漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

音符「昌ショウ」 <さかんに声をだす> と 「唱ショウ」

2020年11月25日 | 漢字の音符
 ショウ・さかん  日部 

 春秋戦国の金文は「日(ひ)+口中に一を入れた形(声を出す)」の会意。太陽が昇る日の出を拝んで口から声を出すかたちで、唱ショウ(となえる)の原字。しかし、この字は仮借カシャ(当て字)され、金文から繁昌(さかん)の意味で用いられている。おそらく、大勢が日の出を拝んで声をそろえることから、勢いが盛んの意で用いられたのであろう。字形は篆文で「口中の一」⇒曰(いう・いわく)になり、現代字は日が二つ重なった昌になった。意味は金文を引き継ぎ、さかん・さかえる意。※昌の字は活字で日を重ねるが、書道では曰を重ねることが多い。
意味 (1)さかん(昌ん)。勢いが盛ん。さかえる。「昌運ショウウン」(国がさかえる運命。盛んな時世)「昌平ショウヘイ」(国が盛んで世が太平)「昌盛ショウセイ」(さかんなこと。昌も盛も、さかんの意)「繁昌ハンジョウ」(にぎわいさかえる) (2)よい。美しい。「昌言ショウゲン」(道理にかなったよい言葉)

イメージ 
 「さかん・勢いがよい」(昌・菖・猖・椙)
 「さかんに声をだす」(唱・娼・倡)
音の変化  ショウ:昌・唱・娼・倡・菖・猖  すぎ:椙

勢いがよい
 ショウ  艸部
会意 「艸(草)+昌(勢いがよい)」の会意形声。勢いよくまっすぐ伸びる草。
意味 (1)しょうぶ(菖蒲)。サトイモ科の多年草、葉は長い剣状で芳香があり端午の節句に菖蒲湯とする。花は穂状で目立たない。「菖蒲湯ショウブユ」 (2)あやめ(菖蒲)。アヤメ科の多年草。剣状の葉を持つところは菖蒲と似ているがきれいな花をつける。
 ショウ・くるう  犭部
解字 「犭(いぬ)+昌(勢いがよい)」の会意形声。犬がはげしく暴れまわる状態をいう。
意味 くるう(猖う)。たけり狂う。あばれまわる。「猖狂ショウキョウ」(はげしく狂う)「猖獗ショウケツ」(猛威をふるう)
 <国字> すぎ  木部
解字 「木(き)+昌(勢いがよい)」の会意形声。勢いよくまっすぐのびる木(昌んな木)。
意味 すぎ(椙)。すぎの木。「椙山すぎやま」(姓)「椙杜すぎもり」(姓)

さかんに声をだす
 ショウ・となえる  口部
解字 「口(くち)+昌(さかんに声をだす)」の会意形声。昌に盛んに声をだすイメージがあり、口をつけてその意を強めた。うたう、となえる、先頭に立って言う意を表わす。
意味 (1)うたう。吟ずる。「独唱ドクショウ」「校歌斉唱コウカセイショウ」(そろって歌う) (2)声をたててよむ。高くさけぶ。「復唱フクショウ」「万歳三唱バンザイサンショウ」 (3)となえる(唱える)。言い始める。先頭に立っていう。「提唱テイショウ」「唱和ショウワ」(ひとりが唱え、他の者がそれに和する)
 ショウ・あそびめ  女部
解字 「女(おんな)+昌(さかんに声をだす=唱)」 の会意形声。声を出し歌い舞って客を喜ばせる女。
意味 うたいめ。あそびめ。遊女。「娼妓ショウギ」(遊女)「娼家ショウカ」(遊女屋)
 ショウ・わざおぎ  イ部
解字 「イ(人)+昌(さかんに声をだす=唱)」 の会意形声。声を出し歌い舞って客を喜ばせる人。俳優や楽人を意味するが、同音の唱・娼に通じて用いられることもある。
意味 (1)わざおぎ(倡)。俳優。楽人。「倡優ショウユウ」(役者) (2)うたいめ。「倡妓ショウギ」(=娼妓) (3)となえる。一番はじめに言い出す。「倡道ショウドウ」(先にとなえる)「倡和ショウワ」(ある者が先にとなえ、他の者がそれに和する)
<紫色は常用漢字>


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音符「専セン」<紡錘車をまわす>「塼セン」「甎セン」「蓴ジュン」「磚タン」「摶タン」「団ダン」「転テン」「囀テン」「伝デン」

