漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

音符「睘カン」<よみがえる・輪のかたち>と「還カン」「環カン」「鐶カン」

2020年06月23日 | 漢字の音符
 カン  目部              

解字 金文は「目+〇(輪の玉)+衣」の会意。衣は〇の上下に別れる。死者の衣のえりもとに輪の玉を置いて、死者がよみがえることを願って見つめているかたちを表わす[字統]。衣の中の輪の玉は円形なので元に戻る意味がある。篆文で衣の上部が土に変化したが、楷書は一になった。新字体では衣あしのレは 丨 になるが、手書きではレも認められている。(『改訂常用漢字表』の「明朝体と筆写の楷書との関係について」を参照) 
睘は、「よみがえる」「輪のかたち」のイメージがある。

イメージ 
 「よみがえる」
(還) 
 「輪のかたち」(環・鐶・寰・鬟・圜
音の変化  カン:還・環・鐶・寰・鬟・圜

よみがえる
 カン・ゲン・かえる  辶部
解字 「辶(ゆく・くる)+睘(よみがえる)」の会意形声。よみがえってくること。現代字は衣あしの下部がレ⇒ 丨 になっているが、手書きではレも認められている。
意味 (1)かえる(還る)。かえす(還す)。もとにもどる。「還元カンゲン」(元にもどる)「還俗ゲンゾク」(出家した僧が再び世俗の人間にかえる)「返還ヘンカン」「往還オウカン」(①ゆきかえり。②ゆききする道) (2)また。ふたたび。

輪のかたち
 カン・たまき・わ・めぐる  王部たま
 玉環
解字 「王(玉)+睘(輪のかたち)」の会意形声。輪のかたちをした玉。また、輪のかたち・輪のかたちにめぐる意となる。現代字は衣あしの下部がレ⇒ 丨 になっているが、手書きではレも認められている。
意味 (1)たまき(環)。輪の形をした玉。「玉環たまき」 (2)わ(環)。輪のかたち。「環状カンジョウ」「環礁カンショウ」(環のかたちに海面を囲んでいるサンゴ礁)「金環キンカン」(金の輪)「金環蝕キンカンショク」(太陽の光が環状にみえる日食) (3)めぐる(環る)。めぐらす。まわる。かこむ。「環境カンキョウ」(人間を取り巻いている外界)「環流カンリュウ」(流れが元のほうへ戻る。巡って流れる。)「環視カンシ」(多くの人がまわりを囲んで見ている)「衆人環視シュウジンカンシ」「循環ジュンカン」(一回りして元にかえる)「血液循環ケツエキジュンカン
 カン・わ  金部
解字 「金(金属)+睘(輪のかたち)」の会意形声。金属の輪。
意味 わ(鐶)。かなわ。たまき。古代の腕飾りの一種。金属でできた輪。「刀鐶トウカン」(刀の頭部の輪)「指鐶シカン」(指輪)「耳鐶ジカン」(耳輪)「鐶付カンつき」(釜の鐶を付けるところ)
 カン  宀部
解字 「宀(建物)+睘(=環。めぐる。かこむ)」の会意形声。まわりに塀をめぐらした建物の意で宮殿をいう。さらに意味が拡大し、宮殿(天子)の領地から、天下・世界をいう。
意味 (1)宮殿。また、直轄の領地。「カンナイ」(①天子の領域内。②天下)「カンチュウ」(①天子の直轄地。②天下) (2)天下。世界。世の中。「カンウ」(天下)「人ジンカン」(人の住んでいる所。世の中)「塵ジンカン」(けがれた世界。俗世間)
 カン・わげ・みずら  髟部
 みずら
解字 「髟(かみ)+睘(輪のかたち)」の会意形声。輪のかたちに結った髪。
意味 (1)わげ()。髪を輪に結んだもの。 (2)みずら()。分けた髪を左右の耳のあたりで輪にした形で、日本古代の男性の髪の結い方。
 カン・エン・めぐる・まるい  囗部くにがまえ
解字 「囗(かこむ)+睘(輪のかたち)」の会意形声。輪のかたちにかこむこと。めぐる・めぐらす・まるい、などの意となる。
意味 カンの音。(1)めぐる(る)。めぐらす。かこむ。「圜繞カンジョウ」(ぐるりと取り囲む)「カンリュウ」(ぐるりと回って流れる) エンの音。(2)まるい(い)。まる。「エンキュウ」(まるい丘)「エンシ」(目をまるくして視る)「エンポウ」(まると四角=円方) 
<紫色は常用漢字>

