漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

音符「皇コウ」<王の冠>と「徨コウ」「蝗コウ」「凰オウ」

2020年05月28日 | 漢字の音符
 皇の字源はこれまで、①灯火の形でかがやく意の煌の原文、②日光の形で煌の原文、の二つが主な説であった。近年、良渚リョウショ文化の出土品をもとに王冠の原文説が注目されており、私も共感を持つ部分があるので、これをもとに皇を解字してみたい。解字にあたっては「漢字多功能字庫」の皇を参照した。
 コウ・オウ・きみ  白部          
良渚玉人(正面・背面)
https://humanum.arts.cuhk.edu.hk/Lexis/lexi-mf/search.php?word=%E7%9A%87

解字 甲骨文は三本の羽飾りがついた冠を棒で立てて飾っている形。棒のそばに横向きの王の字がつく。金文はこの冠の下に王をつけた形。写真は紀元前3500~2200年ころの長江文明の一つである良渚リョウショ文化(浙江省杭州市良渚)出土の玉製の人形で、頭部に山形の冠をつけている。別に発掘された冠の実物では三ツ山の上に穴があり羽根を挿せるようになっているという。冠の下部につく王の字は発音(オウ⇒コウ)を表すとともに、これをつける者が王であることを示している。従ってこの冠は王冠である。
 しかし甲骨文は断片のため意味不詳。金文は、①きみ。王。②盛大、③美しく輝く、④祖先の尊称、などに用いている。なお、「きみ」の意味は秦代になり全土を統一した王が秦の始「皇帝」と称して中国全土の統治者の意味とした。篆文は上部が自に変化した。後漢の[説文解字]は、この字体から「大なり。自(鼻=始め)と王から構成される。最初の王が皇であり、偉大な君主である」とする。当時、金文は知られておらず、この「大なり」の解釈は後起の字に影響を与えている。現代字はさらに白に変わった皇となった。
覚え方 (日焼けをしていない)顔のしろい()おう()は、
意味 (1)きみ(皇)。王。天子。「皇帝コウテイ」 (2)かみ(皇)。天上の偉大な王。上帝。「皇天コウテン」(天のかみ) (3)おおきい。おおい。ひろい。 (4)祖先への尊称。「皇考コウコウ」(亡き父の尊称)「皇妣コウヒ」(亡き母の尊称) (5)[国]すめらぎ(皇)。天皇。「皇室コウシツ」「皇太子コウタイシ」「皇族コウゾク」「皇統コウトウ」(天皇の血筋)

イメージ 
 「きみ・天子」(皇・凰)
 盛大の意から「おおきい・ひろい」(鰉・蝗・篁・徨・惶)
 王冠が「きらびやか」(煌)
音の変化  コウ:皇・鰉・蝗・篁・徨・惶・煌  オウ:凰

きみ・天子
 オウ・コウ・おおとり  几部

解字 鳳ホウに合わせて後に作られた字。鳳ホウは「凡(風の略体)+鳥(とり)」で、風の神である鳳(おおとり)の意。篆文は今篆(復元した篆文)として「漢字源流字典」(中国)に掲載されている字で、鳳ホウと同じく風の神の意を、「凡(風の略体)+皇(きみ・天子⇒かみ)」としている。現代字は「几(風の略体)+皇」の凰となり併せて鳳凰となった。なお、篆文の正字は皇で、鳳凰は鳳皇と書いた。
意味 おおとり(凰)。想像上のめでたい鳥。鳳ホウは雄、凰オウは雌とされる。「鳳凰堂ホウオウドウ」(平等院の阿弥陀堂の別称)「鳳凰文ホウオウモン」(鳳凰を文様化したもの)

