漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

音符「五ゴ」<上下の二線が交差する>と「吾ゴ」「悟ゴ」「語ゴ」 

2021年01月29日 | 漢字の音符
 ゴ・いつ・いつつ  二部

解字 「二(上と下の二つの線)+Ⅹ印(中心で交差する線)」 の指示文字。上から出た線と下から出た線が交わる形。仮借カシャ(当て字)して数字の五を表す。現代字は変形して五となった。
意味 いつつ(五つ)。数の名。いつたび。「五感ゴカン」「五穀ゴコク」「五節句ゴセック」「五臓六腑ゴゾウロップ」(はらわた。内臓)「五里霧中ゴリムチュウ」(手掛かりがつかめずとまどう)

イメージ  
 「いつつ」
(五・伍)
音の変化  ゴ:五・伍
  
 ゴ  イ部
解字 「イ(ひと)+五(いつつ)」の会意形声。五人の意で、五人一組の仲間をいう。
意味 (1)くみ(組)。なかま。五人一組の単位。五戸一組の単位。「伍長ゴチョウ」(①軍隊で五人の兵卒の長。②五戸一組の隣組の長)「隊伍タイゴ」(隊列の組。くみ) (2)「五」の代わりとして用いる。


    ゴ <口で話して交わる>
 ゴ・われ  口部

解字 「口(くち)+五(交差する)」 の会意形声。五は上と下の線が交差するかたちで、まじわるイメージがある。吾は、口で話して互いに交わること。仮借カシャ(当て字)され、一人称の代名詞となった。
意味 (1)われ(吾)。わが。じぶん。「吾輩わがはい」(①われ。②われら)「吾人ゴジン」(われら) (2)相手を親しんで呼ぶときに添える語。「吾兄ゴケイ」(親しい友人をいう)

イメージ  
 「仮借カシャ」
(吾)
 「口で話して交わる」(悟・語・寤・圄)
 「形声字」(梧・鼯・齬・衙)
音の変化  ゴ:吾・悟・語・寤・圄・齬・梧・鼯  ガ:衙

口で話して交わる
 ゴ・さとる  忄部
解字 「忄(心)+吾(口で話して交わる)」の会意形声。吾は口で話して交わること。悟は、口で相手と話して初めて心でわかること。
意味 (1)さとる(悟る)。さとす。思い当たる。「悟空ゴクウ」(①空(虚無)の真理をさとる。②「西遊記」の主人公の猿) (2)迷いからさめる。真理に目覚める。「覚悟カクゴ」(迷いを去り道理を悟る。心構え。観念する)「悟性ゴセイ」(物事を判断する思考力) (3)さとい。かしこい。「英悟エイゴ」 (4)めざめる(=寤
 ゴ・かたる・かたらう  言部
解字 「言(いう)+吾(口で話して交わる)」の会意形声。吾は口で話して交わること。語は、吾の意味を、言(いう)を付けて強めた字。また、言葉一般の意味にもなる。
意味 (1)かたる(語る)。かたらう(語らう)。ものがたる。議論する。「落語ラクゴ」「私語シゴ」「語り部ベ」 (2)ことば。ご。「言語ゲンゴ」「語源ゴゲン」「英語エイゴ
 ゴ・さめる  宀部 
解字 「宀(たてもの)+爿(ベッド)+吾(=悟。さめる)」 の会意形声。爿はここで木製のベッドの意。建物の中のベットで人が目覚めた状態をいう。対語は寐(寝る)。悟に通じ、さとる意でも用いる。
意味 (1)さめる(寤める)「寤寐ゴビ」(①目覚めることと寝ること。②寝てもさめても) (2)さとる。「覚寤カクゴ」(さとる)「醒寤セイゴ」(さとる)「改寤カイゴ」(さとって改める)
 ゴ・ギョ  囗部
解字 「囗(かこい)+吾(口で話して交わる)」の会意形声。囲いの中に閉じ込められ、口で話して交わることができない状態をいう。
意味 ひとや(圄)。牢獄。「囹圄レイギョ・レイゴ」(牢獄。囹も圄も、牢屋の意)「圄空ギョクウ」(罪人がなく牢屋が空になる。国家が治まっている例え)

