この字の起源については、匙(さじ)の象形とする説や、ナイフとする説がある。私はナイフ説だったが、落合氏の「昏コンの一部から派生した」とする説[漢字字形史字典]に共感を覚えるので、この説で解説したい。
氏 シ・うじ 氏部
上段が昏コン、下段が氏シ
解字 上段・昏コンの甲骨文字第1字は、「人が前かがみになった形+日(太陽)」で、太陽が人のかがんだ形よりも低い位置にあり、日暮れの頃を表す。第2字は人の腕の先に横線(手)をつけた形で、これが後の氏にあたる[甲骨文字辞典]。篆文から第2字が変化した「氏+日」の昏になった。音符「昏コン」を参照。
一方、下段の氏シは甲骨文字では単独の形はない。カッコ内は昏から日を省いた形を参考のため掲載した。金文で人の腕の手が肥点になり、篆文で肥点⇒横線になり、現代字で氏となった。氏は人が前屈みになった状態であり、金文に「示(祭壇=神)+氏(前屈みになった人)」の祇ギ(祭祀の意)があることから、祭祀の執行者である代表者の呼称⇒氏族全体の意味、という形で「うじ(氏)」の意が成立したものと思われる。
意味 (1)うじ(氏)。みょう字。姓。同じ血族の集団。「氏族シゾク」「氏名シメイ」 (2)神社の共同体の仲間。「氏子うじこ」 (3)姓名の下に添える敬称。「山田氏やまだシ」
イメージ
「氏族」(氏・祇)
「形声字」(紙・舐)
音の変化 シ:氏・紙・舐 ギ:祇
氏族
祇 ギ 示部
解字 「示(祭壇=神)+氏(氏族)」の会意形声。氏族が信仰する神の意。土地の神、さらに天の神に対して国つ神の意となる。
意味 (1)くにつかみ(祇)。土地の神。「天神地祇テンジンチギ」(天つ神と国つ神。すべての神=神祇ジンギ)「大山祇神おおやまつみのかみ」(記紀神話に登場する山の神) (2)梵語の音訳字。「祇園ギオン」(①昔、釈迦の為に建てられた寺。②京都の八坂神社及びその付近)「祇園祭ギオンまつり」(京都・八坂神社の祭礼)
形声字
紙 シ・かみ 糸部
解字 「糸(いと状のもの)+氏(シ)」 の形声。後漢の「説文解字」は「絮ジョ一苫セン也。从糸氏聲」とする。「絮の一苫なり」とは「絮(古いわた)を水中に溶かして苫セン(稲わら・茅かやなどを簾すだれのよう編んだもので、ここでは簀すの意)で一度漉したもの(今の紙漉き)」であり、「从糸氏聲」とは「糸に从(したが)い氏シの声、つまり糸のたぐいのシという発音の字」という意味である。氏は発音を表しているだけ。糸と氏という単純な構成で「かみ(紙)」を表した。
後漢書は「蔡倫サイリンは樹皮を用い、麻くずや敝布ヘイフ(ぼろ布)・魚網を以て紙と為す。元興元年(105年)之を(皇帝に)奏上する。是(これ)自(よ)り用い従わ不(ざる)莫(な)し。天下咸(みな)蔡侯紙と称する。」と宦官の蔡倫が、「蔡侯紙」(蔡侯が作った紙)と呼ばれた実用的な紙の製造普及に多大な貢献をした人物と称賛している。
意味 かみ(紙)。「和紙ワシ」「洋紙ヨウシ」「紙幣シヘイ」「紙背シハイ」(紙のうら)「紙幅シフク」(紙のはば。定められた原稿用紙の分量)
舐 シ・なめる・ねぶる 舌部
解字 「舌(した)+氏(シ)」 の形声。シは異体字の䑛シ(なめる)に通じ、なめる意。䑛シは「舌(した)+氐テイ(ふれる)」 の会意。氐テイは人が身をかがめて地面に手をふれる意。そこに舌(した)がついた䑛シは、舌でふれる⇒なめる意となる。䑛は会意で発音はシとなる。氐テイの音符に砥シ・祗シがある。※味わう意の「なめる」は、「嘗める」を使う。
意味 なめる(舐める)。ねぶる(舐る)。「舐筆シヒツ」(筆をなめる)「舐犢シトク」(親牛が子牛をなめる。犢トクは子牛)「舐犢之愛」(親牛が子牛をなめるように親が子を深くかわいがりすぎること)
<紫色は常用漢字>
バックナンバーの検索方法