おおきい・ひろい
 コウ・ひがい  魚部
 ヒガイ
解字 「魚(さかな)+皇(おおきい)」の会意形声。大きな魚で中国でチョウザメ科のサメをいう。日本では明治天皇が琵琶湖疎水の開門式に出席したときに賞味したことから、琵琶湖に産する淡水魚の「ひがい」をいう。
意味 (1)チョウザメ。「鰉魚コウギョ」(チョウザメ) (2)[国]ひがい(鰉)。コイ科の淡水魚。琵琶湖に産するもの(ビワヒガイ)が知られる。
 コウ・いなご  虫部
解字 「虫(むし)+皇(ひろい)」の会意形声。広い地域を集団で飛び回るバッタをいう。日本では稲子(いなご)に当てる。
意味 (1)バッタ。トビバッタ。バッタ目の昆虫の総称。「蝗虫コウチュウ」(バッタ)「飛蝗ヒコウ」(バッタが多数群になって飛ぶ現象)「蝗害コウガイ」(バッタ類による作物を食い荒らす害)(2)いなご(蝗)。稲子。バッタ科イナゴ属の昆虫の総称。稲の害虫。
 コウ・たかむら  竹部
解字 「竹(たけ)+皇(ひろい)」の会意形声。竹が広く一面に生えている竹藪をいう。
意味 (1)たかむら(篁)。竹やぶ。「叢篁ソウコウ」(竹やぶ)「幽篁ユウコウ」(奥深い竹やぶ)「翠篁スイコウ」(みどりの竹やぶ) (2)竹の通称。
 コウ・さまよう  彳部
解字 「彳(ゆく)+皇(ひろい)」の会意形声。広い荒野を行くこと。道のない荒れ地をさまようこと。
意味 さまよう(徨う)。「彷徨ホウコウ」(さまよう。彷も徨もさまよう意)
 コウ・おそれる  忄部
解字 「忄(こころ)+皇(=徨。さまよう)」の形声。荒野をさまよう心の状態をいう。
意味 (1)おそれる(惶れる)。「惶急コウキュウ」(おそれあわてる)「惶恐コウキョウ」(惶も恐も、おそれる意)「惶惑コウワク」(おそれまどう) (2)あわただしい。「蒼惶ソウコウ」(あわただしい) 

きらびやか
 コウ・かがやく・きらめく  火部
解字 「火(ひ)+皇(きらびやか)」の会意形声。きらびやかな意を火をつけて表した。
意味 かがやく(煌く)。きらめく(煌めく)。「煌煌コウコウ」(きらびやかに光るさま)
<紫色は常用漢字>

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音符 「臼キュウ」<うす> と 「旧キュウ」「舅キュウ」

2020年05月23日 | 漢字の音符
 キュウ・うす  臼部             
 けやき臼

解字 中に穀物をいれて搗く器である臼うすの字が単独で使われるのは篆文から。金文は舂ショウ(杵で臼をつく形)から臼の部分を抜き出した。この臼はくぼんだ容器に二本の線が突き出た形をしている(なお、甲骨文の臼は凵カンで表される)。篆文は突起が左右二本になり上の口も丸みを持たせた。隷書レイショ(漢代)は全体に角張り、突起も左右に一本となった。現代字は最初の画がノに変化した臼。
 ところで臼は落とし穴の形としても使われた。陥[陷]カン(おちいる)の原字である臽カンは、上の人が下の落とし穴に落ちる形である。この場合、突き出た突起は落とし穴の底に打ち込んだ尖ったクイと思われる。
意味 (1)うす(臼)。うすつく。「石臼いしうす」「茶臼ちゃうす」「唐臼からうす」(臼を半分土に埋め、固定した横杵を足で踏んで搗く臼。踏み臼) (2)うすの形をしたもの。「臼歯キュウシ」(表面がくぼんだような形の奥歯)「臼砲キュウホウ」(砲身が短く臼の形をした大砲。射角が大きく城攻めなどに用いた)
参考 キュウは、部首「臼うす」になる。常用漢字は臼1字のみだが、便宜的に臼部に属する字として、興コウ・臿ソウ(さしこむ)がある(左右にある𦥑キョク(両手)が臼キュウと似ていることから)。常用漢字以外では、舀ヨウ(臼から手で米をとりだす)・舂ショウ(杵で臼をつく)・臽カン(人が穴におちる)があるが、これらはすべて音符となる。舅キュウは、男が部首にないため臼が便宜的に部首となる。

