漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

音符「臣シン」<下をむく目> と「臥ガ」「宦カン」「姫キ」「臨リン」

2024年06月30日 | 漢字の音符
シン・ジン・おみ 臣部 chén

 
  甲骨文の目(左)と臣(右)  
解字 目を90度回転させて描いた象形。下にうつむいた目を意味し、君主の前で下をむいてかしこまる家来の意。また、捕獲したうつむく奴隷をいう。臣は部首となり、会意文字をつくる。
意味 (1)けらい。君主に仕える人。「臣下シンカ」「家臣カシン」「大臣ダイジン」(政を司る高官)「臣民シンミン」(臣と民。旧憲法において天皇と皇族を除いた国民) (2)しもべ。どれい。めしつかい。「臣虜シンリョ」(どれいや捕虜)「臣僕シンボク」(しもべ) (3)[国]おみ(臣)。古代豪族が世襲した地位を示す称号のひとつ。
参考 シンは部首「臣しん」となる。臣部でも家来および下をむく意を表す。常用漢字で2字(臣・臨)、その他の主な字は以下のとおり。
常用漢字
 臣シン・おみ (部首)
 臨リン・のぞむ(臣+𠂉+品の会意)
その他
 臥ガ・ふす(臣+人の会意)    
 臧ゾウ(爿+臣+戈の会意形声)
  このうち臧ゾウは音符になる。

イメージ  
 君主の前の「けらい」(臣・宦)
 「下をむく」(臥・臨)
 「同体異義」(姫)
音の変化  シン:臣  ガ:臥  カン:宦  キ:姫  リン:臨

けらい
 カン・つかえる  宀部 huàn
解字 「宀(役所の建物)+臣(けらい)」の会意。役所で仕える家来。
意味 (1)つかえる(宦える)。つかさ。官職。役人になる。「仕宦シカン」(=仕官。宦に仕える)「宦遊カンユウ」(官吏となるため郷里を離れる)(2)つかさ(宦)。役人。「宦海カンカイ」(役人の世界)「宦人カンジン」(役人)(3)「宦官カンガン」とは、禁中(皇宮)で仕えた去勢された男性。常に君主に近接し重用されたため政権を左右することも多かった。

下をむく
 ガ・ふす  臣部 wò
解字 「人(ひと)+臣(下をむく)」の会意。人が下をむいてふせること。
意味 ふす(臥す)。うつぶせになる。横たわる。「臥竜ガリュウ」(まだ天に昇らず臥せている竜。民間にひそむ英雄)「臥床ガショウ」(①ねどこ。②病気で寝込む)「臥薪嘗胆ガシンショウタン」(薪の上に横たわり、にがい胆(きも)を嘗(な)める。目的達成のため苦心・苦労を重ねる)
 リン・のぞむ  臣部 lín
解字 「臣(下をむく)+𠂉(ひと。人が上にきたときの変化形)+品(いろいろな品物)」 の会意。人が高いところから下の品々を見下ろすこと。
意味 (1)見下ろす。上に立つ。「君臨クンリン」(①君主として上に立つ。②絶対的権勢をふるう)(2)身分の高い者がその場に出向く。「降臨コウリン」(神仏が天下る)「光臨コウリン」(貴人の来訪。他人の来訪の尊敬語)「来臨ライリン」(他人の来訪の尊敬語)(3)のぞむ(臨む)。目の前で向き合う。その場に居合わせる。「臨席リンセキ」(その席にのぞむこと。出席)「臨海リンカイ」(海に面した)「臨戦リンセン」(戦場に出る)「臨時リンジ」(その場限りの)「臨終リンジュウ」(死にぎわ)

同体異義
キ・ひめ  女部 jī

解字 金文第一字は「女(おんな)+(下あごの形)イ⇒キ」の形声 。第二字は「下あごの形」のなかにタテ線がはいった。これらの「下あごの形」とされる字は音符としてのみ用いられており発音の𦣝キを表している。すなわち金文の意味は第一字・二字とも「女𦣝(姬)キ」となる字で、意味は当時の周王朝の姓であった。周王朝は初代の武王(姫昌)から12代の幽王(姫宮涅)まで姫姓であり、周(西周)代において姫姓の娘は、王のそばに仕える娘の意味にもなり、高貴な女性の意味を持つようになったとされる。宋代の[集韻]は「婦人の美稱。一に曰く王の妻の別名。一に曰く衆(おお)くの妾(めかけ)の総称」とし、婦人の美称のほか、後世になると妾の意にも広がった。字体は「女𦣝または姬」であるが日本では𦣝の代わりに、似た字で書きやすい臣を用いた姫が新字体で用いられている。 
覚え方 「女+臣(下をむく)」で、君主のそばで下をむいて仕える女。
意味 (1)貴人のそばに仕える女性。高貴な女性。転じて、そばめ。「寵姫チョウキ」(お気に入りの侍女)「姫妾キショウ」(そばめ)「妖姫ヨウキ」( 妖気を感じさせる美女)(2)[国]ひめ(姫)。女性の美称。「歌姫うたひめ」「舞姫まいひめ」「乙姫おとひめ」(3)姓。周王の姓。転じて周。「姫漢キカン」(周と漢)「姫昌キショウ」(周の初代武王の諱いみな。生前の実名)
参考 なお、姫の本来の字である姫シンは、(女が)つつしむ意の別字であるが、ほとんど使われない字だったので、姬の代用字となった。
<紫色は常用漢字>

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音符 「菐ボク」 <ノコギリ歯の道具を手にもつ> と 「僕ボク」「樸ボク」「撲ボク」「蹼ボク」「璞ハク」

2024年06月28日 | 漢字の音符
  改訂しました。
 ボク  大部 pú 

解字 菐ボクの字は音符として抜き出された文字で、単独で使われることはない。金文は先端に3本の突起をもつ工具を両手で持つかたち。3本の突起はノコギリ状の鋸歯と思われる。篆文は鋸歯が長短4本となった。現代字は両手の部分が大に変化した菐となった。意味は鋸歯状の道具を使うこと。イメージとしては、「ノコギリ歯の道具をもつ」、ノコギリ歯から「ギザギザ状の」、それに「ボク」の音、である。

イメージ 
 「ノコギリ歯の道具をもつ」
(撲・樸・璞) 
 ノコギリ歯から「ギザギザ状の」(蹼)
 「形声字」(僕)
音の変化  ボク:僕・樸・撲・蹼  ハク:璞