形声字
 ゴ  木部

アオギリの実(「恵那山ねっと」より)
解字 「木(き)+吾(ゴ)」の会意形声。ゴは五(いつつ)に通じ、五つのがく片からなる花をもち、実は完熟前に舟形の5片に割れ、舟の中に小球状の種子を付ける木。
意味 (1)あおぎり。アオギリ科の落葉高木。庭木・街路樹にし、材は建具・家具・楽器などに用いる。「梧桐ゴトウ・あおぎり」「梧陰ゴイン」(あおぎりのかげ) (2)(あおぎり製の)つくえ。「梧下ゴカ」(手紙の宛名の脇付の語。=机下。梧右)
 ゴ・むささび  鼠部

ムササビの飛行姿
解字 「鼠(ねずみ)+吾(ゴ)」の形声。ゴは五に通じ、木から木へと前足と後足をひろげて飛ぶ姿が五の古代文字に似ているネズミの一種。
意味 むささび(鼯)。ネズミ属リス科の哺乳類。長い前足と後足との間に飛膜と呼ばれる膜があり、飛膜を広げることでグライダーのように滑空し、樹から樹へと飛び移ることができる。「ももんが」にもこの字を当てる。「鼯鼠ゴソ・むささび
 ゴ  歯部
解字 「歯(は)+吾(ゴ)」の形声。ゴは互(たがいちがい)に通じ、歯のかみ合わせが合わない事。
意味 くいちがう。「齟齬ソゴ」(くいちがい。ゆきちがい)
 ガ  行部
解字 「行(ゆく)+吾(ガ)」の形声。ガは牙(きば)に通じ、牙旗ガキ(旗の竿頭を象牙で飾った旗で、大将軍の旗を意味する)の意。衙は、軍行のとき将軍が牙旗を立てた場所で、将軍のいるところを表す。のち、官衙カンガ(官庁)の意味となった。[字統]
意味 (1)役所。つかさ。「官衙カンガ」「公衙コウガ」「国衙コクガ」(国司の役所) (2)天子のいる所。宮城。「衙兵ガヘイ」(宮城を守る兵隊) (3)まいる。役所に出勤する。「衙参ガサン」(官吏が宮廷に参集すること)
<紫色は常用漢字>

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精選漢字4340字の音符と部首の対応関係

2021年01月24日 | 漢字音符研究会
  精選漢字4340字の音符は部首とどのように結びついているか
 私が編集した『音符順 精選漢字学習字典』を使用されている松繁弘之先生から昨年(2020年)10月に以下のような偏旁冠脚の一覧表をメールでいただいた。メールの前書きには「『音符順 精選漢字学習字典』に沿って偏旁冠脚の一覧表を作成いたしました。字典の教材化の一端として、このようなものがあれば便利ではないかと考えたからです。ご参考まで。」と書かれていました。以下がその表の最初の数行です。
 
 この表は上部に、偏(へん)旁(つくり)冠(かんむり)脚(あし)を一区切りとし、さらにその横に、構(かまえ)垂(たれ)繞(にょう)を一区切りとした部首の一覧が配置され、区切りはタテ線が下方に伸びて部首の領域を表している。
 一方、左側の欄は、音符が発音の五十音順に配列され『音符順 精選漢字学習字典』に掲載されているすべての音符が掲載されていました。音符の横の欄と、部首のタテの欄が交わるところに記入されているのが、具体的な部首にあたる字で、例えば最初の亜は、偏の欄に口、脚の欄に心があるので、〇がついている音符字の亜のほか、唖・悪アクが音符の家族字であることを示している。