イメージ 
 「うす」
(臼・旧) 
 「キュウの音」(舅)
音の変化  キュウ:臼・旧・舅

うす(落とし穴)
[舊] キュウ・ふるい  日部
 
舊はワナにかかったフクロウ
解字 金文から旧字まで舊キュウで「雈カン(フクロウなどの耳状羽毛のある鳥)+臼キュウ(落とし穴)」の会意形声。臼キュウは陥[陷]カン(おちいる)の臽カンでは、人が落とし穴におちる形で、ここでは落とし穴の意で使われている。舊キュウは、鳥がワナにかかった形であろう。この鳥は囮(おとり)にする鳥らしい。舊キュウが囮(おとり)の鳥という説は[字統]が古書「淮南万畢術わいなんまんひつじゅつ」(西漢淮南王・刘安(BC179年—BC122年)の著書)を引用して紹介している。それによると「鴟鵂(=舊)シキュウ(ミミズク・頭部に耳状の羽毛をもつフクロウ)を取り、其の大羽を折り、その両足を絆(つな)ぎ、以って媒(おとり)と為し、羅(あみ)を其の傍らに張れば則ち鳥聚(あつま)る」としている。
フクロウを囮(おとり)にして何をつかまえた?
 囮の舊はフクロウである。フクロウは梟キョウとも書き、鳥を木にさらした形。農民がフクロウの死骸を木にさらして穀物を食べる小鳥を追い払う形である。フクロウを囮にしたら近寄ってくる鳥はフクロウの仲間しかいない。この囮を利用して近づいた新しいフクロウをかすみ網(羅)などで捕まえた。したがって囮の鳥は、新しい鳥に対し、もとの・ふるい意となる。金文から舊友キュウユウ(旧友)という使用例がある。新字体は、舊の臼を抜き出し臼⇒旧とした。
フクロウを捕まえてどうした?
 囮を用いてフクロウを捕まえ、何に使ったのだろうか。ペット(愛玩動物)にしたのだろうか。中国のウィキペディアである百度百科をみると、ペットとは逆にフクロウは縁起の悪い鳥とされていた。その鳴き声が恐れられ、フクロウが鳴くと病人が死ぬという迷信があったという。一方、フクロウは漢方薬として使われた。喘息ゼンソクや眼疾、瘧(おこり)の治療に効果のある薬剤とされ値段が高かったという。また料理店ではフクロウのスープを出すところもあったという。おそらく囮で捕まえたフクロウは漢方薬として使われたのであろう。
意味 (1)ふるい(旧い)。もとの。「新旧シンキュウ」「旧暦キュウレキ」 (2)もと。むかし。過去。「懐旧カイキュウ」「復旧フッキュウ」 (3)古いなじみ。「旧友キュウユウ

キュウの音
 キュウ・しゅうと  臼部
解字 「男(おとこ)+臼(キュウ)」の形声。キュウは久キュウ(ひさしい・長い時間)に通じ、年上の男の意。夫または妻の父、また、母の男兄弟に当てる。この字は臼キュウが音符なので部首は男となるはずであるが、男は部首字でないので音符の臼が部首を兼ねている。
意味 (1)しゅうと(舅)。夫または妻の父。「外舅ガイキュウ」(妻の父。文語の表現) (2)おじ。母の男兄弟。
<紫色は常用漢字>

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音符「帯タイ 」<腰に巻くオビに巾(前垂れ)をつける>と「滞タイ」

2020年05月21日 | 漢字の音符
[帶] タイ・おびる・おび  巾部
 公卿夏束帯(日本服飾史より)

解字 春秋戦国期は、上にベルトの形、下に巾(前垂れ)を二つ重ねて描いてる。腰にまくベルトから巾(前垂れ)が下がっている形。篆文はベルトの形が変化し下部の前垂れは同じ。旧字は二つ重ね巾の上部巾のつきぬけがなくなった。新字体はベルトが丗に簡略化された帯になった。
 ベルトに前垂れが付くのは礼装であり日本の場合、貴族の正装である束帯に締める平緒(ひらお)がこれに似ている。写真は公卿夏束帯で、腰にベルトを巻き、そこから太刀を下げ、前に垂(前垂れ)をさげている。
 意味は、腰に巻くベルトから帯。帯から太刀を下げたり、巾(前垂れ)をさげるので帯びる意となる。新字体は帶⇒帯に変化する。
意味 (1)おび(帯)。長い布で作り腰に巻くおび。帯状の細長いもの。「帯封おびフウ」(紙で帯のように巻くこと)「包帯ホウタイ」「帯留(おびど)め」 (2)帯状の土地・地域。「温帯オンタイ」「地帯チタイ」 (3)おびる(帯びる)。帯に下げる。身に着ける。「携帯ケイタイ」「帯剣タイケン」「所帯ショタイ」(身に帯びるもの。住居をもち生計をともにする集団)