ノコギリ歯の道具をもつ
 ボク・うつ・なぐる  扌部 pū

解字 金文は「戈(ほこ)+菐(ノコギリ歯の道具をもつ)」の会意形声。ノコギリ歯の道具で門や建物を切り開き、武器の戈で相手を討つこと。篆文は戈⇒扌(て)に変化した撲になった。これにともない、手でうつ・なぐるなどの意が加わった。
意味 (1)うつ(撲つ)。討つ。「撲滅ボクメツ」(撲ち滅ぼす)「撲殺ボクサツ」(撲ち殺す) (2)なぐる(撲る)。打つ。たたく。はる。「打撲ダボク」(打ちたたく)「相撲ソウボク・すもう」(①相いうつ。②土俵の中で二人が打ち合い、組み合って闘う競技)
 ボク・ハク・あらき  木部 pǔ
解字 「木(き)+菐(ノコギリ歯の道具をもつ)」 の会意形声。ノコギリ歯の道具をもって木を切ること。切り出したままで加工をしていない木材をいう。また、この状態を人に移していう。
意味 (1)あらき(樸)。切り出したままの木材。荒木。 (2)ありのまま。飾り気のない。「素樸ソボク」(=素朴)「粗樸ソボク」(粗末で飾り気のない)「樸実ボクジツ」(飾り気がなく誠実=朴実)
 ハク・あらたま  玉部 pú
解字 「王(玉)+菐(ノコギリ歯の道具をもつ)」 の会意形声。ノコギリ歯の道具をもって玉の材料を切ること。切り出したままで加工をしていない玉をいう。
意味 あらたま(璞)。磨いてないたま。「璞玉ハクギョク」(磨いていない玉。人工を加えていない宝石)「璞玉渾金ハクギョクコンキン」(あらたまと、あらがね。磨いてない玉と精錬してない金属。人の素質がすぐれている)

ギザギザ状の
 ボク・みずかき  足部 pǔ
 鴨の水かき ウイキペディアより
解字 「足(あし)+(ギザギザ状の)」 の会意形声。ギザギザ状にみえる水鳥の足の水かき。
意味 みずかき(蹼)。水鳥などの足の水かき。「蹼状ボクジョウ」(みずかき状の)「蹼足ボクソク」(みずかきのある足)「蹼膜ボクマク」(みずかきのまく)「鴨蹼オウボク」(カモのみずかき)

形声字
 ボク・しもべ  イ部 pú        

解字  甲骨文は[漢典]および[漢字古今字資料庫]に収録されている字で、頭部に辛(針状の刃物)があり、これで額に入れ墨をされた奴隷(尾が描かれている)がチリトリである箕を持つさま。チリトリの上に集める小点をいくつも描いており、掃除をしている召使いを表している「新漢語林」。金文から「人+菐(ボク)」となり、召使いの意味の発音がボクであることを表す。後漢の[説文解字]は「給事者(貴人の身のまわりの世話、雑用をする人)。人に従い菐ボクに従う。菐は亦(また)聲(声)」とする。
意味 (1)しもべ(僕)。めしつかい。「下僕ゲボク」「公僕コウボク」「奴僕ドボク」(男の召使い)「車僕シャボク」(御者)「僕婢ボクヒ」(下男と下女。使用人) (2)謙遜して言うときの自称。「僕等ぼくら
<紫色は常用漢字>

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音符「闌ラン」 <さえぎる> と「欄ラン」 「蘭ラン」「襴ラン」「瀾ラン」「爛ラン」

2024年06月26日 | 漢字の音符
 増訂しました。
 ラン・たけなわ  門部 lán  


  上は闌ラン、下は間カン
解字 下の間カンの金文は門のとびらの隙間から月の光がさしこんでいる形の象形。ほそい隙間を表わす。篆文以後は月が門の中に入り込んだ。ほそい隙間・あいだ(間)の意を表わす。新字体で門の内側が日に変化した。一方、上の闌ランの金文は「音符(柬カン⇒ラン)+間の旧字(ほそい隙間)」の形声。細いすき間が、行く手をさえぎることを闌ランという。篆文から「門+柬カン⇒ラン」の闌ランとなった。後漢の[説文解字]は「門を遮(さえぎ)る也(なり)。門に従い柬ランの聲(声)」とし、さえぎる意とする。なお、柬カンは、えらぶ・えりわける意だが、発音がランに変化して音符のみを表している。闌の音符字の新字体は、柬⇒東に変化する。
意味 (1)さえぎる(闌る)。ふせぐ。(2)てすり(=欄)。「闌干ランカン」(=欄干)(3)たけなわ(闌)。(=爛)。さかりの時。また、さかりの過ぎた時。爛ランは、火で煮る意で「さかり・さかん」の意味があるが、「ただれる」という意味に用いるので、闌に「たけなわ」を当てる。「闌夜ランヤ」(夜のたけなわ。深夜)「酒闌シュラン」(酒宴がさかりの時)(4)(出入りの禁を犯す)みだれる。みだりに。「闌入ランニュウ」(みだりに入る)「闌出ランシュツ」(財物をみだりに出す)

イメージ 
 「さえぎる」(闌・欄・襴・瀾・蘭)
 「形声字」(爛)
音の変化  ラン:闌・欄・襴・瀾・蘭・爛

さえぎる
 ラン  木部 lán
解字 旧字はで「木(き)+闌(さえぎる)」 の会意形声。行く手をさえぎるように作られた木のてすり。また、てすりで囲った、かこい・わくの意となる。新字体は、柬⇒東に変化した欄。

宇治川朝霧橋の欄干
意味 (1)手すり。「欄干ランカン」(2)かこい。わく。しきり。「欄外ランガイ」「空欄クウラン」(3)「欄間ランマ」とは、日本間の天井と鴨居の間に設けた空間。格子や透かし彫りなどがつけてある。
 ラン・ひとえ  衣部 lán
解字 「衣(ころも)+闌(=欄:わく)」 の会意形声。衣の上下が同じ枠の中にある着物。すなわち、上衣とそれに続く裳(スカート)がつながったひとえものをいう。
意味 (1)衣と裳を連ねたひとえもの。ひとえ。「襴袍ランポウ」(朝廷に出仕するときに着用した衣服)(2)ふちどりを加えた裳裾もすそ。「襴衫ランサン」(すそ飾りのある裳の服)(3)「金襴キンラン」とは、金糸を緯糸(よこいと)に織り込んで模様を表した織物。京都の西陣織が有名)
 ラン・なみ  氵部 lán  
解字 「氵(水)+闌(さえぎる)」 の会意形声。行く手をさえぎるような高い波。
意味 なみ(瀾)。おおなみ。波頭を連ねたなみ。「波瀾ハラン」(大小の波。変化・曲折)「狂瀾キョウラン」(荒れ狂う大波。大混乱した状況)「瀾汗ランカン」(①波の大きくうねるさま、②涙のはらはら流れるさま)
 ラン  艸部 lán     
解字 旧字は「艸(草)+闌(さえぎる)」 の会意形声。花の香りが虫をさえぎり、虫除けになる草花。新字体に準じて、柬⇒東に変化した蘭が使われる。

