漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

音符「至シ」<いたりてとまる>「室シツ」「窒チツ」と「致チ」<いたらせる>「緻チ」

2016年08月29日 | 漢字の音符
 シ・いたる  至部
 
解字 「矢が下方に進むさま+ 一 印(めざす線)」の会意。矢が目標線まで届くさま。現代字は、「矢の先と一印」が土に変化した至になった。矢が「届く・至る」意。至を音符に含む字は、「いたりとどまる」の他、「ぴったりつく」イメージを持つ。
意味 (1)いたる(至る)。とどく。「冬至トウジ」「夏至ゲシ」「必至ヒッシ」(必ずいたる)「開戦は必至だ」(2)このうえもない。きわめて。「至言シゲン」「至近シキン」「至急シキュウ

イメージ 
 「いたりとどまる」(至・室・鰘・窒・膣) 
  いたりて「ぴったりつく」(桎・蛭・姪)
音の変化  シ:至  シツ:室・桎・蛭  チツ:窒・膣  テツ:姪  むろあじ:鰘

いたりとどまる
 シツ・むろ  宀部  
解字 「宀(たてもの)+至(いたりとどまる)」の会意形声。人々が至りとどまる建物。大きな建物の場合は宮殿などの建物、普通の建物の場合は、いえ・住宅の意となり、さらに、転じて宮殿や家などの部屋をいう。現在は部屋の意味が主流になった。日本では、周囲を壁でかこんだ「むろ」の意味もある。
意味 (1)へや。「教室キョウシツ」「温室オンシツ」 (2)大きな家。宮殿。大きな家にすむ一族。「宮室キュウシツ」(宮殿)「皇室コウシツ」(天皇を中心とする一族)「王室オウシツ」(国王一家) (3)いえ。「室家シッカ」(いえ。家族) (4)(妻がすむ部屋から)つま。夫人。「正室セイシツ」(⇔側室ソクシツ)「令室レイシツ」(他人の妻の尊敬語) (5)[国]むろ(室)。周囲を壁でかこんだ部屋。山腹などの岩屋。「氷室ヒムロ」(氷を夏まで貯蔵する部屋)
<国字> むろあじ  魚部
解字 「魚(さかな)+室(むろ)」の会意。室津(兵庫県の瀬戸内の漁港)で多く漁獲される魚から名付けられたと言われる。
意味 むろあじ(鰘)。室鯵とも書く。アジ科の魚。マアジより少し大形。開き(干物)として賞味される。
 チツ・ふさがる  穴部  
解字 「穴(あな)+至(いたりとどまる)」の会意形声。穴の奥で行きづまって先に進めないこと。
意味 (1)ふさがる(窒がる)。ふさぐ。「窒息チッソク」 (2)元素の名。「窒素チッソ」(空気の8割を占める気体元素。窒素だけでは窒息してしまうので付けられた)
 チツ  月部にく
解字 「月(からだ)+窒(行きづまった穴)」の会意形声。女性の性器のこと。
意味 ちつ(膣)。女性の性器。子宮から体外に通じる管。

ぴったりつく
 シツ・あしかせ  木部
解字 「木(き)+至(ぴったりつく)」の会意形声。身体にぴたりとくいこむ木製の足かせ。
意味 (1)あしかせ(桎)。足枷とも書く。罪人の足にはめる刑具。手にはめる刑具を梏コクという。「桎梏シッコク」(①足かせと手かせ②自由を束縛するもの) (2)あしかせをはめる。
 シツ・テツ ひる  虫部
解字 「虫(むし)+至(ぴったりつく)」の会意形声。人の皮膚にぴったりと付いて血を吸うヒル。
意味 ひる(蛭)。他の動物に吸いついて血を吸うヒル類の総称。「肝蛭カンテツ」(山羊・牛などの草食獣と人の肝臓に寄生する吸虫)「蛭子ひるこ」(①日本神話でイザナギ・イザナミの間に生まれた子。3歳になっても脚が立たず海に流されたと伝える。②七福神の一人=恵比寿)
 テツ・めい  女部
解字 「女(おんな)+至(ぴったりつく)」の会意形声。ぴったりとつきそう女。もと、諸侯に嫁ぐ婦人には父の兄弟の子(女)がつきそう習慣があり、この女を意味した。のち兄弟姉妹の子(娘)をいうようになった。
意味 めい(姪)。兄弟姉妹の娘。「姪甥テツセイ」(めいとおい)「姪孫テッソン」(兄弟姉妹の孫)


    チ <いたらせる>
 チ・いたす  至部            

解字 金文は「人(ひと)+至(いたりとどまる)」の会意で、人をいたらせること。自動詞の至(いたる)に対して、他動詞(いたらせる)として用いる。篆文で、人⇒夂(あし)になり歩いていたらせる、さらに現代字で夂⇒攵ボク(=攴。うつ・たたく)に変化した致になった。現代字を文字どおりに解釈すると、たたいて至らせるとなる。また、相手をこちらにいたらせる意も生じた。
意味 (1)いたす(致す)。いたらせる。「致死チシ」(死にいたらせる)「致命傷チメイショウ」(命を終わりにいたらせる傷) (2)いたす(致す)。こちらにいたらせる。まねきよせる。「誘致ユウチ」(誘いよせる) (3)きわめる。行きつく。「合致ガッチ」 (4)気持ちのいたるところ。おもむき。「風致フウチ」(自然のおもむき)「雅致ガチ」(風雅なおもむき)