イメージ 
 「おび」
(帯・蔕)
 「おびる」(滞)
音の変化  タイ:帯・蔕・滞

おび
 タイ・テイ・へた  艸部
解字 「艸(植物)+帶(おび)」 の会意形声。トマト・柿などの実についている萼(がく)。帯が巻いているようにみえることから。
 柿のへた
意味 (1)へた(蔕)。トマト・柿などの実についているへた。へたは花弁の付け根にある萼(がく)が、果実と枝をつなぐ役割をしてそのまま残ったもの。「果蔕カテイ」(果物のへた)「柿蔕シテイ」(柿のへた。しゃっくり止めの漢方薬になる)「南瓜蔕ナンカテイ」(かぼちゃのへた。漢方薬)  (2)うてな。花のがく。

おびる
 タイ・とどこおる  氵部
解字 旧字は滯で「氵(水)+帶(おびる)」 の会意形声。「帶びる」とは身につけて常にある状態のこと。水がついた滯は、水が常にある状態をいい、水が引かずにとどまっていること。転じて、とどこおる状態をいう。新字体は滞に変化。
意味 (1)一所にとまって動かない。とどまる。「滞水タイスイ」「滞在タイザイ」「滞留タイリュウ」 (2)とどこおる(滞る)。はかどらない。「渋滞ジュウタイ」「停滞テイタイ」「延滞エンタイ
<紫色は常用漢字>

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音符「云ウン」<雲のかたち>と「雲ウン」「曇ドン」「魂コン」

2020年05月11日 | 漢字の音符
 ウン・いう   ニ部      

解字 横の二線が天を表し、曲線は雲が巻いてのぼるさまを表す。甲骨文から雲の意味で使われており雲の原字。のち雨をつけて雲となり、もとの形の云は、「いう」「ここに」のように別の意義にもちいる。
意味 (1)いう(云う)。いわく。~という。「云為ウンイ」(言うこととすること)「云云ウンヌン」(しかじか。続きの言葉を省略する) (2)ここに。語調をととのえる語。

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 「雲のかたち」(云・雲・曇)
  雲が「たちのぼる・ただよう」(魂・芸・耘)
 「同音代替」(壜)
音の変化  ウン:云・雲・芸・耘  コン:魂  タン:壜  ドン:曇  

くも
 ウン・くも  雨部
解字 「雨(あめ)+云(くも)」の会意形声。云が「いう」意味に使われるようになったので、雨をつけて「くも」の意を表した。雨をもたらす雲の意。
意味 (1)くも(雲)。「雲海ウンカイ」 (2)雲のような。「星雲セイウン」 (3)そら。「青雲セイウン
 ドン・タン・くもる  日部  
解字 「日(太陽)+雲(くも)」の会意。雲が空をおおい日の光りをさえぎること。
意味 (1)くもる(曇る)。くもり(曇)。「曇天ドンテン」「晴曇セイドン」(晴れと曇り) (2)音訳字。「悉曇シッタン」(古代インドの梵語・シッダム(siddham)の音訳字。完成したものの意で書体の一つ。転じてサンスクリット学の意味になった)

たちのぼる・ただよう
 コン・たましい  鬼部
解字 「鬼(死者)+云(たちのぼる)」の会意形声。鬼は人の亡霊を描いた象形で、魂は死者からもやもやと立ちのぼるたましい(魂)の意。人の魂は死後に死体を離れ、雲気となって浮遊すると考えられていた[字統]。
意味 (1)たましい(魂)。人の生命をつかさどる精気。「招魂ショウコン」「鎮魂チンコン」 (2)こころ。思い。精神。「商魂ショウコン」「魂胆コンタン
 ウン  艸部
解字 「艸(くさ)+云(たちのぼる・ただよう)」の会意形声。草の立ちのぼるように生い茂るさま。また、香りがただよう香草の意味で用いる。正式な字は草かんむりが「十十」の形(ネットではうまく出ない)。※ 芸術の「芸」とは別の字。
意味 (1)草木の生い茂るさま。「芸芸ウンウン」(①草木が生い茂る。②もやもやして数がおおいさま) (2)香草の名。ミカン科の多年草。香草で書物の虫除けに用いる。ヘンルーダ。「芸香ウンコウ」(香草の名。転じて、蔵書・書斎)「芸閣ウンカク」(書庫。書斎) (3)くさぎる。草を刈る。(耘ウンに通じた字)
 ウン・くさぎる  耒部

解字 篆文の或体(同義の別の字)は、「耒(スキ)+芸(草が生い茂る)」の会意形声。生い茂る草をスキでたがやし「くさぎる」こと。雑草を除き去る意となる。隷書(漢代)から、艸が省かれた耘となった。
意味 (1)くさぎる(耘る)。田畑の雑草を除きさる。「耘鋤ウンジョ」(くさぎり、すく。鋤はスキ)「耘藝ウンゲイ」(雑草を除き作物を植える)「耘耨ウンドウ」(くさぎる。耘も耨も、くさぎる意) (2)たがやす。つちかう。「耘耘ウンウン」(耕作のさかんなさま)「耕耘機コウウンキ」(土壌をすきおこす機械)