蘭草ふじばかま(「フリー写真素材・蘭草」より)
意味 (1)菊科の香草。和名はふじばかま(藤袴)。「蘭草ふじばかま」(キク科の多年草。秋の七草のひとつ。乾燥した茎や葉は芳香を放つ)(2)らん(蘭)。ラン科の多年草の総称。花は美しく香気があり、観賞用として栽培される。「胡蝶蘭コチョウラン」(白い美しい花をつける蘭)「蘭交ランコウ」(ランの花のように美しいつきあい。親友のまじわり)「蘭麝ランジャ」(蘭の花と麝香ジャコウの香り。よい香りのこと)(3)(蘭の香りが虫除けになることから)書庫・文書を扱う役所。「蘭台ランダイ」(尚書省などの異称)(4)[国名]和蘭(オランダ)の略。「蘭学ランガク」(5)梵語の音訳字。「盂蘭盆ウラボン」とは、陰暦7月13~15日に祖先の霊をまつる仏教行事)

形声字
 ラン・ただれる  火部 làn
解字 「火(ひ)+闌(ラン)」 の形声。宋代の[廣韻]は「火で熟(に)るを爛ラン」とする。転じて、ただれる意となる。また、蘭ラン(美しい花)に通じ、火のように明るく輝く美しい花を例えて言う。
意味 (1)ただれる(爛れる)。煮くずれる。うれすぎる。「爛熟ランジュク」(①熟しすぎること。②極限まで発達する)「爛額ランガク」(額が焼けただれること)(2)あざやか。はなやか。かがやく。「絢爛ケンラン」(きらびやかで美しい)「爛漫ランマン」(花が咲きほこるさま)「百花爛漫ヒャッカランマン」「爛爛ランラン」(①きらきらかがやくさま。②眼光がするどく光る)(3)たけなわ。さかりのとき。闌ラン(たけなわ)が受け持つ。
<紫色は常用漢字>
           
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音符「害ガイ」<そこなう>と「割カツ」「轄カツ」「豁カツ」「瞎カツ」「憲ケン」

2024年06月24日 | 漢字の音符
  増訂しました。
 ガイ・そこなう  宀部 hài    

解字 金文の解字は諸説あるが[漢字字形史字典]は、「上部を兜(かぶと)と見なし兜をかぶった人が王を守る「捍害カンガイ」(防御)の意味もある」とする。しかし、篆文以降は[説文解字]がこの字を大きく書き換えて「宀(いえ)+丯カイ(キズをつける)+口(くち)」に分け、全体で「傷(きず)也(なり)」とし、そこなう・傷つける意とした。丯カイは発音も表すとする。旧字体は丯の下が付き出ているが、新字体はつきでない害となった。意味は、そこなう・さまたげる・わざわい等になり、金文の「守る」意味は今では全く使われることがない。
意味 (1)そこなう(害う)。傷つける。「傷害ショウガイ」「迫害ハクガイ」(2)さまたげる。じゃまをする。「妨害ボウガイ」「阻害ソガイ」「要害ヨウガイの地」(攻めるに困難な場所)「害悪ガイアク」(さまたげとなる悪いこと)「害虫ガイチュウ」(3)わざわい。災難。「災害サイガイ」「水害スイガイ」(4)なんぞ(害ぞ)。いずくんぞ。疑問の助字。

イメージ 
 「そこなう」
(害・割・豁・瞎)
 「形声字」(轄)
 「その他」(憲)
音の変化  ガイ:害  カツ:割・豁・瞎・轄  ケン:憲

そこなう
 カツ・わる・わり・われる・さく  刂部 gē 
解字 「刂(刀)+害(そこなう)」の会意形声。そこなう意味を刀をつけて限定した字で、刀で切って、わる(割る)。さく(割く)。分ける意味となる。
意味 (1)わる(割る)。さく(割く)。分ける。「分割ブンカツ」「割譲カツジョウ」(土地などを割いて他に譲る)「割烹カッポウ」(肉を割いて煮る。料理すること)(2)きる。切って取る。「割愛カツアイ」(愛しいが思い切って手放す)(3)わりあい(割合)。比率。
 カツ・ひらける  谷部 huō・huò・huá
解字 「谷(たに)+害の旧字(=割の略体。われる。分かれる)」の会意形声。目の前の谷が割れたように視界が開けること。
意味 (1)ひらける(豁ける)。「豁然カツゼン」(①ひろびろと開ける。②疑いや迷いがきえる)「豁如カツジョ」(心のひろいさま)(2)ひろい。度量が大きい。「豁達カッタツ」(心がひろく物事にこだわらない。=闊達)
 カツ  目部 xiā 
解字 「目(め)+害の旧字(そこなう)」の会意形声。目をそこなうこと。
意味 (1)目が不自由である。盲目。「瞎子カツシ」(目が見えない人)「瞎馬カツバ」(目の見えない馬)(2)かため。片方の目が見えないこと。「瞎虎カツコ」(片目の虎。また、目の見えない虎)(3)でたらめ。「瞎説カツセツ」(でたらめをいう)

形声字
 カツ・くさび  車部 xiá 

車の轂(こしき)の端で車軸にさしこむ轄カツ(左から2番目の文字)

古代の車輪。車軸(轴)の奥でタテに入る棒が轄カツ(中国ネットの検索画面から)
解字 「車(くるま)+害(カツ)」の形声。車軸にあけた穴にいれるクサビを轄カツという。これで車輪が車軸からはずれるのを止める。転じて、世の中が乱れないよう、とりまとめる・とりしまる意となる。
意味 (1)くさび(轄)。「車轄シャカツ」(車輪を軸にとめるもの)(2)(物事の枠がはずれないよう)ある範囲をおさえて支配する。とりまとめる。取り締まる。「総轄ソウカツ」(全体を取り締まる)「管轄カンカツ」(下部の組織を権限によって支配すること。また、支配の及ぶ範囲)「所轄ショカツ」(管轄する所)「所轄ショカツの警察署へ行く」

