漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

音符「彝イ」<ニワトリを両手でつかみ、その血をふりかける>

2020年10月29日 | 漢字の音符
 イ・つね  彑部

解字 甲骨文字はニワトリの羽を紐で結び、鳥の脚と身体を両手で持つかたち。祭祀名として使われているのみで詳しい意味は不明。金文はニワトリの羽に糸をたらし羽を結ぶ形とし、ニワトリの左横に血をあらわす彡をつけ、下に両手を描く。血(彡)はニワトリの首の血管を刃物で切ったのであろう。金文の意味は[字統]によると、「ニワトリの血で宗廟(祖先のみたまや)の祭器や礼器を清めて祭祀に用いるので、その器を彝器イキという。また、この清める行為は儀礼となっており常におこなわれたので「つね」の意味になり、さらに転じて「のり(法)」の意味ともなった。(大意)」としている。
 字形は篆文で上部が彑(けいがしら)の前身に変化し、血を表した彡と鳥の下部が一体化して米となり、現代の字は下部の両手が廾となった彝になった。彝を分解すると「彑+米+糸+廾」になる。
 なお、彝は中国の少数民族の名を表すが、これは蔑称(さげすんだ呼び名)である「夷」が通称で、そのほか「烏蛮ウバン」などとも呼ばれ主に雲南北西部と四川に住む少数民族の名を、中華人民共和国成立以降に同じ音である「彝」に統一したためである。
意味 (1)儀式用の器物。「彝器イキ」(宗廟ソウビョウに常に供えてある儀式用の神聖な器物の総称。尊ソン(酒器)・鼎かなえなど) (2)つね(彝)。のり(法)。人のつねに守るべき不変の道。「彝訓イクン」(常に人の守るべきおしえ)「彝憲イケン」(人として守るべき不変の法則)「彝倫イリン」(常に守るべき道理・倫理) (3)少数民族の名。「彝族イゾク」(主に雲南北西部と四川に住む少数民族)「彝語イゴ」(彝族の言語)
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同訓異字「おかす」 侵す・冒す・犯す

2020年10月22日 | 同訓異字
問題 に上の漢字を入れてください。
(1)罪を
(2)国境を
(3)危険を

 「オカ-す」の語源は諸説があり定まったものはないようです。意味は「定めらた基準や範囲をこえて踏み込む」です。具体的には、①法律やおきてなどを「おかす」。②人の領土や権限などに入り込む「おかす」、③あたりをはばからず無理やり物事をおこなう「おかす」があります。漢字字典で「おかす」を引くと主なもので6字ありますが、今回は代表的な3つに限定して紹介します。

 ボウ・おかす  曰部

解字 金文から旧字まで「目(め)+冃ボウ(ずきん)」の会意形声。冃は頭衣(かぶりもの)で、冒は、かぶりものから目だけ出している形。目だけ出したカブト(甲冑)をかぶって進む意から、周囲がみえず無頓着に行動する意となる[字統]。新字体は旧字の冃 → 日に変化した冒となった。
意味 (1)おかす(冒す)。向う見ずにすすむ。無理にする。「冒険ボウケン」「冒進ボウシン」(向う見ずに進む) (2)神聖なものをけがす。「冒涜ボウトク」(神聖・尊厳をおかしてけがす)「冒名ボウメイ」(他人の姓名を偽ってなのる) (3)おおう。かぶりもの。 (4)(一番上の頭にかぶることから)はじまり。「冒頭ボウトウ」(文章や言葉の初めの部分)

 ハン・おかす  犭部
解字 金文は「犭(いぬ)+㔾(ハン)」の形声。ハンは範ハン(きまり・のり)に通じる。ここで犬は、人の悪者を犬に例えた使い方で、犯は法や道徳を破る人、また、その行為をいう。
意味 (1)おかす(犯す)。決められたのり(法・則)をおかす。「犯罪ハンザイ」(罪を犯す)「犯人ハンニン」「共犯キョウハン」 (2)道徳をおかす。「女性を犯す」