同音代替
壜[罎] タン・ドン・かめ  土部 
解字 「土(つち)+曇(タン)」の形声。タンは覃タン(ふかい)に通じ、口のすぼんだ底のふかい土製(陶器)の酒かめをいう。日本では、ガラス製の「びん」に用いる。「缶(素焼きの器)+曇」の罎タンは異体字。
意味 (1)かめ。大きい酒かめ。口のすぼみ胴の大きい陶製のかめ。「酒壜シュタン」(酒かめ)(2)[国]びん(罎)。ガラス製の容器。
<紫色は常用漢字>

<参考>
[藝] ゲイ・わざ・うえる  艸部
解字 旧字は藝で「艸(くさ)+埶ゲイ(草木を植え育てる)+云(=耘ウン。雑草を取り除く)」の会意形声。人が植物を植え、雑草を取り除いて草木を育てる意。のち、園芸の意味から転じて、人が身につけたさまざまな「わざ」の意になった。新字体は旧字から埶を省いた芸。これにより、この字の基本となる音符部分がすっぽり抜けてしまった。おまけに出来上がった新字体は、以前からある芸ウンと同じ字体になってしまった。出来のよくない新字体である。「文藝春秋」がいまだに旧字体を使う意味がよく理解できる。私が新字体をつくるなら、甲骨文字に里帰りして、埶の部分を⇒「木丸」にする。
意味 (1)わざ(芸)。身につけたわざ。技能。学問。「芸術ゲイジュツ」「芸能ゲイノウ」「芸苑ゲイエン」(学芸の世界) (2)うえる(芸える)。草木を植え育てる。「園芸エンゲイ」「農芸ノウゲイ

なお、音符「埶ゲイ」も参照してください。

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紛らわしい漢字 「西にし」 と 「酉とり」

2020年05月08日 | 紛らわしい漢字 
 「西にし」と「酉とり」は似ている。西に一を入れると酉になる。何故こんなに似ているかは以下を読んでいただくことにして、字を書くとき「西にしに一を入れると酉とり」と覚えれば間違いなし。!!

   西 セイ <元はカゴ>
西 セイ・サイ・にし  西部

解字 甲骨文字はザル・カゴを描いた象形。第一字は口が開いた形。第二は口を閉じた形とされる。しかし本来の意味でなく仮借カシャ(当て字)されて方角の西の意味で使われた。金文は口を閉じた形が少し変形した。篆文(秦)は第一字が金文を引き継いでいるが全体が角型になった。第二字は第一字の変形で、長方形を六等分した形。この形が隷書レイショ(漢)で右辺の上部が欠けた形(第一字)となり、次いで左辺の上部も欠けた覀になった。この字形は楷書でも使われたが、現在は西となっている。(字形は落合淳思[漢字字形史小字典]を参照した)
意味 にし(西)。日の沈む方角。「西方セイホウ」「西洋セイヨウ」「西暦セイレキ」「東西トウザイ

常用漢字は西だけだが、ついでに西の音符字も覚えておこう。
イメージ 
 「にし・夕日」(西・茜) 
 かごの象形から「かご」(栖)
音の変化 セイ:西・栖  セン:茜
 
にし・夕日
 セン・あかね  艸部
解字 「艸(草)+西(夕日)」の会意形声。根が夕焼け色の染料になる草。
意味 (1)あかね(茜)。あかねぐさ。根は赤黄色で染料や薬用となる。 (2)あかねいろ。赤色のやや沈んだ色。「茜色あかねいろ」「茜染あかねぞめ
かご
 セイ・すむ・すみか  木部
解字 「木(き)+西(かご)」の会意形声。木の上にあるかご状の鳥の巣。
意味 (1)すみか(栖)。鳥の巣。棲セイとも書く。「栖鴉セイア」(ねぐらのからす) (2)すむ(栖む)。巣を作り、そこにすむ。人にもつかう。「栖息セイソク」(=生息)「隠栖インセイ」(かくれすむ=隠棲)