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音符「徴チョウ」<出かけて長老を打つ>と「懲チョウ」

2020年06月14日 | 漢字の音符
 チョウ  彳部

解字 篆文は、「彳(でかける)+頭部の長髪(斜めの山+一)+壬テイ(土盛りに立つ人)+攴(うつ)」の会意。壬テイは土盛りに立つ人の形で地域の領主と思われる。意味は、出かけて長髪の領主を打ちすえて税金や兵を出すよう強要すること。旧字はで、頭部の長髪が(山+一)に、壬テイ⇒王になった。新字体は長髪の一が略された徴。これを字形に沿って解字すると、「彳(出かける)+山(長髪)+王(領主)+攵(うつ)」となる。発音は壬テイがチョウに変化した。意味は、強制的に動員したり、財貨をとりたてること。また、兆チョウ(きざし)に通じ、きざす意もある。
意味 (1)官の用で呼び出す。めす。「徴兵チョウヘイ」「徴用チョウヨウ」 (2)取り立てる。もとめる。「徴収チョウシュウ」「徴税チョウゼイ」「追徴ツイチョウ」 (3)きざし。「徴候チョウコウ」 (4)(きざしが現れた)しるし。めじるし。「特徴トクチョウ」「象徴ショウチョウ」(シンボル)

イメージ 
 「出かけて人を打つ」
(徴・懲)
 「同音代替」(澂)
音の変化  チョウ:徴・懲・澂

出かけて人を打つ
 チョウ・こりる・こらす・こらしめる  心部
解字 「心(こころ)+徴(出かけて打ちすえる)」 の会意形声。打ちすえて、心に思いしらせること。打つ方は、こらしめる意となり、打たれる方は、こりる意となる。
意味 (1)こらす(懲らす)。こらしめる(懲らしめる)。「懲役チョウエキ」(こらしめる強制労働。労役に服させる刑)「懲罰チョウバツ」(こらしめるための罰。不正な行為に対し制裁を加える)「勧善懲悪カンゼンチョウアク」(善い事を勧め、悪事をこらしめる) (2)こりる(懲りる)。こりごりする。「羹あつものに懲りて膾なますを吹く」(熱い汁物を食べたら懲りたので、冷たい膾なます(生肉の刺身)を食べる時も吹いて冷まそうとする。必要以上に用心深くなること)

同音代替
 チョウ  氵部
解字 「氵(みず)+徴の略体(チョウ)」の形声。チョウは澄チョウ(すむ)に通じ、水が澄むこと。澄は異体字。
意味 (1)すむ(澂む)。きよい。「澂清チョウセイ」(きよく澄んでいること)「澂明チョウメイ」(澄んで明るい)「澂心チョウシン」(澄んだ心) (2)すます(澂ます)。清らかにする。
<紫色は常用漢字>

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音符「矛ム」(やりほこ) と 「戈カ」(おのほこ)「戍ジュ」

2020年06月10日 | 漢字の音符
 国語辞典で「ほこ」と引くと、「矛・戈・鉾」などの漢字のあとに「両刃の剣に長い柄をつけた武器。刺突用。(以下略)」と書いてある。後に個々の「ほこ」の説明があるのだが、この部分だけ読むと、槍のような先の尖った武器を連想する。しかし、おおきく分けると漢字の「ほこ」には2種類ある。ひとつは先がまっすぐな槍のかたち。もうひとつは先が柄と直角についているオノ(斧)の形である。やり形の「ほこ」には矛・鉾ボウ・ムがあり、おの形の「ほこ」には戈がある。
 この違いは当座に理解できても「ほこ」という同じ読み方をすると、いつまでたっても区別しにくい。そこで私は両者を区別するために「やりほこ」と「おのほこ」という言い方を提唱したい。おの(斧)は皆さんご存知だろう。木を伐ったり割ったりする道具である。鉄の刃は柄の先に直角に付いている。「おのほこ」は刃が直角に付いている「ほこ」である。


