあげる・あがる意味がある。すなわち滕は、水がわく意となる。
意味 (1)わく。水がわきあがる。(2)あがる。(3)地名。山東省滕県。湧き出る泉水がある。

イメージ 
 「水があがる」
(滕・藤・籐)
 「上にあがる」(勝・騰・謄・鰧)
 「その他」(縢・媵)

音の変化  トウ:滕・藤・籐・騰・謄・鰧・縢  ショウ:勝  ヨウ:媵

水があがる
 トウ・ふじ  艸部 téng
解字 「艸(草木)+滕(水があがる)」の会意形声。水がつるの中を上ってくるつる性の草木。

藤のつる(「庭木図鑑・藤/フジ/ふじ」より)
意味 (1)ふじ(藤)。マメ科フジ属の蔓性落葉木本の総称。「藤棚ふじだな」「藤蔭トウイン」(藤棚の木陰)「藤色ふじいろ」(薄い紫色)「藤袴ふじばかま」(キク科の多年草。秋の七草。花の色が藤色で花弁が袴の形から)「藤布ふじぬの」(藤づるの皮を剥いで糸とし、それを織りあげた布)(2)つる状に生える木の総称。かずら。つる。「葛藤カットウ」(葛やつる性の木(藤)がもつれからむ。いざこざ)(3)姓。藤原氏のこと。源・平・藤・橘の4大貴種名族のひとつ。
 トウ  竹部 téng
解字 「竹(たけ)+滕(水があがる)」の会意形声。水がつるを上がってくる竹に似たつる性の木。
意味 (1)とう(籐)。とうづる。ヤシ科トウ属植物の総称。熱帯アジアに自生するつる性の木本。茎は強靭で竹に似て自由に曲げて細工ができる。ラタン。「籐本トウホン」(蔓性植物のこと)(2)籐で編(あ)んだ器具。「籐椅子トウイス」「籐細工トウザイク」「籐枕トウまくら

籐椅子籐家具店のHPから)

上にあがる
 ショウ・かつ・まさる  力部 shèng
解字 「力(ちから)+滕の略体(上にあげる)」 の会意形声。力を入れて物を持ちあげてたえること。長く持ちこたえた人は他の人よりすぐれており(勝れる)、相手をしのぐ(勝つ)意となる。
意味 (1)たえる(勝える)。もちこたえる。(2)まさる(勝る)。すぐれる。「健勝ケンショウ」(健康がすぐれる)「景勝ケイショウ」(景色がすぐれる)(3)かつ(勝つ)。かち(勝)。力を入れて相手をしのぐ。「勝利ショウリ」「勝算ショウサン
 トウ・あがる  馬部 téng  
解字 「馬(うま)+滕の略体(上にあがる)」の会意形声。馬に乗る意。転じて、高くあがる意となる。
意味 あがる(騰がる)。のぼる。たかくあがる。「騰貴トウキ」(物価や相場のあがること)「沸騰フットウ」(沸き上がる)「高騰コウトウ」「騰勢トウセイ」(物価や相場などが騰がる勢い)
 トウ・うつす  言部 téng
解字 「言(文字)+滕の略体(上にのせる)」の会意形声。言(文字)の上に紙をのせて写しとること。
解字 うつす(謄す)。原本をしきうつす。原本通りに書き写す。「謄写トウシャ」(①そのままを書き写す。②謄写版で印刷する)「謄写版トウシャバン」(蝋引原紙をやすり板にのせ鉄筆で文字を書いたものをローラーインクで印刷する)「謄本トウホン」(原本の内容を全部そのまま写し取った文書。また、戸籍謄本の略。対語は、抄本ショウホン
 トウ・おこぜ  魚部 téng

