漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

同訓異字 「あつい」 暑い・熱い・厚い

2020年08月28日 | 同訓異字
問題 に上の漢字を入れてください。
(1)いお茶
(2)い夏
(3)い友情

 「あつい」の語源は「アツ-まる(集まる)」のアツではないかと思います。集まる意のアツは、多くのものが一つの所に寄り合う・群がる、また集中する意味です。「集まる」は「集む」(文語形)「集める」(他動詞)の形にもなりますが、「アツ-い」という変化はありません。
  「アツ-い」という形になると、①火が集まって大きな熱をもち「あつ-い」意になります。②また、集まり重なることから、物質が集まり重なると、その上面と下面のへだたりが「あつ-い」意になります。

 古代の日本人は、「あつ-い」という言葉で、上記の二種類の表現をしていたと思われますが、漢字が伝来してから火や熱の「あつ-い」は、火が「あつ-い」と、太陽が「あつ-い」二種類の漢字を使い分けるようになりました。また、集まり重なりへだたりのある意の「あつ-い」は、これ以外に心が「あつい」意味でも用いられるようになりました。漢字伝来により「あつ-い」は意味が限定された多くの言葉に変化したと思われます。
 漢字字典で「あつ-い」を引くと、10字以上の漢字がありますが、今回は代表的な3つに限定して紹介します。

 ネツ・あつい  灬部
音符の解字 熱の音符は埶ゲイ・セイ

解字 甲骨文は両手で苗木をもってひざまずく人の形で、木を植え育てる様子を表す。金文は左辺が、木の下に土を加えた形。篆文は「坴(土の上に木がある形の変形字)+丮ケキ(人が両手を出した形)」の会意。ひざまずいた人が両手を出して土の上の木を手入れして育てている形。いずれも「植物に手を加えて育てる」意となる。現代字は、篆文の右辺が、丮⇒丸に変化した。
※埶ゲイの左辺の「坴」は、陸の右辺と同じ形だが、成り立ちの違う字。 
意味 (1)うえる。草木をうえる。 (2)いきおい。
 ネツ・あつい  灬部
解字 「灬(火)+埶(草木を植え育てる⇒育てて大きくする)」の会意。火を大きくしてゆくこと。草木を植え育てるように、たきぎに火をつけて火をおおきくしてゆくこと。火が発するネツ(温かさやあつさ)をいう。初期の火は温かく、大きくなった火は熱い。
意味 (1)ねつ(熱)。ほてる(熱る)。人の体温およびそれを超える温かさ。「平熱ヘイネツ」「微熱ビネツ」「発熱ハツネツ」「熱病ネツビョウ」「熱帯ネッタイ」 (2)あつい(熱い)。高温で手を触れられない。「熱湯ネットウ」「灼熱シャクネツ」(焼けて熱い) (3)あつい(熱い)。夢中になる。心をうちこむ。「熱心ネッシン」「熱意ネツイ」「熱狂ネッキョウ

 ショ・あつい  日部
解字 「日(太陽)+者(=煮シャ・ショ)」の会意形声。者シャは同音符字を含む煮シャ(にる)に通じ、太陽の光が煮えるような熱さの気候をいう。
意味 (1)あつい(暑い)。気温が高い。あつさ。「避暑ヒショ」 (2)夏。あつい季節。「暑中ショチュウ」(夏の暑いあいだ)「暑気ショキ」(夏のあつさ)

 コウ・あつい  厂部

解字 甲骨文字・金文・篆文とも「厂(石の略体。岩)+享キョウの倒立字(先祖を祀る建物)」の会意形声。享キョウは、先祖を祀る建物の形で祖先神に飲食物をたてまつり、祖先神をもてなす意を表わす。それに厂(石の略体。岩)がついた厚は、岩を刳りぬいて作った祖先を祀る堂、即ち墓を表す。地下にあるので享を倒立させて描 いている。いわゆる崖墓ガイボの一種をいう。漢代の黄河中下流域では、岩や崖を刳り抜き、地下に壮大な祖先を祀る堂を造り、祖先を厚く供養する諸侯や貴族の墓が作られた。これが厚葬である。心をこめて先祖を祀ることから、心のこもった・ねんごろの意となる。のち、厚みがある意でも使われる。現代字は、厂の中が「日+子」に変化した。
 なお、甲骨文字にも厚の字があるが、地名またはその長の意。金文は、多い・大きい意で用いており「厚福豊年」は、福が多く年(みのり)豊かの意。祖先神をもてなし一族の繁栄を願ったのであろう。後漢の[説文解字]は山稜が厚い意味とし、心がこもる・ねんごろ以外に「厚みがある」意でも使われるようになった。
意味 (1)あつい(厚い)。心がこもる。ねんごろ。たいせつにする。「厚意コウイ」「厚情コウジョウ」「温厚オンコウ」(おだやかで情に厚い) (2)あつい(厚い)。ぶあつい。「厚紙あつがみ」「重厚ジュウコウ」(重々しくしっかりしている)「肉厚にくあつ」 (3)あつかましい。「厚顔コウガン
<紫色は常用漢字>

