漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

部首の占める位置とその12区分

2021年10月27日 | 特殊化した部首
    部首と音符の関係を追加しました。
これまでの部首の占める位置についての説明
 部首の位置については、これまで「偏旁冠脚ヘンボウカンキャク」、あるいはそれに「構垂繞コウスイニョウ」をつけた「偏旁冠脚構垂繞」という言葉であらわされてきた。そして、多くの解説書は「偏旁冠脚構垂繞」の一字一字の解説を行なって済ませている。それによると、
 偏(へん) :左側に位置する部分
 旁(ぼう) :右側に位置する部分
 冠(かんむり):上部に位置する部分
 脚(あし) :下部に位置する部分
 構(かまえ):三方や四方などを取り巻くように位置する部分
 垂(たれ) :上部から左側かけて位置する部分
 繞(にょう):左側から下部にかけて位置する部分
 と説明している。このうち、構(かまえ)を除く各部分は視覚的にもイメージしやすく直感的にわかる。しかし、構(かまえ)は、いろいろな部首を包括しており分かりにくい。

部首の占める位置の12区分を提唱する
 今回、私は構(かまえ)のなかに含まれるいろんな部首を分析した結果、構(かまえ)を5分割し、さらにこれまであまり触れることがなかった「わりごろも」(衣の上下がわれる)を加え合計12の区分を提唱することにした。
 以下がその表である。部分の欄で図示しているように、部首が全体のどの部分に属するかが視覚的に分かるのが特徴である。

以下に各々の名称とその説明を簡単にさせていただく。
(1)偏(へん)
 漢字の左側に位置する部分に置かれる。扌(てへん)、犭(けものへん)、氵(さんずい)といった特殊化された部首にはじまり、山や川、田、言など多くの字が偏になる。最も多く用いられる位置が偏(へん)である。
(2)旁(つくり)
 漢字の右側に置かれる。特殊化した刂(りっとう)、阝(おおざと)をはじめ、攵(ぼくづくり)、頁(おおがい)などが含まれる。なお、阝は偏にもなり、その場合は阝(こざと)と呼ばれる。
(3)冠(かんむり)
 文字通り漢字の上部に置かれる。特殊化したものに、亠(なべぶた)、宀(ウかんむり)、癶(はつがしら)などがあり、一般的な字では竹(たけかんむり)、雨(あめかんむり)などがある。
(4)脚(あし)
 文字通り漢字の下部に置かれる。特殊化したものに、㣺(したごころ)、灬(れっか)、半特殊化の儿(ひとあし)、それに一般の字である、心、皿、衣なども下部に着くことが多い。
(5)行がまえ
 今回、構(かまえ)から独立させた。中央の文字をはさんで左右両側にある。行が代表的な部首で、これで衛エイ(韋をはさむ)、衝ショウ(重をはさむ)、街ガイ(圭をはさむ)、術ジュツ(朮ジュツをはさむ)、衙(吾をはさむ)、衡コウ(角+大をはさむ)などがある。しかし、行は木偏について桁コウという字にもなる。
(6)衣(わりごろも)
 衣が上下に分かれることは知られているが、これまで上下に分かれた衣を独立させることはなかった。今回、全体の部分図を作成する中で、行がまえに対し、上下の両側から文字をはさむ、衣(わりごろも)を独立させ、分かりやすくした。裏(中に里がはいる)、衷チュウ(なかに中がはいる)、褒ホウ(中に保がはいる)、表ヒョウ(古代文字は中に毛が入っている)、哀アイ(中に口が入る)、褻セツ(中に埶が入る)などがある。
 衣(わりごろも)となる字は少ないが、これを独立させることにより、特に外国人の漢字学習者に部首の配置を説明する際の理解を深めることになると思う。なお衣は偏に位置するときは、衤(ころもへん)になり、脚(あし)に位置するときは、裂レツ・襲シュウのように衣のままである。
(7)垂(たれ)
 上部から左側にたれる形。よく使われる部首に、厂(がんだれ)、广(まだれ)、尸(しかばね)、疒(やまいだれ)などがあるが、一般の字である、戸、などもよく用いられる。
(8)繞(にょう)
 左側から下部へのびる形。特殊化された、辶(しんにょう)、辶(二点しんにょう)、 廴(えんにょう)などがある。なお、走ソウ(はしる)が部首になるとき、起・越エツ・趣シュのように走の下部が伸びるので「走そうにょう」と呼ばれるが、字を書く時の体裁から下側に伸ばした筆が走った字である。
(9)勹(つつみがまえ)
 上部から右側を占める形。これも名称が「かまえ」と付いているので、明確な位置づけがされてこなかったため、今回独立させた。分類から言うと、垂(たれ)や、繞(にょう)が向きと位置を変えた形で同じ類である。勹に代表される包ホウ、および匍・勺シャクなどが代表的な字である。この他に、气(きがまえ)があり、気の部首となっている。また、弋ヨク(しきがまえ)と呼ばれ、式シキに代表される部首もある。
(10) 門(もんがまえ)
 上部と左右の側からなる。門に代表されるが、三方を囲んでいることから冂ケイ、 鬥トウ(たたかう)も含める。しかし、門から成る字が大部分である。
(11) 匚(はこがまえ)
 左側と上下部で構成される。区、医、匠ショウ、匿トクなどの字がある。
(12) 囗(くにがまえ)
 周囲を取り囲んでいる形。国の字に代表される囲いなので「国がまえ」と呼ばれる。図、囲、固、園エン、囚シュウ、など結構ある。
 なお、厳密に言うと、匚(はこがまえ)の向きを上にした凵カン(かんがまえ)がある。
 しかし、この部首は不完全な部首なのです。どうしてかというと、凵とその中の文字は分離できないのです。漢和字典で部首凵を調べると、主な字は、凹オウ・凸トツ・出シュツ・函カン・凶キョウ、の5字があります。このうち、凹オウ・凸トツ・出シュツは、文字が一体化されており分離できません。また、函カンは凵の中の字が分離できません。最後の凶キョウは「×+凵」に分離できますが、×という字は漢字ではありません。似たような字の乂ガイは刈カイ・かる、の原字で、凶の中の×とは意味が違います。つまり凶の字は分離できないのです。
 ですから一番下に部首凵に言及する場合は、これは音符と結びついている一人前の部首でなく、漢字を分類するための部首だと説明する必要があります。なお、この部首の5字のうち、凶・出・函は音符となります。


