漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

音符「家カ」<一族のすまい> と「嫁カ」「稼カ」

2018年12月27日 | 漢字の音符
 宀(たてもの)に豕(ぶた)にを加えて何故「家いえ」になるのか? この解字をめぐって多くの学者が論争を繰り広げてきた。ある中国の学者は「雲南省では、家の1階で豚(豕)を飼い2階で人が住む家があり、これが家の字のはじまりだ」という。一方、白川静氏は[字統]で、「古くは犬牲(犬を犠牲にする)に従う字で家の地鎮のために犬を犠牲とした」と、豕(ぶた)でなく犬だと主張した。
 この字を最も早く解字したのは[説文解字]を著した後漢の許慎キョシンで、「宀(たてもの)+豭カ・ケ(オス豚)の省声」の形声文字とした。つまり、家の中の豕は豭の省略形で、カ・ケの発音を表している字ですよ、というのである。しかし、清代に[説文解字]に注釈を加えた段玉裁は、これに疑いありとして「宀+豕」の会意とした。しかし、その後もこの解字をめぐり議論が続いた。その後、甲骨文字が発見・解読され、新しい解釈が生まれてきた。それは、甲骨文字には、「宀+豭カ・ケ」と「宀+豕」の両字があり、のちに「宀+豭」の意味が「宀+豕」に置き換えられたというのである。落合淳思氏は[甲骨文字辞典]で、この経過を簡潔にまとめている。


 カ・ケ・いえ・や  宀部  

解字 甲骨文字第1字は、建物の形である宀ベンを意符、オス豚を意味する豭の初文(オスの生殖器が下腹に付く)を声符とする形声文字で宗廟施設を指す。第2字は建物(この場合は家畜小屋)の形である宀ベンと豚を意味する意符の豕からなる会意文字で家畜の豚、あるいは家畜として飼うために捕らえた豚を指す。後代には第1字が継承されたが、古文(春秋戦国期)で豭を豕に簡略化した字体が用いられるようになり、結果として字体は第2字と同じになった。意味は第1字が祭祀施設。宗と同じく宗廟であろう。第2字は家畜の豚、また祭祀名(家畜の豚を捧げることであろう)。なお、「家族」「家屋」は宗廟施設からの引伸義であるが、甲骨文字にその用法は見られない(甲骨文字辞典)。
 金文も同じくオス豚(第1字)と豕の豚(第2字)の2種あるが、意味は王家と朝廷を表すのと、奴隷の家戸を表す意味があるので(漢語多功能字庫)、字により意味が分かれていたのであろう。篆文から「宀+豕」の字体が用いられ、家屋・家族・家系・家名など氏族の単位を中心にいうようになり現在に至っている。

なぜオス豚が用いられたのか?
 甲骨・金文第1字に何故オス豚が用いられたのだろうか?これについて許慎キョシンから落合淳思氏まで、その理由を何も語っていない。私はその理由を次のように推測したい。およそ、宗廟施設で豚を捧げる場合、何か目的がある。私は最初、神または祖先を喜ばせるために美味しい豚肉となるのはオス豚か?と考え、オス豚の肉について調べたところ、肉にするオス豚は繁殖用にする一部を除き例外なく子豚のとき去勢されることが分かった。また、去勢された豚はメス豚と比べ特に美味しいことはないという。すると、オス豚を捧げるのは繁殖用のオスであり、これを捧げることにより子孫が繁栄するよう祈ったのではないだろうか。
 家を音符に含む字は、宗廟の意から「一族・一族のすまい」のイメージを持つ。
意味 (1)すまい。いえ(家)。人の住む建物。「家屋カオク」「家財カザイ」「家主やぬし」「家庭カテイ」「家族カゾク」 (2)血縁の集まり。一族。「家系カケイ」「良家リョウケ」 (3)学問や技術の流派。専門にする人。また、商店。みせ。「家元いえもと」「専門家センモンカ」「酒家さかや

イメージ 「一族のすまい・一族」(家・嫁・稼)
音の変化  カ:家・嫁・稼

一族の住い・一族
 カ・よめ・とつぐ  女部
解字 「女+家(一族)」の会意形声。他の一族にとつぐ女性。
意味 (1)とつぐ(嫁ぐ)。よめ(嫁)。嫁にいく。「嫁入よめいり」「嫁資カシ」(嫁入り支度の費用)「許嫁いいなずけ」(婚約者) (2)罪や責任をなすりつける。「転嫁テンカ
 カ・かせぐ  禾部
解字 「禾(いね)+家(一族)」の会意形声。一族で稲を育て収穫すること。
意味 (1)うえる。稲を植える。耕作。農事。「苗稼ビョウカ」(苗をうえる)「稼穡カショク」(農事)「稼業カギョウ」(①農業。②生活をささえる仕事) (2)みのり。収穫。「秋稼シュウカ」(秋の取り入れ) (3)[国]かせぐ(稼ぐ)。かせぎ(稼ぎ)。精出して働きお金を得る。「稼働カドウ」(①働き稼ぐ。②機械などを動かすこと)
<紫色は常用漢字>