    ユウ <元は酒つぼ>
 ユウ・とり  酉部

 酒つぼで長期熟成されている紹興酒

解字 酒つぼを描いた象形。中国の古代からの酒は黍(きび)や米を原料とする醸造酒であるが、日本の酒とことなり、上等な酒は酒つぼに入れて長期間熟成させる。このために用いるのが酒つぼである。写真は熟成されている紹興酒の酒つぼであるが、持ち運ぶため四つ目網みの籠で包んだり(手前)、その奥は、つぼ同士が当たる衝撃を和らげるため中央に縄を幾重にも巻いたりしている。酉の字形の模様はこうした酒つぼの状態を描いたのかもしれない。酉はさけの意も表し酒の原字。しかし甲骨文字の時代から仮借カシャ(当て字)して十二支の10番目の「とり」に当てられている。
 酉年の年賀状無料見本より
意味 とり(酉)。十二支の第十位。方位は西、時刻は午後6時およびその前後1時間。動物はにわとりに当てる。「酉(とり)の市」(11月の酉の日に行なわれる鷲(おおとり)神社の市)
参考 酉は部首「酉とり・とりへん・ひよみ(暦)のとり・さけのとり」になる。漢字の左辺について、酒・発酵の意味を表す。常用漢字で15字。[新漢語林]で87字を収録している。主な漢字は以下のとおり。
 酉(部首):酌シャク(酉+音符「勺シャク」)・酢サク(「酉+音符「乍サ」」・
ラク(酉+音符「各カク」)・酬シュウ(酉+音符「州シュウ」)・
コウ(酉+音符「孝コウ」)・酷コク(酉+音符「告コク」)など。
イメージ 
 「とり(仮借)」(酉)
 「さけ」(酒・醜)
音の変化  ユウ:酉  シュ:酒  シュウ:醜
さ け
 シュ・さけ・さか  酉部
 
熟成された酒つぼ6個が1箱に入った中国の洞蔵老酒(熟成酒)販売広告。傍らに酒つぼから直接、盃(さかずき)に酒を注ぐ写真が添えられている。

解字 甲骨文第1字は酒つぼから酒が注がれている形を三つの線で表している。第2字は注ぐ酒を4つの点で表している。大きな酒つぼから酒を注ぐことは無理であるが、小さな酒つぼから酒を器に注ぐことは現在でも行われている(上の写真)。酒は酉(酒つぼ)の中に入っているので酉が酒の意味を表している。金文第1字は酉の字で酒を表し、第2字は酉の中に点や線を付けて中に酒が入っていることを示している。篆文になり「氵(液体)+酉(さけ)」となり現在に続く。
酒の部首はなぜ氵(さんずい)でないのか?
 甲骨文から金文まで酒の意味は酉が表している。篆文から「氵(液体)+酉(さけ)」となったが、この字は意味を表す酉さけのとり(酒)にそれが液体(氵)である記号がついているだけで、氵は部首とはみなされない。なお、甲骨文字にも酒の字があるが、[甲骨文字辞典]によると、意味は酒でなく川の名前を表している。
意味 さけ(酒)。さけを飲む。さかもり(酒盛り)。「酒蔵さかぐら」「飲酒インシュ」「酒宴シュエン」「酒豪シュゴウ」(大ざけのみ)
 シュウ・みにくい・しこ  酉部
解字 「鬼(おに)+酉(=酒。さけに酔った)」の会意形声。酒に酔った鬼。この字は部首・音符とも酉。
意味 (1)みにくい(醜い)。けがらわしい。「醜悪シュウアク」(みにくい。見苦しい)「醜名シュウメイ」(悪い評判)「醜態シュウタイ」「醜聞シュウブン」 (2)にくむ。きらう。 (3)しこ(醜)。みにくいものをののしる語。「醜女しこめ」「醜男しこお
<紫色は常用漢字>

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音符「允イン」「吮セン」と「畯シュン」⇒「夋シュン」「俊シュン」へ

