漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

阿武咲(おうのしょう)と武井咲(たけい えみ)

2017年09月24日 | 漢字の音符
 阿武咲(おうのしょう)関と武井咲(たけい えみ)さん。今マスコミで話題を集めている「注目の人」だ。実は、私はこの二人をよく知らなかった。阿武咲は横綱3名が初日から休場するという今年(2017年)の大相撲9月場所で活躍して注目を集め、私も知るようになった。一方の武井咲(たけい えみ)さんは、売れっ子のモデル・女優だそうだが、9月1日にEXILEのTAKAHIROと結婚したことを、2人の連名によるFAXで発表し、マスコミの話題となり私が知るところとなった。
 阿武咲関   武井咲さん
 私がなぜこの二人に注目したかというと、名前の最後に二人とも「咲」の字がつき、読み方が、かたや「咲ショウ」、こなた「咲えみ」となっているからだ。「咲」は、ふつう咲(さ)くと読み、この字が音で「ショウ」、名前の読みで「えみ」となることを、ほとんどの人は知らない。なぜ、「ショウ」と「えみ」なのか? それは笑の字が、音で笑ショウ、訓で笑う・笑む・笑みとなることと深い関係がある。実は、咲は笑と深い関係のある字なのである。深い関係どころか一心同体の字といっても過言でない。

笑と咲は一心同体の字
 ここで笑と咲の関係を説明してみよう。まず笑である。「竹+夭ヨウ」でなぜ「わらう」となるのか?
 ショウ・わらう・えむ  竹部

 篆文テンブン第一字は、伝承古文字を収録した[六書通]に収録されている字で、「▽+夭」の形をしているが、おそらく「口+夭(身をくねらせる)」で、身をくねらせる若い女が口から声をだして笑うさまと考えられる。篆文第二字は、「竹+夭(身をくねらせる)」で、竹で表現された髪飾りをつけた若い女が身をくねらせて笑うさまで、第一字の口が省略されたかたちと考えられる。「わらう」意は、頭を右に傾けた形の「夭ヨウ」という字が、若い女が身をくねらす形を表しており、この字のなかに、わらう要素が含まれているのであろう。
意味 (1)わらう(笑う)。えむ(笑む)。えみ(笑み)。「笑顔えがお」「笑止ショウシ」(笑わずにいられない)「笑覧ショウラン」(笑いながらみる)

 次に咲を解字してみよう。「口+关」でなぜ「さく」となるのか?
 ショウ・さく 口部
  
 篆文テンブンは、「竹+夭」で笑と同じで、わらう意。隷書レイショに属する後漢の石碑の文字から、「口+关」 の咲ショウが出現した。关は笑(わらう)の竹かんむり⇒ソに、夭⇒天に変化した俗字(略字)とされ、咲は口をあけて笑う意。この字は、笑の篆文第一字の「口夭」との関連もふかい。すなわち、笑と咲は異体字の関係にある。
 なお、日本では笑ったとき口もとのほころびるさまを花の開くさまに例え、花が咲く意味で江戸時代から使い始め、享保2年(1717)の『書言字考節用集』に咲く意での用例がある。
意味 (1)わらう。笑う。えむ。 (2)[国]さく(咲く)。花がさく。「遅咲(おそざ)き」 (3)名乗り(名前に使用)として「えみ・さ・さき・さく」がある。

 以上、笑ショウと咲ショウの字を解字したが、咲は笑から派生して出来た字で、ともに「わらう」意であり、両者はショウの発音を共有している。ところが日本では江戸時代になり、咲に(花が)咲く意味が発生して今日ではこの用法が一般化し、咲は「花が咲く」意となり、わらう意どころか、発音のショウも忘れられた存在になっている。

話題の二人の「咲」は
 さて、話題の二人に移ろう。阿武咲(おうのしょう)関の四股名の由来は、阿武松部屋(おうのまつべや)に所属することから阿武(おうの)をつけ、「土俵上で花が咲くように」との願いから地元の恩師が咲をつけ阿武咲と名付けたという(ウィキペディア)。そうだとすると、咲は「花が咲く」意で、発音のショウを付けていることになる。

