漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

音符「疋ソ・ショ」<あし>と「婿セン」「聟むこ」「疎ソ」「楚ソ」「礎ソ」「疏ソ」

2022年11月28日 | 漢字の音符
 セイ・むこを解字し追加しました。この字はほとんどの字典が、婿セイ・むこの俗字として成り立ちの説明をしていません。日本ではよく使われる字ですので、私見ですが解字してみました。
 ショ・ソ・ヒキ・ヒツ・ひき  疋部ひき

解字 甲骨文と篆文は足と同形で、脚の下半部の象形。現代字は上部がフに変化した疋になった。中国で匹(ひき)の俗字として用いられたため、匹の意味で使われる。疋は部首となる。
意味 (1)ひき(疋)。匹(ひき)。布の長さの単位。動物を数える語。昔の金銭の単位。 (2)ひき(疋)。匹(ひき)。対になる。二つが並ぶ。 (3)あし(足)。
参考 疋ソ・ショは、部首「疋ひき」になる。漢字の下部や左辺に付いて、あしの意を表す。
主な字に、疑(疋を含む会意)・疎(束+音符「疋」)がある。疑は音符になる。

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 匹の意の「相対する」(疋・胥・婿・壻・聟)
 本来の意味である「あし・あるく」(旋・楚・礎・疎)
音の変化  ショ・ソ:疋・胥  ソ:楚・礎・疎  セイ:婿・壻・聟  セン:旋   
  
相対する
 ショ・あい  月部にく
解字 「月(からだ)+疋(相対する)」の会意形声。相対する人の意で、民に相対して雑務をした下級役人をいう。
意味 (1)民と相対する下級役人。「胥吏ショリ」(下級役人) (2)たがいに。あい。相対。「胥怨ショエン」(あい怨む) (3)みな。ともに。
婿 セイ・むこ  女部
解字 「女(おんな)+胥(相対する人)」の会意。胥は相対する人・相方をいう。婿は、女の相方の意で、娘と結ばれてペアをなした相手の男をいう。
意味 むこ(婿)。「婿入り」「花婿はなむこ」「女婿ジョセイ」(むすめむこ)
 セイ・むこ  士部
解字 「士(おとこ)+胥(=婿の略体。むこ)」の会意。婿の意味を士(おとこ)を付けて表した字。
意味 むこ(壻)。「女壻ジョセイ」(むすめむこ)
 セイ・むこ  士部
解字 「知(知る)+耳(みみ)」の会意。胥ショの音符である偦ショ(亻+胥)・諝ショ(言+胥)には、知る意味がある。胥ショはこの二字の略体であり知を意味している。そこに耳をつけた聟セイは、耳で知る意、全体で聡明の意。同時に知は胥ショ(相対する人)を意味しているので、聡明な聟(むこ)を表す。この字はほとんどの字典が、婿の俗字として、成り立ちの説明をしていない。そこで私見であるが解字してみた。
意味 (1)むこ(聟)。 結婚して妻の家系に入った男性。娘の夫。「聟入むこいり」 「娘聟むすめむこ」。「蛇聟入へびむこいり」(昔ばなしの一話)「鶏聟にわとりむこ」(狂言の演目の一つ) (2)地名。「聟島むこじま」(東京都小笠原村にある無人島)

あし・あるく
 セン・めぐる 方部

解字 甲骨文は吹き流しのついた旗と進行を意味する止(あし)が描かれ、軍旗を持って進む様子を表しており、原義は軍事進出の意[甲骨文字辞典]。金文は止が吹き流しの下にきた形となり、篆文は、旗竿⇒方、なびく吹き流し⇒𠆢、止⇒足に変化。現代字は「方𠂉(旗の略体)+疋」の旋になった。当初、軍旗を持ってすすむ意であったが、のち、(戦場を)めぐる・めぐってもどる意となった。
意味 (1)めぐる(旋る)。ぐるぐるまわる。「旋回センカイ」「旋転センテン」 (2)相手との間を行き来する。とりもつ。「斡旋アッセン」(人と人のあいだをとりもつ)「周旋シュウセン」(土地・家屋の売買、雇用などで人と人のあいだをとりもつ) (3)かえる。「凱旋ガイセン」(戦いに勝ってかえる)
 ソ・ショ・いばら  木部

解字 古代文字は、「林(はやし)+足(あしであるく)」の会意形声で、林の中をあるく形。これらの林は、低木でトゲのあるイバラや、同じく低木のニンジンボクとされる。また、イバラや低木が生い茂る地方を意味する「楚」の国名ともなった。楷書から下部が足⇒疋に変化した。
意味 (1)いばら(楚)。うばら。いばらのトゲ。「苦楚クソ」(いばらのトゲが痛く苦しい)「苦楚クソを嘗(な)める」(辛酸をなめる) (2)にんじんぼく。クマツヅラ科の落葉低木。(ニンジンボクが紫の小さな花を咲かせることから)すっきりした。清らかで美しい。「清楚セイソ」「楚楚ソソ」(清らで美しい)(3)(にんじんぼくの)むち。しもと。すわえ。(4)そ(楚)。中国の国の名前。長江中流域を領有した春秋戦国時代の国など。長江下流一体の地域。「四面楚歌シメンソカ
 ソ・いしずえ  石部
解字 「石(いし)+楚(=疋。あし)」の会意形声。ここで楚は疋ソ・ショ(足)の意。建物を支える足(=はしら)の土台石をいう。楚と礎は発音が同じだが意味の関連はない。
意味 (1)間隔をあけて並べた建物の土台石。いしずえ(礎)。「礎石ソセキ」 (2)物事のもとい。「基礎キソ
 ソ・うとい・うとむ・おろそか  疋部

解字 隷書(漢代の役人などが主に使用した書体)は、「束(たばねる・くくる)+足ソク(あし)」の会意形声。足がくくられた状態で、うまくすすめないこと。出歩くのが間遠になり相手とのコミュニケーションが不足することから、うとい意となり、さらに転じて、おろそか・まばらの意となる。現代字は足⇒疋の変形字になった疎に変化した。踈は異体字。
意味 (1)うとい(疎い)。うとむ(疎む)。親しくない。よく知らない。遠ざける。「疎遠ソエン」「疎外ソガイ」(うとんじて、よそよそしくする)「疎覚(うろおぼ)え」(はっきりと覚えていない) (2)おろそか(疎か)。粗末に扱う。「疎忽ソコツ」(かるはずみ。ぶしつけ) (3)まばら(疎ら)。あらい。「疎密ソミツ」(まばらなことと、すきまのないこと)「過疎カソ」(まばらすぎること)⇔過密。(4)(疏:とおる、に通じ)とおる。とおす。「疎通ソツウ」(とどこおりなく通じる)「意思疎通イシソツウ」「疎開ソカイ」(開いて通じる。空襲などの被害を減らすため、都会を開いて人口を田舎へ分散する。)

   ソ <とおる>
 ソ・とおる・とおす  疋部
解字 「㐬(ながれ出る)+疋ソ・ショ(あしですすむ)」の会意形声。流れがすすむ形で、とおる・とおす意となる。また、疏通(意思が通じる)の意から、意見を述べた文章の意。
意味 (1)とおす(疏す)。とおる(疏る)。「疏水ソスイ」(土地に水路を設け通水させること)「琵琶湖疏水ビワコソスイ」(琵琶湖の水を京都へ流す水路)「疏通ソツウ」(意思の通じること) (2)しるす。「上疏ジョウソ」(上に奉る書状) (3)(疎に通じ)うとい。うとむ。「疏外ソガイ」(のけものにする)

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 「とおる」
(疏・梳・蔬)
音の変化  ソ:疏・梳・蔬

とおる
 ソ・ショ・くしけずる  木部
解字 「木(き)+㐬(=疏。とおる)」の会意形声。木製のクシで髪のあいだを通して髪をすく(くしけずる)こと。
意味 (1)くしけずる(梳る)。すく(梳く)。髪をすく。「梳櫛すきぐし」(髪をすく歯の細かいクシ)「梳沐ソモク」(髪をすき洗うこと)(2)くし(梳)。目の粗いくし。
 ソ  艸部
解字 「艸(草)+疏(とおる)」の会意形声。畝をとおして(作って)そだてた野菜の意。水はけの悪い土地では排水のため、また一般の耕地では作業通路の確保のため畝をつくる。また、野菜だけで肉のない粗末な意もある。
意味 (1)な。あおもの。野菜。「蔬菜ソサイ」(野菜。あおもの)「蔬畦ソケイ」(野菜畑。畦は、うね) (2)そまつな。あらい。「蔬飯ソハン」(粗末な食事)
<紫色は常用漢字>