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音符「革カク」 <かわ> と 「羈キ」「覇ハ」

2018年12月10日 | 漢字の音符
 カク・かわ  革部  

解字 金文第一字は動物の皮をはがして開いた形と思われる。上が頭、真ん中が開いた胴体、下部が両脚と尾か。第二字はそれを簡略化した形で、篆文につづき現代字もその形を受け継いだ革になった。しかし、字は皮をはがした形であり、これだけでは革にならない。革をつくるためには、剥がした皮の外側の毛や、内側についている肉片や脂肪を取り除いてから草木の中に含まれるタンニン(渋)液などに漬けて強く柔らかくし(なめす)、皮からすっかり変わった革(かわ)にする必要がある。しかし、漢字でこの過程を表すのはむずかしい。そこで皮は「手で動物の皮を剝がす形」で、革は「動物の皮をはがして開いた形」で表した。金文の革で一番多く使われている字は勒ロク(おもがい。馬の頭からクツワにかける革ひも)であり、上図の革も勒から抜き出した。出来上がった革は、生の皮とすっかり違う物となるので「あらたまる・あらためる」意味ともなる。参考:音符「皮ヒ」
意味 (1)かわ(革)。なめしがわ。「皮革ヒカク」「革製品かわセイヒン」 (2)あらたまる。あらためる。「革新カクシン」「革命カクメイ」(①革はあらためる、命は天命で、天命をうけた皇帝がかわること。②被支配階級が支配階級にとってかわり社会を変革すること)「沿革エンカク」(沿は旧いものに沿う、革はあらためる。旧いものに沿ったり、あらためたりした移り変わり)
参考 革は部首「革かわ」になる。漢字の偏(左辺)に付いて、革の意味を表す。常用漢字で2字、約14,600字を収録する『新漢語林』では79字が収録されている。主な字は以下のとおり。
 (部首)
 カ・くつ(革+音符「化カ」)
 鞄ホウ・かばん(革+音符「包ホウの旧字」)
 靭ジン・しなやか(革+音符「刃ジン」)
 鞠キク・まり(革+音符「匊キク」)
 鞍アン・くら(革+音符「安アン」)
 勒ロク・おもがい(革+音符「力リキ」)
 鞣ジュウ・なめす(革+音符「柔ジュウ」)

イメージ
 「かわ・あらためる」
(革・羈・覇)
音の変化  カク:革  キ:羈  ハ:覇 
 
かわ・あらためる
羈[覊] キ・おもがい  罒部
解字 「罒(=网あみ)+革(かわ)+馬(うま)」の会意。馬のあたまを覆ってかける革のひもである、おもがいをいう。は異体字。

貝の飾りを付けた「おもがい」(歴史文物陳列館)
http://museum.sinica.edu.tw/ja/knowledge-base/category/17/item/139/
意味 (1)おもがい(羈)。馬具の一種。くつわにつなげるため馬の頭からかける革紐。「羈鞅キオウ」(おもがいと、むながい) (2)たづな。 (3)つなぐ。「羈束キソク」(つなぎとめる)「不羈フキ」(①しばりつけられないこと。②おさえつけにくい)「奔放不羈ホンポウフキ」「不羈フキの才」(非常にすぐれた才能) (4)たび(旅)。=羇。「羈思キシ」(たびの思い)「羈旅キリョ」(たび。たびびと)
 ハ・はたがしら  覀部
解字 「覀(おおう)+革(あらためる)+月(月光)」の会意。覀は襾(ふた)の変化した形でおおう意を表し、覇は、革命の波が月光のように全国をおおう意。革命によって武力で天下を得た者をいう。
意味 (1)はたがしら(覇)。武力によって天下を治める者。「覇者ハシャ」「覇権ハケン」「覇気ハキ」 (2)勝者。競技などで優勝すること。
覚え方 にし(  )で、かく()命、にくづき()のいい者が者。[漢字川柳]
<紫色は常用漢字>

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