女性の出産から派生する字群
隓 ダ・タ・キ 阝部 huī・duò
<隋の源流字>
字形の出典は漢典の隓の「字源字形」より(https://www.zdic.net/hans/%E9%9A%93)
解字 金文は「阝(おか)+土土(多くの土)+又又(多くの手)」の会意。丘から多くの人々が手で多くの土を下に落とし、丘をくずすこと。金文は伝説上の聖王・禹ウが「隓山ダサン」(山をこぼつ)として用いられている。楚帛ソハク(戦国)の第一字(上)は金文と同じ構成。第2字(下)は肉が二つ重なった多がついた異体字。篆文第1字(説文解字)は、「阜(おか)+左左」となり、これまでの土を工に書き間違えた(または、書き直した)。この左がそのまま楷書に続いている。意味は説文解字が、「城敗れたる阜(おか)」としているが、最初の金文および楚帛が工でなく土であることから、阜(おか)の土をこぼつ・けずる意が正しいとおもう。なお、楚帛および篆文第2字の肉(多および月)がついた異体字は、「隋ズイ」および「堕ダ」の原字といえる。
意味 (1)こぼつ。けずる。 (2)(こぼちた土が)おちる。おとす。
胎盤が落ちる
隋 ズイ・ダ・タ 阝部 suí・duò
篆文は「隓ダの略体(おちる)+月(にく)」の会意。この字は仮借カシャ(当て字)されて中国の王朝の意味で使われているが、本来は肉がおちること。[説文解字]は「肉を裂く」と説明しているが、肉が離れておちる意である。趙有臣氏によれば、馬王堆マオウタイ漢墓(湖南省長沙市にある紀元前2世紀の墳墓)の医帛『五十二病方』で隋を臍(へそ)の意味で用いているとしている。
①②
①へそ(臍)から垂れている、へその緒(「ハートライト病院でハートフルなお産」より)
https://ameblo.jp/anzanbaby/entry-10287294799.html
②へそと、とれた「へその緒」(ネットの検索サイトから)
これは新生児が母体を離れたとき付いていたへその緒(肉)が、数日すると役割を終えて、へそから落ちる意味であるとする。したがって隋は、へその緒であるとともに「へそ」の意味でも使う(「『五十二病方』中の「隋」の字に関する考察と解明・趙有臣。」このタイトルでネットにPDFあり)。また、へその緒が落ちた痕(あと)のへそは、長円形をしているので長円形の意味もあるとする。
卓見であるが私は、趙有臣氏が「落ちる」意味を「へその緒が、へそから落ちる」とするが、へその緒と連続している胎盤(子宮内で胎児を育てていた器官)が後産あとざんとして排出されることが「落ちる」意味であると考えたい。そうすると、胎盤とつながるへその緒が、生れ出た胎児のへそから「だらりとたれる」イメージが出てくる。なお、へその緒は胎児から数センチのところで切断され、以前は胎盤とともに壺や甕(かめ)に入れて土中に埋められた(現在は一部を臍サイ帯血として利用する)。一方、切断され胎児に残ったへその緒は数日すると乾燥して離れ、その穴が楕円状の臍(へそ)になる。
