部首と音符の関係を追加しました。
これまでの部首の占める位置についての説明
部首の位置については、これまで「偏旁冠脚ヘンボウカンキャク」、あるいはそれに「構垂繞コウスイニョウ」をつけた「偏旁冠脚構垂繞」という言葉であらわされてきた。そして、多くの解説書は「偏旁冠脚構垂繞」の一字一字の解説を行なって済ませている。それによると、
偏(へん) :左側に位置する部分
旁(ぼう) :右側に位置する部分
冠(かんむり):上部に位置する部分
脚(あし) :下部に位置する部分
構(かまえ):三方や四方などを取り巻くように位置する部分
垂(たれ) :上部から左側かけて位置する部分
繞(にょう):左側から下部にかけて位置する部分
と説明している。このうち、構(かまえ)を除く各部分は視覚的にもイメージしやすく直感的にわかる。しかし、構(かまえ)は、いろいろな部首を包括しており分かりにくい。
部首の占める位置の12区分を提唱する
今回、私は構(かまえ)のなかに含まれるいろんな部首を分析した結果、構(かまえ)を5分割し、さらにこれまであまり触れることがなかった「わりごろも」(衣の上下がわれる)を加え合計12の区分を提唱することにした。
以下がその表である。部分の欄で図示しているように、部首が全体のどの部分に属するかが視覚的に分かるのが特徴である。
以下に各々の名称とその説明を簡単にさせていただく。
(1)偏(へん)
漢字の左側に位置する部分に置かれる。扌(てへん)、犭(けものへん)、氵(さんずい)といった特殊化された部首にはじまり、山や川、田、言など多くの字が偏になる。最も多く用いられる位置が偏(へん)である。
(2)旁(つくり)
漢字の右側に置かれる。特殊化した刂(りっとう)、阝(おおざと)をはじめ、攵(ぼくづくり)、頁(おおがい)などが含まれる。なお、阝は偏にもなり、その場合は阝(こざと)と呼ばれる。
(3)冠(かんむり)
文字通り漢字の上部に置かれる。特殊化したものに、亠(なべぶた)、宀(ウかんむり)、癶(はつがしら)などがあり、一般的な字では竹(たけかんむり)、雨(あめかんむり)などがある。
(4)脚(あし)
文字通り漢字の下部に置かれる。特殊化したものに、㣺(したごころ)、灬(れっか)、半特殊化の儿(ひとあし)、それに一般の字である、心、皿、衣なども下部に着くことが多い。
(5)行がまえ
今回、構(かまえ)から独立させた。中央の文字をはさんで左右両側にある。行が代表的な部首で、これで衛エイ(韋をはさむ)、衝ショウ(重をはさむ)、街ガイ(圭をはさむ)、術ジュツ(朮ジュツをはさむ)、衙ガ(吾をはさむ)、衡コウ(角+大をはさむ)などがある。しかし、行は木偏について桁コウという字にもなる。
(6)衣(わりごろも)
衣が上下に分かれることは知られているが、これまで上下に分かれた衣を独立させることはなかった。今回、全体の部分図を作成する中で、行がまえに対し、上下の両側から文字をはさむ、衣(わりごろも)を独立させ、分かりやすくした。裏リ(中に里がはいる)、衷チュウ(なかに中がはいる)、褒ホウ(中に保がはいる)、表ヒョウ(古代文字は中に毛が入っている)、哀アイ(中に口が入る)、褻セツ(中に埶が入る)などがある。
衣(わりごろも)となる字は少ないが、これを独立させることにより、特に外国人の漢字学習者に部首の配置を説明する際の理解を深めることになると思う。なお衣は偏に位置するときは、衤(ころもへん)になり、脚(あし)に位置するときは、裂レツ・襲シュウのように衣のままである。
(7)垂(たれ)
上部から左側にたれる形。よく使われる部首に、厂(がんだれ)、广(まだれ)、尸(しかばね)、疒(やまいだれ)などがあるが、一般の字である、戸コ、などもよく用いられる。
(8)繞(にょう)
左側から下部へのびる形。特殊化された、辶(しんにょう)、辶(二点しんにょう)、 廴(えんにょう)などがある。なお、走ソウ(はしる)が部首になるとき、起キ・越エツ・趣シュのように走の下部が伸びるので「走そうにょう」と呼ばれるが、字を書く時の体裁から下側に伸ばした筆が走った字である。
(9)勹(つつみがまえ)