    やりほこ(矛ム)
 ム・ボウ・ほこ  矛部
銅矛穂先(弥生時代後期)東京国立博物館蔵

解字 金文は穂先をつけた槍のような武器の象形。上の曲線が刃先、途中の半環状のものは、飾り紐をつける耳といわれる部分と思われる。この下に柄がつく。篆文から大きく形が変わり、これを受け継ぎ、隷書レイショ(漢代)が成立、現代字へとつづく。矛は部首となるが、「ほこ」の意で音符ともなる。篆文以降、形が変化したので、「予(われ)+ノ」と覚えると便利。
覚え方 よ()の()ほこる(ほこ)は、盾を突きぬけ矛盾なし 「予+ノ=矛
意味 ほこ(矛)。長い柄の先に両刃の剣をつけた武器。「矛盾ムジュン」(①ほことたて。②つじつまの合わないこと:矛と盾を売る男が、この矛はどんな盾でも突き通す、この盾はどんな矛でも突き通せない、と言って売っていた。ある人が、それでは、その矛でその盾を突いたらどうなるか、と問われて答えられなかった話から)「矛戟ボウゲキ」(ほこの意。戟は二つの刃枝のあるほこ)
参考 矛は部首「ほこへん・むのほこ」となる。この部に属する字は非常に少なく、主な字は部首の矛以外に、矜キョウ・務ム・矞イツ、ぐらいしかない。このうち、務ム・矞イツ、は音符になる。
矛の音符字 ム:矛・務・霧  ボウ:茅

   おのほこ(戈カ)
 カ・ほこ  戈部
 戈 カ ウィキペディア「青銅器」より
左上が穂先、左下が柄尻、右が全体像。
 
刃の付き方はオノ(斧)に似て柄に直角。


解字 甲骨文字は長い柄を持ち、先端に柄と直角に両刃の穂先が取り付けられた武器の象形。穂先の後部が柄の反対側に出ている。柄の先端の右横線は写真にみえる柄頭の冠の一部か。また柄尻は誇張して描いている。金文は柄尻を三本足にした。篆文は柄頭に反転したLがつき、下部は三本足⇒ノに変化、現代字は上の反転L⇒点になった戈。
意味 (1)ほこ(戈)。長い柄の先端に両刃の穂先が横についた武器。「戈甲カコウ」(ほことよろい)「偃戈エンカ」(戈をふせる。戦争をやめる) (2)いくさ。戦争。「戈船カセン」(いくさ船)
は、どう使ったのか?
戦車の上で戈を持つ戦士(篠田耕一著『武器と防具 中国編』の表紙より)
 戈は、江戸時代の消防用具のトビのような形をしている。実際にどう使ったのであろうか。篠田耕一著『武器と防具 中国編』には、「中国の戦車は3人乗りで両側の2人が戈を使った。戈を両手で使い戦車がすれちがうときに敵の戦士に向けて、その刃を打ち込むか引っかけて斬る方法で使用した。戦車がすれちがって闘う場合、矛で直線的に突くより戈のほうが命中の機会が多く、戦車のスピードも利用できるためだった」と書かれている。また、「しかし、漢になって戦車がすたれると、戈は戦車戦にあまりにも適した特性のため、すたれてしまった」という。
 上の絵画は同書の表紙絵で戈を持つ戦士が描かれている。しかし馬車は4頭立であり(通常は2頭)、右の戦士は弓を持っているので、上記の文章と異なり誇張されている。しかし、当時の戦場の雰囲気を感じ取ることができる。
参考 矛は部首「戈ほこづくり・かのほこ」になる。漢字の旁つくり(右辺)について、武器や武器を用いた行動を表す。『新漢語林』では、49字が掲載されている。主な字は以下のとおり。
 戈カ(部首):戍ジュ・戎ジュウ・戌ジュツ・成セイ・我・戒カイ・或イキ・戔セン・戚セキ・戯・戠ショクなど。このうち、戍ジュと戯以外はすべて音符となる。戈の部首字は音符の宝庫である。

