漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

音符 「畐フク」 <みちる> と 「福フク」 「副フク」 「幅フク」「蝠フク」「匐フク」「蔔フク」「輻フク」「富フ」「逼ヒツ」

2025年02月28日 | 漢字の音符
   フク <みちる>
 フク・ショク  田部 fú・bì    

解字 甲骨文字は注ぎ口のある酒つぼの象形。金文は注ぎ口が長く底の部分が丸く描かれている。[角川新字源]は「首の長い酒つぼの形にかたどる」とする。篆文は上部が「亠+口」に変化し[説文解字]は「満ちる也(なり)。高の省に従う」として、「上部は高の省略形に従う」とともに、意味は「満ちる」として、酒つぼの中が「みちる」とする意味を新たに提出した。この意味は以後の音符字の形成に大きな影響を残している。
意味 (1)みちる(畐る)。(2)容器の名。(3)巾(はば)(=幅)

イメージ 
 「みちる」
(畐・福・富・幅)
 うつわが「ふくらむ」(蝠・副)
 「形声字」(逼・匐・輻・蔔)

音の変化  フク:畐・福・幅・蝠・副・匐・蔔・輻  フ:富  ヒツ:逼

みちる
 フク・さいわい ネ部 fú・fù
解字 「ネ(示:祭壇)+畐(みちる)」の会意形声。神の恵みが満ちていること。後漢の[説文解字]は「祐ユウ(神のたすけ)也(なり)。示に従い畐フクの聲(声)」とする。
意味 (1)さいわい(福)。しあわせ。神からさずかる助け。「幸福コウフク」「福音フクイン」(①よろこばしい知らせ、②キリストの説く救いの教え)「福祉フクシ」(福も祉も幸福の意。満足すべき生活環境)(2)よい。めでたい。「福運フクウン」(幸福と幸運)(3)姓。「福沢フクザワ」「福田フクダ」など。(4)地名。「福井フクイ」「福島フクシマ」など。
[冨] フ・フウ・とむ・とみ  宀部 fù
解字 「宀(いえ)+畐(みちる)」の会意形声。家の中に財宝が満ちること。冨は異体字。
意味 (1)とむ(富む)。とみ(富)。ゆたかにある。「富裕フユウ」「豊富ホウフ」「貧富ヒンプ」(2)とます(冨ます)。財産を増加させる。「富国フコク」「富国強兵フコクキョウヘイ」(3)「富士山フジサン」(日本一高い山)「富岳フガク」「富嶽フガク」(富岳の旧字)「富嶽三十六景フガクサンジュウロッケイ」(葛飾北斎による富士山版画集)(4)姓。「富田とみた」「富岡とみおか」など。(5)地名。「福井ふくい」「福岡ふくおか」など。
 フク・はば  巾部 fú・bī
解字 「巾(ぬの)+畐(みちる・いっぱいにひろげる)」 の会意形声。布をいっぱいに広げた時の横はば。
意味 (1)はば(幅)。物の横はば。「幅員フクイン」「全幅ゼンプク」(幅いっぱい。あらんかぎりの)「幅跳はばとび」(陸上競技の一つ。踏切板から飛んだ距離を競う)(2)掛け物。掛け軸。また、それを数える語。「画幅ガフク」「一幅イップク

ふくらむ
 フク  虫部 fú
解字 「虫(動物)+畐(ふくらむ)」 の会意形声。蝙蝠ヘンブク(コウモリ)に使われる字。蝙ヘンは「虫+扁(平らでうすい)」の会意形声で、平たい翼でひらひらと飛ぶコウモリ。これに対し、蝠は中央の身体の部分がふくらんでいるのを表現しているものと思われる。つまり、蝙蝠は平たい翼で空を飛び膨らんだ身体をもつ動物の意。

コウモリ(蝙蝠)(「ウィキペディア」より)
意味 蝙蝠ヘンブク(コウモリ)に用いられる字。フクの発音が福に通じるため、中国では縁起の良い動物とされている。「蝙蝠傘こうもりがさ」(広げた形がコウモリの翼の形に似ているところから)
 フク・ヒョク・そう  刂部 fù・pì
解字 「刂(刀)+畐(ふくらんだもの)」 の会意形声。ふくらんだものを刀で二つに分ける形。ひとつだったものが、二つに分かれたことから、二つが寄り添う意となり、正副の「副」の意となる。
意味 (1)そう(副う)。そえる。つきそう。(2)そえ(副え)。たすける。「副将フクショウ」(主将を補佐する将)(3)ともなう。「副作用フクサヨウ」(4)ひかえ。うつし。「副本フクホン」(原本の写し)

形声字
 ヒツ・ヒョク・せまる(ヒツは慣用音)  辶部 bī  
解字 「辶(行く)+畐(フク⇒ヒョク)」の形声。ヒョクはフク・ヒョクに通じる。フク・ヒョクは、酒つぼの形である畐が二つ合わさった形であり、そう・よりそう意。そこに辶(行く)がついた逼ショクは、よりそう意を強めた字で、せまる意となる。発音はヒョク⇒ヒツに変化した慣用音が使われる。これはヒョクに続く音との連続がしにくいためと思われる。
意味 (1)せまる(逼る)。さしせまる。「逼迫ヒッパク」(さしせまる。ゆきづまる) (2)せばまる。縮まる。「逼塞ヒッソク」(八方ふさがり。おちぶれる)
 フク  勹部 fú 
解字 「勹(人が身をかがめる)+畐(フク)」の形声。身をかがめて腹這(はらば)うことを匐フクという。[説文解字]は「地に伏(ふく)するなり」とする。「匍匐ホフク」として用いることが多い。

河原のツルヨシの匍匐茎(「gooブログ「多摩の自然」より)
意味 はう。はらばう。「匍匐ホフク」(腹ばいになること)「匍匐前進ホフクゼンシン」(はらばって進む)「匐枝フクシ」(地上をはう枝)「匍匐茎ホフクケイ」(這うように伸びる茎)
 フク・や  車部 fú
解字 「車(車輪)+畐(=副。よりそう。たすける)」 の会意形声。車輪中心部のこしき(轂。ハブ)から外輪まで何本も出て車輪を支えたすけているスポーク(や)。

①車輪の輻(「古文・漢文の世界」より)②荷車の車輪(原サイトなし)
意味 や(輻)。車輪のスポーク(や)。中央から外へ何本も出ること。外から中央へ集まること。「車輻シャフク」(車輪のスポーク)「輻射フクシャ」(ある一点から周囲に放射すること)「輻輳フクソウ=輻湊」(いろいろな場所から物事が一か所に寄り集まる)
 フク  艸部 bo・pú
解字 「艸(くさ)+匐(フク)」 の形声字。フクという名の草。「蘿蔔ラフク」という語に用いられる。「蘿蔔ラフク」は、2000年以上前から地中海方面で栽培されていたアブラナ科の植物(現在の大根)で、中国に伝来した当初、現地語の発音から「蘆菔ロフク」また「莱菔ライフク」と表記されていた。のち中国で「蘿蔔ラフク」(簡体字で「萝卜luó boるおぼ」)と表記され、日本でも大根の漢名として使われる。
意味 「蘿蔔ラフク」とは大根の漢名。日本で「蘿蔔だいこん」「蘿蔔すずしろ」とふりがなをすることがある。なお、日本の「大根」は『古事記』に「於保禰(おほね)」という記述があり、「おほね」から「大根(おおね)」に鎌倉時代に転訛したとされる。
<紫色は常用漢字>

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音符「复フク」と「復フク」「腹フク」「複フク」「覆フク」「鰒フク」「蝮フク」「馥フク」「履リ」

2025年02月26日 | 漢字の音符
  難解な字形です。
 フク  夂部 fù

  上は复フク、下は復フク
解字 复の甲骨文の上部には「中央の長四角の上下に小さな四角が付いた形」がある。この字形について、いろいろな解釈があり原義は不明であるが、[甲骨文字辞典]は「酒樽の象形の酉ユウと足の形を下向きにした夂から成る」とする。そして「夂が復路を表すことは明らかであるが、酉については意義が不明である」とする。何故かというと、酒樽に下向きの足(夂)をつけてなぜ復路になるのかという理由がつけにくいからである。著者の落合氏は「あるいは神への供物(酒樽)を下げることが原義かもしれない」と補足しているが、やはり酒樽(酉)を本体とすると、復路の意味を出すのがむずかしい。他に原字は「畐フク」ではないか、との説もあるが、畐フクも形の別な酒樽であり、同じような問題が出てくる。
 私は仮想の空間として3つの部屋がある住居を考えてみた。表玄関と広間それに奥部屋のついた住宅である。すると、夂は、足が下を向いた形であり、もどる(復路)意味があるので复は、①訪れた人が住宅の玄関に「もどる」。②もどるときは入った方向と「向きを返る」。③入って奧の部屋に行き、戻ると行き来が「かさなる」。この三つの意味となる。
 仮想空間の三部屋住居を案出したが、初文は何をもとにしたのか。難解な字形である。なお[説文解字]は「故(もと)の道を行(ゆ)く也(なり)(即ち戻る意)。夊に従い畗の省聲(声)。発音は房六切(フク)」とする。
フクは复の原字
 下の復フクは、复に彳ぎょうにんべん(行の片側でゆく意)が付いた形であり、もどってゆく意。复だけでも「もどる」意味があるので、復の原字といえる。
意味 かえる(=復)。もどる。