意味 (1)おちる。(=堕)「隋落ダラク」(隋も落も、おちる意=堕落)(2)おこたる。(=惰)(3)中国の王朝名。「隋ズイ」(分裂していた中国をおよそ300年ぶりに再統一した王朝。581-618年。日本と国交を結んだ。国号の由来は、創建者の楊堅ヨウケン(後の文帝)がもと隨州(湖北省北部)の刺史シシ(長官)だったことから、これに因んで隨から辶を取って名付けたとされる)「遣隋使ケンズイシ」「隋書ズイショ」(隋の正史。85巻。636年に完成。)「隋書倭国伝」(隋書中の倭国に関する条。巻81の「東夷伝」倭国の条に日本の実情を述べている)
イメージ
「中国の王朝名(仮借)」(隋)
隓ダおよび隋の意である「おちる」(堕)
へその緒が「だらりとたれる」(惰・随・髄)
へその緒の落ちたあと「長円形」(楕)
音の変化 ズイ:隋・随・髄 ダ:堕・惰・楕
おちる
堕 ダ・おちる 土部 duò・huī
解字 旧字は墮で「土(つち)+隋(おちる)」の会意形声。隋に落ちる意があり、土をつけて落ちる意をはっきりさせた字。新字体は工がとれた堕になる。
意味 (1)おちる(堕ちる)。くずれおちる。おとす。「堕落ダラク」(身をもちくずす)「堕胎ダタイ」(胎児をおろす) (2)おこたる。なまける。(=惰)
だらりとたれる
惰 ダ・おこたる 忄部 duò
解字 「忄(心)+ 隋の略体(だらりとたれる)」の会意形声。心がだらりとすること。「廣韻コウイン」などの発音字典は「懈(おこたる)也(なり)、怠(なまける)也(なり)」とする。
意味 おこたる(惰る)。なまける。「怠惰タイダ」(怠も、惰も、なまける意)「惰性ダセイ」(なまけるくせ)「惰眠ダミン」(なまけて眠ってばかりいる。何もせずに過ごす)
随 ズイ・したがう 辶部 suí
解字 旧字は隨で「辶(ゆく)+隋(だらりとする)」の会意形声。相手にだらりとよりかかるようにして行くこと。主となる人にしたがって行く意となる。また、相手に頼りきるので、その保護の範囲で自由にすること。親に頼り切った子が自由にしているのと同じ。新字体は工が取れた随になる。発音字典の「廣韻コウイン」は「従(したがう)也(なり),順(したがう・すなお)也(なり)」とする。
意味 (1)したがう(随う)。ともにする。「随行ズイコウ」「随員ズイイン」「随一ずいいち」(随う者のなかで一番、転じて多くの者のなかの第一位)(2)思いのまま。「随想ズイソウ」「随筆ズイヒツ」「随意ズイイ」(心のまま)(3)地名。「随州ズイシュウ」(隨州・隋州とも。中国にかつて存在した州。南北朝時代から民国初年にかけて、現在の湖北省随州市一帯に設置された。)
髄[髓] ズイ 骨部 suǐ
解字 旧字は髓で「骨(ほね)+隨の略体(だらりとしたものがとおる)」の会意形声。骨のなかにへその緒のようなやわらかく長いものが通っているところ。骨の中心部にある髄ズイをいう。新字体は工が取れた髄になる。
意味 (1)骨の中心にある柔らかい組織。「骨髄コツズイ」「脳髄ノウズイ」(2)物事の中心。「神髄シンズイ」(その道の奥義)「精髄セイズイ」(最もすぐれた大事な所)
長円形
楕[橢] ダ 木部 tuǒ
解字 もとの字は橢で「木(き)+隋(長円形)」の会意形声。木の枝をまるく長円にした形をいう。現代字は隋の阝を省いた楕になる。
意味 細長くまるみのある形。長円形。小判型。「楕円ダエン」「楕円形ダエンケイ」「楕円体ダエンタイ」(楕円面によって囲まれる立体。ラグビーボールのような形)
<紫色は常用漢字>
新字体は省略しすぎて音符字としてのまとまりを失った!