問題と正解 
(1)いお茶
(2)い夏
(3)い友情
正解
(1)は高温であつい湯のお茶ですから、灬(火)がついた熱ネツです。
(2)は太陽のあつさですから、日がついた暑ショです。
(3)は友達を大切にする心ですから厚コウになります。
※なお、(1)(2)の「あつい」の発音アクセントは、あつい(LHL)、(3)の「あつい」は、あつい(LHH)となり、話し言葉ではアクセントで区別しています。(Lはlowで低い。Hはhighで高い)

<参考:厚のなかの倒立字のもとの形>
 キョウ・うける  亠部

解字 甲骨文・金文は、基礎となる台の上に建っている先祖を祀った建物の象形で「高」の字と似た高い建物を表す。祖先神に飲食物をたてまつって、祖先神をもてなす意を表わす。また、その結果、神の恩恵を受ける意ともなる。篆文は亯となったが、形のことなる第二字が出現し、現代字はその字の系統を受けつぎ、さらに下部が子になった。(音符「享キョウ」を参照)
意味 (1)たてまつる。すすめる。ささげる。「享祭キョウサイ」(物を供えて神を祭る) (2)(祖先神を)もてなす。ふるまう。「享宴キョウエン」(もてなしの酒盛り) (3)(神の意志を)うける(享ける)。受け納める。「享年キョウネン」(神からさずかった年数)「享楽キョウラク」(楽しみを受ける。十分に楽しむ)
参考 享キョウの音符字には心が「あつい」訓がある字が多い。
<例>
淳ジュン:淳(あつ)い。 
惇ジュン:惇(あつ)い。 
醇ジュン:醇(あつ)い。 
敦トン:敦(あつ)い。


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同訓異字「おさめる」 修める・治める・収める・納める

2020年08月23日 | 同訓異字
問題 に上の漢字を入れてください。
(1)国をめる
(2)学問をめる
(3)税金をめる
(4)成功をめる

「おさめる」の語源は「オサ(長)」で、多数の人の上に立ち、人々を統率し支配する者とする説が有力です。「オサ-む」は動詞化した言い方。「オサ-まる」「オサ-まり」「オサ-める」などは、「オサ-む」の活用変化です。

「おさ-める」は、「オサ(長)」が行う活動を表し、①人々の長となって世の中や物事を安定した整った状態にする意味がある。そして、整った状態にする意から、②個人が整った状態になるため学問・技芸などを身につける意味ともなる。また、派生の意味として、③物品を整った状態にして保管する意味にも使われる。さらに、④保管する場所に入れる。しいては手に入れる意味ともなる。

 古代の日本人は「おさ-める」という言葉で、上記の内容を含む多様な表現をしていたと思われるが、漢字が伝来してその意味を知ることにより、これまでの表現をそれぞれの漢字に当てはめて用いるようになった。漢字によって今までの表現がより明確化され、また漢字に訓を与えることにより漢字を日本語化したともいえる。
 漢和辞典で「おさめる」を引くと、20以上の漢字がありますが、今回は代表的な4つに限定して紹介します。