その他
 ケン・のり 心部 xiàn 

解字 金文は「目(め)+かぶと(兜)の形」で、兜をかぶり目がでている形。金文は「賢明」「善良」の意味で使われている[漢字字形史字典]。春秋戦国時代の[詩経・小雅」六月に「文武なる吉甫キツホは(文武に秀でた吉甫は)、萬邦バンポウの憲(のり)と為さん(多くの国の手本となさん)」とあり、憲は手本の意味で用いられている。つまり兜をかぶり文武にすぐれた吉甫は、多くの国々の手本すなわち模範となったのであり、ここから「のり(憲)。のっとる」の萌芽がでている。下に心がついた憲の字形に発展した後漢の[説文解字]は「心と目に従い害ガイの省聲(声)。発音は許建(ケン)。敏(さと)い也(なり)」とし、金文の文武にすぐれる意を踏襲している。唐宋代の[唐韻・集韻]などの発音字典は「発音は獻ケン。法に懸(かか)りて人に示すを憲と曰(い)う」とし、法との関連を示し、のり(憲)・のっとる・おきて、の意味になり、さらに国家の基本法の意味になった。
意味 (1)のり(憲)。のっとる。おきて。人間の行動にはめる一定の枠。「憲章ケンショウ」(重要なおきて。原則的なおきて)「家憲カケン」(一家のおきて)(2)国家の基本法。「憲法ケンポウ」「憲政ケンセイ」(憲法に従って行われる政治)「改憲カイケン」「護憲ゴケン」(3)刑罰を担当する官職。取り締まる役目。「憲兵ケンペイ」(明治に設置された陸軍所属の軍事警察の兵)「官憲カンケン」(①官のおきて、②取り締まる役目の官吏、特に警官)
<紫色は常用漢字> 

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音符「争ソウ」<ひっぱりあらそう>「諍ソウ」「箏ソウ」「錚ソウ」と「浄ジョウ」

2024年06月22日 | 漢字の音符
 増訂しました。
[爭] ソウ・ショウ・あらそう  丨部はねぼう  zhēng

解字 甲骨文は、つな状のものに上と下から手の一端を付けた形。手で引きあらそう意。金文は上の手が三本そろった指になった。篆文は「下向きの手+横向きの手に 丨(つな)がついた」形。旧字は、「爫(下向きのに手)+ヨの出た形(手)+丨(つな)」になり、新字体は上がクに変化した争になった。手で引きあらそう形からあらそう意となる。部首は、手と手のあいだにあるつなを表わす(はねぼう)。
意味 (1)あらそう(争う)。きそう。「戦争センソウ」「争議ソウギ」(争い論ずる)「争点ソウテン」 (2)いさめる(=諍)。「争友ソウユウ」(忠告や意見をしてくれる友人)

イメージ  
 「あらそう」
(争・諍・崢)
 つなを引きあう形から「ひっぱりあう」(箏)
 「形声字」(浄・錚)
音の変化  ソウ:争・諍・崢・箏・錚  ジョウ:浄

あらそう
 ソウ・ショウ・いさめる・いさかい  言部 zhèng
解字 「言(ことば)+爭(あらそう)」 の会意形声。言葉で争うこと。いさめる、うったえる、言い争う意となる。
意味 (1)いさめる(諍める)。「諍臣ソウシン」(君をいさめる臣下)「諫諍カンソウ」(諫も諍も、いさめる意) (2)うったえる。「諍訟ソウショウ」(うったえる。うったえあらそう) (3)いさかい(諍い)。言い争う。「諍論ソウロン」(言い争い。=争論)
 ソウ・けわしい  山部 zhēng
解字 「山(やま)+爭(あらそう)」の会意形声。高さを爭うように山が、たかく・けわしいさまを崢ソウという。
意味 (1)けわしい。山の高くけわしいさま。「崢山ソウザン」(①高く険しい山。②抜きんでたさま) (2)「崢嶸ソウコウ」とは、①山の高くけわしいさま。②谷などの深いさま。③寒さがきびしいさま。④才能がすぐれるさま。

ひっぱりあう
箏[筝] ソウ・こと  竹部 zhēng
箏(ウィキペディアより)
解字 「竹(たけ)+爭(ひっぱりあう)」の会意形声。竹の上に双方から引っぱり合う弦を張った楽器。筝は新字体に準じた異体字。後漢の[説文解字]は、「弦を鼓(う)つ竹身の楽器なり」としているので、元は竹を共鳴箱とした楽器であったらしい。
箏は最初は竹の楽器か?
[説文解字]の解説を受けて多くの辞書は「昔は五弦で竹で作り、秦の蒙恬モウテンが改めて十二弦とし、木で作り形を変えた。唐以後十三弦を用いる」などと記している。私は箏が竹製であった名残が見つからないかネットで調べたが、中国ではまったく見当たらなかった。そこで、東南アジアに広げて検索すると、マレーシア・サラワク州のクチン族が竹筒琴と呼ばれる楽器を使っていることが分った。この楽器はまさに竹身に張った弦を鼓(う)っている。もう一つ、インドネシア・ロテ島のササンドゥという竹筒の箏といえる楽器が見つかった。中国で箏が竹から始まったのであれば東南アジアから、これと類似した楽器が伝わったのかもしれない。

マレーシア・サラワク州の竹筒琴(19秒。終わったら画面を上にあげると再度見れます)

インドネシア・ロテ島のササンドゥという竹筒箏(3分32秒。しばらく見ていると楽器が映ります)
意味 (1)こと(箏)。箏ソウのこと。一般的な箏は細長い木の共鳴箱に13本の絃が張られ、可動式の柱(じ)を置き音律を整える。指に「箏爪ことづめ」をはめて絃をはじく。「筝曲ソウキョク」(筝で演奏する曲)※なお箏は琴(こと)とも書くが、本来の琴キン(中国)は柱(じ)がつかず、左指で弦を押さえ、右指で弦を弾いて音を出す。
(中国のネットから) qín
(2)「風箏フウソウ」とは、①風で音がでる風鈴、②凧。