 シン・おかす  イ部                

解字 甲骨文は「牛+帚(ほうき)+又(て)」で、帚(ほうき)を手に持ち牛を追い出し他所の土地の家畜を奪うこと。甲骨文字では侵略・略奪の意味だという[甲骨文字辞典を参照した]。金文は牛が人に代わった字。家畜の他、人を奪う意と思われる。篆文は人⇒イになり、隷書レイショ(漢代)から帚(ほうき)の下部の巾を省略して又にした侵が出現して現代に至っている。意味は、[春秋穀梁コクリョウ伝](前漢)に「人民を苞(とりこ)にし、牛馬を殴(か)るを侵と曰う」とあり、この字の古代の意味を伝えている。現在は、他者の権利・権限をそこなう。特に、他国、他人の土地に不法に立ち入る(攻め込む)意で用いられる。
意味 おかす(侵す)。他の者の権利・権限をそこなう。他人の領分に入り込む。「侵害シンガイ」「侵略シンリャク」「侵犯シンパン

問題と解答 
(1)罪を
(2)国境を
(3)危険を
回答
(1)は法律やおきてを「おかす」意ですから「犯」です。
(2)は領土を「おかす」意ですから「侵」です。
(3)は無理やりことを行う「おかす」ですから冒険の「冒」です。

別の問題
(1)学問の自由をす。
(2)尊厳をす。
(3)過ちをす。
回答
(1)学問の自由という権利(自由権)をおかすので「侵」です。
(2)尊厳という神聖なものをけがすので「冒」です。
(3)過ちは法や規則をおかすこと以外に失敗の意味もありますが、いずれにしても良くない行動ですから「犯」を使います。さらに意味を拡大して「ミスを犯す」などにも使います。


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音符「解カイ」<牛を解体する>と「蟹カイ」「廨カイ」「懈カイ」「邂カイ」

2020年10月04日 | 漢字の音符
 牛の解体はどのように行われるのか
「解カイ」は牛の解体を表している。そのためには牛の解体が実際にどのように行われるのかを知る必要があります。以下は、私が文献やネットで調べた牛の解体の順序です。牛の解体は手順が確立されており世界中でほぼ共通のようです。
①牛の眉間(みけん)に特殊なハンマーで打撃を与え(ノッキング)、牛を気絶させる。
②牛の首をナイフで割き動脈を切って失血死させる。
③上記で割いた箇所からナイフを横にいれ、牛の頭部を切り取る。
④牛を仰向けにし腹に軽くナイフをいれ皮を剥いでゆく。この作業の途中で、背中の皮を剥ぐために、後ろ脚を吊り上げて、すべての皮を剥ぐ。
⑤牛の腹の部分をタテに割いて内臓を取り出し、下においた容器で受ける。
⑥吊り上げた両脚の間から鋸で引き下ろしてゆく(途中から斧を使うこともある)。この作業は背割りといって、牛の背骨を二つにわけてゆく作業である。
⑦こうして背割りが完了すると、吊るされた牛の半身が二つできる。ここで屠畜の作業は完了し、屠畜場から肉屋に運ばれ、ここでさらに肉が解体されて各部分に分けられる。
 牛の解体は残酷なようですが、こうした作業により我々は牛肉を食べることができるのです。
参考文献 内澤旬子『世界屠畜紀行』、本橋成一『うちは精肉店』、インターネットほか