 チ・ジ・おさめる・おさまる・なおる・なおす  氵部
解字 「氵(水)+台(ジ・チ)」の形声。後漢の[説文解字]は山東省にあった川の名前としている。のち、中国南北朝時代の字典である[玉篇](543年)に「修治なり」とし川を治める意味になった。なぜ、川の名が治水の意味になったか不明であるが、この川で大規模な堤防工事などが行われたのかも知れない。その後、川を治めることは国を治めることになり、さらに病気をおさめる(なおす)意ともなった。
意味 (1)おさめる(治める)。水をおさめる。「治水チスイ」「治山チサン」(洪水を防ぐために植林する) (2)おさめる(治める)。おさまる(治まる)。乱れを正す。取り締まる。「治安チアン」 (3)(国を)おさめる(治める)。領地を治める。「政治セイジ」「統治トウチ」 (3)(病気を)なおす(治す)。なおる(治る)。おさまる(治まる)。「治療チリョウ」「治癒チユ」「全治ゼンチ」「痛みが治(おさ)まる」「咳が治(おさ)まる」

 シュウ・シュ・おさめる・おさまる  イ部
音符の解字 修の音符は攸ユウ・ユ。

金文は、「イ(人)+ 三つの点(水のたれるさま)+攴ボク(木の枝でたたく)」の会意。人の背中に水をかけ、手にもった枝葉でたたいて身を洗い清めること。篆文は、三つの点⇒タテの棒線に変化し、さらに現代字は、攴⇒攵に変化した攸になった。身を洗い清める意で、悠の原字。
修の解字 「彡(かざり)+攸(身を清める)」の会意。身を清めてから、新らたに飾り(彡)を身につけること。身を清める行をおえて、新たなものを得ること。
意味 (1)おさめる(修める)。学んで身につける。「修学シュウガク」(学問を修め習う)「修行シュウギョウ・シュギョウ」(学業や技芸を学び修める)「研修ケンシュウ」(研(みが)き修める) (2)形をととのえる。「補修ホシュウ」「修理シュウリ」 (3)かざる。模様をつける。「修飾シュウショク」「修辞シュウジ」(言葉を飾り立てること) (4)梵語の音訳語。「阿修羅アシュラ」(天上の神々に戦いを挑む悪神)「修羅場シュラば」(はげしい戦闘の場)

 ノウ・ナッ・ナ・ナン・トウ・おさめる・おさまる  糸部
音符の解字 納の音符は内ナイ。

内ナイは、甲骨文・金文とも「入(はいる)+建物」の形。建物に入る形で建物のなかを示す。篆文から入の上部が建物と一体化し、上につき出た形になった。旧字は「冂+入」の形だが、新字体は、入⇒人に変化した内になった。
納の解字 「糸(ぬの)+内(建物の中にいれる)」の会意形声。貢物としてきた布帛(布や絹)を倉の中にいれること。
意味 (1)おさめる(納める)。倉・役所の中にいれる。ひきわたす。「収納シュウノウ」「受納ジュノウ」「納屋なや」(物置小屋)「納戸なんど」(調度品等をしまう部屋)「納豆ナットウ」 (2)おさめる(納める)。支払う。差し出す。「納税ノウゼイ」「献納ケンノウ」(金品をたてまつる) (3)[国]しめくくる。「納会ノウカイ」「歌い納める」「見納(みおさ)め」。

[收] シュウ・おさめる・おさまる  又部  
解字 旧字は收で「攵(=攴。たたく意)+丩(=糾。あざなう)」の会意。あざなった縄や紐で人をたたき、括ってとりこむこと。もともとは、強制的に捕らえて収容すること。のち、手に入れる。受け取る。などの意で使われるようになった。新字体は旧字の攵⇒又に変化。
意味 (1)おさめる(収める)。ある範囲のなかに入れる。手に入れる。あつめる。とりいれる。「収穫シュウカク」(農作物を取り入れること。得たもの)「収益シュウエキ」(利益をあげる)「収入シュウニュウ」(一定期間に個人が得た現金やその等価物)「収録シュウロク」「収容シュウヨウ」(収も容も、受け入れる意)「手中に収める」「目録に収める」「効果を収める」 (2)おさまる(収まる)。安定した状態になる。「収束シュウソク」(おさまりがつく)「収縮シュウシュク」(縮んで収まる。ちぢまること) (3)とらえる。つかまえる。とりあげる。「収監シュウカン」(監獄に収容する)「収用シュウヨウ」(強制的に取り上げること)「徴収チョウシュウ」(とりあげる) 
<紫色は常用漢字>