 以上、これまであまり注目されていなかった部首の位置について、新たに12区分を提唱させていただいた。こうした区分を設けることにより、特に留学生や外国で日本語を学ぶ方にとっては、部首がどんな位置につくか明確になるので、部首についての理解がより深まると思われる。

第2表の追加 ペトリチェンコ・イリーナさんからの提案
 この項を私の所属するJSL漢字学習研究会のメールを通じて配信させていただいたところ、会員のペトリチェンコ・イリーナさん(ウクライナ)から次のような提案をいただいた。
 「中国由来の伝統にとらわれず、完全に視覚的に把握できる[部首の位置12区分]を見て感動しました。留学生にはこちらのほうが分かりやすいことには間違いないですが、伝統的な区分におなじみの方にも納得しやすくするには、区分の並び順を(1)(2)(3)(4)(7)(8)(9)(10)(11)(12)(5)(6)にすればいかがですか。つまり、「へん」「つくり」「かんむり」「あし」「たれ」「にょう」に「かまえ5個」と「わりごろも」がつく順番です。いかがでしょうか。」
 という提案である。私は最初、区分の配列順序を考えたとき、偏旁の次に「行がまえ」を入れ(タテの区分がそろう)、冠脚の次に「衣わりごろも」を入れたらどうか(横の区分がそろう)、と思ったことがある。しかし、偏旁冠脚という馴染みのある言葉を分離させるのは忍びなく、そのあとに配置した。
 イリーナさんの提案は、偏旁冠脚につづく垂繞構も分離せずに、構のあとに分割した構や独立させた衣(わりごろも)を入れたらどうかというもので、しごく真っ当な提案である。そこで、第1表はインパクトがあると思うのでそのまま残し、これまでの学習者が抵抗なく納得できるように第2表を作成することにした。どちらを選ぶかは自由です。自分の好みで選び、表をコピーして使ってください。



      部首と音符の関係
 上記表の部分の欄で斜線でしめした部首の位置以外の白い部分に入るのが音符となる。音符「非ヒ」をこの表で表すと以下のとおりとなる。「非」に、偏(へん)・冠(かんむり)・垂(たれ)・脚(あし)・構(匚はこがまえ)が付いて文字が成立していることがわかる。また、匚はこがまえが付いた匪ヒは、さらに旁(つくり)となって榧ヒ(かや)が出来ている。

 なお,音符「非」は,部首も「非」となる。約220ある部首のうち音符になる字は160字ほどある。

音符字の部首について
 「部首の位置の12区分」の表は「部首+音符」の組み合わせとなる漢字を対象に作成したものである。しかし音符字については、この表を適用できない。これについて以下のような「問題と解答」の形式で例をあげて説明したい。

問題 次の漢字の部首を答えてください。
  問題1 丘キュウ 問題2 亜ア   問題3 兼ケン  問題4 世セイ  
  問題5 五ゴ    問題6 兆チョウ 問題7 率リツ  問題8 半ハン

正解 正解は以下のカッコ内。
  問題1 丘キュウ(部首:一いち)  問題2 亜ア(部首:二に)
  問題3 兼ケン (部首:八はち)  問題4 世セイ(部首:一いち)
  問題5 五ゴ  (部首:二に)    問題6 兆チョウ(部首:儿ひとあし)
  問題7 率リツ (部首:亠なべぶた)問題8 半ハン(部首:十じゅう)

 丘や亜や兼などの字は、漢字辞典で調べるとき、画数索引か発音で調べれば見つかるので、無理に部首を覚える必要はない。これらの漢字の部首を覚えても役にたたないか、かえって有害である。
 ここに挙げた問題の漢字は音符字である。漢字の音符字は基本的に分解不可能な字であり無理に部首を作っても、部首以外の部分はまったく意味のない漢字の体をなさないものになっている。なぜ、こんな部首を作ったのか。それはすべての漢字を部首別に配列する字典が一般的だからである。部首別の字典は漢字の構造を示すには有意義だが、収録するすべての漢字に部首を付けるため、分解できない漢字にも無理に部首を設定することになる。