2020年11月22日 | 漢字の音符
[專] セン・もっぱら  寸部 zhuān

解字 叀センは糸をよる紡錘車(つむ)の形。專は「寸(手)+叀(紡錘車)」の会意形声で、紡錘車を手でくるくる回しながら糸をつむぐ(よる)こと。糸が常にひとつの中心をめぐることから、「もっぱら」の意を表わす。新字体は旧字の專⇒専に変化した。
 紡錘車   出土紡錘車
     紡錘車による糸紡ぎの方法<YouTube> 

意味 (1)もっぱら(専ら)。いちずに。「専門センモン」「専攻センコウ」(専門に研究する分野)(2)一人占めする。「専売センバイ」「専有センユウ」「専決センケツ」(3)ほしいままにする。「専制センセイ」「専横センオウ」(身勝手にふるまう)

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 「紡錘車(つむ)」
(専・塼・磚・甎)
 紡錘車は「まるい」(団・摶・蓴)
 紡錘車は「まわる」(伝・転・囀)
音の変化  セン:専・塼・甎  ジュン:蓴  タン:磚・摶  ダン:団  テン:転・囀  デン:伝

紡錘車
 セン・タン・かわら  土部 zhuān・tuán 
解字 「土(つち)+專(紡錘車)」 の会意形声。土焼きの紡錘車の意。転じてまるいかわらの意で使われる。
意味 (1)いとくり。「紡塼ボウセン」(糸ぐるま。紡錘車)(2)平らなかわら。かわら。「塼塔セントウ」(かわらで築いた塔)(3)まどか。まるい。
 タン・セン  石部 zhuān
解字 「石+專(紡錘車)」の会意形声。石製の紡錘車の意。転じて、平らな敷き石や煉瓦をいう。

磚茶(ネットの広告から)
意味 (1)かわら。敷き石や煉瓦。「磚茶タンチャ」(茶葉を蒸して押し固めて乾燥したもの)
 セン・かわら  瓦部 zhuān
解字 「瓦(かわら)+專(=塼。かわら)」の会意形声。まるく平らに焼いた瓦。
意味 しきがわら。かわら。まるく平らに焼いて敷き石にするかわら。のち、形をとわず敷石にするかわらをいう。「甎匠センショウ」(かわらを作る人)「甎全センゼン」(敷きがわらのようにつまらぬものとなって身を全うする)

まるい
[團] ダン・トン・まるい  囗部 tuán  
解字 旧字は團で「囗(かこむ)+專(まるい)」 の会意。まるく囲む意。新字体は旧字の專⇒ 寸に略された団になった。
意味 (1)まるい(団い)。「団扇うちわ」「団子だんご」(2)まどか。おだやか。「団欒ダンラン」(3)集まる。かたまり。「集団シュウダン」「布団フトン」「団塊ダンカイ
 タン・セン  扌部 tuán
解字 「扌(て)+專(まるい)」の会意形声。手でまるめること。まるい形にする意。
意味 (1)まるめる。まるい。「摶飯タンハン」(握り飯)「摶土タンド」(土をまるめる)「摶沙タンサ」(砂をまるめる、すなわち元に戻りやすいこと) (2)(専センに通じ)もっぱら。「摶一センイツ」(一つの事にだけ心を集中する)
 ジュン  艸部 chún 
 じゅんさい
解字 「艸(草)+專(まるい)」 の会意形声。平らで丸い葉が水面に浮かぶスイレン科の水草をいう。
意味 ぬなわ。じゅんさい(蓴菜)。スイレン科の多年生水草。池沼に自生。葉はほぼ円形で水面に浮く。若芽・若葉は食用として珍重される。

まわる
[傳] デン・つたえる・つたわる・つたう  イ部 chuán・zhuàn
解字 旧字は傳で「イ(人)+專(まわる)」 の会意。人から人へ回るように伝わること。新字体は旧字の專⇒云に変化した伝になった。
意味 (1)つたえる(伝える)。つたわる(伝わる)。「伝言デンゴン」「伝統デントウ」(2)ひろめる。「伝播デンパ」「喧伝ケンデン」(世間に言いはやし伝える)(3)いいつたえ。「伝記デンキ
[轉] テン・ころがる・ころげる・ころがす・ころぶ  車部 zhuǎn
解字 旧字は轉で「車(くるま)+專(まわる)」 の会意。車がまわる意。新字体は旧字の專⇒云に変化した転になった。
意味 (1)ころがる(転がる)。まわる。「自転ジテン」「転回テンカイ」(2)ころぶ(転ぶ)。ひっくり返る。「転倒テントウ」「逆転ギャクテン」(3)うつる。「転居テンキョ」「移転イテン
 テン・さえずる  口部 zhuàn
解字 「口(くち)+轉(ころがす)」 の会意形声。口の中で声をころがすように出す。同じ音を連続して出す。
意味 (1)さえずる(囀る)。鳥がしきりに鳴き続ける。(2)しらべ。うたう。調子。声の移り変わる調子。(3)よくしゃべる。
<紫色は常用漢字>