イメージ 
 「もどる」
(复・復)
 「形声字」(覆・複・腹・鰒・蝮・馥)
 「その他」(履)
音の変化  フク:复・復・覆・複・腹・鰒・蝮・馥  リ:履

もどる
 フク・かえる・また  彳部 fù
解字 「彳(ゆく)+复(もどる)」の会意形声。向きをかえて戻ること。また、行き戻りをくりかえす意としても使われる。[説文解字]は「往来なり」とする。
意味 (1)かえる(復る)。もどる。行った道をかえる。「復路フクロ」「往復オウフク」(行きと帰り)(2)かえす。もどす。「復活フッカツ」(3)くりかえす。ふたたび。また(復)。「復習フクシュウ」「反復ハンプク

形声字
 フク・おおう・くつがえす・くつがえる  覀部 fù

解字 篆文は「襾(ふたの形)+復(フク)」の形声。おおっていた襾(ふた)を、くつがえすことを覆フクという。器物に、おおったふた(襾)をひっくり返すこと。ふたをおおう意と、ひっくり返す意と二つの意味になる。[説文解字]は「覂ホウ(上が覀、下が之)(くつがえる)也(なり)」とする。現代字は篆文上部の、襾(ふた)⇒ 覀に変化した覆になった。
意味 (1)くつがえす(覆す)。くつがえる(覆る)。ひっくり返す。「覆水フクスイ」(入れ物からひっくり返した水)「覆水盆に返らず」(盆[容器]をひっくり返してこぼれた水は元に戻らない)「転覆テンプク」(船などがひっくりかえること)(2)おおう(覆う)。かぶせる。「覆面フクメン」「覆土フクド
 フク  衣部 fù
解字 「衤(ころも)+复(フク)」の形声。着物を重ね着することを複フクという。着物に限らず、かさなる・かさねる意となる。[説文解字注]は「重衣(かさねぎ)の皃ボウ(さま)。衣に従い复の聲(声)也(なり)。引伸インシン(広げる)して凡(およ)そ重(かさ)なる之(の)偁ショウ(意味)と爲す」とする。
意味 (1)かさねる(複なる)。かさなる(複ねる)。二つ以上ある。「複式フクシキ」「複数フクスウ」「複写フクシャ」「複製フクセイ」(2)込み入る。「複雑フクザツ
 フク・はら  月部にく fù
解字 「月(からだ)+复(フク)」の形声。フクは畐フク(ふくらみのある器)に通じ、ふくらんだ身体の部分、おなかを表わす。
意味 (1)はら(腹)。おなか。「腹筋フッキン」「腹掛(はらが)け」(2)こころ。心のなか。考え。「腹案フクアン」(3)物の中央部分。「山腹サンプク」「船腹センプク」「中腹チュウフク
 フク・あわび・ふぐ 魚部 fù
解字 「魚(さかな)+复(フク)」の形声。[説文解字注]は[後漢書伏隆伝]の「郭僕三倉注」に曰(いわ)く。「鰒は蛤(はまぐり)に似る。一偏(一面)は石に著(つ)く。[廣志]に曰(いわ)く。鰒フクに鱗(うろこ)無くして殻有り。一面(片面)は石(いわ)に附く。細い孔(あな)雑雑(いろいろ)」とあり、あわびをいう。日本では、ふぐ(鰒)の意味でも用い、室町時代の国語辞典『節用集(せつようしゅう)』に「鰒(ふぐ)」が始めて表れる。
アワビ
意味 (1)あわび(鰒)。鮑ホウとも書く。「鰒魚フクギョ」(①あわび、②とこぶし、アワビに酷似する小型の貝)(2)[国]ふぐ(鰒)。河豚とも書く。フグ科の海魚。外敵に襲われると腹を著しく膨張させる。
 フク・まむし  虫部 fù
解字 「虫(へび)+复(フク)」の形声。フクは畐フク(ふくらみのある)に通じ、頭部がふくらんでいるまむしをいう。

マムシに注意!(京都府精華町・危険な虫・外来生物情報」)
意味 まむし(蝮)。くちばみ。スプーンのように膨らんだ頭部をもつ毒蛇。[マムシの特徴]全長45~60センチメートル。胴が太く、尾が短い。頭は三角形のものが多い。体には楕円形の斑紋がある。日本全国に広く生息しており、町内でも発見されています。[京都府精華町・危険な虫・生物情報より]
「蝮酒まむしざけ」(蝮を漬けた焼酎)「蝮蛇フクダ」(まむし)「蝮蝎フクカツ」(まむしとサソリ。悪類のたとえ)
 フク・かんばしい  香部 fù・bì
解字 「香(かおり)+复(フク)」の形声。フクは畐フク(ふくらみのある)に通じ、香りがふくらむこと。香りがたちこめてかんばしいこと。
意味 かんばしい(馥しい)。香ばしい。かおる。かおり。「馥郁フクイク」(良い香りのたちこめるさま)「馥馥フクフク」(香りがたちこめる)

その他
 リ・はく・くつ  尸部 lǚ

解字 篆文は、「尸(ひと)+彳(ゆく)+舟(舟型のくつ)+夂(あし)」の会意。人があしを舟型のくつに入れて行くこと。はきもの、及び、ふむ・ふみおこなう意となる。現代字は、「尸+復」の形に変化した。

衲御礼履のうのごらいり(「宮内庁・正倉院宝物」より)
意味 (1)ふむ(履む)。ふみおこなう。実行する。「履行リコウ」「履歴リレキ」(現在までの学業・職業などの経歴)「履歴書リレキショ」「履修リシュウ届け」「履霜リソウの戒め」(霜を履む時季になれば、やがて氷が張る季節になる。小さな前兆を見て、やがてくる大きな災難に備えて用心せよという戒め)(2)はきもの。はく(履く)。くつ(履)。「履物はきもの」「草履ゾウリ
覚え方  この(コノ=尸)ふく()路にいた物は私の歴書リレキショ
<紫色は常用漢字>

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音符「家カ」<一族のすまい> と「嫁カ」「稼カ」

2025年02月24日 | 漢字の音符
 宀(たてもの)に豕(ぶた)にを加えて何故「家いえ」になるのか? この解字をめぐって多くの学者が論争を繰り広げてきた。ある中国の学者は「雲南省では、家の1階で豚(豕)を飼い2階で人が住む家があり、これが家の字のはじまりだ」という。一方、白川静氏は[字統]で、「古くは犬牲(犬を犠牲にする)に従う字で家の地鎮のために犬を犠牲とした」と、豕(ぶた)でなく犬だと主張した。
 この字を最も早く解字したのは[説文解字]を著した後漢の許慎キョシンで、「宀(たてもの)+豭カ・ケ(オス豚)の省声」の形声文字とした。つまり、家の中の豕は豭(オス豚)の省略形で、カ・ケの発音を表している字ですよ、というのである。しかし、清代に[説文解字]に注釈を加えた段玉裁は、これに疑いありとして「宀+豕」の会意とした。しかし、その後もこの解字をめぐり議論が続いた。その後、甲骨文字が発見・解読され、新しい解釈が生まれてきた。それは、甲骨文字には、「宀+豭カ・ケ」と「宀+豕」の両字があり、のちに「宀+豭」の意味が「宀+豕」に置き換えられたというのである。落合淳思氏は[甲骨文字辞典]で、この経過を簡潔にまとめている。

 カ・ケ・いえ・や  宀部 jiā・jia・jie・gū  



 上から、家、豕(豚)、犬
解字 家の甲骨文字第1字は、建物の形である宀ベンを意符、オス豚を意味する豭カ・ケの初文(オスの生殖器が下腹に付く)を声符とする形声文字で宗廟(①祖先のみたまや、②天子の祖先をまつるところ)施設を指す。第2字は建物(この場合は家畜小屋)の形である宀ベンと豚を意味する意符の豕からなる会意文字で家畜の豚、あるいは家畜として飼うために捕らえた豚を指す。なお、中段の豕の甲骨文字は、オス豚以外の家畜の豚が描かれている。また、下段の犬の甲骨文字は尻尾を巻いた形になっている。
 中国では祖先をまつる祭礼に動物の肉を供えるが、祖は祭壇のまえに肉を盛った且を供えた形であるが、建物にオス豚を供えた形の家は、一族の祖先を祭る建物すなわち宗廟を意味する。
 なお、[甲骨文字辞典]は「家族・家屋は宗廟施設からの引伸義であるが、甲骨文字にその用法は見られない」とする。金文も同じくオス豚(第1字)と豕の豚(第2字)の2種を含む形があり、意味も多様化しており、[簡明金文詞典]では、①家庭、②家族・宗族、③国家、④量詞(=家戸)、などとなっている。篆文から「宀+豕」の字体が用いられ、家屋・家族・家系・家名など氏族の単位を中心に表され現在に至っている。

なぜオス豚が用いられたのか?
 甲骨・金文第1字に何故オス豚が用いられたのだろうか? これについて[説文解字]の許慎キョシンから落合淳思氏まで、その理由を何も語っていない。私はその理由を次のように推測したい。およそ、宗廟施設でオス豚を供える場合、何か目的がある。私は最初、神または祖先を喜ばせるために美味しい豚肉となるのはオス豚か? と考え、オス豚の肉について調べたところ、肉にするオス豚は繁殖用にする一部を除き例外なく子豚のとき去勢されることが分かった。[養豚場での豚の生産][お肉の豆知識]。また、去勢されたオス豚はメス豚と比べ特に美味しいことはないという。すると、オス豚を供えるのは繁殖用のオスであり、これを捧げることにより子孫が繁栄するよう祈ったのではないだろうか。