以上、隋の音符を解字したが、旧字体では明解に説明可能であるが、新字体は省略が多すぎて全体のまとまりが見られない。私も新字体の字を書こうとするとき旧字のどこを省略したのか迷うことがある。つまり、隋の六字はバラバラになってしまった。常用漢字にするからと言って、やみくもに画数を減らしてその漢字の原点を奪ってはならない。隋の最低限の原点は隋の右側である。左の工を消して有になった、随ズイ・髄ズイ・堕ダはもはや隋の仲間ではない。有には別に独自の音符体系がある。
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隓 ダ・タ・キ 阝部 huī・duò
<隋の源流字>
字形の出典は漢典の隓の「字源字形」より(https://www.zdic.net/hans/%E9%9A%93)
解字 金文は「阝(おか)+土土(多くの土)+又又(多くの手)」の会意。丘から多くの人々が手で多くの土を下に落とし、丘をくずすこと。金文は伝説上の聖王・禹ウが「隓山ダサン」(山をこぼつ)として用いられている。楚帛ソハク(戦国)の第一字(上)は金文と同じ構成。第2字(下)は肉が二つ重なった多がついた異体字。篆文第1字(説文解字)は、「阜(おか)+左左」となり、これまでの土を工に書き間違えた(または、書き直した)。この左がそのまま楷書に続いている。意味は説文解字が、「城敗れたる阜(おか)」としているが、最初の金文および楚帛が工でなく土であることから、阜(おか)の土をこぼつ・けずる意が正しいとおもう。なお、楚帛および篆文第2字の肉(多および月)がついた異体字は、「隋ズイ」および「堕ダ」の原字といえる。
意味 (1)こぼつ。けずる。 (2)(こぼちた土が)おちる。おとす。
胎盤が落ちる
隋 ズイ・ダ・タ 阝部 suí・duò
篆文は「隓ダの略体(おちる)+月(にく)」の会意。この字は仮借カシャ(当て字)されて中国の王朝の意味で使われているが、本来は肉がおちること。[説文解字]は「肉を裂く」と説明しているが、肉が離れておちる意である。趙有臣氏によれば、馬王堆マオウタイ漢墓(湖南省長沙市にある紀元前2世紀の墳墓)の医帛『五十二病方』で隋を臍(へそ)の意味で用いているとしている。
①②
①へそ(臍)から垂れている、へその緒(「ハートライト病院でハートフルなお産」より)
https://ameblo.jp/anzanbaby/entry-10287294799.html
②へそと、とれた「へその緒」(ネットの検索サイトから)
これは新生児が母体を離れたとき付いていたへその緒(肉)が、数日すると役割を終えて、へそから落ちる意味であるとする。したがって隋は、へその緒であるとともに「へそ」の意味でも使う(「『五十二病方』中の「隋」の字に関する考察と解明・趙有臣。」このタイトルでネットにPDFあり)。また、へその緒が落ちた痕(あと)のへそは、長円形をしているので長円形の意味もあるとする。
卓見であるが私は、趙有臣氏が「落ちる」意味を「へその緒が、へそから落ちる」とするが、へその緒と連続している胎盤(子宮内で胎児を育てていた器官)が後産あとざんとして排出されることが「落ちる」意味であると考えたい。そうすると、胎盤とつながるへその緒が、生れ出た胎児のへそから「だらりとたれる」イメージが出てくる。なお、へその緒は胎児から数センチのところで切断され、以前は胎盤とともに壺や甕(かめ)に入れて土中に埋められた(現在は一部を臍サイ帯血として利用する)。一方、切断され胎児に残ったへその緒は数日すると乾燥して離れ、その穴が楕円状の臍(へそ)になる。