 一方、武井咲(たけい えみ)さんは、名前の「咲(えみ)」は本名で、両親の「花が咲くように元気で笑顔が絶えない女の子」になって欲しいとの願いからつけられたという(ウィキペディア)。「花が咲くような笑顔の女の子」は、まさに咲の意味が「わらう」から「さく」に変化した理由であり、両親の願いは咲くの意味を含んだ「わらう=えむ」になっている。

 阿武咲(おうのしょう)関と武井咲(たけい えみ)さんの話題は、咲という字が、ショウと発音し、「えみ」とも読めることを多くの人に知らしめた。また私にとって、咲と笑の二字の関係を改めて思い起こさせてくれたのである。
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音符「厷コウ」「ムコウ」「勾コウ」「肱コウ」「弘コウ」「泓オウ」「鈎コウ」「宏コウ」「紘コウ」「強キョウ」「私シ」「雄ユウ」

2017年09月15日 | 漢字の音符
厷・ム コウ gōng・hóng

解字 甲骨文は右の手からのびる前腕の下方に〇印をつけ、そこが「ひじ」であることを示している。金文も同じ。篆文第一字は、手の延長した線の横にム形の印を付けた形。下の第二字はムで「ひじ」の略体で、まげる意となる。
意味 ひじ(厷・ム)。まげる。

イメージ 
 「ひじ」
(厷・肱)
 「音符・厷コウ」(宏・紘) 
 「音符・ムコウ」(勾・鈎)
 「形声字」(弘・泓・強) 
 「その他」(雄・私)

音の変化  
  コウ:厷・肱・弘・勾・鈎・宏・紘  オウ:泓  
  キョウ:強  シ:私  ユウ:雄 

ひじ
 コウ・ひじ  月部にく gōng
解字 「月(からだ)+厷(ひじ)」の会意形声。厷は、もともと「ひじ」の意。これに月(からだ)を付けて、ひじの意を明確にした。
意味 (1)ひじ(肱)。肘とも書く。上腕と前腕をつなぐ関節。また、その折れ曲がる外側の部分。「股肱ココウ」(またとひじ。手足となって働く家臣) (2)ひじの形に曲がっているもの。

音符・コウ
 コウ・まがる  勹部 gōu・gòu  
解字 「勹(身体をまげる形)+ム(コウ)」の形声。「勹(人が身体をまげる形)+ム(コウ)」の形声で、まがることを勾コウという。また、同音である拘コウ(とらえる)に通じ、とらえる意も表す。日本では、降コウ(おりる)に通じ、傾斜の度合いを表す。
意味 (1)まがる。まげる。「勾玉まがたま」 (2)とらえる。(=拘)「勾引コウイン=拘引」(とらえてひきつれる)「勾留コウリュウ」(とらえてとどめおく=拘留。法律用語では、勾留は調べるため、とらえてとどめること。拘留は、とらえてとどめおく刑罰) (3)[国]傾斜の度合い。「勾配コウバイ
 コウ・かぎ  金部 gōu
解字 「金(金属)+勾(まがる)」の会意形声。まがった形の金属。
意味 かぎ(鈎)。鉤コウの異体字で鉤と同字。 
 
