今日も日中は25℃に迫る暑さとなりました。もうこれからは、こうした暑さが続くと思っていた方が気が楽な気がしてきました…。
ところで、今日5月21日はレオンカヴァッロの歌劇《道化師》が初演された日です。
ルッジェーロ・レオンカヴァッロ(1857〜1919)はイタリアのオペラ作曲家・台本作家で、《道化師》の他の代表作にプッチーニも取り上げた《ラ・ボエーム》などがあります。
歌劇《道化師》は、ピエトロ・マスカーニ(1863〜1945)が第2回ソンゾーニョ・コンクールに1890年に発表した歌劇《カヴァレリア・ルスティカーナ》の成功を目の当たりにしたレオンカヴァッロが、自ら台本を書いて短期間で作曲を完成したものです。
この歌劇の台本は、1865年5月にカラブリア州モンタルトで発生し、当時判事だったレオンカヴァッロの父親が裁判を担当した実在の事件にヒントを得た…というのが作曲者の主張です。しかし、近年の詳細な研究では作曲者が8歳だった時の同事件とオペラの筋書にはそれほどの共通点は見出せず、むしろ1887年にパリで初演されたフランスの劇作家カテュル・マンデスの戯曲『タバランの妻』、或いは1867年にマドリッドで初演されたスペインの劇作家マヌエル・タマーヨ・イ・バウスの劇『新演劇』からの翻案を行ったのではないか…という説が有力になってきています。
この歌劇については、有名なエピソードがあります。
レオンカヴァッロはこの作品を、前回大会で《カヴァレリア・ルスティカーナ》が優勝したソンゾーニョ社主催の第3回ソンゾーニョ・コンクールに応募しました。しかし、コンクール作品の条件のひとつに『1幕物のオペラであること』があったのですが、《道化師》は2幕物であったため条件を満たしていないとして失格となってしまったのです。
それでも作品の素晴らしさはソンゾーニョ社の社長の目にとまり、1892年の5月21日にミラノのテアトロ・ダル・ヴェルメにおいて、20世紀を代表する大指揮者のひとりアルトゥーロ・トスカニーニ(1867〜1957)の指揮で初演されて大成功をおさめました。今日ではヴェリズモ・オペラの代表作のひとつとして、同じくらいの上演時間である《カヴァレリア・ルスティカーナ》とセットで上演されることが多くなっています。
さて、主人公カニオの歌うアリア『衣装をつけろ』などが有名な《道化師》ですが、今回取り上げたいのは敵役トニオがプロローグに登場して歌う前口上『ごめんくださいませ(Si puo?)』です。
華やかなオーケストラで始まった前奏曲の途中、幕の間からトニオがひょっこりと顔を出して
「ごめんくださいませ?紳士淑女の皆様方」
と歌い出す前口上で語られるのは、芝居の中の人間の偽りの涙ではなく、恋に身を焦がし愛に苦悩する人間の涙です。その真に迫る歌を滑稽な道化師の姿をしたトニオが歌い上げる様に、聴くものの心は激しく締めつけられるのです。
レオンカヴァッロがスコアに書いた音譜は全体にバリトンらしい音域のものですが、実際にはバリトンの音域を大きく超えた高い音が歌われます。なので、余程腕に覚えがあるバリトンでないと、このトニオの役はつとまりません。
そんなわけで歌劇《道化師》の初演日である今日は、オペラに先立つ前奏曲からトニオによる前口上をお聴きいただきたいと思います。名手ピエロ・カプッチッリによる、あまりの絶唱に鳴り止まない拍手に応えて終結部をアンコールで歌った(これは異例でとんでもないことです!)1991年の舞台の映像でお楽しみください(映像は曲の途中から始まっています)。
なお、カプッチッリがアンコールに応えた時に、舞台裏にスタンバイしていたトランペット奏者が本編が始まると勘違いして吹き始めてしまっていますが、そこはご愛嬌ということで(笑)。