イメージ 「ほこ」(戈・戍)
音の変化  カ:戈  ジュ:戍
ほこ
 ジュ・まもる  戈部

解字 「人(ひと)+戈(ほこ)」の会意。人が武器のほこを背負っているかたち。軍隊や兵をあらわす。
注意 「戌ジュツ」とは別の字。
意味 まもる(戍る)。国境や城をまもる。およびその兵。「戍卒ジュソツ」(国境や城砦を守る兵卒)「衛戍エイジュ」(衛も戍もまもる意。軍隊が長く一つの土地に駐屯すること)
<紫色は常用漢字>




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音符「首シュ」<あたま>「道ドウ」「導ドウ」と「県ケン」<さかさの首>「懸ケン」

2020年06月06日 | 漢字の音符
 シュ・くび・こうべ  首部

解字 甲骨文は人の頭部(首)の象形。上の線は髪の毛、小円は目を表す[甲骨文字小字典]。金文は髪の毛と目が強調された形。篆文は目玉はなくなったが、基本的に髪の毛とそれに続く目の形で、現代字の首につづく。現代字の上部は髪の毛の名残といえる。字は「あたま」の意味を表わす。身体の中心的な部分であることから転じて、「統率者」「中心」、「第一・最初」の意味を派生する。日本では頭と胴をつなぐ「くびれた」部分の「くび」の意でも用いる。首は部首となる。
意味 (1)あたま。かしら。くび(首)。こうべ(首)。「首級シュキュウ」(討ちとった頭)「鳩首キュウシュ」(鳩が集まるように人々が頭を合わせる) (2)おさ。統率者。集団の長。「党首トウシュ」「首長シュチョウ」 (3)くび(首)。頭から胴へ続くくびれた部分。「首飾り」「首筋くびすじ」「首輪くびわ」 (4)はじめ。第一位。「首位シュイ」「首席シュセキ」 (5)かなめ。中心。「首都シュト
参考 シュは、部首「首くび」になる。この部の主な字は馘カク・くびきる(首+音符「或ワク」)のみ。

イメージ 
 「あたま」
(首・道・導)
音の変化  シュ:首  ドウ:道・導
あたま
 ドウ・トウ・みち  之部

解字 金文第一字は「行(ゆく。左右に分かれる)+首(おさ。統率者)」の会意形声。集団の長である統率者が行くこと。第二字は、そこに止(あし)がつき歩む意味を強めた字。統率者が集団で行くことから、大勢が歩く道(みち)の意。また、統率者が正しいと思う方向を行く意から「正道」「道徳(人の踏み行うべき道)」の意、および統率者が「みちびく」意で用いられている。金文の「行+止」が、篆文で「彳+止」⇒辵チャクになり、現代字で 辶(しんにょう)に変化した道になった。
意味 (1)みち(道)。「道路ドウロ」「道中ドウチュウ」「道程ドウテイ」(道のり) (2)人の行なうべき道。「道徳ドウトク」「正道セイドウ」 (3)専門の学問やわざ。「剣道ケンドウ」「茶道チャドウ」 (4)教え。宗教の教え。「仏道ブツドウ」「伝道デンドウ」「神道シントウ」「道教ドウキョウ」 (5)みちびく(=導)。てびき。「之(これ)を道(みちび)くに、政(まつりごと)を以(もっ)てす(論語・為政)
 ドウ・みちびく  寸部