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音符「卜ボク」<占いのひび割れ> と 「朴ボク」「外ガイ」「仆フ」「訃フ」「赴フ」

2022年11月25日 | 漢字の音符
 ボク・うらなう  卜部         

解字 ひび割れの形の象形。亀の甲などを焼いて、そのひび割れによって吉凶を占うとき、亀甲の表面にできたひび割れの線を卜兆(うらかた)という。うらないの意を表わす[字統]。
意味 (1)うらなう(卜う)。うらない「卜占ボクセン」(うらない。=占卜)「卜辞ボクジ」(甲骨文の文章)「亀卜キボク」(亀の腹甲を焼き、できたひびで吉凶を判断するうらない)「卜筮ボクゼイ」(うらない。筮は筮竹を用いた占い) (2)姓。「水卜」(みうら)

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 「ひびわれる」
(卜・外・朴・仆)
 「形声字」(赴・訃)
音の変化  ボク:卜・朴  ガイ:外  フ:仆・赴・訃

ひびわれる
 ガイ・ゲ・そと・ほか・はずす・はずれる  夕部

亀の腹甲の外側にできた亀卜(「漢字文化資料館・亀卜とは」より)
解字 「夕(にく)+ト(うらないのひび割れ)」の会意。この字で夕は月(にく)の意味。占いに使う亀のお腹の甲らは肉のある内側でなく、外側にひびが現れることから、「そと」の意味を表わす。
意味 (1)そと(外)。そとがわ。ほか(外)。よそ。「外観ガイカン」「国外コクガイ」「外交ガイコウ」 (2)はずれる(外れる)。はずす(外す)。のぞく。とおざける。「除外ジョガイ」「疎外ソガイ」(うとんじる)
 ボク・ほお  木部
解字 「木(き)+卜(ひび割れ)」の会意形声。ひび割われた所から皮をはいで利用する樹木。皮を生薬として利用する朴の木に当てる。また、樸ボク(飾り気のない)に通じ、素朴の意となる。
意味 (1)ほお(朴)。ほおのき。樹皮をはぎとったものを「厚朴コウボク」といい生薬になる。 (2)木の皮。 (3)うわべを飾らない。すなお。「素朴ソボク」「朴訥ボクトツ」(素朴で口数が少ない)
 フ・たおれる・たおす  イ部
解字 「イ(ひと)+卜(ひび割れ)」の会意形声。[説文解字]は「頓(ぬかず)く也。人に従い卜の聲」とする。[同注]は「頓(ぬかず)く也。頓者(は)首(くび)下(おろ)す也。首を以って地を叩(たた)くを之(これ)頓首と謂(い)う。引伸して前に覆(おお)うを爲す。(中略)偃エン(ふす・たおれる)が、仆也。」とする。つまり、占いのひび割れを見るため頭を下におろして頓(ぬかず)く意だが、転じて、たおれる・ふす意になった。
意味 (1)たおれる(仆れる)。たおす(仆す)。ふす。「仆臥フガ」(たおれふす)「仆僵フキョウ」(たおれる。仆も僵も、たおれる意)「仆偃フエン」(たおれふす) (2)たおれしぬ。「仆死フシ」「仆斃フヘイ

形声字
 フ・おもむく  走部
解字 「走(はしる)+卜(フ)」 の形声。フは仆(たおれる)に通じ、仆れたのを知り急いで駆けつけるのが原義。転じて、出かけてゆく意となる。告コクをつけて死去の知らせの意になる。
意味 (1)おもむく(赴く)。出かける。急いで行く。「赴任フニン」(任地へ行くこと)「赴難フナン」(難に赴く。国難などを救うため急いで赴く) (2)つげる(赴げる)。人の死の知らせ。「赴告フコク」(死去・災難などを知らせる) 
 フ  言部
解字 「言(ことば)+卜(=赴。死の知らせ)」 の会意形声。急いでかけつけて人の死を告げる意。
意味 つげる(訃げる)。しらせ。人の死の知らせ。「訃報フホウ」「訃告フコク」「訃音フオン
<紫色は常用漢字>

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音符「焦ショウ」<隹を火でこがして焼く>と「礁ショウ」「蕉ショウ」

2022年11月22日 | 漢字の音符
 ショウ・こげる・こがす・こがれる・あせる  灬部          
 
解字 「隹(とり)+灬(火)」の会意。隹を火の上でこがして焼くことを示す。こげる・焼く意となる。また、心があせる・こがれる意ともなる。
意味 (1)こげる(焦げる)。こがす(焦がす)。焼ける。「焦土ショウド」「焦点ショウテン」(レンズで太陽光が集まり焦げる点) (2)あせる(焦る)。いらいらする。じれる(焦れる)。じらす(焦らす)。「焦燥感ショウソウカン」 (3)こがれる(焦がれる)。恋したう。 (4)やつれる。

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 「こげる・もえる」
(焦・樵・憔)
 「こげた色」(礁・蕉・鷦)
音の変化  ショウ:焦・樵・憔・礁・蕉・鷦

こげる・もえる
 ショウ・きこり・こる  木部
解字 「木+焦(もえる)」の会意形声。燃やす木で薪(たきぎ)の意。また、木を伐って薪を作る人を表わす。
意味 (1)たきぎ。まき。 (2)きこり(樵)。そまびと。「樵夫ショウフ・きこり」「樵歌ショウカ」(きこりのうたう歌) (3)きこる。こる(樵る)。
 ショウ・やつれる  忄部
解字 「忄(こころ)+焦(こげる)」の会意形声。心が焦げるような心痛で、やせおとろえること。
意味 やつれる(憔る)。やせおとろえる。「憔悴ショウスイ」(やせおとろえる。うれいなやむ)「憔慮ショウリョ」(なやみおもう)

こげた色
 ショウ  石部
解字 「石(いわ)+焦(こげた色)」 の会意形声。こげたような黒い色をした岩。
意味 かくれ岩。黒い色をして水面に見え隠れする岩。「暗礁アンショウ」「座礁ザショウ」(船舶が暗礁に乗り上げること)「環礁カンショウ」(環状のサンゴ礁)
 ショウ  艸部
 芭蕉天神宮の芭蕉
解字 「艸(草)+焦(こげた色)」の会意形声。伸びた葉の根元が落ちず幹に残り、焦げた色の偽茎となる芭蕉。
意味 (1)「芭蕉バショウ」に使われる字。芭蕉はバショウ科の大形多年草。バナナと似た大きな葉をつけ、葉の基部から作る繊維で布を織る。「蕉布ショウフ」(芭蕉葉の繊維から織った布) (2)「香蕉コウショウ」(バナナ)「甘蕉カンショウ・バナナ」 (3)松尾芭蕉。江戸期の俳人。「蕉門ショウモン」(松尾芭蕉の一門、また門下)「蕉風ショウフウ」(芭蕉とその一門の俳風)
 ショウ・(みそさざい) 鳥部

ミソサザイ(鷦鷯)(ブログ「下手の横好き」より)
解字 「鳥(とり)+焦(こげた色)」の会意形声。焦げた色の鳥。
意味 「鷦鷯ショウリョウ」(みそさざい)に用いられる字。スズメ目ミソサザイ科ミソサザイ属に分類される鳥類で、日本に生息する鳥類の中で最小種の一つ。山間の水辺をすばやく飛び、昆虫を捕食する。鷯リョウは「尞リョウ(かがり火)+鳥」で淡い褐色の鳥。「大鷦鷯尊おおさざきのみこと」(仁徳天皇の『日本書紀』での名称)「鷦鵬ショウホウ」とは、伝説上の南方の神鳥。
<紫色は常用漢字>

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音符「占セン」<うらなう・占める>と「店テン」「点テン」「粘ネン」「貼チョウ」

