中小企業のための「社員が辞めない」会社作り

社員99人以下の会社の人材育成に役立つ情報を発信しています。

「燃えよドラゴン」はOJTには向かない

2013年09月20日 | コンサルティング

OJT(On the Job Training)とは人材育成の手段のひとつで、職場の上司や先輩が部下や後輩に仕事を通じて知識・技能・態度などを意図的、計画的、継続的に指導することです。

OJTはほとんどの企業で実施されており、新人の頃にOJTを経験された方も多いと思います。

「誰もが知っているOJT」ですが、正しい定義を分かっている人は意外と少ないようです。

特に「意図的、計画的、継続的に指導すること」がきちんと実践できていないと、トレーニングとしての効果は半減してしまいます。いや、この3点が押さえられていないものはOJTではないとさえ言えます。

問題は、組織の中で「意図、計画、継続」がどれだけ具体的に文書化されているかです。多くの企業では、OJTマニュアルがあっても内容が古かったり、抜けがあったりすることがよくあります。他のマニュアルと違って一度作ったら改訂されず、そのまま放置されてしまうことが多いからでしょう。

さて、私が新卒で入った会社でOJTを受けていた頃の話です。

その頃のOJTはまさには「師匠と弟子」という感じでした。

先輩の仕事を見てそれと同じことをする、上手く行かない、もう一度やる、少しできるようになる、もう一度やる・・・その繰り返しでした。習うより慣れろで、教える側にも、教えられる側にもマニュアルはありませんでした。

まさに次の「燃えよドラゴン」の一節のような感じです。 

Don't think! Feeeel! (考えるな! 感じろぉぉぉ・・・!)※

今思えば合理的ではありませんでしたが、確かに「身に付いた」感はありました。

しかし、今ドラゴン流OJTを行うことは不可能です。

なぜなら、現代の職場にはブルース・リーのような高度な技を持ち、優れた指導ができる人材はほとんどいないからです。仮にいたとしても、そういう人は極めて忙しいのが普通です。

もしOJTトレーナーに指名されたら、自分一人で後輩を育てようなどと思ってはいけません。会社中の人を巻き込んで「寄ってたかって育てる」ためにできることを行うべきです。

http://www.youtube.com/watch?v=2d5o8d1kitM

(人材育成社)


3万円の投資だけではもったいない

2013年09月19日 | コンサルティング

産労総合研究所の調査によると、2011年度の従業員1人当たり教育研修費用の平均額は32,034円、1,000人以上の企業で43,063円だったそうです※。

一方、子供のいる1世帯あたりの教育費が学校の授業料や塾の月謝などで年間100万円、もしも理系の私立大学に行かせたら授業料だけで年間150万円はかかります。

・・・はっきりと言わせていただきます。企業の1人当たりの教育研修費が年間3~4万円というのはあまりにも少な過ぎます。家庭の教育費と比べれば「誤差」に過ぎません。

将来に向けての投資という意味では、家庭の教育費も企業の教育研修費も同じだと思います

人に対する投資は、実を結ぶまでに長い時間がかかりますが、必ず他の投資よりも大きなリターンをもたらします。

なぜなら、人に対する投資は機械設備や金融商品の購入と違って、社員の「内発的動機づけ」すなわちモチベーションをアップさせることにつながるからです。

そう考えれば、わずか3万円だけではもったいないと思いませんか?

※ http://www.e-sanro.net/sri/news/pr_1210-2/

(人材育成社)

 


「人材育成」って上から目線?

2013年09月18日 | コンサルティング

先日、ある大手企業(業界No.1)の人事部長さんが書かれた管理職研修に関する記事を読んでいて「おや?」と思ったことがあります。

その方がおっしゃるには、「人材育成という表現は上から目線でおこがましい気がする。人は自ら成長するものだから、伸びやすい環境を作り、見守ることが最も大事」だそうです。

そして、その会社で行った幹部社員研修では、「社長を含む役員たちと次世代のエースとなる管理職十数名が軽井沢のホテルに泊まり込んで会社の将来について率直に話し合った。人材育成とはこうあるべき」とのこと。

しかし、同じような研修を中小企業でおこなっても上手くいかないと断言できます。

企業のトップ(社長)と平均的な従業員の能力の差は、大企業においてはそう大きくはありません。一方、中小企業では極端に大きな差があるのが普通です。

社員が1万人を超す大手企業なら、仮に明日社長が亡くなってもすぐに代わりの人材がその座につきます。ほとんど問題は生じないでしょう。

しかし、従業員が100名の企業でトップが急に亡くなったら・・・

ある中小企業の社長はこうおっしゃっています。

「うちみたいな小さな会社の人材育成は大手のまねはできない。ごく普通の人材を鍛えに鍛えてようやく使えるようになるんだ。」

「人材育成は小さな会社にとって死活問題だ。上から目線と言われようが、とにかく早く一人前になってくれないと困る。」

私も全くその通りだと思いました。

(人材育成社)

 


TUIT!