2020年05月01日 | 漢字の音符
   イン <集団を率いる人物>
 イン・まこと・ゆるす  人部


 上は允イン、下は以イ
解字 甲骨文第1字は[甲骨文字辞典]によると、手をうしろに回した人の形。保の甲骨文字で、人が子を背負っている形に見られるという。第2字は、第1字が反転したような形になり、頭の大きな人のように見える。しかし、この2タイプとも原義での用例はなく仮借カシャ(当て字)で「まことに(副詞)」「地名」などの意味で使われているという。
 金文第1字は甲骨文第2字の形が変形したと思われ、「6のような形(以イの略体)+人(儿)」となった。金文第2字(春秋期)は字体が鳥のツルのように見えるが、下の脚(実際は人・儿)を除いた部分が以の略体である。この字形は戦国・篆文(説文解字)まで変形しながら続き、現代字は、以の略体(ツルの頭と胴に見える部分)⇒ムに変化した允になった。意味は金文で誠実・信也(信なり)の意で用いられ、現在はさらに、ゆるす意などがある。これらの意味は、金文で以の略体が使われたことが関係していると思われる。以には「ひきいる」意味があり、それに人(儿)がついて「ひきいる人」となり、集団を率いる立派な人物が、「誠実」で、その人物が「ゆるす・許可する」と解釈すると、この意味が出てくる。
意味 (1)まこと(允)。まことに。誠実である。「允恭インキョウ」(まことにつつしみぶかい)「允文允武インブンインブ」(まことの文武の意、文武の徳が備わっていること) (2)ゆるす(允す)。ゆるし。「允可インカ」(ゆるす。許可)「允許インキョ」(許可) (3)[国]じょう(允)。律令制の四等官で主殿寮などの判官ジョウカン
 セン・シュン・すう  口部
解字 「口(くち)+允(イン⇒セン・シュン)」の形声。口で吸うことを吮セン・シュンという。
意味 (1)すう(吮う)「吮疽センソ」(疽という悪性の腫(は)れ物のうみを吸い出す)「吮疽之仁センソのジン」(大将が部下を手厚くいたわること。中国戦国時代の楚の将軍・呉起が部下が悪性の腫物で苦しんでいるのを見て、それを吸い取ってやったという故事から)(2)なめる。

   シュン <田の神>
 シュン  田部

解字 甲骨文第1字は「田(耕作地)+允イン」の形(=㽙)。第2字は允が坐り姿の形。字形から意味を推測すると「耕作地の統率者」ということになるが、[甲骨文字辞典]は、地名の用例しか見られず、字源は不明という。金文第1字は甲骨文第2字の系統で意味は、①あらためる。「畯正シュンセイ(改め正す)」 ②ながく。「畯(なが)く天子に臣(つか)えて」などの用例がある。金文第2字は春秋時代の字で、意味は「畯(なが)く」で変わりないが、允の下に足(止)の形がついた。篆文(説文解字)になると、下の止(あし)が夊となって夋の字の原型が成立した。足(夊)がついて一人前になったかのように意味が豊富になる。①古代の農事を管理した官。②農神。③才知がすぐれる(=俊)。④崇高(=峻)などである。おそらく畯は農事の神とのイメージから、③のすぐれる。④の崇高などの意味が派生したのであろう。
 しかし現在は、③④の意味は、俊・峻など夋の音符が担い、畯は、たのかみ・たおさの意味に限定されている。
意味 (1)古代に農事を掌管した官。(2)農神。「田畯デンシュン」(①農神。②農事を掌管した官)「田畯至喜デンシュンシキ」(田の神が至りて喜ぶ=詩経「豳風ヒンプウ七月」) (3)才知がすぐれる(俊)「畯民シュンミン」(賢明な人)「畯臣シュンシン」(賢臣) (4)崇高(=峻)。「畯徳シュントク」(崇高で徳のある人)

 シュン  夂部

解字 篆文から作られた後起の字。畯シュン(田の神)の意味を伝える音符として用いられる。田の神から「すぐれる」「崇高⇒高い」、普通の人を「こえる」、イメージを持つ。

イメージ 
 「すぐれる」
(俊・駿) 
  普通の人を「こえる」(酸)
 「高い」(峻・竣・皴) 
 「同音代替」(浚・悛・唆・逡・梭)
音の変化  シュン:畯・俊・駿・峻・竣・皴・浚・悛・逡  サ:唆・梭  サン:酸
 
すぐれる 
 シュン・すぐれる  イ部
解字  「イ(人)+夋(すぐれる)」 の会意形声。すぐれた人。
意味 すぐれる(俊れる)。ひいでる。「俊英シュンエイ」「俊才シュンサイ」「俊秀シュンシュウ」「俊足シュンソク」(足の速い人=駿足)
駿 シュン  馬部
解字 「馬(うま)+夋(すぐれる)」 の会意形声。すぐれた馬。また、人に例えて用いる。
意味 (1)すぐれた馬。「駿馬シュンメ」(すぐれてよく走る馬) (2)すぐれた人。すぐれる。「駿足シュンソク」(すぐれた人。足の速い人) (3)地名。「駿河するが」(旧国名。現在の静岡県中部)「駿河台するがだい」(東京都千代田区にある地名。江戸幕府が駿府の家人を住まわせたことから)