上部から右側を占める形。これも名称が「かまえ」と付いているので、明確な位置づけがされてこなかったため、今回独立させた。分類から言うと、垂(たれ)や、繞(にょう)が向きと位置を変えた形で同じ類である。勹に代表される包ホウ、および匍ホ・勺シャクなどが代表的な字である。この他に、气(きがまえ)があり、気キの部首となっている。また、弋ヨク(しきがまえ)と呼ばれ、式シキに代表される部首もある。
(10) 門(もんがまえ)
上部と左右の側からなる。門に代表されるが、三方を囲んでいることから冂ケイ、 鬥トウ(たたかう)も含める。しかし、門から成る字が大部分である。
(11) 匚(はこがまえ)
左側と上下部で構成される。区ク、医イ、匠ショウ、匿トクなどの字がある。
(12) 囗(くにがまえ)
周囲を取り囲んでいる形。国の字に代表される囲いなので「国がまえ」と呼ばれる。図ズ、囲イ、固コ、園エン、囚シュウ、など結構ある。
なお、厳密に言うと、匚(はこがまえ)の向きを上にした凵カン(かんがまえ)がある。
しかし、この部首は不完全な部首なのです。どうしてかというと、凵とその中の文字は分離できないのです。漢和字典で部首凵を調べると、主な字は、凹オウ・凸トツ・出シュツ・函カン・凶キョウ、の5字があります。このうち、凹オウ・凸トツ・出シュツは、文字が一体化されており分離できません。また、函カンは凵の中の字が分離できません。最後の凶キョウは「×+凵」に分離できますが、×という字は漢字ではありません。似たような字の乂ガイは刈カイ・かる、の原字で、凶の中の×とは意味が違います。つまり凶の字は分離できないのです。
ですから一番下に部首凵に言及する場合は、これは音符と結びついている一人前の部首でなく、漢字を分類するための部首だと説明する必要があります。なお、この部首の5字のうち、凶・出・函は音符となります。
以上、これまであまり注目されていなかった部首の位置について、新たに12区分を提唱させていただいた。こうした区分を設けることにより、特に留学生や外国で日本語を学ぶ方にとっては、部首がどんな位置につくか明確になるので、部首についての理解がより深まると思われる。
第2表の追加 ペトリチェンコ・イリーナさんからの提案
この項を私の所属するJSL漢字学習研究会のメールを通じて配信させていただいたところ、会員のペトリチェンコ・イリーナさん(ウクライナ)から次のような提案をいただいた。
「中国由来の伝統にとらわれず、完全に視覚的に把握できる[部首の位置12区分]を見て感動しました。留学生にはこちらのほうが分かりやすいことには間違いないですが、伝統的な区分におなじみの方にも納得しやすくするには、区分の並び順を(1)(2)(3)(4)(7)(8)(9)(10)(11)(12)(5)(6)にすればいかがですか。つまり、「へん」「つくり」「かんむり」「あし」「たれ」「にょう」に「かまえ5個」と「わりごろも」がつく順番です。いかがでしょうか。」
という提案である。私は最初、区分の配列順序を考えたとき、偏旁の次に「行がまえ」を入れ(タテの区分がそろう)、冠脚の次に「衣わりごろも」を入れたらどうか(横の区分がそろう)、と思ったことがある。しかし、偏旁冠脚という馴染みのある言葉を分離させるのは忍びなく、そのあとに配置した。
イリーナさんの提案は、偏旁冠脚につづく垂繞構も分離せずに、構のあとに分割した構や独立させた衣(わりごろも)を入れたらどうかというもので、しごく真っ当な提案である。そこで、第1表はインパクトがあると思うのでそのまま残し、これまでの学習者が抵抗なく納得できるように第2表を作成することにした。どちらを選ぶかは自由です。自分の好みで選び、表をコピーして使ってください。
部首と音符の関係
上記表の部分の欄で斜線でしめした部首の位置以外の白い部分に入るのが音符となる。音符「非ヒ」をこの表で表すと以下のとおりとなる。「非」に、偏(へん)・冠(かんむり)・垂(たれ)・脚(あし)・構(匚はこがまえ)が付いて文字が成立していることがわかる。また、匚はこがまえが付いた匪ヒは、さらに旁(つくり)となって榧ヒ(かや)が出来ている。
なお,音符「非」は,部首も「非」となる。約220ある部首のうち音符になる字は160字ほどある。
音符字の部首について
「部首の位置の12区分」の表は「部首+音符」の組み合わせとなる漢字を対象に作成したものである。しかし音符字については、この表を適用できない。これについて以下のような「問題と解答」の形式で例をあげて説明したい。