オス豚の種付け(「養豚場での豚の生産」(上記)より)
 家を音符に含む字は、宗廟の意から「一族・一族のすまい」のイメージを持つ。
意味 (1)すまい。いえ(家)。や(家)。人の住む建物。「家屋カオク」「家財カザイ」「家主やぬし」「家庭カテイ」「家族カゾク」(2)血縁の集まり。一族。「王家オウケ」「漢家カンカ」(①漢王朝の帝室、②漢方医)「家系カケイ」「本家ホンケ」「良家リョウケ」(3)学問や技術の流派。専門にする人。「詩家シカ」「家元いえもと」「専門家センモンカ」(4)商店。みせ。仕事。「酒家さかや」「農家ノウカ

イメージ 
 「一族のすまい・一族」
(家・嫁)
 「形声字」(稼)
音の変化  カ:家・嫁・稼

一族の住い・一族
 カ・よめ・とつぐ  女部 jià
解字 「女+家(一族)」の会意形声。他の一族にとつぐ女性。
意味 (1)とつぐ(嫁ぐ)。よめ(嫁)。嫁にいく。「嫁入よめいり」「嫁資カシ」(嫁入り支度の費用)「許嫁いいなずけ」(婚約者)(2)罪や責任をなすりつける。「転嫁テンカ
形声字
 カ・かせぐ  禾部 jià

解字 甲骨文字は「田の上に禾(いね)が二本・三本植えられている形」。篆文は「禾(いね)+家(カ)」の形声。田に稲を植えて育て収穫することを稼という。[説文解字]は「禾(いね)之(の)實(みの)った秀(穂)を稼と為す。禾(いね)に従い家カの聲(声)。一に曰(いわ)く稼は家事也(なり)」ともする。
意味 (1)うえる。稲を植える。耕作。農事。「苗稼ビョウカ」(苗をうえる)「稼穡カショク」(農事)「稼業カギョウ」(①農業。②生活をささえる仕事)(2)みのり。収穫。「秋稼シュウカ」(秋の取り入れ)(3)[国]かせぐ(稼ぐ)。かせぎ(稼ぎ)。精出して働きお金を得る。「稼働カドウ」(①働き稼ぐ。②機械などを動かすこと)
<紫色は常用漢字>

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音符「覃タン」<ふかい> と「譚タン」「潭タン」「鐔タン」「簟テン」「鱏シン」

2025年02月22日 | 漢字の音符
   写真など追加しました。
覃[潭の右 タン 襾部 tán・qín・yǎn

解字 金文は、底が尖った深い壺形のものに、何か載っている形だが、これは篆文で鹵(岩塩)になっているので、おそらく塩であろう。深い壺のなかに塩を入れ、尖った先を土に挿して食物を長期間保存している形と思われる。篆文は、上が鹵(塩)、下が亯キョウ(祖先を祀る高い建物)の倒立字に変化し、現代字は上が襾、下は早に変化した覃タンとなった。意味は、深い器の中で長期にわたって塩味がつき熟成する意から、ふかい・ながい・(味が)うまい意となる。音符として用いられるときJISでは、上部の襾⇒覀の字体(異体字)になる。
意味 (1)ふかい。深くひろい。「覃思タンシ」(ふかく思う)「覃研タンケン」(ふかい研究) (2)およぶ。ひろがる。のびる。「覃及タンキュウ」(ひろがって及ぶ)「葛(かずら)の覃(の)びる兮(や)中谷(谷間)に施(うつ)る」(詩経・周南・葛覃) (3)うまい。おいしい。味がよい。熟成される。「覃は長味也(なり)」(説文解字)

イメージ 
 深い壺から「ふかい」(覃・潭・鱏)
 意味(2)の「およぶ・ひろがる」(簟)
 長期にわたり塩漬けされ「熟成される」(譚)
 「形声字」(鐔)
音の変化  タン:覃・潭・譚・鐔   テン:簟  シン:鱏

ふかい
 タン・ふち  氵部 tán・xún
解字 「氵(水)+覃(ふかい)」の会意形声。ふかく水をたたえている「ふち」をいう。
意味 (1)ふち(潭)。水が深くよどんでいる所。「潭潭タンタン」(水を深くたたえているさま)「碧潭ヘキタン」(あおあおとした深いふち) (2)ふかい。奥深い。
 シン・えい  魚部 xún
解字 「魚(さかな)+覃(ふかい。タン⇒シン)」の会意形声。水底に栖息する魚の鱏シン(チョウザメ)をいう。日本ではエイ(鱏)に当てる。鱝フン・鰩ヨウ・海鷂魚(えい)とも書く。

エイ(ツカエイ(アカエイ科の一種。「名護博物館ブログ」より)

鬼糸巻鱏(オニイトマキエイ・通称マンタ「環境省アクティブ・レンジャー日記 )
意味 (1)エイ(鱏)。エイは軟骨魚綱に分類される軟骨魚類のうち、エラが体の下側(お腹)に開くものの総称。「鬼糸巻鱏おにいとまきエイ」(通称マンタ)「茨鱏イバラエイ」(体表背面は小さな棘とげで覆われており、加工された皮は「梅花皮(かいらぎ・鰄)」と呼ばれ、日本刀の柄や鞘を包む装飾に用いた)(2)[中国]チョウザメ(=鱘)。

体表背面に小さな棘とげが広がる「茨鱏イバラエイ(沖縄美ら海水族館)

およぶ・ひろがる
 テン・デン・むしろ  竹部 diàn
解字 「竹(たけ)+覃(ひろがる)」の会意形声。細かく割った竹で編んだむしろをいう。
意味 (1)竹のむしろ。たかむしろ。竹すのこ。「竹簟チクテン」(たかむしろ)「簟席テンセキ」(たかむしろ)「君は簟席テンセキを以(もち)い、大夫は蒲席(蒲がまのむしろ)を以(もち)いる」(礼記)。「簟床テンショウ」(竹すのこ床)

簟席テンセキ・たかむしろ中国のネットより)

熟成される
 タン・ダン・はなし  言部 tán
解字 「言(ことば)+覃(熟成される)」の形声。長期にわたって熟成された、歴史上や土地に伝わる興味深い話をいう。
意味 (1)はなし(譚)。ものがたり。「奇譚キタン」(珍しく面白い物語や言い伝え)「譚歌タンカ」(神話や伝説などの物語に材料を取って作詞した歌曲)「譚海タンカイ」(はなしの海)(2)かたる(譚る)。はなす。「譚論タンロン」(盛んにかたり論ずる)

形声字
 タン・つば  金部 xín
解字 「金(金属)+覃(タン)」の形声。[説文解字]は「剣(つるぎ)の鼻(はな=とびでた所)也(なり)。金に従い覃タンの聲(声)」とし、刀身と刀の柄(つか)の境目にはさむ金属製の「つば」をいう。

鐔(つば)(「いわの美術」のHPより)
意味 (1)つば(鐔)。刀のつば。刀身と柄(つか)のさかいにはめて手を保護する金具。鍔とも書く。「鐔迫(つばぜ)り合い」(互いに打ち込んだ刀を鐔で受け止めたまま押し合う) (2)小さい剣。短剣。 

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音符「比ヒ」<右向きの人が二人ならぶ> と「批ヒ」「庇ヒ」「屁ヒ」「砒ヒ」「秕ヒ」「妣ヒ」「蓖ヒ」「毘ビ」「枇ビ」「琵ビ」「陛ヘイ」「篦ヘイ」

2025年02月20日 | 漢字の音符
  増訂しました。
 ヒ・くらべる  比部 bǐ・pí・pǐ  

解字 右向きの人が二人一緒にならんでいる形の象形。ならぶ、ならべる、(ならべて)くらべる意味になる。比は部首になるとともに、音符ともなる。なお、左向きの人が二人ならぶ形は、从ジュウで、したがう意となり、そのかたちは従(したがう)の旧字「從」に含まれている。
意味 (1)ならぶ。ならべる。「比肩ヒケン」(肩をならべる)(2)くらべる(比べる)。照らし合わせる。「比較ヒカク」「比類ヒルイ」(3)したしむ。たすける。

イメージ 
 「くらべる」
(比・批) 
 「ならぶ」(庇・毘)
 「形声字」(陛・屁・砒・枇・琵・秕・妣・篦・蓖) 
 
音の変化  ヒ:比・批・庇・屁・砒・秕・妣・蓖  ビ:毘・枇・琵  ヘイ:陛・篦

くらべる
 ヒ  扌部 pī・pí
解字 「扌(て)+比(くらべる)」 の会意形声。(物を)手でならべ比べて良し悪しを見極めること。また、悪い点を指摘すること。
意味 (1)良し悪しを判定する。品定めする。「批評ヒヒョウ」「批判ヒハン」「批点ヒテン」(詩文などのたくみな所、重要な所のわきに点を打つこと)(2)(良し悪しを判定したのち)君主が書類を認める。「批准ヒジュン

ならぶ
 ヒ・かばう・おおう・ひさし  广部 bì
解字 「广(片やね)+比(ならぶ)」 の会意形声。片屋根の下に人が並んでいる形で、人々をおおって保護する意。また、日本では、ひさしの意になる。
意味 (1)おおう(庇う)。かばう(庇う)。保護する。「庇護ヒゴ」(かばいまもる) (2)[国]ひさし(庇)。建物の開口部(窓や扉など)の上に取り付けるられている小さい屋根をいう。「雪庇セッピ」(山の稜線に庇のように張り出した雪の吹き溜り)

