漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

音符「䍃ヨウ」と「揺ヨウ」<ゆれる>「謡ヨウ」「遥ヨウ」「䍃ヨウ」「窰ヨウ」「瑶ヨウ」「鰩ヨウ」「徭ヨウ」

2022年05月28日 | 漢字の音符
 ヨウ・ユウ・ユ  缶部ほとぎ
盥缶カンフ
https://www.duitang.com/blog/?id=111607055

解字 篆文は「缶(ほとぎ。うつわ)+月(=肉にく)」の形声。[説文解字]は、「瓦器なり。缶に従い肉の声。発音は「以周切(イウ)」とする。つまり肉は発音に関係しているだけで肉の意味はないということである。肉の発音は、[新大字典(講談社)]に3種類あり、①呉音が二ク、漢音がジク、②呉音ニュ、漢音ジュウ(ジウ)、③呉音ニュ、漢音ジュ、である。
 [説文解字]は䍃の発音をイウとしているので、①呉音のNIKUの発音からNとKが取れるとIU(イウ)になる。また②の呉音ニュ(NYU)からNが取れるとYU(ユ)になり、初期の音と考えられるユウ(イウ)・ユが出てくる。ヨウの発音は後代になってできたものであろう。では、ユウ(イウ)という缶(ほとぎ)はどんな器なのだろうか。缶の「ほとぎ」とは水などを入れた瓦や青銅の器である。[説文解字]は瓦器とするが、春秋戦国期には青銅器の缶が非常に多く制作されているので青銅の缶も対象になる。
 中国の検索サイトで缶をさがすと面白い形の缶が見つかった。写真の盥缶カンフという手洗いの水をいれる器(ほとぎの一種)である。これは青銅製で戦国時代(BC8~5世紀)とされ、古道具のようである。同じ形のものが随州市博物館の曽乙侯墓出土青銅器で紹介されているので当該写真の真贋はともかくこのような器があったことは確実である。
 私が注目するのは缶の左右の耳から垂れ下がっている環である。この環は何のためにあるのだろうか。それは水をいれた缶(ほとぎ)を運ぶために二つの環に棒を通して持ち上げ、運ぶためのものだろう。または両手で環を持って運んだのかもしれない。そのとき缶はゆらゆらとゆれる。䍃には「ゆれる」というイメージがあり、こうした環付きの缶のゆれるさまから、イメージが成立したのではなかろうか。 新字体では、䍃⇒揺の右辺となる。
意味 かめ。もたい。ほとぎ。水などを入れる器。

イメージ 
 「もたい」
(䍃・窰)
 「ゆれる」(揺・謡・瑶・鰩)
 「形声字」(徭・遥)
音の変化  ヨウ:䍃・窰・揺・謡・瑶・鰩・徭・遥

もたい・かめ
 ヨウ・かま  穴部
解字 「穴(よこあな)+䍃(かめ・もたい)」の会意形声。䍃はここで土のかめ・もたい。成形されたかめを横穴にいれて焼くこと。土器を焼く「かま」の意となる。また、横穴の意から黄土高原に住む住民のあいだで作られた横穴住居をいう。
 窰洞ヤオトン
https://baijiahao.baidu.com/s?id=1619985429489974672&wfr=spider&for=pc
意味 (1)かま(窰)。=窯ヨウ。陶器を焼くかま。「窰業ヨウギョウ」「陶窰トウヨウ」「官窰カンヨウ」「民窰ミンヨウ」 (2)横穴住居。「窰洞ヤオトン」( 中国北部の黄土地帯に広範にみられる横穴式の洞穴住居)

ゆれる
 ヨウ・ゆれる・ゆらぐ・ゆする  扌部
解字 旧字は搖で「扌(手)+䍃(ゆれる)」の会意形声。䍃には、ゆれるイメージがあり、扌(手)をつけて、ゆれる意味を補足した。新字体は、揺に変化。
意味 ゆれる(揺れる)。ゆする(揺する)。ゆらぐ(揺らぐ)。「揺籃ヨウラン・ゆりかご」「揺曳ヨウエイ」(ゆらゆらとなびく)「動揺ドウヨウ」(ゆれうごく)
 ヨウ・うたう・うたい  言部
解字 旧字は謠で「言(ことば)+䍃(ゆれる)」の会意形声。ゆれうごくように抑揚をつけて言葉を出すこと。節をつけてうたうこと。楽器の伴奏を伴わないうたを言った。新字体は、謡に変化。
意味 (1)うたう(謡う)。うた。はやりうた。「童謡ドウヨウ」「民謡ミンヨウ」「歌謡カヨウ」 (2)うたい(謡)。能のうたい。「謡曲ヨウキョク」 
 ヨウ・たま  王部
解字 正字は瑤で「王(玉)+䍃(ゆれる)」の会意形声。腰に帯びてゆれうごく佩玉ハイギョク(礼服を着用するとき腰につける玉)の美しい玉をいう。また、玉のように美しいこと。新字体に準じて、瑶を使う。
意味 (1)たま(瑶)。美しい玉。「瑶台ヨウダイ」(美しいたまで飾った高殿) (2)玉のように美しい。「瑶池ヨウチ」(宮中にある美しい池)「瑶林ヨウリン」(玉のように美しい林)
 ヨウ・はいたか  鳥部
 はいたか(ウィキペディアより)
解字 「鳥(とり)+䍃(ゆれる)」の会意形声。大空を気流にのり、ゆれるように飛ぶ鳥のはいたかをいう。
意味 はいたか(鷂)。はしたか。タカ科の小形の鳥。タカ科ハイタカ属に分類される猛禽類。オオタカと共に鷹狩に用いられた。
 ヨウ・えい  魚部
 エイ(海遊館)
解字 「魚(さかな)+䍃(ゆれる)」の会意形声。海のなかで扁平な左右のひれを揺り動かして動くエイをいう。
意味 えい(鰩)。エイは頭部から胴部と胸びれが一体になって全体が扁平になり、大きく水平に広がった胸びれの縁の薄い部分を波打たせて遊泳する魚。