 これを見た私は「音符と部首の関係をこのような表であらわす方法があるのか」と感心した。そして、この表のさらに右側に音符と部首によって結びついた字を配列したら、音符と部首の関係が分かる一覧表ができる、と思い至った。そこで松繁先生にこの考えを伝えたところ、「その表は(私・石沢に)お任せします」という返事をいただいた。そこで昨年11月から一覧表の作成にとりかかり、このほど完成した。以下は最初のページの一部です。
 
 この表は音符家族の欄を設けたため、部首の欄は縮小し該当する部首だけを偏旁冠脚の順に記入し、各部首の区切りの間に「/」を入れて区切りがあることを明確にした。こうして出来上がった一覧表は精選漢字の一字一字の構造を明らかにしたものといえる。

『音符順 精選漢字学習字典』には2136字の常用漢字をはじめ、漢検準1級に配当されるすべての字(843字)、さらに漢検1級字の中から重要と思われる1361字を含む、4340字が収録されている。いわば現在の日本で最もよく用いられる重要漢字の集まりである。これらの重要漢字が、その音符と部首がどのように結びついて成立しているかを明らかにしたものです。
 以下に公開させていただきます。

最初だけ見たい方
精選漢字の音符と部首の対応関係一覧表(最初から3頁まで)

全てを見たい方
精選漢字の音符と部首の対応関係一覧表(全頁。36頁)

『音符順 精選漢字学習字典』については以下をごらんください。
『音符順 精選漢字学習字典 ネット連動版』 - 漢字の音符 (goo.ne.jp)



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音符「御ギョ」<ひざまずいて祈る>  と 「禦ギョ」「卸シャ」

2021年01月21日 | 漢字の音符
 ギョ・ゴ・おん  彳部

解字 甲骨文字はひざまずいた人が杵形の信仰対象物に祈っているかたち。人に降りかかる災厄をふせぐ祈りで禦ギョ(ふせぐ)の原字とされる。杵形の信仰対象物は二種が描かれている。金文第1字は杵形の中央がへこんだ新しいタイプ。第二字は杵形の上部ふくらみが横斜めの「𠆢」に変化し、彳(ゆく)と止(あし:あるく)が付いた。「彳+止(あし)」は足で進む意であり、杵形の信仰対象物は貴人の動きを示す形に変化し、天子と諸侯の行為や所有物に添える敬語の意味になった。字形は金文の止が、篆文で杵形の下につき、現代字の御へと変化した。
 なお、御の発音ギョは馬をあやつる馭ギョに通じ、金文の時代から馬や馬車をあやつる意や、その仕事をする官名などの意になっている。
意味 (1)天子と諸侯の行為や所有物にたいする敬語。「御幸ギョコウ・みゆき」(天子の外出。行幸)「御衣ギョイ」(天子の衣服)「御ギョジ」(天子の印)「御物ギョブツ」 (2)[国]おん(御)。お(御)。ご(御)。尊敬または丁寧の意を表す語。「御意向ごイコウ」「御菓子おカシ」「御社おんシャ」 (3)馬や馬車をあやつる。あやつり使いこなす。「御者ギョシャ」(①馬や馬車をあやつる人。②従者)「制御セイギョ」「統御トウギョ」 (4)官吏。「御史ギョシ」(中国の官名。時代により役割が異なる)「女御ニョウゴ」(女官) (5)ふせぐ。まもる。「防御ボウギョ」(=防禦)

イメージ
 「ひざまずいて祈る」(御・禦)
 「その他」(卸)
音の変化 ギョ:御・禦  シャ:卸

ひざまずいて祈る
 ギョ・ふせぐ  示部
解字 「示(祭壇)+御(ひざまずいていのる)」の会意形声。御の甲骨文は人に降りかかる災厄をふせぐため杵形の信仰対象物に祈る形。そこに示(祭壇)をつけて、ふせぐ意味を強調した字。災いから身をふせぐ、さらに敵から身をまもる意となった。
意味 (1)まつる。祭って災いをふせぐ。 (2)ふせぐ(禦ぐ)。まもる。「防禦ボウギョ」(=防御)「禦戦ギョセン」(ふせぎ戦う)「守禦シュギョ」(まもりふせぐ」