庇(ひさし)(「現場日誌・現場ブログ」より)
 ヒ・ビ  田部 pí
解字 「田(田畑)+比(ならぶ)」 の形声。田畑がならぶ意で地勢がつらなる意だが、古くから発音のビが梵語の音訳字に用いられる。
意味 (1)つらなる。「毘連ヒレン」(つらなる)(2)梵語の音訳字。「毘沙門天ビシャモンテン」(仏教の四天王の一つ。日本では七福神の一つ)「荼毘ダビ」(火葬。また葬式)「毘舎ビシャ」(インドの第三番目の階級。庶民階級。バイシャ)

形声字
 ヘイ・きざはし  阝部こざと bì 
解字 「阝(階段)+坒(ヘイ)」の形声。[説文解字]は「高きに升(のぼ)る階(階段)也。阝(階段)に従い坒ヘイの聲(声)」とする。坒ヘイは「比(ならぶ)+土(つち)」 で並んだ土の階段の意味で発音も表しており、転じて高い階段のある宮殿にすむ天子の意。意味は、①天子がいる宮殿にのぼる階段、②宮殿にいる天子、③天子に直接お目にかかるのは恐れ多いので、階段の下を指して天子を暗示した尊称、の意味に用いられる。
意味 (1)きざはし(陛)。天子がいる宮殿にのぼる階段。「陛見ヘイケン」(天子にお目にかかる)「陛下ヘイカ」(天子の尊称。直接天子を指さず、階段の下を指して暗示した言葉)※同じような用法。「殿下デンカ」(皇太子などの敬称)「閣下カッカ」(高位高官に対する敬称)
 ヒ・へ  尸部 pì
解字 「尸(=尻。しり)+比(ヒ)」 の形声。お尻からヒッという音を出してもれる屁。
意味 へ(屁)。おなら。「放屁ホウヒ」(屁をひる)
 ヒ  石部 pī
解字 「石(鉱物)+比(ヒ)」 の形声。ヒという名の鉱物。砒素をいう。
意味 ひそ(砒素)。非金属元素の一つで、化合物は猛毒。農薬・医薬の原料となる。元素記号はAs。「砒石ヒセキ」(砒素・硫黄・鉄などからなる鉱物)
 ヒ・ビ  木部 pí・bǐ・bì
解字 「木(樹木)+比(ビ)」 の形声。ビという名の木。中国南西部原産のビワ(ビハ)という木とその果実を表す字として使われる。

枇杷(「GARDENERS PATH」より)
意味 枇杷ビワとは、バラ科の常緑高木で果樹。初夏に黄橙色の実がなる。ひわ。
 ビ  王部 pí
解字 「琴の略体+比(ビ)」 の形声。ビという音の琴に似た弦を張った楽器。ペルシャから伝わった楽器・ビワ(ビハ)の音訳に使われる。
琵琶(「アジアの楽器図鑑」より)
意味 「琵琶ビワ(ビハ)」に用いられる字。琶も同じ用法。琵琶とは、弦楽器の一つで、大きなしゃもじ形の胴に4本(5本)の糸を張り、バチで鳴らす。「琵琶法師ビワホウシ」「琵琶湖ビワコ」(滋賀県にある琵琶の形をした湖)
 ヒ・しいな  禾部 bǐ
解字 「禾(イネ)+比(ヒ)」 の形声。ヒは非(あらず)に通じ、実がないイネ。
意味 (1)しいな(秕)。よく実がはいらない穀物。「秕糠ヒコウ」(しいなとぬか。役立たない残り物)(2)粗悪。実質がともなわない。「秕政ヒセイ」(悪い政治)
 ヒ  女部 bǐ

解字 「女(おんな)+比(ヒ)」 の形声。ヒは、ヒ(女性の祖先)に通じる。甲骨文字は腕を曲げている人の側面形。甲骨文では二世代以上前の女性祖先の意味で使われている[甲骨文字辞典]。金文第2字で女がついた「女+ヒ」の字があらわれ女性祖先の意味をはっきりさせた。篆文から、死去した母親の意となり、ヒが同音の比に変化した妣となった。なお、女偏のつかないヒは、仮借カシャ(当て字)され、さじや、匕首(あいくち)の意になっている。<参考>音符「ヒ」
意味 なきはは(亡き母)。はは。「先妣センピ」(亡き母)⇔先考センコウ(亡き父)。「考妣コウヒ」(亡き父と母)「祖妣ソヒ」(亡くなった母と先祖)
 ヘイ・ヒ  竹部 bì・pí
篦子ヘイシ
https://twgreatdaily.com/hFIglXIBiuFnsJQVcbZ_.htm
解字 「竹(たけ)+囟シ・シン(ひよめき)+比(ヒ)」の形成。囟シ・シン(ひよめき)とは、幼児の頭の骨がまだ完全に縫合していない形で、頭蓋骨に隙間がある泉門のこと、此処では細い隙間の意(なお、「糸+囟」は現在の細の字になっている)。竹製の細い隙間のあるヒという名の櫛(くし)をいう。日本では、へらの意味で用いられる。発音は、ヒ⇒ヘイに変化。
意味 (1)すきぐし。髪を梳く櫛。櫛の歯の細かいもの。「篦子ヘイシ」(すきぐし)(2)[日本]へら(篦)。「竹篦チクヘイ・たけべら」「靴篦くつべら」「篦棒べらボウ」(異常なさま。当て字) 
 ヒ・ヘイ  艸部 bì
ヒマ・蓖麻とその種子
http://mat-test.com/Post/Details/PT181113000017DaGcJ
解字 「艸(植物)+囟シ・シン(ひよめき。細い隙間)+比(ヒ)」の形成。実にクシの歯を連想させる細かい針状の突起が一面に生えているヒという名の植物。見た目は小さな栗のイガに似ている。
意味 「蓖麻ヒマ」に用いられる字。蓖麻とはトウゴマで、トウダイグサ科の一年草。種子(蓖麻子)から、ひまし油をとる。「蓖麻子油ヒマシユン」(粘性の不乾性油。下剤とする)
<紫色は常用漢字>

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音符「各カク」と「格カク」「恪カク」「閣カク」「擱カク」「喀カク」「貉カク」「額ガク」「客キャク」「咎キュウ」「落ラク」「絡ラク」「烙ラク」「珞ラク」「駱ラク」「酪ラク」「洛ラク」「略リャク」「賂ロ」

2025年02月18日 | 漢字の音符
   カク <いたる>
 カク・おのおの  口部 gè・gě


  上は各カク、下は夂
解字 甲骨文第一字は「夂(下向きの足)+口(場所)」の会意。夂は上より降りてくる足先の形で、各カク・夆ホウ・夅コウなどに含まれ、文字の上にくるとき、人(または神)が降りてくる、また向こうから来る形。第二字は異体字で口でなく穴のような場所を表している。意味は、いたる・到来・到着する意[甲骨文字辞典を参考にした]。金文から現代字まで甲骨文第一字の形を引き継いでいる。「いたる」が原義だが、仮借カシャ(当て字)して、おのおの、の意味になった。各を音符に含む字は「いたる(神がいたる)」、いたることにより「つながる」イメージがある。
意味 おのおの(各・各々)。めいめい。それぞれ。「各自カクジ」「各位カクイ」「各論カクロン

イメージ 
 「いたる・神がいたる」(各・客・恪・額・落・咎)
 いたりて「つながる」(格・閣・擱・絡・略・烙・珞・駱・酪・賂)
 「形声字」(喀・洛・貉)
 音の変化  カク:各・格・恪・閣・擱・喀・貉  ガク:額  キャク:客  キュウ:咎  ラク:落・絡・烙・珞・駱・酪・洛  リャク:略  ロ:賂

いたる・神がいたる
 キャク・カク・まろうど  宀部 kè  
解字 「宀(たてもの・いえ)+各(いたる)」の会意形声。宀(いえ)にいたった人で、旅をして遠くから訪問してきた大事な人(賓客)をいう。
意味 (1)招かれてきた人。訪問してくる人。まろうど(客)。「客人キャクジン」「来客ライキャク」「客間キャクマ」(2)商売の相手。料金を払う人。「顧客コキャク」(3)旅。旅人。「客死キャクシ・カクシ」(4)自己に対するもの。「客観キャッカン」「客体キャクタイ
 カク・つつしむ  忄部 kè
解字 「忄(こころ)+各(=客の略体。お客)」の会意形声。篆文は「心+客」のカクになっている。来客に接する心で、つつしむ。うやまう意。現代字は客⇒各に、心⇒忄の恪になった。
意味 (1)つつしむ(恪しむ)。つつしみ(恪み)。うやまう。「恪遵カクジュン」(つつしみしたがう)「恪勤カクキン」(勤務を忠実につとめる)。「恪謹カクキン」(うやまいつつしむ)(2)[日本]「恪勤者カクゴシャ」(①平安時代、親王・大臣に仕えたさむらい。②武家時代の宿直とのいの武士。)
 ガク・ひたい  頁部 é
解字 「頁(あたま)+客(大事なお客さま)」の会意形声。大事なお客さまに頭をさげてぬかずき、ひたいを床につけること。ひたいの意となり、また、ひたいは顔の正面にあることから、建物や門などの正面に掲げる「がく(額)」をいう。のち、金額など分量の意ともなる。
意味 (1)ひたい(額)。おでこ。ぬかずく。「額衝(ぬかず)く」(2)書画を入れて掲げるもの。がく(額)。また、そのわく。「扁額ヘンガク」(細長い額)「額縁ガクブチ」(3)分量。たか。お金の数値。「金額キンガク」「価額カガク
 キュウ・とがめる  口部 jiù・gāo
解字 「人(ひと)+各(神がいたる)」の会意。神が至りて人に天罰をくだすこと。
意味 (1)とが(咎)。とがめる(咎める)。天がくだす罰。わざわい。「天咎テンキュウ」「災咎サイキュウ」(2)罪。あやまち。「咎人とがにん」(罪人)「罪咎ザイキュウ」(つみと、とが。罪科)