問題と正解
(1)国をめる
(2)学問をめる
(3)税金をめる
(4)成功をめる
正解
(1)国を「おさめる」意は、川を「おさめる」意の治が正解です。川を治めることが国を治める意味に拡大しました。黄河・長江などの洪水にたびたび悩まされた中国では、まさに治水が国を治めること。日本も同様で為政者は治水を行いました。現在も治水は国を治める最重要事項の一つです。
(2)学問を「おさめる」は、②の個人が整った状態になるため学問・技芸などを身につける意味ですから、学んで身につける意の修シュウが正解です。
(3)税金を「おさめる」は、物納である絹などの布帛を税として建物の内側に入れるかたちの納ノウが正解です。
(4)成功を「おさめる」は、日本的なかたちの用法です。正解は収シュウですが、収の本義は糾(あざな)った縄で人をとらえて収容する意ですが、転じて、手に入れる・とりいれる意になりました。日本では、成果や成功など良い結果を手にすることを「おさめる」と表現します。農作物を取り入れる「収穫シュウカク」という熟語に影響されたのかも知れません。

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同訓異字「いたむ」 「痛む」「傷む」「悼む」

2020年08月19日 | 同訓異字
問題 に漢字を入れてください。
(1)恩師の死を
(2)屋根が
(3)足が

「いたむ」の語源は「イタ」で、程度のはなはだしいさまをいい、「イタ-む」は「イタ(程度のはなはだしいさま)+む(動詞化)」で、イタを動詞化した言葉。同じ語源に「イタ-く」(連用形)「イタ-い」(形容詞)などがある。

「いたむ」は、①程度はなはだしく感じる意から、②身体が苦痛を感じる、③心が苦しいさま。④さらに転じて、器具が破損するさま、⑤食物が腐敗するさま、などにも使われる。
古代の日本人は、「いたむ」という言葉で、上記の内容を含む表現をしていたと思われるが、漢字が伝来してから「イタむ」という概念を漢字によって区別するようになった。漢和辞典で「いたむ」を引くと、20以上の漢字があるが、今回は代表的な3つに限定して紹介します。

 ツウ・いたい・いたむ・いためる  疒部
解字 「疒(やまいだれ=病気)+甬(=通ツウとおる)」の会意形声。身体の中を突き通るような激しいいたみの意。中国語の辞書には「いたみ」という日本語はありませんから、痛の字の意味を「疾病・創傷等が引き起こす受け入れ難い感覚」と説明しています。つまり「いたい」のです。「イタむ」では②身体が苦痛を感じる意になります。また、中国語でも意味③の心が苦しいさまの意でも使います。さらに、「イタむ」の原義である①程度はなはだしく感じる意から、痛快・痛烈の意ともなります。
意味 (1)いたい(痛い)。いたむ(痛む)。いためる(痛める)。「痛風ツウフウ」「腰痛ヨウツウ」「痛手いたで」(①重い手傷。②ひどい打撃・損害) (2)(心が)いたむ(痛む)。なやむ。「痛恨ツウコン」「心痛シンツウ」 (3)いたく。はげしく。「痛快ツウカイ」「痛烈ツウレツ

 ショウ・きず・いたむ・いためる  イ部  

解字 これは難解な字。この字のどこを見ても「きず」の意味は出てこない。私は「六書通」にある異体字から説明している。篆文第一字は「六書通」にある異体字で、「矢+人の変形+昜(あがる)」の会意形声。昜ヨウは太陽があがる意で陽の原字。下からあがってきた矢にあたり人がキズつくこと。𥏻は正字ではないが、傷の成り立ちを探るうえで手掛かりとなる字。第二字は正字で、矢の代わりに人が付いて人がきずつく意とする。現代字は、「イ(人)+𠂉(ひと)+昜(あがる)」の傷になった。
意味 (1)きず(傷)。けが。「傷病ショウビョウ」「重傷ジュウショウ」「深傷ふかで」(重傷。深手) (2)きずつく。きずつける。「傷害ショウガイ」「中傷チュウショウ」(悪口を言って人を傷つける) (3)いたむ(傷む)。いためる(傷める)。かなしむ。「傷心ショウシン」「感傷カンショウ」(感じて心をいためる) (4)[国]器物・建物などをそこなう。「屋根が傷(いた)む」