画数のすくない部首には、どこにも分類できない漢字が集中している。
部首「一いち」の主な漢字(太字は音符)
 一:丁・七・三・上・下・丈・万・不・与・丙・世・且・丘・丞・両・並

部首「二に」の主な漢字(太字は音符)
 二:互・五・亘・亜・井・云・些・

部首「八はち」の主な漢字(太字は音符)
 八:共・兵・具・典・其・六・兼・公

部首「十じゅう」の主な漢字(太字は音符)
 十:廿・協・博・午・卒・卓・升・千・半・卑・南

部首「亠なべぶた」の主な漢字(太字は音符)
亠:亡・亢・亦・亥・交・京・享・亭・商・率

部首「儿ひとあし」の主な漢字(太字は音符)
 儿ジン:イン・元・兄・光・充・先・兆・克・児・兎・禿・免・党

以上、部首を見るとき、音符字の部首は本来の部首ではなく、便宜的につけた部首ですので、注意が必要です。

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 してほしくない、こんな「部首テスト」

2021年06月07日 | 特殊化した部首
次の漢字の部首を答えてください。
問題1  丘キュウ
問題2  亜ア
問題3  兼ケン
問題4  世セイ
問題5  五ゴ
問題6  兆チョウ
問題7  率リツ
問題8  半ハン
問題9  酒シュ
問題10  輝キ

いずれも常用漢字で、よく見かける字です。皆さんはこれらの部首を答えられますか? 正解は以下のカッコ内です。

正解
問題1  丘キュウ(部首:一いち)
問題2  亜ア  (部首:二に)
問題3  兼ケン (部首:八はち)
問題4  世セイ (部首:一いち)
問題5  五ゴ  (部首:二に)
問題6  兆チョウ(部首:儿ひとあし)
問題7  率リツ (部首:亠なべぶた)
問題8  半ハン (部首:十じゅう)
問題9  酒シュ (部首:酉とり)
問題10  輝キ  (部首:車くるま)

 みなさんは何問、正解だったでしょうか。おそらく全問正解した人は極めて少ないと思います。
 それもそのはず、これらの漢字の部首を覚えてもまったく役にたたないからです。むしろ、有害でさえあります。丘や亜や兼などの字は、漢字辞典で調べるとき、画数索引か発音でしらべれば見つかります。無理に丘や亜の部首を覚える必要はないのです。
 ここに挙げた問題の1~8までの漢字は音符字です。漢字音符は象形文字や指示文字それに会意文字であり、基本的に分解不可能な字なのです。ですから無理に部首を作っても、部首以外の部分はまったく意味のない漢字の体をなさないものになっているのです。
 なぜ、こんな部首を作ったのでしょうか。それは漢字を部首別に配列する部首別字典があるからです。この字典は漢字の構造を示す有意義な字典ですが、収録するすべての漢字に部首を付けなければなりません。そこで、分解できない漢字にも無理に部首を設定することになるのです。
 画数のすくない部首には、どこにも分類できない漢字が集中しています。
 ここに、一画と二画の主な部首から、その状態を説明します。

部首「一いち」の主な漢字
一:丁・七・三・上・下・丈・万・不・与・丙・世・且・丘・丞・両・並
 意味を表すのは一だけで、その他の字は中に一を含むため便宜的に入っています。また、これらの字は同時に音符になります。ところで最後の並はなぜ一部なのか、よくわかりません。

部首「二に」の主な漢字
二:互・五・亘・亜・井・云・些・于
 意味を表すのは二と些(二+音符「此」)だけで、残りは字体のなかに二が含まれているため便宜的に入っています。このうち、互・五・亘・亜・井・云・于は、音符になります。

部首「八はち」の主な漢字
八:共・兵・具・典・其・六・兼・公
 意味を表すのは八だけで、残りは字体のなかに八が含まれているため便宜的に入っています。このすべてが音符になります。

部首「十じゅう」の主な漢字
十:廿・協・博・午・卒・卓・升・千・半・卑・南
 十は数字の10の意味を表すのは廿(十がふたつ)、また、多い意で協・博があります。残りの午・卒・卓・升・千・半・卑・南は、字体のなかに十が含まれているため便宜的に入っています。これらの字は音符ともなります。

部首「亠なべぶた」の主な漢字
亠:亡・亢・亦・亥・交・京・享・亭・商・率
 亠(なべぶた)は、屋根を表すかたちが変化したもので、京・享・亭は建物を表しています。残りは字体のなかに亠が含まれているため便宜的に入っています。このうち亡・亢・亦・亥・交・京・率は、音符になります。

部首「儿ひとあし」の主な漢字
儿ジン:允イン・元・兄・光・充・先・兆・克・児・兎・禿・免・党
 儿は人の下部を表すことが多いので「ひとあし」と呼ばれます。この意味を持つのは、允・元・兄・光・充・先・克・児・禿・免・党で、二画の部首としては珍しく意味をあらわしています。残りの兆・兎は、字体に儿が含まれているため便宜的に入っています。また、儿部のすべての字が音符になります。