つながる
 カク・コウ・キャク・いたる  木部 gé・gē・luò・hè
解字 「木(き)+各(つながる)」の会意形声。木を整然と組んでつなげた木組み(格子)をいう。きちんと整っていることから、規格(標準)・きまりの意となる。品格(程度)などの意味は派生義である。また、各の原義である「いたる」意。角カク(角(つの)くらべ)に通じ、たたかう意もある。
格子戸
意味 (1)木をタテ横きちんと組み合わせたもの。「格子コウシ」「格子戸コウシド」(格子を組み込んだ戸)(2)人の身体の部分の組み合わせ。「体格タイカク」「骨格コッカク」(3)標準。きまり。「規格キカク」「格式カクシキ」(①身分・儀式などのきまり。②身分や家柄の程度)。「別格ベッカク」「品格ヒンカク」(4)いたる(格)。(5)たたかう。「格闘カクトウ
 カク・たかどの  門部 gé  
解字 「門(門のある建物)+各(=格。組み合わせたもの)」の会意形声。木組みの高い楼がある建物をいう。
大阪城天守閣
意味 (1)たかどの(閣)。「金閣キンカク」「仏閣ブッカク」「天守閣テンシュカク」(2)役所・官庁。閣で行なわれる国の統治。「内閣ナイカク」(行政権の最高機関)「閣議カクギ」(内閣での会議)「閣僚カクリョウ」(内閣を構成する大臣)(3)後世に出た意味。「閣板カクバン」(物を置くたな)「閣筆カクヒツ」(筆をおく。書くことをやめる。=擱筆)
 カク・おく  扌部 gē・gé
解字 「扌(て)+閣(おく)」の会意形声。閣に、おく意があり、これに扌(て)をつけて、おく意を表した字。
意味 おく(擱く)「擱筆カクヒツ」(筆をおく。書くことをやめる)「擱坐カクザ」(船が浅瀬にのりあげる)
 ラク・からむ・からまる・からめる  糸部 luò・lào  
解字 「糸(いと)+各(つながる)」の会意形声。糸でつながること。つながってからまる意もある。
意味 (1)つながる。つなぐ。つづく。「連絡レンラク」「短絡タンラク」(2)からむ(絡む)・からまる(絡まる)・からめる(絡める)。「籠絡ロウラク」(からめて籠にいれる。人をうまくまるめこむ)(3)すじ。すじみち。「脈絡ミャクラク
 リャク・はぶく  田部 lüè  
解字 「田(田畑)+各(つなげる)」の会意形声。田畑の中に横につなぐ道をつけること。遠回りせずにまっすぐ行けることから、はぶく・かんたんにする意となる。また、道をつけてその土地を奪いとる意もある。
意味 (1)はぶく・簡単にする。「省略ショウリャク」「略式リャクシキ」(2)奪い取る。かすめとる。「略奪リャクダツ」「侵略シンリャク」(3)はかりごと・たくらみ。「計略ケイリャク
 ラク・ロク・やく  火部 lào・luò
解字 「火(ひ)+各(つながる)」の会意形声。火の熱が伝わること。
意味 やく(烙く)。鉄などを熱する。熱した焼きがねをあてる。「烙印ラクイン」(①刑罰として焼き印をあてること。②不名誉や汚名の例え)
焙烙ほうろく(「むかしの道具展」より)
「焙烙ホウロク・ホウラク」(①素焼きの平たい土鍋。火にかけて豆やゴマなどをいるのに使う。②あぶりやくこと)
 ラク  玉部 luò
解字 「王(たま)+各(つながる)」の会意形声。玉をつなげた首飾り。
意味 玉をつないだ首飾り。「瓔珞ヨウラク」(①インドの貴族が頭や首にかける装身具。仏像の装飾ともなる。②仏像の天蓋などにつける装飾)
 ラク  馬部 luò・jià
解字 「馬(うま)+各(つながる)」の会意形声。つながって進む馬のような動物。

駱駝の行列(Camel Procession Silhouetteより)
意味 「駱駝ラクダ」に用いられる字。駱駝とは、ラクダ科の哺乳動物。背中のこぶに脂肪を蓄えているので沙漠の生活に適し、何頭も連なって乗用や運搬用に使われる。
 ラク  酉部 lào
解字 「酉(酒樽。発酵する)+各(つながる)」の会意形声。乳をかき回しながら乳たんぱく質をつなげて固め、発酵させた飲料や食品。
意味 ヨーグルト・バター・チーズなど乳酸菌発酵した食品。「酪農ラクノウ」(牛や羊などの乳から乳製品を作る農業)「牛酪ギュウラク」(バターのこと)「乳酪ニュウラク」(バター・クリーム・チーズなど)
 ロ・まいなう  貝部
解字 「貝(財貨)+各(直接つなげる)」の会意形声。財貨を相手に直接渡して便宜をはかってもらうこと。
意味 まいなう(賄う)。まいない。金品を贈る。「賄賂ワイロ」(不正な意図で金品を渡し便宜をはかってもらうこと)「賂謝ロシャ」(=賄賂。賄賂の金品)

形声字
 ラク  氵部 lù
解字 「氵(水)+各(ラク)」の形声。ラクという名の川をいい洛水の意。
意味 (1)川の名。「洛水ラクスイ」(陝西センセイ省南部にある華山に源を発し、河南省に入って北東に流れ、洛陽の南を通り黄河に注ぐ川)(2)地名。「洛陽ラクヨウ」(中国の都が置かれたことがある古都。洛水の北岸(北は陽)にあることからいう)(3)[国]日本の古都である京都をいう。「京洛キョウラク」(京都)「入洛ニュウラク」(京都に入ること)
 ラク・おちる・おとす  艸部 là・lào・luō・luò
解字 「艸(草=木の葉)+洛(ラク)」の形声。木の葉がおちることを落ラクという。また、木の葉に限らずすべて「おちる・くだる」意を表わす。また、攻め落とされる。おちぶれる。落ち着いた所。木の葉がすべて落ちて、おさまりがつく意となる。
意味 (1)おちる(落ちる)。おとす(落とす)。「落下ラッカ」「落盤ラクバン」(2)攻め落とされる。敗れる。「落城ラクジョウ」「落人おちゅうど」(敗れて逃げた人)(3)おちぶれる。「没落ボツラク」(4)落ちた所。着いた場所。住み着く。「群落グンラク」「集落シュウラク」(5)(木の葉がすべて落ちて)おさまる。決まりがつく。できあがる。「落着ラクチャク」「落成ラクセイ
 カク  口部 kā・ke
解字 「口(くち)+客(カク)」の形声。カクは衉カク(はく)に通じ、口からものを吐くこと。衉カクは、「血(ち)+各(いたる)」で、血をはくこと。
意味 はく(喀く)。のどにつかえたものを吐く。「喀血カッケツ」(血をはく)「喀痰カクタン」(たんをはく)
貉[狢] カク・バク・むじな  豸部むじな háo・hé・mò・mà
貉(むじな)
中国南京市紅山森林動物園HPに掲載の写真。動物園で飼育しているのでなく、所蔵している写真。
解字 「豸(けもの)+各(カク)」の形声。カクという名のけもの。ムジナをいう。南京市紅山森林動物園HPの説明では「貉は食肉目犬科貉属の動物で、形態は長さが 45-66㎝、尾の長さ16-22㎝、体重3000-6000グラム。欧州の貉の体型は中国と日本の貉と比べると大きい。外形は狐と狸に似ている。額と鼻は白色で眼の周囲は黒色、脚は短い、尾はふさふさして黒く長い」とする。
意味 (1)むじな(貉)。上記説明を参照。「貉藻むじなも」(形状が貉の尾に由来する多年性水草)(2)異民族を卑しんで言う。「蛮貉バンバク」(南方の蛮人と北方の蛮人。 南蛮と北狄ホクテキ)「貉道バクドウ」(異民族のやり方)「大貉小貉タイバクショウバク」(文化程度の低い野蛮人のような為政者のこと。[春秋公羊伝・宣公15年])
<紫色は常用漢字>

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音符「戌ジュツ」<大きな刃で相手を圧倒する> と「威イ」「鰄イ」「滅メツ」「縅おどし」

2025年02月16日 | 漢字の音符
 日米首脳会談で大統領へのお土産に選ばれた亜麻色縅(あまいろおどし)かぶとを追加しました。
   ジュツ <大きな刃で相手を圧倒する> 
 ジュツ・いぬ  戈部