意味 (1)おちる。(=堕)「隋落ダラク」(隋も落も、おちる意=堕落)(2)おこたる。(=惰)(3)中国の王朝名。「隋ズイ」(分裂していた中国をおよそ300年ぶりに再統一した王朝。581-618年。日本と国交を結んだ。国号の由来は、創建者の楊堅ヨウケン(後の文帝)がもと隨州(湖北省北部)の刺史シシ(長官)だったことから、これに因んで隨から辶を取って名付けたとされる)「遣隋使ケンズイシ」「隋書ズイショ」(隋の正史。85巻。636年に完成。)「隋書倭国伝」(隋書中の倭国に関する条。巻81の「東夷伝」倭国の条に日本の実情を述べている)
イメージ
「中国の王朝名(仮借)」(隋)
隓ダおよび隋の意である「おちる」(堕)
へその緒が「だらりとたれる」(惰・随・髄)
へその緒の落ちたあと「長円形」(楕)
音の変化 ズイ:隋・随・髄 ダ:堕・惰・楕
おちる
堕 ダ・おちる 土部 duò・huī
解字 旧字は墮で「土(つち)+隋(おちる)」の会意形声。隋に落ちる意があり、土をつけて落ちる意をはっきりさせた字。新字体は工がとれた堕になる。
意味 (1)おちる(堕ちる)。くずれおちる。おとす。「堕落ダラク」(身をもちくずす)「堕胎ダタイ」(胎児をおろす) (2)おこたる。なまける。(=惰)
だらりとたれる
惰 ダ・おこたる 忄部 duò
解字 「忄(心)+ 隋の略体(だらりとたれる)」の会意形声。心がだらりとすること。「廣韻コウイン」などの発音字典は「懈(おこたる)也(なり)、怠(なまける)也(なり)」とする。
意味 おこたる(惰る)。なまける。「怠惰タイダ」(怠も、惰も、なまける意)「惰性ダセイ」(なまけるくせ)「惰眠ダミン」(なまけて眠ってばかりいる。何もせずに過ごす)
随 ズイ・したがう 辶部 suí
解字 旧字は隨で「辶(ゆく)+隋(だらりとする)」の会意形声。相手にだらりとよりかかるようにして行くこと。主となる人にしたがって行く意となる。また、相手に頼りきるので、その保護の範囲で自由にすること。親に頼り切った子が自由にしているのと同じ。新字体は工が取れた随になる。発音字典の「廣韻コウイン」は「従(したがう)也(なり),順(したがう・すなお)也(なり)」とする。
意味 (1)したがう(随う)。ともにする。「随行ズイコウ」「随員ズイイン」「随一ずいいち」(随う者のなかで一番、転じて多くの者のなかの第一位)(2)思いのまま。「随想ズイソウ」「随筆ズイヒツ」「随意ズイイ」(心のまま)(3)地名。「随州ズイシュウ」(隨州・隋州とも。中国にかつて存在した州。南北朝時代から民国初年にかけて、現在の湖北省随州市一帯に設置された。)
髄[髓] ズイ 骨部 suǐ
解字 旧字は髓で「骨(ほね)+隨の略体(だらりとしたものがとおる)」の会意形声。骨のなかにへその緒のようなやわらかく長いものが通っているところ。骨の中心部にある髄ズイをいう。新字体は工が取れた髄になる。
意味 (1)骨の中心にある柔らかい組織。「骨髄コツズイ」「脳髄ノウズイ」(2)物事の中心。「神髄シンズイ」(その道の奥義)「精髄セイズイ」(最もすぐれた大事な所)
長円形
楕[橢] ダ 木部 tuǒ
解字 もとの字は橢で「木(き)+隋(長円形)」の会意形声。木の枝をまるく長円にした形をいう。現代字は隋の阝を省いた楕になる。
意味 細長くまるみのある形。長円形。小判型。「楕円ダエン」「楕円形ダエンケイ」「楕円体ダエンタイ」(楕円面によって囲まれる立体。ラグビーボールのような形)
<紫色は常用漢字>
新字体は省略しすぎて音符字としてのまとまりを失った!
以上、隋の音符を解字したが、旧字体では明解に説明可能であるが、新字体は省略が多すぎて全体のまとまりが見られない。私も新字体の字を書こうとするとき旧字のどこを省略したのか迷うことがある。つまり、隋の六字はバラバラになってしまった。常用漢字にするからと言って、やみくもに画数を減らしてその漢字の原点を奪ってはならない。隋の最低限の原点は隋の右側である。左の工を消して有になった、随ズイ・髄ズイ・堕ダはもはや隋の仲間ではない。有には別に独自の音符体系がある。
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