酒の部首は、なぜ酉?
 酒の部首は普通に考えると氵(さんずい)ですが、なぜか酉ユウになっています。酉は酒つぼの象形文字です。この字は金文で酒の意味で使われていました。のちに氵のついた酒の字が現れ、酒の意味で使われるようになりましたが、酒の部首は古代からの慣習をひきついで酉になっています。

輝の部首はなぜ車?
 輝キの字を分解すると「光+音符[軍グン⇒キ]」から成ります。普通に考えると、光が部首です。ところが現在の部首に光はありません。そこで音符・軍の中にある車が部首になっています。この字はもともと煇キと書かれていました。この字の、火⇒光に変わった字が輝で、これまでの部首の枠にはいらない字なのです。

 以上にあげた部首のうち、1~8は音符となる漢字の一部を部首にしたかたち。9~10は特別な理由があって部首となった字です。
 これらの変則的な部首をテスト問題にすると、学ぶ側が混乱します。部首は「部首+音符字」として教えるのが正道です。変則的な部首は、学ぶ側から質問があったとき初めて答えればよく、教える側から積極的に説明する性質のものではないと思います。


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特殊化した部首 「攵のぶん」

2018年10月22日 | 特殊化した部首
「攵のぶん」は攴ボクが変化した字。攴から攵ボクへの変化は隷書で起こり、楷書ではほとんどが攵になった。まず、攴ボクから見てゆこう。

攴[攵] ボク  攴部      

解字 甲骨文字でわかるように、手に棒や木の小枝を持って、たたくさまの象形。たたく・うつ意を表す。攴が正字だが、楷書ではほとんど「攵」に変わる。具体的に「どうたたく」かは、攵に対する字によって異なる。例えば、牧ボクの場合は牛をたたくムチであり、枚マイの場合は木をけずるオノである。
意味 (1)うつ。たたく。 (2)むちうつ。 (3)撃つ。
参考 攴は部首「攴ぼくづくり」になる。漢字の右辺(旁)に付いて、たたく意を表す。この部首は現在、ほとんどが攵に変化しているので非常に少ない。主な字は敲コウ・たたく(攴+音符「高コウ」)、および、旧字の敍ジョ(攴+音符「余ヨ」)=叙、の2字。

にみる「攴ぼくづくり」の変遷


篆字と隷書レイショ(漢代の役人が主に用いた書体)の第一字は「古+攴」のかたち。隷書第二字で攴が「𠂉+乂」に変化し、楷書で攵になった。つまり、攴のトの部分が「ノ+一」に、又の部分が乂に変化して攵ボクが成立した。
 なお、攵ボクが「のぶん」と呼ばれるのは、東晋や初唐の書の「文」が攵と似ているので、第一画のノをつけて「ノ文」と言ったためと思われる。

『新書道字典』(二玄社)の「文」
真ん中の二字と左上は攵に似ている。

 攴は漢字の右辺に置かれたとき、ほとんどが攵に変化し、部首「攵のぶん・ぼくづくり」となり、たたく・うつ意味を表す。常用漢字で16字、約14,600字を収録する『新漢語林』では72字が収録されている。主な字は以下のとおり。
 改カイ(攵+音符「己キ」)
 救キュウ(攵+音符「求キュウ」)
 故コ(攵+音符「古コ」)
 攻コウ(攵+音符「工コウ」) 
 政セイ(攵+音符「正セイ」)
 敵テキ(攵+音符「啇テキ」)
 敗ハイ(攵+音符「貝バイ」) 
 敏ビン(攵+音符「毎マイ」)
 放ホウ(攵+音符「方ホウ」)など。
 また、攵部に属する会意文字である、敢カン・散サン・敬ケイ・数スウ、は音符となる。

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特殊化した部首 「王たまへん」 と 「王オウ」の関係

2018年10月17日 | 特殊化した部首
ギョクが左辺(偏)に付くとき、王の形をとり「たまへん」と呼ばれる。なぜだろうか? 王と玉の成り立ちを比較してみよう。

 ギョク・たま  玉部

  上が玉、下が王
解字 上段の玉の甲骨文字は、三つの玉(宝石)を紐で貫きとおした形の象形。短い横線が玉で、タテ線が紐。古代中国で礼服着用の時などに腰飾りにした。玉は古代人の信仰の対象であり、のち、多く礼器(祭祀や賓客の接待に用いる器)として用いられた。金文から上下の線がとれ、王の形になった。篆文も王の形であるが、王様の王と区別するため、王は上の二横画を接近して書き、玉は等間隔に書いていた。隷書レイショ(漢代の役人が主に用いた書体)や楷書になって、点を加えて玉とし、王と区別 した。
 一方、王は大きな戉エツ(まさかり)の刃部を下にして置く形の象形。王位を示す儀式の器として玉座の前におかれた。武器(武力)によって天下を征服した者のこと。篆文では玉と区別するため上の二本の横画を接近していたが、隷書で玉に点が付いたため、楷書で以前の玉の形である王と入れ替わったかたちになった。玉は部首となるが、偏になるとき王の形になる。
意味 (1)美しい石。ぎょく。宝石。「宝玉ホウギョク」(宝として大事にしている玉)「玉石ギョクセキ」(すぐれたものと劣ったもの) (2)たま(玉)。美しい。「玉露ギョクロ」(玉のように美しい露) (3)天子や天皇につける美称。「玉座ギョクザ」「玉音ギョクオン」 (4)たま。真珠。
参考 玉は部首「玉たま」になる。漢字の下部に付いて玉(貴石)の意味を表す。主なものは常用漢字の3字である。
 玉ギョク(部首)、璧ヘキ(玉+音符「辟ヘキ」)、璽(玉+音符「爾ジ」)