解字 金文は「行+首+又(手)」の会意形声。この字は金文の「道」に含まれている。統率者が手で引いて行くこと。篆文は「辵チャク+首+寸(て)」になり、現代字で「道+寸」の導になった。手引きして道をゆくこと。
意味 (1)みちびく(導く)。「先導センドウ」「教導キョウドウ」 (2)みちびき(導き)。案内。「導引ドウイン」(①道案内。②道家の養生方法)「導駅ドウエキ」(宿駅で馬を出して道案内する) (3)導いて通過する。「導体ドウタイ」(電気や熱を導く物質)「半導体ハンドウタイ」(導体と絶縁体の中間の電気伝導率をもつ物質)


    ケン <さかさに吊るした首>
[縣] ケン・あがた  目部

解字 金文は、「木(き)+系(ひもでつなぐ)+首(あたま)」の会意。首をひもで結んで木につり下げた形。篆文は、「系(ひもでつなぐ)+県(逆さにした首)」の会意。県は篆文の首を逆さにして反転させた形。そこに系(ひもでつなぐ)がついた縣は、切った首を見せしめのため高いところへ紐でぶら下げること。かける意だが、転じて、中央政府と郷村との中間にぶら下がっている行政区をさす。新字体は、旧字の縣から系を省いた形。漢字検索のための部首は目。
意味 (1)かける。つりさげる。かかげる。 (2)けん(県)。日本の地方行政区画。「県庁ケンチョウ」 (2)あがた(県)。古代に国の下に置かれた行政区。「県主あがたぬし」 (3)中国の地方行政区のひとつ。省または市の下位。

イメージ 
 「高いところから吊るす」
 (県・懸)
音の変化  ケン:県・懸
高いところから吊るす
 ケン・ケ・かける・かかる  心部
解字 「心(こころ)+縣(高いところから吊るす)」の会意形声。高いところから吊るされたように心が不安で気がかりなこと。また、県(縣)が地方行政組織の意味に専用されたので元の意である、つりさげる・ひっかける意もこの字で表わす。
意味 (1)気がかりな。心をむける。「懸念ケネン」 (2)ぶらさげる。かける(懸ける)。かかる(懸かる)。「懸賞金ケンショウキン」「懸垂ケンスイ」(垂れさがること)「懸樋かけひ」(樋を地上に懸けわたしたもの) (3)遠くへだたる。「懸隔ケンカク
<紫色は常用漢字>

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音符「爰エン」<ひく・間をおく>と「援エン」「媛エン」「緩カン」「暖ダン」

2020年06月04日 | 漢字の音符
 エン・オン  爪部 yuán     

解字 甲骨文は一本の綱(または棒)を上と下から手で引いている形。甲骨文字では「たすける」意味になっている。これは上の手が下の手を引き上げる形となり援エンの原字。金文は両方の綱のあいだにVを横にした形が入り、篆文は両手の間が于の変形になり現在に続く。金文と篆文で上下の両手のあいだに入った「横のV」や、「于の変形」は何を意味するのか? 私は間をおく記号だと思う。つまり上の手と下の手の間に空間があるが、綱で間接的につながっている形だと思う。転じて、ゆるい・ゆるやかの意となる。
 爰の意味は、甲骨文字が示す「ひく」意。および、ゆるい・ゆるやかの意。また、本来の形とは関係のない指示詞の「ここに」「そこで」などとして用いられる。新字体の音符になるとき、爰の上部の爫⇒「ノ+ツ」の形になる。
意味 (1)ひく。たすける(甲骨文)=援。 (2)ゆるい。ゆるやか。(=緩)「爰爰エンエン」(ゆったりと、ゆとりのあるさま) (3)ここに(爰に)。そこで。「爰許ここもと」(①ここ。このあたり。②自分をへりくだる言い方)

イメージ 
 「引く」(爰・援・猨)
 「間をおく」(緩・媛・瑗)
 「同音代替」(暖・煖)
音の変化  エン:爰・援・媛・猨・瑗  カン:緩  ダン:暖・煖

引く
 エン・たすける  扌部 yuán
解字 「扌(手)+爰(ひく)」の会意形声。相手を手でひきよせて助けること。
意味 (1)たすける(援ける)。「援助エンジョ」「援護エンゴ」 (2)ひく。「援用エンヨウ」(自分の説の援けとして他の文献などを引用する)
 エン・さる  犭部 yuán
解字 「犭(けもの)+爰(ひく)」の会意形声。木の上で枝をひき実などを食べるサル。
意味 さる(猨)。同音の猿の正字。漢・魏の頃まで使われ、唐・宋、以後は猿を使う。現在は猿の異体字になっている。