形声字
 ジョウ・きよい  氵部 jìng
解字 旧字は淨で「氵(水)+爭(ソウ・ショウ⇒セイ・ジョウ)」の形声。水が清らかなことを淨セイ・ジョウという。また、水にかぎらず、きよらかな状態を言う。のち多く仏教用語として用いる。新字体は浄で、発音はジョウとなる。
意味 (1)きよい(浄い)。きよらか。けがれがない。「浄財ジョウザイ」(寺や慈善事業などに寄付する清いお金) (2)きよめる。「浄化ジョウカ」「洗浄センジョウ」 (3)[仏]迷いから解脱した意で、仏教に関する言葉に用いる。「浄土ジョウド」(煩悩・迷いがない、仏・菩薩が住む国)「浄域ジョウイキ」(①極楽浄土。②社寺の境内)「浄福ジョウフク」(①清らかな幸福、②仏法によって授かる幸福)
 ソウ  金部 zhēng
解字 「金(金属)+爭(ソウ)」の形声。金属(青銅・鉄など)がぶつかって出る音、また金属が触れ合って出る音を錚ソウという。
意味 金属が打ち合って出る音の形容。「錚然ソウゼン」(金属を打って鳴る音の形容。また、箏の音にもいう。)「錚々ソウソウ」(①金属が打ち合う音のひびき。②箏などの澄んだ音の形容。③多くの者のなかで特にすぐれた人物)「錚々たる顔ぶれ」(特に優れている人々)
<紫色は常用漢字>

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音符「史シ」<文書入れを手にもつ>「使シ」「事ジ」「吏リ」「駛シ」

2024年06月20日 | 漢字の音符
 シ・ふみ・ふびと  口部 shǐ    

解字 甲骨文字は「中(文書をいれる器に取っ手をつけた形)+又(て)」で文書入れを手でもつ形。[甲骨文字辞典]は吏・事となる字と同じく「使い」を表しており、甲骨文字の段階で意味は分かれていない、とする。金文で記録官(ふびと・ふひと)の意味になり、のちに記録の意味でも使われ、現在はふみ(史)・文書・記録の意味が中心になっている。
意味 (1)ふびと・ふひと(史)。ふみびと。記録を書きしるす役人。「史官シカン」「侍史ジシ」(貴人のかたわらに侍る書き役)(2)ふみ(史)。文書。社会の移り変わりの記録。「歴史レキシ」「史書シショ」「史跡シセキ」「史料シリョウ」「国史コクシ

イメージ 
 「文書入れをもつ」
(史・吏・使・事)
 「形声字」(駛)
音の変化  シ:史・使・駛  ジ:事  リ:吏

文書入れをもつ
 リ  口部 lì         

解字 文書入れを持つ形の史のなかで、タテ棒の先が枝分かれしている箇所が、篆文で一に変化し、最終的に吏になった。初期の意味は史と同じく「使い」であるが、後漢の[説文解字]は「人を治める者也」とし、使いを含む仕事をする役人の意味になった。
意味 つかさ。役人。「吏員リイン」「官吏カンリ」(役人。官人)「能吏ノウリ」(有能な役人)「獄吏ゴクリ」(監獄の役人)
使 シ・つかい・つかう  イ部 shǐ
解字 「イ(ひと)+吏(使い)」の会意形声。吏は、もともと文書をいれた器を手でもってゆく形で使いの意だが、篆文で役人の意味になったので、イ(ひと)をつけて使いを表した。
意味 (1)つかい(使い)。つかいする。「使者シシャ」「勅使チョクシ」(天皇の使い)(2)つかう(使う)。用いる。「使用シヨウ」「使途シト」(使いみち)「行使コウシ」(3)しむ・させる。使役の助字。
 ジ・ズ・こと  丨部たてぼう  shì          

解字 金文までは吏と同じ形。篆文からタテの棒が下までつきぬけた。そこから、吏は使いをする役人。事は使いが行う祭事の仕事の意味に分かれた。その後、転じて、出来事・ことがらの意ともなる。
意味 (1)こと(事)。しごと。ようじ(用事)。「事業ジギョウ」「家事カジ」(2)つかえる。目上の人に仕える。「師事シジ」(3)できごと。ことがら。「事実ジジツ」「事変ジヘン」「事柄ことがら」 

形声字
 シ・はやい  馬部 shǐ
解字 「馬(うま)+史(シ)」の形声。シは使(つかい)に通じ、使いを乗せた馬が疾走する意。
意味 (1)はせる。馬を速くはしらせる。「駛走シソウ」(はやく走る)「駕駛ガシ」(駕は馬車に乗る意。馬車をあやつりはしらせる。現代中国では、自動車・飛行機などを操縦する意)(2)はやい(駛い)。にわか。「駛雨シウ」(にわか雨)
<紫色は常用漢字>

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音符「殸ケイ」<たたいて音をだす> と「声セイ」「磬ケイ」「謦ケイ」「馨ケイ」

2024年06月18日 | 漢字の音符
 たたいて音をだす
 ケイ・キョウ・セイ  殳部 qìng・kēng・shēng         

解字 甲骨文は、吊るした石板をバチでたたいて鳴らしている形[甲骨文字辞典]。篆文と楷書は「声(つるした石板)+殳(たたく)」の会意。石の板を紐でぶら下げ、バチでたたいて音を出すさまで、石の楽器を表わす。磬ケイ(うちいし)の原字。

三角形の石の板を紐で吊るしたさま。「殸ケイ」の声の部分にあたる。これをバチでたたくと殸になる。(中国ネットの骨董品市場出品物)
意味 (1)楽器の一種。石の楽器。(=磬) (2)石の楽器の音。こえ。(=聲)

イメージ  
 「たたいて音をだす」
(磬・声・謦)
 たたいて出た音が「つたわる」(馨)
音の変化  ケイ:磬・謦・馨  セイ:声

たたいて音をだす
 ケイ  石部 qìng
 
(ネットの検索画面から)