キュウにみる「王たまへん」の変遷
下図は篆文~現代(楷書)の球キュウ・たまの変遷、上に玉の部分を抜き出した。

 球の篆文は「王+求」である。これは、最初に掲げた玉の篆文を見ると分かる。つまり玉は篆文で王の形だったのである。玉は隷書レイショで点がついた玉になったが、隷書でも左辺(偏)は王のままで、これは現在の楷書に続く。つまり、「王たまへん」は金文・篆文から王のままで、現在まで変わっていないのである。ちなみに、金文からある環カン・珈の字も、偏は王の形である。なお、楷書(現代の字)では、王の下の横線が右に少し上向きとなる。

玉は漢字の左辺(偏)に付いたとき王の形になり部首「王たまへん・おうへん」になる。常用漢字で12字、約14,600字を収録する『新漢語林』では216字が収録されている。主な字は以下のとおり。
 王オウ(部首)、玩ガン(王+音符「元ゲン」)
 珠シュ(王+音符「朱シュ」)、珍チン(王+音符「㐱シン」)
 現ゲン(王+音符「見ケン」)、球キュウ(王+音符「求キュウ」)
 理(王+音符「里リ」)、瑠(王+音符「留リュウ」)
 璃(王+音符「离リ」)、環カン(王+音符「睘カン」)




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特殊化した部首 「火カ」と「灬れっか」

2018年10月02日 | 特殊化した部首
 火が部首になるとき、火のかたちのままと、灬に変化する場合がある。灬は下部に置かれたとき変化するかたちで「れっか・れんが」と呼ばれる。

 カ・ひ・ほ  火部

解字 火の燃える形の象形(金文は単独字としては存在しないが、炎から1字を抜き出した)。「ひ」の意味を表わす。火は部首となり、火の意味で会意文字をつくる。
意味 (1)ひ(火)。ほのお。「火力カリョク」 (2)かじ。「火災カサイ」「失火シッカ」 (3)光りのあるもの。明かり。「灯火トウカ」 (4)五行(木・火・土・金・水)の一つ。「火星カセイ」  (5)七曜の一つ。「火曜日カヨウビ
参考 火は部首「火ひ・ひへん」になる。漢字の左辺(偏)や下部に付いて、火や火の状態を表す。常用漢字は14字、約14,600字を収録する『新漢語林』では194字が収録されている。主な字は以下のとおり。
 火[部首]:灯[燈]トウ(火+音符「登トウ」) 
 焼ショウ(火+音符「尭ギョウ」)、煙エン(火+音符「垔イン」)
 燃エン(火+音符「然ゼン」)、燥ソウ(火+音符「喿ソウ」)
 爆バク(火+音符「暴ボウ」)、煩ハン(火+頁の会意)
 炉[爐](火+音符「盧ロ)、灰カイ(火+又の会意)
 災サイ(火+音符「巛サイ」)、炎エン(火+火の会意)

  「灬 れっか」の成立
熊ユウにみる「灬れっか」の変遷
下図は篆文~現代(楷書)の熊ユウ・くまの変遷、上に火の部分を抜き出した。

 篆文の火が「灬れっか」に変化するのは隷書レイショ(漢代の役人が主に用いた字)からだが、ほとんどの字は、火から灬へと直接に変化しており、その中間段階は見いだせなかった。しかし、篆文の字体の一種である印篆インテン(印章に使われる篆字)にヒントとなる字体が見つかったので、それを収録した。熊ユウの下部の篆文第一字は火、第二字は印篆で、火はΛの左右に点がつく形。篆文第一字の火が人の左右に点がつくのに対し、第二字はΛの左右に点がつき、隷書から下部は4点になるので、火から灬への流れがたどれるかと思う。しかし、印篆の成立年代がはっきりわからず、この流れは推定にすぎない。

 火が下部に付いたとき、多くが部首「灬れっか・れんが」に変化する。常用漢字で12字、『新漢語林』では45字が収録されている。主な字は以下のとおり。
 点テン(灬+音符「占セン」)、烈レツ(灬+音符「列レツ」)
 煎セン(灬+音符「前ゼン」)、照ショウ(灬+音符「昭ショウ」)
 煮シャ(灬+音符「者シャ」)、熟ジュク(灬+音符「孰ジュク」)
 熱ネツ(灬+埶ゲイの会意)、熊ユウ・くま(灬+能の会意)
 焦ショウ(灬+隹の会意)
 火の意味以外の「灬」
 無ム(灬を含む舞う姿の象形)、為イ(灬を含む象を手で使う形の会意)