解字 甲骨文字・金文ともにマサカリの大きな刃の部分を中心に描いた象形。篆文になりマサカリの下の刃が独立して一になり、現代字の戌になった。戌は大きな刃なので、これで「相手を圧倒する」イメージを持つ。元の意味に関係なく、十二支の11番目「いぬ」に仮借カシャ(当て字)された。
意味 いぬ(戌)。十二支の第十一。時刻では午後8時、およびその前後の2時間。方角では西北西、動物では犬に当てる。「戌亥いぬい」(方角で北西=乾)

十二支(「暮らし歳時記 十二支と方位」より)

イメージ 
 「いぬ(仮借)」
(戌)
 大きな刃で相手を「圧倒する」(威・縅・鰄・滅)
音の変化  ジュツ:戌  イ:威・鰄  メツ:滅  おどし:縅

圧倒する
 イ・おどす  女部  
解字 「女(おんな)+戌(圧倒する)」 の会意。女を刃物で圧倒する形で、おどす意。
意味 (1)おどす(威す)。おびやかす。「威圧イアツ」「威嚇イカク」 (2)いかめしい。「威厳イゲン」「威風イフウ」「権威ケンイ

<国字> おどし・おどす  糸部
赤糸威大鎧(岩槻の五月人形より)
解字 「糸+威(おどす)」の会意。よろいのサネ(鉄や革の小片)を糸(=緒お。ひも)で通す「おどし(緒通し)」の作業、および通した糸をいう。「緒通し(おどし)」を「威し」に当てて作った国字。なお、糸をつけず威だけで表記することもある。
意味 おどし(縅)。おどす。よろいのサネ(鉄や革の小片)を糸(緒)または細い革でつづり合わせること。「赤糸縅あかいとおどし鎧」(あかね染めの糸で縅した鎧よろい)「韋縅かわおどし」(鹿の皮の紐を使って縅した)「亜麻色縅(あまいろおどし)かぶと」(亜麻を紡いだ糸の色のような黄色がかった薄茶色の糸で縅(おど)した兜)

①亜麻色あまいろおどし満天金星兜かぶと(「人形のはなぶさ」より)②兜の後ろ、亜麻色縅おどしがみえる。2025年2月7日に、ワシントンにて開催された日米首脳会談でトランプ大統領へのお土産に選ばれた。
 イ・かいらぎ  魚部
解字 中国では「古書上に見える魚の名」であるが、日本で独特の意味に発展した。「魚(さかな)+威(おどす)」の会意形声。魚の背に周囲をおどすように突起上の帯をもつサメの一種。このサメ皮は梅の花の模様に見えるので「梅花皮(かいらぎ)」といい、古くから刀剣の鞘(さや)や柄(つか)に巻かれて装飾品となった。

左は、かいらぎ皮。右は、黒塗りして研ぎだした刀の鞘

梅花皮の原皮。これまでサメ皮とされてきたが、鱏エイ(ray)の仲間とのこと。
以上の写真は、「Yoshimasa Iiyamaのブログ」から引用させていただいた。
掲載の承諾を得ようとメッセージを送ったのですが、うまくつながりませんでした。すみません。
意味 (1)中国で古書にみえる魚の名。 (2)[日本]かいらぎ(鰄)。サメ皮の一種とよばれてきた梅花形の突起状のある皮。刀の柄や鞘を包む装飾に用いる。 (3)[日本]かいらぎ(鰄)。茶道で井戸茶碗のうわぐすりのちぢれた模様をいう。
「かいらぎ」の語源 室町時代の辞書『節用集』に、「海かい刀鞘」「鰄同」とある(同上ブログによる)。「海にすむ乱暴者の鬼」のような魚、と解釈すると「魚+威(おどす)」という解字と合うような気がします。

 メツ・ほろびる・ほろぼす  氵部
解字 「氵(水)+火+戌(圧倒する)」 の会意。水をかけて火を圧倒する意。転じて、きえる・ほろびる意となる。
意味 (1)きえる。火や明かりが消える。「点滅テンメツ」 (2)ほろびる(滅びる)。ほろぼす(滅ぼす)。「滅亡メツボウ」「絶滅ゼツメツ」「滅菌メッキン」 (3)死ぬ。「入滅ニュウメツ
<紫色は常用漢字>

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音符「府フ」 と 「俯フ」「腑フ」「腐フ」「椨たぶ」

2025年02月14日 | 漢字の音符
     <フ・くら>
 フ・くら  广部 fǔ


  上は府、下は付
解字 春秋戦国時代の府は「左右が下までのびた(建物)の中に付の古形(付けくわえる)+貝(財産)がある形」で、財宝が付け加えられていている蔵(くら)の意。篆文は「广(たてもの)+付(つけ加える)」となり、貝を省いた形。[説文解字]は「文書の藏(くら)也(なり)。广に従い付聲(声)」とし、貝がないので文書蔵とした。[同注]は「引伸して之(これ)を爲す府の史胥シシュ(文書を管理する小吏)の徒、之(の)府」とし、文書を保存管理する役所の意味とし、後には「みやこ」の意ともなった。
意味 (1)くら(府)。文書や財宝をしまっておく倉。「府庫フコ」(くら)(2)つかさ。役人が事務を執る所。役所。「国府コクフ」「政府セイフ」「幕府バクフ」「鎮守府チンジュフ」(大日本帝国海軍の根拠地の主要軍港に置かれた統轄機関。横須賀・呉・佐世保・舞鶴にあった)(3)みやこ(府)。まち。「首府シュフ」(4)地方行政区画の一つ。「大阪府おおさかフ」「京都府キョウトフ

イメージ
 「くら」(府・腑・腐)
 「形声字」(俯・椨)

音の変化 フ:府・俯・腑・腐  たぶ:椨

くら
 フ・はらわた  月部にく fǔ
解字 「月(にく・からだ)+府(くら)」の会意形声。身体のなかの府(くら)に当るところ。
意味 はらわた(腑)。体内の臓器。「臓腑ゾウフ」(はらわた。内臓)「腑抜(ふぬ)け」(意気地がないこと)「腑分(ふわ)け」(解剖)「肺腑ハイフ」(肺臓。心の奥底。急所)
 フ・くさる・くされる・くさらす  肉部  
解字 「肉(にく)+府(くら)」 の会意形声。「くら」にしまいこまれた肉がくさる意。
意味 (1)くさる(腐る)。くされる。くさらす。くさす。「腐敗フハイ」「腐臭フシュウ」(腐ったにおい)(2)古い。「陳腐チンプ」(ふるくさい。ありふれる)(3)「腐心フシン」とは、心をいため悩ますこと。(4)食品。「豆腐トウフ」(大豆で作った食品)

形声字
 フ・うつむく  イ部 fǔ

解字 篆文はフ・チョウで、「兆(占いのひびわれ)+頁(あたま)」で、占いでできたひび割れを、頭を下にむけて見る形で、うつむく意。フ・チョウは俯の篆文で異体字。楷書から頫フ・チョウ⇒俯になった。俯は、人がうつむくこと。
意味 ふせる。うつむく(俯く)。うつぶす。「俯角フカク」(目の高さより下を見る時、その視線と水平面との角度)「俯瞰フカン」(高い所から見下ろすこと)
 <国字> たぶ  木部 fǔ

タブノキ (森林インストラクターのブログ)
解字 「木(き)+府(フ)」の形声。タブの木を表す国字。木に発音の一音を表す府フをつけて、タブ(椨)を表した。中国では紅楠と書く木。
タブノキの名の由来(「宮崎森林環境教育」より)。
 タブノキは霊レイが宿る木とされ、古代では信仰の対象となっていました。それが「霊(たま)の木」であり、タモ、タブ、タブノキと変化したと考えられています。
意味 たぶ(椨)。たぶのき。クスノキ科の常緑高木。暖地の海岸沿いに多く自生し、春に黄緑色の小花を開く。照葉樹林の代表的樹種のひとつ。日本各地に巨木が残っている。「いぬぐす」とも。「椨粉タブこ」(タブの枝葉を乾燥して粉にしたもの。お香の原料になる)

①椨粉、②椨粉の線香。(「宮崎森林環境教育・タブノキと人とのかかわりより」)
<紫色は常用漢字>

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音符「且ソ」と「祖ソ」「徂ソ」「俎ソ」「詛ソ」「阻ソ」「沮ソ」「岨ソ」「租ソ」「疽ソ」「組ソ」「狙ソ」「姐ソ」「咀ソ」「齟ソ」「粗ソ」「蛆ショ」「助ジョ」「鋤ジョ」「畳ジョウ」「査サ」「渣サ」

2025年02月12日 | 漢字の音符
  ソ・ショは何を表しているのか?
 ソ・ショ・かつ・まさに  一部 qiě・jū・cú・zǔ


 上は且、下は宜
解字 且ソ・ショは何を表しているのだろうか? それを解くカギは宜が握っている。下に配置した宜は「宜(よろ)しい」という意味の字だが、甲骨文字は供物台の上に犠牲の肉をのせて積み上げた形。砲弾形の上下にA(肉)を描いており(準備が)よろしい意。金文も月(肉)を描いており同じく、よろしい形である。これらの字から肉(A・月)を取り去ると且になる。(現代字の宜はウ冠がついた宜に変化している)

