その昔、「振られた気持ち」というポピュラーソングがあった。
歌っているのは「ライチャス・ブラザーズ」という白人二人組だったが、いかにも「R&B」風の中身の濃い歌で、ビルボード誌でも1位を取ったくらいだから大ヒットしたといってもいい。
なぜのっけからこんな話を持ち出したかというとつい最近「振られた」のである。いや、女性からではなく相手は真空管アンプだったから一層ショックだった(笑)。
顛末を記してみよう。
別府市内在住のOさんが「6098差動型プッシュプルアンプ」と一緒に「初めまして」と我が家にお見えになったのは6月4日のことだった。
さすがに「差動型プッシュプル」だけあって、パワーも8ワットほどありなかなかの優れものだった。
「ずっとお貸ししていいですよ」との言葉に甘えて鳴らし込んでいたが、ますます気に入るばかり。「差動型」アンプってなかなかいいなあ!
折りしも、北国の真空管博士からも次のようなメッセージが届いた。
「差動アンプについて簡単に解説してみます。 私自身理系の学校を出ていないので正確でないかもしれませんが、かえって理系でない人間が解説した方が理系ではない人には分かりやすいかもしれませんので。
ここでは出力段についてのみ解説します。 回路的にはプッシュプルアンプ(以下PPアンプ)と非常に似ているのですがその動作は全く異なります。 2本の球がそれぞれプッシュとプルの動作をするところのみ同じですがそれ以外は見事なまでに異なります。
PPアンプ=対アース増幅回路 差動アンプ=平衡増幅回路 対アース増幅回路とは、入力がグリッドとアースまたは電源の間に加えられプレートとアースまたは電源の間に出力されます。
平衡増幅回路とは、入力がグリッドとグリッドの間に加えられプレートとプレートの間に出力されます。
PPアンプはそれぞれの球が勝手にプッシュとプルの動作を行い出力トランス(以下OPT)でプッシュとプルの信号を合成して出力されます。
PPアンプのOPTは信号の合成とインピーダンス変換の二つの動作を行うことになります。
差動アンプでは2本の球がプッシュとプルを共同作業で行い既に合成された信号がOPTを経由して出力されます。 差動アンプのOPTはインピーダンス変換のみを行うことになります。
PPアンプは信号がアースや電源を通してバイパスされるため電源からのノイズ流入やクロストークの悪化が避けられません。 差動アンプは信号がアースや電源を通過することがないため電源からのノイズの流入やクロストークの悪化がありません。
差動アンプは従来のPPアンプが持つ欠点が良く取り除かれた増幅回路といえそうです。」
自分のような素人に”おいそれ”とは理解できそうもない内容だが、従来のPPにはない優れた回路であることは分かった。
ますます「惚の字」になったので、つい先日Oさんが我が家にお見えになったときに「譲るとしたらいくらぐらいをお考えですか」と、そ~っと打診してみた(笑)。
すると「このアンプには思い出があってフィリピンに移住したときも高い送料を使って連れて行ったくらいです。したがってお譲りする気はありません。」
あれ~っ、ショック!
しかし気持ちの切り替えは早い方だと自認している(笑)。
たとえば振られたときにストーカーまがいの行動をするのは世の顰蹙を買うだけだが、一面その情熱に対してだけは見習うべきところもあるような気がしている。
その点、自分はどうもアッサリしすぎているようで、「な~に、それほど追い掛け回すほどのこともないさ」というのがいつものパターン(笑)。
そういうわけで「ああ、そうですか。それは仕方がないですね。真空管は消耗品ですからずっとお預かりして鳴らすわけにもいきませんのでここでお返ししましょう。」
と、きっぱり未練を断ち切った。
しかし、今となってみるとほんとに「いい音」だったなあ(笑)。
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