おこぜ(GOOブログ「鰧・虎魚(おこぜ)」より)
解字 「魚(さかな)+滕の略体(上にのせる⇒お供えする)」の会意形声。山の神にお供えする魚である「おこぜ」をいう。おこぜは醜い顔の魚であるため、女神である山の神は顔が不器量なうえ嫉妬深いので、醜いオコゼの顔を見ると、安心して静まるのだといわれる。
意味 おこぜ(鰧)。虎魚とも書く。カサゴ目の海魚のうちオコゼ類の総称。特に食用となるオニオコゼ(鬼鰧・鬼虎魚)をさすことが多い。頭は凹凸が激しく、背びれのとげが強大で奇異な姿をしている。本州中部以南の海底に分布し、山の神の供物にするなど山の神と関係のある伝承が多い。
戸川幸夫著「マタギ 日本の伝統狩人探訪記」の中のオコゼ(鰧)に関する記述(山と渓谷社 2021年刊)
「山入りのときシカリ(頭領)は「山達根本之巻」(日光権現から狩猟を許されたとする秘密の巻物)とオコゼ(鰧)の干物を懐中にしてゆく。オコゼも秘巻(秘密の巻物)も里では絶対に見てはならぬとされていた。これらは山に入って狩小屋の棚に供えるが、緊急な場合はとり出して祈る。(中略)オコゼは十二枚の紙に包んで持参するが、これには面白い理由がある。オコゼというのはオニオコゼという魚であるが、必ずしも魚のオコゼと限らず、土地によってはシカの耳の切りとったものや、毒毛虫、巻貝などの干したものをオコゼといっているところもある。
 山神さまはひどい醜女である―と何時の頃からか伝わった。山神は自分の面相の悪いのをひどく気にやんでいる。ところで山が荒れたり、雪崩が頻発して獲物がとれないのは山神さまのご機嫌がわるいからだ。そんなときシカリはお守りのように大事にしているオコゼを、紙を開いてそっと見せる。オコゼという魚はまたグロテスクな面構えをしているから、山神さまはこれを見て、世の中にあたしよりもひどい顔をした奴がいるのかーと安心して機嫌をなおす。それで山も鎮まり、獲物もとれる、と言い伝えられているからだ。十二枚の紙に包んであるのは、一度に見せず、一枚一枚めくって山神さまを騙しだまし機嫌をとり結ぶためだといっている古老もある。」(同書P160~161) ※本書でマタギと呼ぶのは、奥羽山中で実漁をしている人たちを指す。

その他
 トウ・かがる・からげる  糸部 téng
解字 「糸(ひも)+滕の略体(トウ)」の形声。貴重なものを入れた凾(はこ)を糸(ひも)でかがることを縢トウという。かがる・からげる・とじる意となる。
意味 (1)かがる(縢る)。からげる(縢げる)。とじる。「金縢キントウ」(縢った金庫。文書保管用)「縢書トウショ」(金縢の中の書)「緘縢カントウ」(緘も縢も、紐でとじる意。また、封をする意)「封縢フウトウ」(かがって封をする)  
 ヨウ・おくる  女部 yìng
解字 「女+滕の略体=朕チン(篆文で同じ形。貴重なものを月(舟=いれもの)に入れて両手でささげもつ)」の会意形声。貴重な自分の娘を嫁ぎ先に送りだすとき、婚家に贈る品物をいう。また、嫁ぎ先に娘と一緒につきそう同姓の親族(姪めいや甥おい)をいう。
意味 (1)おくる(媵る)。嫁入りの器をおくる。「媵爵ヨウシャク」(爵を贈る。爵は酒器) (2)(嫁入りの)つきそいの姪(めい)や甥(おい)「媵侍ヨウジ」(入嫁のときのつきそい)「媵臣ヨウシン」(入嫁した女のつきそい男)「媵婢ヨウヒ」(つきそいの侍女)
<紫色は常用漢字>

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音符「弁 [辡] ベン」<分かれる・分ける> と「辯ベン」「辨ベン」「瓣ベン」「辦ベン」「辮ベン」

2024年10月19日 | 漢字の音符
 弁護士の「弁」、弁償の「弁」、花弁の「弁」、さらに弁髪の「弁」、これらは異なる4つの漢字が、かんむりの意である「弁」で代用されている。安易に代用したため熟語になって初めて「弁」の意味がわかる。では、「弁」の元の字は、それぞれどんな意味をもつのか解字してみました。 

 ベン  辛部 biàn   

解字 「辛(刃物)+辛(刃物)」の会意。辛シンは先の尖った刃物の意。これが二つならんだ辡ベンは、二つの刃物が対立して並んでいる形。意味は中に入る字によって変化する。大きく、①対立する二つの側、②並んでいる双方、③裂き分ける、に区分される。辡ベンが音符となる新字体のほとんどが、弁ベンで代用される。
意味 ①対立する二つの側。②並んでいる双方。③裂き分ける。