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特殊化した部首 「手シュ」 と 「扌てへん」

2018年09月07日 | 特殊化した部首
 手が部首になるとき、手のかたちのままと、扌に変化する場合がある。扌は左辺(偏)に置かれたとき変化するかたちで「てへん」と呼ばれる。

 シュ・て・た  手部

解字 金文・篆文は五本の指のある手を描いた象形。甲骨文字では三本指を描いた「又(手)」が用いられていたので五本指の手が出現するのは金文からである。隷書(漢代の役人が主に使用した書体)から、上部の曲線がノになって独立し、現在の手が成立した。手は音符にならず看カン(手+目)の字で会意となるのが例外で、組み合わせ漢字になるとき、ほとんどが部首となる。
意味 (1)て(手)。「手相てソウ」「手綱たづな」 (2)てなみ。うでまえ。「手段シュダン」「妙手ミョウシュ」 (3)てずから。「手記シュキ」 (4)てにする。「入手ニュウシュ」 (5)ある仕事をする人。「歌手カシュ」 (6)技芸にすぐれた人。「名手メイシュ
部首の手 手は部首「手て」になる。漢字の下部について手の意味を表す。常用漢字で9字、約14,600字を収録する[新漢語林]では34字が収録されている。主な字は以下のとおり。
(手+音符「麻マ」)、掌ショウ(手+音符「尚ショウ」)、摯(手+音符「執シツ」)、撃[擊]ゲキ(手+音符「毄ゲキ」)、拳ケン(手+音符「巻カン」)、挙[擧]キョ(手+音符「與ヨ」)、拿(手+合の会意)

「扌てへん」の成立
カツにみる「扌てへん」の変遷
下図は篆文~現代(楷書)の括カツの変遷、上に手の部分を抜き出した。

括の字で篆文の手は元の字とほぼ同じ。隷書は指を表す上向きの半円2つが2本の線になり、またタテの線が下部で湾曲した。現代字は横2線にまっすぐのタテ線が下ではねた「扌」になった。

部首「扌部てへん」 手が漢字の左側(偏)の位置に置かれたときの形で、手の意味を表す。常用漢字で87字(第3位)、約14,600字を収録する[新漢語林]で470字が収録されている。扌部と音符は大変なじみがよく、扌部と組み合わさる字はほとんど音符である。例外は形が似ているため便宜的に扌部に含めている才サイだが、この字も音符となる。扌の主な字は以下のとおり。
 打(扌+音符「丁テイ」)、扱キュウ(扌+音符「及キュウ」)、扶(扌+音符「夫フ」)
 批(扌+音符「比ヒ」)、枝(扌+音符「支シ」)、抄ショウ(扌+音符「少ショウ」)、
 披(扌+音符「皮ヒ」)、抵テイ(扌+音符「氐テイ」)、抗コウ(扌+音符「亢コウ」)




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特殊化した部首 「犬いぬ」 と 「犭けものへん」

2018年09月02日 | 特殊化した部首
犬が部首になるとき、犬の形のままと、犭に変化する場合がある。犭は偏(左辺)についたとき変化するかたちで「けものへん」と呼ばれる。

 まず、もとの形である犬の変遷を見てゆこう。 
 ケン・いぬ 犬部    

解字 甲骨文・金文は動物の「いぬ」を描いた象形。上にあたま、中が脚と胴、下に巻いた尻尾を描いている。篆文はおおきく形が変わり、隷書(漢代の役人が主に用いた書体)で大の右端が上に曲がった形になり、現代字で大に点がついた犬になった。当初はいぬの意味だけに使われたが、のちに組み合わせ漢字で偏(左辺)にくるとき、犬以外の「けもの」も表すようになった。
意味 (1)いぬ(犬)。子犬は狗と書く。「番犬バンケン」「犬猿ケンエン」 (2)[国]いぬ(犬)。①まわし者。スパイ。②むだなこと。「犬死いぬじに
参考 犬は、部首「犬いぬ」になる。漢字の右辺について犬の意味を表す。常用漢字で4字あり、部首の犬のほか、状[狀]ジョウ(犬+音符「爿ショウ」)、献コン(犬+南の会意)、獣ジュウ(単+口+犬の会意)、がある。

    「犭けものへん」の成立
シュにみる「犭けものへん」の変遷
下図は篆文~現代(楷書)の狩シュの変遷。上に犬の部分を抜き出した。

 狩の字で篆文の犬は元の字とほぼ同じ。隷書はタテ長になったため形がおおきく変り上下に弧状の線が通るようになった。現代の「犭けものへん」は、隷書の第1画⇒左はらいに変化して「犭」になった。