2022年11月19日 | 漢字の音符
  増補改訂しました。
 セン・うらなう・しめる  ト部

解字 甲骨文第1字は、肩甲骨の象形の中に卜(うらない)と祭祀を象徴する口サイを描いた形で、甲骨占卜センボクを表現した会意文字。第2字は肩甲骨を省いたかたち。意味は甲骨の卜兆(ひびわれ)を見て将来を判断すること[甲骨文字辞典]。春秋戦国以降、現在まで第2字の形が続いている。なお、この字は占う意のほかに、後に場所などを「占める」意が出てくるが、何故この意味が出たのか調べたが明らかでない。私の推測では肩甲骨の上に占いの卜兆が広がるので、骨の上を卜兆が「占める」意となったのではなかろうか。この意味から占の音符を含む字は「場所をしめる」イメージを持つ。
意味 (1)うらなう(占う)。うらない(占)。「占卜センボク」(うらない。占も卜も、うらなう意)(2)しめる(占める)。「占有センユウ」「占拠センキョ」(場所を占めて他人をよせつけない)「独占ドクセン

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 「うらなう」(占)
 「場所をしめる」(点・店・站・鮎・苫・笘・砧・粘・黏・拈・貼・覘・帖・沾・霑)
音の変化  セン:占・苫・笘  タン:站  チョウ:貼・帖  チン:砧  テン:点・店・覘・沾・霑  デン:鮎  ネン:粘・黏・拈

場所をしめる
[點] テン  灬部
解字 旧字はで「黑(くろい)+占(場所をしめる)」 の会意形声。特定の場所を占める小さな黒いしるし。新字体は、旧字の黒の上部を省き、占の下に灬をつけた。
意味 (1)てん(点)。「頂点チョウテン」(2)問題となる箇所。「欠点ケッテン」(3)評価のしるし。「点数テンスウ」(4)火や灯りをつける。「点火テンカ」(5)しらべる。「点検テンケン
 テン・みせ  广部
解字 「广(やね)+占(決まった場所をしめる)」の会意形声。行商人と違い、一つの場所を決めて家を構えたみせ(店)
意味 (1)みせ(店)。「店員テンイン」「開店カイテン」(2)[国]たな(店)。貸家。「店子たなこ」(借家人)
 タン・たつ  立部
解字 「立(たつ)+占(場所をしめる)」の会意形声。ある場所を占めて立つこと。
意味 (1)たつ(站つ)。じっとひと所に立つ。(2)うまつぎ。宿駅。駅。途中でしばらく立ち止まるところ。「駅站エキタン」(停車場)「兵站ヘイタン」(戦場の後方で軍需品を補給する基地)
 デン・ネン・あゆ  魚部
解字 「魚(さかな)+占(場所をしめる)」の会意形声。なわばりを占有してすむアユ。
意味 (1)[国]アユ(鮎)。アユ科の淡水魚。「鮎漁あゆりょう」(2)中国では、なまずを言う。「鮎魚デンギョ」(なまず)
 セン・とま  艸部
解字 「艸(くさ)+占(場所をしめる)」 の会意形声。小さな小屋や船の屋根など占めておおう草製のむしろ。
苫の製作(中国)
https://baike.baidu.com/item/%E8%8D%89%E8%8B%AB%E5%AD%90/3485380
意味 (1)とま(苫)。稲わらや茅(かや)などで編んだむしろ。小屋や小舟などを覆い風雨をふせぐ。「苫屋とまや」(苫で屋根を葺いた粗末な小屋)「苫舟とまぶね」(苫で屋根を葺いた舟)
 セン・ふだ  竹部
解字 「竹(竹簡)+占(場所をしめる)」の会意形声。竹に文字を書く簡カン(ふだ)や箋セン(ふだ)をいう。また[説文解字]は「竹の箠むち也」としてムチの意とする。
意味 (1)ふだ(笘)。=箋セン。「書笘ショセン」(2)むち(笘)。(3)[国]とま(笘)。地名および名字。「笘野とまの」「笘米地とまべち」「三笘みとま
 チン・きぬた  石部
解字 「石(いし)+占(場所をしめる)」の会意形声。場所をしめる石の台の意。布地を石の台において杵で打ってやわらかくする作業に使う。

砧打ち(ブログ「機織り職人の仕事場から…」より)
意味 きぬた(砧)。「衣板きぬいた」の略。布地などを打つときに使う石や木の台。また、その台を打つこと。「砧きぬたをうつ」「砧杵チンショ」(砧とそれを打つ木槌。また、砧を打つ音)
 ネン・デン・ねばる  米部
解字 「米(ごはん)+占(ひと所に定着する)」の会意形声。ご飯がひと所にくっついてしまうこと。
意味 ねばる(粘る)。ねば(粘)。ねばねばする。「粘着ネンチャク」「粘膜ネンマク」「粘土ネンド
 ネン・デン  黍部
解字 篆文は「黍(きび)+占(ひと所に定着する)」の会意形声。この黍はもちきび、もちきびがひと所にくっついて動かない意。粘の正字。のち、黍⇒米に代わった粘ができた。
意味 ねばる(黏る)。ねば(黏)。粘の正字。「黏土ネンド」(=粘土)「黏菌ネンキン」(=粘菌)
 ネン・デン・つまむ・ひねる  扌部
解字 「扌(て)+占(=粘・黏の略体)」。粘土・黏土(ネンド)のような粘るものを手でつまみとること。
意味 (1)つまむ(拈む)。つまみとる。「拈香ネンコウ」(香をつまんでたく。焼香)「拈筆ネンヒツ」(筆をつまみとる)「拈華ネンゲ」(華をつまみとる) 「拈華微笑ネンゲミショウ」(2)ひねる(拈る)。「拈出ネンシュツ」(ひねり出す)
拈華微笑(「禅の視点」より)
 チョウ・テン・はる  貝部
解字 「貝(財貨)+占(ひと所をしめる)」の会意形声。財貨をひと所に置いて足りなくなった財貨を補うのがもとの意味。財貨を補って上乗せする(補貼ホチョウ)ことから、転じて、「つける」「はる」意となった。
意味 (1)はる(貼る)。付ける。「貼付チョウフ・テンプ」(貼り付けること)(2)おぎなう。「補貼ホチョウ」(おぎなう)(3)つく。接近する。「貼身チョウシン」(ぴたりと身辺に寄りそう)
 テン・うかがう  見部
解字 「見(みる)+占(場所をしめる)」の会意形声。ある場所をしめて、そこからのぞきみること。
意味 うかがう(覘う)。のぞく(覘く)。「覘候テンコウ」(さぐりうかがう)「覘望テンボウ」(うかがいのぞむ。遠くからみる)
 チョウ・ジョウ  巾部
解字 「巾(ぬの)+占(場所をしめる)」 の会意形声。巾はここで字を書く絹布の意。帖は一定の場所をしめる絹布の意で、字や絵を書く一定の大きさのかきもの、かきつけをいう。のち、絹布だけでなく紙に書くものも含めていう。常用漢字でないため、帳チョウに書き換えるものがある。
意味 (1)かきもの。かきつけ。「手帖テチョウ」(=手帳)「画帖ガチョウ」(=画帳)(2)石刷りの書。習字の手本。(3)たれる。「帖耳チョウジ」(耳をたれる) (4)[国]折り本。「帖装チョウソウ」(書物の装訂法の一つ。横に長い紙を同じ幅に折って作る本。)(5)ジョウの音。半紙20枚、海苔10枚を表す。また、屏風・畳などを数える語。
 テン・うるおう  氵部
解字 「氵(みず)+占(場所をしめる)」の会意形声。水が場所を占める形で、うるおう意。
意味 (1)うるおう(沾う)。ぬれる。「襟(えり)を沾(ぬら)す」「沾湿テンシツ」(うるおいぬれる)(2)うるおす(沾す)。恩恵をあたえる。「沾被テンピ」(めぐみをうける)「沾洽テンコウ」(①雨のめぐみでうるおう。②君のめぐみがあまねくゆきわたる)(3)川の名。「沾水テンスイ」(山西省に源を発する川)
 テン・うるおう  雨部
解字 「雨(あめ)+沾(うるおう)」の会意形声。雨でうるおうこと。
意味 うるおう(霑う)。うるおす(霑す)。ぬれる。「霑濡テンジュ」(①ぬれる。②恩恵をうける)「霑露テンロ」(つゆにぬれる)「霑酔テンスイ」(泥酔)(2)恩恵やもてなしをうける。「霑被テンピ」(①うるおう。②恩恵をうける)「均霑キンテン」(平等にうるおう。各人が利益を得る)
<紫色は常用漢字>

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音符「貴キ」<とうとい> と 「櫃キ」「遺イ」「潰カイ」