形声字
 ヨウ・えだち  彳部
解字 「彳(ゆく)+䍃(ヨウ)」の形声。ヨウは傭ヨウ(人を使う)に通じ。人に使われる為に出かけて行くこと。傭ヨウと徭ヨウの上・中古音は、声母(冒頭の子音)が餘で共通しており類似音であった。
意味 えだち(徭)。賦役。人民に課する労役。「徭役ヨウエキ」(人民に課す労働や兵役)「徭戍ヨウジュ」(徭役につき辺境を守る兵卒)
遥[遙] ヨウ・はるか  辶部
解字 正字は「辶(ゆく)+䍃(=徭・徭役)」の形声。ヨウは徭ヨウ(徭役)に通じる。課された労役や兵役につくため、遠くまで行くこと。新字体に準じて、遥を使う。
意味 (1)はるか(遥か)。とおい。「遥拝ヨウハイ」(遠い所から拝む)「遥望ヨウボウ」(遠くから眺める。また、遠くを眺める) (2)(揺ヨウ(ゆれる)に通じ)ゆらゆらと歩く。そぞろ歩く。「逍遥ショウヨウ」(ぶらぶらと歩くこと。散歩)
<紫色は常用漢字>

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音符「延エン」<のびる>と「誕タン」「蛋タン」

2022年05月25日 | 漢字の音符
 誕タンの解字を改めました。
 エン・のびる・のべる・のばす  廴部えんにょう

解字 甲骨文・金文は「彳(路上)+止(あしの形)」で、道路を足で進んで行く形。甲骨文字の段階で、①のべる。さらに進む。②のべる。引き続く。③のべて。引き続き。の意味があるという[甲骨文字辞典]。篆文から、「廴イン(彳の下部がながくのびた形)+止(あし)+ノ(左はらい。のびる意味の記号)」に変化し、現在の延になった。意味は歩行の意味が脱落して、ながくのびる・のばす意となる。
意味 (1)のばす(延ばす)。のびる(延びる)、「延長エンチョウ」「延命エンメイ」「蔓延マンエン」(はびこる) (2)時間や期日がのびる。「延期エンキ」 (3)とおい。「延視エンシ」(遠方を望む)「延路エンロ」(遠路)(4)[国]のべ(延べ)。全部を合わせた数。「延べ人員」

イメージ 
 「のびる・のばす」
(延・誕・涎・筵・莚・莚)
  意味(3)の「とおい」(蜑・蛋)
音の変化  エン:延・筵・莚・莚  ゼン:涎  タン:誕・蜑・蛋

のびる・のばす
 タン  言部
解字 ①「言(ことば)+延(のばす)」の会意形声。言葉をむやみに引き延ばした「そらごと」の意で、いつわる・あざむく・でたらめの意味となる。 ②「言(ことば)+延(のばす)」の会意形声。赤ちゃんが生まれたとき、息を吸い込んでから「オギャ~」と声を張りあげ連続して泣く(赤ちゃんの言葉)から誕生の意味となる。最初①の意味だったが、のちに産まれる意味ができた。(なお誕生の意味は「詩経」で初めて用いられたからという説もある)
意味 (1) いつわる(誕る)。あざむく。でたらめ。「誕言タンゲン」(大げさな話)「誕放タンホウ」(きまま。勝手) (2)うまれる(誕まれる)。うむ。「誕生タンジョウ」「降誕コウタン」(聖人がこの世に生まれ出る)「誕辰タンシン」(生まれた日。誕生日。辰は日の意)
 ゼン・セン・よだれ  氵部
解字 「氵(みず)+延(のびる)」の会意形声。のびる水で、よだれの意。
意味 (1)よだれ(涎)。「垂涎スイゼン」(①食べ物を欲しがってよだれをながす。②あるものを強く欲しがる)「垂涎の的」(何としてでも手に入れたいと思うほどの貴重なもの)「涎掛(よだれか)け」(幼児のあごの下に掛けて、よだれを受ける布) (2)水の流れるさま。
 エン・むしろ  竹部
解字 「竹(たけ)+延(のびる)」の会意形声。竹を編んでのばした敷物。竹以外の敷物や、席・座席の意味にもなる。
意味 (1)むしろ(筵)。竹などを編んで作った敷物。「筵席エンセキ」(むしろ。座席。また、宴会の席) (2)席。座席。「饗筵キョウエン」(もてなしの席)「詩筵シエン」(詩歌・俳句などの会合の席)
 エン・むしろ  艸部
解字 「艸(草)+延(のびる)」の会意形声。草がのびてはびこる意。日本ではわらを編んでのばしたむしろの意で使う。
意味 (1)草がはびこる。 (2)[国]むしろ(莚)。

とおい
 タン・あま  虫部
解字 「虫(異民族)+延(とおい)」の会意形声。中国では南蛮といって、南方の異民族を虫にたとえた。蜑は、遠い南方の異民族の意。
意味 (1)中国南方の舟を家とし漁業を営む異民族。「蜑人タンジン(①中国南方の海上民。②日本の海士・海女) (2)[国]あま(蜑)。海で魚介類をとって生活する人。「蜑戸タンコ」(海人あまの家) 
 タン  虫部
解字 もと、蜑タン(中国南方の舟を家とし漁業を営む異民族をさす)の俗字として使われた字。上部の延⇒疋ショに簡略化された。疋ショは足を表す字だが、ここでは便宜的に使われただけで意味との関係はない。仮借カシャ(当て字)で、たまごの意となった。強いて解字すると 「虫(動物)+疋(タン)」の形声で、タンは誕タン(生まれる)に通じ虫(動物)から生まれるたまごの意となる。とくにニワトリのたまごをいう。
意味 (1)たまご。鳥のたまご。「鶏蛋ケイタン」(鶏卵)「蛋白タンパク」(①卵の白身 ②蛋白質の略)「蛋白質タンパクシツ」(多数のアミノ酸がつながった高分子化合物。動物体の主な成分を作る) (2)中国南部の水上民族。「蛋民タンミン
<紫色は常用漢字>

延エンには何故タンの音があるのか?
延エンには筵エン・莚エン・莚エン以外に、タン(誕タン・蜑タン・蛋タン)の音があります。
 エンと発音する音符でタンまたはタ行の発音があるものは他にも
炎エン⇒淡タン・毯タン・痰タン・談ダン
爰エン・援エン・媛エン⇒暖ダン・煖ダン
緑エン・掾エン⇒篆テン
があります。何故こうした発音になるのか分かりませんが、何らかのかたちでエンとタ行の結びつきがあると考えられます。今後こうした現象についても考察してゆきたいと思っております。
 なお、音符「延エン」に垂涎の涎ゼンがありますが、
エンの発音である、沿エン・鉛エン⇒船センがあります。


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音符「豆トウ」<たかつき>と「頭トウ」「痘トウ」「逗トウ」「闘トウ」「短タン」

2022年05月22日 | 漢字の音符
 闘トウの解字を改めました。
 トウ・ズ・まめ  豆部
たかつき
http://arts.cntv.cn/20110901/113482.shtml
 
