書き忘れていたのですが、昨日新宿に出かけた時にタワーレコードにも寄りました。そこで、数年ぶりにCDを買ったのです。それが
バッハの《ゴルトベルク変奏曲》のCDです。
「おいおい、アンタは前にいろんな《ゴルトベルク変奏曲》のCDコレクションを載っけてなかったっけ?」
と言われそうですが、これは『ラウテンヴェルク(英・リュートハープシコード)』というちょっと特殊な楽器での演奏だったので、久しぶりに興味がわいたのです。
『ラウテンヴェルク』は主にバロック期のドイツ圏にあったという楽器で、ドイツ語を直訳すると『リュートの(Lauten)仕事(werk=work)』となります。ただ、リュートという名は冠されているもののリュートのような撥弦楽器ではなく、実は鍵盤楽器です。簡単に言ってしまうとチェンバロに、通常張られる金属弦ではなくリュートに用いられるガット弦を張って、より柔らかな音色がするようにしたものです。
お堅いイメージのあるバッハですが実はなかなかの新し物好きな一面もあり、様々な新開発の楽器に手を出しています(中には発明されたてのクリストフォリ作のフォルテピアノ=ピアノもあったようです)。その中で、チェンバロとは違った優しい音色のこのラウテンヴェルクをたいそう氣に入ったようで、生前にこの楽器を2台も所有していたことが記録に残されています。
巨大なパイプオルガンの演奏を得意としていたバッハですが、もしかしたら本来はクラヴィコードやラウテンヴェルクといった優しい音色の楽器の方が好みだったのでしょうか。
残念ながらラウテンヴェルクの実物は残っていません。ただ、楽器の様相を記した文献はいくつか残されていて、通常のチェンバロと変わらない形状のものもあれば、中には
『リュートの胴体を模したような形状の鍵盤楽器』
という記述も見られます。それを元に再現されたのが
これです。何だか無理矢理感が半端ない氣もするのですが、記述に基づいて再現すればこんな感じになりますね…。
さて、ラウテンヴェルクの音色を知って頂くためとは言えさすがに《ゴルトベルク変奏曲》は全曲で90分近くかかるので、そのものの動画を転載するのは憚られます。なのでその代わりに、同じくバッハの《組曲ホ短調BWV996》を御紹介します。
この組曲は現在リュート(若しくはギター)かチェンバロで演奏されますが、実は筆写譜に
『ラウテンヴェルクで(aus Lautenwerke)』
という添書きがあるのです。
楽譜を見てみると分かるのですが、チェンバロで弾くにはちょっと音数が少ないようにも見えます。だからと言ってリュートで演奏する場合は、楽譜には書かれた音を全てタブ譜(リュートやギターの演奏に用いる記号譜)に再現するのは大変です。なので、やはり指定の通りラウテンヴェルクで演奏するのが最適なのでしょう。
ということで、今宵はその珍しいラウテンヴェルクの音色に耳を傾けて頂きたく、恐らくこの楽器のために書かれたであろう《組曲ホ短調》をお聴き頂きたいと思います。ハンガリー出身の奏者シャールコジー・ゲルゲイが、正に上の写真の楽器を使って演奏した動画をどうぞ。