昨日梅雨明けした神奈川県は、今日も本格的な暑さとなりました。早朝のうちに買い物を済ませておいて、本当によかったと思います。
さて、昨日リストの《エステ荘の噴水》を載せた時にラヴェルとドビュッシーが影響を受けたことを書きました。なので、今日はそのラヴェルの作品《水の戯れ》をご紹介したいと思います。
《水の戯れ》は
モーリス・ラヴェル(1875〜1937)がパリ音楽院在学中の1901年に作曲したピアノ曲です。1902年4月5日にサル・プレイエルで行われた国民音楽協会主催のリカルド・ビニェスのピアノ・リサイタルで《亡き王女のためのパヴァーヌ》とともに初演され、当時の作曲の師匠であるガブリエル・フォーレ(1845〜1924)に献呈されました。
《水の戯れ》の冒頭には、『きわめて優しく』という言葉が添えられています。ラヴェルは
「テンポ、リズムも一定なのが望ましい」
と述べていて、楽譜の冒頭に『水にくすぐられて笑う河神』というアンリ・ド・レニエ(1864〜1936)の詩の一節を題辞として掲げています。
曲の構成はソナタ形式でホ長調の4分の4拍子、七の和音や九の和音に加えて、本来和声学的には誤用ともいわれる並行和声が多用されていて、初演当時としてはきわめて斬新な響きのする作品だったと思われます。実際に初演時には聴衆の理解が及ばず、同時に発表された《亡き王女のためのパヴァーヌ》と比較されて、
「耳障りで複雑すぎる」
という評価が大勢で、出版時にはカミーユ・サン=サーンス(1835〜1921)から
「まったくの不協和音」
という酷評も招いたといいます。
しかし、今では
「水の運動と様態を描いてこれほど見事な作品はあるまい」
という作曲家の三善晃(1933〜2013)からの評価もあるように、ラヴェルのピアニスティックで精巧な書法が本格的に開花した作品として高い評価を得ています。また、1903年に発表されたドビュッシーの《組曲『版画』》先んじて、ピアノ音楽における印象主義の幕開けを告げた作品としても評価の高いものとなっています。
昨日も書きましたが、この曲はリストの《エステ荘の噴水》からの影響を受けていると言われています。ラヴェルは印象派という新しい世代の作曲家ながら、かねてからピアノ音楽におけるリストの超絶技巧やショパンの詩情あふれる書法などに強く惹かれていて、そうした傾向がこの《水の戯れ》にも垣間見ることができます。
そんなわけで、今日はラヴェルの《水の戯れ》をお聴きいただきたいと思います。マルタ・アルゲリッチによる演奏で、耳に涼やかなラヴェルの音楽をお楽しみください。