その他
 シャ・おろす・おろし  卩部
解字 御の字から「彳(ゆく)」を取り去って作った会意文字。御ギョは本来の意味のほか、馭ギョに通じ「馬をあやつる」意味があるが、そこから彳(ゆく)を取り去った卸シャは、「馬をあやつるのをやめる→馬をとめ荷物をおろす」意味となる。
意味 (1)[国]おろす(卸す)。荷物を下におろす。「棚卸たなおろし」「積卸つみおろし」 (2)[国]おろし(卸)。商品を問屋が小売業に売り渡すこと。「卸値おろしね」「卸売おろしうり」 (3)(束縛を)解く。のがれる。ぬぐ。「卸責シャセキ」(責任をのがれる)「卸頭シャトウ」(婦人が髪飾りをはずす) (4)おちる。「凋卸チョウシャ」(おちぶれておちる)
<紫色は常用漢字>


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音符 「鹿ロク」<しか> と「麓ロク」 「麗レイ」

2021年01月16日 | 漢字の音符
鹿 ロク・しか・か・しし  鹿部            

解字 鹿の姿をえがいた象形。甲骨文字は角を描き写実的だが、金文から変化しはじめ、現代字は角も消えて鹿のおもかげをとどめていない。しいて言えば、鹿の足が比となって残っているくらいか。
意味 (1)しか(鹿)。シカ科の哺乳動物の総称。「鹿(か)の子」「鹿角ロクカク」「神鹿シンロク」(神の使いとして神社で飼う鹿)「鹿鳴ロクメイ」(賓客を迎えてもてなす音楽や宴) (2)帝王の位のたとえ。「逐鹿チクロク」(帝位を争う) (3)しし(鹿)。鹿・猪などの総称。

イメージ 
 「しか」
(鹿・麓・塵・
 「ロクの音」(轆・漉)
音の変化  ロク:鹿・麓・轆・漉  ジン:塵  ソ:麤 

し か
 ロク・ふもと  木部
解字 「林(はやし)+鹿(しか)」の会意形声。鹿がすむ林。鹿は草原や森林にすみ、山の急な斜面にすまないことから、山のふもとの山林をいい、ふもとの意となる。
意味 (1)ふもと(麓)。山のすそ。「山麓サンロク」「岳麓ガクロク」 (2)はやし。
 ジン・ちり  土部
解字 正字は、「土(つちぼこり)+(鹿三匹・しかの群れ)」の会意。鹿の群れが移動するとき立ちのぼる土ぼこり。現代字は鹿がひとつになった。
意味 (1)ちり(塵)。ほこり。ごみ。「塵芥ジンカイ」「砂塵サジン」「後塵コウジン」(人々や車馬の走ったあとに立つ塵)「後塵を拝す」(後れをとる) (2)わずらわしい。俗世間。「塵界ジンカイ」「俗塵ゾクジン
麤[麁] ソ  鹿部
解字 「鹿+鹿+鹿」の会意。鹿の群れの意。鹿の群れがよく走るさまをいう。鹿は一団とならず、競って奔(はし)ることから、「あらい・あらあらしい」意がある。また同音の粗(あらい・粗末)と通用する。麁(ク+鹿)は異体字。
意味 (1)あらい(い・麁い)。あらあらしい。あらっぽい。「麤豪ソゴウ」(あらあらしく強い)「麤猛ソモウ」(あらあらしい) (2)あらい(=粗い)。粗末な。「麤茶ソチャ」(=粗茶)「麤飯ソハン」(=粗飯。粗末な飯)「麤略ソリャク」(=粗略。いいかげんなこと)「麤景ソケイ」(=粗景。粗末な景品) (3)古代の蝦夷(えみし)の三種の一つ(日本書紀斉明五年(659)七月条)「天子(唐の皇帝:高崇)は問いて曰く。蝦夷(えみし)は幾種(いくくさ)ぞや。遣唐使は謹んで答う。類(たぐひ)、三種(みくさ)有り。遠き者をば都加留(つがる)と名(なづ)け、次は麁蝦夷(あらえみし)、近き者をば熟蝦夷(にきえみし)と名(なづ)く。今しこれは(今居るこの者は)熟(にき)蝦夷なり。歳毎(としごと)に本国(日本)の朝(みかど)に入貢(貢ぎ物を持って来る)する)