 カイ・ゲ・とく・とける・わかる  角部           

斧の頭(刃の反対側)で牛の眉間をたたく。ウイキペディア「屠畜」より。

解字 甲骨文は牛の角を両手で押さえている形。これは①の「牛の眉間へのノッキングの際に牛の角を両手で押さえているさま」と考えられる。甲骨文字辞典は、この字の意味を「祭祀儀礼の一種。動物を解体することか」としている。金文第1字は角と牛の横に攴ボク(手に先がふくらんだ棒状のものをもつ形)であり、これは①の「牛の眉間に特殊なハンマーで打撃を与え牛を気絶させる」ノッキングのさまであろう。金文第2字は攴ボクの代わりに刀(刃)を付けた形で、③の「ナイフを横にいれ牛の頭部を切り取るさま」である。篆文は刃⇒刀になり、配列も角の横に刀と牛をかさねる解の形になり、現代字に続いている。以上で牛の解体の③まで進行したが、④以下は解体の次の段階であり、⑥の「牛の背骨を二つにわけてゆく作業」が半である[半を参照]。
 解は牛の解体の第一段階までの字であるが、後につづく解体のすべてを意味する文字として用いられる。金文の意味は姓・地名以外に現代字の「懈カイ(おこたる・怠惰)」の意味で使われている。懈カイは「忄(心)+解(解き放つ)」であり、金文の段階で解の字に多様な意味が生じていたと考えられる。
意味 (1)牛を解体することから。わける。ばらばらにする。「解体カイタイ」「分解ブンカイ」「解剖カイボウ」「瓦解ガカイ」(一部の屋根瓦の崩れから屋根全体がばらばらに崩れる) (2)ばらばらにする意から、ときはなす。ほどく。とく(解く)。「解放カイホウ」「解除カイジョ」「解雇カイコ」「帯を解く」「緊張を解く」 (3)(ばらばらにして中身が)わかる(解る)。ときあかす。「理解リカイ」「解釈カイシャク」「解説カイセツ」「了解リョウカイ」 

イメージ 
 「ばらばらにする・わける」(解・蟹・廨)
 「ときはなす(意味2)」(懈)
 「形声字」(邂)
音の変化  カイ:解・蟹・廨・懈・邂

ばらばらにする・わける
 カイ・かに  虫部
解字 「虫(甲殻類)+解(ばらばらにする)」の会意形声。虫はここで貝類・甲殻類を表す。ハサミを含め体から出ている5対10本の脚を簡単にばらばらにして食べることができる虫(かに)。
意味 かに(蟹)。水中にすむ甲殻類。十本の脚のうち二本はハサミとなり餌の捕食に役立っている。「蟹行カイコウ」(かにの横歩き)「蟹漁かにリョウ」(網などで蟹を捕ること)「蟹工船かにコウセン」(北洋で蟹漁をし、船中で直ちに缶詰などに加工する船)
 カイ・ケ  广部
解字 「广(たてもの)+解(わける・分配する)」の会意形声。地域を管轄する部署が、その収入をもって予算を配分して業務をおこなう役所をいう。古くは郡廨・公廨と言った。古来中国において、各官署の経常的運営費は、狹義の事務費のほか下級職員の人件費まで含めて、これを国家の予算には計上せず、各官署の自弁に委ねる建前であつた。そこでは、各官署ごとになにがしかの基本財産をもつた特別会計を設定し、その会計の收入をもつて独立採算的に官署の経常費を賄わせる方法がとられていた。この特別会計が「公廨」であり、その基本財産として土地が割当てられればそれが公廨田となる。(奥村郁三「唐代公廨の法と制度」)
「廨」の参考ページ:https://minamoto-kubosensei.amebaownd.com/posts/16034989/
意味 役所。官庁。「公廨クガイ」(役所。公の物)「郡廨グンカイ」(郡役所)「公廨田クガイデン」(中国では郡などに割り当てられた土地。日本では大宰府と国司の官人に支給された土地)「廨舎カイシャ」(役所の建物)「廨宇カイウ」(官舎)

ときはなす
 カイ・ケ・おこたる・だるい  忄部
解字 「忄(こころ)+解(ときはなす)」の会意形声。心を解き放ち自由になりすぎてだらけること。緊張を解いた状態をいう。
意味 (1)おこたる(懈る)。だらける。なまける。「懈怠ケタイ・ケダイ」(なまけおこたること。懈も怠もなまける意。仏教で修業をおこたること) (2)ゆるむ。だるい。「懈弛カイシ」(おろそかになる。弛はゆるむ意)

形声字
 カイ・あう  辶部
解字 「辶(ゆく)+解(カイ)」の形声。[説文解字]は「邂逅カイコウ(思いがけなく出会うこと)。期(き)せ不(ず)而(して)遇(あ)う也(なり)。」とする。思いがけない出会いをいう。常用漢字でないため、二点しんにょう。
意味 あう(邂う)。「邂逅カイコウ」に使われる字。邂も逅も出会う意だが、「邂逅」とは、思いがけなく出会うこと。めぐりあうこと。「旧友との邂逅」「二十年ぶりの邂逅」「路上で邂逅した偶然」
<紫色は常用漢字> 