 トウ・いたむ  忄部
解字 「忄(心)+卓(=掉トウ。振り動かす)」の会意形声。心が振り動かされる状態をいい、おそれる、かなしむこと。かなしむ意から人の死をいたむ意となる。
意味 (1)おそれる。悲しむ。「悼懼トウク」(悲しみおそれる) (2)いたむ(悼む)。人の死を悲しみ嘆く。「哀悼アイトウ」「追悼ツイトウ」「悼惜トウセキ」(人の死をいたみ、おしむ)

問題と正解
(1)恩師の死をむ 
(2)屋根が
(3)足が

(1)人の死を「いたむ」場合は、悼むを用います。この字は人の死を悼む場合の専用に使われます。中国から悼という漢字が伝来し、この字の意味を知ってから人の死を「いたむ」という言い方をしたのではないでしょうか。万葉集の挽歌(哀傷歌)では大伴家持が、妹(妻)の死を「いたき(痛き)心」という表現を使っています。
(2)屋根が「いたむ」の場合、身体的ないたみでなく、器具や家屋などのいたみとなります。痛の場合は、身体的ないたみ以外に、心の痛み・程度のはげしい意味はありますが、器具や家屋が「いたむ」言い方はありません。ここでは「きず」の意味の傷を器具や家屋が「いたむ」意味で用います。
(3)足が「いたむ」のですから身体的な「いたみ」です。身体的ないたみは痛ツウと傷ショウの2字がありますが、身体の「いたみ」は痛を用いるのが慣例です。傷ショウは「きず」という訓がありますので、これを第一としています。なお、「足が傷む」と書いても間違いではありません。しかし、今回のように3つの選択肢がある場合は痛が正解となります。   

追加の問題
(4)食品がむ。
正解 
(4)食品が傷む。痛は身体や心のいたみに使いますので、食品のいたみは傷を用いるのが一般的なようです。「食品に傷がつく」という言い方からの使用でしょうか。果物が傷むという言い方もあります。



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音符「表ヒョウ」<おもて>と「俵ヒョウ」

2020年08月15日 | 漢字の音符
 ヒョウ・おもて・あらわす・あらわれる  衣部             
   
解字 篆文は「衣+毛」の会意で、毛皮の衣のかたち。毛皮の衣は、毛のあるほうが表なので、「おもて」の意味を表す。現代字は衣の上部(亠+毛)が、龶に変化し、下部が衣あしとして残っている。
意味 (1)おもて(表)。うわべ。「表面ヒョウメン」 (2)あらわす(表す)。あらわれる(表れる)。「表現ヒョウゲン」 (3)しるし。めじるし。「表札ヒョウサツ」 (4)事柄が一目でわかるように整理したもの。「図表ズヒョウ」「年表ネンピョウ

イメージ 
 「おもて」(表・俵・裱)
音の変化  ヒョウ:表・俵・裱

おもて
 ヒョウ・たわら  イ部
解字 「イ(人)+表(おもてに出す)」の会意形声。奥に保管してあったものを、表に出して人に分け与えること。
意味 (1)(量や人数に合わせて)分配する。分け与える。頭割りにする。「俵散ヒョウサン」(多くの人に分け与える) (2)[国]ひょう(俵)。頭割りにされた一人分の量から転じて、日本で米の量を量る単位。一つのたわらに入る米の量。1俵は60㎏。 (3)たわら(俵)。わらなどを編んでつくった米などを入れる袋。たわらを数える数詞。「米俵こめだわら」「三俵サンビョウ」「土俵ドヒョウ」(土を詰めた俵。相撲の土俵場)
 ヒョウ  衤部
 軸裱装
解字 「衤(衣)+表(おもて)」の会意形声。表をかざる衣の意。出来上がった作品(主に紙)を布などで補強・装飾(裏を含めて)して表をかざり、掛物・軸装などにすること。飾りが表にでない屛風びようぶ・襖ふすまなどを仕立てることにも言う。=表装。表具。
意味 (1)表装する。「裱工ヒョウコウ」(表具師)「裱匠ヒョウショウ」(表具師)「裱店ヒョウテン」(表具店)「裱褙ヒョウハイ」(書画を表装すること。褙ハイは作品の背面の裏打ちをいう) (2)表装の糊(のり) (3)そでぐち。同音の褾ヒョウに通じる。
<紫色は常用漢字>