ロクの音
 ロク  車部
解字 「車(くるま)+鹿(ロク)」の形声。ロクは日本語の発音からは想像しにくいが、車が回転する音の擬声語だという。「ギィ~」といったところか。そこから、車輪状のものがギィ~ギィ~と回転する意に使われる。
意味 (1)「轆轤ロクロ」に使われる字。轆轤とは、回転運動をする機械で、①木地細工で丸い挽き物を作る工具。②井戸などの滑車。③陶器を作る回転台。等をいう。ちなみに轤とは、「車+盧(円い器)」で、回転する円い物の意。(2)車が走る響き。「轆轆ロクロク
 ロク・こす・すく  氵部
解字 「氵(水)+鹿(ロク)」の形声。ロクは淥ロク(こす)に通じ、水をこしてきれいにすること。彔ロクは、こぼれおちるイメージがあり、これに氵(水)がついた淥ロクは水がぽたぽたと落ちる意から、布などで水をこす意味になる。日本では紙をすく意にも使う。
意味 (1)水などがゆっくりとしみ出す。したたる。「漉漉ロクロク」(汗などがしたたるさま) (2)こす(漉す)。水や酒をこす。液体を紙や布にとおして混じり物を取り除く。「漉酒ロクシュ」(酒を漉す)「漉し餡こしあん」(小豆を潰してから漉して豆の種皮を取り除いた餡子あんこ⇔粒餡つぶあん) (3)[国]すく(漉く)。紙をすく。「手漉和紙てすきわし」(手で漉いた和紙)


    レイ <うるわしい>
 レイ・うるわしい・うららか  鹿部  

解字 甲骨文から篆文まで、立派な2本の角をもつ鹿の象形。立派な二本の角をもつ鹿から転じて、美しい・うるわしい意となる。また、角がならぶことから、ならぶ意となる。現代字は、「丽(立派な二本の鹿の角)+鹿(しか)」の麗となった。 
意味 (1)うるわしい(麗しい)。美しい。「麗人レイジン」(みめ麗しい女のひと)「華麗カレイ」(華やかで美しい) (2)うららか(麗らか)。おだやか。「麗日レイジツ」 (3)ならぶ。つらなる。「麗沢レイタク」(連なる二つの沢)

イメージ 
 「うるわしい・美しい」
(麗・驪)
  立派な鹿の角が2本「ならぶ」(儷)
音の変化  レイ:麗・儷  リ:驪

うるわしい・美しい
 リ・レイ・くろうま  馬部
解字 「馬(うま)+麗(うつくしい)」の会意形声。うつくしい毛の馬。とくに黒毛の馬をいう。
意味 (1)くろうま(驪)。「驪馬リバ」(黒色の馬)「驪竜リリュウ」(黒い竜) (2)地名。「驪山リザン」(陝西省にある山。北麓に秦の始皇帝の墓がある。また山麓に温泉があり、ここに唐の玄宗が楊貴妃と遊んだ宮殿がある)「驪宮リキュウ」(驪山の麓に玄宗が建てた華清宮をいう) (3)人名。「驪姫リキ」(春秋時代、晋シンの献公の夫人)

ならぶ
 レイ・ならぶ  イ部
解字 「イ(ひと)+麗(ならぶ)」の会意形声。人がならぶ形から「つれあい」の意。また、人にかぎらずならぶ意となる。
意味 (1)ならぶ(儷ぶ)。ふたつならぶ。「駢儷ベンレイ」(駢も儷も、ならぶ意)「四六駢儷体シロクベンレイタイ」(四字および六字の対句を基本とした文体。=駢儷体)(2)つれあい。夫婦。「儷匹レイヒツ」(夫婦)「伉儷コウレイ」(夫婦。つれあい。伉も儷も、つれあいの意)「栄諧伉儷エイカイコウレイ」(仲良くして栄える夫婦)
<紫色は常用漢字>