形声字
 コウ・グ・ひろい・ひろめる  弓部 hóng

解字 「弓(ゆみ)+ム(ひじをまげる)」の形声。ひじを曲げて弓をひく意。しかし、本来の意味でなく広コウ・宏コウ(ひろい)に通じて、ひろい・おおきい意で使われる。グの発音は仏教用語。
意味 (1)ひろい(弘い)。「弘遠コウエン」(ひろくて遠い)「弘願グガン」(広大な誓願。阿弥陀仏の本願のこと)(2)ひろめる(弘める)。「弘法グホウ」(仏法を世に広める)(3)「弘法コウボウ」とは、弘法大師の略。
 オウ・ふかい  氵部 hóng
解字 「氵(みず)+弘(コウ⇒オウ)」の形声。水がふかいさまを泓オウという。また清らかなさまにもいう。
意味 (1)水が深いさま。ふち。「泓泓オウオウ」(水のふかいさま、また清いさま)「泓涵オウカン」(①水を深くたたえる。②学問をふかくたくわえる)(2)きよい。水が澄んできよい。「泓澄オウチョウ」(水が澄んで清い)(3)川の名。「泓水オウスイ」(河南省商丘市を流れていた川)
 キョウ・ゴウ・つよい・つよまる・つよめる・しいる  弓部 qiáng・qiǎng・jiàng
解字 「虫(むし)+弘(コウ⇒キョウ)」の形声。キョウという名の虫の意で昆虫の名であったが、弘は弓を引く形でもあることから、強キョウは同似音のキョウ(つよい)に通じ、強(つよ)い意味となった。
意味 (1)つよい(強い)。力がある。「強健キョウケン」「頑強ガンキョウ」(2)つよめる(強める)。つよまる(強まる)。「強化キョウカ」「強制キョウセイ」(3)しいる(強いる)。「強引ゴウイン」(4)[国]かたい。こわばる。「強張(こわば)る」
 キョウ  衣部 qiǎng
解字 「衣(ぬの)+強(つよい)」の会意形声。赤ちゃんを(落ちないよう)強く締め付ける背負い帯、および背負う意に用いる。
意味 (1)せおいおび。幼児を背負う帯。(2)おう。負う。おんぶする。「襁負キョウフ」(背負い帯で幼児を背負う)「襁抱キョウホウ」(①幼児を背負うことと、抱くこと。②幼児のころ)「襁褓キョウホウ」(①背負い帯と、うぶぎ。②幼児のころ。③[国]子供の大小便を取るためお尻のあたりに巻き付ける布。おしめ。むつき)

形声字
 コウ・ひろい  宀部 hóng
解字 「宀(たてもの)+厷(コウ)」の形声。コウは広コウ(ひろい)に通じ、家屋が広く奥深い意。転じて、ひろい意に用いる。
意味 ひろい(宏い)。大きい。すぐれる。「宏大コウダイ」(ひろく大きい)「宏図コウト」(大きなはかりごと)「宏遠コウエン」(ひろく遠い)
 コウ  糸部 hóng
解字 「糸(ひも)+厷(=宏。ひろい)」の会意形声。ひろい場所に掛け渡す、ひもや、つなの意。また、広く大きい・そのはての意ともなる。
意味 (1)ひも。 (2)つな。おおづな。「紘綱コウコウ」(おおづな)「紘綱ひろつな」(人名)(3)広く大きい。「紘覆コウフ」(ひろく覆う)(4)はて。きわみ。「八紘ハッコウ」(八つのはて、即ち四方と四隅。地の果て。転じて天下)「八紘一宇ハッコウイチウ」(世界を一つの家とすること)

その他
 ユウ・お・おす  隹部 xióng

解字 篆文第1字は秦系簡牘カントク文字(春秋戦国時代)で、「隹(とり)+右ユウ(みぎ)」 の会意形声。右は中国の戦国時代に、左を卑しみ右を上位とする考えがあったことから、上位の隹(とり)すなわちオスの隹(とり)の意。第2字は[説文解字]の篆文で、第1字の右⇒厷に変化した雄になった。厷コウにはユウの発音はなく、強いて言えば厷のナ(右手=又ユウ)の発音がユウである。オスのとりから転じて、いさましい・強い・すぐれる意となる。
意味 (1)おす(雄)。お(雄)。「雄鶏おんどり」「雌雄シユウ」(めすと、おす) (2)おおしい。いさましい。ひいでる。すぐれた人物。「雄姿ユウシ」「英雄エイユウ
 シ・わたくし・わたし  禾部 sī
「禾(こくもつ)+ム」 だが、ムをスキ(耜)とする見解と、ムコウ(ひじ)で囲い込むとする見解がある。どちらが正しいか判断できないので、覚えやすいほうを、覚え方として掲げる。
覚え方 「禾(稲)+ム(ひじをまげる)」 の会意。稔った稲を自分のひじをまげて囲いとり自分のもの(私物)とすること。
意味 (1)わたくし(私)。わたし(私)。自分。自分のもの。自分ひとりの利益や考え。「私益シエキ」「私有シユウ」「私人シジン」 (2)ひそか。こっそり。「私語シゴ」「私通シツウ」(男女がひろかに情を通じる。密通ミッツウ。)
<紫色は常用漢字>

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親音符から子音符・孫文字への成長 山本康喬

2017年09月11日 | 漢字音符研究会
第5回漢字音符研究会 2017年9月9日(土)