※一般の検索サイト(グーグル・ヤフーなど)で、「漢字の音符」と入れてから、調べたい漢字1字を入力して検索すると、その漢字の音符ページが上位で表示されます。
氏 シ・うじ 氏部
上段が昏コン、下段が氏シ
解字 上段・昏コンの甲骨文字第1字は、「人が前かがみになった形+日(太陽)」で、太陽が人のかがんだ形よりも低い位置にあり、日暮れの頃を表す。第2字は人の腕の先に横線(手)をつけた形で、これが後の氏にあたる[甲骨文字辞典]。篆文から第2字が変化した「氏+日」の昏になった。音符「昏コン」を参照。
一方、下段の氏シは甲骨文字では単独の形はない。カッコ内は昏から日を省いた形を参考のため掲載した。金文で人の腕の手が肥点になり、篆文で肥点⇒横線になり、現代字で氏となった。氏は人が前屈みになった状態であり、金文に「示(祭壇=神)+氏(前屈みになった人)」の祇ギ(祭祀の意)があることから、祭祀の執行者である代表者の呼称⇒氏族全体の意味、という形で「うじ(氏)」の意が成立したものと思われる。
意味 (1)うじ(氏)。みょう字。姓。同じ血族の集団。「氏族シゾク」「氏名シメイ」 (2)神社の共同体の仲間。「氏子うじこ」 (3)姓名の下に添える敬称。「山田氏やまだシ」
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「氏族」(氏・祇)
「形声字」(紙・舐)
音の変化 シ:氏・紙・舐 ギ:祇
氏族
祇 ギ 示部
解字 「示(祭壇=神)+氏(氏族)」の会意形声。氏族が信仰する神の意。土地の神、さらに天の神に対して国つ神の意となる。
意味 (1)くにつかみ(祇)。土地の神。「天神地祇テンジンチギ」(天つ神と国つ神。すべての神=神祇ジンギ)「大山祇神おおやまつみのかみ」(記紀神話に登場する山の神) (2)梵語の音訳字。「祇園ギオン」(①昔、釈迦の為に建てられた寺。②京都の八坂神社及びその付近)「祇園祭ギオンまつり」(京都・八坂神社の祭礼)
形声字
紙 シ・かみ 糸部
解字 「糸(いと状のもの)+氏(シ)」 の形声。後漢の「説文解字」は「絮ジョ一苫セン也。从糸氏聲」とする。「絮の一苫なり」とは「絮(古いわた)を水中に溶かして苫セン(稲わら・茅かやなどを簾すだれのよう編んだもので、ここでは簀すの意)で一度漉したもの(今の紙漉き)」であり、「从糸氏聲」とは「糸に从(したが)い氏シの声、つまり糸のたぐいのシという発音の字」という意味である。氏は発音を表しているだけ。糸と氏という単純な構成で「かみ(紙)」を表した。
後漢書は「蔡倫サイリンは樹皮を用い、麻くずや敝布ヘイフ(ぼろ布)・魚網を以て紙と為す。元興元年(105年)之を(皇帝に)奏上する。是(これ)自(よ)り用い従わ不(ざる)莫(な)し。天下咸(みな)蔡侯紙と称する。」と宦官の蔡倫が、「蔡侯紙」(蔡侯が作った紙)と呼ばれた実用的な紙の製造普及に多大な貢献をした人物と称賛している。
意味 かみ(紙)。「和紙ワシ」「洋紙ヨウシ」「紙幣シヘイ」「紙背シハイ」(紙のうら)「紙幅シフク」(紙のはば。定められた原稿用紙の分量)
舐 シ・なめる・ねぶる 舌部
解字 「舌(した)+氏(シ)」 の形声。シは異体字の䑛シ(なめる)に通じ、なめる意。䑛シは「舌(した)+氐テイ(ふれる)」 の会意。氐テイは人が身をかがめて地面に手をふれる意。そこに舌(した)がついた䑛シは、舌でふれる⇒なめる意となる。䑛は会意で発音はシとなる。氐テイの音符に砥シ・祗シがある。※味わう意の「なめる」は、「嘗める」を使う。
意味 なめる(舐める)。ねぶる(舐る)。「舐筆シヒツ」(筆をなめる)「舐犢シトク」(親牛が子牛をなめる。犢トクは子牛)「舐犢之愛」(親牛が子牛をなめるように親が子を深くかわいがりすぎること)
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