肉を皿に積み上げた店(「肉のヒマラヤ」より)
 つまり、宜はお供えする肉を供物台に積み上げた形であり、且はそこから肉(A・月)を省略した形であるが、本来の肉をのせている供物台の略体を表している(なお、下の台は省略されている。強いていえば下のはみ出た横線が相当する)。しかし、仮借カシャ(当て字)されて、「まさに」「かつ」「しばらく」の意になった。しかし本来のイメージは「肉をのせた供物台」である。
意味 (1)かつ(且つ)。「且(か)つ引き且(か)つ戦い連闘八日」(引いたり戦ったりして戦闘が続いた八日間。(史記)(2)まさに(且に)~す。「城且(まさ)に抜(ぬ)けん(攻め落とされる)と矣(す)」(戦国策)(3)しばらく(且く)。いささか。「我酔うて眠らんと欲す。卿(きみ)且(しばら)く去れ。(李白)」(且く去れ⇒ちょっと帰ってくれ)

イメージ 
 肉をのせた「供物台」(且・祖・徂・俎・詛)
 肉が「つみ重なる」(阻・沮・岨・租・疽・蛆・助・鋤・組・畳)
 かさねる意から「時間や回数を重ねる」(狙・姐・咀・齟)
 「形声字」(粗)
 「その他」(査・渣)

音の変化  ソ:且・祖・徂・俎・詛・阻・沮・岨・租・疽・組・狙・姐・咀・齟・粗  サ:査・渣  ショ:蛆  ジョ:助・鋤  ジョウ:畳  

供物台
 ソ・おや  ネ部 zǔ・jiē 

解字 甲骨文字は且で、祖先をまつる祭礼に用いる肉をのせた供物台の形だが、祖先の意味で使われた[甲骨文字辞典]。金文から示(祭壇)をつけた祖が作られた。祖は、「ネ(示:祭壇)+且(肉をのせた供物台)」の会意形声。肉をのせた供物台を祭壇に置き、先祖を祀ること。

祭壇の上の供物台(なかに鏡餅や果物など)をのせた現在の祭礼堺市開口神社
意味 (1)せんぞ。血筋・家系のもと。おや(祖)。「祖先ソセン」「先祖センゾ」(2)父または母の親。「祖母ソボ」「祖父ソフ」(3)もと。はじめ。「教祖キョウソ」「祖師ソシ」(開祖。創始者)
 ソ・ゆく  彳部 cú
解字 「彳(ゆく)+且(=祖。そせん)」の会意形声。祖先を祀る廟へゆくこと、また、祖先のもとへゆく(死ぬ)こと。
意味 (1)ゆく(徂く)。おもむく。「徂徠ソライ」(行き来する)(2)去る。死ぬ。「徂春ソシュン」(過ぎ行く春)「徂逝ソセイ」(①去ってゆく。②死ぬ)(3)人名。「荻生徂徠オギュウソライ」(江戸中期の儒学者)
 ソ・ショ・まないた  人部 zǔ  

解字 金文は、且(供物台)の左横にTを横にした印を二つ描いている。これは供物台の脚を描いているとされ、脚のある供物台の意。肉を盛る供物台(机)を表す。現代字は左が人二つに変化した俎になった。本来は祖先にお供えする肉をおくお皿のような足つきの器であったが、現在の意味は料理の材料を切るときにのせる板である「まないた(俎板)」の意味に変化している。

①彩絵動物紋漆俎シツソ。宜昌博物館(湖北省宜昌市)所蔵。1988年当陽趙巷4号墓出土。木胎漆塗りで俎面は長方形で左右が隆起している。②脚付きの青銅俎。河南博物院(河南省鄭州市)所蔵。表面に穴をあけて模様をつけた俎は、古代の祭祀で牛羊等の切り肉を盛る脚付きの器。穴模様がある俎は、切肉を盛ったときの汁が瀝(したた)り落ちて溜まらないようになっていた。1977年南陽市淅川下寺楚国墓地M2出土。
現在の足つき俎板(ネットの広告から)
意味 (1)祭祀でお供えする犠牲の肉を載せる台。「俎豆ソトウ」(①祭りの供物台と豆(高杯たかつき)。②祭りに用いる道具)「俎豆之事ソトウのこと」(祭りの儀式の事柄)(2)まないた(俎)。料理の材料を切るときのせる板。真魚板とも書き日本では本来、魚を料理するのに用いる板をいう。俎板とも書く。「俎上ソジョウ」(まないたの上)「俎板まないたの鯉」(相手のなすがままで逃げ場のないこと)「樽俎ソンソ」(①酒のたると俎板。転じて酒宴の席。②国際上の談判)「樽俎折衝ソンソセッショウ」(平和的な外交談判で交渉をすすめる)
 ソ・のろう  言部 zǔ
解字 「言(ことば)+且(肉をのせた供物台)」の会意形声。肉をのせた供物台を祭壇に置き言葉で祈ること。ちかう意だが、神へでなく私的に祈る場合、のろう意となる。
意味 (1)ちかう。ちかう。「詛盟ソメイ」(ちかい)(2)のろう(詛う)。「呪詛ジュソ」(のろう。呪も詛も、のろう意)

つみ重なる
 ソ・はばむ  阝部 zǔ
解字 「阝(おか)+且(つみ重なる)」の会意形声。肉がつみ重なったように見えるけわしい丘。また、けわしい丘にはばまれること。
意味 (1)けわしい(阻しい)。「険阻ケンソ」(2)はばむ(阻む)。「阻止ソシ」「阻害ソガイ」(じゃまをする) 
 ソ・はばむ  氵部 jǔ・jù・jū
解字 「氵(みず)+且(=阻。はばむ)」の会意形声。水にはばまれること。
意味 (1)はばまれる。くじける。ひるむ。「沮喪ソソウ」(くじける。落胆する)「意気沮喪イキソソウ」(2)はばむ(沮む)。=阻む。「沮止ソシ」(くいとめる。=阻止)
 ソ・そば  山部 qū・jū・zǔ・jǔ
解字 「山(やま)+且(=阻。けわしい)」の会意形声。山のけわしい所をいう。
意味 そば(岨)。そわ(岨)。山の切り立った斜面。がけ。「岨道そばみち・そわみち」(けわしい山道=岨路)「岨清水そばしみず」(山の切り立った所から流れる清水)
 ソ  禾部 zū・jū
解字 「禾(穀物)+且(つみ重なる)」 の会意形声。穀物をつみ重ねること。みつぎものとして納める意と、穀物をつみ重ねて(お金を払って)借用する意とある。
意味 (1)みつぎ。年貢。税。「租税ソゼイ」「地租チソ」(2)金銭を払って借りる。賃借り。「租界ソカイ」(借り上げた他国の領土の一部)「租借ソシャク」(他国の領土の一部を借りること)
 ソ・かさ  疒部 jū
解字 「疒(やまい)+且(つみかさなる)」の会意形声。皮膚につみかさなるようにふくらむ悪性のできものをいう。
意味 かさ(疽)。悪性のできもの。「疽腫ソショウ」(悪性のはれもの)「炭疽症タンソショウ」(炭のように黒いかさぶたができる感染症)「炭疽菌タンソキン」(炭疽症の原因となる細菌。生物兵器として研究された)「壊疽エソ」(体の組織が局所的に死に<壊死エシ>色が変わってできもののようなること>
 ジョ・ソ・たすける・たすかる・すけ  力部 zhù・chú
解字 「力(ちから)+且(かさねる)」の会意形声。力をかさねて相手を助けること。
意味 (1)たすける(助ける)。救う。「助言ジョゲン」「助命ジョメイ」(2)助ける働きを表わす。「助詞ジョシ」「助役ジョヤク」(3)すけ(助)。①日本の律令制の四等官の第二位の官。②人名のようにいう。「飲み助」(4)共同耕作する。「助法ジョホウ」(共同耕作地を設け、その収穫を租税に当てる殷・周の租税法)
 ジョ・ショ・すき  金部 chú
解字 「金(金属)+助(たすける)」の会意形声。耕作など田畑の仕事を助ける金属の道具。日本では足で踏みこむ農具のスキを指すが、現在の中国では日本のクワ(鍬)にあたる手前に引き寄せて土を起したり除草する農具を指している。
日本の各種の鋤(©西川勝也氏)
https://kotobank.jp/word/%E9%8B%A4-83493
意味 (1)すき(鋤)。幅のある刃にまっすぐな柄をつけた農具。足で押しこみ手の力で土を反転させて耕す。「耕鋤コウジョ」(たがやす)(2)除草する。「鋤除ジョジョ」(雑草をすき除く)(3)のぞく。根絶やしにする。「誅鋤チュウジョ」(ほろぼす)
 ショ・うじ  虫部 qū・jū
解字 「虫(むし)+且(つみかさなる)」の会意形声。積み重なるように繁殖する虫。
意味 うじ(蛆)。ハエなどの幼虫。「蛆虫うじむし」(①うじむし。②つまらない人間)
 ソ・くむ・くみ  糸部 zǔ
解字 「糸(ひも)+且(上へ上へと重ねる)」の会意形声。太い糸をつぎつぎと重ねて編む組ひも。
意味 (1)くみひも。「組紐くみひも」(2)くむ(組む)。くみたてる。くみあわせる。「組織ソシキ」「組閣ソカク」(内閣を組織する)「組成ソセイ」(組み合わさる成分)(3)くみ(組)。同じ部類に入るなかま。「組頭くみがしら
[疊] ジョウ・たたむ・たたみ  田部 dié
解字 旧字は疊で、「畾ライ(かさなる)+冖(かぶせる)+且(かさなる)」の会意。上(畾)と下(且)にかさなる形、真ん中にかぶせる形(冖)がつき、幾重にもかさなる意。また、転じて、折り重ねる・たたむ意となる。日本ではワラをかさね合わせた敷物のタタミの意ともなる。現代字は畾⇒田になった。
意味 (1)重ねる。重なる。「畳語ジョウゴ」(同じ単語を重ねて作った語。例:人々・くろぐろ・ひらひら)「重畳チョウジョウ」(幾重にも重なる。重も畳もかさなる意)(2)たたむ(畳む)。「畳紙たとうがみ」(横に二つ、縦に四つ折りにした紙。たたみがみの音便)(3)[国]たたみ(畳)。わら製の厚い敷物。「八畳間はちじょうま」「畳表たたみおもて」(畳の表につかうイグサのむしろ)