テーマ  親音符から子音符・孫文字への成長  
         ~音符家族の成長過程を見る~

講 師   山本康喬  『漢字音符字典』著者・漢字教育士

1.1 親音符から子音符・孫音符へ
   
 上の図版は私の『漢字音符字典』の音符「工コウ」のページです。工の字形で「コウ」の発音をもつ文字が18字集まっています。音符である工を除く17字は、音符「工」を親音符とすると、親から生まれた形声文字で子どもに当たる世代の字です。ただし、槓コウ・熕コウ・鴻コウは、孫にあたる世代の字で、子供にあたる世代の字の貢コウ・江コウから生まれています。貢コウ、江コウは音符だからです。繰り返しになりますが、その中でも江コウと貢コウは、更に音符となり、形声文字を作っています。
コウ・ク・みつぐ ⇒ 槓コウ・てこ[木+貢] ・ 熕コウ・大砲[火+貢] 
コウ・え ⇒ 鴻コウ・おおとり[鳥+江] 

 この例から分かるように、一つの基本的な音符は、親から子・孫へと広がって次々と漢字を増やしてゆく様子が見てとれます。
 同じような例は多く見ることができます。以下に、いくつか挙げてみます。ここでは該当する音符のみを紹介します。
左から、親音符 ⇒ 子音符 ⇒ 孫の字の順です。子音符・孫の形声文字の分解は「部首+音符」の順です。
「寺ジ・てら」 ⇒ 時ジ・とき[日+寺] ⇒ 蒔シ・ジ・まく[艹+時] ・ 塒シ・ジ・ねぐら[土+時]
 親音符「寺ジ」は形声文字の子音符「時ジ」となり、さらに形声孫文字・蒔シ・ジ、塒シ・ジをつくる。 
「召ショウ・めす」 ⇒ 昭ショウ・あきらか[日+召] ⇒ 照ショウ・てる[灬+昭]
「尚ショウ・たっとぶ」 ⇒ 賞ショウ[貝+尚] ⇒ 償ショウ・つぐなう[イ+賞] 
「亲シン」 ⇒ 新シン・あたらしい[斤+亲] ⇒ 薪シン・たきぎ[艹+新] ・ 噺はなし[口+新]<国字>
 親音符「亲シン」は形声文字の子音符「新シン」となり、さらに形声孫文字・薪シン、および国字の噺はなし、をつくる。 
      ⇘ 親シン・したしい[見+亲] ⇒ 襯シン・はだぎ[衣+親]
 親音符「亲シン」は形声文字の子音符「親シン」となり、さらに形声孫文字・襯シン、をつくる。 
「疋ソ・ショ」 ⇒ 楚[林+疋] ⇒ 礎ソ・いしずえ[石+楚]
「長チョウ・ながい」 ⇒ 張チョウ・はる[弓+長] ⇒ 漲チョウ・みなぎる[氵+張]
「屯トン」 ⇒ 頓トン・ぬかずく[頁+屯] ⇒ 噸トン[口+頓]<国字>
「白ハク・しろ」 ⇒ 泊ハク・とまる[氵+白] ⇒ 箔ハク・はく[竹+泊]
「米ベイ・マイ・こめ」 ⇒ 迷メイ・ベイ・まよう[辶+米] ⇒ 謎メイ・ベイ・なぞ[言+迷]
「方ホウ・かた」 ⇒ 放ホウ・はなつ[攵+方] ⇒ 倣ホウ・ならう[イ+放]
「矛ム・ほこ」 ⇒ 務ム・つとめる[攵+力+矛] ⇒ 霧ム・きり[雨+務] 
 
 以上は、親音符から孫の形声字まで、同じ発音を継承している例ですが、次に発音が変化している例を挙げます。これらは発音が変化しているのではなく、親音符から生まれた会意文字が、或は親字から生まれた会意文字が、別の音の音符に転換し、その音符が新たな形声文字を作り出したのです。