編磬の演奏(中国ネットの検索画面から)
解字 「石(いし)+殸(たたいて音をだす)」の会意形声。殸はもともと石板をたたいて音をだす形。そこに石をつけてもとの意味を強調した字。打って音を出す石の楽器をいう。
意味 (1)打ち石。 (2)「へ」の字形の中国古代の打楽器。「磬声ケイセイ」(磬を打つ音)「編磬ヘンケイ」(磬をいくつも連ねて編成した楽器)「磬鐘ケイショウ」(磬とつりがね)(3)身体を楽器の磬のように折り曲げて礼をする。「磬折ケイセツ
[聲] セイ・ショウ・こえ・こわ  士部 shēng
解字 旧字はで 「耳(みみ)+殸ケイ⇒セイ(たたいて音をだす)」の会意形声。たたいて出る音を耳で聞くさま。転じて、耳をうつ音響や音声をいう。新字体の声は、旧字の上部左にある「声(つるした石板)」の字を取り出して「」に代えたもの。本来は石磬の響きの意だが、のちに人の声(こえ)の意味にも転用された。
意味 (1)こえ(声)。人のこえ。また音・ひびき。「音声オンセイ」「声域セイイキ」「声紋セイモン」(2)こえを出す。言う。述べる。「声明セイメイ」「声援セイエン」「声色こわいろ」(音声の調子や口調)(3)うわさ。評判。「声望セイボウ」(名声と人望)
 ケイ・キョウ・しわぶき  言部 qǐng
解字 「言(ことば)+殸(たたいて音をだす)」の会意形声。たたいて出したような音を言葉で発すること。
意味 しわぶき(謦)。せきばらい。軽いせき。「謦咳ケイガイ」(せきばらい)「謦咳に接する」(慣用句:①尊敬する人が声の調子を整える、せきばらいが聞こえるほど近くでにお目にかかる。②尊敬する人の話を身近に聞く。)

つたわる
 ケイ・かおる・かおり  香部 xīn
解字 「香(かおり)+殸(つたわる)」の会意形声。伝わってくる香り。
意味 (1)かおる()。かおり(り)。かぐわしい。「ケイコウ」(遠くまで漂う香り)(2)良い評判。「ケイブン
<紫色は常用漢字>

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音符「昜ヨウ」<日があがる> と「陽ヨウ」「揚ヨウ」「瘍ヨウ」「場ジョウ」「腸チョウ」「湯トウ」

2024年06月16日 | 漢字の音符
  太陽がのぼってくるさまを描いた字
 ヨウ  日部

解字 甲骨文は太陽とその上昇を示す T 字型からなる形で、日がのぼることを表している[甲骨文字辞典]。金文以降は太陽の光を表わす彡印をそえ「昜」の字形が整った。「日が高くあがる」意味をもつ。昜は単独で用いられることはなく、さまざまな部首と組み合わせて字が作られる。
意味 (1)あがる。日がのぼる。(2)明るい。日なた。あたたかい。

イメージ
 「あがる太陽」(陽・場)
 「あがる」(揚・楊・湯・蕩・盪・瘍)
 「形声字」(腸・暢)
音の変化  ヨウ:陽・揚・楊・瘍  トウ:湯・蕩・盪  ジョウ:場  チョウ:腸・暢

あがる太陽
 ヨウ・ひ  阝部
解字 「阝(おか)+昜(あがる太陽)」の会意形声。あがる太陽の光が丘に当たる形。太陽の光の他、丘の日の当たる側、ひなたの意味を表わす。
意味 (1)ひ(陽)。日の光。「太陽タイヨウ」「陽光ヨウコウ」(2)ひなた。日のあたる。山の南側。「山陽サンヨウ」(①山の南側。⇔山陰。②山陽道の略)(3)あかるい。あたたかい。「陽春ヨウシュン」「陽気ヨウキ」(4)易の用語。主に男性的・積極的な性質をもつものを指す。対語: 陰。「陰陽インヨウ
 ジョウ・ば  土部
解字 「土(つち)+昜(あがる太陽)」の会意形声。あがってくる太陽を祭る儀式が行われる土地。
意味 (1)ば(場)。神を祭るための地。(2)ところ。事が行なわれる場所。「会場カイジョウ」「劇場ゲキジョウ」「戦場センジョウ」(3)とき。おり。「場合ばあい」「急場きゅうば」(4)劇の場面「一幕二場」

あがる
 ヨウ・あげる・あがる  扌部
解字 「扌(て)+昜(あがる)」の会意形声。手で高くあげること。
意味 (1)あげる(揚げる)。あがる(揚がる)。「揚力ヨウリョク」「掲揚ケイヨウ」(2)勢いがある。気分が高まる。「高揚コウヨウ」(3)地名。「揚州ヨウシュウ」(中国江蘇省の都市。長江北岸にあり大運河の出入り口。明・清時代には文化の中心地のひとつ)
 ヨウ・やなぎ  木部
解字 「木(き)+昜(あがる)」の会意形声。枝が上にあがって伸びるヤナギの木。
意味 (1)やなぎ(楊)。枝が垂れないコリヤナギなどをいう。「楊枝ヨウジ」(歯ぐきを掃除する小さな棒。もと楊材を用いたからという)「楊弓ヨウキュウ」(遊戯用の小さい弓。もと楊材を用いたからという)「楊柳ヨウリュウ」(やなぎの総称)(2)人の姓。「楊貴妃ヨウキヒ」(唐の玄宗皇帝に愛された美人)(3)「黄楊つげ=柘」とは、ツゲ科の常緑小高木。暖地の山地に自生し,また庭木とされる。材は黄色で堅く,櫛や印材として使われる。「黄楊の櫛くし」 ※「楊」は枝が上にあがるヤナギ、「柳」は枝が下に垂れるヤナギ。
 トウ・ゆ  氵部
解字 「氵(水)+昜(あがる)」の会意形声。勢いよく湯気をあげて沸きたった湯。
意味 (1)ゆ(湯)。水を沸かしたもの。また、風呂。「湯気ゆげ」「湯沐トウモク」(湯に浴し髪を洗う)「湯治トウジ」(温泉に浴して治療する)「熱湯ネットウ」「湯池トウチ」(熱湯の沸き立った池。「金城キンジョウ湯池トウチ(守りのかたい城)(2)人名。「湯王トウオウ」(殷の初代の王)
 トウ  艸部
解字 「艸(くさ)+湯(=湯気。自由にゆれうごく)」の会意形声。草が自由に揺れ動くさまを、人や状態にたとえて言う。
意味 (1)ただよう。ゆれうごく。「蕩揺トウヨウ」(ゆれ動く、また、ゆり動かす)「震蕩シントウ」(ふるえうごく)(2)のびやか。「春風駘蕩シュンプウタイトウ」(春風がのどかに吹くさま)(3)ほしいままにする。「放蕩息子ホウトウむすこ」(酒食にふけりほしいままに振る舞う息子。=蕩子トウシ)(4)[国]とろける(蕩ける)。個体がとけて液体となる。怒りなどがとけ心がやわらぐ。うっとりする。「蕩心トウシン」(心をまどわしとろかす)
 トウ・あらう・うごく  皿部
解字 「皿(うつわ)+湯(ゆ)」の会意形声。うつわを湯であらうこと。あらう意、また、あらうとき皿(うつわ)をうごかす意となる。
意味 (1)あらう(盪う)。あらいながす。「盪尽トウジン」(あらいながして、すっかりなくなる)「盪滌トウデキ」(あらいすすぐ。盪も滌も、あらう意)(2)うごかす(盪かす)・うごく(盪く)。ゆりうごかす。「盪舟トウシュウ」(①ふねをうごかす。②舟をゆさぶる)「震盪シントウ」(ふるえうごく)「脳震盪ノウシントウ」(頭部打撲などで生じる突発性の脳障害。失神・めまい・頭痛などが起こる)
 ヨウ  疒部
解字 「疒(やまい)+昜(もちあがる)」の会意形声。皮膚がもちあがるできもの。
意味 できもの。悪性のはれもの。「腫瘍シュヨウ」(腫も瘍も、できものの意。良性と悪性がある)「潰瘍カイヨウ」(ただれくずれること)「胃潰瘍イカイヨウ」(胃壁の潰瘍)