問題 次の漢字の部首を答えてください。
問題1 丘キュウ 問題2 亜ア 問題3 兼ケン 問題4 世セイ
問題5 五ゴ 問題6 兆チョウ 問題7 率リツ 問題8 半ハン
正解 正解は以下のカッコ内。
問題1 丘キュウ(部首:一いち) 問題2 亜ア(部首:二に)
問題3 兼ケン (部首:八はち) 問題4 世セイ(部首:一いち)
問題5 五ゴ (部首:二に) 問題6 兆チョウ(部首:儿ひとあし)
問題7 率リツ (部首:亠なべぶた)問題8 半ハン(部首:十じゅう)
丘や亜や兼などの字は、漢字辞典で調べるとき、画数索引か発音で調べれば見つかるので、無理に部首を覚える必要はない。これらの漢字の部首を覚えても役にたたないか、かえって有害である。
ここに挙げた問題の漢字は音符字である。漢字の音符字は基本的に分解不可能な字であり無理に部首を作っても、部首以外の部分はまったく意味のない漢字の体をなさないものになっている。なぜ、こんな部首を作ったのか。それはすべての漢字を部首別に配列する字典が一般的だからである。部首別の字典は漢字の構造を示すには有意義だが、収録するすべての漢字に部首を付けるため、分解できない漢字にも無理に部首を設定することになる。
画数のすくない部首には、どこにも分類できない漢字が集中している。
部首「一いち」の主な漢字(太字は音符)
一:丁・七・三・上・下・丈・万・不・与・丙・世・且・丘・丞・両・並
部首「二に」の主な漢字(太字は音符)
二:互・五・亘・亜・井・云・些・于
部首「八はち」の主な漢字(太字は音符)
八:共・兵・具・典・其・六・兼・公
部首「十じゅう」の主な漢字(太字は音符)
十:廿・協・博・午・卒・卓・升・千・半・卑・南
部首「亠なべぶた」の主な漢字(太字は音符)
亠:亡・亢・亦・亥・交・京・享・亭・商・率
部首「儿ひとあし」の主な漢字(太字は音符)
儿ジン:允イン・元・兄・光・充・先・兆・克・児・兎・禿・免・党
以上、部首を見るとき、音符字の部首は本来の部首ではなく、便宜的につけた部首ですので、注意が必要です。
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これまでの部首の占める位置についての説明
部首の位置については、これまで「偏旁冠脚ヘンボウカンキャク」、あるいはそれに「構垂繞コウスイニョウ」をつけた「偏旁冠脚構垂繞」という言葉であらわされてきた。そして、多くの解説書は「偏旁冠脚構垂繞」の一字一字の解説を行なって済ませている。それによると、
偏(へん) :左側に位置する部分
旁(ぼう) :右側に位置する部分
冠(かんむり):上部に位置する部分
脚(あし) :下部に位置する部分
構(かまえ):三方や四方などを取り巻くように位置する部分
垂(たれ) :上部から左側かけて位置する部分
繞(にょう):左側から下部にかけて位置する部分
と説明している。このうち、構(かまえ)を除く各部分は視覚的にもイメージしやすく直感的にわかる。しかし、構(かまえ)は、いろいろな部首を包括しており分かりにくい。
部首の占める位置の12区分を提唱する
今回、私は構(かまえ)のなかに含まれるいろんな部首を分析した結果、構(かまえ)を5分割し、さらにこれまであまり触れることがなかった「わりごろも」(衣の上下がわれる)を加え合計12の区分を提唱することにした。
以下がその表である。部分の欄で図示しているように、部首が全体のどの部分に属するかが視覚的に分かるのが特徴である。
以下に各々の名称とその説明を簡単にさせていただく。
(1)偏(へん)
漢字の左側に位置する部分に置かれる。扌(てへん)、犭(けものへん)、氵(さんずい)といった特殊化された部首にはじまり、山や川、田、言など多くの字が偏になる。最も多く用いられる位置が偏(へん)である。
(2)旁(つくり)
漢字の右側に置かれる。特殊化した刂(りっとう)、阝(おおざと)をはじめ、攵(ぼくづくり)、頁(おおがい)などが含まれる。なお、阝は偏にもなり、その場合は阝(こざと)と呼ばれる。
(3)冠(かんむり)
文字通り漢字の上部に置かれる。特殊化したものに、亠(なべぶた)、宀(ウかんむり)、癶(はつがしら)などがあり、一般的な字では竹(たけかんむり)、雨(あめかんむり)などがある。
(4)脚(あし)