イメージ 
 弁の元の意味である「かんむり」(弁)
 二つの辛が「分かれる」(辯・辨・辦)
 「分ける(=辨)」(瓣・辮)
音の変化  ベン:弁・辨・辦・辯・瓣・辮

かんむり
 べん・かんむり  廾部にじゅうあし biàn            

解字 篆文は「人印(かぶる冠のかたち)+両手」の会意。両手で冠をかぶる形で、冠の意を表わす。現代字は上部がムに変化し、両手が廾に変化した弁になった。発音の同じ「辨・辯・瓣」が、新字体ですべて弁となる。
意味 (1)かんむり(弁)。頭にかぶる頭巾型のかんむり。「武弁ブベン」(武士の冠)(2)冠をつける。元服する。「弁髦ベンボウ」(元服式に用いるたれ髪付の冠)(3)「辨・辯・瓣」が表わす意味を代用する。

分かれる
[辯] ベン  廾部 biàn
解字 旧字は「言(ことば)+辡(分かれる)」の会意形声で、①分かれた双方が話す。②話す言葉が巧み、の意味がある。
意味 (1)分れた双方が話す。べんじる。説く。語る。「弁論(辯論)ベンロン」(①意見を述べて論ずる、②言い争う)「弁護(辯護)ベンゴ」(その人のために言って助ける)「弁護士ベンゴシ」(分かれた一方の側からの依頼により弁護する者)(2)巧みに言う。言葉で明らかにする。「弁舌(辯舌)ベンゼツ」(巧みな言い回し)「弁士(辯士)ベンシ」(弁舌の巧みな人。演説する人)(3)「弁(辯)才天ベンザイテン」とは、もとインドの女神。弁舌・才知・音楽に長け福徳を授ける。また、財福の神となったので「弁(辯)財天」とも書く。また、「辨財天」とも書く。(4)「辯天宗ベンテンシュウ」とは日本の仏教の宗派。1934年(昭和9年)に奈良県の大森智辯が大辯才天女尊より天啓を受け、信者や訪問者への相談や行(ぎょう)を行ったことに始まる。1952年(昭和27年)に辯天宗となる。大阪府茨木市に本部を置く。(ウィキペディアより)「智辯チベン」(智辯学園の略称。辯天宗が経営する学校法人)
竹生島・宝厳寺の弁財天(「弁財天⑧より」)
[辨(辧)] ベン・(わきまえる)・(わける)  廾部 biàn
解字 旧字は「刂(=刀。切り分ける)+辡(分かれる)」の会意形声。分かれて争う当事者の言い分をうまく切り分ける(判断する・見分ける)こと。また、言い分をわきまえて処理すること。日本では、弁済・弁償など返す意でも使う。
意味 (1)わける。見分ける。識別する。「弁別(辨別)ベンベツ」(見分ける。識別する)「弁理(辨理)ベンリ」(弁別して処理する)「智弁(智辨)チベン」(智恵があって物を見分ける能力がある)「辨似ベンジ」(類似したものを見分ける)(3)わきまえる。処理する。かえしてあてる。「弁償(辨償)ベンショウ」「弁済(辨済)ベンサイ」(債務を弁償すること)
 ベン・つとめる  力部 bàn
解字 「力(ちから)+辡(=辨。処理する)」の会意形声。力を入れて処理すること。この字は中国で主に使われている。
意味 (1)つとめる(辦める)。物事に力をつくす。「辦貨ベンカ」(仕入れ)(2)あつかう。さばく。処理する。「辦事処ベンシショ」(事務所)「辦公室ベンコウシツ」(①執務室。②管理運営の統括的な仕事をする部門)「買辦バイベン」(中国で清朝末期から外国の貿易業者との仲立ちをした業者。転じて、外国資本を儲けさせ自国の利益を損なうような行為や人物。=買弁とも書く)