間をおく
 カン・ゆるい・ゆるやか・ゆるむ  糸部 huǎn
解字 「糸(ひも・ころも)+爰(間をおく)」の会意形声。糸を紐(ひも)と解釈すると、紐をきつく縛るのでなく、ゆるやかに縛る意となり、糸を衣とすると、衣服がゆったりとした意となる。転じて、動作や状況が、ゆるやか・ゆるい意ともなる。
意味 (1)ゆるい(緩い)。ゆるやか(緩やか)。ゆるめる。「緩和カンワ」「緩衝カンショウ」(衝突を和らげる)「緩急カンキュウ」(ゆるやかなことと、急なこと)「緩刑カンケイ」(刑を軽くする) (2)ゆったりしている。「緩服カンフク」(ゆったりした服。平服) (3)ゆっくり。おそい。「緩慢カンマン」(動作がおそい。手ぬるい)「緩行カンコウ」(ゆっくり歩く)
 エン・ひめ  女部 yuàn・yuán
解字 「女(おんな)+爰(=緩。ゆったりしている)」の会意形声。ゆったりとした衣装の、しとやかな女性。
意味 うつくしい女性。たおやかな女性。ひめ(媛)。「才媛サイエン」「名媛メイエン」「媛女エンジョ」 (2)地名。「愛媛県えひめケン」(四国の県)
 エン  王部 yuàn
 玉瑗
解字 「王(玉)+爰(間をおく)」の会意形声。中央にまるい穴のある輪の形をした玉。中央に大きな穴のある言われについては次のような説がある。君主が階段を登るとき臣下が直接手を引くのは畏れ多いので、君主と臣下がこの玉を手に持ち(間をおく)、臣下が引き上げ、君主が引き揚げてもらう。瑗エンを用いて引く形の玉が元になっているとされる。[説文解字]は「大孔璧。人君上除陛以相引。从玉爰聲」とする。
意味 璧ヘキ(中央に穴のある円板状の玉)の一種。中央に大きな穴のある平らな輪のかたちの玉。

形声字
 ダン・あたたか・あたたかい・あたたまる・あたためる  日部 nuǎn
解字 「日(日光)+爰(ダン)」の形声。ダンは煗ダン(あたたかい)に通じ、日の光であたたかいこと。煗ダンは、「火+耎ゼン(やわらかい・よわい)」の会意で、よわい火⇒あたたかい意。
意味 あたたかい(暖かい)。あたたまる(暖まる)。「暖房ダンボウ」「暖流ダンリュウ」「暖簾のれん」(店の軒先に垂らす日よけや仕切りの布。もと、冬の隙間風を防ぐ垂れ布。)
 ダン・ナン・あたたかい・あたためる  火部 xuān・nuǎn 
解字 「火(ひ)+爰(=暖。あたたかい)」の会意形声。火の熱であたたかい意。常用漢字でないため、暖に書き換えることが多い。
意味 あたたかい(煖かい)。あたためる(煖める)。「煖房ダンボウ」(=暖房)「煖炉ダンロ」(=暖炉)
 エン・カン  氵部 yuán
解字 「氵(水)+爰(エン・カン)」の形声。水のゆるやかに流れるようすを湲エン・カンという。[説文解字]は「潺湲センカン。水の聲(声・おと)。水に従い爰聲(声)」とする。潺湲センカンは意味(1)を参照。
意味 (1)水がゆるやかにめぐる。「湲湲エンエン」(さらさらと水の流れるさま)「潺湲センカン」(水の流れる様子、またはせせらぎの音)「潺湲亭センカンテイ」(谷崎純一郎が書斎として使用していた建物の名)
<紫色は常用漢字>

お知らせ
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