2022年11月16日 | 漢字の音符
 饋キを追加しました。
 キ・たっとい・とうとい・たっとぶ  貝部          

解字 篆文の上部は、逆Y字形のものを上からの両手で持つかたち。ケンの字では、下の㠯(𠂤タイの変化形=祭肉)を持つ形であり、貴では、下の貝(財貨)を両手で持つ形。貴重なものを持つことから、転じて、とうとい意となる。字形は隷書レイショ(漢代)で両手が「逆ヨ+ヨ」に、逆Y字⇒丄になり、現代字は上部が「中+一」に変化した貴になった。
意味 (1)とうとい(貴い)。たっとい。身分や価値が高い。「高貴コウキ」「貴金属キキンゾク」 (2)たっとぶ(貴ぶ)。とうとぶ。 (3)相手への敬意を表す語。「貴殿キデン

イメージ 
 「貴重なもの」
(貴・・櫃・遺・饋・潰)
音の変化  キ:貴・・櫃・饋  イ:遺  カイ:潰

貴重なもの
 キ・ひつ  匚部
解字 「匚(はこ)+貴(貴重なもの)」の会意形声。貴重なものを入れるはこ。また、幾(かすか・少ない)に通じ、はこの中がすくない、即ち、とぼしい意もある。のち、はこの意は櫃が受け持ち、とぼしい意を中心に使われるようになった。
意味 (1)ひつ()。大きな箱。 (2)とぼしい。むなしい。「キボウ」(も乏もとぼしい意。不足すること)「キザイ」(金銭にとぼしい)
 キ・ひつ  
解字 「木(き)+匚(はこ)+貴(貴重なもの)」の会意形声。貴重なものを入れる木のはこ。

唐櫃からびつ(「府中家具木工資料館」より)
意味 ひつ(櫃)。ふたつきの箱。「米櫃こめびつ」「飯櫃めしびつ」「唐櫃からびつ」(脚のつかない和櫃(やまとびつ)に対し、4本脚のついた櫃。衣服・甲冑・文書類の収納具。からひつ。からうど。かろうど。からと。とも言う)
 イ・ユイ・のこす  辶部
解字 「辶(もってゆく)+貴(貴重なもの)」の会意形声。貴重なものを持って行き人に贈り、そこにのこす意。人に贈ると、相手の方にものが残り、自分のほうにはなくなるという二つの側面がある。遺は主に、のこる・うしなう意で使う。
意味 (1)おくる(遺る)。「先に人を遣(や)り書を以て譚を遺(おく)る」 (2)のこす(遺す)。のこる。「遺産イサン」「遺書イショ」「遺言ユイゴン」「遺憾イカン」(遺はのこる、憾は失望する。失望がのこる。とても残念だ) (3)おとす。わすれる。「遺失物イシツブツ」 (4)すてる。「遺棄イキ
 キ・おくる  食部
解字 「食へんの旧字(食べ物)+貴(=遺の略体。おくる)」の会意形声。食べ物をおくること。[説文解字]に「餉(おく)る也」とあり、昼餉(ひるげ)などの食事を運ぶことをいう。
意味 (1)おくる(饋る)。食べ物や物品をおくる。「饋運キウン」(①おくり運ぶ。②食糧を運ぶ)「饋遺キイ」(食物や物品をおくる。おくりもの。饋も遺も、おくる意) (2)おくりもの。「饋歳キサイ」(年末の贈り物。歳暮)「饋賂キロ」(便宜をはかってもらう贈り物) (3)食物。たべる。「饋食キショク」(①祭りに供える穀物や果実。②食事。食べ物)
 カイ・つぶす・つぶれる  氵部
解字 「氵(みず)+貴(貴重なもの)」の会意形声。貴重なものが洪水で破壊されること。
意味 (1)つぶす(潰す)。つぶれる(潰れる)。ついえる。「潰滅カイメツ」「潰瘍カイヨウ」(皮膚や粘膜がただれてくずれること)「胃潰瘍イカイヨウ」(胃壁の潰瘍) (2)敗れる。「潰走カイソウ」(敗れて逃げる)
<紫色は常用漢字> 

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音符「失シツ」<うしなう>と「秩チツ」「迭テツ」「鉄テツ」

2022年11月14日 | 漢字の音符
  軼イツを追加しました。
 シツ・シチ・イツ・うしなう  大部         

解字 篆文は「手+乙オツ・イツ(骨べら)」の会意形声。乙は十干(甲・乙・丙・丁など10字からなる順序を表す字)の第二位に仮借カシャ(当て字)されているが、実際は骨べらと推定されている。失は手から骨べらが滑り落ちて、手にあったものを「うしなう」こと。転じて、忘れる・誤る・その場を去る意ともなる。現代字は失に変化した。この字の㇏(右はらい)が骨べらに当たり、残りの部分が古代文字の五本指の手が変化したかたち。
意味 (1)うしなう(失う)。なくす(失くす)。「失望シツボウ」「紛失フンシツ」 (2)忘れる。「失念シツネン」「忘失ボウシツ」 (3)誤る。しくじる。「失敗シッパイ」「過失カシツ」 (4)にげる。にがす。その場を去る。「失跡シッセキ」「失踪シッソウ

イメージ  
 「うしなう」
(失・跌・迭)
 「その場を去る:意味(4)」(佚・軼)
 「形声字」(秩・帙・鉄)
音の変化  シツ:失  チツ:秩・帙  テツ:迭・跌・鉄  イツ:佚・軼

うしなう
 テツ・つまずく  足部
解字 「足(あし)+失(うしなう)」の会意形声。足の置く場所を見失って、つまずくこと。
意味 (1)つまずく(跌く)。たおれる。「蹉跌サテツ」(つまずく。失敗する) (2)あやまつ。「跌誤テツゴ」 (3)こえる。 (4)ほしいまま。「跌蕩テットウ」(跌も蕩も、ほしいままの意。無頓着にふるまうこと=跌宕テットウ。)
 テツ・かわる  辶部
解字 「辶(ゆく)+失(うしなう)」 の会意形声。人が現在いる場所をうしない、その場を去り、別の人がくること。入れ替わる意。
意味 かわる(迭る)。かわるがわる。入れ替わる。「更迭コウテツ」(人がかわる、また、かえること)「迭立テツリツ」(かわるがわる立つ)

その場を去る
 イツ・テツ  イ部
解字 「イ(ひと)+失(その場を去る)」 の会意形声。人がその場をのがれ、かくれること。人以外にも、ぬけて見えなくなる意で用いる。また、人が隠れ住んだ所で気ままに楽しむこと。
意味 (1)のがれる。かくれる。「佚民イツミン」(隠れ住む人=逸民) (2)ぬけて見えなくなる。「散佚サンイツ」(散りうせる。=散逸)「佚文イツブン」(散佚して伝わらない、また、一部だけ残っている文書=逸文) (3)気ままにたのしむ。「安佚アンイツ」(安心して楽しむ)「佚楽イツラク」(気ままに遊び楽しむ)
 イツ・テツ  車部
解字 「車(くるま)+失(その場を去る)」の会意形声。車がその場を去ること。すぎる。おいこす。転じて、すぐれる意となる。
意味 (1)すぎる(軼る)。おいこす。後の車が前に出る。「軼駕イツガ」(車で追いこす。しのぐ) (2)すぐれる。「軼材イツザイ」(すぐれた才能。逸材)「軼倫イツリン」(仲間からぬきんでる)

形声字
 チツ  禾部
解字 「禾(こくもつ)+失(シツ⇒チツ)」の形声。[説文解字]は、「積む也(なり)。禾に従い失の聲(発音)。直質切(チツ)」とし、収穫した穀物を積み上げる意で発音がチツとする。順序よく積むことから、重なった物事の順序を表わす。発音はシツ⇒チツに転音した。
意味 (1)物事の順序。次第。「秩序チツジョ」(①順序・次第。②社会のきちんとした状態) (2)位(くらい)。官職。役人の俸給。扶持ふち。「秩禄チツロク」(官職によって支給される俸給)「俸秩ホウチツ
 チツ・ふまき  巾部
 