わける
[瓣] ベン・(たね)・(はなびら)  廾部 bàn
切り分けた瓜
解字 旧字は「瓜(うり)+辡(=辨。切りわける)」の会意形声。輪に切り分けた瓜の中子が花びらのようにきれいに並んださま。花びらと種・なかごの意味がある。
意味 (1)花びら。「花弁カベン=花瓣」「弁(瓣)香ベンコウ」(①花びら形の香炉、②仏を崇敬する心)「安全弁アンゼンベン=安全瓣」(圧力が高くなると花弁のように開いて烝気を放出する装置)(2)瓜類のたね。「瓜瓣カベン」(トウガンの成熟種子。漢方薬の清熱化痰薬)(3)なかご(①瓜類の中心の種のある部分。 ②みかん類の果肉の部分)「橘瓣キツベン」(橘のみかん状の実の果肉)
辮[弁] ベン・(あむ)  廾部 biàn

辮髪(中国ネットから・「辮髪清代」)
解字  「糸+辡(分ける)」の会意形声。糸を分けてから編むこと。「弁」も代用字となる。
意味 あむ。くむ。ひもをあむ。「辮髪(弁髪)ベンパツ」(髪を分けてから編むこと。頭の周辺部分をそり、残った中央部分を分けて編み、長く後ろに垂らした男子の頭髪。北方の満州人の風俗であったが、満州族の征服王朝・清が漢民族にこの髪型を強要した。)
<紫色は常用漢字>

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音符「及キュウ」<手が相手にとどく> と「吸キュウ」「扱キュウ」「級キュウ」「急キュウ」「汲キュウ」「笈キュウ」「岌キュウ」

2024年10月17日 | 漢字の音符
  増訂しました。
 キュウ・およぶ・および・およぼす 又部 jí     

解字 甲骨文字は、人の後ろから手をのばして脚にとどいた形で、とどく・およぶ意。金文で手が人の脚をつかんだ形。篆文で手の上に人がのった形が、旧字で手の形⇒又に変わり、新字体は㇋が独立した形の及となった。意味は、とどく・およぶ意から転じて、およぼす・ゆきわたらせる意ともなる。部首は届いた「又(手)」になる。
意味 (1)およぶ(及ぶ)。とどく。追いつく。「追及ツイキュウ」(①追いかけておいつく。②責任などを追いつめる)「言及ゲンキュウ」(言いおよぶ)「波及ハキュウ」(余波がとどく)「及第キュウダイ」(第[官吏登用試験]にとどく。合格する)(2)およぼす(及ぼす)。ゆきわたる。「普及フキュウ」(広く行きわたる)(3)および(及び)。ならびに。

