「音楽&オーディオ」の小部屋

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音楽談義~愛聴盤への信頼性~

2008年02月18日 | 音楽談義

これまで「愛聴盤紹介コーナー」などでいろんなCD盤を聴き比べて勝手気ままにいいの悪いのと遠慮なく評価してきたが、いくらブログの世界とはいえあまり見当ハズレのことを言ってはまずいという良心はもちろん持ち合わせているつもり。

まず、演奏の良し悪しと好き嫌いを混同しないように心がけているが、たとえば、自分が貶した盤が他の高名な音楽評論家や音楽好きの作家から名盤だとされていた場合、自分の鑑賞力が正しいかどうか少しばかり立ち止まって考えざるを得ないのは当然のこと。信念があれば八方破れの発言もときには許されるのだろうが、常に自分の
ものさしが普遍的なものかどうか客観的に見る目はやはり必要だと思う。

そういう中で最近自分の鑑賞力がまともかどうかを推し測るちょうどいい本に出会った。中国古典を題材とする作家・宮城谷昌光氏の「クラシック私だけの名曲1001曲」(2003・7・30、新潮社刊)である。

何しろ1001曲もの作品を試聴して感想を書いた本なので1020頁にも及ぶ分厚い本だが、「序」を読んでみると、
CD6000枚を所有しその中から選り分けて1年半を費やして出来上がった本だという。かなり作曲家の好き嫌いが極端な方のようで皆が好むモーツァルトの曲が一つも入っていないのがユニークなところ。

「クラシック入門書のつもりでは書かず、ひととおり名曲を聴いたあとに、クラシック音楽から離れてしまった人に読んでもらいたい。クラシック音楽は奥が深く、いわゆる名曲を聴いただけでは門をたたいたにすぎず、門内に入ったわけではない。」との著者の言がある。

さて、本書の内容だが、試聴結果の記載のスタイルが自分のブログ「愛聴盤紹介コーナー」と同様に同曲異種の盤をいくつか聴いて、最終的に「私だけの名曲」として気に入ったCD盤を紹介していくやり方。

なお、宮城谷さんの「私だけの名曲」、そして自分の「愛聴盤」という表現は
「あくまでも自分の好み」ということであって他人に強制しない意味が込められているのは既にお察しのとおり。

1001曲もあれば当然、中には自分が「愛聴盤紹介コーナー」で取り上げた曲とダブりの曲がある。調べてみると「田園」「ピアノソナタ32番」「ブラームスヴァイオリン協奏曲」そして「アルルの女」の4曲だった。これはチャンス、宮城谷さんと比べるいい機会。

とにかくCD6000枚を聴き分けた宮城谷さんの鑑賞力がトップ・レベルなのは間違いあるまい。その宮城谷さんと自分を並べるのは大変おこがましいが、身分に違いはあれ音楽鑑賞に垣根はないと思う。失礼を承知で以下のとおり4つの曲目をピックアップして比較させてもらった。

☆ベートーヴェン「交響曲第六番田園」

宮城谷さんの名曲:ブルーノ・ワルター指揮 コロンビア交響楽団

この曲にある明るさは田園の光だけでなく、精神の不屈の光である。そういう具象性と抽象性を見事に描ききったのはワルター盤しかない。この盤と他の盤とは隔絶している。
比較した盤 → トスカニーニ盤、ベーム盤。

自分の愛聴盤:マリナー指揮 アカデミー室内管弦楽団

マリナー盤とワルター盤が双璧。マリナー盤は「正統派で感動に満ちた田園」。一方ワルター盤は「自然への感謝を素直に表現した名演」。オーケストラの比較、音質の良さをとってマリナー盤に軍配。
比較した盤 → ワルター、フルトヴェングラー、クレンペラー、ブロムシュテット、イッセルシュテット、ハイティンク、ケーゲル、ジュリーニ(2種類)、ジンマン盤計10セット

☆ベートヴェン「ピアノソナタ32番」

宮城谷さんの名曲:ピアニスト「ウィルヘルム・バックハウス」

不思議な重みがある曲で澄んだ美しさと力強さ、それに回想的なやさしさも包含されている。バックハウスのピアノを聴いているとこの曲は良否を超越したところにあると思われてきた。作為をほとんど感じられないのも不思議で、要するにベートヴェンの存在だけを感じている。恐るべき演奏である。
比較した盤 → ベレンデル、ブッフビンダー、キンダーマン、ポミエ、ハイドシェック、ウゴルスキ

自分の愛聴盤:ピアニスト「ウィルヘルム・バックハウス」

演奏の流れが実に自然で、しかも豪気かつ端正で力感が漂っており、それでいて不思議なくらい安らぎが感じとれる。まるで演奏という行為が無となって音楽を通じてベートヴェンと会話しているような気になる。
比較した盤 → アラウ、グールド、リヒテル、ミケランジェリ、内田光子、ブレンデル、ケンプ

☆ブラームス「ヴァイオリン協奏曲」

宮城谷さんの名曲:ヴァイオリニスト「ジネット・ヌヴー(イッセルシュテット指揮)」

この曲に関しては、ヌヴー盤とオイストラフ盤を聴かずして語るなかれといわれている。そこから入り、そこに還る、というのが名盤であるが、この両盤がそれにふさわしいというのである。まず手もとにオイストラフ盤が二つある。クレンペラー指揮とセル指揮のものだが、比較すると前者の方がよい。艶の点で優り,みずみずしさを感じる。ヌヴー盤はイッセルシュテット指揮のものでこの演奏は永遠に人気を保つような気がする。情熱のほとばしりを感じる。オイストラフとの比較ではヌヴー盤を上とする。
比較した盤 → オイストラフ(2セット)、フランチェスカッティ、ハイフェッツ(2セット)

自分の愛聴盤:ヴァオリニスト「ジネット・ヌヴー(イッセルシュテット指揮)」

まずオイストラフは手もとにある6セットを試聴して、その結果1955年のコンヴィチュニー指揮のものを選定。次に、その盤とヌヴー盤とを比較。その結果を一言でいえば、ヌヴーは剛、オイストラフは柔。ヌヴーは力強く盛り上がり感も十分、それでいて抒情性が漂う。オイストラフは”やわすぎる”し、「美しさが先走ってしまい音楽が表層に留まっている」。明らかにヌヴーが上。
比較した盤 → オイストラフ(6セット)

☆ビゼー「アルルの女」

宮城谷さんの名曲:マルケヴィッチ指揮 コンセール・ラムルー管弦楽団
クリュイタンス、レーグナー、ビーチャム、マルケヴィッチの4つの盤が名演。すべてを買い揃えるべきだ。今の私はマルケヴィッチ盤ばかり聴いているので正直にそれを挙げた。

自分の愛聴盤:マルケヴィッチ指揮 コンセール・ラムルー管弦楽団
キビキビして歯切れがよく爽快な印象を受ける。指揮者のリズム感が良く反映されている中で(南フランスの牧歌的な)抒情性も十分感じとれる。
比較した盤 → クリュイタンス、オーマンディ

以上ダブリの4つの曲目すべてについて比較したが、そのうち3曲についての愛聴盤が何と完全に一致、違ったのは「田園」だけだが、それでも自分はワルター指揮を2番手にしていたので当たらずといえども遠からず。

もちろんすべて有名な曲目であり定評ある名盤なので一致しない方がおかしい気もするが、結構、自分の愛聴盤があまり偏っていないのが分かってひと安心。

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