2013年09月17日 | コンサルティング

この画像はTUITと書かれた丸いコースターのようなものです。一体何に使うものかお分かりでしょうか。

はじめてTUITを目にしたのは、「Building Team Power: How to Unleash the Collaborative Genius of Teams for Increased Engagement, Productivity, and Results(Thomas Kayser, McGraw-Hill, 2010)」 という本を読んでいたときのことです。

「あとがき」にあたるページにTUIT!と書かれた丸い絵が載っていました。そこに書かれていた解説を読むと「ぐうたらな部下にこのTUITを渡しなさい」と書いてありました。

意味を確かめるためにネットで調べたのですが、日本語で書かれたものは見つかりませんでした。

そこで英語のWebページから引用した以下の文章を解説させていただきます。

My boss had one. It was a round wooden disc that had the word TUIT printed on both sides. Whenever I would say "I just can't seem to get around to it" about a chore or something he wanted me to do, he would hand me this disc and say "now you have a round tuit - go and do it!"

around to it = a round TUIT

・・・ということです。意訳(超訳?)すれば・・・

私が上司から雑用っぽい仕事や何かを頼まれたとき、「いま、それをやる暇がないので・・」と言って断ろうとすると、いつも上司はこの丸いTUITを渡して「ほら、暇ができたぞ。さっさとやれ!」と言うのでした。

around to it :それをやる暇(機会)と、a round TUIT:丸いTUITが同じ発音なので、TUITを相手に渡せば「you have a round tuit(around to it )」暇ができたと、という意味になるわけです。TUITという言葉自体には意味がありません。駄じゃれですね。

弊社では管理職研修の最後に、受講者全員にこのTUITコースター(非売品)をプレゼントする予定です。

皆さんも、言い訳をしてなかなか仕事に取りかかろうとしない部下がいたらこのTUITを渡してください。

・・・効果のほどは・・・不明ですが。

(人材育成社)

 


スローラーナー(Slow learner)

2013年09月16日 | コンサルティング

スローラーナー(Slow learner)とは、学ぶのが遅い人という意味です。ファストラーナー(Fast learner)のように、飲み込みが早く要領の良いタイプとは正反対です。そのため、成果が出るまで平均的な人より時間がかかってしまいます。

それでもスローラーナーはマイペースでコツコツ学び続けることができます。勉強したことを着実に積み上げていくので、いつの間にかファストラーナーを追い抜くこともあります。「ウサギと亀」のようですね。

スローラーナーの特徴をみてわかると思いますが、競争的な状況や短期集中型の課題には向いていません。

企業における人事評価はどちらかといえばファストラーナーに有利です。特に最近は「今すぐ」結果を出せる人を企業が求める傾向にあるからです。

したがって、企業研修に対しても「短時間で身に付いて、すぐに使えるスキル」を要求します。コミュニケーションやロジカルシンキングといった技法指向の研修はもちろん、問題発見・課題解決といった本来は積み上げていくことでしか身に付かないテーマに対しても「すぐに使える」ことが求められています。まさにファストラーニングですね!

その結果、研修では「テンプレート」のような一種の解法パターンを練習して時間切れになってしまいます。そして、職場に戻ってからそれを実行することになります。

結論から言えば、目先の問題の半分くらいは上手く片付きます。研修の成果としては上出来かもしれません。

しかし、それでは組織の根っこに横たわるやっかいで本質的な問題には歯が立ちません。

そうしたやっかいな問題に直面すると「それはすぐに結論が出ない問題だから」、「他の部署まで巻き込むのは難しいから」、「前任者が時間を使って苦労したけどダメだったから」・・・といった言い訳を正当化してしまうことになりかねません。

目先の仕事に振り回されず、時間と手間のかかる問題にじっくり取り組んで組織を変えていくことができる人間=スローラーナーこそ、いま最も必要とされている人材ではないでしょうか。

(人材育成社)


ブラックスワンは近くにいる

2013年09月15日 | コンサルティング

ブラックスワンといっても映画の話ではありません。ブラックスワン(黒い白鳥)は、オーストラリアに生息するコクチョウという鳥です。ハクチョウ属ですから、色が黒いという以外は白鳥と同じです。

むかし英語には、無駄な努力のことを指して「黒い白鳥を探すようなもの」という表現があったそうです。転じて、あり得ない事態が起こることを「ブラックスワンが来た」と言うこともあります。17世紀末にコクチョウが発見されたときは皆が「あり得ない!」と驚いたことでしょう。