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落合淳思著『漢字の構造 古代中国の社会と文化』

2020年08月12日 | 書評
 私は最近、漢字の音符を調べる時に、まず落合淳思氏の『甲骨文字辞典』(朋友書店・2016年)を引いてみる。ここに載っている文字なら、その文字の成り立ち、当時の意味から始まり、その後の変遷をへて現在の字にいたるまで簡潔な説明があるからである。
 この辞典が出るまえは同氏の『甲骨文字小字典』(筑摩書房・2011年)を使っていた。この字典の解説は懇切丁寧で、しかも白川静・藤堂明保・加藤常賢各氏の説を比較してどの説がすぐれているかまで書いているので大変面白かった。しかし、この字典は350字しか掲載していないのが不満で、早くもっと大きな甲骨文字辞典が出ないかなあ、と心待ちにしていたものである。それが遂に2016年、親文字数1777字という600ぺージの字典が刊行された。落合氏は甲骨文字を出発点にして文字の変遷をたどる力量には定評がある。

 その落合淳思氏が昨年(2019年3月)同時に2冊の本を刊行した。一冊は『漢字の字形』(中公新書・113字収録)、もう一冊は『漢字字形史小字典』(東方書店・433字収録)である。いずれも『甲骨文字小字典』で文章で用いた文字の変遷をたどる方法をさらに進化させ、個々の字形の変遷を甲骨文字から始まり、金文・篆文・隷書・楷書まで図表でたどる方式にしている。一目見て大変分かりやすい。しかも『漢字字形史小字典』のほうは小学校3年までの漢字すべてについて解説しているから、甲骨文字以後に発生した文字についてもその変遷をたどることができる。甲骨文字の落合氏がもともと甲骨文字にない文字についても解説してくれるのである。

 以後の私は、音符を調べるとき『甲骨文字辞典』の次に『漢字字形史小字典』を調べるようになっている。しかし、この小字典は小学校3年までの漢字だから全体で433字しかない。従って見つからない漢字も多い。『甲骨文字小字典』と同じような不満が募っている。高学年からは形声文字が多くなるので全部の字形史を明らかにする必要はないが、小学校4~6年で各50字、中学1~3年で各50字、それに新常用漢字で50字、合計約350字を収録した続編を出版してほしいものである。

 さて、こんななか今年(2020年)7月、『漢字の構造 古代中国の社会と文化』(中央公論新社)が刊行された。書名だけでは内容がわからないので取り寄せて確認したところ、『漢字の字形』の系譜につながる漢字字形史の本であることが分った。内容は古代中国社会を反映する文字をテーマ別にその字形史をまとめている。大きな区分と中に含まれる字は以下のとおり。
(1) 原始社会の生活 利と年、農と協、牧と半、春と秋など。
(2) 古代王朝の文明 倉と庫、建と庭、夫と妻、徳と義など。
(3) 信仰と祭祀儀礼 祖と宗、聖と禁、告と若、区と器など。
(4) 古代の制度や戦争 学と教、令と使、正と成、国と図など。
(5) 複雑な変化をした文字 葉と円、終と芸、熊と夢、無と翌など。
p95「好」の字形変遷図
 収録字数は171字である。個々の解説は字形史だけでなく、字形に含まれる当時の社会についてまで言及していることが特徴である。なお、字形の解説に入るまでに、「古代中国と漢字の歴史」「漢字の成り立ちと字源研究」の章があり、漢字に対する予備知識を得られるようになっている。
 個人的には(2)「廷と庭」の字形変遷が参考になった。また、庭は建物に囲まれる中庭が本来の形であるとし、建築の復元図もつけて説明しているのが参考になった。また、(5)の熊の成り立ちについても納得することができた。これらはいずれも金文以降の変化である。甲骨文字の専門家から、さらに字形史へと大きく範囲を広げる落合氏に今後とも期待したい。当面、『漢字字形史小字典』を調べて無い字形は、『漢字の構造』の索引を調べて対応したいと考えている。(本来は落合先生とすべきですが、敢えて落合氏と書かせていただきました。)
(『漢字の構造 古代中国の社会と文化』中央公論新社 2020年7月発行 325P 1800円+税)