解字 脚のついたフタつき食器(たかつき)の象形。儀礼の際に食器や礼器として使われた。のち、マメ科の植物の種である「まめ」と発音が同じことから、仮借カシャ(当て字)で、まめ(豆)の意味で使われるようになった。
意味 (1)まめ(豆)。「大豆ダイズ」「豆腐トウフ」「納豆ナットウ」「小豆ショウズ・あずき」 (2)たかつき。食物を盛る脚のついた器。「豆羹トウコウ」(たかつきに入れたあつもの
参考 豆は部首「豆まめ・まめへん」になる。漢字の左辺や下について、豆や元の意味である「たかつき」の意を表す。
常用漢字 2字
 トウ(部首)
 豊[豐]ホウ・ゆたか(豆[たかつき]+山+音符「丰丰ホウ」)
常用漢字以外の主な字
 エン(豆[まめ]+音符「宛エン」)「豌豆エンドウ
 ガイ・あに(豆を含む会意)

イメージ 
 「まめ(仮借)」
(豆・痘) 
 「たかつき」(頭・短・逗) 
 「トウの音」(闘)
音の変化  トウ:豆・痘・頭・逗・闘  タン:短

まめ
 トウ  疒部
解字 「疒(やまい)+豆(まめつぶ)」の会意形声。皮膚に豆粒ほどの水疱スイホウが全身にできる病気。
意味 ほうそう(疱瘡)。もがさ。法定伝染病の一つだが、種痘による予防で1980年WHOにより絶滅宣言がなされた。「天然痘テンネントウ」「痘瘡トウソウ」「種痘シュトウ」(痘苗を人体に接種する)「痘痕トウコン・あばた

たかつき
 トウ・ズ・ト・あたま・かしら  頁部
解字 「頁(あたま)+豆(たかつき)」の会意形声。たかつきの形は、人のくびの上にあたまのある形と似ており、これに「あたま」を意味する頁ケツをつけてあたまを表わした。
意味 (1)あたま(頭)。こうべ。つむり。「頭脳ズノウ」「頭髪トウハツ」 (2)はじめ。最初。「先頭セントウ」 (3)上に立つ人。かみ。かしら(頭)。「頭領トウリョウ」「巨頭キョトウ」 (4)動物を数える語。「頭数トウスウ
 タン・みじかい  矢部
解字 「矢(や)+豆(たかつき)」の会意形声。たかつきの高さほどの短い矢。みじかい意。
意味 (1)みじかい(短い)。長さが足りない。「短期タンキ」「短歌タンカ」「短縮タンシュク」 (2)つたない。欠ける。おとる。「短所タンショ」「短慮タンリョ
 トウ・ズ・とどまる  辶部
解字 「辶(すすむ)+豆(たかつき)」の会意形声。豆(たかつき)は動かずにひと所に静止している。逗は、旅の途中で立ち止まってしばらくひと所にいること。
意味 とどまる(逗まる)。たちどまる。滞在する。「逗留トウリュウ」(旅先でしばらく宿泊する)「逗宿トウシュク」(宿にしばらく滞在する)

トウの音
[鬪] トウ・たたかう  門部
解字 旧字はトウであるが、ややこしいのは、それ以前の篆文テンブンの字がまったく異なっていることだ。篆文はトウで「トウ(たたかう)+斲タク(=斧斤フキン・おの・まさかり)」という難しい字。斧やまさかりで鬥トウ(たたかう)意味だという。ところが、この字は楷書で旧字のに変化した。鬥トウの中の斲タク⇒豆+寸への変化は、誤字だという辞書もある(角川新字源)。さらに新字体は鬥トウが門に変化した闘になった。この字は「門+豆トウ・まめ+寸スン・すこし」だから、音符は豆トウになる。この字は解字不明だから「覚え方」を工夫しました。
覚え方 もん()の中、まめ()が、すこし()で、(あらそ)い起きる  <青果市場>
意味 (1)たたかう(闘う)。あらそう。「闘争トウソウ」「闘志トウシ」 (2)たたかわせる。「闘犬トウケン」「闘牛トウギュウ
<紫色は常用漢字>

関連音符
 トウ・ト・のぼる  癶部
解字 「癶(両足がでる)+豆(たかつき)」の会意形声。豆(たかつき)を持ち、両足でのぼること。
意味 のぼる(登る)。
イメージ  「上にのぼる」 (登・澄・鐙・灯・橙)
音の変化  トウ:登・灯・鐙・橙  チョウ:澄
音符「登トウ」を参照

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音符「入ニュウ」<入り口>「込む」と「内ナイ」「納ノウ」 

2022年05月19日 | 漢字の音符
 入の解字をやり直しました。
 ニュウ・いる・いれる・はいる  入部にゅう

解字 甲骨文字は第1・2字とも、建物の屋根が覆っている形。転じて建物の内部を表し、さらに入る意味になった。意味は室内・屋根の下・はいる・いれる意で用いられている[甲骨文字辞典]。金文も第1・2字とも同じ形。篆文は甲骨・金文の第2字が「人」になり、さらに隷書で右へ極端にのびる形となり、現代字の入になった。
意味 (1)いる(入る)。はいる(入る)。「入社ニュウシャ」「侵入シンニュウ」 (2)いれる(入れる)。中におさめる。「入念ニュウネン」「導入ドウニュウ」 (3)要る。かかる。「入用ニュウヨウ
参考 入は部首「入・にゅう・いる」になる。入る意味を表すが、常用漢字は部首の「入」のみ。常用漢字以外でも、内の人や全の𠆢 が旧字で「入」の形になっていたため、入部に含まれていたが、現在は冂部と𠆢 部ひとやねに移った。今は実質的に「入」一字だけの部首である。
 
イメージ 
 「はいる」
(入・込・魞・叺・鳰)
音の変化  ニュウ:入  こむ:込  えり:魞  かます:叺  にお:鳰

はいる
<国字> こむ・こめる  辶部
解字 「辶(ゆく)+入(はいる)」の会意。中にいれる意。
意味 (1)こめる(込める)。中にいれる。「弾丸を込める」 (2)こむ(込む)。こもる。中に入っている。集中する。「人が込む(=混む)」「力を込める」 (3)細工が複雑である。「手が込む」
<国字> えり  魚部
解字 「魚(さかな)+入(はいる)」の会意。魚が入る装置。
 琵琶湖の魞
意味 えり(魞)。竹簀を川や湖に立てて魚を誘導して捕える漁具。
<国字> かます  口部
解字 「口(くち)+入(はいる)」の会意。口をあけて物をいれる袋。