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音符 「巴ハ」 <大蛇が地をはう> と「把ハ」「肥ヒ」

2021年01月07日 | 漢字の音符
 芭バに芭蕉の写真を追加しました。
 ハ・ともえ  己部 

巴の異体字
解字 甲骨文字は座った人の手を強調した形。しかし、意味は地名・祭祀名として使われた[甲骨文字辞典]。篆文で、扌がついた把(とる・つかむ)が作られたので、巴は把の原字で手の動作を表しているものと思われる。金文の空白をへて出現した篆文は座る人の面影を残すが手の形は人の腕から右横に一が伸びた形に変化した。長い空白の間に、この文字は解釈を一変させた。[説文解字]は、「蟲むし也。或いは曰いわく、象を食らう蛇なり。象形」として大蛇とした。また、戦国時代から秦代・漢代にかけて付加執筆された「山海経センガイキョウ」には、「巴蛇ハジャ、象を食らい、三歳(年)にしてその骨を出だす」とあり、神話的な長蛇としている。こうした解釈の元には、巴の異体字の存在がある。宋代・明代に刊行された古文字の字典に掲載された巴の異体字には上記の字などがあり、これらは大蛇を彷彿とさせる字形である。巴の音符字はすべて篆文以後に成立した字であり、これらには大蛇のイメージが入り込んでいるものが多い。字形は篆文で横に伸びた一がタテ線に変化した巴になった。
 巴ともえ:鞆ともに描かれた絵(漢字源より)
 日本で巴は渦巻き紋と解され、物が円形を描くように巡り巻くさまの勾玉のような文様をいう。その数により、一つ巴・二つ巴・三つ巴という。なお、とも(鞆)とは弓を射るとき腕に巻く革製の防具。その革に絵を描いたので「ともえ・鞆絵」という。
二つ巴 三つ巴
意味 (1)虫の名。大蛇。「巴蛇ハダ」(中国の伝承上の大蛇) (2)中国の地名。四川省の重慶一帯。「巴蜀ハショク」(巴と蜀ショク[四川省成都一帯]) (3)[国]ともえ(巴)。勾玉のような文様。「巴紋ともえもん」「巴投げ」(柔道の技のひとつ。自分の身体を仰向けにし、上の相手を足を伸ばして投げる技。二つ巴のようになることからいう) (4)外国地名の表記。「巴里パリ」「巴奈馬パナマ

イメージ
 「手の動作・大蛇」(巴・把)
 大蛇がはう時に地面に腹を「ぴたりとつける」(爬・杷・耙)
 「幅広で長い」大蛇(芭)
 「ハの音」(琶・葩)
 「同形異字」(肥)
音の変化  ハ:巴・把・爬・杷・耙・琶・葩  バ:芭  ヒ:肥
    
手の動作
 ハ・とる  扌部
解字 「扌(手)+巴(手の動作)」 の会意形声。手のひらをあてて握ること。
意味 (1)とる(把る)。つかむ。にぎる。「把握ハアク」「把持ハジ」(手にしっかり持つ) (2)とって。にぎり。「把手とって」 (3)束ねたものを数える語。「二把にわ