形声字
 チョウ・はらわた・わた  月部にく
解字 「月(からだ)+昜(チョウ)」の形声。チョウは長チョウ(長い)に通じ、細長く伸びた「はらわた」(消化器官)のこと。腸と長とは推定上古音でも同音。
意味 はらわた(腸)。わた(腸)。消化器官のひとつ。「小腸ショウチョウ」(胃に続く細長い消化器官)「大腸ダイチョウ」(小腸に続く肛門までの消化器官)「胃腸イチョウ
 チョウ・のびる  日部
解字 「申(イナズマが上から下へのびる)+昜(チョウ)」の形声。チョウは長チョウ(長い)に通じ、長くのびる意。
意味 (1)のびる。のびやか。「暢達チョウタツ」(のびのびとしていること)(2)よどみなく通る。「流暢リュウチョウ」(言葉使いによどみながい)
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音符「晶ショウ」と「星セイ」<星は もと晶だった>「醒セイ」「腥セイ」「惺セイ」「猩ショウ」

2024年06月14日 | 漢字の音符
星は、もと晶だった。
    ショウ  <星三つ>
 ショウ・セイ・あきらか  日部 jīng

解字 日三つは星が多数あることを表わし、澄みきった空に多数の星がきらきら光るさまを描いた象形。ひかり・あきらかの意を表わす。
意味 (1)あきらか(晶か)。明るくきらきら輝く。「晶光ショウコウ」(きらめく光) (2)(光が当たると)きらきら光る物質。純粋な鉱物。「水晶スイショウ」(無色透明の石英。水玉)「結晶ケッショウ」(原子が規則正しく作られている個体)「液晶エキショウ」(分子が結晶のように規則的に配列した液体)


     セイ  <きらめく星のひかり>
 セイ・ショウ・ほし  日部 xīng

金文・篆文は、「晶(きらめく星のひかり)+生ショウ・セイ」の形声。晶はたくさんの星が光るさま、それに発音を表わす生セイ・ショウを加えた。現代字は、「日(ほし)+生」に簡略化された。
意味 (1)ほし(星)。「星雲セイウン」「星座セイザ」「明星ミョウジョウ」(2)星のように小さい。点。「星星セイセイ」(点々)(3)としつき。「星霜セイソウ」(4)めあて。めぼし。「図星ずぼし」(5)勝ち負け。「黒星くろぼし

イメージ   
 「ほし」
(星・腥)
 星が光る空はさえぎる雲がなく「すっきりする」(醒・惺・猩)
音の変化  セイ・ショウ:星・腥・醒・惺  ショウ:猩

ほ し
 セイ・ショウ・なまぐさい  月にく部 xīng
解字 「月(にく)+星(ほし)」の会意形声。[説文解字]に「星の見あらわるる食豕ショクシ(食用豚肉)なり。肉中をして小息肉(脂肉)を生ぜしむるなり」とあり、脂肪の多い生肉をいい、臭気の強いものである[字通]」とあり、星のように点々と脂肪が出ている豚肉のこと。生肉なのでなまぐさい意となる。一見したところ月(つき)と星を合わせたロマンチックな字に見えるが、何と霜ふり肉ならぬ星ふり肉のことであった。
意味 (1)なまにく。また、生肉のにおい。なまぐさい(腥い)。「腥臭セイシュウ」(腥い臭い)「腥風セイフウ」(なまぐさい風。殺伐とした気配)(2)けがらわしい。みにくい。「腥聞セイブン」(けがらわしい評判)

すっきりする        
 セイ・ショウ・さめる  酉部 xǐng
解字 「酉(さけ)+星(すっきりする)」の会意形声。酒の酔いがやんですっきりすること。後漢の[説文解字]に「醉スイ解(とける)也(なり)」とある。
意味 (1)さめる(醒める)。酔いや眠りから覚めて頭がすっきりする。「醒酒セイシュ」(酒の酔いからさめる)「夢醒ムセイ」(夢からさめる)「醒然セイゼン」(さめたさま)(2)迷いからさめる。「覚醒カクセイ」(目がさめる。迷いからさめる)「覚醒剤カクセイザイ」(中枢神経を興奮させ一時的に眠気や疲労感を抑える薬)
 セイ・ショウ・さとる  忄部 xīng
解字 「忄(こころ)+星(すっきりする)」の会意形声。心ですっきりとわかること。さとる意となる。また心が落ち着いてしずかなこと。
意味 (1)さとる(惺る)。すっきりとわかる。さとい。「惺悟セイゴ」(さとる。惺も悟も、さとる意)(2)しずか。心が落ち着いてしずか。「惺惺セイセイ」(心が落ち着いてしずか)「惺然セイゼン」(落ち着いてしずかなさま)(3)人名。「藤原惺窩ふじわらせいか」(戦国~江戸初期の儒学者。朱子学を究め、林羅山ら門人を輩出した)
 ショウ・セイ  犭部 xīng
解字 「犭(けもの)+星(すっきりする)」の会意形声。頭のすっきりした(賢い)動物。
意味 (1)猿に似た想像上の動物。「猩猩ショウジョウ」(猿に似ていて毛は朱紅色で人の言葉を理解する想像上の怪獣)「猩紅ショウコウ」(猩猩の毛のような紅色)「猩紅熱ショウコウネツ」(全身に鮮紅色の発疹が出る病気)(2)オランウータン。※漢字しかない中国では、この字を使って3種類の類人類を次のように表現している。猩猩xīngxīng(オランウータン)・大猩猩dàxīngxīng(ゴリラ)・黒猩猩hēixīngxīng(チンパンジー)。
<紫色は常用漢字>