かます(叺):「石黒の昔の暮らし」より
意味 かます(叺)。藁蓆(わらむしろ)を二つ折りにし、一か所を残し縁を縄で縫い閉じ袋状としたもの。縫い閉じていない口をあけて肥料、石炭、塩、穀物などをいれる。語源は蒲(かます)で、古くは蒲(がま)を、あらく編んでむしろとしたことから。「叺頭巾かますずきん」(叺の形をした頭巾)
<国字> にお  鳥部
解字 「鳥(とり)+入(はいる)」の会意。水に入って魚をとる鳥。
意味 にお(鳰)。かいつぶり。ハトぐらいの大きさの水鳥。湖沼・河川に棲み、巧みに潜水して小魚を捕食する。「鳰鳥におとり」「鳰海・鳰湖におのうみ」(かいつぶりが多い琵琶湖の別名)


    ナイ <うち・なか>
 ナイ・ダイ・うち  冂部          

解字 甲骨文は建物の入り口を描いた形で「冂 (建物の部屋か)+入(入口)」の形。転じて建物の内部を表す。金文は「屋根型の建物+入」となり、篆文から「冂+入」となったが、入の先が上に突き出た。 旧字は「冂+入」の形だが、新字体は、入⇒人に変化した内になった。
意味 (1)なか。うち(内)。「内容ナイヨウ」「内輪うちわ」 (2)家のなか。家庭。「内助ナイジョ」 (3)心のなか。「内心ナイシン」「内省ナイセイ」 (4)いれる・おさめる。「内服薬ナイフクヤク」 (5)宮中、朝廷。「内裏ダイリ」「参内サンダイ

イメージ
 「うち・なか」
(内・納・訥・吶・衲)
音の変化  ナイ:内  ノウ:納・衲  トツ:訥・吶 

うち・なか
 ノウ・ナッ・ナ・ナン・トウ・おさめる・おさまる  糸部
解字 「糸(ぬの)+内(中にいれる)」の会意形声。貢物としてきた布帛(布や絹)を倉の中にいれること。
意味 (1)おさめる(納める)。しまいこむ。うけいれる。「収納シュウノウ」「受納ジュノウ」「納豆ナットウ」「納屋なや」(物置小屋)「納戸なんど」(調度品等をしまう部屋) (2)おさめる(納める)。支払う。差し出す。「納税ノウゼイ」「献納ケンノウ」(金品をたてまつる) (3)おわる。しめくくる。「納会ノウカイ」「見納(おさ)め」
 トツ・どもる  言部
解字 「言(ことば)+内の旧字(うち・なか)」の会意。言葉が内にこもること。
意味 どもる(訥る)。くちごもる。「訥弁トツベン」(どもって、つかえるような話し方)「朴訥ボクトツ」(素朴で口数が少ない)「訥々トツトツ」(つかえがちに話す)
 トツ・どもる  口部
解字 「口(はなす)+内の旧字(うち・なか)」の会意。はなす言葉が内にこもること。訥と同じ意味。また、内にこもった息が一気に口からでる意でも使う。
意味 (1)どもる(吶る)。「吶々トツトツ」(どもるさま。=訥々) (2)大声を発する。「吶喊トッカン」(①大勢が一時にさけぶ。②鬨(とき)の声をあげる)
 ノウ・ドウ・ころも  衤部ころも
解字 「衤(ころも)+内の旧字(うち・なか)」の会意。衣の内側に布を当て、破れをつくろった衣。僧侶の衣の意は、布をつぎはぎした衣を着る意から。
意味 (1)つくろう。つぎはぎする。「補衲ホノウ」(破れ目を縫い込める)「衲袍ノウホウ」(つぎはぎの袍ホウ[上着]) (2)ころも(衲)。僧侶のころも。「衲衣ノウエ」(僧の着る法衣=衲袈裟ノウゲサ) (3)僧侶。また、その自称。「衲子ノウシ」(僧。禅僧)
<紫色は常用漢字>

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音符「先セン」<さきに行く人> と 「洗セン」「跣セン」「筅セン」「銑セン」  

2022年05月13日 | 漢字の音符
 先の字形変遷図を充実させました。
 セン・さき  儿部にんにょう

解字 甲骨文は「止(足)が下線から出るかたち+人」 の会意。人の上に出発する足を加えて、先にゆく人を表す。甲骨文字では臣下が王に先立って行く意味での用例が多いという[甲骨文字小字典]。他の人より先に行く意が原義で、また、時間のあとさきの意味にも用いる。字形は篆文で上部が山の形に近くなり、隷書で山の右タテ線がとれ、楷書で上が𠂒に、下が儿の先になった。
意味 (1)さき(先)。さきのほう。「先頭セントウ」「先導センドウ」 (2)さきにゆく。さきだつ。さきんじる。「先着センチャク」「先駆者センクシャ」 (3)時間的にはやい。以前。「先日センジツ」「先代センダイ

イメージ
 「さき」(先・筅・銑)
 「形声字」(洗・跣)
音の変化  セン:先・洗・跣・筅・銑  

さき
 セン・ささら  竹部
解字 「竹(たけ)+先(さき)」の会意形声。竹の先を割って加工した道具。

鍋を洗う筅・「媽祖好神」より
 茶筅
意味 (1)ささら(筅)。竹の先を細かく割った、鍋や釜を洗う道具。(2)茶道具のひとつ。「茶筅チャセン」(抹茶に湯を入れ茶碗の中でかきまわす道具)
 セン・ずく  金部
解字 「金(金属)+先(さき)」の会意形声。日本では、溶鉱炉から先にでる炭素分を多く含む鉄の意で使う。中国では洗センに通じ、洗練された光沢ある金属の意。
意味 (1)[国]ずく(銑)。ずくてつ。鋳物に使う鉄。「銑鉄センテツ」(鉄鉱石を溶鉱炉で溶かして最初に作る鉄。炭素分を多く含むので鋳物に使う。)「溶銑ヨウセン」(溶けた銑鉄) (2)つやのある金属。金属の光沢。