ぴたりとつける
 ハ・かく  爪部
解字 「爪(つめ)+巴(ぴたりとつける)」 の会意形声。爪をぴたりとつけて動かすこと。
意味 (1)かく(爬く)。つめでかく。「掻爬ソウハ」(かくこと。掻も爬も、かく意) (2)爪を立ててはう。はって行く。「爬行ハコウ」「爬虫類ハチュウルイ
 ハ・さらい  木部
解字 「木(き)+巴(ぴたりとつける)」の会意形声。地面にぴたりとつけて土をならす木製の道具。また、穀物の実などをかきよせる道具。ハの発音で枇杷びわを表す字としても使われる。
意味 (1)さらい(杷)。田の土をならす農具。えぶり。穀物の実をかきあつめる農具。(2)「枇杷ビワ(ビハ)」に使われる字。枇杷はバラ科の常緑高木。果樹として栽培され、初夏のころ黄橙色の果実を結ぶ。
 ハ  耒部
 耙田   而字耙
解字 「耒(すき。ほりおこす)+巴(ぴたりとつける)」の会意形声。地面にぴたりと付けて牛馬などで引っぱり耕地を掘り起す農具。
意味 まぐわ(馬鍬)の一種。「耙田ハデン」(まぐわで田を起す)「而字耙ジジハ」(而字の形をした馬鍬)


幅広で長い
 バ・ハ  艸部
芭蕉(Flore of Mikawaより)
解字 「艸(草木)+巴(幅広で長い)」 の会意形声。幅広い長い葉を持つ芭蕉。
意味 バショウ科の多年草「芭蕉バショウ」に用いられる字。中国原産で長さ1.5㍍くらいのバナナに似た幅広い大きな葉をつける。「蕉ショウ(艸+焦)」は、焦げた色の草、の意味で伸びた葉の根元が落ちず幹に残り、こげ茶色になっていることから。「芭蕉布バショウフ」(芭蕉の繊維で織った布。沖縄および奄美大島の名産)「松尾芭蕉まつおばしょう」(江戸前期の俳人。江戸深川の自宅に芭蕉が茂り、ここを芭蕉庵と称したことから俳号とした)

ハの音
 ハ  玉部
解字 「琴の略体+巴(ハ)」 の形声。ハという名の琴に似た弦を張った楽器。ペルシャから伝わった楽器・ビワ(ビハ)の音訳に使われる。
意味 「琵琶ビワ(ビハ)」に用いられる字。琵ビも同じ用法。琵琶とは、弦楽器の一つで、大きなしゃもじ形の胴に4本(または5本)の弦を張り、バチで鳴らす。「琵琶法師ヒワホウシ」「琵琶湖ビワコ」(琵琶のかたちをした滋賀県にある湖)
 ハ・はな  艸部
解字 「艸(くさ)+白(しろ)+巴(ハ)」 の形声。「白+巴(ハ)」の皅は、ハという発音の白い色。これに艸(くさ)がついた葩は、白い花の意。ハスの花をさすと思われるが、はな・はなびらの意で用いられる。
意味 (1)はな(葩)。白く美しいはな。はなびら。「葩卉ハキ」(草花=花卉カキ)「華葩カハ」(①はな。はなびら。②法要のとき用いる散華(仏を供養するため花を撒く)の蓮の花びら。現在は紙製)(2)はなやか。

同形異字
 ヒ・こえる・こえ・こやす・こやし  月部にく            

解字 甲骨文は坐った人の腹部に丸印を加えた形。お腹に贅肉が付くことを示す(甲骨文字小字典)。篆文でお腹の丸印がとれ肉月に代わった。腹部に肉が付き、肥っている意を表す。篆文の坐った人が楷書から巴に変化し現在に続いている。
意味 (1)こえる(肥える)。ふとる。「肥大ヒダイ」「肥満ヒマン」 (2)地味が豊か。「肥沃ヒヨク」 (3)こえ(肥)・こやす(肥やす)こやし(肥やし)。「肥料ヒリョウ
<紫色は常用漢字>

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同訓異字 「あらわす」 表す・現す・著す 

2021年01月03日 | 同訓異字
問題 に上の漢字を入れてください。
(1)本性を
(2)喜びを
(3)本を
 
「アラワ-す」(他動詞)は、「あらは(あらわ)」の動詞形です。
「あらは」とは、内部にかくれているものが、むき出しになってるさまです。おおいかくすものがないさまで、①まる見え。②あきらか。③人目につく。④表立つ。などの意味です。