 部首「犭けものへん」は、犬が左辺(偏へん)に置かれたとき変化した形。意味は①犬に関すること、②犬以外のけもの、③人間の悪い行動、をあらわす。常用漢字では13字、約14,600字を収録する[新漢語林]では127字が収録されている。主な字は以下のとおり。
ハン(犭+音符「㔾ハン」)、狂キョウ(犭+音符「王オウ」)、狙(犭+音符「且ソ」)
シュ(犭+音符「守シュ」)、独[獨]ドク(犭+音符「蜀ショク」)、狭[狹]キョウ(犭+音符「夾キョウ」)
モウ(犭+音符「孟モウ」)、猫ビョウ(犭+音符「苗ビョウ」)、猿エン(犭+音符「袁エン」
ユウ「犭+音符「酋ユウ」」 、獲カク「犭+音符「蒦カク」」、獄ゴク(犭+言+犬の会意)
(犭+音符「狐コ」)、猪チョ(犭+音符「者シャ」)、狼ロウ(犭+音符「良リョウ」)


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特殊化した部首 「刀かたな」 と 「刂りっとう」

2018年08月30日 | 特殊化した部首
 刂の名称である「りっとう」とは立刀リットウの意味で、刀が立つこと。刀が立つとなぜ「刂」になるのだろうか。

まず、「刂りっとう」の元の形である「刀トウ」を見てゆこう。
 トウ・かたな  刀部             

解字 刃の反った片刃のかたなを描いた象形。甲骨文字の上部が反った刀身で、下部の二股になったところが手にもつ柄を表わす。篆文で上部の刃が短くなり、隷書レイショ(漢代の役人が主に用いた字)で、刃先の部分がほとんどなくなり現代字は刀になった。「かたな」の意味で音符ともなる。
意味 (1)かたな(刀)。刃がそった刀やナイフの総称。両刃でまっすぐな刀を剣という。「刀剣トウケン」「刀工トウコウ」「太刀たち」 (2)刀の形をした中国古代の貨幣「刀銭トウセン
甲骨文字の刀は、なぜ二股になっている方が柄なのか?

中国の古代刀は鍔(つば)の部分が伸びて柄の手を保護するようになっているものがあり、甲骨文字の刀はこのような鍔を描いているのかもしれない。[古代刀の検索サイトから]
部首としての刀 刀は部首「刀かたな」になる。漢字の右辺(旁つくり)や下部について刃物や、刃物を使う意を表す。
常用漢字  6字
 トウ(部首) 
 ジン・は(㇏+刀の会意)
 ブン(八+刀の会意)
 ショ(衤ころも+刀の会意)
 ケン(刀をふくむ会意)
 セツ(刀+音符「七シチ」)

     「刂りっとう(立刀)」の成立
「制セイ」の字にみる立刀の変化

     下が各字体における制セイの変化、上がそこから刀を抜きだしたもの
セイは篆文で「未+刀」、未(木の枝葉)を刀で切りそろえる形。篆文で刀は元のかたちが使われているが、隷書レイショ(漢代の役人が主に使用した文字)の第1字は刀が90度回転し、ヒが反転したかたちとなり、第2字では反転したヒの横線が分離を始め、現代の楷書にいたり、分離した横線および残りの部分とも、タテの線に変化した。
部首「刂りっとう」は、刀が右辺(旁つくり)に置かれたとき変化した形。常用漢字では26字、約14,600字を収録する『新漢語林』では94字が収録されている。
常用漢字 26字
 ガイ・かる( 刂+音符「乂ガイ」)
 カツ・わる(刂+音符「害ガイ」)
 カン・けずる(刂+音符「干カン」)
 ケイ・しおき(刂+音符「开ケイ」)
 ゲキ・はげしい(刂+音符「豦キョ」)
 ケン・つるぎ(刂+音符「㑒ケン」)
 ゴウ・つよし(刂+音符「岡コウ」)
 コク・きざむ(刂+音符「亥ガイ」)
 ザイ(刂+音符「斉サイ」)
 サク・けずる(刂+音符「肖ショウ」)
 サツ・はく(刂+「尸+巾」の会意)
 サツ(刂+音符「殺の略」)
 シ・さす(刂+音符「朿シ」)
 ジョウ・あまる(刂+音符「乗ジョウ」)
 セイ・おさえる(刂+「未の変化形」の会意)
 ゼン・まえ(刂をふくむ会意)
 ソウ・つくる(刂+音符「倉ソウ」)
 ソク・のり(刂+貝の会意)
 トウ・いたる(刂「部首・音符」+至)
 ハク・はぐ(刂+音符「彔ロク」)
 ハン・(刂+音符「半ハン」)
 フク・そう(刂+音符「畐フク」)
 ベツ・わかれる(刂を含む会意)
 ボウ・さく(刂+音符「咅バイ」)
 (刂+禾の会意)
 レツ・つらなる(刂+歹の会意)


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特殊化した部首 「氵さんずい」 と 「冫にすい」

2018年08月16日 | 特殊化した部首

 氵さんずい」と「冫にすい」は、いずれも水に関する部首である。「氵さんずい」は水そのもの、「冫にすい」は水が凍ったさまを表している。

           スイ <みずの流れ>
 スイ・みず  水部

解字 水の流れる形の象形で、みずの意を表わす。水は部首となり、偏になるときは「 氵」の形をとる。また、「みず」の意で会意文字となる。
意味 (1)みず(水)。「流水リュウスイ」 (2)五行のひとつ。「水曜スイヨウ」「水星スイセイ」 (3)[国]みず(水)。邪魔。さそい。「水をさす」「水をむける」