形声字
 セン・あらう  氵部
解字 「氵(水)+先(セン)」の形声。水で足をあらうことを洗センという。後漢の[説文解字]は「足を洒(あら)う也(なり)。从水に従い先センの聲(声)」とする。転じて、足のみでなく一般に「あらう・すすぐ」意味になる。
意味 (1)あらう(洗う)。すすぐ。「洗濯センタク」「洗剤センザイ」「洗浄センジョウ」「洗練センレン」(あかぬけした)「盃洗ハイセン」( 酒席で盃(さかずき)を洗うため水を入れる器。=杯洗) (2)すっかりなくなる。「赤貧洗うが如し」(ひどく貧乏で、洗い流したように物が何もない)
 セン・はだし  足部
解字 「足(あし)+先(=洗。セン)」の形声。先センは洗の略体で、足を洗う意。そこに足をつけて洗う足をあらわし素足の意となる。
意味 はだし(跣)。すあし。はだしで歩く。「跣足センソク」(はだし)「跣行センコウ」(はだしで行く)「徒跣トセン」(はだしで歩く)
<紫色は常用漢字>
 
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己キ<ひもの象形>と「紀キ」「記キ」「起キ」「忌キ」「杞キ」「改カイ」「配ハイ」「妃ヒ」

2022年05月10日 | 漢字の音符
 は起源のことなる多くの字が同じ形になっている。不思議な現象である。
 キ・コ・おのれ  己部     

解字 甲骨文字は弗フツ(二本の棒などを紐でしばりあわせた形)の字の棒を省いた形と似ており、紐の象形であると考えられる[甲骨文字辞典]。しかし、甲骨文字では、十干の第六番目に仮借カシャ(当て字)された。また、のちに「おのれ」の意にも仮借された。
意味 (1)つちのと(己)。十干(甲コウ・乙オツ・丙ヘイ・丁テイ・己・庚コウ・辛シン・壬ジン・癸)の第六番目。五行(木火土金水)では戊とともに土に当てる。「つちのと」は土の弟の意で、土に当てられた戊(つちのえ・土の兄)の次にくることから。 (2)おのれ(己)。自分。「自己ジコ」「克己コッキ」(おのれにかつ)「知己チキ」(自分を理解してくれる人)

十干の読み方(オンライン無料塾「ターンナップ」より)

イメージ  
 「ひも」(己・紀・記)
 「同体異字」(起・改・忌・配・妃)
 「キの音」(杞)
音の変化  キ:己・紀・記・杞・起・忌  カイ:改  ハイ:配  ヒ:妃

ひも
 キ・のり  糸部        
解字 「糸(いと)+己(ひも)」 の会意形声。己は、もともと紐の意味であり、これに糸をつけて元の意味である紐を表した。糸を何本もよりあわせた細い綱(つな)を表す。つなは人民をコントロールする意があり、転じて、統治するための、のり・きまりの意となった。また、紐の初めの意から、紀元という語で年代の意となり、さらにその年代の出来事をしるす意ともなる。
意味 (1)細いつな。「綱紀コウキ」(太いつなと細いつな。大小のつなで人民を統治する)(2)(統治するための)のり(紀)。きまり。すじみち。「紀律キリツ」「軍紀グンキ」「風紀フウキ」(風俗・風習の紀律)(3)紐のはじめ。いとぐち。「紀元キゲン」(紀も元も、はじめの意で、基準となる最初の年をいう)「紀元前キゲンゼン」「世紀セイキ」(最初の年からの世の中の意。100年を指す)「紀年キネン」(最初からの年数) (4)(最初からの年数を)しるす。記録する「紀事キジ」(事実の経過を記述する)「紀行文キコウブン」(旅行の行程をしるした文)「紀要キヨウ」(研究論文を収載した定期刊行物)
 キ・しるす 言部     
解字 「言(ことば)+己(=紀。しるす)」 の会意形声。紀の意味(4)のしるす意を、言(ことば)をつけて表した字。おぼえる意ともなる。
意味 (1)しるす(記す)。おぼえる。「記録キロク」「暗記アンキ」「記憶キオク」 (2)記録や文書を司る役目。「書記ショキ」 (3)しるし。「記号キゴウ

同体異字
 キ・おきる・おこる・おこす  走部    

解字 篆文・旧字は「走(体の動作)+巳(へび)」 の会意。へびが鎌首をもちあげるように、起きあがること。転じて、おこる・はじめの意ともなる。現代字は、巳⇒己に変化した起になった。
意味 (1)おきる(起きる)。たつ。「起床キショウ」「奮起フンキ」 (2)おこる(起こる)。おこす(起こす)。「起業キギョウ」「起工式キコウシキ」 (3)はじめ。はじめの句。「起句キク」「起源キゲン
 カイ・あらためる・あらたまる  攵部

解字 甲骨文は「攴(棒でたたく)+巳(へび)」 の会意。へびを棒でたたき殺すことを示す。点線はへびから出た血であろう[甲骨文字辞典]。篆文で、巳⇒己に変化し、現代字は、攴⇒攵に変化した改になった。へびをたたいて殺すことから、敵を攻撃する意となり、その結果、(討ち)改める意となった。
意味 あらためる(改める)。「改革カイカク」「更改コウカイ」(改めかえる)「改宗カイシュウ」「改元カイゲン」(元号を改める)
 キ・いむ・いまわしい  心部      
解字 金文から「心+己」の形であるが、いろんな字典を見るも納得できる解字がみつからない。そこで、改とおなじく己を巳(へび)と解釈するとぴったりの意味がでるので、覚え方としていいのではないだろうか。己は紐のかたちなので、紐をみて「へび」だと思ったのかもしれない。
覚え方 「心+己(へび)」の会意形声。へびを見て心で怖れ避けること。
意味 (1)いむ(忌む)。いまわしい(忌まわしい)。おそれさける。「忌避キヒ」「禁忌キンキ」「忌憚(きたん)なく」(忌み憚ることなく) (2)喪に服する。「忌中キチュウ」 (3)死者の命日。「忌日キジツ」「年忌ネンキ
 ハイ・くばる  酉部

解字 甲骨文・金文は、酒壺のそばに人がひざまずく形(卩セツ)で、人が酒壺から酒をくばる(配膳)意。転じて、ならべる、つりあわせる、つれあい(夫婦)などの意となる。篆文から卩⇒己に変化した配になった。
意味 (1)くばる(配る)。わりあてる。「配達ハイタツ」「分配ブンパイ」 (2)ならべる。とりあわせる。つれあう。「交配コウハイ」「配偶者ハイグウシャ」 (3)したがえる。「支配シハイ
 ヒ・ハイ・きさき  女部

