はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

箱根駅伝を見る

2010-01-15 18:04:24 | はがき随筆
 三浦しをん原作「風が強く吹いている」が昨年、映画化された。三流大学の実績もない駅伝部が、無謀にも箱根駅伝を目指すストーリーである。俳優たちはランニングの特訓を受け、延べ3万人というエキストラを動員し、実写さながらの映像となった。1月2日と3日は、早朝から中継を見た。往路の5区、東洋大の柏原君の力走に思わず拍手。各区間にそれぞれの思いを抱えて、学生たちはタスキをつなぐ。9区から最終走者へ、時間制限のためタスキを渡せなかった亜細亜大。中継後に放送された幾つかの逸話は映画と重なり、胸がつまった。
  鹿児島市 本山るみ子(57) 2010/1/15 毎日新聞鹿児島版掲載

強く生きよう

2010-01-15 17:18:12 | はがき随筆
 年末に多くの人から供花供物や便りが届いた。美しい器の果物ゼリー、繊細な切り絵と香。書道作品の写真は過去を想起、胸を打つ。今は満身創痍の状態で、外食と、知人の好意に頼る買い物と差し入れで生活している。不安・絶望・努力・あきらめ・希望──の葛藤の繰り返しだが、これ以上迷惑をかけられない。感謝して辞退させてもらった。
 三回忌を機に決心。「明日の心配をせず、今日の日を強く生きよう」。新しい年は笑顔と声を出すことを目標とする。
 夫の好きなメジロが鳴き、ロウバイが香る冬空に誓う。
  薩摩川内市 上野昭子(81) 2010/1/14 毎日新聞鹿児島版掲載
写真はScratさん

神様は不在

2010-01-15 17:00:43 | はがき随筆
 私が中2の冬。竹を満載した荷車を引き、難所の田原坂。急こう配にこん身で踏ん張るも、車輪は回らない。吹きすさぶ風に雪が追い討つ。泣きじゃくる弟をげんこつで叱咤する。
 最後の難関、萩の段坂に差し掛かると、ふぶく雪が目をふさぐ。家業を手伝う我が身を、天が邪魔して、神様は不在か。
 我が家に到着するや「時化日和に荷車を引き、親の顔に泥を塗る気か」と父の怒声が飛ぶ。
ねぎらいの言葉一つなかった。″怒髪天″の私は後ろから父の頭をぽかりとたたき、戸外に飛び出した。その夜の晩飯を抜かれた。やはり神様は不在だ。
  出水市 道田道範(60) 2010/1/13 毎日新聞鹿児島版掲載