文字通り漢字の下部に置かれる。特殊化したものに、㣺(したごころ)、灬(れっか)、半特殊化の儿(ひとあし)、それに一般の字である、心、皿、衣なども下部に着くことが多い。
(5)行がまえ
今回、構(かまえ)から独立させた。中央の文字をはさんで左右両側にある。行が代表的な部首で、これで衛エイ(韋をはさむ)、衝ショウ(重をはさむ)、街ガイ(圭をはさむ)、術ジュツ(朮ジュツをはさむ)、衙ガ(吾をはさむ)、衡コウ(角+大をはさむ)などがある。しかし、行は木偏について桁コウという字にもなる。
(6)衣(わりごろも)
衣が上下に分かれることは知られているが、これまで上下に分かれた衣を独立させることはなかった。今回、全体の部分図を作成する中で、行がまえに対し、上下の両側から文字をはさむ、衣(わりごろも)を独立させ、分かりやすくした。裏リ(中に里がはいる)、衷チュウ(なかに中がはいる)、褒ホウ(中に保がはいる)、表ヒョウ(古代文字は中に毛が入っている)、哀アイ(中に口が入る)、褻セツ(中に埶が入る)などがある。
衣(わりごろも)となる字は少ないが、これを独立させることにより、特に外国人の漢字学習者に部首の配置を説明する際の理解を深めることになると思う。なお衣は偏に位置するときは、衤(ころもへん)になり、脚(あし)に位置するときは、裂レツ・襲シュウのように衣のままである。
(7)垂(たれ)
上部から左側にたれる形。よく使われる部首に、厂(がんだれ)、广(まだれ)、尸(しかばね)、疒(やまいだれ)などがあるが、一般の字である、戸コ、などもよく用いられる。
(8)繞(にょう)
左側から下部へのびる形。特殊化された、辶(しんにょう)、辶(二点しんにょう)、 廴(えんにょう)などがある。なお、走ソウ(はしる)が部首になるとき、起キ・越エツ・趣シュのように走の下部が伸びるので「走そうにょう」と呼ばれるが、字を書く時の体裁から下側に伸ばした筆が走った字である。
(9)勹(つつみがまえ)
上部から右側を占める形。これも名称が「かまえ」と付いているので、明確な位置づけがされてこなかったため、今回独立させた。分類から言うと、垂(たれ)や、繞(にょう)が向きと位置を変えた形で同じ類である。勹に代表される包ホウ、および匍ホ・勺シャクなどが代表的な字である。この他に、气(きがまえ)があり、気キの部首となっている。また、弋ヨク(しきがまえ)と呼ばれ、式シキに代表される部首もある。
(10) 門(もんがまえ)
上部と左右の側からなる。門に代表されるが、三方を囲んでいることから冂ケイ、 鬥トウ(たたかう)も含める。しかし、門から成る字が大部分である。
(11) 匚(はこがまえ)
左側と上下部で構成される。区ク、医イ、匠ショウ、匿トクなどの字がある。
(12) 囗(くにがまえ)
周囲を取り囲んでいる形。国の字に代表される囲いなので「国がまえ」と呼ばれる。図ズ、囲イ、固コ、園エン、囚シュウ、など結構ある。
なお、厳密に言うと、匚(はこがまえ)の向きを上にした凵カン(かんがまえ)がある。
しかし、この部首は不完全な部首なのです。どうしてかというと、凵とその中の文字は分離できないのです。漢和字典で部首凵を調べると、主な字は、凹オウ・凸トツ・出シュツ・函カン・凶キョウ、の5字があります。このうち、凹オウ・凸トツ・出シュツは、文字が一体化されており分離できません。また、函カンは凵の中の字が分離できません。最後の凶キョウは「×+凵」に分離できますが、×という字は漢字ではありません。似たような字の乂ガイは刈カイ・かる、の原字で、凶の中の×とは意味が違います。つまり凶の字は分離できないのです。
ですから一番下に部首凵に言及する場合は、これは音符と結びついている一人前の部首でなく、漢字を分類するための部首だと説明する必要があります。なお、この部首の5字のうち、凶・出・函は音符となります。
以上、これまであまり注目されていなかった部首の位置について、新たに12区分を提唱させていただいた。こうした区分を設けることにより、特に留学生や外国で日本語を学ぶ方にとっては、部首がどんな位置につくか明確になるので、部首についての理解がより深まると思われる。
第2表の追加 ペトリチェンコ・イリーナさんからの提案
この項を私の所属するJSL漢字学習研究会のメールを通じて配信させていただいたところ、会員のペトリチェンコ・イリーナさん(ウクライナ)から次のような提案をいただいた。