解字 「巾(ぬの)+失(=秩。順序よく)」の形声。和とじの本を順序よく積んで包む布張りのおおいのこと。
意味 (1)ちつ(帙)。ふまき(帙)。ふみづつみ。「書帙ショチツ」「巻帙カンチツ」(書籍の巻と帙。転じて書籍。また、その巻数)
 テツ  金部
解字 「金(きんぞく)+失(テツ)」 の形声。旧字はテツで、「金+の右辺テツ(黒い)」の会意形声で黒い金属の意。鉄は、同じ発音の失テツに当てた文字。失に迭テツの音がある。
意味 (1)てつ(鉄)。くろがね。「鉄鉱テッコウ」「鉄器テッキ」 (2)刃物。兵器。「鉄血テッケツ」(兵器と兵隊)「寸鉄スンテツ」(小さい刃物) (3)鉄のようにかたい。「鉄人テツジン」「鉄腕テツワン
<紫色は常用漢字>

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音符「詹セン」<くどくど言う>と「譫セン」「蟾セン」「儋タン」

2022年11月11日 | 漢字の音符
 センの解字をやり直しました。
 セン・タン  言部
 危キと詹セン・タン

上は危、下は詹セン・タン
 危は上部の厃センが詹センと共通で、詹センの音符ともなっており関連の深い字である。危の甲骨文は第一字・二字とも、先(下部)が尖り、上の柄が曲がった形であり「柄の曲がった杙くいの象形と推定される(甲骨文字辞典)」としている。意味は地名だという。後に危険の危の意味になるので尖った先が危険という意味か。楚簡(春秋・戦国)の第一字(上)は曲がった柄の部分が千になり下部が山形になった。第二字は上部が「千+厂(がけの初形)」となり山が 厂(がけ)になったが高い意味は同じ(山と厂(がけ)は高い)で、下に土の上にうずくまる人の形が加わった。
 なぜ、うずくまる人を下に付けたのか。これは私の推測であるが、楚簡第一字は、下部がふくらんでおり杙くいの先のおもかげが残っているが、第二字は 厂(がけの初形)となり、逆にへこんだ形になってしまった。そこで先が尖って危険の意味を強調するため、恐れて土の上にうずくまる人を下に配したのではなかろうか。
 楚簡第二字を発展させたのが[説文解字]の篆文で、上部を「うずくまる人+厂(がけ)」の厃センとし、当初のクイの形を様変わりさせた。意味は 厂(がけ)の上で人がおびえてうずくまる形で、これだけで危ない意味だが、下にも楚簡から続く「うずくまる人(卩セツ)」をつけた繁文となり、その意味を強調している。現代字は下部が㔾に変化した危になった。危は「厃セン+㔾セツ」の会意である。
詹センは何を表すのか
 下段の詹センは楚簡(春秋戦国)からある。上部は「(千の左がつながった形)+厂(がけの初形)」で、これが甲骨文のクイの変化した形である。下に「ハ(ひろがる)+言(ことば)」がつき、言葉が広がる多言の意。篆文になり、上部が「ク(人)+厂(がけ)」の厃センになった。下に「ハ(ひろがる)+言(ことば)」がついた詹センの意味は多言(くどくどいう)で発音がセンである。譫センの原文。また、古代の官名では、皇后や皇太子の身の回りを管掌する役割であることから、その責任者が部下にこまごまと指示をしているさまと思われる。音符になるとき、上部がクイの変形(厃)であることから杙くいの意の「突き出る・出る」イメージがある。
意味 (1)くどくどとものを言う。 (2)秦・漢代の官名。「詹事センジ」(皇后・皇太子の家事をつかさどる官) (3)同音の蟾セン(ひきがえる)の略体。「詹諸センショ」(①ひきがえる。②月の別称)

イメージ
 「くどくどいう」(詹・譫)
 厃センがクイであることから「つきでる・でる」(檐・贍・蟾)
 「形声字」(儋・擔(担)・膽(胆)・憺・澹)
 「その他」(瞻)

音の変化  エン:檐  セン:詹・譫・贍・蟾・瞻  タン:儋・擔(担)・膽(胆)・憺・澹 
 
くどくどいう
 セン・たわごと  言部
解字 「言(ことば)+詹(くどくどいう)」の会意形声。詹は、くどくど物をいう意に言(ことば)をつけて元の意味を強めた字。すなわち、この字には言が二つあり、詹は譫の原字であることが分かる。
意味 たわごと(譫)。くどくどと言う。「譫語うわごと・センゴ」(高熱に浮かされて無意識に発する言葉。無責任な言葉)「譫妄センモウ」(妄想してうわごとを言う。錯覚や幻覚症状をいう)

つき出る
 エン・タン 木部
解字 「木(き)+詹(つき出る)」の会意形声。屋根からつき出る木でひさしの意味を表す。
意味 ひさし(檐)。のき。屋根をふきおろした端。「屋檐オクエン」(家屋のひさし)「檐宇エンウ」(ひさし。のき。檐も宇も、ひさしの意)「檐間エンカン」(のきば)「檐滴エンテキ」(のきの雨だれ)「檐牙エンガ」(牙のように曲がっているのきの垂木)
 セン・すくう・たりる  貝部
解字 「貝(財貨)+詹(出る)」の会意形声。財貨が出ること。たりる・すくう意となる。
意味 (1)たす。たりる(贍りる)。「贍遺センイ」(おくりもの)「贍足センソク」(たす。充足させる) (2)すくう(贍う)。「贍賑センシン」(物を与えてすくう) (3)富む。豊か。「贍富センプ」(ゆたか)「贍麗センレイ」(ゆたかで美しい)
 セン  虫部
解字 「虫(両生類)+詹(出る)」の会意形声。皮膚に多数の疣(いぼ)が出ている蛙で、「蟾蜍センジョ」(ヒキガエル)に用いられる字。

月のなかの「ひきがえる」https://m.hackhome.com/InfoView/Article_235593.html
意味 「蟾蜍センジョ」とは、①ヒキガエルをいう。いぼのたくさんある大型の蛙。②月の中にいるというヒキガエル。中国では《西王母セイオウボの秘薬を盗んだ姮娥コウガが月に逃げてヒキガエルになったという伝説(後漢書)がある》③転じて、月のこと。
意味 (1)「蟾蜍センジョ」(ヒキガエル)に用いられる字。「蟾諸センショ」ともいう。 (2)月の別称。「蟾光センコウ」(月の光)「蟾宮セングウ」(月にあるという宮殿)「蟾桂センケイ」(月にあるヒキガエルと月に生えている巨大な桂かつらの木)「蟾兎セント」(月うさぎ)

形声字
 タン  イ部
解字 「イ(ひと)+詹(タン)」 の形声。タンは「詹瓦」(これで一字。発音はタン。陶製のかめ)に通じ、人がかめを背負っている形。転じて、人が担ぐ決まった量の重さや、容量の意となる。
意味 (1)人が担う容量や重量の単位。「一儋イッタン」(ひとかつぎの量。2石。また、ひとかつぎの重さ。50キログラム。)「儋石タンセキ」(人が担ぐほどの量。わずかの量) (2)もたい。かめ。担いがめ。 (3)になう。(=擔タン)肩に重い荷をかつぐ。肩にかける荷物。
擔[ タン・かつぐ  扌部
解字 「扌(て)+詹(=儋。担いがめ)」 の会意形声。担いがめを手で持ち上げてかつぐこと。この字は新字体で、詹⇒旦に置き換えられ、担タンになった。
意味 (1)かつぐ(擔ぐ)。になう(擔う)。 (2)ひきうける。 音符「旦タン」を参照。
膽[ タン・きも  月部にくづき
解字 「月(からだ)+詹(=儋。担いがめ)」 の会意形声。体の中にあって胆汁(苦い消化液)をためておく器官(担いがめ)。この字は新字体で、詹⇒旦に置き換えられ、胆になった。
意味 きも(膽)。詳細は、音符「旦タン」を参照。
 タン  氵部
解字 「忄(こころ)+詹(タン」 の形声。タンは覃タン(深い壺)に通じ、ふかい意がある。忄(こころ)がついた憺は、深い心の意味で、①心がやすらか。しずか。 ②深く悩む。の対照的な二つの意味がある。
意味 (1)やすらか。しずか。おだやか。「恬憺テンタン」(心がやすらかで無欲) (2)深くなやむ。心をくだく。「惨憺サンタン」(心を砕き悩む)「苦心惨憺クシンサンタン
 タン・あわい  氵部
解字 「氵(みず)+詹(タン)」 の形声。タンは淡タン(あわい)に通じ、あわい意。澹タンと淡タンの上古・中古音とも定談(dam)で共通。
意味 (1)あわい(澹い)。さっぱりしている。あっさりしている。「澹澹タンタン」(あっさりしたさま)「澹艶タンエン」(あっさりとして美しい) (2)水がゆったりとゆれうごく。おだやか。しずか。「澹然タンゼン」「恬澹テンタン」(やすらかで無欲)「澹蕩タントウ」(ゆったりとのどか) (3)しずかにたえる。「暗澹アンタン」(希望を失い暗い気持ちのさま)