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音符「廷テイ」<祭祀のおこなわれるにわ>と「庭テイ」「艇テイ」「挺テイ」「梃テイ」「霆テイ」「鋌テイ」「蜓テイ」

2024年06月12日 | 漢字の音符
  改訂しました。
 テイ  廴部 tíng          


上は廷テイ、下は𡈼テイ
解字 廷テイの篆文は「廴イン(えんにょう)+𡈼テイ(土盛り上の人)」の形。𡈼テイは甲骨文字からある字で、人が土盛りに乗ったさまを表している。字形は人(イ)と土のタテ画が重なって𡈼テイの字になった。意味は、まっすぐ立つ。つきでる。ぬきんでる意などとなる。後漢の[説文解字]は廷テイを「朝中也(朝廷の中なり)。廴インに従い𡈼テイの聲(声)」とし𡈼テイという名の朝廷の意、廴インはここでは区切られた場所の意。廷は宮中祭祀のおこなわれる場所であり、もとは屋根がない区切られた場所であった。さらに政務や裁判などをおこなう役所の意味にもなった。なお、現在の廷テイは𡈼テイでなく壬ジン(みずのえ)に誤った変化をしている。
意味 (1)にわ(廷)。仕切られた場所。「朝廷チョウテイ」(君主が政治をとりおこなう所)「廷議テイギ」(朝廷で協議する。=朝議)「廷臣テイシン」(朝廷に仕える臣下)「廷試テイシ」(朝廷で行う試験。科挙)(2)裁判を行なう所。「法廷ホウテイ」「廷史テイシ」「廷尉テイイ」(裁判を司る官)

イメージ 
 政務などを行なう「にわ」(廷・庭)
 壬テイの意味である「ぬきんでる」(挺)
 壬テイの意味である「まっすぐ」(艇・梃・霆・鋌)
 「形声字」(蜓)
音の変化  テイ:廷・庭・挺・艇・梃・霆・鋌・蜓

にわ
 テイ・にわ  广部 tíng
解字 「广(やね)+廷(にわ)」 の会意形声。屋根がついたにわ。政務や裁判を行なう屋根つきの建物がもとの意味。日本では屋根のない庭園へと意味が変化した。ちなみに、中国では原義を保っており、日本の「法廷」を「法庭」と書く。
意味 (1)役所。「法庭ホウテイ」(=法廷)「掖庭エキテイ」(宮殿わきの殿舎。皇妃・宮女のいる後宮。掖エキは、わきの意)(2)家のホール。広間。家族がともに生活する場所。「家庭カテイ」「庭訓テイキン」(家庭での教育)(3)にわ(庭)。門を含む囲いから建物までの空地。物事を行なうひろびろとした所。「校庭コウテイ」(学校の建物と囲いの間の広い「にわ」)「庭燎テイリョウ」(庭のかがり火)(4)[国]にわ(庭)。草木を植え築山や池を配した所。「庭園テイエン」「庭師にわシ」(庭を造り手入れする職人)

ぬきんでる
 テイ・ぬきんでる  扌部 tǐng
解字 「扌(手)+廷(=𡈼テイ。ぬきんでる)」 の会意形声。手の動作で人よりぬきんでること。
意味 (1)ぬく(挺く)。ぬきんでる(挺んでる)。人より先にでる。「挺進テイシン」(先にたって進む。抜きんでて進む)「挺身テイシン」(身を投げ出して事を行なう)「挺然テイゼン」(ぬきんでているさま)「挺身隊テイシンタイ」(危険な任務を遂行するため身を投げうつ覚悟で組織された部隊)

まっすぐ
 テイ  舟部 tǐng
解字 「舟(ふね)+廷(=𡈼テイ。まっすぐ)」 の会意形声。先がとがってまっすぐ伸びた小型の舟。
意味 こぶね。はしけ(本船と陸とを結ぶ小舟)。ボート。「競艇キョウテイ」「漕艇ソウテイ」(ボートをこぐ)「艇身テイシン」(ボートの全長)「艦艇カンテイ」(大小各種の軍艦)
 テイ・てこ  木部 tǐng・tìng
解字 「木(木の棒)+廷(=𡈼テイ。まっすぐ)」 の会意形声。まっすぐな木の棒。杖や棒の意であるが、日本では、棒を物の下につきさして重いものを動かす「てこ」の意に使う。
意味 (1)つえ。ぼう。こん棒。「梃杖テイジョウ」(つえ)「木梃モクテイ」(木の棒)「梃撃テイゲキ」(棒でうつ)(2)[国]てこ(梃)。梃子とも書く。重いものを手でこじ上げるのに用いる棒。「梃入(てこい)れ」「梃子(てこ)ずる」(もてあます)
 テイ・ジョウ・いかずち  雨部 tíng
解字 「雨(あめ)+廷(まっすぐ)」の会意形声。雨の中をまっすぐ伸びるカミナリ。
意味 (1)いかずち(霆)。かみなり。いなづま。「霆雷テイライ」(はげしい雷)「霆撃テイゲキ」(いなづまのような素早い攻撃)(2)(かみなりの音が)とどろく。「霆駭テイガイ」(遠くまでとどろく)「霆震テイシン」(とどろく雷鳴)
 テイ  金部 tǐng・dìng
解字 「金(金属)+廷(まっすぐ)」の会意形声。金属を溶かしてまっすぐな板状にしたもの。
意味 (1)のべがね。銅や鉄を溶かして長い板状にしたもの。「鉄鋌テッテイ」(短冊形の板に規格化された鉄素材。日本の古墳から出土し、朝鮮半島から導入された鉄素材。古代日本の鉄の製錬と鉄器の生産に大きな変革を起こした)(2)あらがね。(3)鏃やじりで矢の竹柄にさしこむ部分。「箭鋌センテイ」(箭は矢、鋌は鏃やじりのさしこみ部)

形声字
 テイ  虫部 tíng
解字 「虫(むし)+廷(テイ)」の形声。テイという名の虫。
意味 「蜻蜓セイテイ」に使われる字。「蜻蜓セイテイ」とは、トンボ目の昆虫。ヤンマの別名。飛行範囲が広い。「蜻蛉セイレイ」は飛行範囲がせまい。
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