イメージ 
 「とどく」
(及・吸・扱・級・汲・笈・岌)
 「追いつく」(急)
音の変化  キュウ:及・吸・扱・級・汲・笈・岌・急

とどく
 キュウ・すう  口部 xī
解字 「口(くち)+及(とどく)」の会意形声。口がある物に届いてすいこむこと。
意味 すう(吸う)。息をすう。吸いこむ。「吸引キュウイン」「吸気キュウキ」「呼吸コキュウ
 キュウ・あつかう  扌部 xī・chā・qì
解字 「扌(手)+及(とどく)」の会意形声。とどいたものを手で別のところに収めること。しかし、日本では手であつかう、手でしごく意で用いられる。
意味 (1)おさめる。おさめ入れる。(2)[国]あつかう(扱う)。操作する。「扱い慣れる」(3)[国]受け持つ。「警察で扱う」(4)[国]みなす。「大人として扱う」 (5)[国]こく(扱く)。しごく(扱く)。手や物ではさんでこすり落とす。「稲扱(こ)き」(実った稲穂を、細い隙間のある道具にはさんで引っ張り、籾(もみ)をこき落とすこと)
 キュウ・しな  糸部 jí
解字 「糸(糸たば)+及(とどく)」の会意形声。布を織るとき、機織り場に糸束を準備して揃えておくこと。糸束は織る布の種類によって異なることから、同じ程度・等級・しな(階級)の意となる。また同じ等級である、学校のくみ(級)の意味になる。
意味 (1)順序。次第。(2)しな(級)。くらい(位)。ていど。序列。「階級カイキュウ」「初級ショキュウ」「特級トッキュウ」「首級シュキュウ」(討ち取った首。秦の時代、敵の首をひとつとれば階級が一つ上がったからという)(3)なかま。くみ。「学級ガッキュウ」「級長キュウチョウ」「同級生ドウキュウセイ
 キュウ・くむ  氵部 jí
解字 「氵(みず)+及の旧字(とどく)」の会意形声。井戸の水につるべがとどくこと。釣瓶で水をくむ意となる。
意味 (1)くむ(汲む)。くみあげる。「汲水キュウスイ」(2)いそがしい。「汲々キュウキュウ」(忙しいさま)
 キュウ・おい  竹部 jí
玄奘負笈図(「中国ネット・玄奘負笈図」から)
笈を背負い仏典を求めてインドへ旅をする三蔵法師・玄奘ゲンジョウ
解字 「竹(たけ)+及の旧字(うしろからとどく)」の会意形声。及は人のうしろから手がとどく形で、うしろからとどく意。笈は、竹製の箱が背中にとどくこと。背に負う竹で編んだ箱の意。
意味 おい(笈)。書物や衣類などを入れて背負う脚付きの箱。「書笈ショキュウ」(本をいれる背負い箱)「笈キュウを負う」(勉強のため他郷に遊学する)「笈摺おいずり」(巡礼者などが着物の上に着る袖なし羽織のような衣。笈を背負うとき背中が摺れるのを防ぐといわれる)「笈の小文(おいのこぶみ)」(松尾芭蕉の俳諧紀行文。1687-88年、尾張から近畿各地をめぐり須磨・明石までの紀行文)
 キュウ・たかい  山部 jí
解字 「山(やま)+及の旧字(キュウ)」の形声。高くけわしい山を岌キュウという。[説文解字]は「山の高い皃(かたち)。山に従い及キュウの聲(声)」とする。
意味 (1)たかい(岌い)。山が高くけわしいさま。「岌峨キュウガ」(山が高くけわしいさま)「岌然キュウゼン」(山がそびえるさま)(2)あやういさま。「岌岌キュウキュウ」(たかくあやういさま)「岌乎キュウコ」(あやうい)

おいつく
 キュウ・いそぐ  心部 jí           

解字 「心(こころ)+及の変化形(追いつく)」の会意形声。 追いつこうとする心の状態。現代字は、及の人⇒ク、手⇒ヨ、に変化した。
意味 (1)いそぐ(急ぐ)。せく(急く)。「急用キュウヨウ」「至急シキュウ」「急行キュウコウ」(①急いで行く。②急行列車の略)(2)さしせまっている。「急迫キュウハク」(3)にわかに。とつぜん。「急死キュウシ」(4)[国]傾斜がきつい。けわしい。「急坂キュウハン」「急峻キュウシュン」(非常にけわしいこと)
<紫色は常用漢字>

お知らせ
 主要な漢字をすべて音符順にならべた、『音符順 精選漢字学習字典 ネット連動版』石沢書店(2020年)発売中です。



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音符「能ノウ」<できる力をもつ>「態タイ」「擺ハイ」「罷ヒ」「羆ヒ」「熊ユウ」

2024年10月15日 | 漢字の音符
  増訂しました。
 ノウ・ドウ・よく  月部にく  néng・nài

解字 金文はクマの形の象形。「b形+月」が頭で、そこから伸びた横線が胴体と尾、下にヒ形の脚が二つ付く。篆文は「上にƧ形+月+ヒヒ」となり、現代字は能になった。意味は借音の用法で、よく・できる・はたらき等の意味で使われるようになった。能の音符を含む字は、「できる力を持つ」イメージを持つ。
意味 (1)よくできる。あたう。よく(能く)。「能力ノウリョク」「能弁ノウベン」(2)はたらき。わざ。ききめ。「能率ノウリツ」「効能コウノウ」(3)[国]のう(能)。能楽のこと。「能面ノウメン