その他
 セン・みる  目部
解字 「目(め)+詹セン(皇后・太子の家事を司る官名=詹事)」の会意形声。詹センは皇后・太子の家事を司る官名であり、その官の者は上位の皇后・太子に対し、①仰ぎ見る。②お仕えする方に気を配ってよく見る、意味がある。
意味 (1)あおぎみる。「瞻依センイ」(あおぎたよる)「瞻仰センギョウ」(あおぎみる)「瞻望センボウ」(あおぎのぞむ) (2)よくみる。「瞻視センシ」(よく見る)「瞻前顧後センゼンコゴ」(前をみて、後ろをかえりみる。前後をよく見る)

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音符「敢カン」<あえてする>と「瞰カン」「巌ガン」「厳ゲン」 

2022年11月08日 | 漢字の音符
 儼ゲンを追加しました。
 カン・あえて  攵部ぼくづくり

解字 金文と篆文第一字は、「古(ふるい)+上の手+下の手」の会意。古は、祭礼の祝詞(神への祈り言葉)を入れた器を盾で大事に守るかたち。(音符「古コ」を参照。)これに上下の手をつけた敢カンは、大事に守る器を両手であえて開けようとすること。今までの慣例にこだわらず、あえてする意となる。篆文第二字は、「ヨ+月+殳」の形に変化し、現代字はさらに敢となり、原形をとどめていない。語呂合わせで覚えると便利。
覚え方 え()いと、みみ(ぼく)は(あえ)て、ふさいで敢行す。(エと耳のあいだは重なる)
意味 (1)あえて(敢えて)。あえてする。「果敢カカン」(決断力が強く大胆)「敢行カンコウ」(思いきって事を行なう) (2)いさましい。「勇敢ユウカン

イメージ
 「あえて」
(敢・厳・儼)
 「形声字」(瞰・巌)
音の変化  カン:敢・瞰  ガン:巌  ゲン:厳・儼

あえて
 ゲン・ゴン・おごそか・きびしい  ツ部

解字 金文は、「口口口(口々に言う)+人の変形+敢カン(あえて)」の会意形声。敢えて行なうことに対し、人が口々に非難すること。きびしく言うことから、きびしい意となった。きびしく言うことは、いかめしい顔つきになることから、転じて、いかめしい・おごそかの意となる。篆文・旧字は、口が二つになり、人の変形⇒厂カン(がけ)に変化した嚴となった。新字体は、旧字の口口⇒ツに変化した。
意味 (1)きびしい(厳しい)。はげしい。「厳格ゲンカク」「厳命ゲンメイ」 (2)おごそか(厳か)。いかめしい。「威厳イゲン」(いかめしいこと)「厳粛ゲンシュク」「荘厳ソウゴン」(重々しく立派) (3)[和訓]いつ(厳)。「厳島いつくしま」(広島湾南西部の島。北岸に厳島神社がある)
 ゲン・いかめしい・おごそか  イ部
解字 「イ(ひと)+嚴(きびしい)」の会意形声。きびしい人で、いかめしい意。儼の嚴ゲンは、「口口+厂(人の変形)+敢」であり、そこにイ(ひと)をつけて、人を強調したかたち。厳の意味(2)とほぼ重複する。
意味 (1)いかめしい(儼しい)。おごそか(儼そか)。「儼恪ゲンカク」(おごそかで、つつしみがある)「儼乎ゲンコ」(おごそかなさま)「儼然ゲンゼン」(おごそかなさま。=厳然。) 

形声字
 カン・みる  目部
解字 「目(め)+敢(カン)」の形声。カンは監カン(水かがみの器を上からのぞきこむ)に通じ、目で下を見下ろすこと。(音符「監カン」を参照)
意味 みる(瞰る)。見下ろす。ながめる。「鳥瞰チョウカン」(鳥のように見下ろす)「俯瞰フカン」(高い所から見下ろす。俯も瞰も、見おろす意)
 ガン・いわお・けわしい  山部
解字 正字はで、「山(やま)+嚴(ガン)」の形声。ガンは岩ガン(いわ)に通じ、山のような岩をいう。新字体に準じた巌が通用する。
意味 (1)いわお(巌)。いわ。大きな岩石。「巌頭ガントウ」(大きな岩の上)「巌窟ガンクツ」(=岩窟。岩の横穴) (2)けわしい(巌しい)。「巌阻ガンソ」(巌も阻も、けわしい意)
<紫色は常用漢字>

お知らせ
 主要な漢字をすべて音符順にならべた、『音符順 精選漢字学習字典 ネット連動版』石沢書店(2020年)発売中です。

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音符「隹スイ」<とり>と「推スイ」「椎スイ」「誰スイ」「維イ」「唯ユイ」「進シン」「堆タイ」「稚チ」

2022年11月05日 | 漢字の音符
 とり(隹)のイメージ以外の音符字は、すべて隹の発音を利用した形声字です。
 スイ・サイ  隹部          

解字 比較的小さいとりを描いた象形。ひろく、とりを意味する。[甲骨文字辞典]によると、単独ではほとんどが発語の助字の用法だという(現在の惟など)。この意味は唯・維の字にも残っている。隹を音符に持つ字は多いが、「とり」以外は、発音を利用した形声文字である。
意味 (1)とり(隹)。ふるとり(隹)。鳥の総称。 (2)ふふどり(カッコウの古称)。きじばと。
部首としての隹
隹は、部首「隹ふるとり」になる。漢字の上辺や右辺などにつき隹(とり)の意味を表す。
常用漢字 9字
 隻セキ(隹+又の会意) 
 雇コ・やとう(隹+音符「戸コ」)
 集シュウ・あつまる(隹+木、会意)
 雄ユウ・おす(隹+音符「厷ユウ」)
 雅ガ・みやび(隹+音符「牙ガ」)
 雑ザツ・まざる(隹+九+木の会意)
 雌シ・めす(隹+音符「此シ」)
 難ナン・かたい(隹+音符「漢の左辺」)
 離リ・はなれる(隹+音符「离リ」)

音符としての隹
タイは石の上に隹とりがいるのでなく、椎ツイは木に隹とりが止まっているのではない。
 音符として用いられる隹は「とり」をかたどった象形だが、音符イメージが「とり(隹)」の字は少ない。その大部分は隹スイおよびその変化した発音が利用される。漢字字典で隹の発音を確認すると、漢音・呉音ともスイであり、これ以外では漢音でサイがある。一方、音符字での音変化をみると、スイ・イ・シュウ・シン・タイ・チ・ツイ・ユイの8種類がある。隹の基本音のスイ・サイはサ行の音であり、イはスイからスが脱落した形、ユイはその変形と考えると、残るのはタイ・チ・ツイのタ行音である。これらは会意の音から派生したと考えられる。
漢字ができる前から発音があった。
 中国で漢字が使われ出したのは約3,500年前の甲骨文字であり、さらにその萌芽期間をふくめた約4,000年前の文字以前は、言葉だけのコミュニケーションが行われていた。この言葉による伝達はかなり完成の域に達していたと考えられる。漢字ができると「とり」の象形からできた「隹」の字は、その発音を表すスイ・サイが、「とり」の意味を超え発音記号として活躍をはじめる。例えば、「だれ?」といった疑問詞はスイ(現在の中国語ではshéiシェイ)という発音だったので、隹スイの発音をもつ隹を利用し、そこに話す意味の「言」をつけた誰スイで「だれ?」を表した。
 また、「ただ」(それだけ)という副詞はユイ(現在の中国語でwéiウェイ、古音でʎǐwəiイウェイ)という発音だったので隹スイの発音を利用して似た発音のユイにし、これに口をつけた唯ユイで「ただ・それだけ」の意味を表した。こうした漢字の音だけを利用する方法は、どの漢字にもあるが、特に隹スイの字はそれが甚だしい。したがって、碓タイは石の上に隹とりがいるのでなく、椎ツイは木に隹とりが止まっている意味ではない。
 私は隹の音符字をまとめるにあたって以上のことがらを悟るのにだいぶ時間がかかった。それは[字統]が隹のいくつかの音符字に「隹とり占い」という概念をもちこんで説明をしていたからである。これを用いるといくつかの字は説明できるが、残りの字の説明に行き詰まる。また「隹とり占い」が実際にあったのかも定かでない。こうした試行錯誤でたどりついた私の結論は、「とり(隹)のイメージ以外の音符字は、すべて隹の発音を利用した形声字である。」

