ここ数年、大きな災害や事故が起こると「想定外」という言葉をよく聞きます。大きなトラブルを起こした組織のトップが好んで使っています。また、組織が大きいほど「想定外」が使われることが多いように思います。
国や大企業は、組織を船に例えるならば巨大タンカーのようなものです。急に方向を変えたり止まったりすることはできません。大きな事故や不祥事につながるリスクが見つかっても、すぐには改善できないというわけです。
では、想定外という言葉は「想定すべきことはきちんと想定していたので、そこまで責任は負えない」という言い訳として使えるのでしょうか。
「ナイト流の不確実性」という言葉をはじめて聞いたとき、面白い言い方だなあと思いました。
フランク・ナイト(1885年- 1972年)はアメリカの経済学者です。ナイトは、確率によって予測できる「リスク」と、それができない「不確実性」とを区別しました。リスクは確率的・統計的にその大きさが推測できます。したがって、その大きさに見合った保険(損害保険)をかけることができます。しかし、「不確実性」はそれができません。
良い例を思いつかないのですが、たとえば・・・日本の遊園地でバンジージャンプをするときは、料金に保険料が含まれています(リスク)。しかし、私が手作りで完成させたバンジージャンプに保険を付けてくれる会社はないでしょう(不確実性)。
組織のトップが「想定外」と言ったのは、まさに保険がかけられないほどの異常事態が生じたという弁明だったのです。
しかしそれでは「組織のトップは保険が効く範囲で責任を取れば良い」ということになります。
大企業ならばそうした「弁明」がまかり通るのかもしれませんが、中小企業ではそうはいきません。中小企業の経営者は、「リスク」であろうが「不確実性」であろうが、すべての責任を負うことになります。
組織の大小にかかわらず、経営者はリスクだけではなく不確実性も考慮すべきではないでしょうか。
(人材育成社)