「アラワ-す」(他動詞)は、「あらは(あらわ)」の状態を動詞化したもので、
①(形・ようす・感情などを)表に出して示す。
② 書物を書いて世におくりだす。
③ 内部にかくれていたものが、あらわれる。
などの意味をもちます。
漢字字典で「あらわす」を引くと主なもので8字ありますが、今回は代表的な3つに限定して紹介します。

 ヒョウ・おもて・あらわす・あらわれる  衣部             
   
解字 篆文は「衣+毛」の会意で、毛が衣の上下を分けて入っている字です。意味は毛皮の衣。毛皮の衣は、毛のあるほうが表なので、「おもて」の意味を表します。現代字は衣の上部(亠+毛)が、龶に変化し、下部が衣あしとして残っています。
意味 (1)おもて(表)。うわべ。「表面ヒョウメン」「表裏ヒョウリ」 (2)あらわす(表す)。あらわれる(表れる)。「表現ヒョウゲン」「表彰ヒョウショウ」「表敬ヒョウケイ」 (3)しるし。めじるし。「表札ヒョウサツ」 (4)事柄が一目でわかるように整理したもの。「図表ズヒョウ」「年表ネンピョウ

 チョ・チャク・あらわす・いちじるしい  艸部
解字 著の解字は諸説があり、どれと決めがたい。以下は、諸説を参考にしたうえでの私見です。
 著は「艸(くさ)+ショ(多くのものが集まる)」の会意形声。者の甲骨文は「焚火+口」の形で、焚火のまわりに多くの人が集まって口々に話をする形。これに言をつけた諸ショ(もろもろ・多くの)の原字。著の本来の意味は草の繊維を織り合わせて(集めて)作られた布の衣で、転じて、衣を着る意。草の繊維から布を織り衣ができることから、多くの材料を集めてはっきりとした形が「あらわれる」意となる。日本では「いちじるしい」という訓になる。また、「あらわれる」から転じて、あらわす意となるが、この場合は文章を書きあらわす意味で用いる。なお、衣を着る意は、俗字である「着チャク」が受け持つようになった。著は成り立ちから言うと、箸チョの竹冠⇒艸に変化した字で、隷書(漢代)から見える比較的新しい字。
意味 (1)いちじるしい(著しい)。あらわれる。めだつ。「顕著ケンチョ」「著名チョメイ」 (2)あらわす(著わす)。書きあらわす。「著作チョサク」「著述チョジュツ」 (3)着る。着く。

 ゲン・あらわれる  玉部
 色つやや肌理がさまざまな宝石・ウイキペディアより
解字 「王(玉)+見(みる)」の会意形声。人が玉(たま。宝玉)を見る形。玉は美しい石の総称であり宝石の意。宝石は地球内部の高温で圧縮されたマグマが地表に出てくる過程でできた鉱物のうち、質が硬く光沢が美しい石をいう。各種の宝石を見ると、その宝石に特有な色つやや肌理きめ(表面の細かい文様)が見えることから、(色つやや肌理が)あらわれる意となる。また、宝石を見ると、肌理や色つやが「まのあたりに、いま」あらわれる意ともなる。現世(この世)の意は仏教用語からきた。現の字は、楷書から現れた比較的新しい字。以前は見ケン・ゲンの字で、現の意味を表していた。例「彗星スイセイ東方に見(あらわ)る」「見金ゲンキン」(現金)「見任ゲンニン」(現任)
意味 (1)あらわれる(現れる)。あらわす。「出現シュツゲン」「表現ヒョウゲン」 (2)いま。まのあたり。「現在ゲンザイ」「現況ゲンキョウ」「現実ゲンジツ」 (3)うつつ。この世。「現世ゲンセ」「現身うつしみ」(現世の人の身)
<紫色は常用漢字>

問題と解答 
(1)本性を
(2)喜びを
(3)本を
回答
(1)は、本性というかくれていたものが、あらわれる意ですから「現」です。
(2)は、人の感情である喜びをおもてに、あらわす意ですから「表」です。
(3)は、書物を書いて世におくりだす意ですから、「著」です。
コメント
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