ヴァイオリンという楽器は本体だけでなく、演奏する為に必要ないろんなオプションが装着されています。今回はその中でも『顎当て(あごあて)』に注目してみます。
読んで字の如く、見て写真の如く、演奏中に顎を乗っけておくところです。ところがこの道具、奏者のフィット感や顔の形等で何通りもの種類があります。楽器を左手で操作する都合上、一般的なものは下の写真のように、楽器中心よりやや左に寄ったところに装着します。私もつい最近までこのタイプを使っていました。
しかし、先月末のリサイタルのほぼ1週間前に、一念発起して別タイプのものにチェンジしてみました。それが上の写真のもので、左寄りではなくほぼ中央に位置し、テールピース(写真で顎当ての下からのびている、弦が引っ掛けてあるいる逆三角形の黒い物体)をまたいで装着するタイプです。
このタイプは左寄りタイプよりも顎当てそのものに厚みがあるので、顎のラインの細い人や首の長い人にむいています。しかし私は以前敢えてこれを使っていました。というのは、上の写真の顎当ての左側にヒョンと出ているところが、丁度「エラ」のところにフィットしていたのです。
じゃあ何でわざわざ左寄りタイプに変えちゃったのよっ…と言われたら、生徒で一人どうしても左寄りタイプでは据わりの悪い、顔のラインのシャープな子がいて、あまりに弾きずらそうで気の毒だったので、その子の楽器に付いていたものを取って、私の楽器に付けていたセンタータイプと交換してしまったためです。
私は間借りなりにも職業人だから、ある意味どんなタイプでも演奏はできるモン…と思っていたのですが、やはり身体は正直で、本番間際になって何だか無性にセンタータイプを欲したのです。だからと言って「やっぱり返して」って生徒の楽器から無理矢理引っぺがすわけにもいかないので新しく購入して装着し直したところ、懐かしくも心地よい鉄壁の安心感に感動すら覚えたのであります(大袈裟な…)。
顎当て等の道具は後の世に考えられたもので、本来ヴァイオリンが開発(?)された当初には存在していませんでした。今でもバロックヴァイオリンという古いスタイルの楽器の奏者は、一切のプロテクションを付けずに演奏しますし、モダンの奏者の中にも「元来無かったものなのだから、つけるべきでない」という意見の方もいらっしゃいます。「付けないで弾けた方がカッコイイ」というヴィジュアル的なこだわりをお持ちの方もおいでです。
でも私は「何にしてもモノがあるということは、それを必要とした人間がいたからだ」と思うのですよ。それにこの顎当てを通して頭骨から身体全体に音が共振して、フォルテもピアノもとっても楽に演奏できるのです。だから私はこれから先も、堂々と顎当て付きで演奏し続けようと思っております。