イメージ 
 「とり」(隹・進・暹・維・讐・售)
 「形声字」(誰・唯・雖・惟・帷・推・錐・騅・椎・碓・堆・稚)
音の変化 
 スイ:隹・誰・雖・推・錐・騅  イ:維・惟・帷  シュウ:讐・售  シン:進  セン:暹  タイ:堆・碓  チ:稚  ツイ:椎  ユイ:唯  

とり
 イ・ユイ・つなぐ・つな・これ  糸部             

解字 「糸(ひも)+隹(とり)」の会意形声。金文は、隹の足にフックのようなものをかけて又(手)でもち、糸(ひも)をつけた形。篆文以降、フックと又(手)はとれている。意味はひもで隹(とり)をつなぐ意を表わす。また、つないだつな、張りづな、つなを張ってささえる意となる。
意味 (1)つなぐ(維ぐ)。ささえる。「維持イジ」 (2)すじ。糸。「繊維センイ」 (3)つな(維)。大もとになるもの。「維綱イコウ」(おおづな。のり・おきて) (4)これ(維)。発語の助字。次の語を強調する。「維新イシン」(これ新た。すべてが改まって新しくなる) (5)ユイの発音。「維摩経ユイマキョウ」(大乗経典のひとつ。長者の維摩が解脱ゲダツの境涯を得る教え)
 シン・すすむ・すすめる  辶部

解字 金文は隹スイ(とり)の左横に彳(ゆく)、下に止(あし)が付いた会意形声。隹が止(あし・あるく)で彳(ゆく)形。篆文は彳と止が合体して辵チャクになり、現代字は辵⇒辶に変化した進になった。辶は移動する意味であり、隹が移動するとは、空を飛ぶ意。隹は飛んで上昇して前にすすむ。したがって、進の字には、①上昇する。②前にすすむ。の二つの意味がある。
意味 (1)すすむ(進む)。前に出る。「前進ゼンシン」 (2)すすめる(進める)。前に出させる。「進軍シングン」(軍隊を進める) (2)のぼる。あがる。「昇進ショウシン」(地位がのぼりすすむ)「進捗チンチョク」(①官位などをあげる。②物事がはかどる) (3)ささげる。たてまつる。「進上シンジョウ
 セン・すすむ  日部
解字 「日(太陽)+進シン⇒セン(すすむ)」の会意形声。日が進み、のぼる意。日の出。
意味 (1)すすむ。太陽がのぼる。「起きて朝日の暹(すす)むを看(み)る」(宋・王安石の詩)。 (2)国名。「暹羅センラ」(シャム・シャムロ。今のタイ国)
讐[讎] シュウ・あだ・むくいる  言部
解字 「隹(とり)+隹(とり)+言(いう)」の会意。[字統]は「当事者の双方から隹とりを贄(にえ。神への供え物)として差し出し、訴訟で言い争うこと」とする。双方が相争うことから、仇讐キュウシュウ(あだ・かたき)の意とする。
意味 (1)あだ(讐)。かたき。讎シュウは同字。仇キュウとも書く。「仇讐キュウシュウ」(あだ・かたき)「怨讐オンシュウ・エンシュウ」(うらんでかたきとすること)「恩讐オンシュウ」(他人からのめぐみと憎しみ)「恩讐の彼方に」(菊池寛の短編小説。かたき(讐)討ちの若者が相手の僧のトンネルを掘る慈悲の仏恩に感動してあだ討ちをやめる物語) (2)むくいる(讐いる)。しかえしをする。「復讐フクシュウ
 シュウ・うる  口部
解字 もと、讐シュウ(むくいる)の俗字。讐の隹隹⇒隹、言⇒口に略した形。むくいる・しかえす意から転じて、うる(売る)意味の字となった。
意味 うる(售る)。売る。「售価ショウカ」(うり値)「售貨ショウカ」(物をうる)

形声字
 スイ・だれ  言部
解字 「言(いう)+隹(スイ)」の形声。自分の知らないことを相手に問いかける(言う)ことを誰スイという。隹は「とり」の意味はなく、発音のみを表す。文字がないときから、これは何かと問いかける時にスイと言った。たまたま隹とりの発音がスイだったので、この文字を用いて発音のみを表した。のちに言をつけて問いかける意味を補足した。
意味 だれ(誰)・たれ・どの人。「誰何スイカ」(呼びとがめる)「誰彼だれかれ」(あの人この人。不特定の人)
 ユイ・イ・ただ  口部  
解字 「口(いう)+隹(スイ⇒イ・ユイ)」の形声。イという音を口から出すことで、①「はい」と承知する意を表す。②ユイの発音で、ただ(唯)。それだけ。ひたすらの意味を表す。
意味 Ⅰ. イの発音:はい。承知する。「唯々諾々イイダクダク」(人の意に従う) Ⅱ. ユイの発音:ただ(唯)。それだけ。ひたすら。「唯一ユイイツ」(ただ一つ)「唯我独尊ユイガドクソン」(ひとりよがり)
 スイ・いえども  隹部
解字 「虫(虫が食い侵す)+唯(承知する)」の会意形声。承知したことを侵されること。「いえども・ではあるが」等、逆説の関係を表す助字として使われる。
意味 いえども(雖も)。~ではあるが。たとえ~でも。「雖然スイゼン」(然(しか)りと雖(いえど)も」「中不雖遠不矣チュウフスイエンフイ」(中(あたら)不(ず)と雖(いえど)も遠(とお)から不(ず)矣(だ)※矣は句の最後につけて断定・推量・詠嘆などを表す。
 イ・ユイ・おもう・ただ  忄部
解字 「忄(こころ)+隹(スイ⇒イ・ユイ)」の形声。イの発音で、心に思う意となる。また、唯に通じ承諾の意となる。ユイの発音で発語の助字である「これ」「この」になる。
意味 (1)おもう(惟う)。よく考える。「思惟シイ」(心に深く考え思う) (2)はい。承諾の返事。(=唯)「惟惟イイ」(はいはい。=唯唯) (3)ただ(惟だ)。もっぱら。(=唯)「惟(た)だ命(メイ)に是(これ)聴(き)く」(何事もただ命令のままにしたがう)
 イ・とばり  巾部
解字 「巾(ぬの)+隹(イ)」の形声。イは囲(=圍。かこう)に通じ、まわりを囲う巾(ぬの)の意。室内や野外で囲むように張るたれまくをいう。帷と囲は、上古音・中古音でも同音(匣微)。
意味 (1)とばり(帷)。室内を仕切るため垂れさげる布。たれぎぬ。(=幃)。「帷帳イチョウ」(①とばり。②垂れ幕。作戦会議をする所) (2)たれまく。「帷幄イアク」(帷は、たれまく。幄は、ひきまく。幕をはりめぐらし作戦計画をする場所。幃幄イアク)「帷幕イバク」(垂れ幕。作戦会議をする所) (2)車の覆い。柩の覆い。覆いかくすもののたとえ。「夜の帷とばり」 (3)[国]「帷子かたびら」とは、①裏をつけない絹や麻の一重の着物。夏に着る。②几帳などに掛け、隔てとした布。③「経帷子きょうかたびら」(葬式のとき、死者に着せる白麻などの着物)の略。
 スイ・おす  扌部 
解字 「扌(手)+隹(スイ)」の形声。手で押してうごかすことをスイといい、隹の発音であるスイを用いた。説文解字は「排ハイ也なり」とし、手でおしのける意とするが、現在は「おす」意味で用いる。
意味 (1)おす(推す)。おしだす。おし動かす。「推進スイシン」 (2)うつる。移り変わる。「推移スイイ」 (3)おしはかる。「推察スイサツ」「推量スイリョウ
 スイ・きり  金部
解字 「金(金属製)+隹(=推。スイ)」の形声。スイは推スイ(おし動かす)に通じ、先のとがった金属を推し動かして穴をあけるキリ。
意味 (1)きり(錐)。木に穴をあける道具。「立錐リッスイ」(錐を立てる)「立錐の地」(錐を立てるほどの極めて狭い土地) (2)きりのように先がとがった形。「円錐エンスイ」(平面上の円周とその上方の一点を結んでできる内側の立体)「角錐カクスイ」(平面上の多角体とその上の1点を結んで囲まれる多面体) (3)筆の異呼称。「毛錐モウスイ」(筆の先が錐に似ることから)
 スイ・あしげ  馬部