解字 甲骨文字は「女+巳(へび)」 の会意で、意味は女性の名を表す。巳は祀(祭祀・まつり)に通じ巫女の意とみなす説もある。金文で巳が、字形が近く発音を表す己に置き換わった妃になった[甲骨文字辞典]。意味は金文で妣(亡き母)の名に用いられ、その後、身分の高い女官、そばめ等の意から、きさき・つれあいの意になった。
意味 (1)きさき(妃)。皇族・王族の妻。「王妃オウヒ」「正妃セイヒ」「妃殿下ヒデンカ」 (2)身分の高い女官。そばめ。「妃嬪ヒヒン」(身分の高い女官)「妃妾ヒショウ」(側室)

キの音
 キ・コ  木部
解字 「木+己(キ・コの音)」 の形声。キという名の木。
杞柳細工
意味 (1)木の名。かわやなぎ。水辺に生える柳のひとつ。「杞柳キリュウ」(高さ2~3メートルの落葉低木。茎を行李コウリ(荷物入れ)に編むのでコリヤナギともいわれる)「杞柳細工キリュウザイク」(兵庫県豊岡市のコリヤナギで編む伝統工芸品) (2)枸杞クコに使われる字。「枸杞クコ」とは、中国原産のナス科の落葉低木で、実は食用や薬用に利用される。 (3)周代の国名。現代の河南省杞県にあった。「杞憂キユウ」(無用の心配。杞の国の人が天が落ちてきたらどうしようと心配した故事から)
<紫色は常用漢字>

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音符「酋シュウ」<よく醸した酒つぼ> 「猶ユウ」 と 「奠テン」

2022年05月07日 | 漢字の音符
  シュウ・おさ  酉部        

解字 篆文・旧字とも、酒つぼの上に酒気の発している形。酉ユウは酒つぼ、その上の八は酒気。よく醸した酒が入ったつぼを意味する。酒は祭事にもちいることが多く、政府は官の酒を造るのに酒造りの官に命じて造らせた。その長を「大酋タイシュウ」と言ったので、酋だけで「おさ・かしら」の意味になった。新字体で使われるとき、酋⇒「ソ+酉」の形となる。
意味 (1)よく熟した酒。ふる酒。(2)酒の醸造をつかさどる官。「大酋タイシュウ」(酒づくりの職人の長)(3)おさ(酋)。かしら。「酋長シュウチョウ」(①異民族のかしら。②盗賊などのかしら。)「酋渠シュウキョ」(おさ。かしら。首領)

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 「かもされた酒つぼ」(酋・遒・猷・楢) 
 「形声字」(猶・鰌) 
音の変化 シュウ:酋・遒・鰌  ユウ:猷・楢・猶

かもされた酒つぼ
 シュウ・ジュ・せまる・つよい  辶部
解字 「辶(ゆく)+酋(おさ・かしら。酋長)」の会意形声。酋は、かもされた酒樽の形だが、転じて、おさ(酋)・酋長の意味がある。遒シュウは酋長がゆく意で、せまる意、また、つよい意となる。
意味 (1)せまる(遒る)。ちかづく。(2)つよい(遒い)。力強い。「遒勁シュウケイ」(遒も勁も、つよい意。書画・文章などの筆が力強い)「遒麗シュウレイ」(文章が力強く美しい)「遒逸シュウイツ」(文章が力強くすぐれる)
 ユウ・はかる   犬部 
解字 「犬(いぬ)+酋(かもされた酒樽)」の会意形声。犠牲の犬とともに、かもされた酒樽を神に供え、神に問う(諮はかる)こと[字統]。
意味 (1)はかる(猷る)・はかりごと(猷)「猷詢ユウジュン」(たずねはかる)「嘉猷カユウ」(よいはかりごと)「猷念ユウネン」(心にはかり思う)「猷慮ユウリョ」(はかりごと)(2)(神が示した)みち。「猷訓ユウクン」(正しいみちをおしえる)「修猷シュウユウ」(みちをおさめる)「修猷館シュウユウカン」(福岡藩の藩校(東学問稽古所)に起源を持つ県立高校)
 ユウ・なら  木部
解字 「木(き)+酋(かもされた酒たる)」の会意形声。ここでの酋は酒樽(たる)の意。陶製の酒つぼのほかに木製の酒樽もある。楢は酒樽の材料となる木。日本酒の樽は杉材だが、中国ではクヌギ、ヨーロッパではオーク(ヨーロッパナラ)などを使う。これらの木は広い意味で楢(なら)の木になる。
意味 (1)なら(楢)。ブナ科コナラ亜属のうち、落葉性の広葉樹の総称。クヌギ・ミズナラ・コナラなどの総称。これらの木は水を含むと膨張し水を漏らさないので酒樽の材料に向いている。また、家具の材料となるほか、薪や炭の材料ともなる。「楢櫟ユウレキ」(ならと、くぬぎ)(2)地名。「楢原ならはら」「楢山ならやま

形声字
 ユウ・なお  犭部  
解字 旧字は「犭(けもの)+酋(ユウ)」の形声。ユウは悠ユウ(ゆったりした)に通じ、ゆったりした動きをする猿の意。意味の(3)以下は仮借カシャ(当て字)。新字体は猶に変化。
意味 (1)猿の一種。(2)ためらう。ぐずぐずする。「猶予ユウヨ」(猶も予も、ためらう意。ためらうこと。延ばすこと)(3)なお(猶)。やはり。なお~ごとし。ちょうど~のようである。似ている。「過ぎたるは猶(なお)及ば不(ざ)るがごとし」「猶子ユウシ」(子のごとしの意で、兄弟の子である甥・姪、また養子をいう)
 シュウ・シュ・どじょう  魚部
解字 「魚+酋(シュウ)」の形声。シュウという名の魚。どじょうをいう。同じシュウの発音をもつ鰍シュウも中国でドジョウの意であり(日本ではカジカの意)、シュウという音にドジョウの特徴を表すイメージが含まれていると思われる。
意味 どじょう(鰌)。ドジョウ科の淡水魚。「泥鰌どじょう」とも書く。


   テン・まつる
 テン・デン・まつる・さだめる  大部              

解字 篆文は「酋(かもされた酒つぼ)+丌(台)」の会意。かもされた酒つぼを台の上に供えて祭る形。現代字は篆文の丌⇒大に変化した。
意味 (1)まつる(奠る)。神仏に酒食などを供える。「奠茶テンチャ」(茶を供える)「乞巧奠キコウデン」(七夕に供え物をして二星を祭り手芸がうまくなるよう祈る行事)(2)そなえる。「香奠コウデン」(線香をそなえる。線香に代える金銭=香典)(3)さだめる(奠める)。位置をきめる。「奠都テント」(都をさだめる)

