卮[巵] シ・さかずき 卩部
上は卮、下は后
解字 篆文は「立つ人の変形+ひざまずいた人」の会意。立つ人の変形は后コウ(当初の意味は君主・諸侯、のち「きさき」)にも用いられており、身分の高い人を表している。そこにひざまずく人(⇒㔾に変化)がついた卮シは、身分の高い人のそばに跪(ひざまず)く人を表し、王侯から下賜カシ(物を与える)されているさま。[説文解字]は「圜(まる)い器なり」とし、発音字典の「玉篇」(543年成立)は「酒漿ショウ(原酒。漉(こ)さないままの酒)の器なり。四升を受く」とあり、酒器を表している。「四升」とは容量を表し、一升は漢代で0.198ℓであり、4倍すると792ccとなり、現代の自動販売機のお茶が1本500~600ccであるから、これより多い。かなり容量のある酒器である。下賜カシ(物を与える)は酒器ではなく、酒器に入っている酒を与える意味である。一般に「さかずき」と訳されているが、日本の徳利のたぐいである。巵は明末の[正字通]にある異体字。
广州南越文王墓出土的金扣象牙卮(「維基ウィキ百科 卮」より)
写真は、広州の南越文王墓出土の金扣コウ(縁に金をかぶせる)象牙の卮シであり、以下の説明がある。「卮は中国古代の一種の酒器で、もととなる材質はいろいろあり、銅卮、銀卮、玉卮、石卮、漆卮、陶卮等である。卮の生産は戦国末期からで、漢代に流行し宋朝に至るまでずっと続いた。卮は盖(ふた)と身の両方の部分よりなり,身は円筒状を呈し,一般に耳(取っ手)が有り,底部に三つ足が有る。玉卮は漢朝貴族が使用した酒具で,通常和田玉(新疆ウィグル自治区のホータン(和田)地区で採取される翡翠ヒスイ)を用いて作られている。
意味 (1)さかずき(卮)。おおさかずき。四升入りの杯。「酒卮シュシ」(酒をいれる大さかずき)「卮酒シシュ」(大さかずきの酒)「玉卮ギョクシ」(玉製の卮) (2)支シと同音で支離(はなればなれになる)意から、とりとめのない。「卮言シゲン」(首尾一貫しないことば。転じて、自分の著作の謙称) 参考:酒卮(中国の検索サイト「百度」より)
酒卮の用い方(私見) 酒卮は現在のビールジョッキのような酒器で、蓋つきの豪華な酒杯。王侯貴族が各自、自慢の酒卮を持っており、宴会の折にこれに酒をいれて気に入った相手に酒をふるまうのに使用したのではなかろうか。
「鴻門之会」と卮酒
鴻門コウモン之(の)会とは紀元前206年、楚の項羽と漢の劉邦が、秦の都・咸陽郊外の鴻門(地名)で会見した故事。項羽は宴会を始めると、劉邦のお供の樊噲(はんかい)に酒を勧めた。
項羽:「項王(項羽)曰(いわ)く、「壮(勇壮な士おとこ)、之(これ)に卮酒シシュを賜(たま)へ」(項羽は言った。「勇壮な士(おとこ)よ。このものに大さかずきの酒を差し上げよ」
樊噲:「臣シン(私)は死すら且(かつ)避(さけ)不(ず)、卮酒シシュ安(いずくん)ぞ辞(じ)するに足(た)らん」「私は死さえ避けません。大さかずきの酒ごとき、どうして辞退することがありましょうか」(史記・項羽記)
イメージ
「酒器」(卮[巵])
「形声字」(梔[栀])
音の変化 シ:卮・梔
形声字
梔[栀] シ・くちなし 木部
クチナシの花(「新宿御苑」より)
クチナシの実(「tenki.jp 6月」より)
解字 「木(き)+巵(シ)」の形声。シという木で、クチナシをいう。[説文解字]は「木の実、染める可(べ)し」とし実を染料にできる木とする。クチナシの場合は慣用により異体字の巵を用いる。クチナシの由来は、日本で果実が熟しても口を開かないから「口無し」ということから。酒器の卮は蓋つきの器であり、この形がクチナシの実と形が似ているからか(私見)。
意味 くちなし(梔)。アカネ科の常緑低木。初夏に白い六弁花を咲かせて強い香りを漂わせ、秋には橙赤色の果実をつける。クチナシの実は熟しても裂けない。熟した果実は黄色の染料および黄色の天然色素として沢庵漬などに用いられる。また漢方では山梔子サンシシ、また梔子サンシの名で漢方薬(消炎・利尿・止血など)になる。
「山梔子サンシシ」(消炎、解熱、鎮静作用などがある)「梔子染くちなしぞめ」(黄色に染まる)
クチナシの乾燥果実(通販のサイトから)
黄色の染料および食品染料などに使われる。