ブラックスワンは時々私たちの前にも現れます。

1998年にLTCM(Long-Term Capital Management)というヘッジファンド(資金運用会社)が破綻したのも「ブラックスワン」のせいでした。

LTCMは「ドリームチーム」と呼ばれていました。なにしろ取締役にマイロン・ショールズとロバート・マートンというノーベル経済学賞コンビがいたくらいです。そういうわけですから、LTCMには世界中の機関投資家や大金持ちから大量のお金が集まってきました。

ところが運用をはじめて3年後の1997年にアジア通貨危機が起こり、1998年にはロシア財政危機が起こります。ロシアは短期国債の債務不履行を宣言し、LTCMも大打撃を受け、あっという間に破綻してしまいます。

LTCMはロシアが債務不履行を起こす確率は100万年に3回だと計算していたそうです。まさに「ブラックスワン」ですね。

これに似たような確率計算の話、どこかで聞いたことがありませんか。

東日本大震災と福島の原発事故のときも、同じような「確率的にはあり得ないことが起きた。」という言葉が聞かれました。

しかし、起きるときには起きるというのが、現実の姿でした。

確率の話になりますが、私たちの住む世界で起きる様々な事象は概ね「正規分布」に従っています。しかし、分布の両端はどうやら「べき分布」になっているようです。(べき分布については後日書きたいと思っています)

どのあたりから「べき分布」になるのかはよく分かりませんが(3σあたり?)、ブラックスワンが100万年に3回程度しか現れないというのは、あまりにも甘い見方ではないでしょうか。

企業研修では「ポジティブシンキング」が大いに賞賛されていますが、企業で働く人たち全員が安易なポジティブシンキングに染まることは極めて危ういことだと思います。

あなたの会社の中で、ネガティブな考え方をする人がいたらそれは「ブラックスワン」のことをきちんと考えている貴重な人材かもしれません。

(人材育成社)


コミュニケーション研修は高評価

2013年09月14日 | コンサルティング

企業研修の定番のひとつに「コミュニケーション研修」があります。研修の目的は「上司や部下、顧客との意思伝達をスムーズに行う技術を身に付けること」です。多くの会社で実施されているので、「受けたことがある」という方もいらっしゃるでしょう。

さて、その中身ですが、研修会社が違っていてもほとんど変わりません。研修の内容は、傾聴(相手の話をしっかり聴くこと)や質問のテクニックをロールプレイングなどを行って練習することが中心です。新人から中堅社員を対象に行われることが多いようです。

この研修は他のテーマに比べて分かりやすく楽しいことが多いので、受講者の評価も高くなるのが普通です。以下は、ある研修会社がホームページ上で公開している受講者評価です。

内容: 大変理解できた・理解できた:100%
講師: 大変良かった・良かった :100%

全員が「良かった」と答えているわけですが、こうした「4段階評価」に基づく数字にはほとんど意味がないことは、以前このブログでも書きました※。

ビジネスにおけるコミュニケーションとは、伝えるべき相手に正しく伝えることが全てです。こうした「粉飾コミュニケーション」を堂々と行う会社がコミュニケーション研修を実施するというのは自己矛盾もはなはだしいと思います。

もっともこの会社が考える「コミュニケーション」とはその程度のものなのかもしれません。

もしも多くの研修会社が同じように考えているとすれば、研修業界は「コミュニケーション研修」という慢性病によっていつか死んでしまうでしょう。悲観的に過ぎるでしょうか。

※「4段階評価を信用してはならない」

http://blog.goo.ne.jp/jinzaiikuseisha/e/84618dcea38332ad9f43e100c59bea73

(人材育成社)


極私的・経済学論

2013年09月13日 | コンサルティング

昨日のブログ「どうした!経済学部」に何人かの方々からFacebookやメールなどで貴重なコメントをいただきました。そのすべてがネガティブなものでした。もちろん経済学部の存在を否定しているわけではなく、問題点を指摘しているのです。

さて、経済学にはとても思い入れがあるので、私自身の体験を書いてみることにします。以下、つまらない話ですのでご興味のない方は読まずに「いいね」だけクリックしてくださいね。

・・・私が経済学部の学生だったのは1970年代の後半です(’75~’79)。1年生の時はほとんど学校に行かず、美大を目指して今で言う「仮面浪人」のようなことをしていました。そのため、通学時間がかからず勉強が楽な学校・学部に入ろうと選んだのが、自宅から歩いて7分のところにある武蔵大学経済学部でした。

結局美大をあきらめ、2年生から学校に行きはじめました(部活は美術部に入りました)。就職のためには成績も恥ずかしくない程度にはしておこうと、経済学のゼミに入り勉強も始めました。