参考 博の右上にはなぜ点があり、専にはないのか?
    音符「恵ケイ」(叀セン+心)へ

     バックナンバーの検索方法
※一般の検索サイト(グーグル・ヤフーなど)で、「漢字の音符」と入れてから、調べたい漢字1字を入力して検索すると、その漢字の音符ページが上位で表示されます。


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紛らわしい漢字 「戊ボ」「戍ジュ」「戌ジュツ」

2020年11月01日 | 紛らわしい漢字 
 ・戍ジュ・戌ジュツは似ている。戊のなかに点があるのが戍ジュ、一があるのが戌ジュツである。この3つの文字は、戈(オノ型ほこ)がもとになっている字だが、古代文字から成り立ちをさぐると、それぞれの違いが明瞭になる。

 ボ・ボウ・モ・つちのえ  戈部

解字 戈(オノ型ほこ)の刃先が広い武器の象形。しかし本来の意味でなく、甲骨文字から十干の五番目に当てられている。
意味 (1)つちのえ(戊)。五行(木・火・土・金・水)のひとつである土(戊ボと己キが所属する)の兄(え)の意味で、十干(甲コウ・乙オツ・丙ヘイ・丁テイ・戊・己・庚コウ・辛シン・壬ジン・癸)の五番目。なお、土の弟(と)は六番目の己(つちのと)。「戊辰戦争ボシンセンソウ」(1868年の戊辰(つちのえたつ)の年から新政府軍と幕府側との間で行なわれた戦争) (2)ほこ。
イメージ 
 「仮借(当て字)」(戊)
 「同音代替」(茂)
音の変化  ボ:戊  モ・ボウ:茂
同音代替
 モ・ボウ・しげる  艸部
解字 「艸(草)+戊(ボウ・モ)」の形声。ボウは冒ボウ・モウ(おおう)に通じ、草がおおう意。
意味 (1)しげる(茂る)。草がしげる。「繁茂ハンモ」「茂生モセイ」 (2)すぐれて立派なこと。「茂才モサイ


 ジュ・シュ・ス・まもる  戈部

解字 甲骨文字から篆文まで「人+戈(オノ型ほこ)」の会意。人が武器の戈を背負っている形。武器を背負う兵士の意から、甲骨文字では軍隊の意味で使われた。金文は守る意味が強い守衛の意味となり、以後、国境をまもる意が中心となった。現代字は人と戈が連続した戍となり、戊の中に点があるかのような字形になった。
意味 まもる(戍る)。武器を持って国境をまもる。「戍卒ジュソツ」(国境をまもる兵士)「戍楼ジュロウ」(国境守備隊の見張りやぐら)「衛戍エイジュ」(軍隊が永く一つの土地に駐屯する)「戍徭ジュヨウ」(国境をまもる兵役=徭役)


 ジュツ・シュツ・いぬ  戈部

解字 甲骨文字・金文ともにマサカリ型の大きな刃の部分を中心に描いた象形。篆文になりマサカリの下の刃が独立して一になり、現代字の戌になった。戌は大きな刃なので、これで「相手を圧倒する」イメージを持つ。元の意味に関係なく、十二支の11番目「いぬ」に仮借カシャ(当て字)された。
意味 いぬ(戌)。十二支の第十一。時刻では午後8時、およびその前後の2時間。方角では西北西、動物では犬に当てる。「戌亥いぬい」(方角で北西)「戊戌ボジュツ」(つちのえいぬ。干支のひとつ)
イメージ 
 「いぬ(仮借)」(戌)
 大きな刃で相手を「圧倒する」(威・滅)
音の変化  ジュツ:戌  イ:威  メツ:滅
圧倒する
 イ・おどす  女部  
解字 「女(おんな)+戌(圧倒する)」 の会意。女を刃物で圧倒する形で、おどす意。
意味 (1)おどす(威す)。おびやかす。「威圧イアツ」「威嚇イカク」 (2)いかめしい。「威厳イゲン」「威風イフウ」「権威ケンイ
 メツ・ほろびる・ほろぼす  氵部
解字 「氵(水)+火+戌(圧倒する)」 の会意。水をかけて火を圧倒する意。転じて、きえる・ほろびる意となる。
意味 (1)きえる。火や明かりが消える。「点滅テンメツ」 (2)ほろびる(滅びる)。ほろぼす(滅ぼす)。「滅亡メツボウ」「絶滅ゼツメツ」「滅菌メッキン」 (3)死ぬ。「入滅ニュウメツ
<紫色は常用漢字>

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