上は卮、下は后
解字 篆文は「立つ人の変形+ひざまずいた人」の会意。立つ人の変形は后コウ(当初の意味は君主・諸侯、のち「きさき」)にも用いられており、身分の高い人を表している。そこにひざまずく人(⇒㔾に変化)がついた卮シは、身分の高い人のそばに跪(ひざまず)く人を表し、王侯から下賜カシ(物を与える)されているさま。[説文解字]は「圜(まる)い器なり」とし、発音字典の「玉篇」(543年成立)は「酒漿ショウ(原酒。漉(こ)さないままの酒)の器なり。四升を受く」とあり、酒器を表している。「四升」とは容量を表し、一升は漢代で0.198ℓであり、4倍すると792ccとなり、現代の自動販売機のお茶が1本500~600ccであるから、これより多い。かなり容量のある酒器である。下賜カシ(物を与える)は酒器ではなく、酒器に入っている酒を与える意味である。一般に「さかずき」と訳されているが、日本の徳利のたぐいである。巵は明末の[正字通]にある異体字。
广州南越文王墓出土的金扣象牙卮(「維基ウィキ百科 卮」より)
写真は、広州の南越文王墓出土の金扣コウ(縁に金をかぶせる)象牙の卮シであり、以下の説明がある。「卮は中国古代の一種の酒器で、もととなる材質はいろいろあり、銅卮、銀卮、玉卮、石卮、漆卮、陶卮等である。卮の生産は戦国末期からで、漢代に流行し宋朝に至るまでずっと続いた。卮は盖(ふた)と身の両方の部分よりなり,身は円筒状を呈し,一般に耳(取っ手)が有り,底部に三つ足が有る。玉卮は漢朝貴族が使用した酒具で,通常和田玉(新疆ウィグル自治区のホータン(和田)地区で採取される翡翠ヒスイ)を用いて作られている。
意味 (1)さかずき(卮)。おおさかずき。四升入りの杯。「酒卮シュシ」(酒をいれる大さかずき)「卮酒シシュ」(大さかずきの酒)「玉卮ギョクシ」(玉製の卮) (2)支シと同音で支離(はなればなれになる)意から、とりとめのない。「卮言シゲン」(首尾一貫しないことば。転じて、自分の著作の謙称) 参考:酒卮(中国の検索サイト「百度」より)
酒卮の用い方(私見) 酒卮は現在のビールジョッキのような酒器で、蓋つきの豪華な酒杯。王侯貴族が各自、自慢の酒卮を持っており、宴会の折にこれに酒をいれて気に入った相手に酒をふるまうのに使用したのではなかろうか。
「鴻門之会」と卮酒
鴻門コウモン之(の)会とは紀元前206年、楚の項羽と漢の劉邦が、秦の都・咸陽郊外の鴻門(地名)で会見した故事。項羽は宴会を始めると、劉邦のお供の樊噲(はんかい)に酒を勧めた。
項羽:「項王(項羽)曰(いわ)く、「壮(勇壮な士おとこ)、之(これ)に卮酒シシュを賜(たま)へ」(項羽は言った。「勇壮な士(おとこ)よ。このものに大さかずきの酒を差し上げよ」
樊噲:「臣シン(私)は死すら且(かつ)避(さけ)不(ず)、卮酒シシュ安(いずくん)ぞ辞(じ)するに足(た)らん」「私は死さえ避けません。大さかずきの酒ごとき、どうして辞退することがありましょうか」(史記・項羽記)
イメージ
「酒器」(卮[巵])
「形声字」(梔[栀])
音の変化 シ:卮・梔
形声字
梔[栀] シ・くちなし 木部
クチナシの花(「新宿御苑」より)
クチナシの実(「tenki.jp 6月」より)
解字 「木(き)+巵(シ)」の形声。シという木で、クチナシをいう。[説文解字]は「木の実、染める可(べ)し」とし実を染料にできる木とする。クチナシの場合は慣用により異体字の巵を用いる。クチナシの由来は、日本で果実が熟しても口を開かないから「口無し」ということから。酒器の卮は蓋つきの器であり、この形がクチナシの実と形が似ているからか(私見)。
意味 くちなし(梔)。アカネ科の常緑低木。初夏に白い六弁花を咲かせて強い香りを漂わせ、秋には橙赤色の果実をつける。クチナシの実は熟しても裂けない。熟した果実は黄色の染料および黄色の天然色素として沢庵漬などに用いられる。また漢方では山梔子サンシシ、また梔子サンシの名で漢方薬(消炎・利尿・止血など)になる。
「山梔子サンシシ」(消炎、解熱、鎮静作用などがある)「梔子染くちなしぞめ」(黄色に染まる)
クチナシの乾燥果実(通販のサイトから)
黄色の染料および食品染料などに使われる。