遅まきながら経済学の本を読んでみたところ、驚きました。なんと、滅茶苦茶面白いのです。

社会現象を馬鹿馬鹿しいほど単純化してモデル化する、その楽天主義というか能天気さにはまってしまいました。授業やゼミでは飽き足らず、自主的な勉強会にも参加するなど受験勉強の10倍くらいは熱心に勉強しました。初歩のミクロを数か月で終わらせ、上級の本を頭を抱えながら読みました。

3年になると厚生経済学から社会的選択理論に興味が移り、図書館でEconometricaを辞書を片手に訳し、Arrowの「不可能性」を回避する二階堂や稲田の論文を(分からないながらも)読んでは痺れたりしました。

4年の夏も過ぎる頃になると就職活動が始まります。’78年、簡単な論文を1本書いて学校のコンテストに投稿し、勉強は終わりました。

さて、経済学は実学かという問いがあります。

「実学」の定義は難しいのですが、「実」の部分を抽象化して考えることはとても学問的な意義があると思います。

リアルな現象を理論化するという点では、経済学は物理学のフレームを借用しています。ただし、経済学は物理学のように理論と現実を上手に接続することができません。

とはいえ、理論としての経済学の基礎をしっかり学べば、その先にある様々な実学としての社会科学に上手く接続することは可能です(というか、接続しなければならないのです)。たとえばミクロの基礎や初歩的なゲーム理論を学んだあとでマーケティングやファイナンスに取り組めば、理論というものがいかに役に立つのかが十分理解できます。

現状ではそうした経済学部の中での接続が上手く行っていないようです。それは、先生方があまりにもタコツボ化した考え方に凝り固まっているからなのではないでしょうか。

学生を鍛える前に先生方をタコツボから引きずり出して鍛えるべきかもしれませんね(・・・ちょっと過激でした)。

(人材育成社)


どうした!経済学部

2013年09月12日 | コンサルティング

ビジネスパーソンの教養といえば、経営学、歴史、英語といったあたりが定番でしょう。ところが最近はビジネス系の雑誌で経済学について解説する記事が目立つようになりました。

それはどうやらアベノミクスの影響のようです。アベノミクスは「安部(首相)のエコノミクス(経済学)」という造語です。安部首相についてはさておき、経済学に注目が集まる理由がわかります。

文部科学省「学校基本調査」(平成23年)によると、大学(学部)に通う学生数は約290万人、そのうちの34.2%は社会科学系の学部に所属しています。社会科学系で最も学生数が多いのは経済学部ですから、いわゆる文系の学生の多くは経済学を学んでいるはずです。

ところが、経済学部出身者に経済学のことを聞いても「なんだかよく分からない」という人が意外と多いことも事実です。工学部や理学部など理系学部は卒業するまでに実験や試験、発表などかなりのノルマが課せられますが、経済学部は極端に言ってしまえば、ほとんど勉強しなくても卒業できてしまいます。

私が講師を担当する財務の研修で、損益分岐点や正味現在価値などを説明してもすぐに理解できるのは経済学部ではなく理系学部出身者です。なにも難しい理論の話をしているわけでもないのに・・・思わず「どうした経済学部」と叫びたくなります。

正直、企業研修を生業としている弊社にとってはかなり困った問題です。

経済学部の先生方、お願いですからもう少し鍛えてから卒業させてください。

(人材育成社)


落書きは芸術か?

2013年09月11日 | コンサルティング

マルセル・デュシャン(Marcel Duchamp、1887年-1968年)はフランス出身の芸術家です。この芸術家をひと言で表現するなら「現代美術の始祖」というのがふさわしいと思います。デュシャンについては書きたいことが山ほどあるのですが、今回はその作品のひとつ「L.H.O.O.Q.」(1919年)を紹介します。

この作品は見てのとおりモナリザにひげを書き加えただけのものです。「L.H.O.O.Q.」はフランス語で続けて読むと、「彼女の尻は熱い (Elle a chaud au cul :彼女は性的に興奮している)」と同じ発音になるらしいです。

アートとしての賛否はさておき、ひげを書くという落書きの基本的(初歩的)行為が芸術になっているところが驚きです。

デュシャンのような冒険的な行為はほとんどの場合大失敗しますが、ときに新しい分野を創り出すこともあります。それは芸術に限らず、学問やビジネスの分野でも同じです。

企業研修という地味で保守的な「業界」でも冒険的な試みに挑戦する人はいないものでしょうか。もちろん弊社はそこまでの度胸はありませんが。

さて、下の画像は芥川龍之介にサングラスを書き加えたものです(作者不詳)。タイトルは「所ジョージ」です。

(人材育成社)