共 結 来 縁 ~ あるヴァイオリン&ヴィオラ講師の戯言 ~

山川異域、風月同天、寄諸仏子、共結来縁…山川の域異れど、風月は同天にあり、諸仏の縁に寄りたる者、来たれる縁を共に結ばむ

今日はジョヴァンニ・パイジェッロの誕生日〜名アリア《うつろな心》

2024年05月09日 18時28分38秒 | 音楽
今日も、季節外れのかなり寒い日となりました。そのせいで、折角衣替えで仕舞いこんだ長袖をまたひっぱり出すハメになってしまいました…。

ところで、今日5月6日はパイジェッロの誕生日です。



ジョヴァンニ・パイジェッロ(1740〜1816)は18世紀後半に活躍したイタリアのオペラ作曲家で、セミ・セリア様式と呼ばれるオペラの代表的人物です。

イタリア南部ターラント出身のパイジェッロは、地元のイエズス会の神学校に通っていました。その美声ゆえに多くの注目を浴びたパイジェッロは、ナポリの音楽学校に送られてフランチェスコ・ドゥランテ(1684〜1755)に師事しました。

1763年に音楽学校を終えると、劇場のためにいくつかの幕間劇を作曲しました。その一つが注目を集め、イタリア各地の劇場に招かれてオペラを作曲することになりました。

1776年にはロシア女帝エカチェリーナ2世に招かれてサンクトペテルブルクの宮廷に赴き、8年間を過ごすことになりました。この間にパイジェッロは魅力的な傑作《セヴィリアの理髪師》を完成させ、この作品の人気はヨーロッパ中を席巻しました。

パイジェッロの《セヴィリアの理髪師》は、イタリア音楽の歴史において一時代を画するものとなりました。この作品を以て18世紀の巨匠たちが培ってきた気高い甘美さは姿を消し、新しい時代の目も眩むような超絶技巧に道を譲ったといわれています。

1816年(パイジェッロの没年)にジョアキーノ・ロッシーニ(1792〜1863)がパイジェッロと同じ台本に曲付けして、《アルマヴィーヴァ》の題名で新作を発表すると、舞台から非難の声が上がったといいます。しかし《セヴィリアの理髪師》に題名を改めて発表するとこのオペラはロッシーニの最高の作品と見做されるようになり、一方でパイジェッロの作品は忘れ去られていくことになってしまいました。

不思議な運命のいたずらと言うべきか、かつてパイジェッロはペルゴレージ(1710〜1736)の有名な幕間劇《奥様女中》と同じ台本に当代風に曲付けをして、ペルゴレージの名声をかすめてしまったことがありました。はからずもそれと同じ轍を、自身の死後に踏むことになってしまったのです。

そんなパイジェッロの誕生日である今日は、アリア《うつろな心》をご紹介しようと思います。

《うつろな心(Nel cor più non mi sento)》は、ジョヴァンニ・パイジェッロが作曲したオペラ《美しい水車小屋の娘》のなかのアリアです。作詞者は台本を書いたジュゼッペ・パロンバと推測されていて、イタリア語の直訳としては『もはや私の心には感じない』となります。

歌詞は


Nel cor più non mi sento
brillar la gioventù;
cagion del mio tormento,
amor, sei colpa tu.

Mi pizzichi, mi stuzzichi,
mi pungichi, mi mastichi,
che cosa è qesto ahimè?
pietà, pietà, pietà!
amore è un certo che,
che disperar mi fa!

もはや私は心の中には感じない
青春の輝きを
私の苦しみの原因は
愛よ、お前の罪なのだ。

お前は私をつねってからかい、
ちくりと刺して噛みつく
ああ これは何なのだ?
もうやめておくれ!
恋とは間違いなく
私を絶望させるものだ!


というものです。

オペラ自体は現在では上演されることはありませんが、このアリアはパイジェッロ作品の中でも飛び抜けて有名で、イタリア古典歌曲集にも掲載されています。その人気は当初から高かったようで、1795年にはベートーヴェンがピアノ独奏の変奏曲《パイジェッロのオペラ『水車屋の娘』の二重唱「わが心もはやうつろになりて」による6つの変奏曲 ト長調 WoO.70》を作曲しています。

また1820年頃にはパガニーニが、ヴァイオリン独奏用の変奏曲《『うつろな心』の主題による変奏曲 ト長調》を作曲しています。その他にも、ヨハン・ネポムク・フンメルやジョヴァンニ・ボッテジーニ、ヨハン・バプティスト・ヴァンハル、フェルナンド・ソルなどが変奏曲を作曲していて、このアリアの当時からの人気の高さを窺い知ることができます。

そんなわけで、今日はパイジェッロの《うつろな心》をお聴きいただきたいと思います。三大テノールの一人ルチアーノ・パヴァロッティ(1935〜2007)の歌唱で、かつてヨーロッパを席巻した愛らしい名アリアをお楽しみください。



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