共 結 来 縁 ~ あるヴァイオリン&ヴィオラ講師の戯言 ~

山川異域、風月同天、寄諸仏子、共結来縁…山川の域異れど、風月は同天にあり、諸仏の縁に寄りたる者、来たれる縁を共に結ばむ

今日はドビュッシー《牧神の午後への前奏曲》初演の日〜ハイティンク&コンセルトヘボウによる演奏で

2024年12月22日 18時50分10秒 | 音楽
今日も神奈川県は寒くなりましたが、そんな中で今日は洗濯物を済ませてスッキリさせました。ただ、近くを一時間おきくらいに消防車がサイレンを鳴らして走っていくのが妙に気になりましたが、空気が乾ききっているためか火災が多いようです。

ところで、今日12月22日は《牧神の午後への前奏曲》が初演された日です。《牧神の午後への前奏曲》は、



フランスの作曲家クロード・ドビュッシー(1862〜1918)が1892年から1894年にかけて作曲した管弦楽作品で、彼の出世作です。

この曲はドビュッシーが敬慕していた詩人ステファヌ・マラルメ(1842〜1898)の『牧神の午後』(半獣神の午後)に感銘を受けて書かれた作品です。

マラルメは中級官吏の子として生まれ、英語教師を生活の糧としつつ詩作を続け、1876年、マラルメ34歳の時にに『牧神(半獣神)の午後』を出版しました。

「夏の昼下がり、好色な牧神が昼寝のまどろみの中で官能的な夢想に耽る」

という内容で、牧神の象徴である「パンの笛」をイメージする楽器としてフルートが重要な役割を担っています。

牧神を示すテーマは



フルートソロのド#の音から開始されますが、これはフルートという楽器の構造上非常に響きが悪いとされる音で、音域も華やかでない中音域の音です。しかし、ドビュッシーはこの欠点を逆手にとることで、けだるい、ぼんやりとした独特な曲想を作り出すことに成功しています。

フランスの作曲家で指揮者でもあったピエール・ブーレーズ(1925〜2016)は

「《牧神の午後》のフルート、あるいは《夜想曲》の『雲』のイングリッシュホルン以後、音楽は今までとは違ったやり方で息づく。」

と述べています。これは《牧神の午後》が、近代の作品で非常に重要な位置を占めるということを示唆する言葉です。。

当初ドビュッシーは『牧神(半獣神)の午後』に触発された音楽を、前奏曲・間奏曲・敷衍曲(パラフレーズ)の三部作として計画していましたが、結局1893年に『前奏曲』のみを完成させました。因みにこの曲は110小節で構成されていますが、これはマラルメの詩の110行と一致していて、詩の全体を1曲に昇華させたというドビュッシーの意図の反映かと思われます。

曲の終盤では



サンバル・アンティーク(アンティークシンバル)という打楽器が効果的に使用されています。サンバル・アンティークは体鳴楽器に分類される打楽器の一種でシンバルを小さくしたような形ですが、音は全く異なるものです。

上の写真のサンバル・アンティークは鉄琴のように音階に並べて固定しているもので、これを鉄琴の撥で叩いて演奏します。しかし、本来のサンバル・アンティークは


同じ音の出るものを2枚用意してこれの中央にひもを付け、楽器の縁と縁とが打ち合うようにして演奏するもので、チベット密教で使われるティンシャのような澄んだ音が特徴です(《牧神の午後》では、この演奏方式がとられることが多く見られます)。

初演は1894年12月22日、パリの国民音楽協会においてギュスターヴ・ドレ指揮により行われました。革新的な語法を持ちながらも穏やかな性格を持つこの曲は初演から好評で迎えられ、国民音楽協会の規則で禁止されていた2度のアンコールに応えたといいます。

そんなわけで、今日はドビュッシーの《牧神の午後への前奏曲》をお聴きいただきたいと思います。ベルナルド・ハイティンク指揮、ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団の演奏で、まどろむようなドビュッシーの出世作をお楽しみください。


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