はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

声のトーンは

2016-09-22 22:08:01 | はがき随筆
 朝の涼しいうちに庭の草取りを始める
きょうは9月1日、そこへいつもより早く隣の高1の男孫が登校。「あら、もう行くの」といつもの調子で声をかける。20分後には中2の女孫、私の「行ってらっしゃい」はなぜか低い声になった。無口な彼女が私には苦手かも。少しトーンを上げたらよかったのにとすぐに反省。
 3人目は小5の末っ子。私とびきりの笑顔で声高に送り出し、彼の「行ってきます」も弾んでいた。三人三様の登校の瞬間、気持ちが無意識の声のトーンに出ることを確認し考えさせられた。
  霧島市 口町円子 2016/9/20 毎日新聞鹿児島版掲載

蟻んことの共存

2016-09-22 22:01:19 | はがき随筆
 蟻が台所に向かって行進している。とっさに殺虫剤を噴射する。四方八方に散った蟻を雑巾でからめ捕り水道で洗い流す。
直後「生命ある全てのものと平和に共存できますように」と毎日祈ってるくせに、なんということをしたのだ、と自分が嫌になった。
 同じ人間種族ですら真の平和に共存出来ていない。異種族との共存は不可能なのか。熱帯では病気を媒介するので危険な蚊を殺さずに、そっと窓から逃したというシュバイツァー博士を思い出した。甘いものをこぼさぬようきれいに生活することを心がけよう。
  鹿屋市 伊地知咲子 2016/9/19 毎日新聞鹿児島版掲載

早朝の虹

2016-09-22 21:46:49 | はがき随筆
 5時台、いつもの散歩。今日は早めに家を出た。30分歩いたところで眼前に見事な虹。大きなアーチを描いている。
 赤、黄、緑、紫……立ち止まって見入る。その外側には副虹も。通りがかりの人に「見て」と声をかける。
 その人は「カメラを持ってくる」と急いで家に走った。
 5分ほどの天体ショー、ここに居合わせたことの幸運、多くの人に見せたかった。……。
 田んぼには稲穂がゆれている。12号台風、接近間近の朝の出来事だった。
  薩摩川内市 馬場園征子 2016/9/18
毎日新聞鹿児島版掲載

夏休み

2016-09-22 21:39:42 | はがき随筆
 毎年やってくる夏休み、42日間。孫は朝6時にきて、ラジオ体操に行き、朝食が済むと水泳へ。ランチして勉強、私は夕食の準備とめまぐるしく、頭の中は料理のレシピの事でいっぱいになる毎日だ。習字、絵はどうにか一緒に出来るけど、勉強の方はもうついていけません。
 小学校時代も今年で終りと思うとやはりさみしいです。来年からは部活動で忙しくなるだろう。長いと思った夏休みも、もう終わりです。無事に一緒に過ごせて本当に幸せでしたよ。これからも孫にかかわりあって、私も元気をもらい見守っていこうと思っています。
 鹿児島市 堂園芙美子 2016/9/17 毎日新聞鹿児島版掲載

富士登山

2016-09-22 21:33:21 | はがき随筆
 夏の富士山は24時間営業である。7~9月の約2ヵ月間に、多い日は7000人を超える人がヘッドランプよろしく頂上を目指す。今年はくしくも「山の日」元年。元ワンゲル部の私が音頭を取り、嫌がる夫と小3の娘を富士登山へと巻き込んだ。頂上には何とか着いた。しかし、通常の倍の時間がかかったその過程は思い出したくない。
 眼下のモクモクと広がる雲に富士の影が映っていた。さまざまな言葉の行き交うビジット・ジャパンな富士山。体力・時間・根気……。動機もスタイルも違う人々の吐息が今日もその長い裾野に漂っていることだろう。
  出水市 山下留美 2016/9/16 毎日新聞鹿児島版掲載

SMAPの解散

2016-09-22 21:24:39 | はがき随筆
 SMAPの解散が惜しまれているという。芸能界の複雑な内情を知る由もないが、もはや彼らも40代の壮年期。会社でいえば、課長かそれ以上の重要なポストを任される年代だ。築き上げてきた独自の価値観や人生観をもとに、仕事や未来を自分なりに切り開いていかなければならない。そういう彼らに、いつまでも、結成当時の青年期的な融和的人間関係を求め続けることに無理があろう。
 今回の解散は、それぞれのメンバーが大人として成長した結果、自意識に目覚め、独自の人生を歩み始めたものと理解するほうが自然だと思う。
  鹿児島市 平原博 2016/9/15 毎日新聞鹿児島版掲載

夫の命日に思う

2016-09-22 21:16:57 | はがき随筆
 病室の片隅から扇風機が生ぬるい風を送ってくる。ベッドの夫が「センプーキを止めてくれ。少し休ませないと可哀そうだ」と言った。
 若い頃の肺結核が再発。後に膿胸を併発し、わき腹に穴を開けて管を通し膿を出すため仰向きで寝ていた。当時、病院にクーラーはなかった。近いうちに設置するとの話だったが、それを待たずに亡くなった。暑さも身にこたえ呻吟する夫は扇風機にわが身を重ねたのだろうか。7年間病院へ行き来したが、なぜか夏の日のことが鮮明に思い出される。享年47歳。7月28日は37回目の命日。
  鹿児島市 内山陽子 2016/9/14 毎日新聞鹿児島版掲載