「中国由来の伝統にとらわれず、完全に視覚的に把握できる[部首の位置12区分]を見て感動しました。留学生にはこちらのほうが分かりやすいことには間違いないですが、伝統的な区分におなじみの方にも納得しやすくするには、区分の並び順を(1)(2)(3)(4)(7)(8)(9)(10)(11)(12)(5)(6)にすればいかがですか。つまり、「へん」「つくり」「かんむり」「あし」「たれ」「にょう」に「かまえ5個」と「わりごろも」がつく順番です。いかがでしょうか。」
という提案である。私は最初、区分の配列順序を考えたとき、偏旁の次に「行がまえ」を入れ(タテの区分がそろう)、冠脚の次に「衣わりごろも」を入れたらどうか(横の区分がそろう)、と思ったことがある。しかし、偏旁冠脚という馴染みのある言葉を分離させるのは忍びなく、そのあとに配置した。
イリーナさんの提案は、偏旁冠脚につづく垂繞構も分離せずに、構のあとに分割した構や独立させた衣(わりごろも)を入れたらどうかというもので、しごく真っ当な提案である。そこで、第1表はインパクトがあると思うのでそのまま残し、これまでの学習者が抵抗なく納得できるように第2表を作成することにした。どちらを選ぶかは自由です。自分の好みで選び、表をコピーして使ってください。
部首と音符の関係
上記表の部分の欄で斜線でしめした部首の位置以外の白い部分に入るのが音符となる。音符「非ヒ」をこの表で表すと以下のとおりとなる。「非」に、偏(へん)・冠(かんむり)・垂(たれ)・脚(あし)・構(匚はこがまえ)が付いて文字が成立していることがわかる。また、匚はこがまえが付いた匪ヒは、さらに旁(つくり)となって榧ヒ(かや)が出来ている。
なお,音符「非」は,部首も「非」となる。約220ある部首のうち音符になる字は160字ほどある。
音符字の部首について
「部首の位置の12区分」の表は「部首+音符」の組み合わせとなる漢字を対象に作成したものである。しかし音符字については、この表を適用できない。これについて以下のような「問題と解答」の形式で例をあげて説明したい。
問題 次の漢字の部首を答えてください。
問題1 丘キュウ 問題2 亜ア 問題3 兼ケン 問題4 世セイ
問題5 五ゴ 問題6 兆チョウ 問題7 率リツ 問題8 半ハン
正解 正解は以下のカッコ内。
問題1 丘キュウ(部首:一いち) 問題2 亜ア(部首:二に)
問題3 兼ケン (部首:八はち) 問題4 世セイ(部首:一いち)
問題5 五ゴ (部首:二に) 問題6 兆チョウ(部首:儿ひとあし)
問題7 率リツ (部首:亠なべぶた)問題8 半ハン(部首:十じゅう)
丘や亜や兼などの字は、漢字辞典で調べるとき、画数索引か発音で調べれば見つかるので、無理に部首を覚える必要はない。これらの漢字の部首を覚えても役にたたないか、かえって有害である。
ここに挙げた問題の漢字は音符字である。漢字の音符字は基本的に分解不可能な字であり無理に部首を作っても、部首以外の部分はまったく意味のない漢字の体をなさないものになっている。なぜ、こんな部首を作ったのか。それはすべての漢字を部首別に配列する字典が一般的だからである。部首別の字典は漢字の構造を示すには有意義だが、収録するすべての漢字に部首を付けるため、分解できない漢字にも無理に部首を設定することになる。
画数のすくない部首には、どこにも分類できない漢字が集中している。
部首「一いち」の主な漢字(太字は音符)
一:丁・七・三・上・下・丈・万・不・与・丙・世・且・丘・丞・両・並
部首「二に」の主な漢字(太字は音符)
二:互・五・亘・亜・井・云・些・于
部首「八はち」の主な漢字(太字は音符)
八:共・兵・具・典・其・六・兼・公
部首「十じゅう」の主な漢字(太字は音符)
十:廿・協・博・午・卒・卓・升・千・半・卑・南
部首「亠なべぶた」の主な漢字(太字は音符)
亠:亡・亢・亦・亥・交・京・享・亭・商・率
部首「儿ひとあし」の主な漢字(太字は音符)
儿ジン:允イン・元・兄・光・充・先・兆・克・児・兎・禿・免・党
以上、部首を見るとき、音符字の部首は本来の部首ではなく、便宜的につけた部首ですので、注意が必要です。
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