     河にみる 氵の変化

篆文は水のかたちをそのまま書いている、隷書(漢代の役人が主に用いた字体)でいきなり横線3本になった。これは篆文の水の上半分を横にしたのであろう。この変化が今の 氵に続いている。
参考 部首としての「氵さんずい」。氵は漢字の左辺(偏)について川や水の意を表す。常用漢字で111字あり第1位。約14,600字を収録する『新漢語林』では687字が収録されている。


          冫[仌] ヒョウ <水が凍ったかたち>
冫[仌] ヒョウ  冫部にすい

解字 金文は𠆢を二つ重ねたかたち。篆文は𠆢の上から線がのびた形がふたつ。これらは水が凍っている形とされる。のち、仌となり、これが変形して冫となった。氷を意味するが、単独で用いられることなく、氷や冷たい意を中心に部首「冫にすい」として用いられる。
意味 こおり
参考 部首としての「冫にすい」。冫は漢字の左辺(偏)や下部に付いて、氷・冷たい・寒いなどの意を表す。常用漢字で6字、約14,600字を収録する『新漢語林』では48字が収録されている。主な字は以下のとおり
  冶(冫+音符「台タイ」)・冷レイ(冫+音符「令レイ」)・凄セイ(冫+音符「妻サイ」)・
 凍トウ(冫+音符「東トウ」)・凝ギョウ(冫+音符「疑ギ」)・凋チョウ(冫+音符「周シュウ」)・
 冰ヒョウ(水+音符「冫ヒョウ」)・准ジュン(準の略字)・冬トウ(夂+冫の会意)など。

     ヒョウ(氷の正字)にみる冫の変遷

金文の冰は「水+二点(𠆢の略体ふたつ)」で、水の上に氷がふたつ浮いているかたち。篆文は「水+こおり(𠆢の上に線がのびた形がふたつ)」となり、隷書でこおりが横の二線に変化し、楷書で冫になった。(なお、日本では冰⇒氷に変化した字体を使用している。)
 こうした冫の変遷をみると、金文の氷(𠆢ふたつ)の略体である二つの点が、現在の冫の原点になっていると言えよう。



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特殊化した部首 「礻 しめすへん」 と 「衤 ころもへん」  

2018年08月01日 | 特殊化した部首
 礻しめすへん」と「衤ころもへん」は、似ており紛らわしい部首である。カタナカの「ネ」と同じなのが「礻しめすへん」で、礻にもうひとつ点を加えたのが「衤ころもへん」である。いずれも特殊化した部首だが、元の字は「礻しめすへん」が示、「衤 ころもへん」は衣である。衣は部首になるとき、衣が下につく形[襞(衣+辟)・製(衣+制)]、衣の上下が分かれて音符となる字を挟み込む「わりごろも」[裏(衣+里)・衷(衣+中)]と呼ばれるかたちになる。しかし、衣が偏になるとき 衤になるので、ネと間違わないよう注意が必要である。

 まず「礻 しめすへん」の元になる示ジを見てみよう。
 ジ・シ・しめす  示部  

解字 甲骨文はT字形の祭卓の上に供え物をのせた形の象形。神を祭るとき、その上に供え物をのせた祭卓の形で、神霊がそこに降下し、そこに神の心がしめされるので、しめす意となる。篆文以降、下部にハがついた示になった。示は部首となり、偏になるとき新字体でネの形で用いられる。
意味 しめす(示す)。さししめす。おしえる。「示威ジイ」(威力を示す)「示現ジゲン」(示し表わす。この世に現れる)「示唆シサ」(それとなく示す)「示談ジダン」(話し合って解決する)

     にみる示へんの変遷
 キ・いのる    

           上は祈の示へん、下は祈の時代的な変遷
 祈は篆文からある字。示へんは篆文で示を用いているが、隷書レイショ(漢代の役人が主に用いた字)から、一の下に不を付けた形になり、楷書で上の一が(点)になったが下部は不に近い。旧字は清代の[康煕コウキ字典]に準拠したため再び示にもどり、第二次大戦後の新字体で 礻の形になった。

 次に「衤 ころもへん」の元の字である衣の変遷を見ておこう。  
 イ・ころも  衣部     

解字 衣の襟(えり)もとを合わせたかたちの象形。後ろの襟を立て、前の襟を合わせたかたち。
意味 (1)ころも(衣)。きぬ。身にまとうもの。「衣服イフク」「衣装イショウ」 (2)きる。身につける。「衣帯イタイ」(衣と帯。衣服を着て帯を結ぶ) (3)おおう。おおい。

      ユウの字にみる衣へんの変遷
 ユウ  衤部     

          上は裕の衣へん、下は裕の時代的変遷
裕の字は金文からあるが、篆文までは古代文字の衣と同じかたち。隷書(漢の役人が主に用いた書体)から短いタテ棒の下に不に点がついた形となり、現代字(楷書)で衤となった。こうしてみると、衣へんの上部は篆文に、下部はひとつ前の金文に源流があるように見える。

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