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音符「侵シン」<はいりこむ>と「浸シン」「寝シン」

2020年10月01日 | 漢字の音符
 シン・おかす  イ部                

解字 甲骨文は「牛+帚(ほうき)+又(て)」で、帚(ほうき)を手に持ち牛を追い出し他所の土地の家畜を奪うこと。甲骨文字では侵略・略奪の意味だという[甲骨文字辞典を参照した]。金文は牛が人に代わった字。家畜の他、人を奪う意と思われる。篆文は「イ(人)+帚(ほうき)+又(て)」となり、隷書レイショ(漢代)から帚(ほうき)の下部の巾を省略して旧字まで続き、新字体は上がヨに変化した侵になった。意味は、[春秋穀梁コクリョウ伝](前漢)に「人民を苞(とりこ)にし、牛馬を殴(か)るを侵と曰う」とあり、家畜や人を奪う古代の意味を伝えている。現在は、他者の権利・権限をそこなう。特に、他国、他人の土地に不法に立ち入る(攻め込む)意で用いられる。
意味 おかす(侵す)。他の者の権利・権限をそこなう。他人の領分に入り込む。「侵害シンガイ」「侵略シンリャク」「侵犯シンパン

イメージ 
 他人の領分に「はいりこむ」(侵・浸・駸)
 「その他」(寝)
音の変化  シン:侵・浸・駸・寝

はいりこむ
 シン・ひたす・ひたる  氵部
解字 「氵(水)+侵の略体(はいりこむ)」 の会意形声。水が入り込むこと。
意味 (1)ひたす(浸す)。ひたる(浸る)。水につける。「浸水シンスイ」(水が入り込む) (2)しみる(浸みる)。水がしみこむ。「浸透シントウ」「浸食シンショク
 シン  馬部
解字 「馬(うま)+侵の旧字の略体(はいりこむ)」 の形声。馬が走るように速く入りこむ意で、物事が速く進行するさま。
意味 (1)物事が速く進行する。「駸駸シンシン」「駸駸乎シンシンコ」(物事がはやく進むさま) (2)馬が走るさま。

その他
 シン・ねる  宀部

解字 甲骨文字は宀(建物)の中に婦の初文である帚(ほうき)が描かれた形。[甲骨文字辞典]によると、「夫人がいる建物」で、寝殿(天子が日常の生活をする宮殿)の意味があるという。「帚(ほうき)」は、帚で掃除する意だが、甲骨文字では夫人の意で使われることがある。帚が表す婦は、殷の王であった「武丁」の夫人名でもあることから天子と夫人が住む寝殿の意味が出たと思われる。金文は第二字に帚に又(て)がついた形が現れた。秦代になり、爿(ベット)のついた形が出現し(字中の帚は錯誤がある)、寝殿のベッドで寝る意味が出た。篆文は、さまざまな文字が現れて乱れたので省略した。隷書レイショ(漢代)にいたり第1字で下部の巾が又に替わった寝が出現し(第2字はこれまでの字)、現代にいたっている。新字体は旧字の寢⇒寝になった。
 意味は当初の意である「寝殿」。その後、爿(ベット)がついてから寝る意味がでた。この字に含まれる𠬶シンは、侵の略体でなく帚(=婦)が変化した形であり、「はいりこむ」イメージはない。
意味 (1)天子が日常生活をした御殿。「寝殿シンデン」「寝殿造シンデンづくり」 (2)ねる(寝る)。ねむる。「寝室シンシツ」「寝具シング」「寝台シンダイ」 
<紫色は常用漢字>

    バックナンバーの検索方法
※一般の検索サイト(グーグル・ヤフーなど)で、「漢字の音符」と入れてから、調べたい漢字1字を入力して検索すると、その漢字の音符ページが上位で表示されます。


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