1.2 子音符の発音が変化している例

 上の図は、『漢字音符字典』の音符「至シ」を含むページです。親音符「至シ」は合計15の子音符を持っています。しかし、この音符の発音は変化が大きく、シのほかにシツ・チ・チツ・テツ・トウの発音があります。この表を詳細に見ると、以下の三つの子音符に対し、それぞれの孫文字が見られます。
「至シ・いたる」 ⇒ 致チ・いたす[攵+至] ⇒ 緻チ・こまかい[糸+致]
 親音符「至シ」は、形声文字の子音符「致チ」をつくり(チ音の子音符)、さらにチ音の形声孫文字「緻チ」をつくる。 
         ⇘ 窒チツ・ふさぐ[穴+至] ⇒ 膣チツ・女性器官[月+窒]
  親音符「至シ」は、形声文字の子音符「窒チツ」をつくり(チツ音の子音符)、さらにチツ音の形声孫文字「膣チツ」をつくる。 
         ⇘ 到トウ・いたる[刂+至] ⇒ 倒トウ・たおれる[イ+到] 
 
  親音符「至シ」は、会意文字の子音符「到トウ」をつくり(トウ音の子音符)、さらにトウ音の形声孫文字「倒トウ」をつくる。 
 これらの子音符は、それぞれ親音符の発音から変化しています。しかし、孫の文字は子音符の発音を受け継いでいますので、孫文字にとって親音符の発音と異なる子音符の発音が音符になっています。

 同じような例を以下に、いくつか挙げてみます。ここでは該当する音符のみを紹介します。子音符・孫文字の分解は「部首+音符」の順です。
「乍サ・ながら」 ⇒ 窄サク・せまい[穴+乍] ⇒ 搾サク・しぼる[扌+窄]
 親音符「乍サ」は、形声文字の子音符「窄サク」をつくり(サク音の子音符)、さらにサク音の形声孫文字「搾サク」をつくる。 
「祭サイ・まつり」 ⇒ 察サツ・みる[宀+祭] ⇒ 擦サツ・こする[扌+察]
 親音符「祭サイ」は、会意文字の子音符「察サツ」をつくり(サツ音の子音符)、さらにサツ音の形声孫文字「擦サツ」をつくる。 
「鳥チョウ・とり」 ⇒ 島[嶋]トウ・しま[山+鳥] ⇒ 搗トウ・つく[扌+島]
 親音符「鳥チョウ」は、会意文字の子音符「島トウ」をつくり(トウ音の子音符)、さらにトウ音の形声孫文字「搗トウ」をつくる。 
「取シュ・とる」 ⇒ 最サイ・もっとも[日+取] ⇒ 撮サツ・とる[扌+最]
 親音符「取シュ」は、会意文字の子音符「最サイ」をつくり(サイ音の子音符)、さらにサツ音の形声孫文字「撮サツ」をつくる。 
「皮ヒ・かわ」 ⇒ 波ハ・なみ[氵+皮] ⇒ 婆バ・ばば[女+波]・菠バ・ホウ[艹+波]
 親音符「皮ヒ」は、形声文字の子音符「波ハ」をつくり(ハ音の子音符)、さらにバ音の形声孫文字「婆バ・菠バ・ホウ」をつくる。 
「令レイ」 ⇒ 領リョウ・えり[頁+令] ⇒ 嶺レイ・リョウ・みね[山+領]  

 親音符「令レイ」は、形声文字の子音符「領リョウ」をつくり(リョウ音の子音符)、さらにレイ・リョウ音の形声孫文字「嶺レイ・リョウ」をつくる。 

 以上の1.1と、1.2の例から、基本字となる音符字に意符(部首)が付加されて形声文字(或いは会意文字)が作られますが、更にその形声文字(或いは会意文字)が音符となり、第三世代の形声文字が生まれることがあり、しかも、この現象はしばしば発生することが分かります。こうした音符群の集合を音符家族といいます。すなわち、基本字が親音符になり、続いて子音符、さらに孫の字へと、成長する軌跡が字形の上に残されます。

2.音符の始まりは
 音符の定義は、「形声文字において音を表す文字要素(部分)である」 これが唯一の音符の定義です。従って形声文字のあるところに音符あり、です。意符と音符を組み合わせて形声文字が生まれるとき、その字の音を表す部分はその前に音符になっていた音符か、今回新たに音符となる文字要素のどちらかです。
 今回新たに音符となる文字要素とは、今使われている漢字のどれか(象形・指事・会意・形声・仮借)です。同じ音の字なら既存の音符でも良いのですが、新たな音を表すには象形、会意文字を新たに音符として用いるかです。このようにして、時代が進むにつれ漢字が増加し、形声文字が増加する。これまで象形文字や会意文字であった字が音符に変身するのです。  

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