時間や回数を重ねる
 ソ・ねらう  犭部 jū
解字 「犭(けもの)+且(時間を重ねる)」の会意形声。獣が獲物を求めじっと待つさまで、ねらう意。また、[説文解字]は「玃(さる)の属ゾク」とし「さる」の意味がある。
意味 (1)ねらう(狙う)。うかがう。「狙撃ソゲキ」「狙伺ソシ」(ひそかにうかがう。狙も伺も、うかがう意。暗中の偵候) (1)さる(狙)。てながざる。「狙公ソコウ」(さるを飼う者。猿回し)「狙侯ソコウ」(さるの別称)
 ソ・シャ・あね・あねご  女部 jiě・jù・zǐ
解字 「女(おんな)+且(年をつみかさねる)」の会意形声。歳をつみかさねた女。
意味 (1)あね(姐)。女きょうだいの年上の者。(2)あねご(姐)。「姐御あねご」(①姉を親しんで呼ぶ称。②女親分。)
 ソ・かむ  口部 zuǐ・jǔ
解字 「口(くち)+且(回数をかさねる)」の会意形声。口のなかで歯を何度も合わせる。
意味 かむ(咀む)。かみくだく。「咀嚼ソシャク」(咀も嚼も、かむ意)
 ソ・かむ  歯部 jǔ・zhā
解字 「旧字の歯(は)+且(回数をかさねる)」の会意形声。歯を何度もかみあわせること。また、上下の歯がうまくかみあわないことをいう。
意味 (1)かむ(む)。かみくだく。(2)くいちがう。「齟齬ソゴ」(物事がくいちがうこと)

形声字
 ソ・あらい  米部 cū
解字 「米(こめ)+且(ソ)」の形声。ソは疎(まばら)に通じ、まばらに稔った質の悪い米の意。そこから、すべて粗悪な(粗末で質の悪い)ものをいう。
意味 (1)あらい(粗い)。おおざっぱな。そまつな。「粗雑ソザツ」「粗暴ソボウ」「粗品ソシナ」「粗食ソショク」「粗相ソソウ」(①そそっかしい。②しそこない)(2)あら(粗)。欠点。「粗さがし」(3)あらまし。ほぼ(粗)。「粗方あらかた

その他
 サ・しらべる  木部 chá・zhā・chái 
解字 篆文に見えず、新しい字である。当初、と書かれ木のサンザシ(山査子)を表した。のち査に変化したが、調べる意に当てられるようになり、この意が主流となった。なお、繁体字・簡体字とも査で表示される。
意味 (1)しらべる(査べる)。考える。明らかにする。「査察ササツ」「調査チョウサ」「査証サショウ」(調査し証明する。また、パスポートの裏書き。ビザ) (2)木の名。「山査子サンザシ」に使われる。バラ科の落葉低木。庭木。春に白い花をつけ秋に黄色の果実をむすぶ。
覚え方 「木(木簡)+且(つみかさねる)」で、木簡を積み重ねて、ひとつひとつ書かれている内容を検査する。
 サ・おり・かす  氵部 zhā
解字 「氵(みず)+査(サ)」の形声。液体(みず)の底に沈んだ残りかす(不要物)を渣サという。
意味 おり(渣)。かす(渣)。沈殿物。「渣滓サシ」(液体の底に沈んだかす。渣も滓も、かすの意)「残渣ザンサ」(残りかす。濾過などした際に残った不溶物)「沈渣チンサ」(沈んだかす)
<紫色は常用漢字>

<関連音符>
 ギ・よろしい・むべ   宀部 yí
解字 「宀(建物)+且(肉をつみかさねる)」の会意。建物で肉を盛る祭礼を行なう形。
意味 よろしい(宜しい)。むべ(宜)。詳しくは、音符「宜ギ」を参照。

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音符「天テン」<てん> と 「忝テン」「添テン」「蚕サン」「昊コウ」「俣また」

2025年02月10日 | 漢字の音符
  増訂しました。
 テン・あめ・あま  大部 tiān

解字 甲骨文は大の字形の人のうえにをつけ本来は人の頭を表した字。頭部の意味もあったが、転じて、頭上にひろがる空間(天空)を表す意味となり後にこれが主流となった。金文は頭が〇印に、篆文は一になり、これが現在に続いている。意味は、頭上の空間である「そら(天空)」、また、天の神を表す。
意味 (1)あめ(天)。あま(天)。そら。「天空テンクウ」「天地テンチ」 (2)そらもよう。「天気テンキ」 (3)自然の力。「天災テンサイ」 (4)万物を支配するもの。神。「天主テンシュ」「天子テンシ」 (5)生まれつき。「天才テンサイ
参考 天の横画は上と下の、どちらが長い?
 古筆の「天」(「新書道字典」二玄社より)
 日本で天の字は上が長いとされ小学校では上を長く書くよう指導している。しかし、古筆の名蹟では、ほとんどの字で上が短い。例えば、書聖とよばれる東晋の王義之の天は、上図の中央タテの3字だが、いずれも上が短い。その左右の別の書家の字も同様である。日本でも明治初年から昭和35年頃までの教科書は上が短かった。http://d.hatena.ne.jp/higonosuke/20130312
ところが、それ以後、活字の教科書体に合わせて上を長く書くよう指導するようになったようだ。伝統的に上が短い天が使われていた(現在の中国も上が短い)のだから、上を短く書いても正解である。

イメージ 
 「てん(天)」
(天・昊・蚕) 
 「形声字」(忝・添) 
 「その他」(俣)
音の変化  テン:天・忝・添  サン:蚕  コウ:昊  また:俣

てん
 コウ  日部 hào
解字 「日(太陽)+天(てん)」の会意。太陽が高くかがやいている天(そら)。
意味 (1)そら。おおぞら。「昊天コウテン」(広く大きい空。夏の空)「蒼昊ソウコウ」(あおぞら)(2)あかるい。「月昊ゲッコウ」(月があかるい)
[蠶] サン・かいこ  虫部 cán・tiǎn
解字 「虫(むし)+天(てん)」の会意。天がさずけた大切な虫。古字はサンで、「虫虫(たくさんのむし)+朁サン」の形声。後漢の[説文解字]は「絲(いと)を任(は)く蟲なり」とし蚕(かいこ)を表す。のち、⇒蚕に簡略化された。

七十二候「蚕起食桑かいこおきてくわをはむ」(5月21日〜25日頃「tenki.jp」より)
意味 (1)かいこ(蚕)。桑の葉を食べ脱皮を重ねて繭(まゆ)をつくる虫。この繭から絹糸ができる。「蚕糸サンシ」「蚕食サンショク」(蚕が桑の葉を食べるように他の領域を侵してゆくこと)「養蚕ヨウサン」「野蚕ヤサン」(野生の蚕⇔家蚕カサン)(2)「蚕豆そらまめ」とは、マメ科の二年生作物。サヤの中の豆が蚕の繭(まゆ)に似ていることからといわれる。空豆とも書く。
 テン・かたじけない  心部 tiǎn 

解字 篆文は「心(こころ)+天(てん)」の形声。天(神)の恩恵に対し、おそれ多くおもう心。なお[説文解字]は「恥なり。心に従い天の声」とする。後漢の隷書第一字は「天+心」だが、第二字で「天+心の変形」となり、現代字は天が夭に変化して書かれる忝となった。
意味 (1)かたじけない(忝い)。もったいない。(2)はずかしめる。「忝汚テンオ」(はずかしめ、けがす)「忝辱テンジョク」(はずかしめ、けがす)

形声字
 テン・そえる・そう  氵部 tiān
解字 「氵(みず)+忝(テン)」の形声。テンは「沾テン・ます・そえる・増し加える」に通じ、そえる・つけくわえる意となる。543年成立の[玉篇]は「益(ま)す也(なり)。沾テンに通じ作る」とする。日本では、つきそう意でも使う。
意味 (1)そえる(添える)。つけくわえる。「添加テンカ」「添付テンプ」「添削テンサク」(書き加えたり削ったりして直す) (2)[国]そう(添う)。つきそう。「添乗テンジョウ」(付き添って乗る)

その他
<国字> また  イ部 
解字 「イ(人)+口+天」の会意。成り立ちは不明。国字には珍しくわかりにくい成り立ちの字。漢字字典に「俟(まつ)の字形を変えて、また、と読ませた」と解説するが、この意味もよくわからない。
意味 (1)また(俣)。川筋や道のわかれめ。「二俣ふたまた」(元が一つで先が二つに分かれるところ)「川俣かわまた」(川の流れが分かれるところ) (2)地名。「水俣市みなまたし」(熊本県最南部に位置する市)
覚え方 (ひと)(くち)(てん)で(また)
<紫色は常用漢字>


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