イメージ  
 「できる力をもつ」
(能・態・罷・擺・熊・羆)
音の変化  ノウ:能  タイ:態  ハイ:擺  ヒ:罷・羆  ユウ:熊

できる力をもつ
 タイ・さま 心部 tài  
解字 「心(こころ)+能(できる力をもつ)」の会意形声。ある物事をできるという心構えがあること。また、そのすがた・かたち・ようすの意味になる。
意味 (1)心がまえ。身がまえ。「態勢タイセイ」「態度タイド」(2)さま(態)。すがた。かたち。ようす。「状態ジョウタイ」「奇態キタイ」「醜態シュウタイ」(はずかしいさま)(3)[国]わざと(態と)。わざわざ。
 ヒ・やめる・まかる  罒部 bà・ba・pí
解字 「罒(=网。あみ)+能(できる力をもつ)」の会意。できる力のある者が網にかかったように動けなくなる意。
意味 (1)やめる(罷める)。「罷業ヒギョウ」(業務を罷めること。ストライキ)(2)役目をやめさせる。「罷免ヒメン」(3)つかれる。「罷弱ヒジャク」(4)まかる(罷る)。退出する。死ぬの丁寧語。
 ハイ・ひらく  扌部 bǎi
解字 「扌(て)+罷(網にかかって動けなくなる)」の会意。かかった網を手でひらくこと。
意味 (1)ひらく(擺く)。「擺脱ハイダツ」(ひらいてぬけでる)「擺宴ハイエン」(開宴する)(2)ふるう。ふるいさる。「擺落ハイラク」(ふるいおとす)「擺手ハイシュ」(手をふる)「擺動ハイドウ」(ゆりうごかす)
 ユウ・くま  灬部 xióng
解字 「灬(火)+能(能く)」の会意。火がよく燃えあがること。火が盛んに燃える様子で「熊熊ユウユウ」(火の光がかがやくさま)の意味がある。クマの本来の字である能が「能ノウ・できる」になったので、この字を動物のクマの字に当てた。したがって発音もユウに変化している。
覚え方 「ム(む)月(つき)ヒヒ灬(テン・テン・テン・テン)」火が変化した烈火(灬)を四つ足と見なして覚える。
意味 (1)くま(熊)。日本の本土に生息するのは、黒毛で喉に三日月形の白斑をもつツキノワグマである。「熊掌ユウショウ」(熊の手のひら。および、その肉)「熊手くまで」(熊の手のかたちをした落葉などをかき寄せる竹製の道具)「熊襲くまそ」(古代、九州南部に住んだ部族の名)「熊猫パンダ」(2)普通より大きい。「熊笹くまざさ」「熊蜂くまばち」(3)地名。「熊谷くまがや」「熊本くまもと」「熊野くまの」(4)姓。「熊谷くまがい」「熊沢くまざわ
 ヒ・ひぐま  罒部 pí

日本のひぐま(「のぼりべつクマ牧場」より)
解字 「熊(くま)+罷の略体(罒)」の形声。罷という発音の熊で、罷を省略した罒をつけて羆とした字。大型の熊をいう。
意味 ひぐま(羆)。クマ科の哺乳動物。日本では北海道のみに生息する。大型で気性は荒く、しばしば人畜を襲う。胆嚢は薬用、毛皮は敷物などに利用される。日本では古くから羆を「四(し)+熊(くま)」と解釈して、「しくま」と呼んでいた。中国ネットの羆の説明は「熊の一種、即ち棕熊ソウユウ、又(また)馬熊と叫ぶ、毛は棕褐色、能く樹に爬(ひっかきのぼ)る、游泳ができる」とする。棕ソウは棕櫚シュロで茶褐色をいう。

中国のヒグマ(中国ネットから)
<紫色は常用漢字>

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音符「肙ケン・エン」<まるく細長い虫>と「絹ケン」「羂ケン」「娟ケン」「鵑ケン」「狷ケン」「蜎エン」「捐エン」

2024年10月13日 | 漢字の音符
  増訂しました。
 エン・ケン  月部にく yuān        

解字 篆文は「口(まるい)+月(からだ)」の会意。まるくて細長い芋虫の形を表わし、蜎の原字。現代字は肙になった。「まるく細長い虫」のイメージを持つ。[説文解字]は「小蟲(むし)也(なり)」とする。
意味 (1)小さく細長い虫。(2)うごく。(3)ぼうふら(蚊の幼虫)