こえる
 サン・すい・す  酉部
解字 「酉(=酒。さけ)+夋(こえる)」 の会意形声。酒が発酵しすぎて酸っぱくなること。転じて、程度がひどい意となる。
意味 (1)すい(酸い)。すっぱい(酸っぱい)。す(酸)。すっぱい味。「酸味サンミ」 (2)つらい。いたましい。「辛酸シンサン」「酸鼻サンビ」(きわめてむごい) (3)酸性の化合物。「塩酸エンサン」「硫酸リュウサン」 (4)酸素の略。「酸化サンカ」「酸欠サンケツ

たかい
 シュン・けわしい  山部
解字 「山(やま)+夋(たかい)」 の会意形声。高くけわしい山。
意味 (1)けわしい(峻しい)。たかい(峻い)。「峻険シュンケン」(山がたかく険しい) (2)きびしい。「峻別シュンベツ」(きびしく区別する)「峻烈シュンレツ」(きびしくはげしい)
 シュン  立部
解字 「立(たつ)+夋(たかい)」 の会意形声。高い建物が立つこと。その工事ができあがる意となる。
意味 おわる。できあがる。完成する。「竣工シュンコウ」(工事が完成する)「竣成シュンセイ」(建築物が完成する)
 シュン・しわ  皮部
解字 「皮(ひふ)+夋(たかい)」 の会意形声。皮膚の表面がこきざみに高くなること。「しわ」や、「あかぎれ」をいう。
意味 (1)しわ(皴)。皮膚が縮んで表面にできる筋目。「皴皺シュンシュウ」(しわ。皴も皺も、しわの意) (2)あかぎれ。ひび。「皴裂シュンレツ」(ひび) (3)画法の一種。「皴法シュンホウ」(山や岩のひだを立体的に描く技法)「皴染シュンセン」(ひだをつけ、ぼかす画法)

同音代替
 シュン・さらう  氵部
解字 「氵(水)+夋(シュン)」 の形声。シュンは濬シュン(深い・さらう)に通じ、水底の土砂をさらって深くすること。
意味 (1)ふかい。水が深いこと。 (2)さらう(浚う)。水底の土砂などをさらう。「浚井シュンセイ」(井戸をさらう)「浚渫シュンセツ」(水底の土砂をさらって、水路を深くすること)「洗い浚い(あらいざらい)」(何から何まで。残らず)
 シュン・あらためる  忄部
解字 「忄(心)+夋(=浚。さらう)」 の形声。シュンは浚シュン(さらう)に通じ、いままでの思いをさらって、心を入れ替えること。
意味 あらためる(悛める)。つつしむ。「改悛カイシュン」(心をいれかえる)「悔悛カイシュン」(前の非を悔い改める)
 サ・そそのかす  口部
解字 「口(話す)+夋(サ)」 の形声。サは詐(いつわり)に通じ、いつわりの言葉を言って、相手をそそのかすこと。
意味 そそのかす(唆す)。けしかける。「示唆シサ」(それとなく気づかせる。暗にそそのかす)「教唆キョウサ」(教え唆す。他人を唆して犯罪をさせる)
 シュン・しりぞく  之部
解字 「之(ゆく)+夋(シュン)」 の形声。シュンは巡シュン・ジュン(めぐる)に通じ、同じところをめぐって、ためらうこと。
意味 (1)ためらう。しりごみする。「逡巡シュンジュン」(ぐずぐずする。しりごみする)「躊躇逡巡チュウチョシュンジュン」(躊躇も逡巡も、ためらう意)「狐疑逡巡コギシュンジュン」(疑い深い狐のようにためらう)(2)しりぞく(逡く)。
 サ・ひ  木部
解字 「木(き)+夋(シュン)」 の形声。シュンは巡シュン・ジュン(めぐる)に通じ、同じところを行き来する木製の機織り道具。横糸をとおす梭(ひ)をいう。発音はシュン⇒サに変化。夋シュンには唆の音がある。
意味 ひ(梭)。機織りで横糸を通す道具。「梭杼サチョ」(梭も杼も、ひの意)「梭魚・梭子魚かます」(カマス科の海魚。形が機織りの梭に似ていることから)「梭貝ひがい」(梭に似て前後に長い突起がのびるウミウサギ科の巻貝)
<紫色は常用漢字>

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