ダイヤメ禁止

2016-09-22 20:59:24 | はがき随筆
 若いときから夕方、農作業後の風呂上がりにダイヤメ(晩酌)の生活習慣を50年。休肝日を設けるよう指導を受けていますが、なかなか実行できない。
 去る7月、胃カメラで胃の中になんとピロリ菌が見つかった。ドクターの指示で1週間薬をのみ続け、そしてこの間、薬の効果を上げるため禁酒しなさいとのこと。これには参った。いろんな治療法もありますが、初の人生体験。毎晩水とサイダーを飲み、楽しみもなくつらい1週間を過ごした。そして8日目の夜、久しぶりのダイヤメ。これぞ心の底にシミルうまさ。貴重な健康づくり体験でした。
  湧水町 本村守 2016/9/13 毎日新聞鹿児島版掲載

モモの教え

2016-09-22 20:45:52 | はがき随筆
 ウサギのモモは針金のカゴの中にいる。晴天の日は畑の草をいっぱい食べるとフンをして畑作りに協力する。時々、ピッと声を出した。
 ある朝、モモがいない! 入口のフックが外れている。「モモ! モモ!」と呼んでいると生垣の下から現れ、ゆっくりと私の足元に来て止まった。思わずモモを抱き上げた私――。
 「返事はしないけど呼ばれているのはわかるの」
 きっと毎日の声かけはモモに届いていたのだ。返事はなくても毎日声をかけ続けることはとても大切なことなのだ、とモモは教えてくれた。
  出水市 中島征士 2016/9/11 毎日新聞鹿児島版掲載

遠い南の空

2016-09-22 20:36:41 | はがき随筆
 ニュージーランドに近い小さな島国の高校に留学して2年になる孫がホームステイ先の家族にもなれ、やっとパパ、ママと呼べるようになったと思っていたところ、不幸にもそのパパが40代の若さで亡くなったとのことである。孫にとって初めての身近な人の死であり、日常の生活はもちろん、文化も習慣も全て違う所で人間の最悪の場面に接し、どんな振る舞いをしたのか気になって仕方がない。が、我が孫ながらよく気の利くいとしい子だったから涙の一つもこぼしてくれたであろうと思いながら、遠い南の空に向かって合掌するジジとババである。
  曽於市 新屋昌興 2016/9/10 毎日新聞鹿児島版掲載

奇跡!

2016-09-22 20:29:53 | はがき随筆
 電車の中、前の方の席に座っていた私の前に、幼い子供さんを抱っこした妊婦さんが乗ってこられた。すぐに席を立ち「どうぞ」と声をかけた。「ありがとうございます」と席に掛けられたとき、その隣の30代くらいの女性がパッと立ち上がり、私に「替わりますから、どうぞ掛けてください」と言われた。「あらら、嬉しいけどどうしよう……」と思った途端、乗っていた方々が少しずつつめてくださり、あっという間に2人分の席ができた。ほんの一瞬の出来事だったが、この夏最高にうれしい、幸せな気持ちになれた、私には「奇跡」だった。
  鹿児島市 萩原裕子 2016/9/9
毎日新聞鹿児島版掲載

Tさんに大感謝

2016-09-22 20:23:07 | はがき随筆
 6月4日のこの欄で田中健一郎さんが映画「ヨーロッパの夜」を取り上げておられた。
 中・高生の頃、ミュージカル映画「最高に幸せ」と「心を繋ぐ6ペンス」を見て、トミー・スティールが大好きになった。英国にファンレターを出したところ、サイン入りの写真が送られてきて感動したことは忘れられない。その彼が若い頃ロカビリー歌手として「ヨーロッパの夜」に出ていたと知り、ずーっと見たくてたまらなかった。
 田中健一郎さんのおかげでビデオの存在がわかり、長年の懸案事項がやっと片付きそうだ。ありがとうございます。
  鹿児島市 種子田真理 2016/9/8

夏の花

2016-09-22 19:42:38 | 岩国エッセイサロンより
2016年9月21日 (水)
   岩国市   会 員   片山清勝

 「来年もこの朝顔を咲かせたい」 
 体調を崩した妻の夏の一日は、起きがけにカーテンを開け、朝顔に話し掛けて始まった。早朝のすがすがしい空気と一緒に花から元気をもらうようだった。
 花が終わると、種を取り春にまく。苗を育てプランターに移植する。ネットを張って咲くのを待つ。これを繰り返して10年近くになる。
 今年の夏は、これまでにない、いやに大きな一輪がついた。不思議に思い、咲き具合を観察した。なんと、円すいでラッパ状に咲くはずの花が、らせん状に咲いた。もしや途中でちぎれたかと調べるが、自然にらせん状になっていた。花の周りに特に変わった様子は見当たらなかった。
 思えば、この春、種をまきながら妻と話したことがある。
 「そろそろ新しい品種と入れ替えるか」
 その会話を聞いた1粒が、驚いて変異したのかもしれない。いじらしくて、今年も採種を約束した。
 朝顔は夏の風物として古くから栽培されている。つるは細くても暑さに負けず、懸命に伸び続ける。そんな姿に人を癒やす力が備わっているのだろう。
 花は夜明けに咲き、日差しには逆らえず、夕方には花の形を保てていない。花びらを巻き込むようにして短い半日の生涯を終える。
 それでも、代え難い和みをくれる朝顔だ。私がしてやれるのは、今年も朝夕の水やりしかなかった。
 夏を過ぎて夏を思う。

     (2016.09.21 中国新聞セレクト「ひといき」掲載)