共 結 来 縁 ~ あるヴァイオリン&ヴィオラ講師の戯言 ~

山川異域、風月同天、寄諸仏子、共結来縁…山川の域異れど、風月は同天にあり、諸仏の縁に寄りたる者、来たれる縁を共に結ばむ

モーツァルトっぽいけどやっぱりベートーヴェン〜《ピアノ四重奏曲 第1番 変ホ長調》

2024年12月02日 17時40分10秒 | 音楽
今日も気持ちのいい秋晴れ…じゃなかった、冬晴れのお天気となりました。そんな中ですが、私は相変わらず自宅で内職に勤しんでいました。

作業しながらいろいろと音楽を聴いていたのですが、今日はちょっと変わったところを聴いていました。それが



ベートーヴェンの《ピアノ四重奏曲》です。

ピアノ四重奏曲というと真っ先に思い浮かぶのはモーツァルトの名作たちですが、ベートーヴェンの《ピアノ四重奏曲》はベートーヴェンが14〜15歳くらいだった1785年、最初期のボン時代に作曲されたものです。ベートーヴェンの死後になって出版されたものですが、その完成度の高さからとても14〜15歳の少年の作品とは思えません。

この曲ではベートーヴェンの最初期の他の作品にも見られるように、全体的な楽章構成や調設定、テンポ、主題や和声構造などの多くの点にモーツァルトの影響が顕著に見られます。またベートーヴェンの最初の出版作品の2つとなる《3つのピアノ三重奏曲 作品1》と、《3つのピアノソナタ 作品2》の中に、この曲の主題素材や楽節が取り出されています。

ベートーヴェンが15歳の時期はまさにモーツァルトの作品を一生懸命勉強していた時期ですので、私はモーツァルトの一連の《ピアノ四重奏曲》をお手本に作曲したものと思っていました。しかし、モーツァルトのピアノ四重奏曲は1785年の10月(K.478)と翌年の6月(K.493)に作曲されていますから、もしかしたらベートーヴェンの作品の方が早く書かれているかも知れないのです。

最近になって、この作品とモーツァルトの《アウエルンハンマー・ソナタ集》と呼ばれるヴァイオリン・ソナタとの関連性が指摘されるようになってきました。
《アウエルンハンマー・ソナタ集》は、以前にも《2台のピアノのためのソナタ ニ長調》や《2台のピアノのための協奏曲 変ホ長調》の時にもご紹介したウィーンの実業家の令嬢アウエルンハンマー嬢のために書かれた6曲からなるヴァイオリン・ソナタ集なのですが、ベートーヴェンはそのソナタの枠組みを使ってピアノを含んだ四重奏曲に仕立てあげたのではないか…というのです。

3曲ある中から、今回は《ピアノ四重奏曲 第1番 変ホ長調》をご紹介したいと思います。

この曲は、モーツァルトの《ヴァイオリンソナタ ト長調 K.379》を手本にしていると言われています。ただ、モーツァルトを丸写ししたわけではなくあくまでも下敷きにした感じなので、聴き比べてみると構成が似ているな…と思うくらいです。

第1楽章はアダージョ・アッサイの4分の2拍子、変ホ長調。暖かな変ホ長調の和音に支配されたメロディは優しい中にもどっしりとした印象を受け、所々に散りばめられた技巧的なパッセージがベートーヴェンらしいヴィルトゥオーゾを感じさせます。

第2楽章はアレグロ・コン・スピリトの4分の3拍子、変ホ短調(♭6つ!)。チェロの8分音符の連打とヴァイオリン・ヴィオラのシンコペーションのリズムに乗ってピアノが焦燥感のあるメロディを奏でます。随所に見られる力強いユニゾンは、いかにもベートーヴェンといった感じです。

第3楽章はカンタービレの4分の2拍子、テーマと6つの変奏とコーダの変ホ長調。ゆったりとしたテーマがピアノで奏され、その後でピアノ・ヴァイオリン・ヴィオラ・チェロの順にテーマが変奏されていきます。変ホ短調に転じた後で再び弦楽合奏でテーマが奏されると終結部であるコーダに突入し、最後は余韻を楽しむかのように静かに終わります。

全体を通して聴くと、ベートーヴェンの『歌』を感じることができます。

ベートーベンと言えば、とかく最小単位の動機を論理的に積み上げて巨大な建造物を作りあげるような構築性や、それまでの常識を打ち破るようなデュナーミクの拡大などが特徴的です。しかし、もう一つ忘れていけないのはその優れた『歌心』です。

ベートーヴェンという作曲家は非常に美しく『歌う人』なのですが、残念ながらそれが往々にして構築性やダイナミズムの陰に隠れてしまうことがあります。しかし激しさだけがベートーベンではなく、『歌う人』としてのベートーベンの素質はすでに若くして優れたものであったことを、このピアノ四重奏曲が証明しています。

そんなわけで、今日はベートーヴェンの《ピアノ四重奏曲 第1番 変ホ長調》をお聴きいただきたいと思います。クリストフ・エッシェンバッハのピアノのアマデウス弦楽四重奏団員の演奏で、もしかしたらモーツァルトに先んじていたかも知れない若きベートーヴェンの意欲作をお楽しみください。


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