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 「かもされた酒つぼ」(奠)
 「形声字」(鄭・擲・躑)
音の変化  テン:奠  テイ:鄭  テキ:擲・躑 
 
形声字
 テイ  阝部
解字 「阝(まち)+奠(テン⇒テイ)」 の形声。テイという名のまち・くに、および姓。また、鄭テイに含まれている奠テン(神仏に酒食をそなえる)に通じ、礼儀ただしい・ていねいの意がある。
意味 (1)地名。「鄭州テイシュウ」(中国河南省の省都)(2)姓。「鄭成功テイセイコウ」(明末の遺臣。清軍と戦い台湾に拠って奮戦した)(3)礼儀ただしい。ていねい。ねんごろ。「鄭重テイチョウ」(=丁重)
 テキ・チャク・なげうつ・なげる  扌部
解字 「扌(て)+鄭(テイ⇒テキ)」の形声。テキは擿テキ(なげうつ・なげる)に通じ、なげうつこと。擲はもと、擿テキの俗字として使われた字。擿テキは、「扌(て)+適(テキ)」で敵テキに通じ、敵に手で物を投げつけること。鄭の発音は、テイ⇒テキ・チャク(慣用)に変化。
意味 (1)なげうつ(擲つ)。なげる(擲る)。なげとばす。「投擲トウテキ」(①投も擲も、なげる意。②投擲競技の略。陸上競技の砲丸投げ・円盤投げ・ハンマー投げ・やり投げの総称)(2)サイコロをなげる。ばくちをする。「乾坤一擲ケンコンイッテキ」(サイコロを投げて大きな勝負をする)(3)うちたたく。「打擲チョウチャク」(打ちたたく)
 テキ・ジャク・たちもとおる  足部
解字 躑テキの発音のテキは蹢テキ(たたずむ)に通じ、たたずむ意。たちもとおる意となる。
意味 (1)たちもとおる。たちどまる。たたずむ。「躑躅テキチョク」(たちもとおる。=蹢躅テキチョク」「躑跼テキキョク」(行きなやむ) 
 躑躅(ウィキペディアより)
(2)つつじ(躑躅)。ツツジ科の常緑または落葉低木の通称、春から夏にかけ色とりどりの花が咲く。躑躅テキチョクは、たちどまる・たたずむ意味があり、花の「ツツジ」の意味に使われたのは、ツツジの花が「見る人が足を止めるほど美しい」ことが由来しているとされる。中国では杜鵑花トケンカ(さつきつつじ)の別名となっている。「躑躅ヶ崎館やかた」(山梨県甲府市古府中にあった甲斐国守護武田氏の居館。戦国大名武田氏の領国経営における中心地。
<紫色は常用漢字>

関連音符
ソン・とうとい」。篆文は「酋(酒つぼから酒気の発している形)+寸(手)」。酒つぼに入った良酒を神にささげるので、とうとい意となる。
「尊ソン」


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音符 「巾キン」 <きれ> と 「吊つる」「凧たこ」

2022年05月04日 | 漢字の音符
キン・きれ  巾部 

         
解字 [説文解字]に「佩巾ハイキンなり」とあり、儀礼のとき腰に帯びる巾(布)とするが、字形からイメージしにくい。上図は、中国の初級漢字学習書の[漢字演変字典1000例]の巾の模写図。杭くいに手ぬぐいを掛けたような形を描いているが、この図が巾をイメージし易いと思うので模写で引用させていただいた。巾は布を垂らした形であり、布の意味を表す。すべて布のたぐいは、大小にかかわらず巾で示す。巾は部首となり漢字の構成要素となるときも、ほとんどが「布」を示す記号となる。
意味 (1)きれ。ぬのきれ。てぬぐい。「手巾シュキン」(てふき)「巾着キンチャク」(布で作った袋の財布)「雑巾ゾウキン」「巾笥キンシ」(布張りの小箱) (2)おおい。かぶりもの。「頭巾ズキン」 (3)はば(巾)。幅(はば)の略字として用いる。
参考 巾は部首「巾はば・はばへん」になる。漢字の偏(左辺)や下部(脚)につき、布きれや布で作られたものを表す。14,600字収録の「新漢語林」の巾部には79字が収録されている。
常用漢字 17字
 キン(部首)
 キ・まれ(巾+音符「爻コウ」)
 キ・かえる(巾を含む会意)
 シ・いち(字形に巾を含む)
 (字形に巾を含む)
 ジョウ・つね(巾+音符「尚ショウ」)
 スイ・ひきいる(巾+𠂤タイの会意)
 セキ (字形に巾を含む)
 タイ・おび(字形に巾を含む)
 テイ・みかど(巾を含む会意)
 チョウ・とばり(巾+音符「長チョウ」)
 バク(巾+音符「莫バク」)
 ハン・ほ(巾+音符「凡ハン」)
 フ・ぬの(巾+音符「父フの略体」)
 フク・はば(巾+音符「畐フク」)
 ヘイ・ぬさ(巾+音符「敝ヘイ」)
 ボウ(巾+音符「冒ボウ」)
部首の巾は音符の宝庫
 以上のうち、希キ・市シ・師シ・席セキ・帯タイ・帝テイ・布フは音符になる。なお、常用漢字以外では、帛ハク・帚ソウが音符となり、部首の巾は音符の宝庫である。

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 「ぬの」(巾・凧)
 「同体字」(吊)
音の変化 キン:巾  チョウ:吊  たこ:凧
ぬの
<国字> たこ  几部
解字 「几(風の略体)+巾(ぬの)」の会意の国字。中国では凧を風箏フウソウというが、古くは紙鳶シエン・紙老鴟シロウシ・風鳶フウエン・鳳巾ホウキンなどとも書かれた。日本へもこれらの字が伝わり、江戸期には訓読みで「いかのぼり」と呼ばれていた。凧の字のもとになったのは鳳巾ホウキンと考えられる。鳳ホウには風の意味もあるので鳳巾は風巾であり、文字からいうと風に揚げる布製の凧になる。この二字を合わせた凧の国字が江戸後期に生まれ、江戸で一般的な呼び名だった「たこ」の名がついた。
意味 たこ(凧)。細竹の骨組みに紙など貼り、糸をつけて空中に放ち、引きながら風の揚力で飛揚させる玩具。凧を安定させるためつける尻尾とよばれる細長い紙が、イカの足に似ているので関西でイカノボリ(また、略してイカ)と呼ばれたが、関東では蛸の足になぞらえてタコと呼び、この名が定着した。「凧揚(たこあ)げ」(凧を揚げること。また、子供の正月の遊び)