連銭葦毛レンセンあしげの馬
https://www.thepaper.cn/newsDetail_forward_13162476
解字 「馬(うま)+隹(スイ)」の形声。[説文解字]は「馬の蒼黑(あおぐろ)雜毛なるもの。馬に従い隹の聲(声)」とし、馬の毛色のひとつ。日本で「あしげ(葦毛)」をいう。
意味 あしげ(騅)。あしげの馬。馬の毛色で、白の毛に黒色・濃い褐色などの差し毛のあるもの。楚の項羽の愛馬の名として知られる。「連銭葦毛レンセンあしげ」(葦毛に銭を並べたような灰白色のまだら模様のあるもの)
 ツイ・スイ・つち・しい  木部 
解字 「木(き)+隹(ツイ)」の形声。ツイは槌ツイ(つち)に通じ、木のつち(槌)をいう。また、木槌の材料となるシイの木を表す。このほか堆ツイ・タイ(積みあげる)に通じ、骨が積み重なる背骨の意ともなる。
意味 (1)つち(椎)。物を打つ道具。「鉄椎テッツイ」(=鉄槌)「椎鑿ツイサク」(つちと、のみ。大工道具) (2)うつ。打ちたたく。 (3)しい(椎)。ブナ科の高木。材は堅く木槌の材料となる。「椎茸しいたけ」 (4)せぼね。「脊椎セキツイ」「胸椎キョウツイ」(脊椎骨の胸の部分)「頸椎ケイツイ」(脊椎骨の最上部の首の骨)
 タイ・うす  石部

苗族の碓(中国の検索サイトから。原サイトなし)
解字 「石(いし)+隹(タイ)」の形声。タイは搥タイ・ツイ(うつ・たたく)に通じ、横杵の一端を足で踏んでつく石のうすをいう。ふみうす。
意味 (1)うす(碓)。ふみうす。からうす。横杵の一端を足でふんでつくうす。「碓声タイセイ」(石うすをつく音)「碓舂タイショウ」(碓は、ふみうす、舂は、つく意。ふみうすでつく) (2)地名。「碓氷峠うすいとうげ」(群馬県旧碓氷郡と長野県北佐久郡との境にある峠) 
 タイ・ツイ・うずたかい  土部
解字 「土(つち)+隹(タイ)」の形声。タイは陮タイ(おか)に通じる。陮タイは「阝(おか)+隹(タイ)」で、タイという名の丘。堆タイは土のおかをいう。また、土がうずたかい・土をつみあげる意となる。
意味 (1)うずたかい(堆い)。積みあげる。「堆積タイセキ」「堆肥タイヒ」「堆朱ツイシュ」(朱漆を厚く塗り、それに模様を彫った漆器) (2)おか。小さい丘。「大和堆やまとタイ」(日本海中央部に位置する海中の浅い丘。日本海有数の好漁場)
 チ・いとけない  禾部
解字 「禾(さくもつ)+隹(チ)」の会意。チは遅(おそい)に通じ、成長が遅れて短く小さい作物を示す。転じて、いとけない意となる。「禾+遅」の𥣔は稚の異体字。
意味 いとけない(稚い)。おさない。わかい。「幼稚ヨウチ」「稚拙チセツ」(幼稚でへたなこと)「稚魚チギョ
<紫色は常用漢字>

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音符「敬ケイ」<うやまう・いましめる>と「警ケイ」「檠ケイ」「驚キョウ」

2022年11月02日 | 漢字の音符
 檠ケイを追加しました。
 ケイ・キョウ・うやまう  攴部  

解字 甲骨文は、頭に二股の装飾をした人が跪いている形。金文は、その前に口を描き、二股飾りの人が祈る姿[敬う意]に、その人を攴ボク(打つ)している形[いましめる]。篆文は上部が「一V一」に、下部が人の形が口を包み込むように変化し、現代字は上部が草冠に変化した敬になった。敬には、①うやまう・つつしむ、②いましめる、の二つの意味があるが、もともとあった①の意味が主に使われている。いましめる意は、敬を音符に含む字に表れる。
 この二股飾りの人は古代より中国西北部に住む羌キョウ族であるとする説[字統]もある。この文字は敬う意がある一方で、いましめる意もあり、この民族がたどった複雑な歴史を反映しているのかも知れない。
意味 (1)うやまう(敬う)。「尊敬ソンケイ」「敬語ケイゴ」「敬意ケイイ」「愛敬アイキョウ」(①いつくしみ敬う。アイギョウともいう。②可愛らしい) (2)つつしむ。「敬白ケイハク・ケイビャク」(つつしんで申し上げる)「敬弔ケイチョウ」(つつしんでとむらう)

イメージ 
 「うやまう」
(敬)
 敬っている人を打って「いましめる」(警・驚・檠)
音の変化  ケイ:敬・警・檠  キョウ:驚 
  
いましめる
 ケイ・いましめる  言部
解字 「言(ことば)+敬(いましめる)」の会意形声。言葉で注意して戒めること。
意味 (1)いましめる(警める)。さとす。注意する。「警告ケイコク」「警世ケイセイ」 (2)まもる。そなえる。「警戒ケイカイ」「警護ケイゴ」 (3)すばやい。すぐれた。「警句ケイク」 (4)警察・警官。「県警ケンケイ」「府警フケイ
 キョウ・おどろく・おどろかす  馬部
解字 「馬(うま)+敬(打っていましめる)」の会意形声。馬を打っていましめると、びっくりして飛びあがること。敏感な動物である馬に例えて文字を作った。
意味 (1)おどろく(驚く)。おどろかす。「驚愕キョウガク」(非常に驚く。愕も驚く意)「驚異キョウイ」(異常な驚き) (2)すばやい。はげしい。「驚波キョウハ」(すばやく襲ってくる荒波)
 ケイ・ゆだめ  木部
 
①弓を矯める作業(中国)      ②ゆだめをした弓弩
解字 「木(き)+敬(いましめる)」の会意形声。中国では弓の主要部である弓幹(ゆがら)は、ほとんど木製(柘つげ・カシなど)である。弓のかたちを作るため弓幹となる木を曲げる(いましめる)こと。①は弓の製作工程で弓幹を曲げる作業。鞍掛のような台に角片を置き、弓の一方を革などで固定してたわめてから、あらかじめ曲がっている檠(ゆだめ)とともに縄で固定している。②は弓弩キュウドに付けられた檠(ゆだめ)で、秦の兵馬俑坑の発掘中に見つかったものの図示。この解説によると、弓弩は使用した後、檠(ゆだめ)をして保存しないと弓幹が伸びてしまうため、二つの角材を両側にあてがい、材に空けた左右の穴から紐を通して固定し、隙間に角片を入れて曲がりを調整し、中央の穴に通した紐で固定する。使用するときは檠をはずして使う。また、檠ケイは燭台の意味にも使われるが、「ゆだめ」との関連は明らかでない。
意味 (1)ゆだめ(檠)。ためぎ。弓幹をまげること。また、その道具。「弓は檠ゆだめを待ち而のち能く調ととのう」(淮南子·脩務)「檠榜ケイボウ」(ゆだめ。檠も榜も、ゆだめの意) (2)ともしびたて。燭台。台木の上(または途中)に油皿をおき、中にいれた灯芯で火を灯す。「灯檠トウケイ」「短檠タンケイ」「長檠チョウケイ」『貞丈雑記』(1843年刊)に「短檠と云(いう)は燈台の短きを云也、長きをば長檠と云、総名をば燈檠と云、燈台の事也」とある。
茶道具の短檠(通販サイトから)
<紫色は常用漢字>
引用文献① www.fcys.cn/zgfcys/vip_doc/18315809.html
引用文献② 百度(中国検索サイト)⇒檠⇒图片

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