イメージ  
 「まるく細長い虫」
(蜎・絹・羂・捐)
 「形声字」(娟・鵑・狷)
音の変化  ケン:絹・羂・娟・鵑・狷  エン:蜎・捐  

まるく細長い虫
 エン・ケン  虫部 yuān
解字 「虫(むし)+肙(まるく細長い虫)」の会意形声。虫をつけて、いもむしがくねるさまをいう。また、娟ケンと通じ、美しい意でも使われる。古書上はボウフラをいう。
意味 (1)いもむしのはうさま。屈曲する。「蜎蜎エンエン」(いもむしの動くさま) (2)ぼうふら。蚊の幼虫。(3)美しい。「蟬蜎センケン」(あでやかで美しい=嬋娟)
 ケン・きぬ  糸部 juàn

解字 「糸(いと)+肙(まるく細長い虫=かいこ)」の会意形声。肙はここでは蚕。絹は蚕が作った繭まゆからできる絹糸をいう。
意味 きぬ(絹)。きぬいと(絹糸)。また、絹糸の織物。「絹織物きぬおりもの」「絹布ケンプ」(絹織物)「絹本ケンポン」(絹の布に書いた文字や絵画)「人絹ジンケン」(人造絹糸の略)
 ケン  罒部よこめ juàn
解字 「罒=网(あみ)+絹(絹糸)」の会意形声。絹糸で編んだ網。
意味 (1)わな。あみ。「羂索ケンサク・ケンザク」(①羂はあみ、索はつなの意で、網をつないで張った獲物を捕らえるわな。②[仏]衆生を救うために用いる五色の糸をより合わせてつくった縄。衆生救済の象徴とされ、不動明王・千手観音・不空羂索観音などがこれを手に持つ)(2)くくる。つなぐ。「羂結ケンケツ」(つなぎしばる・くくる)

①不空羂索観音(復元像)②手にもつ羂索イSム(イスム)より
 エン・すてる  扌部 juān
解字 「扌(て)+肙(まるく細長い虫)」の会意形声。肙はここで芋虫やボウフラなどの役立たない虫のこと。これらの虫を手ですてること。
意味 (1)すてる(捐てる)。「捐棄エンキ」(すてる。捐も棄も、すてる意)「捐身エンシン」(身をすてる)「捐命エンメイ」(命をすてる)(2)さしだす。寄付する。「義捐金ギエンキン」(慈善・災害救助などのため寄付したお金。義援金とも書く)(3)清朝末期の税金の一種。「戸捐コエン」(家屋税)「房捐ボウエン」(家屋税)

形声字
 ケン・エン・うつくしい  女部 juān
解字 「女(おんな)+肙(ケン)」の形声。姿のうつくしい女を娟ケンという。
意味 うつくしい(娟しい)。しなやか。「娟秀ケンシュウ」(しなやかですぐれる)「娟雅ケンガ」(しなやかでみやびな美しさ)「嬋娟センケン」(あでやかで美しい)
 ケン  犭部 juàn
解字 「犭(いぬ)+肙(ケン)」の会意形声。犭(いぬ)は、ここで犬のような人の意で評価の低い人物をさす。心の小さく狭い人を狷ケンといい、頑固・片意地などの意となる。
意味 (1)心が狭い。気が短い。「狷急ケンキュウ」(度量が狭く気が短い)「狷狭ケンキョウ」(度量が狭い)「狭狷キョウケン」(理想に走りかたくななこと[論語・子路])(2)がんこ(頑固)。片意地な。「狷介ケンカイ」(かたく自己をまもり協調性にとぼしい。介は、かたい意)「狷介孤高ケンカイココウ」(かたく自己の意思を守り、他人と和合しない)「狷介固陋ケンカイコロウ」(かたく自己の意思を守り、新しいものを受け入れないこと)
 ケン  鳥部 jiān
 ホトトギス
解字 「鳥(とり)+肙(ケン)」の形声。ケンという名の鳥。「杜鵑トケン」として用いられる。
意味 「杜鵑トケン」とはホトトギスの意。中国・戦国時代の蜀の杜宇(望帝)が不品行により帝位を逐われ、魂が化してこの鳥になったという伝説から杜鵑トケンという。カッコウ目・カッコウ科に分類される鳥類。杜宇、不如帰、時鳥、子規など異名が多い。「杜鵑花トケンカ」(サツキツツジの別称・ホトトギスが鳴く頃に咲く花の意)

杜鵑花(台湾のネット「杜鵑花」から)
<紫色は常用漢字>

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