同体字
 チョウ・つる・つるす  口部


解字 篆文は「人+弓」の会意。亡くなった人の傍らに弓をおき、死者の霊を邪悪から守ること。転じて、死者の霊をなぐさめる意の弔チョウ(とむらう)となる字(下段)だが、さらに変化して吊チョウの形となり、明代から弔チョウの俗字として使われた。現代の中国語では弔う意で使われるが、日本では釣チョウ(つる)に通じ、つる意で用いる。
意味 (1)つる(吊る)。つるす(吊す)。つりさげる。「吊橋つりばし=釣橋」「吊輪つりわ」「吊革つりかわ」「吊し柿」(つるして干した柿) (2)とむらう。

参考
 ハク・きぬ  巾部

解字 「白(しろい)+巾(ぬの)」の会意形声。白い絹織物のこと。古代中国で絹布は字や画を書く材料としても用いられた。
意味 きぬ(帛)。しろぎぬ。絹織物の総称。「帛書ハクショ」(絹に書いた文書や手紙)「布帛フハク」(布は麻・棉などの植物繊維の布、帛は絹織物をいう。併せて織物の総称。きれじ)「竹帛チクハク」(竹簡と帛書、両者とも書物となるので書籍のこと)
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 「しろぎぬ」(帛・綿・棉・錦)
音の変化  ハク:帛  メン:綿・棉  キン:錦
音符「帛ハク」へ





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音符「咼カ」< まるい穴 >「渦カ」「鍋カ」「禍カ」「過カ」

2022年05月01日 | 漢字の音符
  禍の字形変遷図を追加しました。 
 カ  口部

解字 は、手足の骨が連続してつながる形で、ここでは関節部分をさす。そこに口のついた咼は、関節部分がまるいことを表し、関節の先端が、とびでてまるい意と、それを受けるへこんでまるい部分をいう。具体的には、大たい骨のまるい上部とそれを受ける骨盤の骨臼をさすものと思われる。咼を音符に含む字は、関節の骨の一方のくぼんだ「まるい穴」、骨の一方のまるく出た「まるい山形」のイメージをもつ。

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 「まるいくぼみや穴」
(渦・鍋・堝・窩・禍)
 「まるい山形」(蝸)
 「その他」(過)
音の変化  カ:渦・鍋・堝・禍・窩・蝸・過

まるいくぼみや穴
 カ・うず  氵部
解字 「氵(水)+咼(まるいくぼみ)」の会意形声。水がうずまいてまるい穴のようになること。
意味 (1)うず(渦)。うずまき。うずまく。「渦中カチュウ」「渦潮うずしお
 カ・なべ  金部
解字 「金(金属)+咼(まるいくぼみ)」の会意形声。金属製のまるくて底の浅い器。
意味 なべ(鍋)。炊事に用いる器。「鍋物なべもの」「手鍋てなべ」「夜鍋よなべ」(夜に鍋をかけ夜食をとりながら仕事をする)「夜鍋仕事よなべしごと」「鍋戸カコ」(大鍋で海水を煮詰めて塩を作る家)
 カ・るつぼ  土部
解字 「土(つち)+咼(まるい穴)」の会意形声。まるい穴のかたちの土焼きの器。
意味 るつぼ(堝)。中に物質を入れて加熱して溶かす耐熱製の容器。化学実験では磁器製のものが普通だが黒鉛製などもある。「坩堝カンカ・るつぼ
 カ  穴部
解字 「穴(あな)+咼(まるい穴)」の会意形声。まるくあいた穴。
意味 (1)あな。くぼみ。むろ。まるい穴のかたちの巣。「腋窩エキカ」(腋の下のくぼんだ所)「燕窩エンカ」(ツバメのまるい巣。中華料理の高級材料となる)「眼窩ガンカ」(眼球が入っている頭骨のあな)「蜂窩ホウカ」(蜂の巣)「蜂窩織炎ホウカシキエン」(皮膚下の蜂の巣のような粗い組織で起こる化膿性炎症) (2)物をかくす。かくす場所。「窩蔵カゾウ」(隠し場所)「窩主カシュ」(窩蔵の主。盗品を売りさばく人や店)「窩逃カトウ」(逃亡者をかくまう)
 カ・わざわい  ネ部

解字 「ネ(=示。祭壇・神)+咼(まるい穴)」の会意形声。神のたたりを受けて思いがけない穴(落とし穴)にはまること。
意味 わざわい(禍)。ふしあわせ。「禍根カコン」(わざわいの起こるもと)「禍根を絶つ」「災禍サイカ」「コロナ禍」(コロナウィルス感染の蔓延による禍わざわい。2020年~)「禍福カフク」(わざわいとしあわせ)「禍福は糾(あざな)える縄の如し」(幸福と不幸は、より合わせた縄のように交互にやってくる)

まるい山形
 カ・ラ  虫部
解字 「虫(むし)+咼(まるい山形)」の会意形声。丸い山形の殻をもつカタツムリ。
意味 Ⅰ.カの発音。かたつむり。「蝸牛カギュウ・かたつむり」「蝸角カカク」(かたつむりの角) Ⅱ.ラの音。にし。にな。巻貝の名。「蝸螺ララ・にな

その他
 カ・すぎる・すごす・あやまつ・あやまち  辶部

解字 金文は、「 冎(足の骨がつながった形)+彳(ゆく)+止(あし)」の会意形声。「彳+止」は篆文で辵チャクとなり、現代字でしんにょう(辶:ゆく)となる字。つまり、足の骨(死んだ人の足)が行く形で、現在でなく過去の「行ったこと」を表す。篆文から冎が、同音の咼に変化した。過は、すぎる・時がすぎる意となる。また、禍(わざわい)に通じ、しくじる意味もある。
意味 (1)すぎる(過ぎる)。通りすぎる。よぎる(過る)。「通過ツウカ」「過客カカク」(①通り過ぎてゆく人。旅人。②来客) (2)時がすぎる。すぎる(過ぎる)。すごす(過ごす)。「過去カコ」「過程カテイ」(経過したみちすじ。プロセス) (3)度がすぎる。すぎる(過ぎる)。「過信カシン」 (4)しくじる。あやまつ(過つ)。あやまち(過ち)。とが(過)。「過失カシツ」「過誤カゴ」(あやまち。過も誤も、あやまちの意)
<紫色は常用漢字>

<関連音符>
 カ   冂部
解字 手ないし足の骨が連結した形。手足の骨が関節によってつながるさまの象形で、骨の原字。音符「冎」を参照。

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