イメージ 
 「いたらせる」(致・緻)
音の変化  チ:致・緻

いたらせる
 チ・こまかい  糸部  
解字 「糸(いと)+致(いたらせる)」の会意形声。糸と糸の間を隙間なくつめて織ること。
意味 こまかい(緻かい)。目がつまって隙間がない。きめがこまかい。「緻密チミツ」「精緻セイチ
<紫色は常用漢字>

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もう一つの部首 「㫃(方𠂉)エン」 <旗がなびくさま>

2016年08月04日 | 漢字の音符

 上図は、旅リョの古代文字である。甲骨文は、旗がなびく棹を持った人のあとに人がついている形。金文第一字も同じ形だが、第二字は下に車が描かれており軍の行進を表している。篆文から「㫃(はた)+从(人がしたがう)」の形になり、現代字で旅となった。古代文字の変遷から分かるように、甲骨文・金文の旗がなびく形は、篆文で「㫃」、現代字では「方𠂉」に変化した。
 現代字で旗のかたちは「方𠂉」となっているため、ほとんどの人は気付かないが、これは旗のしるしなのである。結局、「方𠂉」は旗を表す部首の「たれ」の役割をしている。しかし、部首にならずに方部のなかで埋もれている。方𠂉を見付けたら、「これは旗のしるしだ!」と見つけてあげよう。

部首の役割をしている㫃(方𠂉) 
 リョ・たび  方部
解字 「方𠂉(はた)+二人の人の変形」 で、旗をもった人のあとに人がついていく形。旗ざおをもった人に導かれて旅をすること。また、軍旗の下に隊列を組んで出行する軍をいう。
意味 (1)たび(旅)。たびをする。「旅行リョコウ」「旅館リョカン」「旅路たびじ」 (2)軍隊。「旅団リョダン」(二、三個連隊からなる陸軍部隊の編成単位)

 キ・はた 方部
解字 「方𠂉(はた)+其キ(四角い)」 の会意形声。其は箕 のかたちで四角いイメージがある。それに方𠂉(はた)ついた旗は四角い旗の意。
意味 はた(旗)。はたじるし。「旗手キシュ」「校旗コウキ」「旗艦キカン」(司令官が乗っている軍艦)

 ユウ・あそぶ  辶部
解字 「辶(ゆく)+方𠂉(はた)+子(こども)」 で、子供が旗のまわりで遊んであるくこと。
意味 (1)あそぶ(遊ぶ)。楽しむ。「遊戯ユウギ」「遊興ユウキョウ」(遊び興ずる)「遊山ユサン」(山野に遊びに出る) (2)旅をする。勉学に他国へ行く。「漫遊マンユウ」(心のままに諸国をめぐり旅をする)「遊学ユウガク」(よその土地で学問をする) 

 ゾク・やから  方部
解字 「方𠂉(はた)+矢(や)」 の会意。旗の下にたくさん矢をならべた形。旗は氏族(同じ血統の者)の旗であり、また、氏族軍の象徴で矢は誓約するときに用いる。族は氏族旗のもとで誓約する氏族の構成員の軍士・族人をいう[字統]。
意味 (1)やから(族)。みうち。血つづき。「家族カゾク」「親族シンゾク」 (2)家柄。血統上の身分。「王族オウゾク」「豪族ゴウゾク」「貴族キゾク」 (3)なかま。同類。「民族ミンゾク」「語族ゴゾク」「カミナリ族」

 セン・めぐる 方部
解字 「方𠂉(はた)+疋(あし・あるく)」 の会意。旗の周りをあるくこと。また、旗を持ってあるくこと。
意味 (1)めぐる(旋る)。ぐるぐるまわる。「旋回センカイ」 (2)相手との間を行き来する。とりもつ。「斡旋アッセン」「周旋シュウセン」 (3)かえる。「凱旋ガイセン

 シ・セ・ほどこす  方部
解字 「方𠂉(はた)+也(うねる)」 の会意。也はヘビの象形で、ヘビがうねるイメージがある。施は、うねりながらなびく旗のこと。旗をなびかせて人々を指揮して動かし、諸事をおこなうこと。また、「ほどこす」(必要な処置をとる)意から「めぐみ与える」意が派生した。
意味 (1)旗がなびく。 (2)実行する。おこなう。ゆきわたらせる。しく。「実施ジッシ」 (3)ほどこす(施す)。必要な処置をとる。「施策シサク」(ほどこすべき対策)「施錠セジョウ」(錠をかける) (4)ほどこす(施す)。めぐみ与える。「布施フセ」(施しめぐむ)「施薬セヤク」(薬をほどこす)

 セン・はた  方部
解字 「方𠂉(はた)+丹(あかい)」の会意形声。赤い色の旗をいう。また、氈セン(毛織物)に通じ、毛おりものの意でも使われる。
意味 (1)はた(旃)。無地の赤い旗。「旃旌センセイ」(はた。旃も旌も、はたの意)  (2)毛おりもの。「旃毛センモウ」(毛織の衣服の毛)

 ボウ  方部
解字 「方𠂉(はた)+毛(け)」の会意形声。旄ボウはヤクの毛をまとめて丸くした飾りを旗竿の上から5つほど連続して吊りさげた旗。皇帝の使節に任命の印として与えられた。この連続した丸い飾りを星になぞらえ、連続して数個がまとまる星であるスバルに当て、中国で旄頭星ボウトウセイともよばれた。また、同音の昴ボウがスバル星に当てられる。
 ボウを持つ使節
意味 (1)はたかざり。さしずばた。「羽旄ウボウ」(雉の羽とヤクの毛を、竿の先端に飾りつけた旗)「旄頭星ボウトウセイ」(スバル星) (2)ヤク。からうし。「旄牛ボウギュウ」(ヤクの別称)
<紫色は常用漢字>

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