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音符「厓ガイ」<がけ・地のはて>と「崖ガイ」「涯ガイ」

2020年08月08日 | 漢字の音符
 ガイ・がけ  厂部

解字 「厂(がけ)+圭ケイ(土のかさなり)」 の会意形声。土が重なって層になっている所が露出しているガケ。のち、山をつけて崖、水をつけて涯の字に分化した。また、切り立ったガケは地の果てと考えられた。
意味 (1)がけ。(=崖) (2)きし(岸)。みずぎわ。(=涯) (3)地の果て。かぎり。(=涯) (4)まなじり(=睚)・にらむ「厓眥ガイサイ」(目尻をあげて、にらみつける)

イメージ 
 「がけ」
(厓・崖・涯)
 地の「はて」(睚)
 「擬声語」(啀)
音の変化  ガイ:厓・崖・涯・睚・啀

がけ
 ガイ・がけ  山部
解字  「山(やま)+厓(がけ)」の会意形声。厓(がけ)に山を付けて本来の意味をはっきりさせた字。
意味 (1)がけ(崖)。切り立った所。「断崖ダンガイ」「崖谷ガイコク」(両側が崖になった谷) (2)かど。かどだつ。「崖異ガイイ」(きわだって異なる) (3)きし。みぎわ(=涯) (4)さかい。かぎり。果て。
 ガイ・はて  氵部
解字 「氵(みず)+厓(がけ)」の会意形声。水ぎわのがけ。また、「果て」の意は厓の字に共通するが、「涯」が使われることが多い。
意味 (1)みぎわ。水際。岸。「涯岸ガイガン」(水際のがけ)「浜涯ヒンガイ」 (2)はて(涯)。きわみ。かぎり。「天涯テンガイ」(空のはて。世界中)「天涯孤独テンガイコドク」(この世に身寄りが一人もいない)「生涯ショウガイ」(生きているかぎり)

はて
 ガイ・まなじり  目部
解字 「目(め)+厓(はて)」の会意形声。目のはて。つまり、両目の鼻から最も遠いところ。目尻。
意味 (1)まなじり(睚)。目尻。眥サイ・セイともいう。 (2)にらむ。目尻をつりあげてにらむ。「睚眥ガイサイ」(睚も眥も、にらむ意。人をにらむ)「睚眥ガイサイの怨み」(ちょっとにらまれた位のうらみ)

擬声語
 ガイ・いがむ  口部
解字 「口(くち)+厓(ガイ)」の形声。ガイは犬が吠えて噛もうとする声の擬声語。口がついた啀は、犬がかむ・かみあうこと。転じて、いがむ意ともなる。
意味 (1)犬がかむ。かみあう。「啀啀ガイガイ」(犬がかみあう声) (2)いがむ(啀む)「啀恚ガイイ」(腹をたてていがみあう。恚はいかる意)
<紫色は常用漢字>

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    バックナンバーの検索方法
※一般の検索サイト(グーグル・ヤフーなど)で、「漢字の音符」と入れてから、調べたい漢字1字を入力して検索すると、その漢字の音符ページが上位で表示されます。

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音符「卓タク」<たかい・すぐれる>と「悼トウ」

2020年08月05日 | 漢字の音符
 タク・すぐれる  十部
卓姓のマーク

甲骨文字は[漢語古文字形表]が卓の甲骨文字として掲載している。しかし[甲骨文字辞典]はこの字を亡失字としており、「人+取っ手がついた捕獲網(禽)」の会意。捕獲網は狩猟に用いられるが、戦場で敵対勢力を捕らえる場合にも用いられ意味は人名で殷の有力者、だという。因みにこの第2字が中国で卓姓のマーク(香港のネットより)として使われている。これも[漢語古文字形表]が卓の甲骨文字としていることが影響しているものと思われる。戦場で網を用いて捕獲するほどの人物は捕虜として役立つ重要人物だったのであろう。
 私がこの字形を卓の甲骨文字と考える理由は、①卓の音符字に柄のついた網をあやつる動作を表す字が多いこと。②音符字に罩トウ「罒(あみ)+卓(捕獲網)」(魚を捕らえるかご)があり、卓が捕獲網である名残の字があること。③卓の金文の意味は姓であり甲骨文字も人名とされることから、この字は姓として始まったのではないか、と考えられることである。
 以下、字形を金文に進むと、甲骨文で網だった部分が金文では〇または〇に点に変化した。意味は姓氏で「卓林父」という人名に使用されている。篆文になると急に意味が増え、現代に通じる①たかい、②すぐれる、などの意味が出てくる。高い意は柄の長い捕獲網を立てたさまから、すぐれる意は高い意から派生したものであろう。なお、異体字として桌タクがある。これは卓の下方を木に代えた字で、木の足がついた高い机やテーブルの意で用いられ、卓もこれを受けて、テーブル・机の意味がある。
意味 ①すぐれる(卓れる)。抜きんでる。たかい。「卓抜タクバツ」「卓見タッケン」「卓説タクセツ」 (2)つくえ。テーブル。(=桌タク)「食卓ショクタク」「卓球タッキュウ

