「世の中には二種類の人間がいます。カラ兄を読んだことのある人と読んだことのない人です。」
「ひとつ、村上さんでやってみるか」(2006年)を読んでいたら、79頁にあったのがこの言葉。著者は村上春樹さん。
ちなみに「カラ兄」とは「カラマーゾフの兄弟」(ドストエフスキー)のこと。
印象に残ったので、引用してみたわけだが「カラ兄」を読むと人生観が変わるという話をよく聞く。
「将来、カラ兄のような長編小説を書きたい。」というのが村上さんの願望だそうだ。
実は以前、娘から「お父さんも読んだ方がいいわよ」と、「カラ兄」(岩波文庫版、全4冊)を受け取ったものの、いまだに部屋の片隅にツンドク状態になっている。
何せブログの更新が忙しくてね~(笑)。
それに、もうこの歳になって人生観が変わっても仕方がないし、ま、(ブログを)卒業した暁には、ひとつ腰を据えて読んでみようかな。
さて、文学の最高峰は衆目の一致するところ「カラ兄」で決まりのようだが、クラシック音楽の最高峰は何だろうか?
あれやこれや言ってみても、クラシック音楽を山にたとえると、登りやすい足場を築いたバッハに始まってモ-ツァルトという頂上を経てベートーヴェンという広大な裾野で終わるようなものかな(笑)。
で、真っ先に浮かぶのは「マタイ受難曲」(バッハ)だろうが、個人的に思い入れが強いのはオペラ「魔笛」(モーツァルト)である。
短い35年の生涯のうち600曲以上もの膨大な作曲を手がけたモーツァルトだが、その中でも深い感動に満ち溢れたハイテンションの感覚を味わうには何といっても魔笛に指を屈する。
40年以上にわたってひたすらモーツァルトを聴き込んできた専門家(自分のこと)が言うのだからこれは間違いない(笑)。
さしずめ、冒頭の言葉をもじると「クラシックファンには二種類の人間がいます。魔笛を好きになる人と、そうでない人です。」
心強いのは(魔笛には)強力な応援団がいることで、けっして孤軍奮闘ではないのだ。
かの畏れ多きベートーヴェンはモーツァルトの最高傑作は「魔笛」だとして、のちに「魔笛の主題による12の変奏曲」を作って献呈しているし、音楽とオーディオの鬼「五味康祐」さん(故人、作家)だって個人的に好きな曲目のランキングで堂々とベスト1に挙げられている。
どうやら玄人筋に評判がいいようだ。そりゃそうでしょう、2時間半に亘る長大なオペラなので、いかに幾多の名唱に恵まれているとはいえ、ずっと聴き通すのに根気がいるのはたしかで初めて聴く人にはちょっと敷居が高すぎる。
それに真正面から「さあ、聴いてやるぞ」と意気込んで向かい合うと空振りになること請け合い。
“ながら族”で聴いているうちに、何となくメロディが耳に焼き付き、そしてだんだん深みにはまっていく。そして最後はもう魔笛を聴かないと夜も日も明けない、このパターンが一番自然だ。
「クラシックという広大な森に分け入ったからには魔笛を好きにならないと大損をしますよ。」と、声を大にして叫んでおこう。この曲の中にはモーツァルトが最後に到達した「澄み切った青空のような透明な世界」があるとだけ言っておこう。
とはいえ実際に試聴するのはこのところ年に1~2回に留まっている。若い頃から魔笛に淫してしまいCD、CDライブ、DVDなど、もっといい演奏はないものかと、とうとう45セットほど買い集めて(おそらく日本一のコレクションだと思う!)聴きまくってきたので、耳が倦んでいる面もある。いかなる名曲でも聴き過ぎると敬遠気味になるのは音楽ファンなら先刻ご承知のとおり。
そしてつい先日、魔笛を久しぶりに堪能した。衛星放送のクラシック専門番組「クラシカジャパン」(637チャンネル)による放映を録画したもので指揮はアーノンクール(オーストリア:1929~2016)。
これは2012年ザルツブルグ音楽祭の出し物で非常にユニークな演出で大きな話題となったもの。
アーノンクールといえば「古楽器演奏に固執する個性派」として知られ、異端のイメージが抜けきれないが、今や巨匠の名をほしいままにしていると言っていいだろう。
実はこれまでイマイチだと思っていたのだが、この魔笛は別で違和感なく溶け込めた。歌手たちも若手が主体でまったく名前を知らない歌手ばかりだったが、たいへんな熱演で力量不足を感じなかった。
しかし、「アーノンクールはこんなに“まとも”だったかな?」と疑問を覚えたので、1987年に録音した手元の魔笛(CD盤)を改めて聴いてみた。
144分間ずっと耳を傾けたがあまりにも立派な演奏に胸を打たれた。歌手たちもグルヴェローヴァをはじめ超一流ばかり。
アーノンクールは当時とまったく変わっていない。過ぎ去っていく時間の中で自分だけが“置いてきぼり”をくった感じ。自分はいったい何を聴いていたんだろう?
もしかして、当時に比べてオーディオシステムを一新したせいかな~(笑)。
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