イメージ 卓の意味である「すぐれる」、甲骨文字の意味から「柄の長い捕獲網」が音符イメージとなる。
 「すぐれる」(卓・綽)
 「柄の長い捕獲網」(棹・掉・悼・罩)
 「形声字」(啅)
音の変化  タク:卓  トウ:掉・悼・棹・罩・啅  シャク:綽

すぐれる
 シャク  糸部
解字 「糸(織物)+卓(すぐれる)」の会意形声。すぐれた織物の衣服の意で、これを着ている人が、ゆったりしているさまをいう。
意味 (1)ゆるやか。ゆったりしたさま。「綽綽シャクシャク」(ゆったりとおちついたさま)「余裕綽綽ヨユウシャクシャク」「綽然シャクゼン」(おちついてゆったりとしたさま) (2)しとやか。「綽約シャクヤク」(姿のしなやかでやさしいさま。芍薬の音を借りた語) (3)婉曲。あからさまでない。「綽名あだな」とは、本名をあからさまに言うのでなく、その人の特徴などによってつけた別の名。愛称。ニックネーム。

柄の長い捕獲網
 トウ・ふるう  扌部
解字 「扌(手)+卓(柄の長い捕獲網)」の会意形声。柄の長い捕獲網を手でふりまわすこと。
意味 ふる。ふるう(掉う)。振り動かす。「掉舌トウゼツ」(舌をふるう。盛んにしゃべること。遊説)「掉頭トウトウ」(頭をふる。否定する動作のさま)「掉尾トウビ」(①尾を振る。②最後の勢いがよい)「掉尾を飾る」(終りに至って勢いのふるい立つ)
 トウ・いたむ  忄部
解字 「忄(心)+卓(=掉。振り動かす)」の会意形声。心が振り動かされる状態をいい、おそれる、かなしむこと。転じて、人の死をいたむ意となる。
意味 (1)おそれる。悲しむ。「悼懼トウク」(悲しみおそれる) (2)いたむ(悼む)。人の死をいたみ悲しむ。「哀悼アイトウ」「追悼ツイトウ」「悼惜トウセキ」(人の死をいたみ、おしむ)
 トウ・さお・さおさす  木部
解字 「木(き)+卓(長い柄)」の会意形声。木の長い柄をいう。船を進めるための「さお」の意となる。
意味 さお(棹)。さおさす(棹す)。かい。「棹郎トウロウ」(棹で船を操る人)「棹歌トウカ」(船頭が唄う歌)  
 トウ  罒部
解字 「罒(あみ)+卓(捕獲網)」の会意形声。卓は補獲網の意であるが、ぬきんでる意となったので、罒(あみ)をつけて元の意味を表した。現在の意味は、魚をとるかごの意味になっている。
意味 (1)魚をとるかご。「罩汕トウサン」(魚とりかごと掬いあみ。また、魚をとること) (2)(魚をとる籠から)こめる。入れて包む。「罩袍トウホウ」(おくるみ。身体をすっぽりと包んだ服) (3)[現代中国]カバー。「口罩コウトウ」(マスク)

形声字
 タク・トウ  口部
解字 「口(くち)+卓(タク)」の形声。タクは豖タク・トクに通じる。タクはものをたたく音の擬声語で、鳥が口ばしで木をつつく音になぞらえる。
意味 (1)ついばむ。(=啄) (2)鳥がさえずる声。さわがしい音の形容。「啅啅トウトウ・タクタク」(鳥がさえずる声)「啅噪トウソウ・タクソウ」(さわがしい声)
<紫色は常用漢字>

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